この年は、また前年と比べてわずかに見た本数が減った。しかし、また新しい本を執筆していたことを考えると、この程度の減少で済んだのが不思議である。
2019 年はまた新しい本の制作にあたっていたので、前年と比べてわずかに少ない57本の映画を劇場で見たことになる。そのうち旧作は4本。ただし、ネットフリッ クスで見た映画は入っていない。本の執筆に入ってからは見た本数がガタッと減って、7月が1本、8月が4本、9月が2本、10月が3本という具合に激減。 それを何とか11月〜12月で挽回したカタチだが、実はその時期には本の制作が追い込みに入っていたはずなので、どうやってその時間を捻出したのか分から ない(笑)。それでも、後半はあまり映画を見ていないにも関わらず落ち込みが少ないのは、6月までにそれなりの本数を見ていたからだろう。ただ、あまり見 ていない時期にも「これは」という作品は押さえているような気がする。ベストテンを見てみると、作品的にはこの年もかなり充実しているからである。特に、 上位5本にはかなりの衝撃を受けた。また、デンマークのサスペンス映画「ギルティ」、クレール・ドゥニのSF映画「ハイ・ライフ」あたりは、ベストテンか ら漏れたのが残念な作品だった。


 

第1位「アマンダと僕」Amanda(フランス)

ミカエル・アース監督作品

まったく期待していなかった映画で、これほどのインパクトを受けたのは久しぶりだ。本作を、テロで母親を亡くした姪と一緒に暮らす羽目になる若い男 の話…と思って見ると、かなりイメージが違って戸惑うだろう。そもそも、主人公の若い男と姉が自転車で街を走り抜ける描写、街の並木が風に吹かれて揺れる 描写…などの瑞々しさが尋常ではない。むしろ構成や話術という点でいうと、結構ユルい作品だと思う。しかし、映画というやつは「完成度」だけでは測れな い。この監督が持っている瑞々しさ、そして語り口のぶっきらぼうさ…が、テロがいきなり日常にズカズカ入り込んで来るような本作の話を救っている。終盤の 「奇跡」が作為的にあざとく感じられなかったのも、そうしたこの監督の「へたうま」さが功を奏していたような気がするのだ。

 

第2位「山<モンテ>」Monte (Mountain)(イタリア、アメリカ、フランス)

アミール・ナデリ監督作品

ある意味で、今年最高に驚かされた作品かもしれない。ほとんどセリフがなくて、登場人物の行動で話が進んでいく作品。とにかく描写に過剰な枝葉がな く、一筆書きのような野太い語り口の作品である。お話は悲惨と言えば悲惨で、先にも述べたようにシンプルな語り口の映画なので「例え話」「寓話」的なモノ だ。それが後半一転して、とんでもない結末まで力業で持ち込まれてしまう。これはとにかく一見していただかないと説明しようがない映画だ。イランのアミー ル・ナデリがイタリアに行って撮ったこの映画は、見れば必ずラストでスコ〜ンと突き抜けた衝撃を受けること請け合いである。

 

第3位「T-34/レジェンド・オブ・ウォー」T-34(ロシア)

アレクセイ・シドロフ監督作品

有名な古典的作品「鬼戦車T-34」のリメイク的作品で、ニキータ・ミハルコフによる旧ソ連ヒット作リメイク・シリーズ(笑)の第2弾。いわば、 「鬼戦車」の問題点をすべて洗い出して現代的に改善したバージョンということになるのだが、これがとにかく面白い。痛快無比。戦車によるアクションも近年 のアクション映画のエッセンスを貪欲に取り込んで楽しめるが、何より反骨の主人公をはじめとする個性的な戦車兵たちの連帯が見ていて嬉しい。さらに主人公 を追い回すドイツ将校が、何ともアッパレな悪役ぶりで素晴らしい。実は「山<モンテ>」と本作とどちらを2位にしようか、ギリギリまで悩んだほど。誰にで も自信を持ってオススメできる娯楽アクション大作だ。

 

第4位「半世界」Another World日本

阪本順治 監督作品

スケール感があって、チマッとしていない作品ばかりなので大好きだ。その中でも、本作は大いに気に入っ た。いい歳こいた人なら身につまされるモノを感じるだろうし、平々凡々な日常にも予想外の「何か」が隠れているということを知っている。これは、そういう 意味で「アマンダと僕」ともどこか通じる作品である。主演の稲垣吾郎が普通の田舎のオッサンみたいに見せながら、ちゃんと色気を残しているあたりもうま い。そして、葬式場面でチラッと画面に出て来る不良少年のワンショットの鮮やかさたるや…そんな素晴らしいディテールに満ちた作品でもある。

 

第5位「魂のゆくえ」First Reformed(アメリカ)

ポール・シュレイダー監督作品

本作もまったく期待しないで見に行った作品だ。そもそもイマドキ、ポール・シュレイダーに何が期待できる? ところが、これがスゴかった。ある意味 で、その鋭い斬り込み方は従来以上。これまた「山<モンテ>」に匹敵するインパクトを受けた作品だ。教会の牧師の日常を描いて始まる本作は、今日び珍しい スタンダード・サイズの映画ということもあって、語り口も抑えに抑えたもの。ただ、常にどこか不穏なモノが漂っている。それが終盤にアッと驚く展開になっ ていくが、そのインパクトは外に向って放出されるのではなく、内に向って凝縮されていく。裏「タクシードライバー」とでも言うべきだろうか、まったく恐る べき映画である。

 

第6位「COLD WAR/あの歌、2つの心」Zimna wojna (Cold War)

ポーランド、イギリス、フランス

パヴェウ・パヴリコフスキ監督作品

90分にもならない上映時間の小品なのに、そこにポーランドはじめ欧州の現代史に関わるス ケール感ある物語が展開。しかし、こちらもスタンダード・サイズの小さい画面でモノクロという、シンプルでコンパクトな設計である。何十年にも渡る話をど うやってこの長さに収めたのかというと、物語のあちこちを「間引き」「省略」している。その語られていない「余白」こそが雄弁に何かを物語るという、実に ユニークな語り口の映画なのだ。「COLD WAR(冷戦)」というタイトルで、なおかつポーランドという悲劇的な歴史を歩んで来た国を舞台にして、ほぼ1950年代を背景にしているにも関わらず、 意外にも政治的でも悲劇的でもない。いや、実際かなりの悲劇なはずなのだが、悲劇すら「ありふれた人生のひとコマ」として淡々と描いてしまっているのだ。 何ともユニークな作品である。

 

第7位「残された者/北の極地」Arctic(アイスランド、アメリカ)

ジョー・ペニャ監督作品

元々、劇中で雪や氷が描かれている映画が好きなので、本作には大いに期待した。ほとんど一人芝居を演じるのがマッツ・ミケルセンだというのも楽し み。ほぼその予想通りの作品になっていて、大いに満足した。ほぼ一人芝居のためにセリフがほとんどないというのも、「映画の原点」として大いに結構だ。お 話としては「ただそれだけ」の内容だが、それで十分堪能できる。救出までの「じらし」っぷりの意地悪さもにくい(笑)。ミケルセンが好きなら絶対に楽しめ る作品だ。


第8位「ブラック・クランズマン」BlacKkKlansman(アメリカ)

スパイク・リー監督作品

一時期は「黒人問題」といえばこの人…という位置づけだったスパイク・リーが、久々に表舞台に戻って 来た作品。みんながみんな主張と罵倒をぶつける昨今の世の中で、いろいろな意味でタイムリーな存在になったリーだが、 作品はとにかく面白い! この題材で「黒人問題」に触れていない訳がないが、それを真っ正面から扱いながらも、「面白い」バディもの刑事サスペンスになっ ている。今まで通りの政治的メッセージ映画として見ると実はあちこちに慎重な配慮があり、意外なほどに面白さ追求の映画なのである。そこにこそスパイク・リーなりの成熟と現代社会に対する主張がある…と 言ったら、果たして考え過ぎだろうか?

 

第9位「国家が破産する日」Default(韓国)

チェ・グクヒ監督作品

韓国が陥ったIMF危機を題材にした作品……と言っても、海を隔てたこちら側の我々としては、何となくしか知らない事件。経済問題を扱った映画…と なるとどうにも娯楽映画にしにくい題材のはずだが、本作はそれをさまざまな社会階層の4人を主人公にして、分かりやすく面白いサスペンス映画として見せて いくのが見事だ。一種の「日本沈没」みたいな話になっていくのである。スケールでっかい映画に仕上げていて、ヴァンサン・カッセルの使い方もうまい。しか も「庶民代表」の登場人物をキレイごとで描いていない点に好感が持てる。「IMF危機」そのものの捉え方については少々何らかのバイアスがかかってい る気もするので無条件に受け入れるのはどうかと思うが、娯楽映画としての美点については評価したい。



第10位「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」Once Upon a Time in Hollywood

(アメリカ)

クエンティン・タランティーノ監督作品

近年、変に「社会派」ぶって胡散臭かったタランティーノが、1969年代のハリウッド を舞台に描くバックステージもの。相変わらず映画マニア向けのネタも多いが、「それだけ」に閉じていない内容なのが今回のミソ。最初はシャロン・テート事 件をチャラついた語り口で扱われたらイヤだなと思っていたが、さすがに今回その悪ノリはしなかった。むしろ近年のタランティーノの驕りが払拭されて、それ らについての反省を踏まえた上での作品となっていることに、彼の「成熟」を感じさせた。自らの「老い」「衰え」に意識的なあたりも「成熟」である。僕には 今までにないほど好感が持てる作品だった。

 

 

 

 

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