この数年、仕事が忙しくて映画を見る本数が激減していたのだが、それ以上に映画を見る意欲自体も減退しているのを感じていた。映画を面白いと思う機会も減っていて、あまり見たいとも思っていなかったのだ。ところが今年は一転、久方ぶりに映画の面白さに目覚めた感じだ。


この年に見た映画の本数は、何と2007年以来の70本超えで合計72本。残念ながら東京国際映画祭にも行けず新作のみということになったが、それ でも映画本数の長期低落傾向に歯止めがかかったのは大きい。しかし僕個人としては、実はもっと見ていた気になっていた。それというのも、今年は本当に映画 が面白かったから。実感としては、このサイトを始めた1999年以来の大豊作の年という印象が強かった。

 

 

第1位「ミスター・ノーバディ」Mr. Nobody(フランス、ドイツ、ベルギー、カナダ)

ジャコ・ヴァン・ドルメル監督作品

まったく期待していないで見に行ってブッたまげた、文字通りの超大作。主人公が人生の節目節目で決断する選択のひとつひとつが、その後どのような結 果につながっていったのかを見せていきながら、圧倒的な人生肯定の結論へと流れ込むスケール大きな作品。ひとつひとつのエピソードが一個の煉瓦のような役 割で埋め込まれ、最終的には壮大な建物が出来上がっているような雄大な構想。SFから青春映画、寓話的なコメディ、あるいは人生ドラマ…と、ジャンルを自 由自在に行き来するスタイルも圧巻。とにかく今後何年も語り継がれるべき巨大な作品だ。

 

第2位「ミッション:8ミニッツ」Source Code(アメリカ)

ダンカン・ジョーンズ監督作品

昨年「月に囚われた男」で驚かせてくれたダンカン・ジョーンズが、早くも大物の風格を見せてくれた監督第2作。今回も奇抜な設定の作品だが、決して 閉じた内容の作品ではなく堂々たる娯楽作品の趣もあるのは驚き。大惨事に向かって突っ走る列車の中で主人公が何度も過去を追体験するが、それが単なる繰り 返しになっていないし、単調にもなっていないあたりがさすが。人生に限りがあるならば、せめて楽しく過ごしたい…という終盤のひとコマは、そっくりそのま ま我々の実人生の暗喩にもなっている。

 

第3位「明りを灯す人」Svet-Ake (The Light Thief)(キルギス、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ)

アクタン・アリム・クバト監督作品

1999年に公開された快作「あの娘と自転車に乗って」の監督が、またまた素晴らしい作品を作ってくれた。こんな素朴で小さな村にも、政治や社会の 動きは何らかのカタチで伝わってくる。その中で良くも悪くも人々は移ろうことになるのだが、この主人公はどうしても「割のイイ」方向にいくことができな い。というか、それは彼の流儀ではない。そんな主人公を行動を淡々と映画は描いていくが、最後には極めて視覚的に、文字通りささやかな「希望の灯」を見せ てくれるあたりが鮮やか。これこそ映画的な表現だ。

 

第4位「50/50(フィフティ・フィフティ)」50/50(アメリカ)

ジョナサン・レヴィン監督作品

「(500)日のサマー」で鮮烈に登場したジョゼフ・ゴードン=レヴィットが、またまたやってくれた。今回は生存率五分五分の難病に冒された青年を 演じて、これまた軽妙にしてリアル。難病をお涙頂戴ではなくユーモラスな味わいまで交えて見せるあたりも素晴らしいが、この作品もまた普通に人生を生きて いる我々のことを描いているところが素晴らしい。我々だって明日まで生きているかどうか分からないのである。個人的にはジョゼフ・ゴードン=レヴィットの 主人公が若いときの自分にそっくりだったのにビックリ。

 

第5位「モンスターズ/地球外生命体」Monsters(イギリス)

ギャレス・エドワーズ監督作品

宇宙生物が大繁殖してしまったメキシコを抜けて、アメリカ本土まで行かねばならなくなった男女のお話。これを低予算を逆手にとって、ドキュメンタ リーのようなリアルなタッチで描く。いわゆる怪獣映画なのにこれみよがしに怪獣は出さず、なかなか出そうで出ない雰囲気の中、奇妙なメキシコ紀行映画に なっているところが異色。あえて言うなら、ヴェルナー・ヘルツォークが怪獣映画を撮ったらこんな感じか(笑)。

 

第6位「ブラック・スワン」Black Swan(アメリカ)

ダーレン・アロノフスキー監督作品

「白鳥の湖」の主役に抜擢されたヒロインが、その大抜擢の重圧からどんどん「病んで」いく。もっといいかげんだったり図々しかったり、あるいは人間 的なキャパが大きかったりすれば良かったのに…主役のナタリー・ポートマンその人が持つ「つまらなさ」まで含めて活かしきったダーレン・アロノフスキーの 「人の悪さ」。しかしこのヒロインが陥る妄想は、決して人ごとではないからコワイのだ。

 

第7位「ゴーストライター」The Ghost Writer(フランス、ドイツ、イギリス)

ロマン・ポランスキー監督作品

元英国首相の自叙伝執筆に駆り出されたゴーストライターが、徐々にナゾと陰謀に巻き込まれていく…というストーリーはいかにもありがちなモノだが、 ロマン・ポランスキーはさすが老練の味としか言いようのない「うまさ」で見せていく。キャスティングひとつとっても、ピアース・ブロスナンの活用の仕方な ど見事なものだ。しかし僕が個人的に感じたのは、腹の底から感じてくる「身に覚えのある」イヤ〜な感じ。それをうまく観客に伝えられたところが、ポランス キーの最大の功績だろう。

 

第8位「コンテイジョン」Contagion(アメリカ)

スティーブン・ソダーバーグ監督作品

オールスターキャストで見せる未知の難病の感染爆発を描いた作品…となると、誰がどう考えてもパニック映画みたいにしかならないし、事実お話だけ見 てみると間違いなくパニック映画。しかし出来上がった映画は、そんな賑やかさとか派手派手さとは一線を画した作品になっていた。こちらも見ていて腹にこた える怖さを持った作品だが、何より交通手段や通信手段によって「過度に」つながってしまった現代社会をうまくとらえて見応えあり。

 

第9位「エッセンシャル・キリング」Essential Killing(ポーランド、ノルウェー、アイルランド、ハンガリー)

イエジー・スコリモフスキ監督作品

一人の男が逃げて逃げて逃げまくる映画。一応、背景にはイラクとか米軍とかがチラつくものの、それはこのお話を成立させるための言い訳みたいなも の。ともかく「逃げる」という映画の原点、アクションの原点に徹底的に絞って見せる、「贅肉ゼロ」の作品。まるでジョン・レノンの一番最初のソロ・アルバ ム「プラスティック・オノ・バンド」みたいな、エッジの尖った作品だ。獣みたいなヴィンセント・ギャロの大奮闘ぶりも見ものだ。

 

第10位「ツリー・オブ・ライフ」The Tree of Life(アメリカ)

テレンス・マリック監督作品

ある意味で第1位の「ミスター・ノーバディ」にも匹敵するほどのスケールを持った、壮大なジャンル越境映画。しかし父子の葛藤と生命の歴史を絡める 構成で見せていくこの作品は、「成功作」かと言えばかなり無理があるだろう。それでもあまたある「成功作」などより、この作品の方が遙かに魅力的だ。お話 としては破綻しているのかもしれないが、それを補って余りあるほどの奔放なイメージに圧倒される。

 

 

 

2005

2006

2007

2008

2009

2010

2011

2012
2013 2014 2015 2016
2017  
 
 

 

 

 

 to : Classics Index

 

 to : HOME