前年2008年のベストテンには「父親の健康も芳しくなく」…などと書いていたが、この年が始まって早々の1月11日に、父は帰らぬ人となった。そ のせいもあって1月はほとんど映画は見ていないし、そもそも見る気になれなかった。この年は、いろいろな面で父の死に影響を受けた一年だったと言える。


この年見た映画の本数は、レニ・リーフェンシュタールの旧作「意志の勝利」も合わせてもやっとこ65本。何と東京国際映画祭でも、チケットだけは購 入していたのに1本も見れなかった。ただし、前年の2008年ですでに68本に減っているのだから、わずか3本ばかりの減少で済んだだけマシだとも言え る。これでベストテンというのもおこがましい話なのだが、とりあえず例年通り順位を付けさせてもらった。それはそれで、結構見るべき映画が多かった年かも しれない。

 

 

第1位「インスタント沼」Instant Swamp(日本)

三木聡監督作品

この年は傑出した映画ってなかった気がするのだが、いろいろ考えてみると最も自分の感覚にピッタリ来たのはこの映画かもしれない。三木聡監督の作品 はすでに「亀は意外と速く泳ぐ」(2005)を見ていて、面白いとは思ったものの、ことさらに「脱力系」などとモテはやされているのが胡散臭くもあった。 それって時々作品にすきま風が吹いているのを屁理屈でごまかしているように思えたのだ。しかし、今回はそんな逃げを打っていなかったこともあって、文句な く面白かった。「亀は意外と速く泳ぐ」に感じられた貧寒さも、今回はそれなりの制作費を得ていたようで完全に払拭。何よりヒロインを演じた麻生久美子が素 晴らしい。「結局、自分の意地の重さが自分を沼の底にズブズブ沈めていた」というヒロインのセリフにも、大いに共感した。ともかく、見ている間はとても ハッピーだったのだから、それだけでも値千金だ。

 

第2位「千年の祈り」A Thousand Years of Good Prayers(日本、アメリカ)

ウェイン・ワン監督作品

米国在住の娘のもとに、中国から父親が訪ねてくる。たったそれだけの話を「説明」部分を徹底的にそぎ落として描くことで、サスペンス満点な作品に仕 上げたウェイン・ワン久々の快作。実は小津の「東京物語」の焼き直しなのに新鮮。そしてこんなに寡黙で静かな話なのに、その水面下で渦巻く登場人物の感情 は尋常ではない。「誰かがあなたを愛してる」や「ラヴソング」など傑作揃いの「アメリカの中国人」映画の一本としても出色。

 

第3位「ベンジャミン・バトン/数奇な人生」The Curious Case of Benjamin Button

(アメリカ)

デビッド・フィンチャー監督作品

この映画を語るにあたっては、自分の父親の死について触れなければ片手落ちになってしまう。生まれた時は老人で、その後は年々若返っていく…という 奇妙な運命を背負った男の生涯を描いたお話。しかしそこに描かれているのは、むしろ普遍的な人生の真理だ。さまざまな人々と出会い、そしていつかはその人 々と別れなければならなくなる。だからこそ、人々との出会いはかけがいがない。そんなこの映画のメッセージは、この年だからこそ心にしみた。また作品全編 に漂う無常観は、ちょっとアメリカ映画離れしたテイストさえ感じさせた。

 

第4位「フロスト×ニクソン」Frost/Nixon(アメリカ)

ロン・ハワード監督作品

ニクソンというあまりに有名な政治的アイコンを中心に据えたディスカッション・ドラマを、健全アメリカ娯楽映画の伝統を継承するロン・ハワードが果 たしてうまく料理できるのか?…と大いに懸念されたが、見事に語りきってしまったから大したものだ。いろいろホメ言葉を並べたいところだが、すべてはイン タビュー最終日前夜のニクソンからの電話の場面に集約できる。「君も、私と同じだろ?」とうニクソンのセリフは、心の底で「小物感」に苛まれてきた人な ら、誰でも身につまされるのではないだろうか。もちろん、この僕も同様である。

 

第5位「母なる証明」Mother(韓国)

ポン・ジュノ監督作品

韓国映画、いや、現在の世界映画界きっての才人であるポン・ジュノは、近年、「才人であるがゆえ」に落とし穴に陥っていた。そんな彼のジレンマを彼 なりに解消しようと試みたのが本作だ。そんな作家ポン・ジュノの作り手としての葛藤を見るうえでも興味深い作品だが、それ以上に、自分と母親との関係を改 めて見直すキッカケを与えてくれた。というより、この作品を見ていて、だしぬけに思い知らされてしまったのだ。母というものが分かっていなかった、自分の 愚かさに。

 

第6位「いのちの戦場/アルジェリア1959」L'Ennemi Intime (Intimate Enemies)

(フランス)

フローラン=エミリオ・シリ監督作品

フランスのタブー(らしい)アルジェリア戦争を、厭戦感たっぷりに描く作品。しかし語り口は感傷的ではなく、フランス映画伝統のフィルム・ノワール 的なクールさが漂う。戦闘場面の迫力とハードさもかなりなもの。硬派でマジメなだけでなくて、映画としても「面白い」のだ。こんな骨のある作品を創り上げ た、ブノワ・マジメルには驚かされた。

 

第7位「新宿インシデント」新宿事件 (Shinjuku Incident)(香港)

イー・トンシン監督作品

新宿・歌舞伎町でのし上がっていく中国人のお話を、従来のイメージをかなぐり捨てたジャッキー・チェンが熱演。それでいてこの作品は、従来のジャッ キー・ナイスガイ・イメージがあればこそ…の作品になっているあたりが絶妙。その堂々たる悲劇性も含めて、近年の妙に洗練されてソフトになったアジア映画 が物足りない…と思っている僕などには好感が持てた。しかし、それがある意味で決定的にどこか「古い」印象を与えていることは否めないかもしれない。たぶ ん、その「古さ」ゆえに僕も好感を抱いたのだろう。

 

第8位「ブロークン・イングリッシュ」Broken English(アメリカ、日本、フランス)

ゾエ・カサベテス監督作品

ジョン・カサベテスの娘ゾエ・カサベテスの監督デビュー作品。どうせまた「親の七光り」映画」だろうとバカにしていたら、意外にもいい味出している ではないか。カサベテス映画の位置づけから考えて、変にインディーズ系の気取りがムンムンの映画かと思いきや、可愛らしく親しみやすくてイイ意味でミー ハー。「アラサー」女の恋愛話ってな趣の話で、メチャクチャ敷居が低いのだ。しかも軽薄にならなかったのは、そこに作者の「実感」が充満しているから。こ の監督、意外に今後も楽しみな人ではないだろうか。

 

第9位「チェ/39歳別れの手紙」Che Part Two(アメリカ、フランス、スペイン)

スティーブン・ソダーバーグ監督作品

ソダーバーグのゲバラ二部作の後編。前編「チェ/28歳の革命」は力作だと思ったものの大して面白いと思わず、世評の高さも理解できなかった。ア レって映画の出来は関係なく、単に「今、ゲバラが“来てる”」…ってことでみんなが騒いだだけじゃないのか。ところがこの作品はひと味違う。というより、 この後編のためにあの前編があったのだ…ということが分かる仕掛けになっている。ほぼ前編と同じプロセスを踏んで革命を成就させようとしながら、今回はな ぜかどんどんドツボにハマっていくゲバラ。しかし例え失敗に終わると分かっても、彼は悲観しないのだ。この時点で、この二部作が革命の目的やらイデオロ ギー的なことに深入りしなかったわけが分かった。ニヒリズムやシニカルな達観をシャットアウトする生き方こそが素晴らしい…ということこそが、作り手がこ の映画で語りたいことだったのではないだろうか。

 

第10位「サブウェイ123/激突」The Taking of Pelham 123(アメリカ)

トニー・スコット監督作品

実は今回のベストテン作成の際に、最後の最後ギリギリまでこの第10位は「グラン・トリノ」を置いていた。確かにあの作品は見事だ。だが、それって 「オレのベストテン」じゃないだろう。世間じゃ「傑作」の太鼓判を押しているあの作品よりも、本当はこっちの方が自分は好きだった。というより、「グラ ン・トリノ」じゃオレには立派すぎる。そこで、急遽差し替えたのがこの作品だ。むろん、みんなが認める「傑作」なんかじゃない。だが、近年こんなに気持ち よく見れるアメリカ娯楽映画も少ないのではないか。何より犯罪サスペンス映画なのに、犯人のジョン・トラボルタに至るまで本当の意味での「イヤな奴」が まったく出てこないという前代未聞の作品なのだ。疲れ果てた週末にフラリと映画館に見に行った僕は、この作品に結構癒された気がする。娯楽映画ってそれが すべてじゃないだろうか。

 

 

 

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