昨年は一昨年にも増して忙しくなり、結局自分の私生活の部分を大半犠牲にせざるを得ませんでした。映画の本数もさらに激減。何しろ正月最初の1週間に映画を一本も見なかったというところからして、この年のいかに映画を見なかったかが伺われます。


2007年に見た映画の本数は85本にまで激減。確かに忙しくて余裕がなくなった事も確かだが、映画を見たいという意欲にも欠けた。そして見なくな れば見なくなるほど映画に対するノリも悪くなるし、見ていて面白くなくなる。この年の感想を見ても「つまらない」「面白くない」の連発だった気がする。気 持ちに余裕がなくなっていたから、映画もつまらなかったのだ。その意味でいえば、この年ようやく調子が出てきたのは、仕事が一段落した11月に入ってか ら。見始めてみればやっぱりだんだん面白くなってくるから、映画というものは不思議なものだ。従ってこのベスト10も、いわゆる映画の質を云々するベスト にはなり得ない。この年十分映画を楽しめなかった僕の、偽らざる気持ちを反映したものなのだ。

 

 

第1位「モーテル」Vacancy(アメリカ)

ニムロッド・アーントル監督作品

いきなりこの作品を挙げたことに、違和感を持つ方も多いかもしれない。映画ファンには嘲笑を浴びる選択かもしれない。しかしある意味で昨年最も感心 した映画だったことは確かなのだから、自分にウソをついても始まらない。何を見てもパッとしなかったこの年、映画が始まってから終わるまで、こんなにドキ ドキワクワクして見た映画は他にない。コンパクトで無駄がない上に脚本に伏線があって、緊迫感がずっと持続するだけではない。主人公二人の人物像がちゃん と描き込まれていて、映画の中での感情の変化がキッチリとらえられているからだ。低予算で恐い「ダイ・ハード」と評したのはあながち過言ではないと思う。 間違いなく拾いモノとしてこの年ダントツ。

 

第2位「華麗なる恋の舞台で」Being Julia

(カナダ、アメリカ、ハンガリー、イギリス)

イシュトバーン・サボー監督作品

このタイトルで好きでもないアネット・ベニング主演。これでイシュトバーン・サボーが監督でなければ完全にパスするところだが、映画は実に素晴らし かった。何しろ奔放で尊大で頭のてっぺんからつま先まで「女優」なヒロインがアッパレ。演じるアネット・ベニングも、年下男に恋する小娘のような表情から 堂々たる舞台での貫禄まで、見事としか言いようがない。若い連中にしてやられたと見せて、堂々たる反撃をやってのけるラストには思わず拍手拍手。元々が バックステージものは好きな方だが、この映画はそれを超えている。何より素晴らしいのは「芸あっての人生」と「いかにも」な事を言っているようで、ギリギ リのところで「現実あっての芸」と逆転させているところ。それこそ今回、サボーの言いたかったことだろう。

 

第3位「パンズ・ラビリンス」El laberinto del fauno (Pan's Labyrinth)

(メキシコ、スペイン、アメリカ)

ギレルモ・デル・トロ監督作品

出す作品出す作品好調のギレルモ・デル・トロが、ついに放った決定打。少女を取り巻くファシズム吹き荒れる現実世界と、悪夢のようなファンタジー世 界。ファンタジー部分の独創性は際だっていて、まるで水木しげるの妖怪マンガのような面白こわいキャラクターが次々登場。イマドキ大流行のファンタジー映 画など吹っ飛ばす豊かなイマジネーションを見せる。一方の現実世界はと言えば、ファンタジーを作り話と笑えないほど不条理でオカシイ。大の大人たちが自分 の言ってることやってることのオカシサを判断できなくなってる現実って、実は今の日本の現実とも重なってくるから恐い。ファシズム側の連中は事あるごとに 「現実的判断をしろ」的なことを言うが、実はファシズムこそ究極の虚構でありダーク・ファンタジーなのだ。この映画は現実逃避などでは断じてない。むしろ この映画ほど「現実的」で政治的な映画もないだろう。必見の作品だ

 

第4位「エレクション」黒社會 (Election)(香港)

ジョニー・トー監督作品

何を撮っても観客を魅了するジョニー・トー監督だが、その本領はやはり男の世界の暗黒街映画。闇の世界での覇権を狙って、二人の男の激突を情け容赦 なく描き尽くす。例えば裏切り者や自分に背く者に制裁を加える場面でも、木箱に詰めて山の上から落とす…などという奇抜かつ映画的に秀逸な表現を思いつく あたり、やっぱりジョニー・トーって非凡な映画作家だ。そして紳士的で知性もある男の方が結果的に冷酷な手段を使い、暴力的で直情志向型の男の方が片づけ られてしまう皮肉。内容的にもかなり「ゴッドファーザー」(1972)を意識したこの作品、何でも二部作として構想されているらしいが、早く後編を見たい ところだ。日本で公開されるのだろうか?

 

第5位「ゾディアック」Zodiac(アメリカ)

デビッド・フィンチャー監督作品

伝説的な猟奇連続殺人犯と、それに魅入られたあげく身を持ち崩す男たちを描く実話。いつものフィンチャーらしい映像テクニックは弄さないが、そのぶ んコッテリと描かれたキャラクター造形が見事。男たちがみなどんどん引きずり込まれて熱中せざるを得なくなるのも分かるし、それを女たちが全く理解できな いのもよく分かる。これは連続殺人犯をも含めた「男のサガ」を描いた作品なのである。スパイク・リーの「サマー・オブ・サム」(1999)との関連も興味 深い作品だ。

 

第6位「エンジェル」Angel(イギリス、ベルギー、フランス)

フランソワ・オゾン監督作品

大時代的なヒロイン物語と見せて、フランソワ・オゾンが自分の個人的心情を吐露したと見られる作品。ヒロインを演じるロモーラ・ガライが、実にイヤ な女でありながらチャーミング…というスレスレなキャラクターを好演。これはオゾンの旧作「スイミング・プール」(2003)と対にして見なければならな い作品だ。

 

第7位「プロヴァンスの贈り物」A Good Year(アメリカ)

リドリー・スコット監督作品

これくらい見る前から成り行きが見えていて、それ通りに進んでいく映画もない。にも関わらず、これほど鮮度があって面白いのはなぜだろうか。都会で 株の世界のやり手として鳴らしている男が、たまたまプロヴァンス地方のスロー・ライフな世界に巻き込まれる。もちろん男は「改心する」わけだが、そこまで の語り口の妙が名人芸なのだ。こんなありふれたお話が新鮮に見える。ちょっと前の小品佳作「マッチスティック・メン」(2003)などを見ても、もはやリ ドリー・スコットはかつての映像のスタイリスト的技術ではなく、話芸としてのうまさで評価すべきだろう。

 

第8位「レミーのおいしいレストラン」Ratatouille(アメリカ)

ブラッド・バード監督作品

ピクサーで監督がブラッド・バードと来れば、もはや傑作間違いなし。そうは言ってもネズミが名シェフになるパリのレストランのお話…と聞けば、今度 ばかりは出来栄えに危惧を抱く人も多いはず。しかしブラッド・バードはまたやってしまった。いかにもおいしそうな料理の数々にリアルなCG表現の必然性が あり、悪ロバティカルな厨房アクションとネズミ対人間のやりとりにアニメとしての必然性がある。こうでしか出来ないし、こうにしかなりようがない、常にワ ン・アンド・オンリーの表現を選択するところがピクサーの素晴らしさ。終盤のピーター・オトゥールによるナレーションは、主演した快作「ヴィーナス」 (2006)と双璧の味わいでまさに至芸。その内容が、そのまま三つ星だの四つ星だのという「格付け」の空しさをビシッと批判。大体たかがフランスのタイ ヤ屋の分際で、江戸の粋溢れる東京の食い物屋の善し悪しに口を出すなんざ、100年も200年も早いのである(笑)。

 

第9位「デス・プルーフ in グラインドハウス」Death Proof(アメリカ)

クエンティン・タランティーノ監督作品

何だかあまり評判が良くないこの作品、何と相棒のロバート・ロドリゲスが「グラインドハウス」のために作った作品よりも不評さくさくみたいだが、そ ういう時こそ僕がホメなくてはいけない。この映画がB級C級映画へのオマージュに溺れすぎていて、独りよがりでニッチなターゲットにしか受け入れられない 後ろ向きのシロモノと、そんな風に思われて敬遠された可能性が大。確かに一見そう見える。わざとフィルム上にキズを付けたりコマ飛びを入れたり、アレコレ のクズ映画を連想させる趣向を満載させたり、そんなオタクな楽しみを見出すことはたやすい。だが、それらって実はかなりわざとらしくタネ明かしされてい て、ホンモノのオタクが自慢げに自説をひけらかすことが出来ないほどだ。むしろそこにこそ、タランティーノの真の狙いがあるのではないか。

 

第10位「ドリームガールズ」Dreamgirls(アメリカ)

ビル・コンドン監督作品

今年この映画ぐらい、ハリウッド映画としての豪華さと技術の粋を見せた映画はない。何でこの映画がアカデミー賞の作品賞候補にならなかったのか、ハ リウッドの連中に聞いてみたいくらいだ。いろいろ言いたいことは山ほどあるが、ここは新星ジェニファー・ハドソンが歌う怒濤の一曲は必見…とだけ言ってま とめにしたい。

 

それ以外で気になった作品

 

「ベオウルフ/呪われし勇者」Beowulf(アメリカ)

ロバート・ゼメキス監督作品

映画は技術だけではないと人は言う。しかし技術もここまで極めれば、見ている者を鳥肌立てることだって出来るのだ。シャープネスも抜群なら立体感も 申し分なし、しかも目を疲れさせない抜群の3D効果は、劇場で見てこそ価値がある。正直言って、僕はこれを見て感動してしまった。

 

「ハリウッドランド」Hollywoodland(アメリカ)

アレン・コールター監督作品

何しろとにかく不遇のTVスーパーマン役者ジョージ・リーブスを演じるベン・アフレックが、真に迫り過ぎて尋常ではない。彼の今日の状況を考えるとシャレにならない。マジメに心配になってしまった。

 

 

 

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