昨年から仕事が大忙しになって、家庭の事情もあって映画の本数はさらに激減。良くも悪くも、ある程度自分の好みを優先して見る傾向はさらに強くなりました。しかし、内容的には決して例年と比べても遜色がない、むしろ豊作の一年だったと言えると思います。


2006年に僕が見た映画は、1本の旧作を除くと何と93本。昔のことは忘れたが、おそらく記憶の通りならば年間100本を割ったのは大学生の時以 来のはず。ほぼ30年ぶりということになるだろうか。もちろん僕は映画を職業としていない一般の社会人なので、これが当たり前と言えば当たり前。本数が 減ったことは致し方ない。しかし、減った割にはそれなりにバランスよく見れたのではないかという気もする。そして今回は、例えばホウ・シャオシェンの「百 年恋歌」から007シリーズの「007/カジノ・ロワイヤル」のように、近年マンネリが囁かれていた映画作家やシリーズの鮮度回復を感じさせる作品が目 立った一年でもある。そして特に、アメリカ映画の1970年代回帰が顕著だったことも特徴だろう。

 

 

第1位「ブロークン・フラワーズ」Broken Flowers(アメリカ)

ジム・ジャームッシュ監督作品

この映画は、見始めたとたんに「傑作」だと確信できた。正直言って今までどうしても心から好きになれなかったジム・ジャームッシュ。しかも近年はか なり深刻なマンネリに陥っていた彼だが、今回はまさに快作。ふと人生を振り返る機会を持つことになった初老男の心象風景が、切実な実感を込めて描き出され る。しかも、それがクソマジメにではなくちょっと斜に構えた笑いで描き出されるところが素晴らしい。苦虫噛みつぶしたような顔のビル・マーレイも、「ロス ト・イン・トランスレーション」以来の適役。クスクスと笑いながら、全編に漂う人生の哀歓に酔わされる一作だ。

 

第2位「デート・ウィズ・ドリュー」Date with Drew(アメリカ)

ジョン・ガン、ブライアン・ハーズリンガー、ブレット・ウィン監督作品

年末大晦日に見た映画が、これほどまでに心を揺さぶるとは! 正直言って衝動的に今年の1位にしちゃいそうなところだったが、それはホメ過ぎという もの(笑)。作り手だって、それは望んではいないだろう。ハリウッド・スターのドリュー・バリモアとのデートを何とか実現しようと奔走する、無名で無力で 食うや食わずのネアカ男。ハッキリ言って本人のパーソナリティもバカなら発想もバカなのだが、そのバカもここまで極めると笑いを通り越して感動だ。見てい て僕自身も「とにかく最善は尽くすべきだ」とすっかり感化されてしまった。確かにバカだが、作り手の真摯な姿勢は本物なのだ。そんな想いを託す相手として ドリュー・バリモアを持ってきたのも、作り手のセンスの良さを感じる。感動の度合いだけを見れば、明らかにこの年一番の作品。

 

第3位「地獄の変異」The Cave(アメリカ、ドイツ)

ブルース・ハント監督作品

まったくノーマークだった無名の作品、それも明らかにB級のモンスター映画。だがその内容は、近来のハリウッド映画にも珍しいサービス精神のカタマ リ。スターこそ出ていないものの、あの手この手で楽しませてくれる娯楽映画としての妙味。その大がかりな作り方を見てみると、凡百のB級SFホラーとは明 らかに一線を画している。奇をてらったところなど微塵もない、堂々たる構成を持った作品。むしろちょっとした大作の風格すら漂うから驚く。この作品が全く 知られていないのは、やっぱりどこかオカシイ。

 

第4位「硫黄島からの手紙」Letters from Iwo Jima(アメリカ)

クリント・イーストウッド監督作品

「父親たちの星条旗」と「硫黄島」二部作を形成する作品。「星条旗」もなかなか見応えある作品だったが、イーストウッドにとって異邦人であるはずの 日本人側の戦いを描いたこの映画は、完成度といい迫真性といい実感の度合いといい…比較するのは筋違いとは思うが「星条旗」よりも数段上。「日本の戦争映 画」としても、実に見事な出来栄えなのだ。しかも昨今の日本の風潮を考えると、全くシャレにならない内容になっているあたりが恐い。

 

第5位「フラガール」Hula Girls(日本)

李相日 監督作品

一昨年の「スウィングガールズ」と共通するような、日本製娯楽映画の復権を思わせる作品。炭坑町の復興を賭けたハワイアンセンター誕生秘話…という 着想の良さが命の作品だが、映画作品としての構成の妙も素晴らしい。語り口にはハリウッド王道の娯楽映画のセオリーを忠実に用い、表現として映画本来の 「記録」としての機能を最大限に活かす一発撮りライブ・アクションを中心に据えたあたりも、「スウィングガールズ」と一脈通じるところ。そんなこの作品の 性格は、そのままこの作品の「映画としての血統の正しさ」を物語ってもいる。

 

第6位「16ブロック」16 Blocks(アメリカ)

リチャード・ドナー監督作品

悪徳警官たちに不利な証人を裁判所に護送することになった、ショボくれてやる気もない酔いどれ刑事。ところがニューヨーク中の警官が証人を消そうと 動きだすや、刑事の中の眠っていた正義感が目を覚ます。ありふれたハリウッド娯楽アクションの典型のようなお話。それを演出するリチャード・ドナーにして も主演のブルース・ウィリスにとっても、久々に本領発揮の快作…程度の出来栄えと思っていたら、何と娯楽作としても意外や意外のドンデン返し。しかも…予 想もしてない心揺さぶられる結末が待っていたではないか。アメリカ映画はまだまだ死んじゃいなかった。

 

第7位「カーズ」Cars(アメリカ)

ジョン・ラセター監督作品

つくる映画はいつも「単なるアニメ映画」を逸脱した大人もうならせる娯楽作。そんなピクサーの新作は…いくら何でも今度こそガキんちょ向けだろうと 思わせながら、やっぱり見事に大人も…というより、むしろ大人の方が楽しめる極上エンターテインメントとして完成した。「クルマの国」を舞台に、思い上 がった青二才のスポーツカーが忘れられた街にやって来て経験する出来事は、あまりに失われたモノへの哀愁に満ちていて子供では理解不能なはず。アメリカ映 画の王道セオリーを活かしているのは毎度のことだが、今回は特に1970年代映画への目配せが注目されるところだ。

 

第8位「マッチポイント」Match Point(イギリス、アメリカ、ルクセンブルグ)

ウディ・アレン監督作品

こちらも近年マンネリ著しかったウディ・アレンが、「自分の庭」であるニューヨークからロンドンに舞台を移しての新作。舞台の変化が作り手の姿勢の 変化も促したか、毎度おなじみ私小説的スノッブ・コメディから「太陽がいっぱい」的悲劇的サスペンスへ鮮やかな転換を果たした。そのため作品は今までにな い鮮度を獲得し、しかも語り口のうま味は従来のベテランの味。イメージチェンジは見事に成功した。

 

第9位「西瓜」(The Wayward Cloud)(台湾)

ツァイ・ミンリャン監督作品

この年はもう一本、「楽日」も公開されたツァイ・ミンリャン。実は映画ファンとして文句なく酔わされたのはその「楽日」の方だったのだが…やっぱり 映画としての破壊力をとればこちらの方だろう。現代に失われつつある「純愛」や「真実の愛」を真っ正面から描こうとすれば、その対極にあるように思われる 「セックス」や「AV」を取り上げるのは…むしろ驚く余地のない凡庸な発想かもしれない。だが、それもここまで徹底してやってしまうと…作品としては全く 違うものの、ある意味で「デート・ウィズ・ドリュー」と同じく感動するしかない。少なくとも、ツァイ・ミンリャンは観客に対して誠実だと思う。

 

第10位「上海の伯爵夫人」The White Countess(イギリス、アメリカ、ドイツ、中国 )

ジェームズ・アイヴォリー監督作品

お上品でオツにすました作品ばかり目立ったジェームズ・アイヴォリーが、彼としては異境である戦中の上海に材をとっての新作。これがアイヴォリーに カツを入れたのか、チマチマっとした近年の彼の作品のパターンを逸脱。歴史のうねりに飲み込まれていく主人公たちのダイナミックな物語となった。人生投げ かかったレイフ・ファインズの元外交官も、ナターシャ・リチャードソンの落ちぶれ果てた元ロシア伯爵夫人も絶品だが、「PROMISE」をはじめ海外での 活躍も目立つ真田広之の日本人工作員の怖さ・怪しさ…そして人間的魅力にはビックリ。見事にスターの貫禄なのである。

 

それ以外で気になった作品

 

「プルートで朝食を」Breakfast on Pluto(アイルランド、イギリス)

ニール・ジョーダン監督作品

ニール・ジョーダンは作品によって出来不出来の落差が激しい映画作家だが、今回は明らかに出来の良い作品。冒頭の「シュガー・ベイビー・ラブ」から 快調に飛ばす物語は、1970年代初頭のアイルランド〜ロンドンを舞台にしたオカマちゃん一代記。だがこの世の中ナメきったような主人公の態度が、「政治 に対して深刻に思い詰めること」の愚かさや危険性を逆に浮き彫りにしていく見事な構成。むろんそんな歯ごたえのある主題だけでなく、選曲の素晴らしさやテ ンポの良さなど映画的センスも抜群。

 

「ミュンヘン」Munich(アメリカ)

スティーブン・スピルバーグ監督作品

「宇宙戦争」もつくればこんな硬派の社会派サスペンスもつくる。だが、もはやスピルバーグの語り口には、かつての怪しげな部分は感じられない。おそ らくスピルバーグは、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で第二の黄金時代に踏み込んだはずだ。そしてユダヤ人としてのスタンスを露わにしながら、彼 としては最大限に誠実にこの問題を語ろうとしている。しかもそんなシリアスな題材を扱いながら、スタイルとしては1970年代社会派サスペンスへの傾倒ぶ りを伺わせるあたり、稀代のエンターテイナーの精神はここでも健在だ。

 

 

 

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