新作映画1000本ノック 2020年1月

Knocking on Movie Heven's Door


このページの作品
 「テッド・バンディ」

 

「テッド・バンディ」

 Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile

Date:2020 / 01 / 13

みるまえ

  この映画のことは、知人のひとりから聞いた。連続殺人鬼の実話…なんて話は、今日びいくらでもそこらに転がっている。では、なぜ注目したかと言えば、ザッ ク・エフロンがその殺人鬼を演じているから。ザック・エフロンって確かアイドル的人気を持つ甘いマスクの兄ちゃんというイメージだが、その一方で「ペーパーボーイ/真夏の引力」(2012)なんて濃いい映画(笑)にも出ていたっけ。そういや、ケネディ暗殺をちょっと別の視点から捉えた「パークランド/ケネディ暗殺、真実の4日間」 (2013)なんて硬派な作品にも出ていた。いかにもチャラ男な外見にも関わらず、どうも作品選択にヒトクセあるんじゃないかと思っていたのだ。そしてこ の男が主演を張るのなら、おそらく連続殺人鬼の内面に肉迫する新しいアプローチがなされているのではないだろうか。僕はこのキャスティングに大いに興味が 湧いて、何と今年の「新春第1弾」の映画(笑)に本作を選んだ次第。

ないよう

  ここは、警戒厳重なある刑務所。その面会室に、ひとりの女が緊張した面持ちで待っていた。彼女の名はリズ(リリー・コリンズ)。やがてガラスの向こう側の 扉が開いて、ある囚人が連れて来られる。その囚人こそ、テッド・バンディ(ザック・エフロン)。通話用の受話器を取って会話を始める二人だが、テッドは 「会いたかった」などと笑顔で話し始めるのに対して、リズは表情を硬くしたまま、こうテッドに問いかける。「私たちが最初に会ったときのことを覚えて る?」…。それは1969年のシアトルでのこと。リズは親友のジョアンナ(アンジェラ・サラフィアン)に連れ出されてバーにいた。シングルマザーとして、 すっかり引っ込み思案になっていたリズを心配して、ジョアンナが羽根を伸ばすことを提案したのだ。しかし「コブつき」の自分に寄って来る男など…と思って いた矢先、彼女をじっと見つめる視点に気づく。そのハンサムな男がテッドだった。ジュークボックスで曲をかけようとしたリズにテッドの方から接近。それか らグッといい感じになって、家まで送ってもらうことに。だが、家の前で微妙な空気になったところで、扉を開けてベビーシッターが出てきた。「子供がいる」 と分かった時点で男は退く…と覚悟を決めたリズだったが、テッドは一向に動じない。そんな彼を自宅に引き入れたリズは、彼の腕を枕にしてベッドで寝入って しまう。翌朝、目が覚めたらテッドはいない。それどころか、まだ幼い愛娘のモリーもいない。慌ててダイニングキッチンに駆け込むと、そこにはモリーをあや しながらエプロン姿で朝食を用意しているテッドがいた。何と理想的な「カレシ」なんだろう! それから数年というもの、まるでテッドは実の家族のように溶 け込んで、リズにとって夢のような日々が続いた。一方、同じ頃に西部の各州で女性を狙った連続殺人事件が起きており、何とどこかの誰かみたいなハンサム男 の似顔絵まで配られていたが、リズとテッドのアツアツぶりは変わらない。そんな幸せな日々が永遠に続くように思われた1965年、夜中にユタ州の道を愛車 ビートルで走っていたテッドは、後ろからパトカーが接近して来るのに気づく。サイレンを鳴らされクルマを停めさせられたテッドは、警官に愛想良く振る舞 う。その様子は好青年そのものだったが、後部座席に置いてあったバッグに怪しげな道具が入っていたのがマズかった。テッドはその場で逮捕され、警察署へと 連行されてしまう。バッグには軍手だ懐中電灯だロープだ、果てはバールまで出てきて怪しさ満点。面通しをされれば事件被害者の女性に「犯人」と指摘されて しまう。何とか保釈されてリズの家に戻ってきたテッドだったが、リズは彼が捕まっていたことなどとっくにご承知。だから、満面の笑みで抱きしめようとする テッドをいきなり平手打ちだ。しかし、テッドはめげずに「誤解だ」「間違いだ」と熱く説得。そんな真摯なテッドの言葉に、リズもこれはきっと何かの手違い だと自分に言い聞かせて和解する。こうしてユタ州で、テッドが告発された件の裁判が始まる。だが、テッド側は「警察が事前に被害者の証言を誘導した」と主 張。おまけに、犯行に使われたとされるビートルとテッドのそれとは微妙に色も違うことを指摘。こうして一歩も退かない強気の姿勢を見せるテッドだった が…。

みたあと

 見た後で 知ったことだが、本作は今をときめくネットフリックス・オリジナル映画だそうである。イマドキはどれもこれもネトフリで、映画祭や賞も席巻。日本を脱出し たカルロス・ゴーンの独占権まで獲得(笑)…というガセ情報がまことしやかに流れるほどだが、それがまたまったく不思議に思えないからスゴい。もはや普通 にハリウッド・メジャーの配給会社みたいな存在になっていて、ただ、それをネット配信するだけの違いみたいだ。だから本作は日本では劇場公開になったが、 アメリカ本国ではネトフリの配信でしか見られないらしいのだ。また、実はネトフリにはこのテッド・バンディのドキュメンタリーもあって、これがやたら評判 がいい。ところがこのドキュメンタリーの監督こそ、本作の監督ジョー・バーリンジャーだというのだ。つまりこの監督は、ドキュメンタリーと劇映画の両方 で、テッド・バンディという殺人鬼を語り尽くした訳なのである。もう、どんだけテッド・バンディ好きなんだよ(笑)と言いたくもなるが、さすが「知り尽く した男」ならではの映画になっている。そして、ドキュメンタリーはどういうアプローチになっているのかは知らないが、本作は連続殺人鬼を扱った映画として は異色の語り口の映画になっているのである。

ここからは映画を見てから!

みどころ

  この映画の映画評を読めばどれもこれも同じようなことを書いてあるだろうと想像するが、まずは僕も同じようなことを書かざるを得ない…とここで白状してお く。本作のアプローチの仕方は、先にも述べたように「連続殺人鬼」を描く映画としては極めて異色である。この映画は、殺人鬼の人間像に肉迫するようなこと は一切やらない。本作を見ても、テッド・バンディがなぜ連続殺人に手を染めたのかは分かりはしない。そういう人格がどうして形成されたのかも分からない。 そもそも、この映画では、ザック・エフロン扮するバンディが犯行に及んでいる姿を描いている場面は…最後の最後に出て来るほんの数秒間を除いてはまったく 出て来ないのだ。我々はバンディの犯した凶行を、ニュースの報道や法廷でチラッと出て来る証拠写真、そこで語られる言葉でしか知ることができない。その代 わり、僕らはバンディと数年間同棲していた女性の視線で彼を見ることになる。で、彼女と非常に良好な関係を築いているバンディは、そこで殺人鬼らしい怪し い部分を毛ほども(ほんの一瞬、犬に吠えられたりする場面以外)見せることはない。これが本作の最大にユニークな点である。もちろん僕らは映画を見る前 に、ザック・エフロンが希代の殺人鬼を演じると知っている。それが実話であることも分かっている。だから、エフロンが好青年然として出てきても、「あぁ、 これが殺人鬼なんだな」と思いながら見ている。しかし…あまりにあまりの好青年ぶりに、徐々に僕ら観客にとってもその確信がグラついてくる。これはなかな か他にはない映画体験だ。もちろん、先にも述べたように僕らはこの男が殺人鬼だと知っているから、「まさかそんなはずない」なんてことは思ったりしない。 思ったりはしないのだけれど、見ていていつしかその確信が怪しくなっていくのだ。これはザック・エフロンという役者が演じているからこそ…なのだが、単に 彼が好感が持てる個性の持ち主というだけでは出来ない芸当だろう。やはり、確かな演技力の為せるワザなのである。ハッキリ言うと、本作はザック・エフロン が好感度抜群な殺人鬼を演じるという、その一点に尽きる。その好感度のまんまで最後まで突っ走っていくから(ただし、途中で脱獄したり法廷でワンマン ショーやったりするあたりから、こいつは只者ではないとは分かってくるのだが)、最後の最後に突きつけられる「正体」のドンヨリ感は半端ない。ただ、僕は 長い人生でいろいろ見てきたけど、サイコな奴って実際に好感度高いもんなんだわな。前にもどこかで語ったけれど、僕は逆になぜか悪人のことが「悪人」って 見えちゃうことが多い(ただし、僕が「悪人」だと分かった奴は100パーセント悪人なのだが、悪人全員が分かる訳ではないから酷い目に合わされることもし ばしばだ)。で、大体がそういう奴って女ウケのする奴だったりする(笑)。下手に非難などすると女たちに叩かれかねないから、僕はそれがイヤさに傍観する ことにしているのだ(笑)。また、ご本人は自分が悪人と思っていないから、悪事を働いているとは夢にも思っていなかったりする。また、自分でついたウソを 真実だと自分で信じ込むこともできるみたいだ。タチが悪いのだこの手の奴は。そんないろいろなことを思い出しながら、僕は複雑な思いで本作を見ていた。先 にも述べたように、本作を見てもサイコパスの正体などはまったく分からない。その代わり、僕らにはこれほどサイコパスが「分からない」のだ…ということが 「分かる」作品なのである。結果として、本作はサイコパスの本質に迫った作品とも言えるのだ。終盤の裁判長ジョン・マルコビッチとのやりとりも見応えあっ たし、ザック・エフロンなかなかの役者である。そして、サイコな役をやったからと言って、決して「サイコ」 (1960)出演以降のアンソニー・パーキンスのようにはならない逞しさもあるように思えた。それ以前には爽やか好青年役ばかりだったパーキンスは、「サ イコ」出演後には危ない役や怪しい役ばかりになってしまった。だが、エフロンはそんなダメージは受けない揺るぎなさと図太さがあるように思えるのだ。若く してこの安定感はちょっとスゴいのではないか。あと、ヒロインのリズ(リリー・コリンズ)を後に支える太った同僚男性をどこかで見たと思っていたら、「シックス・センス」(1999)、「A.I.」(2001)などで天才子役と騒がれたハーレイ・ジョエル・オスメントではないか。それが善人なところだけが取り柄の、デブでモテなさそうな男を演じているのが泣けた。久々に映画で見た彼は、どんな猟奇殺人などよりダントツでショッキングだったよ(笑)。

さいごのひとこと

 オスメントが殺人鬼ならもっとスゴかった(笑)。

 


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