新作映画1000本ノック 2019年9月

Knocking on Movie Heven's Door


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 「スノー・ロワイヤル」
 

「スノー・ロワイヤル」

 Cold Pursuit

Date:2019 / 09 / 02

みるまえ

 リーアム・ニーソン主演作…と聞くと、強烈に浮かんで来る、ある一定のイメージがある。ニーソン無双で戦うアクション映画…というやつである。本来は「シンドラーのリスト」(1993)の演技派だったはずなのだが、リュック・ベッソンに「96時間」(2008)で捕まったのが運の尽き。その後はもっぱら、「アンノウン」(2011)、「フライト・ゲーム」(2014)、「ラン・オールナイト」 (2015)、「トレイン・ミッション」(2018)…などなどと大暴れ専門俳優になってしまった。それはそれで悪くないので僕は結構楽しんでいたが、少 なくとも世間では「ニコラス・ケイジ主演作」よりもワンパターン扱いされていたようである。おまけに肝心のニーソン自体が大味俳優化しちゃったのか、「オペレーション・クロマイト」 (2016)なんて韓国映画にマッカーサー役で出て、ビックリするほどの大根ぶりを発揮するようになってしまった。これはヤバいんじゃないのか。そんな ニーソンの最新作がやって来た。チラシを見たら、雪景色の中でリーアム・ニーソンが誰かをブチのめしたような絵柄である。背景には除雪車。宣伝コピーは 「模範市民賞受賞直後にキレる」…である。「フライト・ゲーム」で飛行機、「トレイン・ミッション」で電車…なら、次は雪の中か…みたいな感じ。役者とし てのニーソンがどうなるのかは分からないが、ただ頭空っぽで楽しむにはそれもいい。そんな訳で、劇場にイソイソ出かけて行ったような訳である。感想がこれ ほど遅くなってしまったのは、ただただ僕の怠慢さ故…である。

ないよう

  ある者は、どこでも人を幸せにする。またある者は、いなくなって人を幸せにする。オスカー・ワイルド…。雪に包まれた小さな町キーホー。そこで毎日、除雪 車で高く積もる道路の雪を取り除いている男がいた。その男の名はネルズ・コックスマン(リーアム・ニーソン)。彼は途中で拾った息子のカイル(マイケル・ リチャードソン)を連れて、妻グレース(ローラ・ダーン)の待つ家に帰って来た。仲のよい家族の、久々の一家団欒だ。やがてカイルは、仕事に行くために家 を出て行った。その後、ネルズは一張羅に着替えてお出かけだ。彼が出かけたのは、街の市民会館。そこのホールで模範市民を称えるパーティーが開かれるの だ。演壇に立って慣れぬスピーチをしゃべらされているのは、あのネルズ。彼は今年の「模範市民」に選ばれた男なのだ。一方、カイルは彼の職場である空港 で、貨物関連の仕事に携わっていた。ところが彼が控え室に戻るや否や、スピード(マイケル・エクランド)なる悪党が率いる怪しい連中に襲われる。カイルは 同僚のダンテ(ウェズリー・マッキネス)とともにバンに乗せられ、無理矢理注射されるではないか。隙を見て走るバンから飛び出したダンテは逃がれることが できたが、カイルはそうはいかなかった…。翌朝、デンバーにある豪邸では、イジメがあるので学校に行きたくないと訴える少年ライアン(ニコラス・ホーム ズ)に、父親バイキング(トム・ベイトマン)が高圧的に接している。このバイキング、実業家然とした身なりをしてはいるが、どうも只者ではない。それもそ のはず、バイキングはこの一帯の麻薬組織のボス。昨夜の空港での一件も、実はこの男の差し金であった…。その日、仕事から帰宅したネルズを、妻グレースが 待ち受けていた。その表情にはただならないものが…。二人が駆けつけたのは、デンバーの遺体安置所。そこには、息子カイルの遺体が横たわっていた。警官か らは麻薬の過剰摂取が死因と言われるが、ネルズは「息子は麻薬なんかやっていない」とつぶやく。だが、もはや息子はもの言わぬ身。グレースは悲しみのあま り人が変わったようになって、ネルズをも責めるようになってしまう。幸せ家族はアッという間に崩壊してしまった。絶望のドン底に叩き落とされたネルズは、 車庫にこもってライフルを口にくわえ、一思いにあの世に行こうとする。だが、そこに思わぬ邪魔が入った。あの息子の同僚ダンテがボロボロになって、車庫の 片隅に隠れていたのだ。彼は驚くべき話をネルズにもたらした。実は、カイルの死は殺しだと言うのだ。航空貨物に麻薬が隠されていることを知ったダンテは、 そいつをちょいと拝借。それが組織の怒りを買って、カイルはダンテとグルだと思われて殺されてしまった…。カイルを殺した男の名は、スピード。それを知っ たネルズは、この男がいると聞いたクラブに駆けつける。ネルズは問題のスピードを追いかけ、彼と一緒にエレベーターへ。エレベーターで二人きりになったネ ルズは、おもむろにスピードに問いかける。「カイルはオレの息子だ。一体何があった?」…。だが、あくまでトボけるスピードは、最後は銃をチラつかせてネ ルズを黙らせる。だが、それでひるむネルズではなかった。一瞬の隙を突いてスピードを拳でブチのめすネルズ。グロッキーのスピードを駐車場の車まで引っ 張っていくと、車の中で再度痛めつける。たまらずスピードは本当のことを吐いた。彼は命令で殺っただけで、命じたのは「リンボー」という男だと。それさえ 聞いたら、こいつには用はない。ネルズはスピードの首をグイグイ絞めて殺してしまった。ネルズはスピードの死体を金網でグルグル巻きにして、崖から川に叩 き込んだ。だが、それはまだネルズの復讐の始まりに過ぎなかったのだ…!
こ こからは映画を見てから!

みたあと

  当然のように、リーアム・ニーソンがまたまた大暴れするアクション映画を見に行った僕だったが、映画が始まってオープニング・タイトルが出て来るや否や、 その確信が揺らぐのを感じた。タイトル文字の書体が、どう見てもアクション映画の「それ」には見えない。まるでおとぎ話か昔話の映画化作品ででも使うかの ような、少々古びた変な書体なのだ。その最初に感じた違和感は、僕の勘違いではなかった。息子が殺され、悲嘆に暮れるニーソンが復讐に燃える。そして、最 初の犠牲者をブチ殺した次の瞬間、画面に十字架付きで死んだ登場人物の名前が出て来るではないか。しかも、「例の書体」で…である。これはどう考えてもア クション映画のムードとは違う。今回はどうやら、いつものリーアム・ニーソン大暴れ映画とは違うのではないか?

みどころ

  最初にズバリ言ってしまうと、本作はリーアム・ニーソンが「96時間」以来出まくっている「オッサン大暴れ」系のアクションではない。息子を殺された父親 の復讐劇ではあるが、深刻なリベンジ・アクションでもない。何と驚くべきことに、本作はコメディである。それも、ブラックでどこかスットボケた、オフビー ト感のあるコメディだ。リーアム・ニーソン主演ということが、最大のトリックだった訳だ。これはやられた。で、これを言っちゃうと、本作のレビューとして はほとんどすべて言い尽くしてしまったようなところがある(笑)。いや、決して「それだけ」の映画…とケナしているのではない。だが、本作の感想としては とにかくおかしくて「ヘン」な映画ということに尽きる(笑)。非常にその面白さを言葉にするのが難しい類いの映画なのだ。それ故、感想文を書くのがこれほ どまでに遅くなってしまった。リーアム・ニーソンは終始あのクソ真面目な顔なのだが、やっていることはスットボケてどこかヘン。息子を殺されてリベンジに 邁進していくのは分かるのだが、そのエスカレートぶりも何だかおかしいのだ。特におかしいのは、映画の後半に敵であるバイキングの幼い息子をさらって来る くだり。この子に寝る前に本を読んでくれとせがまれ、憮然とした表情で除雪車のカタログの効能書きを読んで聞かせるあたりが秀逸。この男がいかに除雪一筋 で、それしかやって来なかったかが伺える名場面だった。ニーソン演じる主人公が殺していく「敵」側の連中や、それを取り巻く連中もみんなどこか「ヘン」。 今回の最大の敵役である麻薬王バイキングも単なる悪役でなくて、変に潔癖症なのが笑える。チクりに来た殺し屋にモラルを説いたあげく殺しちゃうあたり、妙 にスジを通しててこれまたおかしな奴なのだ。ローラ・ダーンが賢夫人風に出てくるので彼女が唯一マトモかと思ったら、いきなりキレて出て行ったのには唖然 (笑)。一人としてマトモな奴がいない。いるとしたら、殺された主人公の息子と敵役バイキングの息子だけ。そしてリーアム・ニーソンの活躍のおかげ…とも 言えない具合に偶然に偶然が重なって、敵側は盛大な自滅をしてしまう。このくだりも見ていて大笑いだ。ラストに除雪車に突っ込むハンググライダー男とい い、しっぽまでアンコの詰まった鯛焼きみたいな映画なのである。こんなケッタイでオモロい映画を撮ったのはどこのどいつだと思ったら、監督のハンス・ペテ ル・モランドは何とノルウェー生まれ。そもそもが本作はリメイクで、自らが母国含めた北欧三国で撮った「ファイティング・ダディ/怒りの除雪車」 (2014)という作品をハリウッドで撮り直した作品だというではないか。なるほど、それで雪深い地方の話なのか。何でもこの「ファイティング・ダディ」 なる作品、主演はあのステラン・スカルスガルドというのも、「そそる」要素だ。近作の「男と女、モントーク岬で」 (2017)でもどこかトボケた笑いを漂わせていたスカルスガルドだから、さぞや笑える作品に出来上がっていたはずだ。本作がひねった笑いに包まれている のも、おそらくこの元ネタに忠実なリメイクだからだろう。未見ではあるが、オリジナル版も相当に笑える作品だろうと想像がつく。だが、出来映えとしてはリ メイク版である本作に軍配が上がるのではないか…と、僕は秘かに思っている。あの暴れるオヤジであるニーソンをキャスティングできただけでも、ハリウッド 版の方がおかしさが増しているのではないか。そんな風に思えるからだ。また、近年徐々に大味感を増していたニーソンにとっても、本作の主演はプラスだった ように思われる。まさに快作だ。

さいごのひとこと

 元のスカルスガルド版もぜひ見たい。

 


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