新作映画1000本ノック 2018年12月

Knocking on Movie Heven's Door


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 「ヴェノム」

 

「ヴェノム」

 Venom

Date:2018 / 12 / 10

みるまえ

  相変わらずハリウッドを席巻しているマーベルはじめとするスーパーヒーロー映画には、正直言ってスッカリ食傷気味の昨今。そりゃたま〜にはいいかもしれな いが、こうもそればっかりじゃイヤにだってなるよ。そんなところにまたまたスーパーヒーロー映画の新作と来るからウンザリしていた。今回は「悪役」が主 役…と言われたって、ここへ来てみんながいきなりアメコミ通にでもなったかのように「ヴィラン(悪役)」という英語をドヤ顔で使っているのも笑止千万。ア メコミ通ちょっと調子に乗り過ぎだろ。少しは身の丈をわきまえてくれ。ヴェノムというのはどうやら「スパイダーマン」に出てくる悪役らしく、実は映画でも サム・ライミ版三部作のラスト「スパイダーマン3」 (2007)にすでに出て来ていたらしい。ただ、僕はスッカリ忘れていたし、映画の中でも影の薄い悪役だったような気がする。「スパイダーマン」と言えば すでに2度もリセットしたシリーズで、3度目の正直でようやく「アベンジャーズ」の面々と合流するに至ったはず。どうやら「スパイダーマン」の映画化をし てきたソニー・ピクチャーズとマーベルとの間には「大人の事情」があるらしく、このたびめでたく「スパイダーマン」本体は合流できたものの、完全に相互乗 り入れができるようになった訳ではないらしい。そこで、ソニーが手持ちのキャラクターを使って昨今のアメコミ映画人気にあやかろうと作ったのが本作…とい うことのようだ。そんな事情は「通」のみなさんが嬉々として語り尽くせばいいことであって、僕などにはまったく関係のない話だが、本作は別の事情で大いに 気になる。というのも…本作の主役に何とトム・ハーディーが起用されたというではないか。トム・ハーディーといえば、あの「マッドマックス/怒りのデス・ロード」(2015)で二代目マッドマックスを襲名した男である。そのあたりからいきなり日本公開作がドッと増えたが、それらがまた気になる作品ばかり。クリストファー・ノーランにはずっと贔屓にされているらしく、近作「ダンケルク」 (2017)でも一人カッコいい役をもらって男を上げている。そんなトム・ハーディーが一枚看板で主役をやると聞けば、これは見ずにいられない。凡百のマ ンガ映画の中でもひと際異彩を放つんじゃないか。おまけに大ヒットと言うんだから、なおさら気になる。そんな訳で、僕は珍しくまだまだヒット中に本作を見 に行った訳だ。

ないよう

 ここは 宇宙空間。今まさに宇宙探査船が、ある使命を終えて地球に帰還するところ。宇宙船はこの計画を推進しているライフ財団の指令センターと交信を続け、今まさ に着陸態勢に入ろうとしたその時、何やら宇宙船内でトラブル発生。指令センターとの交信も途絶えた宇宙船は、予定していたよりも猛烈なスピードで大気圏に 突入。そのままの勢いで地表に激突してしまった。落ちたのはマレーシアの山林の中である。早速、現地に救助隊が派遣される。ライフ財団の指令センターで は、衛星回線でこの模様を、ライフ財団の代表ドレイク(リズ・アーメッド)とこのプロジェクト担当の女性科学者ドーラ(ジェニー・スレイト)をはじめとす るスタッフが固唾をのんで見守っていた。彼らが注視していたのは、宇宙船から回収された「容器」。それが4つ存在していたはずなのだが、現場から回収され たのは3つだけ。残るひとつがどこかに消えてしまったことで、ドレイクら関係者は戦々恐々とする。やがて現場で宇宙飛行士たちの遺体を回収していた女性救 命士(ミッシェル・リー)が、飛行士のうち一人が生きていることに気づく。彼女は慌ててこの飛行士を救急車に乗せて、山道を病院まで急いだ。だが、途中で 飛行士はいきなり起き上がり、そのカラダから飛び出した黒い「何か」が女性救命士に取り付いた。さらにその黒い「何か」は運転手を殺害して救急車は転落。 横転した救急車から出て来た女性救命士は、何かに取り憑かれたかのような目つきで一心不乱にいずこかへと歩き出す…。舞台変わってここはサンフランシス コ。目下そのローカルテレビ局で話題を集めているのは、突撃レポーターのエディ・ブロック(トム・ハーディー)が手がける報道番組。歯に衣着せぬ口調で社 会悪を空気読まずに告発するスタイルが、好評を収めていた。そんな彼がある日、局の上層部に呼ばれる。何とこのサンフランシスコ郊外の広大な敷地で事業を 進めているライフ財団の代表にインタビューするようにご指名を受けたのだ。だが、エディは正直言って戸惑わざるを得ない。それでなくてもエディのキライな 社会的「大物」…ましてライフ財団には胡散臭さを感じていた。本能的に「奴は悪党だ」と分かっていたエディは、このオファーをやんわりと回避しようとし た。だが、ニューヨークで「やらかし」てしまったエディを、拾ってくれた恩義があるこの局のご意向には逆らえない。こうしてエディは、渋々インタビューを 承諾させられてしまう羽目になる。エディはそんな愚痴を法律事務所に勤める恋人のアン・ウェイクング(ミシェル・ウィリアムズ)にこぼすが、社会人たるも の仕方がないこととアンはエディを諌める。そもそも、アン自身がライフ財団に関する案件を手がけているのだ。仕事は仕事と割り切らざるを得ない。だが、そ んなアンとの甘い一夜の後、彼女が眠ってからエディがたまたま開けっ放しのパソコン画面を見ていたら、ライフ財団に関する案件の資料がメールで届いてい た。こうなると好奇心には勝てないのがエディの悪いところ。それは、ライフ財団絡みで志望した人物の氏名であった。さて、翌日ライフ財団に出かけて行った エディは、ビデオ・クルーを引き連れて代表のドレイクにインタビューを開始。最初こそライフ財団の開発している宇宙船の話だったが、途中からなぜか研究開 発に関わる死亡者の話にすり替わる。さらに具体的に死亡者の名前まで出すに至って、ドレイクは表情を一変させてインタビューを打ち切る。だが、それがエ ディの運の尽きだった。今回ばかりは相手が悪かった。テレビ局からはクビ。そして情報漏洩のためにアンも法律事務所をクビになり、怒り心頭の彼女からも別 れを告げられた。さすがにここまで状況が一変するとは、エディも思っていなかった。世の中甘く見すぎていた…と、今頃気づいても後の祭りである。慌てて仕 事を探してもある訳もない。「問題児」エディには皿洗いの仕事すらない。路上のホームレスの姉ちゃんマリア(メローラ・ウォルターズ)ぐらいしか相手にし てくれる者がいない。おまけに近所の雑貨屋に買い物に行ったら、店のオバちゃん(ペギー・ルー)が強盗にカネを脅し取られてるのに見て見ぬふり。やたら正 義感を振り回していた割にはヘタレで、ますます自己嫌悪に陥るエディであった。そんなある日、例のホームレスのマリアの姿が見えなくなった。それとほぼ同 時期に、彼の後を追いかけ回す人物がひとり。それは例の女性科学者ドーラだった。実はその後、ライフ財団では例の「容器」を回収し、人体実験を繰り返して いた。「容器」の中身は粘液のように不定形で形状を変化させている生物で、地球上では何らかの生物に寄生しないと生存できない。ドレイクはそもそも地球の 未来には悲観的で、この生物と人類との一体化こそが宇宙で人類が生き延びる道…と思い詰めたあげく、手段を選ばず人体実験を開始。しかし、なかなか相性が 合わず、すでに多数の犠牲者を出していた。それが、訳も分からず駆り出されたホームレスの被験者たちだったのだ。その非道ぶりに耐えきれず、ドーラは内部 告発をするべくエディに接触して来たという訳である。だが、エディはすでに意気消沈していてドーラの話に乗る気分ではない。未練たっぷりにドーラの家まで 足を運んでも、ちょうど新しいカレシの外科医ダン(リード・スコット)とのデートの帰りという間の悪さ。結局、エディはドーラの話に乗ることにする。彼女 の運転するクルマでライフ財団の施設に潜入。人けのない研究所内にエディを連れて来たドーラは、警備員がやって来たためそこから引き返す。研究所に一人取 り残されたエディは、そこに閉じ込められた被験者たちを写真に撮っていた。すると…じっとしている女をよくよく見たら、それはかつての馴染みのホームレス 女マリアではないか。慌てて扉を壊して助け出そうとするエディ。だが、部屋から飛び出して来たマリアは、もはや普通ではなかった。エディに飛びつくと、カ ラダから出て来た黒い「何か」がエディのカラダに入り込んでしまうではないか。しかも扉を壊したことから警報が鳴り出し、四方八方から警備員がやってく る。慌てて逃げ出すエディだが、なぜかやけに身が軽い。それどころか、襲ってくる警備員をたちまち撃退。アッという間にライフ財団の施設から飛び出してし まった。だが、どこまでも彼らの追跡は続く。柵をブチ破り、弾丸をかい潜り、クルマで追ってくる連中からダッシュで逃げ惑う。そのあげく、高い木のてっぺ んまで上り詰めて敵の目を欺いた。何なのだ、この身体能力は? こうして何とか自宅まで逃げ帰って来たエディだが、何だか妙に具合が悪い。おまけに頭の中 で何やら声が聞こえてくるではないか。だが、それはまだエディに起きた異変の前触れに過ぎなかった…。

ここからは映画を見てから!

みたあと
  ポスターやチラシで見るからにおどろおどろしい怪人の顔がすでに露出していて、それが「スパイダーマン」の最大の「悪役」であるとも聞いている。宣伝コ ピーも「最悪」だとかやけにギトギトしていて、こいつがかなり禍々しい存在であることを強調している。だから、そういう奴が出てきてまたぞろ善と悪とがせ めぎあって、またまたトム・ハーディーが苦悩しまくる話か…と、僕の中には事前に何となくそんなイメージが出来ていた。だとすると…正直言ってもうたくさ んなんだよなぁ。こう言っちゃ何だが、たかがアメコミ。たま〜に苦悩したり屈折するのもいいけれど、最近アメコミ映画がこうも毎回苦悩しっぱなし、屈折 しっぱなし、ヒーロー同士が内ゲバしっぱなしっていうんじゃありがたみもなくなる。ついでに言うと、何でもかんでもいろんなヒーローを無理矢理ツルませる のも飽き飽きしたし、「衝撃のエンディング」も大概にしていただきたい。そんなのマンガ好きだけで勝手にやっててくんねぇかな。それを言ったら、そもそも こうもアメコミばっかりってのからしてどうなの?…って話なんだが。だからトム・ハーディーが出てなきゃ絶対見なかった映画である。そして見に行った本作 は…実は想定していたような映画とはちょっと…いや、かなり違う作品だったのである。

こうすれば

 まず、ぶっ ちゃけ言ってしまうと、本作の導入部分はかなり退屈である。しかも、話の持っていき方が雑だ。正義感はあるが空気を読めないテレビ・レポーターというのが 今回のハーディーの役どころだが、それにしたってあれじゃアホだろ。これといった裏付けもとらず、いきなり取材対象にケンカ腰で無茶な質問をぶつける。そ れで撃沈されても自業自得である。この描き方はない。ハッキリ言ってしまうと、所詮はマンガなんだよなぁ。やはり、マンガばっか読んでるとアタマ悪くなる んじゃないか? それでなくても無理な設定を性急に語るから、その語り口が雑になってしまう。その後も雑さはあちこちで目立って、悪役のドレイクは「いく ら犠牲が出ても構わん」とばかりに人体実験をいきなり始めてしまうが、もうちょっともっともらしい言い訳やバレない工夫ぐらいしろよと言いたくなる。あげ く財団内の女性科学者が主人公エディに内部告発する…ということになるが、それがまたいきなりエディを研究施設に連れて行って中に放り込み、後は野とな れ…という行き当たりばったりぶりである。この内部告発者って自分からバレたがってるのか? そんなこんなで主人公に異変が降り掛かり…という、「スパイ ダーマン」あたりから繰り返し見せられて来たパターンの焼き直し。マンガ原作の映画化作品のダメさが全面的に出ていて、見ていて「あぁ、だからオレはマン ガ映画についていけなくなったんだよなぁ」と実感してしまった。間違いなく近年のマンガ映画化の大氾濫は、ハリウッドの脚本の質を低下させてしまったと思 う。本当にみんな、面倒でも説得力を持たせるためにちゃんと段取りを踏んで一工夫しようという作劇を、まったくしなくなってしまった。こんな作劇がまかり 通ってしまうなら、ちゃんとした脚本づくりなんてバカらしくてやっていられないだろう。この程度のストーリーテリングの映画でバカな観客は喜ぶのだ、わざ わざ手間ヒマかける理由がない。ハリウッド映画がダメになる訳である。ってことは、結局は客の質も低下したってことなんだが…。せっかくトム・ハーディー やミシェル・ウィリアムズなんていい役者を使っているのに、何てもったいないんだ。僕はスクリーンを見ながら、舌打ちをしたい気分を噛み殺していた。

みどころ

 そんな訳で ドロドロした変な物質が主人公に取り憑いて、いきなり超人的パワーを発揮…という何十回何百回見せられたか分からないパターンが始まって、「またかよ」と 僕がウンザリし始めた頃…何ともうダメかと思っていた映画がいきなり息を吹き返してくるから驚いた。主人公の中にヴェノムという別人格が入り込んで、その 声が主人公に話しかけてくる。そして、本人の意とは別にカラダが動き出すというよくある趣向なのだが、ここから映画はいきなりコメディになっていくのだ。 そうそう、それでいいんだよ。どうせマンガなんだから楽しく単純にやりゃいいじゃん。それ以上のモノなんて期待なんかしていない。むろん極論とは分かって いるが、変に屈折アメコミ映画ばかり見せられたら、そうも言いたくなる。で、物語がコメディ化した時点で、お話はどんどん面白くなっていく。簡単に言う と、エディとヴェノムの凸凹コンビによるバディ・ムービーになってくるのだ。何でもヴェノムは「最悪」で禍々しい悪役らしいのだが、ここで見る限りではの び太にとってのドラえもんみたいな存在である。エディが高層ビルを見上げると、「上りたいのか? 言ってくれよ!」とフレンドリーに言ってくるヴェノムは なかなか「話の分かる奴」なのだ。何しろ敵の追っ手からバイクで逃走する場面では、ヴェノムのおかげで間一髪助かるエディが「サンキュー!」と言うと、 ヴェノムの方も「どういたしまして」と思わず言ってしまうアリサマ。ズバリ言って緊張感ゼロ(笑)。で、バディ・ムービーと言えばアメリカ映画の名物であ る。ダメな奴同士が力を合わせて手強い敵を倒す話も、アメリカ映画の十八番である。面白くならない訳がない。実はこの後半部分でも作劇的にはキツイ部分が あって、人類の敵であるはずのエイリアンのヴェノムが、同胞を裏切って地球人の味方をするに至る動機付けが曖昧である。「オマエが気に入ったから」って言 われたって、何だか「少年ジャンプ」連載のマンガ並みの話…って、本作もマンガなのだが(笑)。脚本に関しては、残念ながらそんな弱さがずっとつきまとっ ている。だが、トム・ハーディーの一人芝居によるエディとヴェノムのバディ・ムービーぶりはなかなか楽しい。それを演じるハーディーの至芸も見ものだ。一 人で掛け合いを演じる、一種の落語みたいになっているのである(笑)。そもそも…これってハーディーが「オン・ザ・ハイウェイ/その夜、86分」 (2013)で熱演した、走るクルマの中から電話をかけて全編をしゃべりまくる一人芝居の再現ではないか! あの映画は車内でたった一人、ただあちこちに 電話をかけてしゃべるだけ…の作品なのに、ハーディーの表情豊かな演技で全編に緊張感がみなぎっていた。そんな「オン・ザ・ハイウェイ〜」の応用編が本作 「ヴェノム」なのである。ちゃんとハーディーを起用する理由がある。本作のプロデューサーは目の付け所が並みじゃない。ルーベン・フライシャーなんて「L.A.ギャングストーリー」 (2013)の監督の腕前はいいんだか悪いんだか分からないが、本作はトム・ハーディーの鍛え抜かれた「芸」を堪能するだけでも価値がある。…というか、 むしろ価値はそこにしかない。それ故に、本作は他の凡百のマンガ映画とは一線を画する、映画的な楽しみを獲得できたのである。…ってなことで、お後がよろ しいようで(笑)。

さいごのひとこと

 これは新手の二人羽織だな。





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