「レディガイ」

  The Assignment (Revenger)

 (2018/01/15)



見る前の予想

 厄介な仕事が年末までズレ込み、正月休みは大いに映画を見まくるぞ…と盛り上がっていた昨年大晦日に、インフルエンザで突如ダウン。今年は最初の一週間を、完全に寝込んでつぶしてしまうという最悪の出だしとなってしまった。
 やっとこ映画を見ようかと思った時、まず目に入って来たのはこの名前だ。
 ウォルター・ヒル!
 かつては快作アクション映画の数々で、大いに楽しませてもらったこの名前。ジョン・カーペンターと並ぶ、僕のご贔屓だった時期もあった。だが、最近はめっきりご無沙汰。そもそも、本サイトでは新作を2回しか紹介出来ていない。それでも前作バレット(2012)は何とシルベスター・スタローンと初タッグを組み、久々にちょっと復調の兆しが見えた。そのヒルの新作が、この2018年新春に公開されるというのだ。新作発表の頻度が上がって来たことと相まって、これは良い傾向ではないだろうか?
 主演は…何と初めて女優のミシェル・ロドリゲスを起用。ただ、彼女はアクション一筋の強面女優だから、ウォルター・ヒル作品の主役にはもってこい。ますます期待できる。
 タイトルは「レディガイ」! ん?…何だその「ミスター・レディ」みたいなのは?
 実は、その予感は当たらずも遠からずだった。なぜか女に性転換された男の殺し屋が、自分を変えた連中に復讐していく話。 こりゃどう考えても邪劇に思えるが、そこはそれウォルター・ヒル。クズ映画にはしていないだろうし、少なくともアクション映画としては一級品にしているだ ろう。ロドリゲスだっておかしな映画に出る女優じゃない。それに、女に変えられた男の役となると、ロドリゲスは確かに適役かもしれない(笑)。
 おまけに敵役にはシガニー・ウィーバーと知って、こりゃ見なけりゃ…と決意した。近年のウィーバーは、宇宙人ポール(2011)、キャビン(2012)、レッド・ライト(2012)…などなど、あるジャンルを代表するアイコンのような使われ方をして、大活躍しているのだ。この人が出て来るとなると、ただのアクション映画じゃなさそうだ。
 題材のあまりの突飛さに驚かされながらも、久々のウォルター・ヒル作品にワクワクして劇場に飛び込んだワケである。


あらすじ

 フランク・キッチン(ミシェル・ロドリゲス)は凄腕の殺し屋だった。殺した奴はどいつもクズばかりだったが、殺したことは間違いない。そして、殺しはホメられたことでもない…。
 事の発端は、あの「医者」の弟セバスチャン(エイドリアン・ホフ)を始末したこと。カネの使いも荒く、女の扱いもひどいセバスチャンは、ハッキリ言ってロクでもない男だった。フランクはそのセバスチャンを仕留める時も、いつもと同じく確実に仕損じなし。だが、それが後々あんな結果を生むとは…。
 やがてフランクは、馴染みの客でヤクザの親分オネスト・ジョン(アンソニー・ラパリア)から一週間以上猶予のある依頼を受けることになる。フランクは指 定された中国人経営の安宿に入り、実行の日までじっくりその場に腰を据えることにする。前金も受け取っているから余裕綽々だ。街で拾ったちょっといい女 ジョニー(ケイトリン・ジェラード)と意気投合。ジョニーからは連絡先のメモももらうが、仕事の後には街を出て行くので無駄。これはちょっと残念だ。
 そんな仕事の決行を待っていたある夜、フランクが待機していた部屋にオネスト・ジョンと手下たちがやって来た。何と、突然の計画変更だと言うのだ。不審に思ったフランクに、オネスト・ジョンの手下が襲いかかる。ひとりは難なくかわしたが、不意を突かれて結局捕らえられてしまった。意識が遠のくフランクの耳に、オネスト・ジョンのつぶやきがこびりつく。
 「オマエは敵を作り過ぎたんだよ」…。
 一方、ここはとある病院の面会室。そこに屈強な看護人を伴って、精神科医のガレン医師(トニー・シャルーブ)が入って来る。この日の面会室は「貸し切り」。拘束服に身を固められている、ひとりの女が座っているだけだった。
 その女は拘束服をつけていても背筋をピンと伸ばし、どこか他者を見下して威圧するような気配があった。女の名前はレイチェル・ジェーン(シガーニー・ ウィーバー)。彼女は「ある事件」の被告であり、一応の回復を見た段階で刑務所に移送される手はずになっていた。ここでは移送までの間に、ガレン医師によ る尋問を行おうという訳だ。
 だが、レイチェルはただの「患者」ではない。整形手術の権威であり、非合法的な治療を行って来たことから医師免許を剥奪された後も、その腕を存分に振るい続けて来た。むしろ単純に「医師」というだけなら、ガレン医師よりもずっと「格上」。少なくとも、レイチェルはそう思っているフシがあった。
 ここでガレンが「尋問」を行うことになった理由は、事件の特殊性にある。ある場所の秘密の手術室で、激しい銃撃戦があった。数人の男たちとレイチェルの助手ベッカー(ケン・カージンガー)が射殺され、レイチェルも銃撃されて負傷していた。問題は、ここで何らかの「手術」が行われようとしていたらしいことだ。レイチェルは、ここで一体何をしようとしていたのか?
 傲慢な態度を崩さないレイチェルが冷ややかに見下しながらガレン医師に語ったのは、ある人物の存在であった。その名を、フランク・キッチンという…。


見た後での感想

 ここで延々とウォルター・ヒル作品への想いを語ってもいいが、それはすでに「バレット」感想文でやっているので、そっちを読んでいただきたい。
 「ザ・ドライバー」(1978)に始まる僕とウォルター・ヒルの付き合いの最初を彩っていたのは、割と渋く地味な作品群。それが「48時間」(1982)とストリート・オブ・ファイヤー(1984)という2大作で一気にスパーク。僕のみならず、映画ファンなら誰しもがこの2作こそウォルター・ヒルのピークであると認めるだろう。
 だが、そのピークはあまりに短かった。この後、徐々に下降線を下っていく彼のフィルモグラフィーには、どんなに贔屓目に見てもイマイチな作品が増えていく。そんなことをしているうちに作品発表の機会も減り、その名は「エイリアン」(1979)シリーズのプロデューサーとしてしか聞かなくなってしまった。
 本サイト初登場のデッドロック(2002)からして久々な登場だったが、それがまたウェズリー・スナイプス主演映画というのが今となっては悲しい。かくしてその次の「バレット」までには10年という歳月が流れることになるのだった。
 それから比べれば、本作の登場は早かった。前作に復調の兆しを嗅ぎ取った僕としては、イケイケの快進撃を期待したいところである。
 「ワイルド・スピード」第1作(2001)からシリーズ最新作ICE BREAK(2017)でも頑張っているアクション女優ミシェル・ロドリゲスも、バイオハザード(2002)、S.W.A.T.(2003)、アバター(2009)、世界侵略:ロサンゼルス決戦(2011)…とこれだけ話題作ヒット作に出演し続けているのに、本作が一枚看板の主演2作目とはウソのよう。ふてぶてしいツラ構えといいウォルター・ヒルとの相性もバッチリなはずだから、きっと面白い作品に仕上がっているはず。今回のヘンテコな題材も、女優ロドリゲスを「男を描くウォルター・ヒル」の世界に引きずり込むための「テコ」なのだろう。
 唯一気になる点といえば、前作を面白い作品に仕立てた立役者のひとり、プロデューサーのジョエル・シルバーが今回はいないこと…ぐらいだろうか。あとはバッチリ、磐石の体制のはず。
 ところが…どうやら、その唯一の不安が的中してしまったようなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

こ こからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

パラレル話法によって生まれた誤算

 まずは、何から言えばいいのだろうか。本作を見ていて、まず感じたのは「戸惑い」である。
 これまで僕にとってウォルター・ヒルという人は、男性映画の監督さんだった。キュッと引き締まったアクション映画の名手で ある。だから、アクション派のミシェル・ロドリゲスを使って硬派なアクション映画を作るだろうという予想は簡単についた。主役が女優という点は今までと違 うものの、ロドリゲスという人がああいう人だから、それほど今までの作品と印象は変わらないだろうと踏んでいた。性転換…云々は、単に男性映画のヒルが女優主演の映画を作るための方便みたいなものだろうと思っていたのだ。
 だが、その予想ははずれていた。実は本作での「性転換手術」は、どうやら僕が思っていた以上に作り手にとって重要性があったらしいのである。
 そのせいか、お話はロドリゲスがバンバン暴れまくる痛快なお話になっていかない。映画はロドリゲスが「女」にさせられて復讐に転じる「本筋」の他に、なぜか精神病院でシガニー・ウィーバーが尋問を受けているエピソードが挟まって来る。この2本の話が並行してパラレルで語られていくのだ。だから、お話がスムースに進まない。いかにもアクション映画らしく展開しそうなロドリゲスのエピソードは途中でブツ切りされて、すぐに精神病院で座って会話しているシガニー・ウィーバーのエピソードに変わってしまうのである。これは何とも流れが悪い。
 最初は精神病院での医師同士の腹の探り合いみたいな場面が延々続くので、見ているうちにある別の作品を思い出してしまった。そう、これまたかつてのご贔屓監督の久々の新作、ジョン・カーペンターザ・ウォード/監禁病棟(2010)である。で、今回はこの連想がまた当たらずとも遠からずだったから始末が悪い。「精神病院」という要素だけでなく、どうやら作り手の往年の作品とはかなり勝手が違うらしい…という点でも共通していたのだ。
 とにかくこのパラレル構造のせいで、本作は極めて流れが悪い。しかも、本作の「語り手」が混乱してしまうという弊害も出て来る。実はこちらの方がもっとマズい。
 本作はロドリゲスの独白によって話が始まり、基本的には彼女の独白で物語が進行するハードボイルド映画のスタイルになっている。これは「ジャンル映画」として何ら不思議はないし、本作のような犯罪が絡む映画なら自然なことでもある。
 ところがその物語が寸断され、途中にシガニー・ウィーバーの尋問が挟まってしまう。しかもこの尋問エピソードは、大体ウィーバーの語りで場面転換するスタイルをとっている。ところがウィーバーの語りから場面が転換すると、ロドリゲスの独白で進行する本筋エピソードが始まってしまう。だから、話法も語り手も混乱してしまうのだ。これはちょっとあり得ない計算違いだろう。しかも、脚本を書いているのはウォルター・ヒル自身。ヒルは元々が脚本家上がりだから、実は構成には一番敏感になるべき人物のはずだ。なぜ、こんな初歩的なミスを犯したのか分からない。
 もちろんウィーバーの尋問エピソードをあれだけ引っ張った訳は、ラストに何らかの「オチ」を見せたかったからである。僕も途中からはそれがかなり気になっていた。だが、それもあんな程度の「オチ」じゃまったく納得出来ない。全体の流れをあれほど寸断するほどの「オチ」じゃないのだ。
 本作の上映時間は96分。本来なら引き締まったコンパクトな映画としていい感じに仕上がっているべき時間である。ところが本作はこのコンパクトな上映時間にも関わらず、やたらに体感時間が長い。尋問エピソードの会話場面が冗長なために、ただただダラダラ長く感じられるのだ。
 したがって、お話の中身は至って薄い。お目当てのロドリゲスのアクションも大したことはない。これだったら彼女を全編暴れさせてくれていれば…と悔やまれてならない。ただドンパチやってくれた方がナンボかよかった。
 また、「性転換」の設定も、ブラックユーモア的にカラッと仕上げてくれた方がスピーディーな展開になったと思う。最初にロドリゲスが「ヒゲの男装」姿で出てきた時には、何だかドリフのコント
(笑)みたいなメイクだったので「そっち」の方向でいくのかと思ってしまった。だが、ウォルター・ヒルはこれをあくまでシリアスに描く。どこまでも「マジ」である。途中何か所かにコミック風のイラストが挟まるので、そういうタッチでいくのかと思ったがそうでもない。本当にナゾの展開なのである。

本作の原点は「ジョニー・ハンサム」にあり

 そういうワケで、いろいろと残念な結果となってしまった本作。「バレット」で復活の兆しを感じさせていたウォルター・ヒルだったが、今回は完全に不発。しかも脚本家上がりとは思えない構成上のミスも犯しており、正直言って「現場カン」が失われてしまったのではないかと思わざるを得ない。
 ただし、今回の尋問場面のバランスの悪さはちょっと異様な感じすらあり、そこに「大物」シガニー・ウィーバーを持って来ているだけにその異様さは突出している。単なる誤算とは思えない。まるで「これ」をやりたいがために本作を作ったような印象すらある。「性転換」は女優を自らの男性アクションの世界に引きずり込むための「手段」かと思っていたのだが、どうやら「それ」を描くことの方が本作の「目的」だったようなのだ。
 そこで思い出したのが、ウォルター・ヒルがかつてミッキー・ローク主演で撮った異色篇「ジョニー・ハンサム」(1989)。
 醜い顔の犯罪者が手術によって二枚目になって新たな人生を歩み出すが…というお話は、「醜い男が美男になったらミッキー・ローク」という趣向が冗談にしか思えず、公開当時はまだ人気絶頂だったナルシストのロークが調子こいているようにしか見えなかった。おまけにウォルター・ヒル自身もちょうど凋落期を迎えつつあったために、完全に「失敗作」の烙印を押されてしまった。僕自身「何じゃこりゃ?」と呆れて席を立った記憶がある。
 だが、おそらく本作の原点は、この「ジョニー・ハンサム」にあるのではないか?
 ひょっとするとウォルター・ヒルには、人間の「外見」が100パーセント変わった時に中身はどうなるのか…っ てことに、何らかの興味やオブセッションがあるのかもしれない。本作は残念ながらウォルター・ヒルの腕がモーロクしちゃったせいかトンデモ映画になっ ちゃったが、ひょっとしたら「ジョニー・ハンサム」を見れば、今回ヒルがやりたかったことの片鱗なりとも掴めるのではないか。今見たら、「ジョニー・ハンサム」は悪い映画じゃないのではないか?
 本作を見たことで、僕は急に「ジョニー・ハンサム」がもう一回見たくなってきたのである。

 

 

 

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