「フライト・クルー」

   (Flight Crew/The Crew)

 (2017/03/13)



見る前の予想

 渋谷のとある映画館では、毎年劇場未公開作を束にして連続上映するというイベントを行っている。その大半はホラー、SF、アクションのB級作品が主になるのだが、中には思わぬ佳作や隠れた話題作が混じっていてなかなか侮れない。
 仮に佳作や話題作でなくB級作品であっても、僕はそもそもその手のジャンルがキライじゃない。しかも作品の国籍もアメリカだけでなく、ヨーロッパ、中 国、韓国、ロシア…と世界各国の作品が並ぶから凄い。僕も映画ばっかり見ているほど暇じゃないからそうそうこの上映だけを目当てに劇場に通うというワケに もいかないが、それでもこれらのうち1〜2本は必ず見ようと心がけているのだ。
 そんな今年…このイベントのチラシを劇場で入手した際に、これだけは絶対に見ようと心に誓った作品が一本あった。それが本作「フライト・クルー」だ。
 一言で言えばロシア製パニック映画。ロシアのパニック映画と言えば、何年か前にメトロ42(2013)という作品を見たことがあるが、本作は何と航空パニック映画。となれば、飛行機好きの僕としては見ない訳にはいかない。
 しかも、僕には本作を見なければならない理由がもうひとつあった。実はこの「フライト・クルー」、旧ソ連時代に作られた航空パニック映画の元祖エア・パニック'81/地震空港・SOS大型旅客機に墜落の危機(1980)のリメイクだというのだ。
 そんな題名を挙げられても、何のことやら大半の人々には分からないだろう。そもそも、この映画は日本では劇場公開されていない。だが、僕はこの映画と深い縁があって、たった一回テレビ放映された時にその作品を見ているのだ。その件については「エア・パニック'81」感想文をお読みいただきたいのだが、ロシアの航空パニック映画…と聞いてすぐに反応したのもその作品があったからだ。
 こうなると、どうしたって見たい。死んだって見たい。
 僕は仕事や雑用の予定を放り投げて、万難を排して劇場へと駆け込んだのだった。


あらすじ

 ここは、とある地方の寂れた空軍基地。貨物を運ぶトレーラーに腰を降ろして、チンタラやっているのは一兵卒のアレクセイ・グシチン(ダニーラ・コズロフスキー)。この日は水害地域への救援物資として、子供のオモチャを貨物機で運ぶ任務に当たることになっていた。
 そこにいきなり軍のお偉いさんが駆け込んで来る。何でも明日、知り合いの結婚式に出席するとかで、そのプレゼントとしてデカいリボンをつけた2台のクル マも運ぶつもりらしい。どう見ても重量超過なのだが、お偉いさんはゴリ押し。そうなると、アレクセイも機長も文句は言えない。
 こうして出発した貨物機だが、たちまち空の雲行きが怪しくなる。嵐になって機体は激しく揺れる。さすがに重量オーバーが響いてくる。すると例のお偉いさ んは「オモチャを捨てればいいだろ!」と無茶を言ってくるから困ったものだ。そんな無理難題に、アレクセイは怒りを噛み殺して貨物室へと向かう。そして機 長命令と偽り、貨物室から例のクルマを下界へ放り出した…。
 その効果はテキメンで機体はバランスを建て直したが…アレクセイは軍から追放処分。機長は「親父さんに頼ったら」と忠告するが、厳格な自分の父親に頼るなんてまっぴら御免。アレクセイには頑になるだけの理由があったのだ…。
 さて、それからしばらくして…モスクワ・シェレメチェヴォ空港近くの航空会社施設で、パイロットの卵たちの採用試験が行われているところ。シミュレー ターによる実技試験だったが、教官である機長のレオニード・ツィンチェンコ(ウラジミール・マシコフ)は厳しく、新人を情け容赦なくバッサバッサと落とし ていく。
 そんな試験がそろそろ終わろうとした時、慌てて会場に駆けつけてきたのが例のアレクセイ。当然、厳格なレオニードの心証は良くない。それでなくても仏頂 面のレオニードは、シミュレーターに乗り込んでからも不機嫌そうな様子を隠そうともしなかった。だが、アレクセイはまったく空気を読んでいない。離陸も加 速もいささか強引だが、この男はマイペース。元々、空軍も空が好きだから入った、根っから操縦が好きな男。だからその操縦ぶりは少々強引だが、腕には自信 があった。それがまずかった。
 レオニードはアレクセイの自信たっぷりな態度が気に入らないらしく、シミュレーターの条件をどんどん過酷にする。悪天候、片方のエンジン停止…次々押し 寄せる難問にも難なく対応するアレクセイ。だが、最後の着陸であえなく失敗。ヘタすれば大事故だ。これはさすがにミスったと、アレクセイも尻尾を巻いて退 散するしかなかった。
 そんなアレクセイが施設を出たところで、一人の美女が駐車したクルマを出すのに苦労しているのを見かける。そうくれば、助けないワケにいかないのがアレ クセイのいいところ。たちまち彼女のクルマを出してやり、帰りの足もゲット。だがその車内で、彼女アレクサンドラ・クズミナ(アグネ・グルダイト)も旅客 機のパイロットと聞いて、アレクセイはビックリだ。
 一方、例の試験会場では、レオニードと他の教官たちが揉めていた。レオニードがバッサリ落としたアレクセイについて、他の教官たちは彼の腕前を高く評価 したのだ。「そもそも君はあれほど厳しい条件で無事に着陸できるのか?」と他の教官から挑発されたレオニードは、自らシミュレーターに乗り込んでアレクセ イと同じ条件にトライ。だが、結局はアレクセイと同じところでミスってしまうではないか。面目丸つぶれである。
 ちょうどその頃、アレクサンドラのクルマに乗っていたアレクセイは、ついつい悪いクセで「女のパイロット」とナメた発言をしてしまい、少々険悪な雰囲気 になりかかっていた。それを救ったのは、アレクセイの携帯にかかってきた一本の電話。何と試験に落ちたとばかり思っていたら、一転して合格となったではな いか! 結果よければすべて良しである。
 こうして晴れてパイロット候補生となったアレクセイだが、空港で出迎えたレオニードは相変わらずの冷ややかさ。ヘマをやらかしたらいつでも落としてや る…と厳しい態度だ。それでもめげないアレクセイは、初フライトに臨み他のクルーたちに紹介される。キレイどころのCAのみなさんに思わずニヤけてしまう アレクセイだったが、そこで「女の中に男がひとり」状態のパーサー、アンドレイ(セルゲイ・ケンポ)をちょっとからかってしまったのはマズかった。しか も、パイロット好きのチーフCAヴィカ(カテリーナ・シェピツァ)は、最初からアレクセイにグイグイ来る。ヴィカに好意を持ちながらもつれなくされている アンドレイは、当然アレクセイを良くは思わなかった。
 そんなこんなで、いよいよ迎えた初フライト。レオニードに操縦桿を任され、ご機嫌のアレクセイはいつもの調子で派手に離陸。「ワォ!」と歓声を上げてご 満悦だが、客室では急な離陸に乗客がビビっていたことなど知る由もない。それどころか、フライト直後には例のアレクサンドラを追って口説く気マンマン。だ が、そこをレオニードに呼び止められ、「旅客機のパイロットたる者あんな離陸では…」とお説教をくらう。結局、アレクサンドラは呼び止められずに去って 行っちゃうわ、お説教はまったく耳に入らないわ…でトホホなアレクセイだった。
 そんな頑固一徹のレオニードは、自宅に戻っても同様のガチガチぶり。一人息子のヴァレラ(セルゲイ・ロマノヴィッチ)がろくすっぽ勉強もせずカラダづく りばかりして、おまけにタトゥーなんぞ彫り始めたのに怒り心頭。だが、レオニードにもこうなった責任はある。仕事にかまけて家庭を放りっぱなし、妻イリー ナ(エレナ・ヤコブレワ)が話しかけても心ここにあらずだ。ヴァレラはそんな父親を見透かして、反抗していたのである。
 ところがレオニードは、そのあたりがサッパリ分かっていない。英語の出来る会社の女事務員に頼み込んで息子の家庭教師をやらせるが、結局は息子はこの年増女と別の「個人教授」に没頭する始末。親父の怒りはまったくの空回りだ。
 そんなレオニードが家庭のことで苦虫かみつぶしている頃、アレクセイはいつの間にかアレクサンドラとしっぽり「イイ仲」になっていた。だが、好事魔多し。「同業」の男女がくっついた場合、長持ちさせるのはなかなか難しい。
 そんなある日のこと、レオニードとアレクセイはある特殊なフライトに就くことになる。それはアフリカの某国の空港に赴き、政変が起こったその国から無事 に外国人を救出するフライトだった。空港は軍に制圧されて、殺到する人々を押さえ付けていた。一触即発な状況に、アレクセイとレオニードも緊張。そんな 中、ようやく外国人のみが出国を許されて続々機内に搭乗する。だがそんな最中も、避難民たちはそれを横目で見ているしかない。こうして出発となって飛行機 が滑走路を動き出した時、ついに避難民たちが兵士を押し返して空港内にどんどん入り込んだ。それを見て、「彼らを乗せてやりましょう!」と懇願するアレク セイ。だが、レオニードは「そんなことは命じられていない」と拒絶。乱入した避難民は軍隊の機銃掃射でバタバタと倒れ、飛行機は押し掛ける避難民を空港に 残して離陸。後にはやりきれないアレクセイの思いが残った。
 これがどうにもしこりになったのか、せっかくのアレクサンドラとの二人きりのお楽しみでもアレクセイは愚痴りまくり。そんなアレクセイに愛想を尽かした アレクサンドラは、怒って彼のもとから去ってしまった。結局、それから二人はソッポを向いたまま。レオニードも、そんなギクシャクする二人の様子を察して いた。
 うまくいかない時はそんなもの。ある日のフライトで、機内でタバコを吸おうとする男がいた。パーサーのアンドレイが止めても言うことを聞かない。この 男、航空会社の上にも顔のきく「大物」だったのだ。そんな客室の様子を見たアレクセイは、コックピットを飛び出す。アレクセイは「大物」のタバコを取り上 げ、「大物」とその取り巻きと大揉めする事態となった。
 結局、これが原因でアレクセイは現場をはずされ、レオニードも謹慎。だが、アレクセイの解雇を提案する会社の上役に、レオニードは断固として抗議するではないか。「アレクセイは正しい。彼は辞めさせません!」
 レオニードはそれまでの仕事第一、会社の命令第一だった自分に、深く後悔していたのだ。レオニードは定期便業務からはずれてチャーター便の機長を務める ことになっていたが、そこに副操縦士としてアレクセイを、さらにもう一人の副操縦士としてアレクサンドラを起用することにする。さらに自宅に戻ったレオ ニードは、なぜか息子のヴァレラをこのフライトに同行させることにした。そんな夫の豹変に、妻のイリーナもビックリだ。
 こうしてチャーター機のコックピットに集合したレオニード、アレクセイとアレクサンドラ。アレクセイはレオニードが自分を選んだことに驚き、アレクサンドラともども自分たちが同乗することになったのに驚いた。
 そんな各人の思いを乗せて、チャーター機は離陸。ヴァレラも客室乗務員たちと談笑したりして、めったにない体験を大いに楽しんでいた。
 そんな折りもおり、チャーター機のクルーたちに連絡が入る。孤島ワンフーの火山が噴火して島にいる人々の安全が脅かされたため、チャーター機で救出に迎 えないか…という提案だった。機長のレオニードは、アレクセイとアレクサンドラに意見を求める。複雑な心境だったアレクセイも、この話には迷わず即答し た。
 「行きましょう!」
 こうしてクルーたちを乗せたチャーター機は、夜の闇に包まれた孤島ワンフーの空港へと着陸。しかし、それが彼らにとっての地獄の一丁目だったことに、まだクルーたちは気づいていなかった…。


見た後での感想

 先にも述べたように、本作はソ連初のパニック映画「エア・パニック'81」のリメイクとおぼしき作品である。その内容については今回改めてDVDを見直して書いた同作感想文をご参照いただきたいが、正直言って今日の映画ファンの目から見て決して感心できる出来映えではない。当時のソ連だから大ヒットしたものの、今の我々が見ればぶっちゃけ失笑・苦笑するしかない作品である。
 もちろん当時の技術とは比べ物にならないほどSFXが進歩しているだろうし、ソ連崩壊後のロシアでは映画だってセンスが良くなっているはず。本作だって 前作ほどのグダグダにはなっていないだろう。しかし前述の「メトロ42」などを見ると、それもかなり怪しくなってくる。「メトロ42」はかなり昔よりはマ シになっているものの、まだまだ苦しい点も少なくなかった。テクノロジーなどの面はそれなりなのだが、演出や脚本が追いついていないのだ。娯楽映画としての語り口が、何とも野暮ったいのである。
 だから今回の作品も、僕は正直言って大甘な目で見てやろうと思っていたし、失笑して楽しむのも手か…と思っていた。あくまで珍品好きとしての好奇心で見る気持ちが強かった訳だ。
 ただ、ひとつだけ本作にアドバンテージがあるとしたら、プロデューサーのひとりとしてニキータ・ミハルコフが参加しているということだろうか。なぜこんな超大物が本作に参加しているのかは知らないが、ソ連時代から映画の面白さを熟知しているミハルコフなら、本作だって決して愚作にはしないはず。
 ただそうは思いながらも、一方ではチャン・イーモウ監督作品ながら無惨な結果に終わった珍品「ハイジャック/台湾海峡緊急指令」(1988)が脳裏をよぎったりして(笑)、不安は完全にぬぐい去れない。まぁ、余談を許さない状況である。おっと、こちらも航空パニック映画かよ…。
 また、どう見てもリメイクと思われる本作だが、監督のニコライ・レベデフがインタビューで「これはリメイクではない」と語っているのが気になる。しかもちょっと調べてみたら、ロシアではデンゼル・ワシントン主演、ロバート・ゼメキス監督作品のアメリカ映画フライト(2012)も、同じロシア語題名(「Ekipazh/エキパーシ」と 読むんだそうである)で呼んでいるらしい。別にリメイクでもそうでなくても、どうでもいいっちゃいいんだが…。本作を見る最大のモチベーションがそこにあ る以上、やはり気にならないワケがない。こりゃあ、単に航空アクション映画という共通項があるだけで、まったく関係のない作品なのかなぁ…。
 そんなこんなで、いろいろな思いを抱きながら作品を見ることになったワケだが…まずはズバリと感想を言ってしまおう。
 面白い! これは掛け値なし!
 別にロシア映画に関心があるとか、航空ファンだからとか、そんなことは一切関係ない。贔屓目で見ているわけでもない。映画が普通に好きだったなら…いや、別に映画好きじゃなかったとしても、この映画は面白いんじゃないか。いや、本当に面白い。真面目に普通に、娯楽映画として面白いのである。

リメイクにしてバージョンアップ版

 まず本作を見る上で注目したいのは、主役のパイロット=アレクセイを演じる男優である。
 ダニーラ・コズロフスキーというこの男、出てきた時からイケメンで、一目見て明らかに主役のスターだなと分かる。いちいちカッコよく、見ていて抜群の安定感がある。まぁ、主役として当然と言えば当然だ。
 ところがアメリカ映画以外を見ていると、この「当たり前」なことが意外に「当たり前」じゃない。こう言っちゃ語弊があるが、韓国のシュリ(1999)を初めて見た時、ハン・ソッキュに「何でこの役者が主役なんだろう?」と違和感を感じたのは僕だけじゃないだろう。最近ではノルウェーのパニック映画ザ・ウェイブ(2015) を見た時に、およそヒーローらしからぬ役者が主演で大活躍していたのに、大いに戸惑った記憶がある。ことほどさように、あまり馴染みのない外国映画では、 およそヒーローらしからぬ役者が堂々とヒーローを演じている場合がかなり多い。そもそも元祖「エア・パニック'81」からして、主演級は僕らから見るとパッとしない連中ばっかりなのだ。本作もその恐れは多分にあった。
 ところが本作は、ちゃんとトム・クルーズ、ブラッド・ピットあたりの雰囲気を漂わせている役者が出てくる(笑)。文句なくスターの輝きを持った役者が出て来るので、娯楽映画として安心して見ていられるのである。その点で、本作はエンターテインメントとして王道だ。
 ついでに言うと、前述したように監督のニコライ・レベデフは本作を「エア・パニック'81」のリメイクではない…と明言しているが、それは真っ赤なウソである。本作は「エア・パニック'81」ありきの作品で、まったく無関係な作品ではあり得ない。まず、その構成からして、ハッキリと「エア・パニック'81」を踏襲しているのだ。
 これについても詳しくは「エア・パニック'81」感想文をご参照いただいたいが、前半は飛行機のクルーたちの日常と彼ら一人ひとりの私生活、後半はいきなりの大災害〜航空パニックというカタチをとっていて、構成は前作と完全に丸かぶりである。
 前半部分については、前作「エア・パニック'81」はとにかくダラダラとクルーの私生活ドラマが長くて、見ていて相当退屈した記 憶がある。ところが本作は、かなりシェイプアップされてすこぶるテンポがいい。本作では旅客機のコックピットから航空機関士がいなくなって基本2人運航の 時代になっているため、チャーター機フライトでなぜか副操縦士を2名常務させているという設定にしてメイン・キャストを補充している。だが、そこに関わる人間関係は かなり整理されていて、余計な枝葉が伐採されている。さらに男女の恋模様は前作のパイロットとCAという関係ではなく、男性パイロット対女性パイロットという関係に変更したのが今風というところか。つまり、前作を踏襲しながら微妙に現代に合わせてアップデートしているのである。このあたりがなかなかうまい設定だ。
 見せ場となる後半についても、前作は高地にある切り立った崖っぷちの空港からの脱出に対して、本作は海の中の孤島で火山島からの脱出という設定。どちらも火山と地震による災害という点が共通項だ。正直言って前作の空港はあり得ない設定(断崖絶壁の高山に空港を作るなんて無茶すぎる)だから、本作はそれよりは現実的になっていてリアルに改良されているわけだ。さらに空港からの脱出の後にも飛行中のサスペンスがあることは、前作・本作も同様。そしてこちらも本作の方が手が込んでいて、よりリアルで強力な見せ場にあっている。
 つまり構成を見る限りでは少なからず前作を踏襲していて、無関係とは思えない。しかも今風に改良したり設定を自然なモノに変えたりして、見せ場を強力に増量したりしているのである。
 だが、何より本作が「エア・パニック'81」のリメイクである証拠は、実はキャスティングにあった。
 後半の飛行中の見せ場と並行して、モスクワでの対策本部での模様がカットバックされる。航空界の重鎮や専門家たちが緊急に集まって議論をしているのだ が、そこに一際目立つ貫禄たっぷりの初老の女性が参加しているのだ。どうも妙に目立つな…と思って後で調べてみたら、何とこの女性…「エア・パニック'81」のヒロインで あるCAタマーラを演じたアレクサンドラ・ヤコヴレワという女優さんではないか! おまけに役名も同じタマーラ。考えようによっては「エア・パニック'81」でのタマーラがその後出世したという考え方もできるワケで、そういう意味ではハリウッド本家本元の「エアポート」シリーズにおけるジョー・パトローニ役ジョージ・ケネディを彷彿とさせる役どころでもある。いやぁ、これはスッカリ嬉しくなった! 本作の作り手は、ハリウッド映画やパニック映画の作り方が分かってる。このあたり、欧米映画好きでオスカーまで取っているニキータ・ミハルコフらしい目配りじゃないだろうか。
 だから本作が「エア・パニック'81」のリメイクじゃない…なんてタワゴトである。これは間違いなく、ソ連初のパニック映画の正真正銘、正統な直系の後継作品。文字通り「エア・パニック2016」とでも命名すべき作品なのである。




 

 

 

 


 

 

こ こからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 


かつてのハリウッド映画の良い部分を貪欲に消化

 先に本作を、前作「エア・パニック'81」を踏襲しながらアップデートした作品…と評したが、それはすべての面で言える。
 それが一番分かりやすいのは、何と言っても火山島ワンフーにおけるパニック場面だ ろう。噴火と地震で避難民が押し寄せている空港は、すでに火災も発生していて地獄絵図。そこにまたまた地震発生でターミナルビルが炎上、崩壊。駐機してい た飛行機がターミナルビルに突っ込で爆発…と、見せ場がつるべ打ちである。このあたり、そっくりそのまま「エア・パニック'81」に同じような場面が出て 来るが、こちらの方がより盛大かつ派手。かなり大規模な原寸大セットを、実際に炎上させたり爆破したりしている。しかも、SFX技術が上がっているからリアルさが違う
 今回はこの火山島ワンフーの場面に、主役のパイロット=アレクセイとパーサーのアンドレイ、さらに機長レオニードの不良息子ヴァレラたちが2台のクルマに分乗しての、島の避難民救出作戦という趣向がプラス。途中で火山の溶岩流出に遭遇し、あわや一同が危険にさらされるサスペンス・アクションとなる。いきなりトミー・リー・ジョーンズ主演のハリウッド製火山パニック映画「ボルケーノ」(1997)みたいな趣向が出て来るから、二度美味しい展開なのだ。
 特に本作の溶岩は、「ボルケーノ」のそれと比べてもリアルで怖い。前述の避難民救出作戦の場面では、山道の途中で立ち往生したクルマに溶岩が直撃。そこ から人々が必死の脱出を図る見せ場がある。これがなかなかヒヤヒヤさせられるのだ。僕は「ボルケーノ」の地下鉄場面に出て来る溶岩流の中に「仁王立ち」したオッサンの姿がトラウマになっているので、この場面はマジで怖かった。絵柄としても実にリアルでイヤ〜な感じだ。
 さらに溶岩は、離陸しようとする旅客機にも迫る。滑走路の前方は炎で塞がれて、後方からは溶岩流が押し寄せるという設定。そこを何とかギリギリで離陸に成功…というお約束の見せ場ではあるのだが、本作ではかなりヒヤヒヤする、まさに手に汗握る場面になっているのだ。このあたりの場面では、特殊効果も演出もなかなかうまい。
 さらに前作「エア・パニック'81」も飛行機の外に出て行くハラハラ場面でハリウッド製「エアポート'75」(1974) を連想させていたが、本作では貨物機からロープを張って旅客機へ乗客移動を試みるという、より一層「エアポート'75」に近い設定…しかも「エアポート」 よりインパクトが強く増量した見せ場…になっているのが凄い。無茶な設定なのは前作も本作も同様なのだろうが、本作は映像と演出の力で大ウソ話を堂々と見 せきってしまう。馬力のあるアクション演出にはビックリだ。
 しかも前半の乗員たちのドラマ部分についてもスッキリ交通整理されているだけでなく、主人公アレクセイとその父、さらに機長レオニードとそのグレかかった息子…の二組の「父子」のドラマにちゃんとまとまっていくから見事。さらにドラマが進むにつれて、アレクセイとレオニードとの確執がお互いの信頼に変わっていったり、ちょっと線が細い男と見られていたパーサーのアンドレイが献身的大活躍で男を上げたり…と、見ていて
思わずアガる趣向が連発。アクション場面もそうなのだが、ドラマの描き方は前作から比べて格段の洗練ぶり。もはや完全に比べ物にならない。それどころか、ハリウッド製娯楽映画と比べてもまったく遜色がないのである。僕はこれを冗談で言ってはいない。
 出演者に少し言及すると…先にも言及した主人公アレクセイ役ダニーラ・コズロフスキーは、何とすでに「ヴァンパイア・アカデミー」(2014)という作品でハリウッド映画経験済み。対して機長レオニード役のウラジミール・マシコフも、エネミー・ライン(2001)、ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル(2011)… と渡米はしていないまでもハリウッド映画出演を重ねている。そしてプロデュースには前述のミハルコフが参加…というワケで、この作品の関係者にはアメリカ映画を通過してきた人たちが多い。その作風に多分にハリウッド映画への傾倒が感じられても、何ら不思議はないだろう。
 残念ながら肝心のニコライ・レベデフ監督はどんな人物か分からないが、すでに過去の「Legenda No. 17」(2013)という作品で主演のコズロフスキーとタッグを組んでいるらしいので両者の息はピッタリ。ドラマの描き方からアクション演出までなかなかの手練と見た。
 それにしても、本作の主役アレクセイがシステムや管理からハミ出す反抗的キャラクターで、それを「カッコいい」とロシア映画が描いているのが面白い。こういうのは、洋の東西を問わないもんなのかねぇ。唯一惜しい点があると言えば、せっかく女パイロットというオイシイ設定を作っているのに、ヒロインのアレクサンドラに操縦の見せ場がなかったこと。何とか彼女にカッコいい見せ場を作ってもらいたかった。それ以外は申し分のない出来映えだ。
 ともかく本作を冷やかしで見てみたら、たぶん誰でもビックリするのではないか。僕はパニック映画を見て本当にハラハラしたのは久しぶりのことだ。本家ハ リウッド映画でも、ここまでサスペンスを味あわせてくれる作品はそんなにない。しかも、ドラマづくりの面でも優れている。今や老舗のハリウッドもネタ不足 や人材不足、特殊効果への過度な依存やアメコミ映画の氾濫などでどんどん劣化の一途を辿っているが、ハッキリ言って本作の出来映えには敵わないのではないか。本作はかつてハリウッド映画にあった良い部分を貪欲に消化して、ガッチリと面白い映画づくりを実現している。
 ここまでホメ言葉を連発しているが、これらの言葉は贔屓目で言っているワケではない。本当に掛け値なしでそうだから言っているのだ。実際、見ていてもシラッと醒める瞬間が一瞬もない。これは娯楽映画として本当に大変なことだと思う。
 なお、本作は本国ではIMAX 3Dでの上映だったらしい。普通の上映で見てもこれだけ面白かったんだから、IMAX 3Dで見たらさぞかし迫力があっただろう。これは本当に残念だ。


本作に出て来る飛行機について

 ここで最後に、飛行機好きの方々へのご紹介を少し。もっとも僕も飛行機マニアではないので、それほどのことは申し上げられないのだが…。
 本作で主に活躍するのは、どうやらロシア製双発中距離ジェット機ツポレフTu-204…中でもその最新鋭バージョンであるTu-204SMであるようだ。この飛行機は元々が欧米並みにグラスコックピット(速度・高度などの情報をアナログ計器でなくブラウン管や液晶によるディスプレイで表示するコックピット)で設計されているらしいが、特にこのTu-204SMでは操縦システムはすべて英語表記と なっているとのこと。本作の画面上でもそれは確認できる。コックピット内は実にカッコ良く撮られていて、本作を見ている限りでは欧米のボーイングやエアバ スの旅客機と見劣りしないように見える。しかも左右両方のエンジンに火が入っても飛べるという、素晴らしい性能もアピール。ロシアとしては、本作でこの最 新鋭機Tu-204SMを大々的に売り出したいのだろう。実際のTu-204SMはどうか分からないが、この飛行機のキャンペーン用映画としても、本作は実によく出来ているのだ。
 また、冒頭に主人公が乗る空軍の貨物機は、ウクライナのアントノフ設計局が開発した4発ターボプロップ輸送機アントノフAn-12。映画の後半で機長のレオニードと女性パイロットのアレクサンドラが乗っている貨物機も同じ機種だと思われるが、こちらは確認できなかった。先に述べたように、さすがに僕もそこまで航空マニアではないので面目ない。
 ちなみに本作の主人公たちが働いている航空会社は、どこだかよく分からない。垂直尾翼やCAの制服などにペガサスの絵が描いてあるが、どうやらこのようなロゴマークを使っている航空会社は存在しないようである。「エアポート'75」のコロンビア航空のように、架空の航空会社らしい。
 だが、ラストの訓練施設の場面で訓練生が着ている制服には、背中にアエロフロート・ロシア航空のロゴが入っている。これは、主人公たちがアエロフロートに移籍したということのようだ。どうやら一連の英雄的行為の結果、彼らは同社に移籍することになったらしい。実はこれは日本公開版ではよく分からないが、ロシアでの全長版を見るとそう分かる。
 ナショナル・フラッグ・キャリアであるアエロフロートに移籍するということは、向こうでもいわゆる「ご栄転」ということになるのだろうのか。僕は妙に感心してしまった。

 

 

 

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