「パシフィック・ウォー」

  USS Indianapolis : Men of Courage

 (2017/02/06)



見る前の予想

 ニコラス・ケイジ主演の映画というと、みなさんはどんな印象をお持ちだろうか?
 とにかくやたら出演作が多くて年に3〜4本は公開されている感じ。しかも、どれもこれもB級作品ばかり。ケイジといえばB級スターというイメージが漂い始めているのは間違いない。ごもっとも。
 しかしケイジは腐ってもオスカー主演賞受賞者で、なおかつジェリー・ブラッカイマー映画で主演を張っていた男でもある。この不思議な立ち位置が、僕にはとても気になるところだ。
 そもそも僕は、スターだったり名優なのに仕事を選ばない俳優が大好き。今じゃスッカリ大御所になったが、昔のマイケル・ケインなんかまさにそれ。だから、ニコラス・ケイジもキライになれない。というか、どっちかと言えば好きなタイプだ。
 それにケイジの映画はクセが強くて、時々ウィッカーマン」リメイク(2006)だとかバッド・ルーテナント」リメイク(2009)なんて怪作に出ちゃう。しかも後者はウェルナー・ヘルツォークのハリウッド・デビュー作と来るからたまらない。そういや、「バニシング IN 60''」(1974)のリメイク60セカンズ(2000)なんてのもあったな。だからニコラス・ケイジ映画となるとイソイソ劇場に足を運んで見に行ったし、大いに楽しみにしていたところもあった訳だ。
 しかし、さすがにレフト・ビハインド(2013) あたりまで来ると怪作にも程がある…と、僕もちょっとついていけなくなってきた。おまけに仕事も忙しく映画を見る機会も限られてくると、そうそうニコラ ス・ケイジにばかりつき合っていられない。そんな訳で、昨年はあれだけ公開されているニコラス・ケイジ映画をまったく見ることがなかった。
 すると…ようやく仕事にケリがついて映画を見始めた僕の前に、またまたニコラス・ケイジ映画がやって来たではないか。題材は「パシフィック・ウォー」…太平洋戦争である。
 当然、日本軍相手の戦争だ。気になるではないか。キャスト表を見ると、見慣れない名前だが「竹内豊」なる日本人俳優の名前もある。これは見ないではいられない。おまけに、映画情報をいつもいただいている知人から「拾いモノ」という報告も入って来ていた。
 僕はニコラス・ケイジ映画だから過大な期待は禁物…と思いながら、それなりに期待して劇場へと足を運んだのであった。

あらすじ

 太平洋戦争もその明暗がハッキリしていた1945年3月、米海軍の重巡洋艦インディアナポリス号は沖縄戦に参加。マクベイ艦長(ニコラス・ケイジ)の指 揮の下、押し寄せる日本の特攻機の攻撃に立ち向かっていた。しかし、どうしても避けきれずに一機が艦に命中。インディアナポリス号は大ダメージを受けてし まう…。
 その様子を撮影していたニュース映画を見ながら、アメリカ政府の高官たちが対日戦争の現状について語り合っていた。彼らは戦争に終止符を打つべく、開発中の原子爆弾を使用することを検討。しかし、米本土から爆撃機で日本をめざす訳にはいかないため、太平洋上のテニアン島まで艦船で運ぶことを考えていた。
 ただし、秘密任務ゆえこの艦船には護衛官などはつけられない。極めて危険な任務となることは分かっていたが、高官たちはこの任務を託す人物をすでに決めていた…。
 その頃、二人の若い水兵が立派なお屋敷へとやって来る。この二人…バマ(マット・ランター)とダントニオ(アダム・スコット・ミラー)は親友同士。そんな二人がなぜこのお屋敷にやって来たかというと…。
 ダントニオはこの屋敷の主であるベイズモア判事(ゲイリー・グラッブス)の娘クララ(エミリー・テナント)にぞっこん。どう見ても身分違いの二人だが、 ダントニオはバマが何を言っても耳を貸そうとしない。その日もお屋敷で派手にレコードをかけて、抜群のコンビネーションで踊る二人はお似合いと言わざるを 得ない。その様子を見て、バマは何とも浮かぬ顔だ。
 実はバマは、前々からクララに想いを寄せていた。だが、そんなことをダントニオに言える訳もない。ダントニオもただただクララに夢中で、そんな彼の気持 ちを察する余裕はない。そんな訳で、バマはダントニオとクララの逢瀬につき合わされながら、常にひとり悶々としているのだった…。
 さて、同年7月のサンフランシスコ。インディアナポリス号は特攻によって出来た大穴を修理して、次の出航に備えていた。長年の相棒である機関士マクホーター(トム・サイズモア)も、準備に余念がない。
 そんな部下たちを頼もしく見ながら、マクベイ艦長は自分に課せられる次の任務が何かをまだ知らされていなかった。艦に運び込まれた、大きな木箱の正体も分からない。しかしわざわざ艦を訪れたパーネル提督(ジェームズ・レマー)から護衛艦なしの危険な任務を告げられた時には、マクベイ艦長もその「貨物」の正体を薄々感づかない訳にはいかなかった。そして、軍人に命令を拒むという選択肢はない。
 その頃、インディアナポリス号に乗り込むことになっている水兵たちは、自分たちを待ち受ける運命も知らずに、思い思いの「陸での時間」を過ごしていた。 ダントニオはバマが止めるのも聞かず、ベイズモア判事の目の前でクララにプロポーズ。案の定、ベイズモア判事から侮辱されたダントニオは、屈辱にまみれな がらその場を退くことになる。
 ところが、ちょうど黒人兵と白人兵の殴り合いの現場に居合わせたために、クララに渡すはずだった婚約指輪をなくしてしまうダントニオ。殴り合っていた黒人兵と白人兵もその場で捕らえられ、艦内の営倉に閉じ込められることになった。
 こうして、それぞれの思いを乗せたインディアナポリス号は、いよいよサンフランシスコを出航することになる。
 そんなインディアナポリス号を、大海原で待ち構えていたものがいた。大日本帝国海軍の伊号潜水艦である。マクベイ艦長以下インディアナポリス号の首脳陣は、これを恐れていた。
 もし日本軍の潜水艦が「回天」を発射したら、最悪の事態が起きる。通常の魚雷ならジグザグで進めば回避できるが、回天は中に人が入って操縦する特攻兵器 である。目をつけられたら逃げおおせることは困難だ。インディアナポリス号を守る護衛官がない今は、特に危険な状態である。
 インディアナポリス号を見つけた日本潜水艦では、艦長の橋本以行(竹内豊)が攻撃を指示。待機していた兵士を回天に搭乗させた。
 照準を狙い定めて、回天を発射!
 その頃、インディアナポリス号の方でも、自分たちが日本軍潜水艦の標的になっていることを悟って戦々恐々となっていた。潜水艦から発射された回天は、ど んどんインディアナポリス号との距離を縮めていく。インディアナポリス号でも必死に舵を切って回天の衝突をかわそうとするが、なかなか急にカーブを切るこ とはできない。こうして回天はインディアナポリス号の目と鼻の先まで接近したが…。
 ほんのわずかの差でかすめたまま通過してしまった。
 そうなったら回天はもうコースを戻ることはできない。回天に乗り込んだ兵士とともに、空しく海の藻くずとなるしかなかった。
 逆にインディアナポリス号の方では、辛くも敵の攻撃をかわしたと大いに安堵して意気上がっていた。だが、それは単にツイていただけに過ぎなかったのだが…。
 こうして問題のテニアン島へと到着したインディアナポリス号は、例の「貨物」を降ろしてその重責を果たす。そんなマクベイ艦長に、今度は「レイテ島へ向 かえ」という新たなな命令が下された。ホッとしたのもつかの間だったが、命令とあらば仕方がない。マクベイ艦長はさすがに今度は護衛艦がつくだろうと、上 官にその点を確かめた。だが上官から返って来たのは、マクベイ艦長にはまったく信じられない答えだった。
 「護衛はない。インディアナポリス号は、今ここにはいないことになっているんだぞ」…。


見た後での感想

 ニコラス・ケイジ主演というだけで安いB級感が漂う本作。よせばいいのにスタッフ・キャスト等を調べていくと、その予感はますます増していく。
 まずは共演者にトーマス・ジェーンというのがヤバい。このサイトでも何度も書いているように、僕はこのトーマス・ジェーン(あるいはトム・ジェーン)という俳優、決してキライではない。さらに気になる作品にも出演していて、これまで何度かブレークするチャンスはあった。スティーブン・キング原作ドリームキャッチャー(2003)、マーベル・コミックの映画化パニッシャー(2004)などは、彼にとっての勝負作だったはずだ。しかし、これらがことごとく不発。またしてもスティーブン・キング原作、フランク・ダラボン監督のミスト(2007)にも主演を果たすが、これがまた近来稀に見る胸クソの悪い映画に出来上がってしまってジェーンのイメージも悪くなる一方だった。
 近作のジョン・キューザック共演ドライブ・ハード(2014)もブルース・ウィリス共演デッド・シティ2055(2015)も、ビッグスター共演作なのに見事なまでにB級という不運さ。なぜか決定的に「持っていない」男。トーマス・ジェーンと来れば「B」と落ち着く先が決まってしまっている感じだった。
 さらに監督がマリオ・ヴァン・ピーブルズというのも微妙。元々は俳優で「ジョーズ'87/復讐篇」(1987)などに出ていたが、突如カッコいい犯罪アクション映画「ニュー・ジャック・シティ」(1991)を監督・主演。一躍、当時脚光を浴び始めていた黒人映画監督のひとりとして躍り出て来た。だが、その後はなぜか凡作の山。僕が見た一番新しい作品は、航空アクションレッドスカイ(2014)である。そのデキに関しては、僕の感想文をご参照いただきたい。
 こうした面々が参加する本作が、B級でないはずがない。正直言って最初から「こりゃダメだ」とサジを投げていたが、かろうじて日本軍が出て来る太平洋戦争の話ということで、わずかな興味を保っていたという訳である。
 そんな訳で見ることができた本作は…というと、実はこれが意外にいいから驚いた
 もちろん「映画史に残る傑作」などと言うつもりはないが、思った以上にちゃんと作られた作品なのである。ついでに言えばトーマス・ジェーンの出番は映画 の後半にチョッピリあるだけ。だからといって、今回はトーマス・ジェーンがあまり出てなかったから良かった…などと言うつもりはないが(笑)。
 ともかく、予想以上に好感が持てる作品なのである。

予感的中のチープさ

 何度も繰り返すが、最初のうちは期待値は思い切り低かった。
 ニコラス・ケイジ主演作でトーマス・ジェーンが出てるから(笑)という先入観だけでなく、先にも述べていたように、何よりマリオ・ヴァン・ピーブルズの監督作品に大きな期待を持てなかったというのが最大の理由だ。ある意味、「戦争アクション」という点で共通している「レッドスカイ」のチープな出来映えから考えると、本作が安っぽくならないはずがないと思ったのだ。
 実際に映画が始まってすぐ、インディアナポリス号の沖縄戦での戦闘場面を見たら、まさに予感的中。正直言ってCGがどうにも安っぽい。昨今の他のハリウッド映画と比べると、ガクンと見劣りしてしまうのは明らか。そもそも予算もあまりなさそうで、先行きが思いやられるオープニングだった。思っていた通り。やっぱりなぁ…。
 この時点で、僕はある程度本作については諦めていたようなところがあった訳だが…。





 

 

 

 


 

 

こ こからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

旺盛なサービス精神と誠実さと

 ところが、映画ってのは必ずしも予算がないからダメって訳じゃないから分からない。実はこの映画、見ているうちに「そんなに悪くないじゃないか」と思えて来るから不思議だ。
 まずは危機一髪をくぐり抜けて、何とかテニアン島まで原爆を運び終えたインディアナポリス号。ところが無情にも、さらにレイテ島へ向かうように命令が下 される。ただレイテ島への移動を命じられるだけならまだいいが、何とまったくの護衛なし、丸腰での移動である。このあたりから、お話は一気に緊迫度を増していく
 最初に出会った時にはミスってくれた日本軍潜水艦だが、さすがにそんな幸運は二度とない。こうして阿鼻叫喚のインディアナポリス号沈没場面となる訳だが、これが低予算、ショボCGの割には結構頑張っている。まるで「タイタニック」(1997)とライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2012)の海難シーンを混ぜたような見せ場を、低予算なりにちゃんと見せようとしているのである。
 ところがこの海難シーンはまだまだ序の口で、実はここからが本題。インディアナポリス号を失った乗員たちが、海に投げ出されてからが本作のキモなのである。
 で、これがまた実に凄惨なもの。僕はここまで来てようやく、「ジョーズ」(1975)でロバート・ショウ扮する漁師が劇中で語っていた話が、このインディアナポリス号のエピソードであったことに気づいたのだった。サメがウヨウヨする大海原で人々の大半が小舟の上にも上がれず、ただただ絶望的に漂わなければならなかったという実話だ。
 このくだりも「オープン・ウォーター」(2003)みたいなサメの恐怖あり、先に挙げた「ライフ・オブ・パイ」ロン・ハワード白鯨との闘い(2015)後半場面みたいな感じで、なかなか手に汗握る展開。おまけに最後まで見ていくと、男二人女一人の若者たちの関係がパール・ハーバー(2001)の主人公たちみたいになる趣向まであって(笑)、あの映画この映画で見たような場面のオンパレード。これは決してバカにしているのではなくて、観客に対するサービス精神が旺盛であることに大いに感心して言っている。面白い映画を作るということにおいて、作り手はまったく手を抜いていない。だから本作は、見ていて片時も退屈しないのだ。
 しかも作り手のサービス精神旺盛とはいえ、お話自体はウケを狙って創作した訳ではない。これはすべて「実話」である。それゆえ、見ているうちにその壮絶さがジワジワと観客に伝わって来る。インディアナポリス号乗員が受けた非情な仕打ち、過酷な運命に観客の胸が打たれるのである。このあたりから、本作はその本領を発揮して来る。
 さらに最後には、これだけ犠牲を払わされた主人公マクベイ艦長が一連の海難事故の罪を問われるという展開。観客は、米軍が「功労者」であるはずのこの艦の人々をこれほどまでにイジメたこと…に唖然としてしまう。さすがに僕もここまでの「史実」は知らなかったので、これにはビックリだ。
 結局、マクベイ艦長は衝撃的で悲劇的な結末を迎えてしまうことになるのだが、裁判が終わった後にちょっと驚く趣向があって、後味は実に爽やか。イデオロギーや変な戦意高揚感とも無縁の、誠実で好感の持てる戦争映画となっているのである。これは本当に意外だった。
 ニコラス・ケイジもいつ狂い出すか(笑)と思っていたが、最後の最後までイイ味出していたし。もっと驚いたのは、日本軍潜水艦艦長役を演じた竹内豊。最初は「竹野内豊」かと思っていたので、またぞろスカしたツラをしてシン・ゴジラ(2016)みたいな偉そうなナメた態度で出て来るんだろうとウンザリしていたのだが、別人で良かった(笑)。
 この竹内豊という役者がケレンがない誠実な演じっぷりで好感が持てるが、その描き方もとても好意的。日本人としても見ていて大いに救われた。原爆を運ぶ 密命を帯びた重巡洋艦の話で、その艦が日本軍潜水艦の攻撃で沈没してから乗員たちの受難が始まる…という設定にも関わらず、そこから予想されるような「あ りがち」な展開ではなく極めて誠実な仕上がりになったのは、ある意味で奇跡的とも言える。今回ばかりは素直にマリオ・ヴァン・ピーブルズの腕前をホメたい
 ともかく一見の価値ある作品だし、戦争がどうの…などという硬い話は抜きにしても娯楽映画として退屈しない内容になっているのに感心した。これはかなりの拾いモノではないかな。
 少なくとも、竹野内豊が出なかっただけでも評価したいところだ(笑)。


 

 

 

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