「ドント・ブリーズ」

  Don't Breathe

 (2017/01/23)



見る前の予想

 不覚にも、僕はこの作品のことを何も知らなかった。知人が本作を見に行く…と言っていたのを聞いて、初めてその存在を知ったのである。その時は、どうやらホラーだかスリラーだかの作品らしい…ということだけ聞いて、どうせB級の安いホラーだろうと片付けてしまった。
 ところが別の知人に聞いてみると、なかなか面白い作品らしい。しかもいわゆるホラーではなく、超自然的な設定もないようだ。だとすると、低予算で撮られたサスペンスの佳作なんだろうか。上映時間も1時間半以下とコンパクトなところが気に入った。これは見た方が良さそうだ。
 僕は何とか時間を見つけて、本作を上映している映画館に駆け込んだ。

あらすじ

 早朝の朝焼けに照らされた、荒廃する一方の住宅街。その人けのない通りを、大柄な男が「何か」をズルズル引きずりながら歩いている。その「何か」とは、グッタリとした人間の姿であった…。
 小ぎれいな邸宅の玄関のカギを開けて、中に忍び込もうとしている三人の若者たち…リーダー格のマニー(ダニエル・ゾヴァット)、その恋人のロッキー (ジェーン・レヴィ)、そのダチのアレックス(ディラン・ミネット)。彼らはドアを開けて屋敷に進入すると、素早く警報装置を解除。堂々と値の張りそうな 品々を盗み始めた。一通り盗み終わると、外に出てから窓ガラスをわざと壊して警報装置を作動。それが、手慣れたやり口である。
 ここは不況の風が吹き荒れるデトロイト。荒廃した街には希望などない。彼らもこのようなケチな窃盗で、わずかなカネを手に入れるしかなかった。
 そんなある日、マニーは盗品の買い取り屋に耳寄りな話を教えてもらう。それは、オイシイ儲け話だった。デカく稼ぐには現金を手に入れなければならない。その現金が稼げる家があるというのだ。
 湾岸戦争帰りの軍人が娘を交通事故で失い、巨額の慰謝料を受け取った。それを頂戴しようというのが今回の仕事だ。おまけにその軍人は盲人というから、仕事はチョロいはず。だが、さすがにそれを聞いたアレックスは気が進まなかった。
 アレックスは3人の中では多少は学もあり、法律の知識もある男だった。今やっている盗みだって、決して好き好んでやっていない。本来だったらこんな事な どせず、それなりの学校に行っているような真面目な男だった。今だって、警備会社に勤める父親からカギを借りたりしてかなり気がとがめている。それでも盗 みにつき合っているのは、すべてロッキーのためだ。彼女はダチの恋人と分かってはいるが、アレックスも陰ながら彼女に想いを寄せていたのだ。
 だがそれにしたって、娘を亡くした盲人からカネを奪うなんて抵抗がある。アレックスは頑強に拒んだが、ロッキーはどうしてもやると言って聞かない。実は 彼女にもそう言いたくなる事情があったのだ。母親は昼間から男を引っ張り込んでいるようなクズで、幼い妹と一緒にこんな家を出て行きたいを思っていた。そ れにはどうしても元手が要るのだ。結局、そんなロッキーにほだされて、渋々アレックスも計画に参加することになる。
 まずは下見だ。元軍人の家があるのは、今では寂れきった住宅街の一角。もはや他の住人は誰一人いない場所だ。そんな3人を不審に思ったのか、いきなり猛 犬が彼らのクルマに飛びかかって来る。この犬は例の盲人の愛犬で、なかなか勘も良く獰猛なようだ。こいつを何とかしないといけない…。
 ともかくその夜、3人は再び例の住宅街を訪れ、いよいよ元軍人の家に押し入ることになった。
 まずは、猛犬に眠り薬入りのエサを食わせて大人しくさせる。次に用意したカギで扉を開けようとするが、元軍人は用心深いのか中からカギを継ぎ足してい た。さて、どうやって入るか思案していると、上に洗面所の小窓があることに気づく。ロッキーは小柄な自分なら入れると志願し、この窓から内部に進入。リモ コンで警報装置を解除した。こうなれば、もう怖いものなしだ。
 家の中に入った3人は、あちこち探し始める。だが、カネが入っていそうな場所はない。マニーは元軍人の寝室へと進入。催眠ガスを撒こうとしたその瞬間… いきなりその盲目の軍人(スティーヴン・ラング)がむっくり起き上がるではないか。だが盲人がまた横になったので、催眠ガスを撒いてその場を退散。これで マニーはすっかり気が大きくなった。
 さて、彼らが大体あちこち調べたあげく、大袈裟なカギがかかったひとつの扉だけが残る。おそらくここに「ブツ」はあると思った3人は何とか開けようとするがビクともしない。そこでマニーが取り出したのは一丁の拳銃。これを見たアレックスは、たちまち血相を変えた。
 拳銃を使った強盗なら、罪は格段に重くなる。それだけではない。拳銃を持った強盗が押し入ったのなら、その家の住人は強盗を撃ち殺してもいいのだ。アレックスは、銃は使わないという一線だけは譲れなかった。
 だが、ムキになったマニーは、ついに拳銃をブッ放してしまう。アレックスはついていけなくなって、その場を立ち去った。それでもマニーは、カギが開いたことにご機嫌だ。
 …と、いつの間にか横に例の盲人が立っているではないか!
 肝を冷やすマニーとロッキーに、「誰かいるのか」と問いかける盲人。どんどん近づいて来る盲人に、マニーは「酔って間違えて入り込んだ」などと苦しいウ ソをつき始める。だが、それが通るはずがない。やがてカギが壊されていることに気づいた盲人に、銃で威嚇するマニー。だが、この盲人はただの盲人ではな かった。一気にマニーとの距離をつめると、いきなりマニーの体を羽交い締めにするではないか。もうマニーは涙目である。それでもマニーは、「何人いるの か」という盲人の問いに「自分だけ」と答える意地だけはあった。
 ところがそれを答えたとたん、マニーは自らの拳銃で頭をブチ抜かれてしまうではないか。
 マニー殺害を目と鼻の先で見せられたロッキーは、呆然自失。だが、そこにいる気配を感づかれたら自分が危ない。動転し混乱するロッキーは、それでも何とか悲鳴を挙げずに歯を食いしばった。さらに銃声を聞いたアレックスは、立ち去ろうとしていた家に再び戻って行ったのだが…。


見た後での感想

 本編を見始めてすぐ、僕は「はは〜ん」と納得した。
 昔、子役のマコーレー・カルキンがスターになった「ホーム・アローン」(1990)という映画があった。当時、あれはダイ・ハード(1988)のお子様コメディ版と言われていたが、今回はこの「ホーム・アローン」を強盗側から描こうという趣向なのである。…ということは、逆「ダイ・ハード」であるとも言える。
 しかも、強盗を迎え撃つのは可愛いマコーレー・カルキンではなく、屈強な老人。盲人でありながらそのハンディを感じさせない、湾岸戦争帰りの百戦錬磨の軍人という設定。いや、これはなかなかうまい発想ではないか!
 僕はその目のつけどころだけで、本作に大いに感心した。正直言って、このアイディアの素晴らしさだけですべてを語り尽くしてしまうような作品である。

 

 

 

 

 

 

 

こ こからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 

 

シッポまでアンコが詰まったたい焼き

 すでに先に述べたことだけでも、本作の長所は明らかだ。そこにも書いたように、ほぼ、発想がすべてような作品である。
 ハンディを持った老人…と高をくくっていたらとんでもない…という意外性の面白さ。暗闇では視力というアドバンテージすらなくなってしまう…という目の付けどころの良さ。さらにお話の途中で出て来る、アッと驚く「意外」な展開。監督のフェデ・アルバレスロド・サヤゲスによる脚本は工夫が凝らしてあって、なかなか素晴らしい。
 そしてスティーヴン・ラング扮する盲人の元軍人が、とにかくめった やたらに強い。おまけにしぶとい。単に戦闘能力に優れているだけでなく、とにかく不死身なのだ。やっつけたと思っても、またすぐに追いかけて来る。本当に イヤになるほど追って来る。しかもこの盲人が来ない時には、今度は犬が襲いかかってくる。とにかくこれでもかこれでもか…と、シッポまでアンコが詰まった たい焼きみたいに見せ場が最後まで続く。このサービス精神には頭が下がった。これってなかなか出来そうで出来ないのだ。逆「ダイ・ハード」たるゆえんであ る。
 プロデューサーはサム・ライミらしいが、素晴らしい人材を発掘する能力がある。監督・脚本のフェデ・アルバレスは、今後いろいろと活躍しそうな人物だ。


キャラクターに共感できないのが難点

 そんな訳で、とにかくノンストップのサスペンスが連発する作品なのだが、ひとつ気になるのは登場するキャラクター…であろうか。
 こう言っては何だが、例えどんな事情があったとしても、いい若いモンが盲人からカネを巻き上げる…しかもそれは盲人が娘を失って得たカネだ…というのは、何がどうあっても印象が悪い。途中で盲人のトンデモな正体が明らかになるので、「どうやっつけてもいい」免罪符を得たようにはなっているが、それでも話の発端が発端だけにスッキリしない。やはり主人公たちがクズなのである。
 おまけに紅一点のロッキーは最後までカネ、カネと意地汚いことを言っていて、それに固執したことで自分たちの墓穴を掘ってしまっているからタチが悪い。 さらに、この女のおかげで自分に気があるらしい真面目青年のアレックスを巻き込んでしまう。最後の結果まで見ても、正直言って納得がいかないのである。こ れはどうなんだろうか?
 サスペンス映画ってのは、やはり危機に直面する登場人物に共感するか、感情移入してナンボというものだ。ヒッチコックサイコ(1960)だって、観客を横領犯ジェネット・リーに どうやって共感させるかに最大限の努力を払っている。今回の窃盗犯たちも、確かに見ていてだんだん同情して来ないわけではないが、やはりところどころでそ の気持ちが醒めてしまう。そもそも、最初の動機がクズ過ぎるし、女のカネへの執着ぶりに見ていてウンザリさせられるのだ。
 おそらく主人公たちに感情移入できればもっとドラマのサスペンスが増したのではないかと思うだけに、これはちょっと残念だ。正直言って、こんな奴らが死んでも、例え何をされても「どうでもいい」という気持ちになっちゃうのは、作劇法としてはあまりよろしくないのではないだろうか。

デトロイトという街の怖さ

 映画の舞台はデトロイトだが、エンディング・クレジットを最後まで見て行くと、撮影の一部がハンガリーで行われたと書いてあってビックリ。家の内部の撮影は、なぜかハンガリーで行われたらしいのだ。そのため、劇中で重要な位置を占めるが一言もしゃべらない設定の人物は、ハンガリー人の役者が演じていると知って二度ビックリ。僕はかつて見た「ミュート・ウィットネス」(1995)というサスペンス映画を思い出した。
 「ミュート・ウィットネス」はモスクワのモスフィルム撮影所で撮影されたアメリカ映画だが、お話としてもロシアの撮影所でホラー映画を製作するアメリカ 人クルーたちの物語になっている。アメリカから来た映画スタッフのひとりが口のきけない女性で、彼女がたまたま撮影所の片隅で実際の殺人を撮影しているこ とを目撃したことから始まるサスペンス劇だ。
 この口がきけないヒロイン、劇中ではアメリカ女性の設定ながら演じたのはロシアの女優。だが、口がきけないためにセリフがないから、まったく言葉の問題はない。なるほど、ロシア女優起用が可能なわけである。
 映画の製作スタイルから役者の使い方に至るまで、本作はこの「ミュート・ウィットネス」を踏襲したかたちになっているのが興味深かった。こういう映画づくりって結構普通に行われているのだろうか。おそらくいろいろ経費が安くなるからなんだろうが、実際にこういう作品が出来ていることに改めて驚かされた。
 また、舞台になったデトロイトだが、本作での街の荒廃ぶりには本当に驚かされた。本作の外景部分は実際のデトロイトでのロケのようで、見るからに街並み が寂れている。登場人物たちも貧しく、これといった仕事もなくてうらぶれている。「こんな街は出て行かないと」…というのが普通に口を突いて出て来る言葉 だ。我々も米国での格差の拡大やら地方都市の荒廃なんてことはニュースでいろいろ聞かされるが、実際にこんなに酷いのかと改めて愕然とさせられた。この映 画の持つ怖さは、一方で現在のデトロイトという街が抱えている怖さでもある。
 改めて考えてみると、モンスターズ/新種襲来(2015)の冒頭に出て来るのがデトロイトで、そこでは若者たちが「この街にいるなら中東で戦った方がマシ」…と軍隊に入るのだった。またライアン・ゴズリングが監督したロスト・リバー(2014) でも、舞台は「架空の街」という設定にはなっていたものの、デトロイトで荒れ果てた街の景色を廃墟として撮影していたのだった。いまやデトロイトという街 は、これほどまでに酷い状態になっているのだろうか。しかも、街の様相よりもそこに住む人々の人心の荒廃ぶりの方がさらに酷そうだ。
 ひょっとすると、本作の主人公たちに共感できない…と僕は書いてきたけれども、当のアメリカの観客たちには十分共感に値する設定なのではないか? 実は映画を見終わってから、そんな疑念が僕の脳裏に浮かんでずっと離れない。娘を亡くした哀れな老人、盲人のカネを奪ってでも、荒れ果てた故郷から脱出するためならば致し方ない。多少の犠牲はしょうがない。そんな理屈が当然のごとく共感できてしまうくらい、アメリカ人の大多数の心情はささくれ立っているのではないか。ならば、遠く離れて安全な場所にいる僕などには、それは到底理解できるはずもないのではないか。いや、そんなことはない…と、今の僕にはとても言い切れない気がする。
 アメリカの地方都市がこれほどまでに荒んだ状態になってしまっているのならば、今度の大統領みたいな人物が支持されるのも無理はないのかもしれない。フ ト、そんなことを思ったりもした。そうでなければ、あの地滑り的な選挙での勝利は理解できない。おそらく外国にいる僕らには想像もつかない事情が、現在の アメリカにはあるのではないか。あのモンスターのような盲人の老人や主人公である窃盗団の家族たち、そもそも窃盗団の3人自身のような連中が大勢いて、雄 叫びを挙げてあの新大統領を応援したのではないだろうか。
 単純なスリラー映画でこんなことを云々するのはヤボの骨頂と分かってはいるが、本作にはどうしてもそんな気持ちにならざるを得なかったのである。

 

 

 

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