新作映画1000本ノック 2014年5月

Knocking on Movie Heven's Door


こ のページの作品
  「ダブリンの時計職人」 「シネマパラダイス・ピョンヤン」 「エウロパ」 「MUD/マッド」

 

「ダブリンの時計職人」

 Parked

Date:2014 / 05/ 26

みるまえ

  珍しやアイルランド映画。映画館のチラシでその存在を知ったものの、どんな話かはまったく分からない。というか、チラシを熟読すれば書いてあるのかもしれ ないが、僕はあまり事前情報を仕入れないタチなのであまりよく読んでない。ただ主演のコルム・ミーニイはアイルランドものの映画ではお馴染みだった。アラ ン・パーカーの「ザ・コミットメンツ」(1991)やスティーブン・フリアーズの「スナッパー」(1993)でも目立っていた、がっちり体格のオッサンで ある。この人が主演の映画となると、ちょっと見てみたくなるではないか。もう公開なんてとっくに終わってから感想を出すのも申し訳ないが、そこはカンベン していただきたい。

ないよう

 アイルランド、ダブリンの海 岸。海沿いのベンチに、一人の中年男が座っている。彼の名はフレッド(コルム・ミーニイ)。彼の後ろには駐車場があり、そこには彼の小さい愛車が停まって いる。ところが上から巨大なクレーンのアームが下りてきて、クルマをガッチリ捕らえる。アームは窓ガラスを破ってクルマを完全にくわえ込むと、そのまま ひょいっと持ち上げてしまうではないか。果たしてここに至るまで、彼に何があったのであろうか…。フレッドがこの駐車場にやって来たのは。ある冬の日だっ た。実は、ここはかつて彼が住んでいた街のようだが、元住んでいた家に行ったところでそこには家族がいる訳でもない。最近、ロンドンから帰ってきたらしい が、縁者も誰もいるわけではない。しかし他に行くアテもないから、ここへ戻ってきたのだ。仕方なくフレッドは、駐車場に停めたクルマを「家」として暮らし 始める。朝、街の公衆便所で身体を洗ったり歯を磨いたりする。タンクに水を溜めて、それを生活水とする。もちろん街の役場へ行って失業手当の申請もしてみ るが、どこの国でも役人が親身になるわけがない。まして「住所」のないフレッドにはなおのことだ。限られた手持ちのカネを、チビチビと切り崩すしかない。 そんなフレッドの日常に、突然変化が起きる。ある夜、彼が住んでいる駐車場に、二人の若者を乗せた別のクルマが現れたのだ。翌朝、フレッドは彼らを警戒し て距離を置いているが、片方の青年カハル(コリン・モーガン)が近づいてくる。意外にもフレンドリーなカハルに、少しずつ警戒を解いていくフレッド。いつ の間にかもう一人の若者は姿を消して、カハルは例の黄色いクルマを「わが家」に駐車場で暮らすようになる。「隣人」カハルはフレッドを放っておいてくれな かった。彼に引っ張られて、それまでしないことをするようになるフレッド。街のスイミング・プールに通うようになったのも、そのおかげだった。しかも、水 中ダンス教室に入ってレッスンを受けている中年女性と出会い、彼女がちょっと気になるフレッド。しかしカハルに誘われた飛び込みだけは、どうしても出来な いフレッドだった。そんなこんなで、カハルのおかげで今までになかった新鮮な体験を味わうフレッド。フレッドもまた、カハルにささやかな恩返しをした。そ れは、彼の持っていた腕時計の修理だ。どうやら厳格な父親とソリが合わず、家を飛び出したらしいカハル。それでもカハルは、父親の腕時計を「宝物」として 大事に持っていたのだ。しかしその時計は、長らく故障して止まっていた。それを見たフレッドは、道具を持ち出してその時計を修理してやる。彼は時計職人と して働いていたのだ。こうして、お互いの心を通わせていくフレッドとカハル。また、フレッドは教会の前を通りかかった時、例のスイミング・プールで出会っ た中年女性と再会。ピアノ教師である彼女ジュールス(ミルカ・アフロス)と、親しく会話を交わす機会を得る。フレッドの行き詰まっていた人生が、少しずつ 動き出してきた。しかしその一方で、カハルの周辺には暗雲が漂い始める。彼は麻薬に手を出していて、売人に借金を作っていたのだ。それでトラブルも起きて いるのに、一向に麻薬と手が切れない。案の定、カハルを訪ねて、売人たちが駐車場にやって来た…。

みたあと

  いきなり唐突に、訳の分からないショッキングな場面から映画はスタート。さて、どうしてこうなったかというと…という展開は、最近の映画によくあるパター ンだ。しかし正直言って、こういう変則的な構成にしているメリットがある作品は、実際にはそれほど多くない。大概の場合は、こんな変な構成にしなくてもよ かった作品がほとんどだ。本作を見終わった段階で正直に言わせてもらうと、本作もこうした構成のメリットが感じられない一本だ。こんな構成にする必然性が ない。映画を見始めた時も、「アレレ、また変なことやってやがるな」と思ってしまった。映画自体はささやかではあるがなかなか味わい深いお話で、見始める と「良い感じ」のドラマになりそうな予感がしてくる。しかし冒頭の変な構成のおかげで、何となくイヤな予感がしていたのも事実。残念ながら、そのイヤな予 感の方が当たってしまった。

ここからは映画を見てから!

こうすれば
  すべての家財道具をクルマに乗せたホームレス生活…これがなかなか楽しそう。しかも甘っちょろいだけでなくて、ジワジワと社会から疎外されているつらさ、 お金がなくなってくる厳しさも描かれていく。お恥ずかしい話だが転職を繰り返したあげく、「失業状態」の期間も決して短かったわけでなかった僕としては、 そこでの生活の工夫やら大変さなどは見ていて本当に身につまされた。だから、「良い感じ」のドラマになりそう…とは本当に思っていたのだ。それが残念な結 果になったのは、大半がホームレス生活の相棒となるカハルという青年の描き方による。この青年、父親とソリが合わずに家を飛び出してのこの生活。しかし、 プー太郎なのは仕方ないとしても、麻薬に手を出しているのはいただけない。収入がないのに麻薬…と来れば二重に破滅が迫ってくるのは当たり前。それが分 かっていてもどうしようもないのが「中毒」だと言われても、こいつの行き当たりばったり感はハンパない。これで父親に厳しくされたと言われても、怒られる のが当たり前だろう。ラストも父親が厳しくしたから死に至ったみたいな描き方だったが、単にこいつが甘っちょろくてバカだったということでしかない。「父 親が怒るから」ってこいつどんだけガキなんだ? 演じているコリン・モーガンは、「魔術師マーリン」というテレビドラマで人気が出てきている若手らしい。 何だか最近やたらテレビで人気が出る英国ヤサ男が増えてきてる(笑)、残念ながらこのモーガンは役が役だけに魅力を感じられない。そのおかげで主役のミー ニイの役も妙な案配になってしまって、後先を考えずに麻薬の売人をブチのめしたりする。素人がヤクザ相手にあんな事をすれば、報復されるに決まっている。 それが分からない年齢ではないだろう。おまけにラストにわざわざ死んだカハルの実家まで行って、父親にチクチク言う始末。彼の本当の気持ちを知って欲し かった…ということなんだろうが、あの時点でそんなこと言われても、父親だって困るだろう。言ってスッキリするのは主人公だけだ。せっかくの時計職人とし ての腕前もあまり活かされるわけでもなく、ラストのハッピーエンドが「生活保護を受けられるようになったこと」ってどうなんだろう。本当なら仕事に就ける ようになるのがハッピーエンドじゃないだろうか。それとも、それほどまでにアイルランドの失業問題は深刻で、これがリアルな描き方だと言うのだろうか。ド キュメンタリー出身だというダラ・バーン監督、「リアルに描いている」と言いたげなのはよく分かるのだが、結果的に主人公たちをいろいろと甘やかしている ようにしか見えないのが、作品の詰めを全体的にユルくしちゃっている感じがする。

さいごのひとこ と

 甘ったれ浮浪者二人組。

 
 

「シネマパラダイス・ピョンヤン」

 The Great North Korean Picture Show

Date:2014 / 05/ 19

みるまえ

  あの厚いベールに隠された北朝鮮映画界に、カメラが潜入! そうくれば、映画好きとしては興味を持たずにいられない。そんなヤツは僕一人じゃないはずだ。 そもそも外界から遮断されたようなあの国の特殊性もさることながら、先代の「将軍様」が無類の映画好きで、自ら映画制作を「指導」というお国柄だ。そんな 国の映画界なら、どうなっているのかを見てみたい気にならざるを得ない。映画界の裏側は洋の東西を問わず面白いモノだ。それが北朝鮮なら面白さも格別だろ う。ひとつ不安があるとすれば、当然のことながら北朝鮮当局の検閲をすべて受けた映像素材からの編集という点。それでもレア度は群を抜いているから、興味 深さは損なわれていないはず。僕はいそいそと映画館に足を運んだのだった。

ないよう

  北朝鮮における映画人養成のための教育機関、それがピョンヤン演劇映画大学だ。ここで監督、脚本家、スタッフや俳優の卵たちが、立派な映画人になるべく勉 強を続けている。ここ北朝鮮においてよい映画づくりとは、もちろん将軍様の思想を伝える映画づくりのことだ。その生徒たちの中に、女優志望のリ・ユンミが いる。ユンミは父親が科学者という特権階級の娘。親はユンミも科学の道を選んでくれることを期待したが、彼女はそれを押し切って演劇映画大学に入った。し かし、入ったら入ったで現実はキツイ。ちょいと太めの彼女は、ダンス授業が苦手だった。それでもついつい甘いモノに手が伸びる…。もう一人、役者志望の生 徒が登場。キム・ウンボムという男優の卵は、有名女優と映画監督の間に産まれたサラブレッド。当然その肩には重い期待がのしかかる。しかし学校の授業の中 で、監督志望の男から目の敵のように芝居にダメ出しをくらう…。一方、映画にはベテラン映画人も登場。ピョ・グァン監督は北朝鮮での「大ヒット作」を手が けたこともある人物。さまざまな年代の日本、韓国、中国などの街並みが建設されたセットを案内しながら、「将軍様のおかげで海外にロケする必要がない」と 感謝する。現在もエネルギッシュに新作撮影中だが、戦前の朝鮮軍解体の場面でエキストラに「泣け!」と指示を出しても、イマドキの現代っ子にはその悔しさ がピンと来ない。笛吹けどナントカ踊らずで、大ベテランも思わず悶々としてしまうことも…。

みたあと

  香港のドキュメンタリー映画作家ジェイムズ・ロンとリン・リーの二人が、ハイビジョン・カメラとハードディスクを持ち込んで撮影した映像。隠し撮りなどで はなく「正規のルート」で真っ正面から交渉して撮影したものだから、当然のことながら北朝鮮当局にとって都合の悪いモノが写っているわけはない。それでも 珍しいし興味深い映像になっているだろうとは思っていたが、正直言って内容は北朝鮮側のプロパガンダと五十歩百歩だろうと大して期待はしていなかった。そ れでいてソコソコ新鮮に見えるところはあるんだろうな…ということは、ネット上などに出ていた映画評などで想像がついていた。で、実際に見た印象もまさに そうだったから、正直言ってそこで描かれているモノへの驚きはまったくなかったと言えるだろう。。

みどころ

  そんなわけで予想通りと言えば予想通りだったのだが、制限下での撮影でもそれなりに興味深い点はいくつもあった。特に面白かったのは、女優の卵であるリ・ ユンミ。我々が向こうの国の人々に持っているイメージと少々異なる、チャッカリしていたりだらしなかったり(笑)…イキイキした人間味が感じられたのは少 々意外。正直言ってこの子が女優として大成するというのは難しいだろうな(笑)と思わされたが、やせなきゃいけないのに甘いモノを食っちゃう、太めの身体 でドテドテとダンスしちゃうというあたり、この国のプロパガンダでやりそうな「必死に一生懸命根性でやり遂げる」というルーティンからはずれた人間像だ。 男優志望のキム・ウンボムが芸能一家のサラブレッドなんだけど優男過ぎてイマイチ頼りなさげ…という点や、 ベテラン映画人のピョ・グァン監督が集めたエ キストラにどうにも真剣味が足らないあたりなど、チラッと「イマドキの若いもん」のリアルな素顔がのぞいて見えることに驚いた。こういう人物がいるという ことに驚いたのではなく、それを対外的に出してもいいという判断を下したことに驚いたのだ。どうせ取材許可が下りた人物や家庭は「特権階級」のものばかり なのだろうが、それでもこれらを「出してイイ」と思うようになったことがちょっとした驚きなのである。それと映画の中でユンミがピアノを弾いて歌っていた 「将軍様エライ」的な歌が、今風な女性シンガーソングライター系のポップスだったのには笑っちゃった。当然のことながら、あの国にもあの国なりの変化は訪 れているんだなと思わされた。

こうすれば
  ただ、いろいろと困難さはあったかと思うものの、どうしても全体的に「薄味」な印象は否めない。これはやっぱり、取材できた元素材があまり多くなかったか らではないだろうか。もうちょっと溜めていろいろバラエティを揃えてから作品化した方が、より興味深い作品になったのではないだろうか…と少々残念な気が したのも事実だ。

さいごのひとこ と

 素材は新鮮だが薄味で品揃えも少ないね。

 

「エウロパ」

 Europa Report

Date:2014 / 05/ 05

みるまえ

  「エウロパ」というタイトルを見て、「ムムムッ」とならないSF映画ファンはいないだろう。昔は太陽系で生命がいそうな天体として、火星や金星などの「惑 星」が挙げられていた。しかし米ソによる惑星探査の結果、とてもじゃないが我々が期待しているような生命は望めそうもないということが分かってきた。その 代わり今期待されているのが、木星や土星の「衛星」だ。木星の衛星であるエウロパやガニメデ、土星の衛星であるタイタンは、どうやら水をたくさん持ってい るらしいといわれていた。中でもエウロパは厚い氷の下に海があるらしく、そこにかなり本格的な生き物がいるんじゃないかと噂されている。僕らがそこに行っ て見てくるなんて絶対無理だし、人類が探査船を送って調査をするなんてことも早急にスタートするとは思えない。しかし映画ならば、そのエウロパの様子をリ アルに見せてくれるのではないか。昔のチャッチい特撮なら限界があるが、昨今のCG技術の発達ならそれも夢じゃないだろう。この映画のタイトル「エウロ パ」を見た時点で、SF映画好きにとっては夢の呪文みたいなものなのである。おまけに出演者として、あの「第9地区」 (2009)の主演で一躍知られるようになったシャルト・コプリーの名前も挙がっているではないか。SF映画好きにとって「第9地区」は、まさにこたえら れないご馳走だった。だから「エウロパ」にシャルト・コプリーというだけで、僕には見なくちゃならない映画と決定したのだった。それ以外の情報なんか必要 ない。渋谷の単館上映でしかもレイトショー上映。マイナーもいいとこの作品だが、僕は目一杯の期待を抱いて3月半ばのある夜、映画館に向かったのだった。 感想文がこんなに遅くなってしまって、まことに申し訳ない。

ないよう

  地球を離れてまだ間もない。宇宙船「エウロパ1」は、その名の通り一路木星の衛星エウロパめざしてまっしぐら。乗組員の中でも一番ひょうきんなジェームズ (シャルト・コプリー)が他の乗組員たちをカメラに収めている。この段階では、「エウロパ1」の航海はしごく穏やかで順調だった。そう、ある日突然に地球 との交信が途絶えるまでは…。「エウロパ1」は民間による初の宇宙探査プロジェクト。サマンサ・アンガー博士(エンベス・デイビッツ)率いるプロジェクト チームが計画を進め、木星の衛星エウロパに生命が存在することを突き止めようと世界から6人の飛行士が集められた。船長は中国人のウィリアム・シュー(ダ ニエル・ウー)、ロシア人男女のアンドレイ(ミカエル・ニクビスト)とカーチャ(カロリーナ・ヴィドラ)、そしてダニエル(クリスチャン・カマルゴ)、 ローサ(アナマリア・マリンカ)、さらに前述のジェームズ。彼らは世界の注目を集め、遠い木製へと旅立ったのだった。それが、どうしてこんな不運に巻き込 まれたのか…。地球との交信が途絶え、ジェームズを失って、一同にはどうしても重苦しい空気が流れる。しかしそれも、目の前に巨大な木星とエウロパの姿が 迫ってくるや、いつの間にか雲散霧消している。エウロパの分厚い氷の下には、間違いなく海が眠っている。そしてその海には、生命が隠れている可能性が高 い。残された5人の飛行士たちは、溢れる好奇心を隠せなかった。しかし心配がひとつ。エンジニアのアンドレイが、先に起きた不幸な出来事以来、心を病んで いるようなのだ。これが普段の状況ならば、何も心配することはない。しかし本来の計画では、アンドレイは一人でエウロパ周回軌道を回る母船に残って、着陸 船でエウロパを探査する残りのメンバーを待っていることになっていた。しかし挙動不審で精神状態が不安定なアンドレイを、母船に一人残して大丈夫か。言っ ちゃ悪いが、一人でパニクって地球に帰りはしないか。そんな不測の事態を恐れた一同は、アンドレイも着陸船に乗せることにしたのだった。こうして母船から 着陸船を切り離し、エウロパ着陸を目指す。しかしちょっとしたアクシデントから、本来予定していた地点より少し離れた場所に着陸してしまった。それでも何 とか気を取り直して、調査を始めようとする一同。まずは分厚い氷に穴を開けて、そこから氷の下の海に無人探査機を送り込もうというわけだ。ところがそんな 時、あのアンドレイが慌てた声を上げた。「今、窓の外に何か光るモノが動いた!」…。

みたあと

 映画が始まってすぐ、この映画がエウロパ探査の際に収録された記録映像によって構成されている…というような、「お約束」の文句が画面に出てきた。そうか、やっぱりか! あの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999)、「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008)、最近だったら「クロニクル」 (2011)…などなどで毎度お馴染みの、「記録映像を元に構成された映画」というジャンルの一作だ。この手の作品、「映画としては邪道だ」などと巷では すこぶる評判が悪い。しかし僕は別にこのスタイルの作品は嫌いじゃないし、結構見ているのだ。そうは言っても昨今ではこの手の映画があまりに氾濫してお り、宇宙モノでも「アルマズ・プロジェクト」(2007)や「アポロ18」 (2011)など、すでにいろいろ出ている。こうも同種の映画が多く作られ、それらが必ずしもすべて良い出来映えとは言い難いとなると、さすがの僕も ちょっと食傷気味と言わざるを得ない。そうは言っても、僕としては絶対に自分では行けない見ることの出来ないエウロパを疑似体験したいわけで、こういう 「記録映像もどき」映画のスタイルであることは、狙いとしては「アリ」だ。だから何だかんだ言って、映画が始まるやワクワクしちゃったことは否定できな い。

ここか らは映画を見てから!

こうすれば
  ただ、どうしたもんだろう、この訳の分からない構成は。映画のオープニングは、「エウロパ1」の探査が始まったばかりなのに、いきなり打ち上げ前の記録映 像へとさかのぼる。さらに途中をすっ飛ばして、「何か」があって地球との交信が途絶えて、乗組員も一人欠けてしまったのに、その「何か」を描かないまま意 味ありげにお話は進んでいく。後々まで見るとそれは特に何の意味も持たないと分かるので、二重に訳が分からない。その「何か」は、映画後半に次々起こるエ ウロパ上でのアクシデントとは直接何の関係もないのだ。これは一体何なのだ。単に乗組員と見ている観客にイヤ〜な予感を抱かせるためだけの設定。しかも、 映画の時制をいじくった意味はまったくない。これはホントに訳が分からなかった。

みどころ

  では、つまらなかったのか…と言えば、少なくとも僕は大いにエンジョイしてしまった。こういう映画はキライじゃないし、エウロパの生命を探索するって実際 にそういう計画があったとしても夢中になっちゃうだろう。何よりも、エウロパの凍り付いた表面の上空にポッカリと浮かぶ巨大な木星…という絵柄を見せてく れただけで、僕にとっては十分オツリが来ている。この絵を見せてくれただけで満足だ。そして、意外にも充実しているキャスト陣も見もの。実は例のシャル ト・コプリーしか見る前には知らなかったのだが、さりげなくあの「ドラゴン・タトゥーの女」(2011)の元ネタである「ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女」(2009)に主演したミカエル・ニクビストが出ていたりして、地味は地味なりに充実しているらしいのだ。もっと驚いたのは、船長の役として「香港国際警察」(2003)、「ワンナイト・イン・モンコック」(2004)、「新宿インシデント」 (2009)などでお馴染みの香港スター、ダニエル・ウーが出てきたこと。こんな作品でまさかダニエル・ウーと出会えるとは思わなかったから、ビックリし たし得した気分。これは良い意味でサプライズだった。そんなこの作品の監督は南米エクアドル出身のセバスチャン・コルデロという人物。何でもアルフォン ソ・キュアロンに目を付けられている注目の監督らしいが、残念ながらそこまでの才能のきらめきは感じられなかったように思う。ラストに一連のアクシデント を引き起こした「モノ」の正体が出てくるのは賛否両論だろうが、正体を見せてもらわなければそれはそれでスッキリしないだろうし、出てきたのが例えホタル イカの化け物みたいなモノ(笑)でも僕は許せた。世間じゃこのラストの「正体」を見せない方が良かったとかみんな言うんだろうけど、こういう映画ではそこ は見せなきゃいかんでしょ。「映画通」な人たちはどこかで聞いたふうなことを言うけど、それは違うと思う。この点だけは譲れない。というか、そもそもこの手の映画、僕は絶対にキライ にはなれないんだよねぇ(笑)。

さいごのひとこ と

 ワカサギみたいに穴から釣れれば楽しかったのに。

 

「MUD/マッド」

 Mud

Date:2014 / 05/ 05

みるまえ

  昨今、何かと注目のマシュー・マコノヒー主演作。しかも本作公開後にはオスカー主演男優賞最有力の情報も飛んできて、ますます注目度は増してきた。しかし ながら本作は、なぜか妙に細々と上映されているのが気になってはいたのだ。宣伝コピーの文句は、“批評家大絶賛!現代版「スタンド・バイ・ミー」”。「批 評家大絶賛」という文句ですでにトホホな感じだし、「スタンド・バイ・ミー」も別に好きな映画じゃないのでピンとは来なかったが、要するにマコノヒー演じ る謎の男と少年たちとの交流があって、そこに何やらダークな色合いがあるみたいだ。ならば興味が湧かなかったのかといえば、実はチラシをひと目見た時から 気になって気になって仕方なかったから不思議。これは理屈じゃないのだ。ところがなかなか見ることができず、公開終了直前に何とか滑り込みセーフ。感想文 がこんなに遅れたのは、例によって僕の怠慢である。

ないよう

  アメリカ南部アーカンソー州のミシシッピ川流域。まだ暗いうちから、川べりのボートハウスを一人の少年が抜け出してくる。少年の名はエリス(タイ・シェリ ダン)。彼がボートハウスの窓から中をのぞくと、中では父(レイ・マッキノン)と母(サラー・ポールソン)が何やら陰険な雰囲気でにらみ合っている。どう やらこれがいつものことらしい。エリスは途中で親友のネックボーン(ジェイコブ・ロフランド)と落ち合い、彼の運転するバイクで二人乗り。さらに森を抜け てモーターボートで川へと繰り出す。ここはミシシッピ川河口付近。二人がボートで目指したのは、そこにある小さな島だ。島に上陸して森の中に入っていく と、高い木の上にモーターボートが引っかかっている。そのボートを見上げると、二人の少年はニンマリとした。彼らのお目当てはこれだったのだ。おそらくは 洪水の時にでも流されて来て、この木の上に引っかかったまま残されてしまったのだろう。少年たちにとっては、絶好の秘密基地になり得る物件だ。早速、よじ 登って居心地を確かめる二人。確かに居心地は良かったが、どうもつい最近人がいた形跡があるのが気になる。それでも大いに満足した二人がそそくさと島を立 ち去ろうとすると、ボートのそばに一人の男が立っているではないか。髪はボサボサ、無精ひげ、服も小汚いこの男は、どこをどう見ても怪しい。ネックボーン はあからさまに警戒していたが、エリスはなぜか男の問いかけに答えた。この男は自らをマッド(マシュー・マコノヒー)と名乗り、ヤバイことをやらかして逃 げてきていることを明かす。あの木の上のモーターボートも、この男が現在ねぐらに使っているものだった。マッドは着の身着のままで逃げ出してきていたよう で、二人に何か食べ物を持ってきて欲しいと頼むのだった…。

みたあと

 実は僕は映画に川辺とか湖沼とかが出てくると、無条件で気に入ってしまうタチ。最近ではアルゼンチン映画の「偽りの人生」(2012)も「ハッシュパピー/バスタブ島の少女」 (2012)も、川辺が舞台というだけで気に入ってしまった。おまけにそこに「島」と来ると、ますます気になって仕方がない。だからこの映画は導入部か ら、早くもワクワクドキドキだった。そしてお話がさらに進んでいくと、ますます興味深い展開にどんどん驚かされていくのだ。

ここからは映画を見てから!

みどころ
  映画はこの後、マッドが人を殺したお尋ね者であること、それは彼の愛している女ジェニパー(リーズ・ウェザースプーン)のためだったこと…が説明され、 マッドの面倒を見てきた頑固な老人トム・ブランケンシップ(サム・シェパード)が登場してくる。やがてジェニパーその人も街へやって来て、少年二人(主に エリスだが)はマッドと彼女の「つなぎ」をしてあげようとする。ところがマッドに対する捜査の網はどんどん狭まって来て、彼が殺した男の兄(ジョー・ド ン・ベイカー)も殺し屋を大勢雇って街へとやって来る。その一方で、エリスの両親の関係はますます悪化。また、エリスは年上の女の子メイ・パール(ボ ニー・スターディヴァント)との初恋にときめいたりもする…と、まぁ結構盛りだくさんな展開になってくる。実はこの映画の情報と言えば、マシュー・マコノ ヒーと少年が出てくるということくらいしか知らなかった。こっちはあくまで「地味」な映画を想像していたから、波乱含みの展開とともに、意外なまでの豪華 キャストに驚いた。渋いサム・シェパードが出てくるのは想定内として、何とリーズ・ウェザースプーン、マイケル・シャノン、さらにはスゴイ貫禄のジョー・ ドン・ベイカー御大まで! こんな「小品」然とした佇まいの作品に、これほどの顔ぶれが登場して来るとは尋常ではない。これってどうしたことかと思った ら、何と本作の監督は異色のSFサスペンス「テイク・シェルター」 (2011)を撮ったジェフ・ニコルズではないか。前作とはまったく傾向の違う本作だが、これはこれでまたまた見事な出来栄え。何より導入部がいい。前述 のストーリー紹介は映画のほんのさわりの部分だけでしかないが、その導入部だけでも非常に魅力的だったのであえてそこだけしか書かなかった。この部分だけ で、僕はこの映画を見てよかったと思ってしまったくらいだからね。そしてドラマが進んでいくにつれて、お話はどんどん予想外の方向に動いていく。そして、 ドラマが新局面を迎えるたびに、サプライズ・ゲストみたいにサム・シェパードとかリーズ・ウェザースプーンが出てくるから二度ビックリ。味わい深いが地 味〜な小品に見えて、実はどんどん話にいい意味でのケレン味が出てくるあたりが素晴らしいのである。その一方で、エリス少年がこのマッドとの出会いから、 「男と女」の抜き差しならない関係を実感させられていくことになる。マッドとジェニパーの「ここで会ったが百年目」の腐れ縁とも悲劇的ともいえる恋愛、こ じれてしまった両親の夫婦関係、さらには自分の初恋…と、エリスが一筋縄ではいかない「恋愛」の奥深さを知っていく…という隠しテーマも同時に描かれてい くのだ。これは本当に大変な作品じゃないだろうか。毒蛇に噛まれたエリスを抱えてマッドが病院まで激走…なんて場面も含めて、「地味な小品」のくせに意外 な見せ場がてんこ盛り。もっとビックリしたのは、クライマックスにボートハウスを舞台にした銃撃戦が展開。撃ちまくるサム・シェパードのカッコ良さにも驚 いたが、ここまで来てやっと気づいたのは…これって「西部劇」じゃないのか?ってこと。街にどこからともなく「流れ者」が現れ、事件が起きて、最後に撃ち 合いという展開がモロにそれではないか。さらに、どう見ても悲劇的な末路で終わりそうなところを、力業で主人公を救出しちゃっているあたりも嬉しくなっ た。昨年見た「デッドマン・ダウン」 (2013)にも共通する点だが、「西部劇」的な展開〜強引なまでのアッと驚くハッピーエンド…というあたり、アメリカ映画の良質な伝統が蘇ったような作 品だ。実際このような過酷な設定を作ってラストで主人公を殺しちゃうってのは、シビアでリアルな演出に見えて実はバカでも作れる展開でしかない。シビアな 状況だから破滅しました…なんてお話は、「当たり前」でしかないのだ。ところが最近では、そんな貧弱なストーリーテリングの映画しか作られなくなってし まった。だから本作には大いに拍手を贈りたいと思うのだ。最後になるが、マシュー・マコノヒー演じるマッドも、ミステリアスでインパクトが大。ナマリなの か本人独自のものなのか、独特なセリフ回しが何とも魅力的だ。ともかく、これは間違いなく傑作だろう。

さいごのひとこ と

 子どもの頃に秘密基地ごっこにハマった人は必見。

 

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