「インフェルノ/大火災脱出」

  逃出生天 (Out of Inferno)

 (2014/09/01)


 
見 る前の予想
 つい先日、都内某映画館で「初夏のパン祭り」(笑)と題して、「影なきリベンジャー/極限探偵C+」(2007)、「冷血のレクイエ ム/極限探偵B+」(2011)、「コンスピレーター謀略/極限探偵A+」(2013)…の「極限探偵」シリーズ三部作と、惨殺のサイケデリア (2013)の4作品が公開されたばかりのパン・ブラザース。その新作が早くも公開というから、今年は近年パッとしなかったパン・ブラの当たり年か?
 それはともかく、その作品がどうやらパニック映画らしいというから、ますます興味が湧く。パニック映画というジャンルが好きだということもあるが、ホ ラー、アクション、ミステリーと変幻自在に作品を発表してきたパン・ブラが、パニック映画という新しいジャンルに挑戦したということも興味を引く。
 おまけにタイトルからして、思いっきりタワーリング・インフェルノ(1974)を意識しているのは明らか。「タワーリング〜」が個人的オールタイム・ベストテンに入る僕としては、こりゃ見ないわけにはいかない。
 しかし忙しくてウダウダしているうちに、ついに公開最終日となったある日、慌てて映画館に駆け込んだ。感想文が遅れに遅れてしまったことには、ただただ申し訳ないとしか言えない。

あら すじ

 紅蓮の炎が襲いかかるビル内の火災現場。雑然とモノが散乱し金網に囲まれた室内は、決して非常時に動きやすい場所ではない。そこに決死の覚悟 で飛び込んできた消防隊も、激しい炎に対して苦戦を強いられる。そんなこんなしているうちに消防士の一人が致命的な状態に陥って…と思ったとたん、火は消 されて部屋の照明が灯る。
 実は、これは消防署での訓練の一環。中国は広州をまもる消防隊の、高層ビル内での消火活動を想定した訓練だった。そんなわけで絶体絶命な状態に陥ったことに対し、教官役を勤めた消防士ダーグン(ラウ・チンワン)の叱責が飛ぶ。
 超ベテランのダーグンにとっては、油断は「死」を意味するだけに揺るがせにできないところだが、容赦ないその言いっぷりは若手には少々キツいのも確か。同じ署で消防士を勤める弟のクン(ルイス・クー)も複雑な気分にならざるを得ない…。
 そんなある日、ダーグンとクンは、叔父に呼ばれて話し合いの場を持つ。叔父の話とは、最新技術を駆使した防火セキュリティ事業を興すというもの。その立ち上げに、防火の専門家であるダーグンとクンの兄弟の力が借りたいという話だった。
 早い話がヘッドハンティング。危険でシンドい仕事から、足を洗えるチャンスだ。こんな願ってもない話に、弟のクンは大乗り気。しかしダーグンは「昇進があるから」などと腰が退けていた…。
 それから4年後。
 ダーグンは妻のシーラ(アンジェリカ・リー)をクルマに乗せて、産婦人科へと連れて行くところ。シーラは待望の赤ちゃんを妊娠中。しかし仕事一本槍で家 庭を顧みないダーグンに、シーラは諦めにも似たものを感じていた。だから車内でも、ついついトゲトゲしい雰囲気に。あげくダーグンが消防士を辞めると発言 するが、言ったダーグンも不本意であることがミエミエなうえに、シーラもそんな発言を頭っから信じていない。
 そんなイヤ〜な雰囲気のまま、クルマは産婦人科医のある広州国際商業センターに到着。ダーグンはシーラを降ろして職場の消防署へと急ぐ。
 そんなシーラに追いついた一人の若い男…それはスーツを着てスッカリ見違えるようになった、あのクンだった。
 クンは叔父の事業の話に乗って消防署を辞職。ダーグンと袂を分かって華々しく実業界に乗り出し、防火セキュリティの専門会社を創業していた。
 実は「ある事件」があってから、ダーグンとクンとの間には感情的に溝が出来ていた。だから二人が別の道を歩むことになって以降、彼らはお互い全く顔を合わせることはなくなっていたのだ。
 そんなクンがこの広州国際商業センターにやってきたのは、ここに彼の会社のオフィスを構えたから。そして、今日いよいよその開業記念イベントがこのビルで開かれることになっているのだ。
 多くの招待客を招いての派手なイベントが開催される中、その中心人物として堂々と振る舞うクン。見るからに「いいトコ」のお嬢さんの婚約者マンディ(ナ タリー・トン)も、クンの傍らで微笑んでいる。ハイテク技術を駆使したこのビルの防火セキュリティが、新事業の「売り」であることは言うまでもない。
 一方、妻シーラをビルで降ろして勤めている消防署へと向かったダーグンは、上司に辞表を提出しているところだった。妻に言ったことは決して空手形ではなかったのだ。
 そして、ビルの中にある産婦人科医院では、シーラを看ている医師チャン(チェン・スーチョン)が非協力的な夫ダーグンへの苦言をチクチク。まぁ、シーラの愚痴をたびたび聞いた上の、一種のリップサービスではあったであろうが…。
 さらにこのビルの中では、念願の店舗を開くことになっている女とその亭主と娘、宝石商の下でこき使われている若者とその相棒…などなど、さまざまな人間模様が展開していた。
 そんな広州国際商業センターの高層ビルに異変が起きたのは、地下の空調整備室でのことだった。作業員がちょっと目を離した隙に、大爆発とともに火災が発生した。
 火災報知器作動で事態を掌握したクンだが、想定通りに防火システムが作動しないことに呆然。ともかく婚約者マンディや友人、招待客たちを先に避難させることにする。
 同時にこの火災は消防署にも通報され、あのダーグンが消防隊のリーダーとしてビルに駆けつけるのだった…。


 

 

 

 

 

 

 

こ こからは映画を見てから!

 

 

 

 

 

 



見た 後での感想

 本題に入るか入らないかのところでストーリー紹介を終わらせてしまった。しかし、ここから先はストーリーを文章を説明しても仕方がない。この後は火災と脱出、救助の連続…それだけだ。アクションとスペクタクルの連続で、十分楽しませてくれる。
 で、タイトルからも予想がつくように、案の定「タワーリング・インフェルノ」を大いに意識した作品であるのは明らか。ロープを張って隣のビルに逃れた り、最後に水タンクを爆破して消火を試みるあたり、そもそも主役二人を消防士と背広組にしたあたりに至るまで、「本家」の影響であることは間違いない。完 全に「タワーリング・インフェルノ」リスペクトの本作なのだ。
 そうなると、つい最近やはり「タワーリング〜」をパクって作られた韓国映画ザ・タワー/超高層ビル大火災(2012)が脳裏に浮かんでくる。現代の アジアで超高層ビルの火災を映画化…とくれば、イヤでも共通点ばかりが目につく。しかも「ザ・タワー」は昨年公開の作品だ。比較したくなくともどうしても 比較しないわけにいかない。
 結論から言うと、こちらの作品は「ザ・タワー」とは段違いの出来。もちろん本作の方が数段上の仕上がりだ。


一日の長を感じさせるさすがのパン・ブラザーズ

 先にも述べたように…引き合いに出したら気の毒ではあるが、ちょうど名前が出てきた「ザ・タワー」と比較すると、本作の優れている点が説明しやすい。
 その一例を挙げれば、まずは火災が発生する前の描き方だろうか。元祖「タワーリング〜」からしてそうだが、この手の映画は「グランド・ホテル」形式をと ることが多いため、火災発生までに主要登場人物たちの人間模様を描くのが定石だ。それは本作も「ザ・タワー」も同じだが、描き方にはかなりの差がある。
 「ザ・タワー」は人々が陥っていく悲劇を際立たせたいあまり、とにかく善良で健気な人々ばかりを出そうとする。その善良さ健気さが過度に描かれすぎているので、ウソっぽくてシラジラしくて見ていて寒くなってくるのだ。これは見ていて相当気まずいものがある。
 その点、本作はそういう「善良」「健気」一色みたいな、ウソっぽい描き方はしないところが「大人」だ。例えば、本作には宝石商に酷使されていた二人の若 者が出てくるが、悪人と見えたり愚か者と見えたりしながら完全に切り捨てたりはしない。いざという時ビビって卑怯な行動をしてしまう産婦人科医も、途中で 名誉回復する場面があったりする。そもそもがパニック・スペクタクル映画だから人間ドラマの描き方に限界はあるものの、「ザ・タワー」のように作り物っぽ く薄っぺらくはないのである。さすがにジャンル映画であるホラーを手がけても泣かせるドラマをキッチリ作るパン・ブラザーズだけあって、そこは一日の長が あるわけだ。
 肝心のアクションやスペクタクルの見せ場の質も、両者には大きな差がある。「ザ・タワー」はCGを駆使して派手な場面をあちこち作ってはいるものの、所詮はCGがミエミエ。ピカピカの作り物っぽい場面の連続では、さすがに手に汗握るというわけにいかない。
 これに対して…もちろん本作だってCGは使っているものの、その使い方には断然センスがある。あくまで実写をメインに据えて、CGは隠し味として使っているのだ。基本はパワフルなアナログ・アクション仕立て。そのサジ加減が絶妙なのである。
 そんなこんなで、出来上がりは圧倒的に本作の方が上。というか、そもそもが…カッコつけてる割にはすきま風が吹きまくっている、今の韓流映画を象徴する ような「ザ・タワー」なんて駄作と比較すること自体が失礼だった。さすがに本家ハリウッド製「タワーリング〜」には匹敵しようもないが、駄菓子屋的楽しさ やサービス精神満点の香港製らしく、とにかく文句なく面白い。主役二人を対立させているのもドラマに一本スジを通していて、なかなか見どころ満載なのだ。
 本国では3Dで上映したらしい本作、日本では小規模公開のため3Dで見ることができなかったことだけが残念な点と言えるかもしれない。


パン・ブラがこっそり仕込んだ隠しテーマ?

 そんなわけで「タワーリング〜」の香港・中国版オマージュ映画として、なかなかの面白さを持った本作。パン・ブラならではの娯楽映画作りのスキルとサービス精神が活かされた、なかなかの大作に仕上がっていて安心した。
 むろんそれだけでも十分なのだが、長年パン・ブラザーズ作品を見てきた者としてはちょっと興味深い点も垣間見える。実はいろいろ考えてみると、そちらの方が本作の本当の面白さではないかとさえ思えてしまう側面があるのだ。
 それは、本作に久々に出演したアンジェリカ・リーに関わる部分だ。
 消防士ダーグンの妻の役で出演しているアンジェリカ・リーについては、実は僕もそんなに詳しくない。彼女はマレーシア出身の歌手兼女優で、何よりパン・ ブラザーズの出世作のひとつであるアイ(2002)の主演女優でもある。僕が彼女について知っていることと言えば、ほとんどそれがすべてと言ってい い。
 とにかく「アイ」での彼女は最高に輝いていた。ちょっと薄幸な感じも、適度に男心をくすぐってくれた。あまりに「アイ」での彼女が素晴らしかったので… その後、パン・ブラザーズの兄オキサイドと恋仲になったと聞いて、「さもありなん」と思った。あれはどう見ても惚れた男のまなざしで撮っていたもん ねぇ…。
 正直言ってその後、彼女とオキサイドの仲がどうなっていたのかは知らなかったし、そもそもアンジェリカの映画が日本にあまり来なかったこともあって、彼 女の存在自体を忘れていた。だから今回、久々にアンジェリカ・リーが本作に出演しているのを知って、僕は久々の再会をちょっと喜んだ。何と「アイ」から 12年経っているのにいまだに可愛さは残っている。何よりこうして一緒に仕事をしていることからして、二人は切れてなかったんだねぇ。
 ところがこの感想文を書くためにいろいろ調べていたら、妙なニュースが目に入った。
 何とアンジェリカ・リーとオキサイド・パン夫妻が危機に直面している…というのだ。
 そもそも二人が結婚していることも知らなかったので、「危機」…という話の前にそっちの方で「おっ?」と思ったが、どうも二人は2010年に結婚している らしい。結婚に至るまでもかなり「長い春」だと思えるのだが、それがどうしたことかアッという間に危機を迎えているという。そりゃまた一体どうしたこと だ。
 僕が見た今年の記事によると、どうもオキサイドが不倫した…ということらしい。正直言って、メチャクチャ可愛くて歌手としても売れているアンジェリカ・ リーと、見た目はパッとしない男で肝心の映画も近年ずっとつまらなかった(笑)オキサイドでは、まるで勝負にならない気がする。しかし腐ってもそこはパン・ブラ というか、ハリウッドでも仕事をして近年は「極限探偵」シリーズ三部作が大当たりのオキサイドは、「男」としてもそれなりの「格」…ということになるのだ ろうか。まぁ、こりゃ単なる僕のヒガミだね(笑)。
 記事にはその後のことが書いてないので、二人がどうなったのかは分からない。しかし、どうもアンジェリカとオキサイドが必ずしも円満な夫婦生活を送っているわけではなさそう…ということは、このニュースを見ているだけでも何となく感じ取れる。
 そこに今回の映画だ。これはなかなか微妙ではないか。
 まずアンジェリカ・リー演じるシーラの夫役に、香港俳優ラウ・チンワンがキャスティングされていることが意味深だ。ここではラウ・チンワン演じるダーグ ンが仕事仕事で家庭を顧みず、夫婦生活が暗礁に乗り上げつつあることが描かれている。なぜこれが意味深かというと、実はパン・ブラザーズの弟ダニー・パン が近年撮った「惨殺のサイケデリア」でも、ラウ・チンワンは家庭を顧みない刑事を演じていたからだ。
 これって、本作の製作が弟ダニー主導で行われたということを意味していないだろうか?
 あるいは作品の製作全般とまではいかなくても、少なくともラウ・チンワンのキャスティングに関しては、ダニーの意志で行われているとは見てとれないだろうか?
 そしてもし本作の…少なくともラウ・チンワン起用に関するイニシアティブをダニーが持っていたとするならば、本作の設定そのものが非常に興味深いものに見えてくる。まずは、本作の主人公二人が「兄弟」であったということに注目すべきだろう。
 先にも述べたように、消防士と背広組という主役二人の配置は、明らかに「タワーリング・インフェルノ」リスペクト。しかし、本家ではスティーブ・マック イーンとポール・ニューマンが演じたこの二人を、「兄弟」と設定し直したのは本作のオリジナルだ。もっと重要なのは、この二人…少なくとも途中までは同じ 仕事に従事していた「兄弟」なのである。
 それが、「ある事件」を契機に弟は兄と反目するようになる。その「兄」の妻を演じるのが、なぜか久々に出演のアンジェリカ・リーなのだ。さらに「弟」は その「兄」の妻アンジェリカ・リーを、どこか同情的な目で見ているような演出がなされている。「兄貴は家庭を顧みないような男だからな」と批判的に見てい るような設定なのだ。これは果たして偶然なのだろうか。
 どう見ても純粋な娯楽大作にしか見えない本作だが、実はこっそり「兄弟」のプライベートな問題を中に滑り込ませているのではないか。
 本作ではラウ・チンワンの「家庭を顧みない」態度も、「仕事一途の熱心さ」ゆえという免罪符を与えられている。お話としても「弟」から歩み寄っての和解 となり、妻アンジェリカ・リーも夫の仕事を理解するようになってハッピーエンドだ。何となくラウ・チンワンいい人…みたいな結論で幕切れとなっている。
 しかし、元々のラウ・チンワン起用のキッカケとなったらしき「惨殺のサイケデリア」では、彼の役どころは「家庭を顧みない」などという生易しいものでは なかった。自閉症の息子を毛嫌いしたあげく妻に丸投げ。たまに息子をかまったかと思えば、捜査のために利用するだけ。さらに、彼の横暴は家庭だけにとどま らず、職場でも仕事の怠慢や捏造、責任回避など、かなり卑劣な行為にも及んでいた。元々は家庭も仕事も大事にする男だったはずなのに、なぜか腐敗してし まった男…として描かれ、劇中ではサイコ・カップルにキツいお灸を据えられてもいた。「昔はいい奴だったのに、今じゃダーティな奴になり下がった」設定に なっていた。
 むしろ、こちらの方がダニー・パンの本音ではなかったか
 本作はいくらかイニシアティブをとれたかもしれないが、あくまで兄貴オキサイドと共同のパン・ブラザーズ名義の作品。だからある程度中和させて、穏やか なところに落ち着かせてはいる。しかしその本音は、自らの単独作品である「惨殺のサイケデリア」にあった。だからこそそのヒントとして、「惨殺のサイケデ リア」のラウ・チンワンをキャスティングしたのではないか。
 3Dによるパニック大作としての体裁を持った本作、実は弟ダニー・パンが、兄のオキサイドに苦言を呈するメッセージを込めた、極めて個人的なものではなかったか。
 アンジェリカ・リーとオキサイド・パン夫妻の危機…というニュースを見た後では、どうしても本作にそんな印象を持ってしまうのだ。

 

 

 

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