新作映画1000本ノック 2013年10月

Knocking on Movie Heven's Door


こ のページの作品
「ザ・タワー/超高層ビル大火災」 「ワールド・ウォーZ」 「ディアトロフ・インシデント」 「パラノイド・シンドローム」 「ペーパーボーイ/真夏の引力」

 

「ザ・タワー/超高層ビル大火災」

 The Tower

Date:2013 / 10/ 28

みるまえ

  映画館のチラシでこの作品を見つけた僕は、正直言ってワクワクが止まらなくなった。韓国映画「ザ・タワー/超高層ビル大火災」! チラシのオモテには紅蓮 の炎に包まれた高層ビルと、「シルミド」(2003)などでお馴染み韓国のロバート・デニーロ的存在のソル・ギョング、「殺人の追憶」(2003)で売り 出して、最近では「ハハハ」(2010)などのホン・サンス監督作品ですっかり愚鈍な男が板についちゃったキム・サンギョン、「ラブストーリー」 (2002)以来、一貫して「清純派」(笑)として売っているソン・イェジン…の3人の絵柄。最近の韓国映画じゃ珍しく、聞いたこともないイケメン俳優とかじゃなくて僕にも見知った俳優の顔が並ん だ、いかにも「オールスター・キャスト」的な雰囲気。これはこれは、どう考えても韓国で「タワーリング・インフェルノ」(1974)を作ってみました的な 作品であることは間違いない。そうなってくると、元々パニック映画…中でも「タワーリング・インフェルノ」が大好きな僕としては黙っていられない。何とな く泥臭くてセンスがないつまんない作品になるんだろうなと思っていても、見ないわけにはいかないのである。だから公開早々、映画館に飛んで行った。それな のに感想文がこんなに遅くなったのは……云々、以下同文。

ないよう

  「ソウルのマンハッタン」汝矣島(ヨイド)に、地上108階建ての超高層複合ビル「タワースカイ」がそびえ立つ。居住部分と商業施設とに分かれ、2つの隣 接するビルが途中で渡り廊下で結ばれたツインタワー構造。完成したばかりの「タワースカイ」は、そのお披露目を今日のクリスマスイブに大々的にブチ挙げよ うとしていた。ビルの保安責任者イ・デホ(キム・サンギョン)は男手一つで育てている幼い愛娘ハナ(チョ・ミナ)をビルに呼んで、披露パーティーで一緒に 過ごすことを計画。そんなデホは展望レストランのマネージャーのソ・ユニ(ソン・イェジン)に密かに想いを寄せているが、彼の気持ちは同僚にはミエミエ だ。そして肝心のユニは、パーティーの準備に大わらわ。しかし居住区の住人であるユン老人(ソン・ジェホ)と同じ居住区に住むことになる老婦人との「老い らくの恋」の仲をとりもつ心配りも忘れてはいなかった。一方、そんな「タワースカイ」の喧噪とは裏腹に、所轄の消防署・汝矣島署では、新人消防士イ・ソヌ (ト・ジハン)が配属されて初々しい張り切りを見せていた。着いて早速、先輩消防士のからかいの洗礼を受けるソヌだが、“伝説の消防士”と呼ばれる大先輩 カン・ヨンギ隊長(ソル・ギョング)の前では大緊張。そんな新人ソヌを、署長(アン・ソンギ)以下ベテラン消防士たちは微笑ましく見守っている。そんなヨ ンギ隊長は、妻とクリスマスイブを祝おうと珍しく休暇を希望していた。いつも過酷な重労働ぶりを見ている隊員たちは、ヨンギ隊長に早く帰宅しろと促す。一 方。デホとイブを過ごすためにやって来た一人娘ハナは、父親が多忙なためにレストランに置いてけぼり。それでも彼がユニに想いを寄せていることを瞬時に見 破り、自分の相手をしてもらいながら仲良くなろうと作戦を練り始める。レストランの厨房では新入り料理人インガン(キム・ソンオ)がアタフタしっぱなし。 それでいてインガンは、受付で働く恋人ミンジョン(イ・ジュハ)にプロポーズしようと必死だ。居住区では横暴な国会議員(パク・ジョンハク)が入居してい るが、この妻(パク・ホヨン)がまたすこぶるつきの傲慢女。飼い犬が絨毯の上にしたフンを掃除婦に拾わせようとして、思い切り恫喝するクズっぷりだ。そん な特権階級意識に凝り固まった連中がいると思えば、初めて豪華な住まいに住めると大ハシャギの司祭キム(イ・ハンウィ)と無邪気に喜ぶ彼の信徒たちもい る。さらにくだんの掃除婦は大学生の息子に愛情を注ぐが、息子はそんな彼女の気持ちが分からない親不孝者だ。まさに「タワースカイ」そのものが、巨大な人 間模様の舞台のようだった。そんなてんやわんやの中で、実は「予兆」は起きていた。レストランで想定外のボヤ騒ぎが起きていたのだ。部下みんなに嫌われる チャ室長(チョン・インギ)は、ユニに当たり散らしてギャーギャーと大騒ぎ。しかし問題は、ビル全体にまだ十分な安全対策がなされていないことだ。それで も、今さら予定は変えられない。披露パーティはスケジュール通りに強行されることになり、嫌な予感を感じたデホは「ないよりはマシ」な消化器の手配に奔走 する。ところが「タワースカイ」の上層部は、とんでもないことを考えていた。オーナーのチョ会長(チャ・インピョ)がパーティーを盛り上げるため、派手な 演出を計画していたのだ。それは10機のヘリコプターがタワー周囲を旋回して、人工雪を降らせるという「クリスマス・プレゼント」。当日の気流の状態がよ くないと不安視する者もいたが、チョ会長は話題作りのために無理を承知で強行することになる。日も暮れて夜のとばりも降りた頃、豪華な招待客も多数招いて 「タワースカイ」の披露パーティーがスタート。その宴たけなわの最中に、問題のヘリコプター群がどこからともなく現れる。ヘリはそれぞれ巨大な大きい装置 をぶら下げており、そこから白く光る粉雪が振りまかれる。それを見たパーティーの招待客は、文字通りの「ホワイト・クリスマス」に歓声を上げる。チョ会長 もしてやったりのドヤ顔だ。しかし、そのドヤ顔も長くは続かなかった。ビルの周りを旋回していたヘリコプターのうち一機が気流に煽られ、大きく振り回され たあげくビルに突っ込んでしまうではないか。突っ込んだヘリは爆発して、一気に火災が発生してしまう。たちまちビル内は大パニック。妻とクリスマスを過ご す予定だったヨンギ隊長も、予定を急遽変更して汝矣島署の仲間たちと出動だ。あってはならない事…ハシゴが届かない超高層ビル「タワースカイ」の火災とい う、想定外の災厄が起きたのである!

みたあと

  やたら長ったらしいストーリー紹介になってしまったが、実はこれでやっと話は始まったばかり。火災が発生して、ようやく本題に入ろうとしているところだ。 何しろ「オールスター・キャスト」である。込み入った人間模様が描かれなくてはならないから、やたらと登場人物が多い。それらにチョコチョコしたエピソー ドが伴うから、それを説明するのに手間取ってしまったのだ。いやぁ、書くのが大変だった。何が大変って…どれもこれもつまんないエピソードばかりだから、 これらを書いていくのが気乗りがしないことしないこと。そしてそれこそが、この映画の最大の致命傷なのである。
ここからは映画を見てから!

こうすれば
  善意の人たちの小さな幸せやいろいろな思いを、巨大な運命が押しつぶす…いや、分かるよ言いたいことは。基本的にはアメリカのパニック映画、それこそ「タ ワーリング・インフェルノ」なんかでも同じことをやっている。やっているんだけど、その結果と質には雲泥の差がついてしまっていると言わざるを得ない。こ れって例えば「ブラザーフッド」(2004)とか「マイウェイ/12,000キロの真実」(2011)で、ドラマが激しい戦争アクションに入っていく前の 平和な状況を描いている場面にもどこか似ている。そういや映画本体は見ないでパスしちゃった「TSUNAMI/ツナミ」(2009)なども、予告編のそう いう「市井の人々の人間模様」は寒々しくってウンザリした。ズバリ言っちゃえばキレイごと過ぎてウソ臭いし、とってつけたようで安っぽい。幼稚でショボ過 ぎて見ちゃおれないのである。まぁ、今回の作品は出来が良いとは言い難いSFサスペンス3D大作「第7鉱区」(2011)のキム・ジフン監督による演出だ から、ドラマ部分があまり感心できないのも仕方ないかもしれない。しかし、それなりの実績もあるカン・ジェギュの「ブラザーフッド」「マイウェイ /12,000キロの真実」ですら同様であるとなると、これはハッキリ言っては失礼だが韓国映画に共通する弱点なのかもしれない(そのあたりを言えば、た ぶん日本映画もかなりダメなのではないかとも思えるのだが…)。妻とクリスマスを過ごそうとしていたソル・ギョング消防士のエピソード(その妻の貧乏くさ い容貌にはさらにショック!)なども、もっと何とかならなかったのだろうか。シラジラしさもここまで来るとスゴイ。あの「ペパーミント・キャンディー」 (2000)から「力道山」(2004)までの激しい演技の振れ幅を誇った「韓国のデニーロ」ソル・ギョングが、「タワーリング・インフェルノ」でいえば スティーブ・マックイーンの役どころを演じているのもビックリだが、あれ程の名優がこれほど活かされていないのも二度ビックリ。ソル・ギョング、一体どう してこの映画に出たのだろうか。よっぽどギャラが良かったのか。それで言うなら「第7鉱区」に続いてあの伝説的スターのアン・ソンギが、このヘボ監督の作 品に出演しているのにも驚く。近年は「酔画仙」(2002)とか「黒水仙」(2002)みたいにすっかり脇で支える「重鎮」化してしまったアン・ ソンギは、今回もわざわざ出てくるまでもないような役で登場。ただ突っ立っているだけでもったいなさ過ぎる。韓国映画はこの大スターをどうして活かせない のか。チャラいイ・ビョンホンとかじゃなくて、本来ならこの人がハリウッドに行くべきだろう。残念でならない。そして「タワーリング・インフェルノ」を引 き合いに出したついでに言えば、あちらではポール・ニューマンに当たるポジション(役としては保安担当だからO・J・シンプソンなのかもしれないが)とな るべきキム・サンギョンが、近年のホン・サンス映画に出てきた時のような愚鈍さでモタモタしているのもガッカリ。そして本作の悪役といえば、やめりゃいい のにヘリコプターのアトラクションをブチ上げて火災の原因を作ったり、血迷って防火シャッターを下ろしたあげく中にいる人を犠牲にしたビルのオーナー…と いうことになるのだろうが、こいつの「悪事」もこれっぱかしでチョロッとしか出てこないし、劇中で断罪されて悲惨に焼け死ぬとか上から重いモノが落ちてき て潰されて死ぬとか、そういうカタルシスがないのもいけない。こういう映画では悪役は一番残酷な死に方をしないといけないのに、そこが不十分だから不完全 燃焼な気がしてくるのだ。他のオールスターの面々も推して知るべしで、もったいない使われ方しかしていない。では、アクション、スペクタクルが見せ場の映 画なのか…といえば、確かにその通りのはずなのだがこっちの方も物足りない。確かにCG技術は相当なモノだが、所詮CGはCG。いくら立派に見えても「立 派なCG」でしかない。CGにしか見えない時点でダメなのだ。素朴な技法とはいえ巨大なビルのミニチュアセットを建造し、そこに点火して破壊してしまった 「タワーリング・インフェルノ」には重量感の点でまったく敵わない。おまけに3時間近くの上映時間で見せ場見せ場のつるべ打ちだった「タワーリング〜」に 対して、こっちはたかだか2時間の上映時間でおまけにモタモタした「人間ドラマ」がもっさりとついてくる。これじゃ見せ場も全然乏しい。勝負にならないの だ。しかも「伝説の消防士」としてプロ中のプロであるべきソル・ギョングが、事もあろうに起爆装置のリモコンを落としてしまうという間抜けなチョンボぶ り。それがラストの「特攻」の悲壮感を演出するためとはいえ、バカっぽく見えてしまうのはマズいだろう。犬死に感がスゴイし、そもそも「特攻」で終わるっ て結末はいかがなものだろうか。そう考えるとそもそも脚本がボロボロってことなのだろうが、これほど高額予算を投入したであろう作品が、ほとんど無駄遣い に終わっているのが情けない。韓国映画バブルもいよいよ終焉なのだろうか。

さいごのひとこ と

 火がついてるのは監督の尻。

 

「ワールド・ウォーZ」

 World War Z

Date:2013 / 10/ 21

みるまえ

  夏の映画の感想文を今頃アップするのも、あまりに間が抜けて気が引けるが仕方がない。ブラッド・ピット主演のこの映画は、秘かに僕のこの夏最大の期待作 だった。何だか「ももいろクローバーZ」みたいなタイトルもおかしくていい(笑)。「週末ヒロイン」ならぬ「終末ヒーロー」ってことかね(笑)。ある朝、 主人公が一家総出でクルマに乗っていて、街の中心部で渋滞に巻き込まれる。ところが何やら異常事態が起きたらしく…という何ともサスペンス溢れる予告編も 素晴らしい。「異常事態」とはどうもゾンビの大量発生らしく、だから「ワールド・ウォー“Z”」なのか。今さらゾンビ大発生映画なんて珍しくもないが、そ れを「デイ・アフター・トゥモロー」(2004)や「2012」 (2009)みたいなローランド・エメリッヒ風大パニック映画に仕立てているらしい感じが新しいし、面白そうだ。早い話が大バカ映画なのだが、大バカ映画 だからこそ見てみたい。そんな訳で居ても立ってもいられず、公開早々に飢えたゾンビのように劇場に駆け込んだ。それを今頃感想文をアップするなんて、気の 抜けたビールのようで情けない。この映画の持つ活気や勢いを削いでしまうようで、申し訳ない限りだ。

ないよう

  夫婦が眠っている寝室に、忍び寄る何者かの影…。襲いかかってきたのは、二人の娘たちだ。ジェリー・レイン(ブラッド・ピット)と妻カリン(ミレイユ・ イーノス)の一家に、ありふれた朝がやって来た。たたき起こされたジェリーとカリンは、長女レイチェル(アビゲイル・ハーグローヴ)と幼い次女コニー(ス ターリング・ジェリンズ)を急かしながら朝の支度を始める。特にレイチェルはぜんそく持ちなので、吸入器を忘れないように気をつけなければならない。ジェ リーは妻と娘たちをワゴン車に乗せて、彼女たちを職場や学校に送り届けるべくハンドルを握る。ここはフィラデルフィアの街。車は中心街へとさしかかってい たが、すぐに街の真っ直中で渋滞にハマってしまった。仕方なく車内で親子で他愛もない会話をしていたジェリーだが、そのうちに何か異変が起きていることに 気づく。上空を何機ものヘリコプターが飛んでいるし、白バイがジェリーたちの車の横を通過する際に、あまりに慌てていたせいかバックミラーを壊していくで はないか。これは何かがおかしい。慌てて車外に出て後方を見てみると、何やら騒ぎが起きているらしい。また後方からやって来た白バイ警官が、「車外に出る な!」と叫んでくる。ところが次の瞬間、その警官は後ろから突っ込んできたデカいトラックに吹っ飛ばされてしまった。これは確かにヘンだ。ジェリーはデカ いトラックが暴走して出来た隙間に、慌てて車を前進させていく。後方では大勢の人々が大騒ぎしながら走り出していた。街はパニック状態だ。そのうち暴走し ていたトラックが別の車に衝突して大破。ジェリーたちの車もそれに巻き込まれて動かなくなった。後ろからは逃げまどう人々が突進してきたが、その中に明ら かに異質な集団が…。目つきも様子も異常な人々が、もの凄いスピードで人々を追いかけてくるのだ。彼らは人々に追いすがると襲いかかって噛みつき、あるい は停まっている車に自らの頭を打ち付けてガラスを破ろうとする。これを見たジェリーたち一家は、慌てて車から出て逃げ出した。しかしジェリーは彼本来の習 性から、逃げながらも追いすがる「異質な連中」の様子を観察してもいた。連中に噛みつかれた人間が、やがて自ら狂いだして暴れ出す…これはまさにゾンビの 習性ではないか。そして、噛まれた人間が自ら「ゾンビ」として暴れ出すまでかかる時間はおよそ12秒。ジェリーはそれだけ確認すると、乗り捨てられた別の ワゴン車に家族を乗せ、慌ててその場を逃げ出した。車を全速力で突っ走らせるジェリーだが、どこかへ行く当てなどない。ところがその時、ジェリーの携帯が 鳴った。電話の相手はジェリーのかつての上司、国連事務次長のティエリー・ウムトニ(ファナ・モコエナ)だ。彼はジェリーに「ニューヨークまで来れる か?」と聞いてくる。ニューヨークまで来れば、彼をヘリコプターで助け出せるというティエリー。しかし、それは善意からではないともティエリーはクギを刺 した。この異常事態に、ジェリーの力が必要なのだと彼は言った。実はジェリーは、かつては紛争国で調停役を務めていた国連職員であった。あまりにハードな 仕事に疲れて、その仕事から離れたばかりだったのだ。しかし、今はそんなことを言っていられない。たったひとつの希望である、ティエリーの申し出を聞くし かない。そして、ここへきて困ったことも発覚。何と朝からあれほど言っていたのに、レイチェルが吸入器を前の車に忘れて来てしまったのだ。どこかで薬屋に 寄って吸入器を調達しなくてはならない。ニューヨークを間近にしたところで、大きなドラッグストア前に車を停める。一家でドラッグストアに乗り込んだジェ リーたちだが、店の中はさまざまな品物を漁る人々で大混乱だ。何とか吸入器は確保したものの、人々に襲われそうになったジェリーは、家族を守るために車内 で見つけたライフルで脅さなくてはならなかった。そんなこんなで何とか店の外に出たジェリー一家だが、案の定、すでに車は消えていた。このままでは危な い。しかも街は徐々に暗くなろうとしていた。そんな中、近くの高層アパートに明かりがついた部屋が見える。あそこなら何とか助かるのではないか。一縷の望 みを託して、そのアパートまで走っていくジェリー一家。途中でゾンビたちが人々を襲う様子を目撃するが、ジェリーはひとつだけ気になる光景を目にした。そ れはアル中らしくフラフラのホームレスがろくに動けずにいるのに、なぜかゾンビたちは見向きもしないで通り過ぎて行くことだ。しかし今は立ち止まって考え ている時ではない。再びティエリーから携帯に連絡が入ったが、ヘリコプターでの救出は早くても明日の朝になると言うのだ。こうなると、それまで何とかしの ぐより仕方がない。ジェリーたちは何とか例のアパートにたどり着き、ゾンビたちを振り切って階段を駆け上がる。運良く問題の部屋を見つけることが出来た ジェリー一家は、部屋の主たちに招き入れられて何とか事なきを得た。その部屋は、トミー(ファブリツィオ・ザカリー・グイド)という少年をはじめとするヒ スパニック系の一家が住んでいる家。ラジオでは屋内にじっとしているように放送しているので、彼らはあくまでこの部屋に籠城する構えだ。ジェリーは一緒に 逃げようと誘うが、彼らの意志は覆らない。こうして夜が明けて翌朝、ジェリーはナイフをライフルの先端にくくりつけて銃剣にして、自らの手足にガムテープ で雑誌を巻いて噛まれても大丈夫なように完全防備。決死の覚悟でアパートの部屋から出て行く。こうして何とか屋上めざして階段を上がっていくジェリー一家 だが、早速ゾンビたちが感づいて駆け上ってきた。妻子を守るために戦うジェリー。何とか屋上に上がって入手していた信号弾を発射すると、それを見てヘリコ プターが近づいてくる。戦った際に返り血を浴びたジェリーは、自らいつでも飛び降りる覚悟でビルの突端に立つ。幸運なことに12秒待っても何とか発病せず に済んだ。ところがゾンビたちは屋上にも殺到してくるではないか。その中に、先ほど別れたばかりのエスパニック系の一家の主人が混ざっているのは、悲劇と しか言いようがなかった。それでもその惨劇からトミーがかろうじて逃れて来ていたのは、まさに不幸中の幸い。ジェリー一家とトミーはすでにヘリに乗り込 み、ジェリーも最後にヘリに飛び乗った。狂ったゾンビたちは飛び立とうとするヘリに追いすがり、次から次へとビルの屋上から飛びつこうとして下に転落して いく。その光景に愕然とせずにはいられないジェリーだった。ニューヨークはあちこちのビルから火災が発生し、まるで戦時下のような状況だった。ヘリはそこ から海上に向かい、沖合に停泊しているアメリカ海軍の軍艦の上に着陸した。ここは臨時の避難所となっており、助け出された人々でごった返していた。何とか 一家の休む場所を確保できたジェリーは、ティエリーに打ち合わせの場へと呼び出される。この軍艦は緊急の対策本部ともなっており、国連職員を中心に、現状 の分析とこれからの対策を協議していたのだ。部屋には大きなディスプレイが掲げられ、そこには現在の被害状況が刻々と表示されている。ゾンビたちはウイル スによる伝染病の産物で、その数は爆発的に増加し続けている。これは全世界的な現象で、すでにローマやモスクワとも連絡がとれなくなっていた。アメリカで も大統領は死亡、副大統領は行方不明という状況で、もはや政府は消滅したも同然。このままでは人類が滅亡してしまう。指揮系統がかろうじて生きているの は、この軍艦をはじめとする一握りの人々だけだ。だから、この人々が何とかしなくてはならない。この指揮本部には、ウイルスの専門家たちも集められてい た。その中に、若く天才的なウイルス学者アンドリュー・ファスバック博士(エリス・ガベル)もいた。彼はウイルスを発見してクスリを開発するためには、 「最初の患者」を見つけ出す必要があると力説した。その発生は韓国の米軍基地から最初に「ゾンビ」と報告されたとのことから、韓国に赴いて調査する必要が あるとファスバック博士は説く。問題は、このような状況下で誰が博士を現地に連れて行くのか。そこでジェリーの出番だとティエリーは言う。紛争地帯での経 験が豊かなジェリーなら、ファスバック博士を危険な現場に連れて行くことができるというのだ。米海軍特殊部隊ネイビーシールズも同行するとはいえ、せっか く安全を確保したばかりのジェリーは当然困惑する。しかし、命令を聞かなければ家族をこの船から降ろすとティエリーから脅されれば、ジェリーもどうするこ ともできない。その話をジェリーに聞かされた妻カリンも難色を示すが、今さら船から下りるわけにもいかない。こうしてジェリーはどこでもカリンと連絡がと れる衛星携帯電話を渡され、C130輸送機の機上の人となる。機内でのファスバック博士は、緊張のためか饒舌だった。今回の件についても、少々皮肉な口調 で彼なりの見解をジェリーに語ってくれた。ファスバック博士に言わせれば、神はどこかサイコキラーに似ている。自分が行った犯行の証拠を、どこかに残して 人に見せずにはいられないのだ…と。今回の大災厄を解決するためには、その思いも掛けぬヒントを見つけなければならない…。そんなこんなで、輸送機は米陸 軍基地ハンフリーズ駐留地に到着。一行の先行きを予言するかのように、憂鬱な土砂降りの雨が降っていた。輸送機からおそるおそる下りようとしている一行 に、案の定、ゾンビたちが襲いかかる。必死に応戦するシールズたちだが、その立ち回りの最中に最悪の出来事が起きてしまう。事前にジェリーが厳重注意して いたにも関わらず、ファスバック博士がトチ狂って自ら拳銃を誤射して死んでしまうではないか…。

みたあと

  ここまでかなり詳しくストーリーを書いてきてしまったが、この映画、とにかくこの冒頭部分が秀逸。思い出してもワクワクしてしまう展開なのだ。実はこの後 からはかなり話の運びが荒っぽくなり、いわゆるバカ映画になっていく(笑)。僕はそっちの方もキライじゃないので楽しんで見たが、人によっては評価が割れ るかもしれない。ともかく、導入部としては素晴らしいとしか言いようがない。冒頭にも書いたように、ローランド・エメリッヒ風大げさパニック映画の「大風 呂敷」広げた感じが嬉しい。ところがこの映画を見る直前に、何と監督が僕の「鬼門」であるマーク・フォースターと知ってビビってしまった。そのことに映画 館に着いてパンフレットを読むまで気づかなかった僕も情けないが、マーク・フォースターが監督と知っていたらこんなにワクワクして映画館まで来たかどう か。何しろフォースター、「チョコレート」(2001)でグンと評価が上がった人だがあの作品自体がちょっと微妙な部分を持っていたし、その後もどうにも偽善的な語り口が目立ってイヤだった。ダニエル・クレイグ主演で息を吹き返した007シリーズの「007/慰めの報酬」 (2009)にしても、悪くはないが今ひとつモタモタしていた。そのくせ「こんなシリーズなど一作つくれば十分」とかコメントするし、大した監督でもない のに上から目線が鬱陶しい。本当に気分の悪い男だったのだ。最近、特に自分でプロデュースまでする映画が良い味出してるブラピだが、フォースターなどと組 んで大丈夫なのか。夏の楽しい大バカ映画に、変な屁理屈や偽善を持ち込んで台無しにしやしないか…とヒヤヒヤ。しかし冒頭部分を見て、それは杞憂だったと 胸をなで下ろした。いやいや、ホントに面白いのである。そして、何よりつまんない理屈とか偉そうなテーマだとかが微塵もないのが素晴らしい。そんなものは クスリにもならない。ただただハラハラドキドキする夏休み映画を、大真面目に大げさに作ってくれている。それが何より素晴らしいのだ。今回の映画の成功 は、マーク・フォースターが偉そうに自分の考えなんか入れなかったのが良かった。というより、今回の作品の脚本家3人のうち、ドリュー・ゴダードとデイモ ン・リンデロフは評判のテレビシリーズ「LOST」の脚本も手がけており、前者ゴダードは「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008)や「キャビン」(2012)、後者リンデロフは「プロメテウス」 (2012)や「スター・トレック/イントゥ・ダークネス」(2013)の脚本に関わっている人物。つまり、何かと仕掛けがあってクセのある娯楽作を手が けてきた脚本家たちなのだ。マーク・フォースターはかなり後から企画に参加したとも聞いているし、これはおそらく脚本に余計な手を加えないで撮ったのがお 手柄だったのか(笑)。いや、僕は結構真面目に言っているのである。
ここからは映画を見てから!

みどころ
 昔ながらのゾンビ映画も最近は手が込んできて、「バイオハザード」(2002)とか「28日後…」(2002)みたいにSF的な味付けが主流になってきた。この作品も当然そっちの流れの延長線上にあるわけだが、さらに前述したようにローランド・エメリッヒ風パニック映画のスケール感を加えたところが嬉しい。というか、「アウトブレイク」(1995)や「コンテイジョン」 (2011)といった「パンデミック(感染拡大)」サスペンス映画とでもいえばいいだろうか…要するに、ゾンビ映画にもっともらしさを補強したという感じ (所詮はゾンビをあえて「Z」と呼んでいるあたりも意識的だ)。それだからこそ、A級娯楽大作の風格も出てきた。しかしながら、冒頭でそうした「もっとも らしさ」「スケール感」をどーんと打ち出した後は、意外にも吹っ切れたバカ映画っぷりを前面に出して突き進むからビックリ。何しろゾンビが活発なこと活発 なこと。普段はフラフラしているが、何か音を聞きつけてからの突進ぶりが笑える。いや、活動的なゾンビだったらすでに「バイオハザード」で登場してきた し、「28日後…」ではゾンビが全力疾走してきて驚かされたが、ここではそれに加えてゾンビが車のフロントガラスに頭を打ち付けてくるというパンク・ロッ クみたいな暴れよう(笑)。おまけに、人海戦術を駆使した巨大人間ピラミッドまで形成するから笑える。何でこいつら妙にチームワークいいんだよ(笑)。僕 はこの映画を3Dで見たが、ゾンビの上にゾンビが乗っかってさらにそのまた上にゾンビ…という猛スピードの人間ピラミッドも凄ければ、バスを横倒しにした ゾンビたちがその上にどんどん乗ってさらに乗り越えていくといった荒技も繰り出すあたりも、3Dならではの飛び出し効果もあって迫力満点。何だか「少林サッカー」(2001)や「カンフーハッスル」 (2004)といったチャウ・シンチーのアクション・コメディ映画みたいで、見ていて大いに嬉しくなった。真面目な顔してもっともらしく作った超大作だけ ど、実はやっぱり単純でバカバカしい納涼化け物映画ってところが最高なのだ。しかも、あれほどうるさく言ってたのに吸入器を忘れるとか、せっかく学者を現 場に連れて行ったのに銃の暴発で自爆しちゃうとか、ゾンビに囲まれ緊張して逃げようとしているところに携帯に女房の空気読めない電話がかかってくるとか、 サスペンスのキッカケがすべてドリフのコントみたいな間抜けなエピソードってところも笑える。いやあ、これってギャグとちゃうの(笑)? そして何より 笑っちゃうのがブラピ演じる主人公で、世界がこんな状態なのにも関わらず、アメリカ〜韓国〜イスラエル〜イギリスとジェームズ・ボンドなみの八面六臂。し かも何度も何度も九死に一生を得て、飛行機が墜落しても生きてる「ダイ・ハード」ぶり。冷静に考えればどう考えても後半は荒唐無稽にも程がある展開なのだ が、それもこれも…冒頭だけはキッチリと「それなり」の構えでシリアスに作ったから。そこさえリアルに作ってお約束を決めておけば、後はかなりテキトーに やっていても何とかなる。カネのかかったくだらなさが何より素晴らしい。これを大金投じて作ったブラッド・ピットには、プロデューサーとしてのセンスを感 じる。今回は、ウダウダ言わずに脚本通り撮ってくれたマーク・フォースターにひたすら感謝だ(笑)

さいごのひとこ と

 ブラピはゾンビにならなくても不死身(笑)。


 

「ディアトロフ・インシデント」

 The Dyatlov Pass Incident

Date:2013 / 10/ 14

みるまえ

  お久しぶりレニー・ハーリン監督の雪山サスペンスがやって来た! 僕がたまたまネットでこの作品の情報を見つけた時、まず分かったことはこれだけだった。 レニー・ハーリンで雪山と来れば、いやが上にも「クリフハンガー」(1993)の面白さを期待してしまう。しかしそれにしては、この公開に先立っての事前 情報のなさ、渋谷の単館でのレイトショー公開という冷遇ぶりが引っかかる。まぁ、しかしハーリンは一時期大型予算の映画を立て続けに大コケさせて低迷。一 番最近に僕が見たハーリン映画が「ザ・クリーナー/消された殺人」 (2007)とかなり地味なように、近年はすっかり鳴りを潜めている状態のようだ。そうなると「クリフハンガー」ばりにハデな大作というわけにはいかない か。そもそもこの作品の情報をアレコレ漁っていくと、どうもこの映画って過去の旧ソ連におけるナゾの遭難事故を元に、その真相を見つけるために雪山にやっ て来たチームの顛末を描くというお話らしい。ややや? それってことは…何とな〜く、あの「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」 (1999)のコンセプトに似てるんじゃないのか? それにしても、雪山、旧ソ連、「ブレア・ウィッチ」タイプの映画…と、僕が無視できない要素が満載で 何とも楽しそうなのだが、唯一気になるのはレニー・ハーリンって「ブレア・ウィッチ」タイプの映画と相容れる感じの映画作家じゃないってところ。まさかス トレートに「ブレア・ウィッチ」スタイルで撮ってるわけじゃないだろうと思っていたが、キャストも見慣れない名前ばっかりだから、どうやら本当に「そっ ち」系の映画っぽい。大丈夫なのかこの映画。そうは言っても、いろいろ分かってくれば分かってきただけ見たくなってくる。そんなわけで、居ても立ってもい られずにレイトショーに駆けつけたというわけだ。

ないよう

 1959 年、旧ソ連ウラル山脈で、登山者たちの遭難事故が起きた。雪山に登った9人の男女学生が全員遺体で発見されるという痛ましい事故だったが、問題はその死に 方。全員バラバラに発見され、それぞれほとんど下着姿や裸の状態だった。しかも、舌を抜かれた遺体や外傷はないのに内臓に損傷を受けた遺体、さらには強い 放射能を浴びている遺体があるといった、謎めいた状態で発見されていたのだ。この出来事は「ディアトロフ峠事件」と呼ばれ、冷戦下の旧ソ連という特異な状 況の中、ほとんど情報が公開されずに封印されたまま忘れられていった。それから半世紀あまり経って、このミステリアスな事件の真相を新たに解明しようとす る者が現れた。そのチャレンジャーは、アメリカの大学生男女5人。彼らは当時の遭難者の足取りを追体験してドキュメンタリー映画を撮影すべく現地に赴いた が、間もなく消息を絶ってしまう。彼らの身に一体何が起こったのか…真相は闇の中へ消えていくと思われたが、やがて彼らが撮影していたものと見られる映像 が、ハッカーたちの手によってネット上に公開された。この映画は、その映像を再構成したものである…。元々は、心理学のマーサ・キトルズ教授(ジェーン・ ペリー)が極限状況を探る題材として授業でこの事件のことを取り上げたのが事の発端で、これによって心理学専攻の女子大生ホリー(ホリー・ゴス)が調査を 決意したのだ。彼女が相棒に選んだのは、映画作家志望のオタク学生ジェンセン(マット・ストーキー)。彼は何かと言えば陰謀史観に凝り固まって、今回も旧 ソ連の政府の陰謀などとまくしたてるのが玉にキズ。しかし今回の調査旅行を、逐一映像で記録するためには欠かせない人間だ。録音は、マイクブームを長時間 支えても弱音を吐かない女子大生デニース(ジェマ・アトキンソン)。そして雪山に挑むにあたっての心強い味方として、寡黙な登山のベテランJP(ルーク・ オルブライト)とイケメン登山家アンディ(ライアン・ホーリー)の二人。彼らは意気揚々とロシアに乗り込み、まずは当時の遭難者たちの仲間で、唯一の生存 者の話を聞きに行く。この人物はなぜか精神に異常を来たしていて入院中とのことで、一行はわざわざ病院まで足を運ぶ。しかし病院ではなぜか面会を拒まれ、 つまみ出される羽目になってしまった。ところが病院の建物を見上げると、問題の男と見られる老人が何やら大きな紙にロシア語の文字を書いて、彼らに何かを 伝えようとしているではないか。一体、彼は何を伝えたかったのか? それでも一行は学生ならではの楽天性とバカさで明るさを失わず、調査の成功を祈って地 元の酒場で乾杯する。そこで知り合った現地の男のクルマに乗せてもらい、たまたまこの男が知っていた遺体の第一発見者に会いに行くことになる。このアー リャという老婆(ヴァレリー・フェドロビッチ)は当時の発見の模様を一同に語ってくれたが、ただひとつ気になる点が…。それは老婆が発見した遺体の数を、 11人と言ったことだ。11人?…9人じゃないのか? 一同は不審に思って確かめるが、老婆は頑として訂正しない。果たしてこれは高齢によるボケか物忘れ なのか、それとも…。さて、いよいよ一行は問題のディアトロフ峠目指して登山を開始。ところが最初こそ楽しい雪山登山だったが、徐々に雲行きが怪しくなっ てくる。特にヤバかったのは、彼らの周囲で奇妙な足跡が発見されたこと。一体何者が彼らの周りを徘徊しているのか? しかもこの巨大な足跡の持ち主とは?  もっとヤバかったのは…途中にあった計測小屋に、引っこ抜かれた人間の舌が置かれていたこと! これは一体何者の仕業なのか? さすがに事ここまで至る と、調査隊メンバーももはや「一丸」となってはいられない。そろそろ引き返した方がいいんじゃないか、調査は中止した方がいいんじゃないか…と騒ぎ出す者 も出てくる。しかし今回の言い出しっぺであるホリーは、何が何でも初志貫徹。そんなこんなしている間に、問題のディアトロフ峠に到着してしまった。もはや 日も暮れようとしていて、今さら帰るにも時間が遅すぎる。とりあえず今日のところはこの場所でテントを張って…と一同を説得。ホリーはジェンセンを連れ て、ドキュメンタリー映画の撮影を本格的にスタートさせる。すると、ガイガーカウンターで放射能計測をしているうちに、峠のそばで雪の中に埋もれた奇妙な 金属の扉を発見するではないか。しかしホリーは、一緒に扉を発見したジェンセンにこのことを他の者たちに口外しないように頼み込む。今、この扉の存在を他 のメンバーに知られたら、彼らはすぐにこの場を逃げ出そうとするだろう。そうなったら、せっかくここまでたどり着いたのに、ここまでの努力が水の泡だ。そ んなわけで、何もなかったように峠で一夜を過ごす彼ら。おかしな気分になったアンディとデニースは、テントの中で一戦を交え始めた。ところがどこからとも なく物音がして、突如雪崩が発生。慌てて逃げ出した彼らだが、運悪くアンディとデニースは逃げ遅れて雪崩に巻き込まれてしまう。結果としてデニースは即死 し、アンディも足に深手を負って歩けないというアリサマ。信号弾を撃って救援を呼ぶと、幸いなことにこちらにやって来る人々の姿が見える。しかし、ホリー たちは途中で気が付いた。救援に駆けつけるにしてはあまりに早すぎる。雪崩を起こしたのは彼らではないのか? 案の定、その連中は彼らに向けて銃を撃って くるではないか。泣く泣く重症のアンディを置いて逃げ出すホリー、ジェンセン、JP。しかし、見渡す限りの雪山に逃げる場所などない。否、あの金属の扉が あった! 慌てて固く閉ざされた扉を開いて、中に逃げ込む3人。しかし逃げる途中で、JPは銃弾を浴びていた。しかも扉の中は、どこまでも暗く広がった不 気味な空間だ。一体この場所は何なのか? どうやらかなり古くから作られた何らかの施設のようだが…。しかも真っ暗なその「施設」の中には、何か得体の知 れない存在がうごめいている気配が…。

みたあと

 結論から言うと、案の定、「ブレア・ウィッチ」タイプの映画だった。「食人族」(1981)、「REC/レック」(2007)、「アルマズ・プロジェクト」(2007)、「クローバーフィールド/HAKAISHA」(2008)、「アポロ18」(2011)、「ダイナソー・プロジェクト」 (2012)などと同じく、「探検者」たちが撮った映像「だけ」で構成したかたちをとった疑似ドキュメンタリー・タッチの作品。あの大味大作が大好きだっ たレニー・ハーリンとしては、極めて異色の作品だ。しかし冒頭にも述べたように、僕が最後に見たハーリン作品「ザ・クリーナー/消された殺人」はかなり地 味な作品。このように、近年のハーリンはとても勢いがあるとは言いかねる状況であるようだ。調べてみると、最近はテレビの仕事ばかりで食っているらしい。 そんな彼にとって久々の「本編」仕事がこの作品。実はこれも純粋アメリカ映画ではなくて、アメリカ・イギリス・ロシアの合作だ。だからこの世知辛いご時世 に、レニー・ハーリンに映画を撮らせようということになったのかもしれない。しかしハーリンも久しぶりに「本編」が撮れると喜んだら、いきなりデジタルビ デオカメラで撮らされるハメになってお気の毒と言えばお気の毒(笑)。さぞやガッカリしたのではないだろうか。そうは言っても、僕はそもそも雪や氷が出て くる映画が大好き。おまけにサスペンスと来れば、ジョン・カーペンターの「遊星からの物体X」(1982)や最近のケイト・ベッキンセール主演「ホワイトアウト」 (2009)を思い起こしてワクワクしてしまう。そして「ドクトル・ジバゴ」(1965)など旧ソ連の出てくる映画も大好き。さらに僕は、普通の映画ファ ンからは「邪道」と毛嫌いされる「ブレア・ウィッチ」タイプの映画も大好きだから、この作品などは僕にとって「ご馳走」だと言い切っても構わないほど。少 々の不出来は目をつぶってもいいと、かなり興奮気味でスクリーンと対峙していたのだ。雪山における旧ソ連時代の奇っ怪な事件…その真相追求を目指した疑似 ドキュメンタリー構成の映画といったら、これ以上僕の好みにフィットした映画はないではないか(笑)。あと付加価値をつけるとしたら、イマドキならドウェ イン・ジョンソンを出すぐらいしか手がない(笑)。そんなわけで、映画は意気揚々と脳天気にロシアに乗り込むアメリカの学生たちを描いていく。ところが楽 しい調査登山が、途中からイヤ〜な雰囲気に一変。それでも何でも登山続行を主張するヒロインのホリーは、そのリーダーシップのなさ、無謀さからいっても、 「ブレア・ウィッチ」のリーダー女とイイ勝負(ついでに言えば、最後に「全部ワタシが悪かったのぉぉぉ〜」と泣きべそかいてるのまで同じで笑ってしまっ た)。こういう映画のリーダー格のキャラクターは、こうでなくちゃいけない。予想通り最悪の展開に突き進んで、いよいよ犠牲者も出る。これからどうなるん だ…と思っていたら、お話は僕の予想の遙か上まで突き進んでいくではないか!
ここからは映画を見てから!

みどころ
  途中までは過去の事件を振り返りつつ調査登山。そして彼らの身にも事件が降りかかる。慌てて彼らが奇妙な扉の中へと逃げ込んだところから、お話は「第2 部」に突入したカタチとなる。ここからは真っ暗な「施設」を舞台にした、モンスターと戦うサスペンス・アクションへと変貌していくのだ。これがなかなか気 色悪い。そして、レニー・ハーリンならこうでなくちゃいけない。疑似ドキュメンタリー・スタイルを維持しなきゃならないのでカメラワークには不自由さがあ るのだが、それでもモンスターが出て来て画面がアクティブになると、グンと映画がイキイキしてくるのである。これだけでも僕にとっては一粒で二度オイシイ 映画って感じだったのだが、実は本作はこれだけでは終わらない。最後の最後、とんでもない仕掛けを持ち出してくる。この雪に埋もれた施設は、旧ソ連が秘密 実験をしていた施設だった。その秘密実験とは…というあたりで、かなり濃厚なSFテイストにお話が転換。さらにさらに、生き残った二人が最後に選択した道 が何とも過酷で、何とも衝撃的な結末を迎える。ここまで見て僕は、思わず「やられた!」とビックリしてしまった。実はモンスターが何をやってどう生きてい るのか…というお話の大前提から、小道具として終盤に重要な役割を果たすデジタルビデオカメラまで、少々つじつまが合わないことも多い。そしてレニー・ ハーリンの「映画屋」としての性分からか、疑似ドキュメンタリー的なカメラワークをついつい逸脱しちゃっている場面もいくつか散見できる。だから映画とし ての完成度から見れば、あちこち破綻しちゃっていると言えなくもない。しかしこのラストの「オチ」は、さすがにうまくやったなと感心せずにはいられなかっ た。明らかに凡百の疑似ドキュメンタリー作品を突き抜けたような、卓抜した発想なのだ。そして、見た後で何とも言えない余韻が残る。さすがレニー・ハーリ ン、腐ってもナントカ…じゃないが、見せてくれるのだ。やはりこの力業でねじ伏せるような無茶な展開、大技のハッタリ感は、「ダイ・ハード2」(1990)からイケイケで押していたハーリンならではのもの。正直、これには素直にかなり感心してしまった。

さいごのひとこ と

 ハーリン、まだまだ死んじゃいないぜ。


 

「パラノイド・シンドローム」

 The Letter

Date:2013 / 10/ 14

みるまえ

  ウィノナ・ライダー、ジェームズ・フランコ主演で、ある劇団の芝居に新顔の役者を招いたところ、いろいろ奇妙な出来事が起こり始める…というようなサスペ ンス映画らしい。この作品まったく宣伝されておらず、僕はネットでたまたま発見して見に行くことにした。僕は元々バックステージもののお話は大好きだし、 ウィノナでバックステージもののサスペンスと言えば、つい最近も「ブラック・スワン」(2010)という傑作があったばかり。スキャンダルまみれになってからのウィノナってこんなアブない映画ばっかり…という残念さはあるものの、とにかく彼女とジェームズ・フランコの名前に惹かれてレイトショーに駆けつけた次第。

ないよう

  どうしてあんな事になってしまったのか…。すべてあのニューヨークでの日々が原因だった。女性劇作家マーティーン(ウィノナ・ライダー)は、今まさにオフ ブロードウェイで新作戯曲を上演するべく準備の真っ最中。夫の俳優レイモンド(ジョシュ・ハミルトン)、女優のジュリー(キャサリン・ウォーターストー ン)、アニタ(マリン・アイルランド)といった毎度お馴染みの気の置けない仲間たちと稽古を開始したところだが、今回は特に新進の若手俳優タイロン (ジェームズ・フランコ)を迎えて意気軒昂だ。そんなわけで、みんなで稽古している劇場に駆けつけてきたタイロン。今日は挨拶だけ…のはずが、早速稽古に 参加したいと意欲的。ところがその途中で早くもタイロンはマーティーンの演出に異議を唱え出す。まぁ、しかしそこは新進俳優の「やる気」だろうとマー ティーンも余裕で受け止めた。その後の和気藹々の飲み会で打ち解けるだろうとタカをくくっていたが、これがまたいけない。ここでもタイロンはどういうつも りか知らないが、アニタにいいがかりめいた一言を放つ。当然奇妙な空気になってしまうが、それでもマーティーンは気にしなかった。彼女は役者タイロンを大 いに買っていたのだった。だから夫のレイモンドの前でもタイロンをベタホメ。それを聞かされているレイモンドは果たして何を思っていたのか…。それから続 けられていく稽古は迷走に次ぐ迷走。脚本の設定もまるで気まぐれのように変えられていく。マーティーンも不思議と気分がすぐれなくなってくるが、ある時、 夫婦の家に戻った彼女は、レイモンドの鞄から大量の薬物が出てきたのに唖然呆然。その薬は、大量に服用すると精神に異常をきたしかねないシロモノだった。 果たしてこの薬物は…。そんな不安定な状態のマーティーンに、取材の申し込みが来る。早速、近くのカフェでその女性記者(ダグマラ・ドミチェク)の取材を 受けるマーティーンだが、彼女の答えは支離滅裂だ。そんな状態の中、彼女は自分がインスピレーションを受けたモノについて語り始める。それはある日本の風 習についての話だ。亡くなった者に思いを伝えるべく、したためた手紙を折って舟を作り、それを水に浮かべる…。しかしすぐに彼女は具合が悪くなり、取材を 途中で中断して帰宅した。ところがその後、記者が取材直後に交通事故にあって瀕死の重傷であるとの連絡が届く。劇団の空気は悪くなる一方で、マーティーン が話をできる相手はタイロンひとりだけ。しかしそのタイロンは、ひそかにジュリーとも関係を持つようになっていた。稽古は混迷の一途を辿り、レイモンドは タイロンに対して不審の目を向ける。そのうちマーティーンは劇の設定を大幅に変えて、役名をすべて演じる俳優の本名にすることに決めてしまった。もはやそ の場の誰一人として、マーティーンの正気を信じる者はいない。当のマーティーン自身ですら、今の自分が夢なのか現実なのかをまったく把握できなくなってい たのだった…。

みたあと

  和気あいあいでうまくいっていた集団に異物が混入することで、すべてがメチャクチャになっていく。あるいはその集団に隠されていた偽善やウソが暴かれてい く。その手のサスペンス・ドラマは洋の東西を問わず数多くある。ここではジェームズ・フランコをジョーカーのカードにして、そういうお話を展開してくんだ な…と最初は思ったわけだ。それならそれで面白そう。ウィノナ演じるヒロインはその状態の中で孤立して、単身戦いを挑むってことになるんだろうと思ったわ けだ。ところがどうしたことだろう。お話はそこから先、停滞しっぱなしになってしまうではないか。
ここからは映画を見てから!

こうすれば
  確かにジェームズ・フランコが加入してからは劇団内の雰囲気が悪くなっていくのだが、彼が直接何かやったらしいのはその最初だけ。その後はなぜかウィノナ が勝手におかしくなっていく。というか、実際には僕ら観客には何が起こっているのかよく分からないのだ。なぜなら、すべての設定が放置されてしまうから。 夫の鞄から薬物が多量に出てくる。しかし、それが精神に異常をきたす薬物であるとどうしてヒロインは知ったのか。すでに異常になり始めているらしいヒロイ ンに、自身の異常は察知できていたのか。すべてが舌足らずだから、唐突でこじつけな印象が強い。しかもその後に鞄を見たら、薬物はすべてなくなっていた。 これはウィノナの幻覚か、それとも彼女を狂わせようとする陰謀か。ところがこういう趣向はこれっきりになってしまうから、先にまったく発展しない。フラン コは劇団の女に手を出すが、それもそれ以上に発展した形跡がない。次々手を出しておかしくするというなら意味もあるのだが、何でそんなことをしたのか分か らない。ウィノナに取材した記者が事故に遭ったあたりでサスペンスドラマらしくなってくるが、それだってその後犯罪らしきことは一切起きないから、一向に 盛り上がらない。単に酔っぱらいの戯言みたいなウィノナがヨレヨレになった姿が延々出てくるだけ。フランコはあまり活躍しないのだ。そもそもウィノナのそ れまで書いてきた作品が個人的な感情を投影したものだったのかそうでなかったのか…すら語られないから、バックステージものならではの怖さも出てこない。 最後に唐突に真相みたいなモノが出てくるが、意外は意外だけど何でそうだったのかも分からないし、仮にそうだからってもうこっちの関心はなくなっているか らどうでもいい。ウィノナが記者に語った日本の手紙のエピソード(これが原題の「レター」の意味だろう)も、ラストに意味ありげなショットが出てくるから 大切な意味があったのだろうが、正直言ってよく分からんです。すべてにわたって説明と練り上げが足らない脚本・監督のジェイ・アナニアはもう映画撮っちゃ いけないレベル。これじゃ単に「ウィノナはやっぱり病気だな」と観客に思わせちゃうだけになってしまう。

さいごのひとこ と

 ウィノナが芝居に見えなくてツライ(笑)。

 

「ペーパーボーイ/真夏の引力」

 The Paperboy

Date:2013 / 10/ 14

みるまえ

  この映画のことは、映画館のチラシで知った。ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザック…と超豪華な顔合わせ。主役のザック・エ フロンという若い役者は知らないが、名前だけはどこかで聞いたことがあるようなないような。暑苦しいアメリカ南部を舞台にしたサスペンス劇と来れば、何と なく鬱陶しい話になりそうって予想がつく。南部ではなくフロリダを舞台にしているが、やはり暑苦しさを強調した「白いドレスの女」(1981)ではキャス リーン・ターナーという「ファム・ファタール」が出てきたが、こっちでもニコール・キッドマンが「性悪女」ぶりをたっぷり見せてくれそうだ。これは絶対見 なければ…と公開早々に見に行ったのだが、感想文は例によってベタ遅れに遅れてしまった。

ないよう

  ある中年黒人女性がインタビューを受けている。その女性の名は、アニタ・チェスター(メイシー・グレイ)。彼女は1969年に起きた、ある出来事について 語り始める…。当時、アニタ・チェスターはアメリカ南部の田舎町の一家・ジェンセン家で女中として働いていた。ジェンセン家の家長WW・ジェンセン(ス コット・グレン)は、町の地元紙の編集発行人。WWと再婚間近のエレン・ガスリー(ニーラ・ゴードン)という年増女がこの家に入り込んで来ていて、家の中 には微妙な空気が漂っている。この家の長男ウォードは家を出て、マイアミ・タイムズの事件記者として活躍中。家に残る次男のジャック(ザック・エフロン) は大学では水泳部で活躍していたが、訳あって退学させられてしまった。仕方なく現在は、父の会社の新聞を配達する「ペーパーボーイ」として働いている。ど こか自分を持て余してしまっているような若者だ。そんな一家と次男ジャックの生活に大きな変化が生じることになったのは、ある殺人事件が発端だった。地元 でも人種差別主義者で有名だった白人保安官サーモンド・コール(ダニー・ハーネマン)が殺された事件だ。この事件の犯人はすぐに捕まったが、その「真相」 について取材するためにジェンセン家の長男ウォードが家に帰ってくることになる。クルマで彼を出迎えに行ったのは、次男のジャックだ。しかしジャックの前 に現れたのは、兄のウォード(マシュー・マコノヒー)一人ではなかった。彼のマイアミでの同僚、ロンドン出身の黒人記者ヤードリー・エイクマン(デヴィッ ド・オイェロウォ)が同行してきたのだ。おまけにこのヤードリーという男、どこかジャックをバカにした態度をとるので、車内の雰囲気は悪くなる。それでも ウォードから、彼らがこの町で取材する際の「助手」として手伝ってくれ…と言われれば、ジャックだって悪い気はしない。そんなこんなでその夜、ジェンセン 家の夕食に招かれたウォードとヤードリーだが、案の定その場の会話は微妙な雰囲気となった。そんなウォードとヤードリーの狙いは、保安官殺しの犯人とさ れ、死刑囚として捕らえられているヒラリー・ヴァン・ウェッターという男の「冤罪」の可能性を調べること。ウォードとヤードリーはジェンセン家のガレージ に、即席の取材オフィスを構えた。ジャックの助けを借りてアレコレと取材準備に明け暮れているその最中…あの「運命の女」はやって来た。その女の名は シャーロット・ブレス(ニコール・キッドマン)。どこかハデで身持ちが悪そうなシャーロットと出くわしたジャックは、ひと目見て彼女に強烈に惹きつけられ てしまう。そんなシャーロットは、まさに問題のヒラリー・ヴァン・ウェッターのことでやって来た。狭い町だ。ウォードとヤードリーがヒラリーの「冤罪」を 調べに来た話はすでに広まっていた。ウォードとヤードリーの前に現れたシャーロットは、自分をヒラリーの「恋人」であると自己紹介した。シャーロットとい う女は少々風変わりなところがあり、獄中の囚人たちと文通するのが趣味。ヒラリーとも文通で知り合い、意気投合して「恋愛」にまで至ったという。彼女は箱 一杯に詰まったヒラリーとの手紙を持参して、ウォードとヤードリーを激励した。ウォードとヤードリーは、このシャーロットを連れてヒラリーとの面会に臨む ことにする。彼らを刑務所までクルマで連れていく運転手は、言うまでもなくジャックだ。ジャックはその途中、何度もシャーロットに関する夢想にふける。彼 はすっかり一目惚れしてしまったのだ。そんなこんなで刑務所に到着。一同の前に現れたヒラリー当人(ジョン・キューザック)は、粗野で下品な男だった。 ウォードとヤードリーは何とか事件に関する話を引き出そうとするが、ヒラリーはそんなことに構わずシャーロットを言葉責め。あげく彼女の股を開かせて白昼 堂々とんでもないことをさせようとする。あげく人前だというのに自らを慰めるヒラリー。さすがにこれにはジャック、ウォード、ヤードリーともドン引きせざ るを得ない。この事件での有罪無罪はともかく、このヒラリーという男、ロクでもない男であることは間違いない。それでもウォード、ヤードリーによる調査は 徐々に進んでいき、シャーロットと顔を合わせる機会が多くなったジャックは、彼女にどんどんのめり込んでいくのだった…。

みたあと

  劇場でパンフを買って、僕は初めてこの作品の監督が、「プレシャス」(2009)のリー・ダニエルズであると知った。実はこの「プレシャス」についても未 見なので偉そうなことは言えないが、オスカーの作品賞候補に上っていたことから名前だけは知っていたのだ。その「プレシャス」は、確かある黒人少女の壮絶 な私生活を扱った内容だと聞いている。そして今回の作品と同じく、たぶんアメリカ南部を舞台にしたお話だったと記憶している。リー・ダニエルズにとってア メリカ南部とは、例えばかつてのマーティン・スコセッシにとっての「ニューヨーク」みたいに、何らかのこだわりがある土地なのだろうか。そんなアメリカ南 部といえば…僕は一度も行ったことはないが、この地球上で北朝鮮と同じくらい絶対に行きたくない土地である。「アメリカ南部」と聞いただけで、脳裏に漂う イヤ〜な雰囲気。しかしそれでいて「アメリカ南部」を舞台にした映画と聞くと、イヤなんだけど見たいという不思議な気分になってしまう。あの「どんよりし た」イヤ〜な感じに、妙にそそる部分があるのだろうか。今回はそこに豪華キャストが乗っかってくるから、ますます期待してしまうのだ。その期待は、かなり な部分で満たされたといっていいだろう。
こ こからは映画を見てから!

みどころ
  期待通り、あの「どんよりした」イヤ〜な感じはたっぷり味わえた。正直暑苦しいというだけで僕としてはウンザリな土地柄なのに、臭いまで漂ってきそうな感 じ。「冤罪」の疑いが出てきた死刑囚に面会に行けば、いきなり女の股を開かせて自家発電。この死刑囚の身内が住んでいるのが、南部でお約束の沼地だ。沼地 にはこれまたお約束のワニがウジャウジャいる。そして沼地に住む死刑囚の身内一家は、貧しく教養も知性もない「原住民」みたいな連中だ。いわゆる「プア・ ホワイト」というのだろうか、それ以上に「底辺」の人々って感じだ。こうして「どんより」気分の中で展開するミステリー話と「運命の女」への初恋物語。僕 は豪華キャストとともに十二分に楽しんだ。中でも素晴らしいと思ったのは、劇中で意外な一面を見せるマシュー・マコノヒー。軽妙な二枚目も出来る人だが、 最近はしたたかな男の面をアピールして役者としての進境著しい。その中でも今回の役どころのダークぶりは、注目に値するのではないか。先日見た「バーニー/みんなが愛した殺人者」 (2011)と並んで、硬軟どちらもいける「南部男」ぶりに驚かされたが、それもそのはず…本人がそもそも南部出身だそうだ。道理で「感じ」を出している 訳だ。実質上の主人公は「ペーパーボーイ」というタイトルだけあってザック・エフロンが演じる若者。これは可もなし不可もなしといったところ。ニコール・ キッドマンはいかにも身持ち悪そうなビッチ年増ぶりだが、せっかくの大スターなのに最近はこんな役ばかりでちょっとお気の毒。「イノセントガーデン」 (2013)も含めて、この人のスター生命としては危ないのではないか。スター生命危うしと言えばジョン・キューザックもそうで、確か公開が控えてる作品 が揃いも揃って悪人か異常者というテイタラク。今回も真に迫った「プア・ホワイト」ぶりで、真に迫っているからこそ役者生命に関わりそうな気がする。映画 としては期待していた「どんより」「暑苦しさ」が味わえて、大いに僕としては満足したのだが…。

さいごのひとこ と

 キッドマン、キューザックの将来が人ごとながら気になる。


 

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