新作映画1000本ノック 2013年9月

Knocking on Movie Heven's Door


こ のページの作品
「31年目の夫婦げんか」 「偽りの人生」 「ホワイトハウス・ダウン」 「ベルリンファイル」 「ワイルド・スピード EURO MISSION」

 

「31年目の夫婦げんか」

 Hope Springs

Date:2013 / 09/ 23

みるまえ

  あのメリル・ストリープとトミー・リー・ジョーンズが熟年夫婦の危機を演じると聞けば、正直言ってちょっと心が動かないでもない。いいトシこいた男女のエ ゲツない話になっちゃう可能性も大だが、あのメリル・ストリープ主演ならさすがにお下劣なところまで落ちないだろうし、「恋するベーカリー」(2009)という成功例もあるからいいんじゃないだろうか。おまけにこの二人に加えて「リトル・ミス・サンシャイン」(2006)や「ラブ・アゲイン」 (2011)でグイグイ売れてきたスティーブ・カレルが共演しているというから楽しみ。この二人とはかなり芸風が違うが、いずれも芸達者な連中だから楽し ませてくれるのではないかと期待は大きい。僕はかなり安心して、映画館へと足を運んだわけだ。例によって感想文がベタ遅れになったのは申し訳ない。

ないよう

  ネブラスカ州オマハ市の住宅街。ケイ・ソームズ(メリル・ストリープ)とアーノルド・ソームズ(トミー・リー・ジョーンズ)の二人は、結婚31周年記念日 の前夜を迎えた。そんなケイはなぜか悲壮感漂う表情で、夫アーノルドの寝室に向かう。実はケイとアーノルドの二人は、もう長いこと寝室を共にしていない。 そこで記念すべき夜に夫の寝室で一緒に寝よと提案するケイだったが、それを聞いたアーノルドは及び腰。昼に食べたポークで胸焼けしてどうの…と意味の分か らない言い訳をしながら、アーノルドはケイの提案をやんわり退けた。それを聞いたケイは、悲しく沈んだ表情で自分の寝室に戻っていく…。翌朝、ケイは朝食 をアーノルドに用意するが、彼は新聞を読みながら黙々と食べるだけ。妻に話しかけもしないし、そもそも一顧だにしない。食べ終わるとサッサと出勤していく 始末。その夜の二人の結婚パーティーには子供たちも訪れて賑やかになったが、彼らがケイに結婚プレゼントを尋ねると「家のケーブルテレビのチャンネルを増 やしてもらった」と身もフタもない返事。子どもたちは唖然とするものの、アーノルドは蛙の面にションベンの表情だ。その後、子どもたちが帰った後には、 アーノルドはテレビをつけたまま眠りこけている。ケイはそんなアーノルドを起こして、二人別々に寝室へと消えていくのだった…。そんな毎日に味気なさを感 じるケイは友達に「結婚生活って改善できるだろうか?」と尋ねるが、色よい返事は返ってこない。本屋に「結婚」に関する本を探しに行ったケイは、そこで バーニー・フェルド博士という人物が書いた結婚本にブチ当たる。「これだ!」と本を購入したケイは一気に読み終え、鼻息荒くあることを決心する。それは、 フェルド博士指導による1週間の滞在型夫婦カウンセリングへの参加だ。その夜、ケイはこのカウンセリングについてアーノルドに提案するが、彼はただただ驚 くばかり。おまけにすでに申し込んだと聞いて二度ビックリだ。こうなると「必要ない」「もったいない」と抵抗するアーノルドだが、珍しくケイは譲らない。 「あなたが来ないなら私一人でも行く」とあくまで強気だ。翌朝、驚くアーノルドを横目にケイはサッサとスーツケースを持って出発。さすがにこれにはアーノ ルドも根負けだ。すでにケイが乗り込んで離陸を待っていた飛行機に、アーノルドもブーブー言いながら慌てて乗り込んできた。作戦勝ちしたケイは、満面の笑 みを浮かべる。こうしてやって来たのは、メイン州の海沿いにある小さな町グレート・ホープ・スプリングス。その町のたたずまいにうっとりするケイだが、 アーノルドはブーたれっぱなし。ホテルでもケイの期待をよそに、アーノルドはベッドに寝ないでソファで一人寝てしまった。さて、翌朝からカウンセリング開 始。嫌々ながらケイに連れられてアーノルドもやって来る。現れたバーニー・フェルド博士(スティーヴ・カレル)はあれこれと夫婦のことを聞いてくるが、そ もそもアーノルドはそれが気に入らない。うまくいっているのに余計なことを言うなとばかりに、反抗的な態度を崩さない。それから続くカウンセリングの間 も、アーノルドは終始フェルド博士に文句ばかり。フェルド博士の「今晩抱き合ってください」という「指示」を聞くや否や、アーノルドはついにブチギレ。と ころがそれを見たケイも限界を突破。「ひどい!」と泣いて部屋を飛び出してしまう。これにはさすがにアーノルドもバツの悪さを感じざるを得ない。一人で町 をほっつき歩くケイは、とあるバーへと足を運ぶ。そこは荒くれ者の漁師たちが集まる店で、鉄火肌の女バーテン(エリザベス・シュー)が切り盛りしていた。 いかにも場違いなケイに女バーテンが声をかけると、「私たち夫婦はもう5年もセックスをしていない」とこぼす。すると、女バーテンは周囲の漁師たちに「こ の中でセックスしていない人は?」と手を挙げさせる。たちまち店中の男たちが、元気いっぱいに手を挙げるではないか。これはショゲていたケイに対する、女 バーテンの粋な計らいだった。そんな優しい心遣いに、ケイも思わず笑顔になるのだった。その夜遅く、やっとホテルに帰ってきたケイ。そんなケイを心配して 待っていたアーノルドは、初めて彼女に協力する姿勢を見せて、彼女を抱きしめながら一緒にベッドで眠るのだった…。

みたあと

 この作品を見る直前に買った劇場パンフレットを見たら、ジャック・ブラック主演「ビッグ・ボーイズ/しあわせの鳥を探して」 (2011)のデビッド・フランケルが監督。この人、実はストリープの近年での最大のヒットとなった「プラダを着た悪魔」(2006)も撮っているという ことが分かったが、こちらの作品は残念ながら僕は見ていない。「ビッグ・ボーイズ〜」に関して言えば、近年マンネリがひどかったジャック・ブラックが、久 々に良い味出している映画として記憶に新しい。だとすると、こいつは面白いんじゃないか…と、期待してスクリーンと対峙することになる。映画が始まって描 き出されたのは、典型的な倦怠期の夫婦生活。まるで日本の…団塊世代の夫婦みたいな関係だ。これにはちょっと驚いた。レディー・ファーストで嫁さんを大事 にしないとやってけないと聞いていたアメリカで、しかも低所得者層でも教養がない訳でもなければ田舎でもない「普通の夫婦」。それなのに「嫁さんを一顧だ にせず新聞を読みながら朝飯食うダンナ」とか、まるで昭和の日本の夫婦みたいなやりとりが展開するとは…。あの「向こうの夫婦はいつもベタベタして嫁さん を過剰なまでに持ち上げる」というイメージは、単なる僕らの幻想だったのか。正直、この主人公夫婦の「既視感」ったらない。ただ、そうなってくると…また ぞろ「ダメな男に対して女の鉄槌が下される」的なお話なんだろうと想像がついてくる。ここまで典型的「嫁さんを大事にしないダンナ」像が描かれていると、 そうなるしか収まりようがない。僕は見始めて早々に、この後の展開を想像してウンザリし始めたのだが…。

ここからは映画を見てから!

こうすれば

  女の視点と立場で一方的にダンナを断罪する、女だけが溜飲を下げるような夫婦コメディ(それが笑えるものなのかどうかは分からないが)を見せられるもの と、それなりに身構えてスクリーンを見つめていた僕だったが、実はその予想は微妙にはぐらかされた。途中まではトミー・リーのあんまりな仕打ちにひたすら 泣くストリープ…という展開が続くのだが、ある時を境にしてそれが崩れるのだ。それは「セックスにおける嫁の消極性」。これが出てきたあたりから、お話自 体が妙な方向に曲がり出す。それでなくてもいつになく老けた印象で違和感のあったストリープが、映画館の暗がりでトミー・リーに「とんでもないこと」をし ようとして失敗するなど、なぜかお下劣一直線な方向へと急カーブを描いていくのである。和解に向かって関係再構築を図ろうとする夫婦…という展開にはなっ ていくのだが、それでも節目節目でセックス、セックス、セックス。確かに「それ」は重要なことだとは思うが、何かにつけて「それ」しかないのかと言いたく なるほどセックス絡みの話になっていく。これってかえって「再構築」の邪魔になってやしないのだろうか。おまけに老けちゃったストリープがお下劣なことを 無理矢理やろうとしている姿なんて、痛々しくってこっちは見たくないですわ。正直これには笑えずドン引き。一番理解不能なのは、わざわざ芸達者のスティー ブ・カレルを持ってきながら、ただ普通のカウンセラー役をやらせてまったく面白いことをさせなかったこと(笑)。一体何のために起用したんだろう? もっ たいないとしか言いようがない。もったいないと言えば、わずかワンシーンにしか出てこない女バーテンダー役に、何とエリザベス・シューが起用されているこ と。これって豪華なゲスト出演なのか、それとも今のエリザベス・シューってここまで落ちぶれちゃったんだろうか? 途中、主人公夫婦が足を運ぶ映画館でか かっていたのが、フランスの傑作コメディ「奇人たちの晩餐会」(1998)だったのにはニヤリとしてしまったが、この作品を選んだのって何か意味があるのだろうか?

さいごのひとこ と

 「奇人たちの晩餐会」を口直しに見たくなった。

 

「偽りの人生」

 Django Unchained

Date:2013 / 09/ 23

みるまえ

 ヴィゴ・モーテンセン主演の珍しやアルゼンチン映画と聞けば、それだけで興味がむくむくと湧いてくる。「ロード・オブ・ザ・リング」(2001)で一気に人気爆発のヴィゴだが、その後はむしろ曲者デビッド・クローネンバーグとの「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)や「イースタン・プロミス」 (2007)が印象的。この二人のコラボ最新作で、モーテンセンがフロイト役を演じた「危険なメソッド」(2011)は見逃してしまったが、彼はこういう ひとクセある映画の方が向いていると痛感したものだ。そんな彼が、アメリカ映画ではなく南米アルゼンチン映画。アルゼンチン映画といえばアカデミー外国語 映画賞をとった「瞳の奥の秘密」(2009)がかなりの作品だったこともあり、そこにモーテンセン参戦と来れば気にならない訳がない。そんなわけで劇場に駆けつけたが、感想文はなかなか書けず、こんなに遅れてしまった。面目ない。

ないよう

  アルゼンチンの湖沼地帯ティグレ。ボートに乗って川縁の商店にやってきたのは、粗末な服装にヒゲづらのペドロ(ヴィゴ・モーテンセン)という男。ペドロは その商店主と二言三言会話を交わして出てくるが、それが「ある忌まわしい企み」の伏線だったとは。そんなペドロが生業としているのは養蜂業で、ロサ(ソ フィア・ガラ・カスティリオーネ)という若い娘を助手に、激しく咳き込みながらもハチの巣箱の世話に余念がない。しかし、彼にはもうひとつの顔があった。 夜になって、ペドロはアドリアン(ダニエル・ファネゴ)という訳あり男と落ち合う。そこにアドリアンの舎弟で少々オツムが軽そうなルーベン(ハビエル・ゴ ディーノ)も現れる。問題は、このルーベンがボートに縛り上げた一人の男を乗せてきたこと。実は彼ら3人は、誘拐を裏稼業として稼いでいたのだった。今回 ルーベンが縛り上げて連れてきたのは、昼間にペドロが訪れた例の商店の店主。しかもマズイことに、ルーベンはこの男をその場で殺してしまった。さすがにペ ドロもこれには呆れたが、起きてしまったことは仕方がない。それに彼には、何やら個人的な計画があるようだ。ペドロはロサやアドリアンたちに、しばらく ティグレを離れると告げていた。彼が訪れた先は…。その頃、ここは大都会ブエノスアイレス。メガネをかけた小児科の医師アグスティン(ヴィゴ・モーテンセ ン)は、忙しい日々を送っていた。絵に描いたように誠実で良心的な医師であるアグスティン。しかし来る日も来る日もやって来る子供の患者たちのお相手をさ せられていると、時にはあまりに手のかかる「患者」たちに嫌気がささないといえばウソになる。そんなアグスティンが疲れ切ってわが家に帰ってくると、作家 である妻クラウディア(ソレダ・ビジャミル)が前々から計画している養子縁組のプランを嬉々として語りかけてくる。子供がずっと出来なかったクラウディア にとって、赤ん坊を家族に迎えることは長年の懸案。それがいよいよ現実のものになると、クラウディアは目を輝かせて夫に語りかけずにいられない。アグス ティンはそんな彼女を見ていると「お腹いっぱい」な気分にならざるを得ないが、かといって彼女の気持ちを考えるとそんな「本音」も言えない。そんなこんな で悶々とせずにいられないアグスティンだったが、ある夜、ついに彼の我慢にも限界がやって来る。クラウディアの一方的な言い分に、養子縁組などしたくない と本音を明かしてしまったのだ。こうなるとクラウディアはアグスティンの言い分など聞く耳を持たず、手もつけられないほどわめき散らすだけ。何もかもにウ ンザリしたアグスティンは、自室にカギをかけて閉じこもった。激怒したクラウディアは、彼を置いて家を出て行ってしまう。そのままアグスティンは一気に無 気力状態になり、自室に引きこもり生活を続けるのだった。こうして仕事も行かず、ただただ寝っ転がっている生活を続けたアグスティンは、ヒゲぼうぼうの オッサンに変貌していく。そんなある日、何者かがアグスティンの家を訪ねてくる。それは、あのティグレの湖沼地帯からやって来たペドロ。ペドロは長年絶縁 状態になっていた、アグスティンの双子の兄だった。二人は元々瓜二つな上に、今ではアグスティンもヒゲを生やしていたため容貌はますますそっくり。だが、 自家製の蜂蜜を手みやげに持ってきた兄ペドロは、激しく咳き込みながらアグスティンを驚かせる発言をした。懐から拳銃を取り出しながら、末期の肺ガンに蝕 まれている自分をアグスティンの手で殺して欲しい…と頼み込んだのだ。さすがにあまりといえばあまりな話に、返事の言葉を濁すアグスティン。しかしそれは アグスティンにとって、千編一隅のチャンスだったのか。風呂に入りながら激しくむせ始めたペドロを見て、アグスティンはいきなり彼を湯船に沈めて押さえつ けた。こうして衝動的に、アグスティンはペドロの願いを叶えるのだった。そのままペドロの衣類を身にまとい、住み慣れた家を後にするアグスティン。着るモ ノを交換したら、ますますペドロと見分けがつかなくなった。ペドロの話から、彼が生まれ故郷のティグレの祖父の家で暮らしていたことは知っていた。こうし てアグスティンは怪しまれないようにわざと咳をしながら、久しぶりにティグレに舞い戻った。まずやって来たのが、近所にある川縁の商店。しかしアグスティ ンは、まさか自分がそこの店主を誘拐した一味だったとは知るよしもない。応対に出た店主の息子は、実はハナっからアグスティンのことを疑ってギスギスした 雰囲気。何が何だか分からないうちに、アグスティンは乱暴に店を叩き出されるハメになった。しかしアグスティンを待ち受ける誤算は、それだけにとどまるは ずもなかった…。

みたあと

  ヴィゴ・モーテンセン、アルゼンチン…正直言ってこの二つの要素しか事前情報なしに見たこの作品、お話は何と「ふたりのロッテ」とか「王子と乞食」などと 同じネタ。対照的な境遇にいる双子が入れ替わるという古典的なお話だった。これには正直ビックリ。なぜならお話はあくまでリアルな感触の大人のドラマだっ たから。双子の入れ替わり…なんてお話は、誰がどう見たって子供のおとぎ話か昔話でないと成立しない設定ではないのか。こういうお話を大真面目にリアルな 大人の物語として成立させようとするあたり、「さすが見慣れぬアルゼンチン映画」と妙に感心してしまった。

ここからは映画を見てから!

こうすれば

  ただし…映画を見ていてすぐに気づくことになるのだが、やっぱりさすがに「王子と乞食」設定をリアルな大人向け映画で堂々とやるのは無理がある。見ている 間ずっと、警察の検視とかはどうなっているのだろう…と気になっていたことを白状しないわけにはいかない。兄ペドロの周囲の人間も、突然人柄が変わったの に気づかないとは到底思えない。これをおとぎ話とか昔話でなくてリアルな物語として描くとすれば、どうしたって周囲の人間が相当アホってことになりはしな いか。主人公の正体がバレそうな要素がいくつかチラチラしながらも、それらがサスペンス要素として活かされはしないまま結末を迎えてしまうのももったいな い話。結局、そういうドラマ上のうまみや仕掛けで見せるのではなく、ヴィゴ・モーテンセン演じる主人公の悲壮なヒロイズムをうたいあげるだけというお話の 展開は、論理的な計算が苦手でヘタクソな日本映画の脚本みたいだ(笑)。これがデビュー作という女性監督アナ・ピーターバーグの脚本と演出は、少々安易 だったのではないかという気がする。

みどころ

  しかし、「何もかもしがらみを捨てたらどうなるだろう?」というテーマは、僕ぐらいの年齢だと結構切実に思うところがある。だからバカバカしい設定と思っ ても、そこに共感をおぼえざるを得ない。特に冒頭近くで押しつけがましい嫁さんの一方的な言い分に辟易する主人公には、自分も似たような目に遭った覚えが あって人ごととは思えなくなった。そして主人公の「入れ替わり」は、結果的に子供時代にワルからイジメられたことに対してキッチリ「おとしまえ」をつける ことにもなった。このあたり、人生の終末を考えるようになった年齢の僕にとっては、身につまされるものがある。そういう意味で、この映画は作品としての出 来栄え以上に、僕には興味深いものとなった。またヴィゴ・モーテンセンの味わい深い演技やアルゼンチンの湖沼地帯のひなびた風景も、心に残ったと言わなく てはならないだろう。キライになれない映画である。

さいごのひとこ と

 モーテンセンは久々に戻ってきた男をやらせればピカイチ。

 

「ホワイトハウス・ダウン」

 White House Down

Date:2013 / 09/ 02

みるまえ

 映画ファンのみなさんなら当然ご承知、「ホワイトハウス」競作2作のうちの一本。しかも破壊なら任せとけ!の、ローランド・エメリッヒとくるから、本来なら「真打ち登場」と言うべきだろう。もう一作の「エンド・オブ・ホワイトハウス」 (2013)はスターとしては小粒感漂うジェラルド・バトラーで、面白く出来てはいたものの、案の定作品的にも小粒な印象があった作品だった。それに対し てエメリッヒは、何度も地球に危機を与えて、ホワイトハウスだけでもすでに「インデペンデンス・デイ」(1996)と「2012」 (2009)の2度もぶっ壊している「壊し屋」。確かにこちらが絶対優位な感じがしないでもない。しかしエメリッヒの「壊し屋」ぶりはあくまでSFや災害 映画で威力を発揮してきたもので、現実世界での犯罪やらサスペンス・アクションは見たことがない。おまけにエメリッヒは前作「もうひとりのシェイクスピア」(2011) で歴史サスペンスミステリーという新たなジャンルを開拓。従来からいただいていた「大味」というありがたくない評判を覆す良作をモノにしていた。それが、 何が悲しくてまたまた「大味」と後ろ指さされそうな題材に立ち戻らねばならないのか。しかもしかも、ホワイトハウスが乗っ取られて、孤立無援の男が単身乗 り込んで戦う…って「ダイ・ハード」 (1988)的展開ってあたりまで同じという2作。こうなっちゃうとどう贔屓目に見ても、先に出した方が勝ちで後出し側は鮮度が落ちちゃうと思われても仕 方がない。ポスターを見ると、明らかにオバマっぽいジェイミー・フォックスが写っているのも少々興ざめだ。またぞろ「エアフォース・ワン」(1997)が チラつくのかよ。かと思えば、予告編ではそのエアフォース・ワンが空中爆発する場面が出てきたりして、おいおい、今度は「ワールド・ウォーZ」 (2013)かい(笑)? そんなこんなで、何となく少々やり過ぎ感もしないでもない。そんなわけでいささか食傷気味な気分になりながら、公開2週間後に 劇場に駆けつけたというわけだ。

ないよう

  まだ早朝の子供部屋に、目覚ましのベルが鳴る。ベッドから起き出したのはエミリー・ケイル(ジョーイ・キング)という少女。彼女はアメリカ大統領について の最新ニュースを見る。何と大統領は中東からアメリカ軍を撤退させ、平和への第一歩を記す交渉をイラン大統領とまとめてきたというのだ。そんな彼女の家の そばを、何機かのヘリコプターが飛んでいる。ここはワシントンD.C.。そのヘリコプターこそ、アメリカ大統領ジェームズ・ソイヤー(ジェイミー・フォッ クス)を乗せた専用ヘリだ。同乗している特別警護官キャロル・フィナティ(マギー・ギレンホール)は、ソイヤー大統領が「いつものやつ」をお望みと知って クスリと笑う。「いつものやつ」とは、ヘリをリンカーン記念館の前の人工池スレスレに飛ばして、最後にリンカーン記念館の真横を通過するというコースをと ること。これが「自由世界のリーダー」のお好みのコースなのだ。そんなソイヤー大統領にとっても、今回の和平交渉は正念場。せっかくイラン大統領とサシで 合意にこぎ着けても、議会の承認を得なければならない。さらには他の国々の合意も取り付けて…という民主主義ならではの途方もないプロセスが横たわる。お まけに政界でも絶大な力を持つ軍需産業の反感を買うことは間違いない。決してこれから先は楽観できないのだ。その頃、下院議長イーライ・ラフェルソン(リ チャード・ジェンキンス)の出勤を待って、ラフェルソンの家の前に迎えのクルマと共に待っている男が一人。その男は、警護官のジョン・ケイル(チャニン グ・テイタム)だ。警護官にしてはちょっと人なつっこくてお人好しに見えるこの男、しかしネクタイのヨレっぷりから、いささか頼りなさが醸し出されている のは否めない。また同じ頃、シークレットサービス長官のマーティン・ウォーカー(ジェームズ・ウッズ)も出勤しようとしていたところ。彼は何を思ったか、 背広に付けてある星条旗のピンバッヂをはずした。そんな彼の出勤姿を、漠然とした不安を感じながら見送る妻。二人の間の軍人の息子は、不幸にも戦死したば かりだ。さて、ラフェルソン下院議長を議事堂に送ったジョンは、そこで旧知のジェナ(ジャッキー・ギアリー)という職員を見つける。彼女はジョンにシーク レット・サービスの採用面接を受ける段取りを組んでくれていて、彼はこれからその面接に臨むことになっていたのだ。ジョンはそのジェナにさらにもう一つ、 ホワイトハウスの通行許可証をおねだりする。さらにジョンは、その足で別れた妻の家へ。彼は娘を迎えにやってきたのだが、到着早々、元妻からイヤミをタラ タラ。実はジョンは娘の学芸会の予定を忘れて、彼女の旗振り披露を見逃してしまったのだ。それでなくても娘の信頼を失っている彼は、当然のことながら彼女 に冷たくあしらわれる。ジョンの娘とは、例のエミリーだ。エミリーをクルマに乗せて話しかけるジョンだが、彼女の反応は鈍い。そこで彼はとっておきの切り 札を取り出す。先ほどジェナにねだった、ホワイトハウスの通行証だ。おまけにシークレット・サービスの採用面接も受けると大きく出たものだから、エミリー の態度は一変。すっかりジョンに対して尊敬のまなざしだ。エミリーは大のソイヤー大統領ファン、ホワイトハウス・ファンだったのだ。ジョンがシークレッ ト・サービスになろうとしているのも、エミリーに尊敬されたい一心だったのである。その頃、議事堂に一人の作業着を着た人物が現れ、トラックの荷台に乗り 込む。そこには大きな箱があり、箱の中には爆弾が納められていたのだが…。とりあえずホワイトハウス内に入り、面接を待つジョンとエミリー。ところがそこ にやってきた特別警護官キャロルを見て、ジョンは思わずビックリだ。実はジョンとキャロルは、大学の同級生。そのまま面接に入ったジョンは、当惑を隠せな い。このキャロルがジョンの面接を行い、そこに現役シークレット・サービスが立ち会うことになったのだが、キャロルは同級ではあってもジョンに甘い態度は 見せない。そもそも大学中退のジョンにはシークレット・サービスは無理。職業を転々としたキャリアもお粗末そのもの…と一刀両断。「チャンスをくれ」とい うジョンの懇願も空しく、彼の応募は却下されてしまう。それでも期待でワクワクのエミリーの表情を見ると、「駄目だった」とは言えないジョン。仕方なく彼 は、ホワイトハウス見学ツアーにエミリーを誘うのだった。その頃、本日の予定をスタッフたちに説明するシークレット・サービス長官マーティン。そんな彼 を、一同はケーキでお祝い。実は今日は、マーティンの勇退の日。ソイヤー大統領本人も出てきて、マーティンの労をねぎらう。実はマーティンの息子はソイ ヤーの命令による作戦で命を落としており、ソイヤーもそれを気に病んでいるのだった。しかしマーティンは自分のことよりも特別警護官のキャロルを心配。働 きづめの彼女を「今日は休め」と送り帰すのだった。その頃、見学ツアーに参加していたエミリーは、さすがホワイトハウス・オタクの面目躍如。その博識ぶり に、ツアーガイドのドニー(ニコラス・ライト)もビックリだ。おまけに偶然、ソイヤー大統領その人が通りかかる。興奮したエミリーは、持っていたスマホで 即席インタビューだ。彼女はそれを早速ユーチューブにアップすると大騒ぎ。ジョンから離れて一人で地下のトイレに行ってしまう。その頃、例の怪しい男が掃 除用の台車を議事堂のど真ん中に放置。時計が0時を指したとたん、台車は爆発して議事堂が炎に包まれる。とたんにワシントンD.C.各所に緊張がはしっ た。帰宅途中の特別警護官キャロルは、それを見て慌ててホワイトハウスに連絡をとる。ラフェルソン下院議長は避難し、アルヴィン・ハモンド副大統領(マイ ケル・マーフィ)は大統領専用機エアフォース・ワンに乗り込んだ。あっという間にホワイトハウス内に作業員として潜入していたエミール・ステンツ(ジェイ ソン・クラーク)率いる怪しげな男たちが、重火器を持ち出して暗躍。シークレット・サービスや警備の面々を次々射殺していく。物音に気づいたエミリーは、 怯えながらもトイレを脱出。怪しげな男たちの姿を見つけて、物陰から得意のスマホで動画を撮影した。娘の安否が心配になったジョンはすぐに地下に行こうと するが、警備員に止められ釘付け。そしてソイヤー大統領は、シークレット・サービス長官マーティンに誘導され、「大統領危機管理センター」略して 「PEOC」という避難場所に移動した。ところが地下にある「PEOC」の前まで来ると、マーティンがマシンガンで大統領以外全員を射殺してしまうではな いか! 唖然とするソイヤー大統領は、その瞬間に初めて首謀者はマーティンであると悟る。同じ頃、他のツアー客たちと一緒に人質になってしまったジョン は、間一髪で連中の隙を見て脱出。エミリーを助けに地下へと向かうのだった…。

みたあと

  まず、手っ取り早く今回の作品の出来栄えについて語ってしまおう。面白い! さすがローランド・エメリッヒだけあってハッタリかました話は得意。何だかん だ言って、あのスケールのデカさはなかなか出せるもんじゃない。しかも従来のエメリッヒ作品に見られたあの「大味さ」が、今回の作品には見られない。こう なれば、もう「鬼に金棒」なのである。
ここからは映画を見てから!

みどころ
 「2012」などでも目立ったのは、エメリッヒ作品の脚本の「荒さ」。しかし今回は「ゾディアック」(2007)、「アメイジング・スパイダーマン」 (2012)などを手がけてきたジェームズ・ヴァンダービルトの脚本がなかなかよく書けていて、例えば主人公ジョンの娘が学芸会で旗振りをやっていた…な んてことまでが終盤の伏線として活かされる細やかさ。主人公が悪党に見つかって危機一髪の瞬間に、人の良さそうなツアーガイドがいきなり出て来て「僕のホ ワイトハウスをメチャクチャにしやがって!」と悪党をボコボコにしたり…ちゃんと隅々にまで目配せされた脚本になっている点が大きい。こういう細かいキャ ラや設定をきちんと一つひとつ活かしていくということが、娯楽映画では大事なことなのだ。また、「G.I.ジョー」(2009)では主役を張りながら、続編「G.I.ジョー/バック2リベンジ」(2013)では残念な結果に終わったチャニング・テイタムと「ジャンゴ/繋がれざる者」(2012)のジェイミー・フォックスによるユーモラスなコンビネーションも捨てがたい。映画全体としてはこのジェイミー・フォックスによる大統領をかなり理想化して描いているが、これは「パトリオット」 (2000)あたりでも顕著だったエメリッヒの大きな資質だ。彼はアメリカにおいては異邦人なのに…いや、異邦人なだけに、いまや当のアメリカ人でさえも 語りながらないようなアメリカの理想を好んで掲げる。それが今回は、ホワイトハウスと大統領という「本丸」を描いているだけに、前面に打ち出されることに なった。結果として出来上がった作品は、乱暴な言い方をすればフランク・キャプラが「ダイ・ハード」を撮ったような感じ。このちょっと古風な感じが、本作 では「コク」のように効いている。これがあるから、ホワイトハウスで「ダイ・ハード」をやる意味もある。伏線の効いた脚本も良し、監督本人の資質にも合っ ていると来て、そのエメリッヒは前作「もうひとりのシェイクスピア」以来、格段にセンスも良くなった印象が強い。今回も最後の最後、エンディング・クレ ジットが始まる直前に…やってくれるじゃないですか! このエンディングだけで、僕はニンマリして嬉しくなってしまったよ。こういう風呂敷の最後の結び目 までキッチリと結んだような作り方は、本当に好感が持てる。エメリッヒ、さすがとしか言いようがない。これぞ映画作家としての成熟と、改めて大いに評価し たい。

さいごのひとこ と

 実際のオバマは真逆になりそうでお気の毒。


 

「ベルリンファイル」

 The Berlin File

Date:2013 / 09/ 02

みるまえ

 この映画のことは、映画館のチラシで知った。「シュリ」(1999)で韓国映画が日本で一気に盛り上がってきた時の立役者の一人でもあるハン・ソッキュ、近年の韓国映画では群を抜いて衝撃的なサスペンス映画「チェイサー」(2008)のハ・ジョンウ、「猟奇的な彼女」 (2001)が強烈な印象を与えたチョン・ジヒョン…と、ちょっと魅力的な顔ぶれが揃った作品。冷戦時代に東西両陣営の対立の象徴的存在だったベルリンを 舞台に、「北」と「南」のスパイたちが虚々実々の戦いを繰り広げるというスパイ・サスペンス大作。「シュリ」の頃とは比べものにならないほどお金もかけら れるようになって、成熟してゴージャスになった韓国映画が、またまた南北対立を題材に今度はどんな凄みのある娯楽映画を見せてくれるのか? 正直に言えば 最近はいささかフヤけちゃった観がある韓国映画だが、起爆剤だった「シュリ」を想起させる題材に「原点復帰」して、久しぶりにピリッとしたところを見せて くれるか。豪華な顔ぶれも興味深いし、ここでこれまた久々のハン・ソッキュが出てくるのも何か因縁めいているではないか。そんなわけで、「今度は面白いん じゃないか」とひそかな期待を抱いて、僕は映画館へと駆けつけたわけだ。

ないよう

  ベルリンの街を足早に急ぐ一人の東洋人の男。その男ピョ・ジョンソン(ハ・ジョンウ)は、自分の住まいであるアパートに戻ると、痛み止めの注射を打って一 息つく。背中には生々しい打撲痕。果たしてこの男の身にどんな事が起こっていたのか…。それに先立つ何時間か前、高級ホテルにやって来る例の男ピョ・ジョ ンソン。彼は北朝鮮の工作員。そのホテルの一室で、ロシアの武器商人を介してアラブ系組織の男に新型ミサイルを密売するための取引が行われようとしてい た。しかしそんな彼らの様子を、ホテルの外から秘かに監視している連中もいた。韓国情報院の諜報員チョン・ジンス(ハン・ソッキュ)をはじめとするチーム である。彼らは監視カメラで連中の様子をうかがっていたが、問題のピョ・ジョンソンについては過去の情報がないため、何者か判断を下せずにいた。それでも ジンスは、取引成立のタイミングを見計らって部下たちに現場への強行突入の指令を下そうとしていたが、なぜかまったく別の一団がその部屋に突入。それはイ スラエルの情報機関モサドによる急襲だった。たちまちその場で勃発する銃撃戦。慌ててジンたち韓国諜報員もその場に駆けつけるが、万事窮す。それでもジン はビルの屋上で逃げようとするジョンソンを捕らえる寸前までいくが、結局惜しくも取り逃がしてしまう。この結果、ジンスは上司から激しく叱責されることに なる。実際、少々一匹狼的な行動の多いジンスは、組織の中でも煙たがられる存在ではあった。そしてピョ・ジョンソンは命からがら自分のアパートへと戻って 来て、例の映画の冒頭の場面へとつながっていくわけだ。CIAやMI6のリストにも記録がなく「ゴースト」と呼ばれている男ジョンソンは、実は北朝鮮では さまざまな武勲に輝く英雄的な人物。そんな彼は、今回の作戦失敗に危機感を抱く。今回の機密漏洩には、ひょっとして内通者がいるのではないだろうか? そ んなジョンソンは、妻リョン・ジョンヒ(チョン・ジヒョン)と二人でここベルリンに暮らしていた。彼女は在ベルリン北朝鮮大使館で通訳として働いており、 その日もリ・ハクス大使(イ・ギョンヨン)とロシア商人との会食に立ち会う。そのリ・ハクス大使は、意味ありげな表情を浮かべて商人の元にジョンヒを残し てその場を去る。彼女はそうした「接待係」の役割も果たすことを強いられていたのだった。そんな頃、北朝鮮本国から保安観察員トン・ミョンス(リュ・スン ボム)という男が派遣されてくる。彼は政府有力者の息子で、冷血漢としても知られていた。そのトン・ミョンスがベルリンに派遣されて来た理由は、二重スパ イの存在。何とジョンソンの妻ジョンヒにその疑いがかけられていたのだ。これに衝撃を受けたジョンソンではあるが、前々から彼女との関係が冷えてきていた こともあり、彼女への監視と尾行を開始。どうやら彼女はアメリカへの亡命を考えているのではないか…と疑い始める。ちょうどその頃、例の韓国諜報員のジン スも旧知のCIA局員から「北朝鮮の何者かがアメリカへの亡命を望んでいる」との情報を掴んでいた…。

みたあと

  全編ほぼベルリンでのロケ。中心となるのは韓国人俳優だが、アメリカ人やロシア人の登場人物も多数出てきて、英語を初めとする各国語が飛び交う。激しい銃 撃戦などのアクションシーンもかなり大々的に行っている。そのリアリティもスケール感も、例えては何だがあの「シュリ」あたりとは格段の進歩を遂げている と言わなくてはなるまい。あの当時、「シュリ」はそれなりにスパイ・アクションを頑張って作っていると評価されてはいたが、今考えてみるとあくまで「意外 に韓国映画も健闘しているな」…レベルのモノでしかなかったかもしれない。それに対して今回の作品は、予算的にもセンスからいっても、技術面からも「欧米 映画」と肩を並べるレベルまで来た…と言えなくもない。というか、映画そのものからそう言いたげな空気が漂ってきている。ハン・ソッキュがCIA職員役の アメリカ俳優に、デカい態度で英語でアレコレしゃべっている場面など、そんな作り手の意識がビンビンと伝わって来そうな感じだ。ハ・ジョンウの不死身アク ションの数々も、マット・デイモン主演の「ボーンなんとか」みたいなセンを狙っているのがアリアリ。リュ・スンワン監督の演出もキビキビしていて、確かに これは韓国映画の進化であると言わなくてはならないのかもしれない。

こうすれば
  しかし「シュリ」が拙いながらも何かを見ている僕らに伝えてくれたのに対して、こちらの作品からは何ら心に響くものが伝わってこない…と言ったら、僕の偏 見だと言われてしまうだろうか。確かにお金はかかっているし、アクションもスゴイ。「シュリ」では予算の限界や特撮の稚拙さなどがチラチラ見え隠れし ちゃっていたが、こっちはそんなホコロビもない。確かにホコロビはないのだけれど、こちらも「シュリ」同様に「南北対立の悲劇」的なモノがテーマの根幹に は存在しているのに、何だかそれはもはや「お約束」として使われているだけのような感じだ。映画の描き方に問題があるのか、それとも受け取る僕らの方の意 識の変化なのか…は分からないが、もはや韓国映画における「南北対立」はリアルに重たい何かを見ている側に感じさせないような気がする。これは偏見なのか もしれないが、繰り返しあまりに安易にこのテーマが持ち出されたあげく消費し尽くされて、テーマそのものが形骸化してしまった気がするのだ。また今回の作 品は、主演俳優たちが欧米俳優たちと対等な態度で堂々と英語をしゃべったり芝居したりしているし、とにかく何から何まで「欧米と肩を並べてる」観がスゴ イ。だが、実はそれこそがこの作品の不自然さでもある。ベルリンを舞台に、CIAにロシア人にアラブ組織にモサドまで登場。国際政治最前線の緊迫した状況 を映画に盛り込みたい意欲は分かる。しかし、まるで世界中の諜報機関の関心が、韓国と北朝鮮に集まっているみたいな描き方ってのはどうなんだろう。もちろ ん世界のどこの国でも、映画の中では大体が自国の人間を主人公にして、自国に関わることを中心に据える。それはどうしたって仕方のないことだ。日本映画 だってそうなっていることが多い。しかしこの作品では万事リアルに描こうとしていて、そのためにお金もかけているしテクノロジーも駆使しているはずなの に、一方で「欧米と肩を並べてる」観を強調したいがために妙な不自然さを生んでいる。ある意味では、フランスのイザベル・ユペールを迎えて韓国で撮った「3人のアンヌ」 (2012)の極北にあるような作品とでも言うべきだろうか。大体が、世界の諜報機関がみんな韓国と北朝鮮のことで必死…なんて訳はないだろう(笑)。そ のあたり、彼らが自分で自分の首筋にキスしようとしているのを目撃しちゃったみたいな、何とも言えない居心地悪さを感じてしまう。「シュリ」の頃に伝わっ てきた一途に頑張っている感じが、正直言って少々傲慢な感じに変わったような印象なのだ。同じハン・ソッキュが出ているだけに、余計にそんな印象を持っ た。いくらお金をかけていくらテクノロジーを進化させて、どれだけ立派に作ってみせても、依って立つ精神的部分がスカスカでは映画としての脆弱さは如何と もしがたい。派手ハデなスパイ・アクションは作れても、持ち出してきた毎度お馴染み「南北対立」がもはや形骸化してしまっていては、結局、韓国映画である 必然性がない。必然性がないのなら、実はハデなスパイ・アクション映画は、素直にハリウッドが作った方が100倍面白いのである。

さいごのひとこ と

 ホン・サンスが撮った方がよかったかも(笑)。

 

「ワイルド・スピード EURO MISSION」

 Fast & Furious 6 (Furious 6)

Date:2013 / 09/ 02

みるまえ

  シリーズ第1作の「ワイルド・スピード」(2001)は監督のロブ・コーエンの作品が好きだったから見に行って、大いに満足した作品だった。しかし、その 後延々と続いた続編にはまったく関心なし。シリーズ化してからはロブ・コーエンは関係なかったし、そもそもただ車を猛スピードで走らせるだけの話に興味は なかった。おまけにシリーズものが日本にロケするようになったら、「がんばれ!ベアーズ」みたいに質も落ちてそろそろ年貢の納め時。大体がヘロヘロになっ て先細りってのが毎度のパターンだろう。だから何であれほどこのシリーズが続くのか僕はまったく理解できなかったし、見る気も起きなかったわけだ。では、 そんな僕がなぜこのシリーズに舞い戻ってきたかと言えば、その理由はただひとつ。ドウェイン・ジョンソン! シリーズ第5作にあたる「ワイルド・スピード  MEGA  MAX」(2011)に、彼があっと驚く奇跡の参戦を果たしたのだ。そうなると、元々ドウェイン・ジョンソンの大ファンである僕としては見ないわけにいか ない。しかも最近の彼は、「センター・オブ・ジ・アース2/神秘の島」(2012)や「G.I.ジョー/バック2リベンジ」(2013)のようにシリーズ ものに途中から加入して再起動させたりカツを入れたりという役どころが多い。しかも、毎度キッチリ結果を出しているのである。それは「ワイルドスピード」 でも例外ではなく、彼が出演した「MEGA  MAX」はスケールでっかくて豪快、しかもちゃんとキャラクターが生きているうまみたっぷりの娯楽映画に仕上がっていた。しかもそのエンディングには、 マーベルのアメコミ映画みたいにチラッと「次回予告」も入っていて、次作にもドウェイン・ジョンソンが再登場することが暗示されているではないか。これは 見ないわけにはいかない。僕はこの第6作目の公開直後に、劇場にすっ飛んでいったのだった。感想文がこんなに遅くなって、まことに申し訳ない。

ないよう

  海岸に沿った急カーブが続く道を、追いつ追われつしながらデッドヒートを繰り広げている2台のクルマ。ハンドルを握るのは、ドミニク・“ドム”・トレット (ヴィン・ディーゼル)とブライアン・オコナー(ポール・ウォーカー)。またしてもこの二人がハンドルさばきの妙技を競っているのかと思いきや、彼らのク ルマがたどり着いた先は病院。実はドミニクの妹ミア(ジョーダナ・ブリュースター)とブライアンとの間にできた赤ちゃんが、たった今生まれたところだった のだ。今や彼らも、カナリア諸島で悠々自適の隠退生活を送る身だった。しかし彼らが引退する気満々でも、世間はそれを許さない。それはモスクワでカタチに なった。ロシア陸軍の軍用車両が襲撃を受けて、重大な軍事機密が持ち出されたのだ。その場に駆けつけた国務省外交保安局特別捜査官ルーク・ホブス(ドウェ イン・ジョンソン)と女の相棒ライリー・ヒックス(ジーナ・カラーノ)は、その鮮やかな手口に「ある連中」のことを思い浮かべる。そこに犯行チームの一人 が捕まったという連絡が入り、ホブスはただちに急行。その男をブチのめして、無理矢理秘密を吐かせる。それは恐るべき陰謀だった。再び舞台変わってカナリ ア諸島、ドミニクがエレナ・ネヴィス(エルサ・パタキ)と暮らす家に、あのホブスがやって来る。今さら何の用だ?…とホブスの出現に緊張が走るドミニクだ が、ホブスはそんな彼に国際犯罪組織への捜査協力を頼み込む。これにはドミニクも、思わず苦笑せざるを得ない。彼らアウトローで取り締まる側ではないし、 そもそももう引退しているのだ。しかしホブスは一歩も退かず、黙ってドミニクに一通の封筒を差し出した。その中には一枚の写真が…それは死んだと思われて いたレティ・オルティス(ミシェル・ロドリゲス)の写真だった。しかも、一週間前に撮影された写真だという。何と彼女は、モスクワの一件を起こしたこの犯 罪組織に関係しているらしいのだ。こうなるとドミニクも見過ごすわけにいかない。今は彼と付き合っているエレナも複雑な思いだが、かつてのドミニクとレ ティとの特別な関係を聞いているので、ドミニクを止めることは出来ないと知っている。ただドミニクはあくまで個人的に協力するつもりだったが、ホブスは彼 らが「チーム」で参加することにこだわった。敵の犯罪組織は手強く、とてもじゃないが「チーム」でなければ対抗できないと思ったからだ。こうして世界に 散っていた「ワイルドスピード」の仲間に招集がかかる。自家用機に女をはべらせて喜んでいたローマン(タイリース・ギブソン)も、贅沢を楽しむテズ(クリ ス・“リュダクリス”・ブリッジス)も、香港で暮らしていたジゼル(ガル・ギャドット)とハン(サン・カン)も、ドミニクからの呼びかけに応じた。そして ドミニクは、赤ん坊を囲んだブライアンと妹ミアのもとへ行く。ブライアンとて、レティの件について知りたがっているドミニクに協力することはやぶさかでは ない。こうしてチームの「再結集」は現実のものとなった。彼らが集合したのは、ヨーロッパの中心地・ロンドンだ。とある空きビルのワンフロアを借り切って 秘密基地を用意、一行が新兵器や小道具を入念に点検していたところにホブスとライリーが登場。改めて彼らに今回の「ユーロ・ミッション」が説明される。彼 らの敵はオーウェン・ショウ(ルーク・エヴァンス)率いる国際犯罪組織。彼らはすでにモスクワで盗んだ軍事機密を盗み出しており、今度は各国の軍事衛星を 非力にしてしまう軍のコンピューター・チップを狙っているらしい。もしこれが現実のものになれば、世界の軍事バランスは危うくなってしまう。ショウたちの 野望は何としても阻止しなくてはならないのだ。ホブスは捜査成功のあかつきにはドミニクたちにレティを引き渡すと約束するが、ブライアンはさらに全員の過 去の犯罪に関する恩赦も求める。これにはホブスもさすがに驚くが、そこは太っ腹な捜査官。彼らの恩赦も約束するのだった。さて、そんなある晩のこと。警察 に捕まっていた犯罪組織のメンバーが釈放され、ショウのもとへ戻っていく。当然、警察ではこの男をマークして、ショウの居場所を確定し包囲していた。それ は建設中のビルの地下だったが、周囲には大勢の警察官が取り囲んでいたのだ。ドミニクやホブスたちもその状況を、固唾を呑んで見守っている。ところがショ ウは、そんな事情は先刻ご承知。戻ってきたメンバーがすべてを白状した上に尾行までされていると分かっていた。冷酷で冷静なショウが、そんなこのメンバー を許すはずもないし、警察の計画に引っかかる訳もない。ショウはまんまとその場を逃れるだけでなく、メンバーもろともその場を爆破。包囲していた警官は、 このビルの崩壊に巻き込まれてしまう。脱出したショウたちのクルマを、今度は「ワイルドスピード」軍団が追いつめる。夜のロンドンに激しいカーチェースが 繰り広げられるが、何しろ敵は次々秘密兵器を繰り出すので、さすがの「ワイルドスピード」軍団も次々脱落。今回ばかりは思うに任せない。ショウを追いつめ ていたドミニクも途中から出てきたナゾのクルマに手こずり、ついにはこのクルマのドライバーと一騎打ちということになる。すると、降りてきたドライバー は…何とあのレティではないか。さすがに度肝を抜かれるドミニクだが、次の瞬間、レティはさらに驚くべき行動に出た。彼女はいきなり銃を構え、ドミニクに 向けてためらいもなしにブッ放すのだった!

みたあと

  前作「MEGA MAX」でも感じていたことだが、僕が見ていない間にこのシリーズは意外な変貌を遂げていたらしい。確かロサンゼルスの裏町で行われていたチンピラ同士の ショボいストリート・レースのお話だったはずの「ワイルドスピード」だったのに、いつの間にこんなに大作になっちゃったのか。まるで007シリーズみたい にカナリア諸島からモスクワ、ロンドン…と世界を股に掛けての大活躍。そもそもこいつらほどヨーロッパが似合わない連中もいないだろうに、事もあろうに 「ユーロ・ミッション」と来るからスゴイ。そんな「スケール感」はもちろん見せ場のデカさにも言えることで、前作は街中をデカい金庫を引きずってあっち こっちにドッカンバッカンとぶつけながらのカーチェイスを見せてくれたが、今回は飛行場で離陸寸前の軍用輸送機をクルマで追いかけての大暴走。大味っちゃ 大味なんだが、ちゃんと見せ方を工夫しながらの大味だから、単にお金だけかけてるアクション大作とはひと味違う楽しさがあるのだ。やっぱり今回も楽しませ てもらっちゃったなぁ。正直言ってクルマをすっ飛ばしてるだけならどれもこれも同じで、たぶんすぐに飽きちゃっただろう。馬鹿力映画に見えてバカには出来 ない知恵を使った映画を作っているから、これだけ続いているしウケているんだろう。
ここからは映画を見てから!

みどころ
  しかも子細に見ていくと、実はこのシリーズ…そしてこの作品の魅力はスピードやスペクタクル、アクションにあるわけでないことが分かってくる。考えてみれ ば「ワイルドスピード」軍団のレギュラー陣がここまでふくれあがっているのって、どこかシリーズが進むにつれてレギュラーが増えていった「リーサル・ウェ ポン」(1987)シリーズを思わせる。あるいは助さん格さんの側近だけだったところに、なぜかうっかり八兵衛やら風車の弥七やらかげろうお銀やらが同行 するようになって、一行がどんどん大部隊化していったテレビの「水戸黄門」みたいなものか(笑)。そう言っちゃうと身もフタもないし、僕はこのシリーズを ずっと追いかけてきた訳ではないから偉そうに言えないのだが、しまいにはドウェイン・ジョンソンまで加わったこのシリーズは、この「軍団」のチームワー ク、人間関係が作品のキモなのである。そして毎回これがキチンと描かれているから、ハデで大味に見えかねない見せ場がドカンと出てきてもそれが空疎に見え ない。やはり娯楽映画はキャラクターが描けてナンボなのだ。特に今回は、一回劇中で死んだことになってシリーズから離脱したレティ(ミシェル・ロドリゲ ス)の復活がドラマの焦点になっているだけに、より人間関係の比重が増している観もある。捜査官のホブスが犯罪者であるドミニクへの義理を果たすために、 何と軍人に銃を突きつけるというくだりも含めて、お話としてちゃんとキャラクターを活かしているあたりが見ていて嬉しいのである。だから一件落着の後で、 ドミニクがホブスに「おかしな捜査官だ」、ホブスがドミニクに「正義の犯罪者め」などと言い合うあたりもグッと来る。別に「人間ドラマが描けてる」なんて 大げさなことを言うつもりは毛頭ないが、キャラクターが描けている映画は面白いのだ。さらについでに言うと、今回の映画のエンディングに出てくるアトラク ションを見た時には、思わず血が騒いだと告白せざるを得ない。こりゃあ第7作も見ないわけにはいかないな。

こうすれば
  ただ、せっかくここまでキャラクター重視がやれているのだから、もうちょっとデリカシーが欲しかった点もいくつかある。その最たるものは、ドミニクの昔の 恋人レティが戻ってくることによって、現・恋人だったはずのエレナがその立場から押し出されちゃうこと。いろいろあってドミニクを支えていたはずのエレナ なのに、それはないんじゃないの? 劇中ではエレナが「やっぱり私は警官が性に合ってる」とか言って身を引くかたちに描かれているが、これはちょっとドミ ニクにムシがいい設定というか、作者たちもご都合主義に過ぎやしないか? せっかく「ワイルドスピード」軍団大勝利の楽しい幕切れなのに、ハンの恋人ジゼ ルが死んじゃって楽しさも中くらいなり…って感じになっちゃってるのも含めて、これは正直言って観客としては残念だった。ちょっと一点だけ陰りが出たとい うか曇りが出たというか…。娯楽映画の中ぐらい、世の中がまったく欠けたところのない満月みたいな素晴らしい状態になっているのを見たいと思っているか ら、ちょっとションボリしちゃったよ。

さいごのひとこ と

 そんな都合のいい女は現実にはいない。


 

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