新作映画1000本ノック 2010年10月

Knocking on Movie Heven's Door


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「ミックマック」

 

「ミックマック」

 Micmacs a tire-Larigot

Date:2010 /10 / 18

みるまえ

 「アメリ」(2001)で大ヒットをかっ飛ばしたジャン=ピエール・ジュネの最新作。といっても、何となく巷の空気が冷たいのは、この前の「ロング・エンゲージメント」(2004)が今ひとつの評判でコケちゃったからか、それとも今回の「ミックマック」にオドレイ・トトゥみたいな夢みる夢子ちゃんみたいな可愛い女の子が出ていないからか。何となくムサいオッサンと変な顔した奴ばかり揃った連中、そしてボロっちいオート三輪のトラック…なんてビジュアルを見ちゃうと、「アメリ」に殺到した女の子たちは胸がトキめくわけもないか。でも、僕は結構見たかった。前作「ロング・エンゲージメント」にはちょっと失望していたが、今回の変な顔ばかりの登場人物を見ていると、どうもその前作のパターンは踏襲しないんじゃないかと思えてきた。だったら見る価値がある。

ないよう

 今から30年ほど昔の西サハラ。地雷撤去作業を行っていた兵士が、運悪く爆発に巻き込まれて命を落とした。残されたのは妻と幼い男の子バジル。亡き父の遺品を見ていたら、父の命を奪った地雷の破片が目にとまる。そこに刻まれたメーカーのマークは、幼い男の子の脳裏にイヤというほど焼き付いた。母は父の死のダメージによって心が折れた。行き場のなくなったバジルは、行きたくもない修道院経営の孤児院へ。ところが、ここが陰険この上ない場所だった。尼ババアどもに痛めつけられたバジルは、いても立っても居られず孤児院を脱出。何とかかんとか必死に一人で生きてきた。こうしていいトシこいた大人となったバジル(ダニー・ブーン)は、ビデオショップの店員として自活。その夜もボガートの映画を見ながら映画ファンとして至福の時を過ごしていたのだが、そんな彼の平和な暮らしが一変。たまたまその場を通りがかった犯罪者と警察の大捕物に巻き込まれ、まったく理不尽なことに偶然にも銃弾がバジルの額を直撃! どう見たって絶体絶命の状況となった。担ぎ込まれた病院では、医師も手をこまねいて思案顔。結局、切開せずに様子見となってしまう。幸か不幸か、バジルは頭に銃弾を入れたまま、意識を取り戻すことになった。しかし、世間の風は冷たい。「待たせたね」とばかりに舞い戻ったビデオショップは、すでに新しい店員を入れていた。バジルはお払い箱。たちまちホームレスに転落だ。しかたなく大道芸人の真似をしてみるものの、大した金も入らず屋根の下にも入れない。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。バジルに差し伸べたのは、かつて牢獄にいてギロチン刑となったものの、なぜか命拾いした「ギロチン男」ことプラカール(ジャン=ピエール・マリエル)。彼は今、廃品回収業で生計を立てながら、仲間たちと共同生活をしているという。こうしてバジルはプラカールに誘われ、彼の本拠地を訪れた。そこは、ゴミでできた「秘密基地」とでも言えばいいだろうか。そこでバジルが出会ったのは、まさに多士済々の人物たち。まずは、みんなの腹を満たしてくれる「料理番」のおっかさん・タンブイユ(ヨランド・モロー)。集めてきたゴミから仕掛け人形やらメカを創り出す「発明家」プチ・ピエール(ミシェル・クレマド)。見たモノすべてを一瞬にして計測してしまうメガネの女の子、「計算機」ことカルキュレット(マリー=ジュリー・ボー)。証明はできないものの、人間大砲のギネス記録を持っていると自称するフラカス(ドミニク・ピノン)。ことわざのウンチクを並べるのが大好きな民俗学研究家「言語オタク」レミントン(オマール・シー)。そして最もバジルが驚いたのは、冷蔵庫の中でじっと彼が開けるのを待っていた、身体をいとも簡単に二つ折りにできる「軟体女」ラ・モーム・カウチュ(ジュリー・フェリエ)…。彼らはみなどこか世間からはみ出してしまった人々で、フトコロの広いプラカールのおかげで、冷たい世間の風を避けるように身を寄せ合って生きていた。しかし、そんな彼らには暗さなど微塵もない。もちろんバジルも、喜んで彼らの仲間になったのだった。こうして廃品回収業者としてのバジルの生活が始まる。時代物のオート三輪を走らせ、街のあちこちからゴミを集める日々。しかしそんなある日、バジルの脳裏に忌まわしい記憶が甦る。どこかで見たあのマーク…何と自分の頭に弾丸を送り込んだ元凶、銃を作った「オーベルヴィリエ軍事会社」の本社がど〜んと建っているではないか。しかもその真っ正面には、事もあろうに父の命を奪った地雷のメーカー、「ヴィジランテ兵器会社」の本社も建っていた。これにはさすがに胸騒ぎを抑えきれないバジル。客を装って「オーベルヴィリエ軍事会社」本社内に乗り込んだものの、すぐに屈強な男たちに囲まれ放り出されるハメになる。しかし、これでバジルの中の「何か」に火がついた。最初は一人で「コト」を起こそうと思っていたが、いつの間にか周りの仲間も協力してくれていた。「オーベルヴィリエ軍事会社」社長ド・フヌイエ(アンドレ・デュソリエ)と「ヴィジランテ兵器会社」社長マルコーニ(ニコラ・マリエ)に、今こそ落とし前をつける時が来た!

みたあと

 ジャン=ピエール・ジュネといえば、独特なビジュアルの映画づくりがまず脳裏に浮かぶ。「デリカテッセン」(1991)、「ロスト・チルドレン」(1995)と続いたマルク・キャロとの合作のダークな雰囲気、ハリウッドに招かれて、職人に徹したかのような「エイリアン4」(1997)。SFX多用というやり方はそれまで通りながら、語り口は大きく方向転換して大成功を収めた「アメリ」。そしてSFXはかなり陰を潜めたものの、語り口では「アメリ」の延長線上にある「ロング・エンゲージメント」…。一貫して彼ならではの凝った絵づくりが見られるが、それはこの「ミックマック」でも健在だ。今回はゴミで作ったいろいろな仕掛けに、そのユニークなビジュアルが活かされている。そして、それより何より…主人公バジルを取り面相…何しろクシャおじさんみたいなドミニク・ピノンが入っているくらいだから、そのユニークさは推して知るべし。中では普通の可愛いお嬢さんのはずのルキュレット(マリー=ジュリー・ボー)ですら、デカいメガネが強調されて変な顔にされている(笑)。彼らが使っているオート三輪も、その形状のユニークさが買われての登場だろう。そして「アメリ」より継続されているもう一つのジュネらしさといえば、その「語り口」。アレコレ本筋とは関係ないことをブツブツと並べているようなナレーションとそれをマンガみたいに「絵解き」している映像。そんな脈絡もない話がいつの間にか本筋のストーリーとなって物語が始まる…というスタイルは、つい最近でもリュック・ベッソンの「アデル/ファラオと復活の秘薬」(2010)が踏襲してたけど、アレはマンガの映画化だから、マンガっぽい語り口がいい…とパクッたんだろう。しかしこうして「本家」に触れてみると、やっぱりベッソンごときは足下にも及ばないのがよく分かる。悪いけどパクりにしてもヘタ過ぎだよ。そんなワケでユニークでマンガみたいなビジュアルと語り口で、すっとぼけた味わいのお話が展開。「アメリ」に夢中になったお嬢さんがたが気に入るとは思えない素っ頓狂な連中ばかり出てくる変な映画だが、そもそもよく考えれば「アメリ」も変な奴だよな(笑)。そんなわけで、この作品もまさにジュネの独壇場だと言える。

みどころ

 そんなこの映画の見どころは…というと、意外にもこの「はぐれ者」軍団のコンビネーションだと言ったら驚かれるだろうか。実はこの作品、「アメリ」みたいにお嬢さんが喜ぶ作品でない…と先ほど言ったのは、可愛い女の子が主役でないから…だけではない。一見ユニークなはぐれ者たち、だが彼らはそれぞれ一芸に秀でた連中だ。彼らがそれぞれの特殊技能を持ち寄って、アレコレ工夫をこらして敵をダマし出し抜く。…それってすでに最近僕らはスクリーンで見ていないか? そう、はぐれ者集団が特殊技能で敵を出し抜くチームプレイ映画といえば、あの「特攻野郎Aチーム THE MOVIE」(2010)を彷彿とさせるではないか。その活躍ぶりを見ているうちに、「Aチーム」がこの作品のデジャヴみたいな気がしてくるくらい。あるいは「インセプション」(2010)のディカプリオ・チームを引き合いに出してもいい。バジルたちはあんなイビツで不格好な連中なのだが、その活躍ぶりは結構プロっぽくカッコイイ。そして見ていて「Aチーム」やら「インセプション」が連想されるということは、これらの作品に多大な影響を与えたであろうテレビ版「スパイ大作戦」に、今回の「ミックマック」もかなりの影響を受けたのは明白だ。そういう意味で今回のこの作品、堂々たる娯楽映画に仕上がっているのに驚いた。そして兵器メーカーをやっつける…という一見「社会正義」みたいな偽善話になりがちなところを、徹底的に主人公の私怨を晴らす個人的な「復讐話」のレベルにとどめているあたりも好感が持てる。「世界が平和でありますように」なんて寝言みたいな宣伝コピーは付いているものの、そんな大げさな話ではないし、基本的に「必殺」シリーズみたいな「恨み晴らします」話。だから白々しい偽善にならない。しかもしかも、「復讐話」なのにジメジメせずカラッと笑える話に仕立てたおとぼけジュネ味。こう考えてみると、これは作家映画というより娯楽映画のプロが仕上げた作品というのが相応しい気がする。今にして思えば「エイリアン4」の職人ぶりも、サービス精神旺盛な「彼らしさ」なのかもしれない。大したもんだよジャン=ピエール・ジュネ。すっかり感心しました。

さいごのひとこと

 作戦は奇をもって良しとすべし。

 

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