新作映画1000本ノック 2009年8月

Knocking on Movie Heven's Door


このページの作品

「コネクテッド」 「ウィッチマウンテン/地図から消された山」 「人生に乾杯!」

 

「コネクテッド」

 保持通話 (Connected)

Date:2009 / 08 / 31

みるまえ

 何とあの快作「セルラー」(2004)を香港でリメイクってのに正直驚いた。そりゃ確かに面白い映画にはなるだろう。何しろあの「セルラー」は、最近のすっかりダメになったハリウッドでは珍しく、映画本来の面白さを持った映画だった。どうやったって面白くしかならないだろう。しかし香港映画をハリウッド・リメイクするって話なら、オスカーまで取っちゃった「ディパーテッド」(2006)をはじめ珍しいことじゃないが、その逆っていうと最近聞いたことがない。これってどうなんだろうか? どうも香港では大絶賛だったらしいし、香港映画ファンからも好評ばかり聞こえてくるが、そもそも香港映画ファンってのは香港映画をメチャクチャ過大評価してホメる傾向がある(笑)。この評判は多少割り引いて聞いておいた方がよさそうだ。では、実物の出来栄えやいかに?

ないよう

 徹夜明けのロボット設計者のグレイス(バービー・スー)は、幼いひとり娘ティンティンを車で学校に送り届ける。ところがその帰り、彼女の運転するクルマにいきなり別のクルマが体当たり。アッという間に彼女はさらわれて、見知らぬ空き地のボロ小屋に監禁されてしまう。グレイスをさらった連中のリーダー(リウ・イエ)は彼女から何かを聞き出したいようだが、グレイスには何が何だか分からない。おまけにこの悪党は、娘ティンティンまで狙おうとしていた。そんな事をさせるわけにはいかない! ふと小屋の柱に据え付けられた電話に気づいたグレイスだが、そんな彼女の希望をうち砕くように、悪党はその電話を粉々にぶっ壊してしまった。しかしグレイスは、ただ泣き叫んでいる女ではなかった。彼女には電子工学の知識があったのだ。グレイスは焦り狂いながらも、一味がいなくなったすきに粉々に破壊された電話の修復を試みる。そんな頃、メガネをかけた頼りなさそうな男アボン(ルイス・クー)は、取り立て屋どもの執拗な脅しに泣き叫ぶ一家を見て、何とも浮かない表情を見せていた。実は彼だって同じ「取り立て屋」だが、気弱で心優しい彼には向いてない仕事だ。この日も結局この気の毒な一家から取り立てられず、スゴスゴと引き上げる始末だ。彼の相棒はもうちょっとこの世界に馴染んでいるようだが、それでもヤバい橋を渡ったらしく、この日高飛びを図ること決めた。大事な用があったアボンはこの相棒と別れてクルマを飛ばすが、相棒がクルマの中に護身用の拳銃を忘れたことまでは気づかなかった。さて、アボンの大事な用とは何かと言えば…外国へと旅立つ幼い息子ギットの見送りに行くこと。生来の優柔不断さが災いして女房に愛想づかしされた彼は、息子を手放さざるを得なくなってしまったのだ。今までも何度も信頼を裏切ってきた息子に、最後は約束を守ってちゃんと見送りたい。それはアボンにとって信頼回復の最後のチャンスだったのだ。ところが何たる運命のいたずらか。絶対に今度こそ約束を守って余裕で空港に行かなきゃならないちょうどその時、グレイスが苦心惨憺、破壊された電話機の配線から発信した電話が、クルマを運転中のアボンの携帯にかかってしまった。「お願い、話を聞いて! 私、監禁されてるの!」…そんな話を藪から棒に携帯で話されても、信じる奴なんていやしない。最初はアボンだって冗談だと相手にせず、その電話を切ろうとした。ところがグレイスの必死の訴えは、冗談にしてはあまりにリアル過ぎた。おまけにアボンはついさっき、脅されて悲鳴を上げる女の声を聞いたばかり。これがウソかウソでないかはすぐに分かった。さらに言えば、アボンは無類のお人好しでもあった。そんなこんなでアボンはグレイスの必死の頼みを聞いて、たまたま通りかかった白バイの警官ファイ(ニック・チョン)を呼び止め、携帯を手渡す。しかしこれまた何たる運命のいたずらか、ちょうど最悪のタイミングで悪党のリーダーが小屋に戻ってくるではないか。グレイスはただひたすら黙っているしかない。携帯に耳を傾けた白バイ警官ファイは、まるで狐につままれたような気分だ。「おい、警官をからかうんじゃない!」…そう言われて突っ返された携帯にアボンが耳を当てると…グレイスがちょうど悪党どもに脅されている様子が聞こえてくるではないか。やっぱり本当なんだ!…悪党どもはグレイスの弟ロイの居所を知りたがり、新たに連れてきたロイの友人を射殺した。次には娘のティンティンを殺すと冷酷に言い渡す悪党リーダーに、グレイスは泣き叫ぶしかない。そしてここまで事情を知ってしまった以上、今さらアボンも引き返すわけにいかなくなった。悪党どもに先んじて、学校に行ってティンティンを救出しなくてはならない。必死に学校にたどり着いたアボンはティンティンの居所を探すが、用務員は完全にアボンを疑っている。そんなこんなしているうちに目の前で悪党どもにティンティンをさらわれてしまうアボン。慌てたアボンは悪党どものクルマを必死で追いかける。信号も車線も何もかも無視で追う追う追う! 結局、往来のど真ん中で大事故をやらかすアリサマだ。その際に、クルマの中に例の相棒が隠した拳銃を見つけるアボン。思わずそれを手にしたアボンは、さらに追跡を試みようとする。しかし今度は携帯の電源が切れかかるではないか。こうなればとにかく充電だ。慌てて街の携帯屋に飛び込むが、オカマっぽい店員はなかなか仕事をしない。ついにジレたアボンは、隠し持った拳銃で店内を脅しに脅し、「ちゃんと料金は払って」充電器を手に入れる。ついでにクルマも強奪して、さらに必死の追跡は続く。一方、恋人と買い物を楽しんでいた例の警官ファイは、テレビに映る奇妙な強盗の姿に思わず息を呑んだ。それは小学校で誘拐犯扱いされ、さらに携帯屋で「カネを払う」強盗を働いたアボンの姿だった。元々ファイは交通課の警官ではなく、かつては敏腕でならした刑事だった。不幸な出来事から降格され、今ではかつての部下にまでイヤミを言われる始末。そんなこんなでクサっている毎日だったのだ。しかしこの一件で、ファイの刑事としてのカンがまた働きだした。これはただ事ではない。ウラに「事件」の臭いを嗅ぎつけたファイは、単身で捜査を開始した…。

みたあと

 面白い。やっぱり面白い。あんなに面白い映画のリメイクだから、当然面白いだろうとは思ったが、それでもここまで面白いとは思っていなかった。やっぱりこの映画って抜群の発想だったんだよなあ。ただ、前の「セルラー」とほぼ同じ設定から始まるのだが、途中からお話はだいぶ変わってくる。これがなかなか面白い工夫になっていて、例えば前作ではキム・ベイシンガーが演じる女教師がヒロインだったものが、今回はバービー・スー演じるロボット技術者になっているのがミソ。確かに女教師がブッ壊れた電話を、あれほど簡単に使えるようには出来ないだろう。そういう意味で、これは第一の工夫だ。さらに中盤で出てくるジョニー・トーの「エレクション」(2005)にも登場した急坂の山など、香港という舞台を十二分に活かしたアイディアは素晴らしい。そんなこんなで大いに感心していたら、何と監督と脚本はジャッキー・チェンの復活を印象づけた「香港国際警察」(2004)の監督ベニー・チャンと脚本家アラン・ユエンではないか。これは面白くならないほうがおかしい。今回の作品に、挫折した男が奮闘して再起するというドラマが一本スジを通しているのは、おそらくこの二人のおかげではないか。ハリウッド版と香港版、どっちもそれぞれ素晴らしいとは思うが、今回の香港版は最後の最後まで目が離せない出来栄え。見ていてクタクタになってしまうほどの、サイコーのエンターテインメントになっているから驚いた。

みどころ

 さらにキャスティングや登場人物の設定を見ていくと…前回は脳天気な若者クリス・エバンスが演じた「電話を受ける側の男」の役を、ルイス・クー演じる優柔不断で頼りない男に演じさせたのも面白い。アホだけど屈託のない男の子というオリジナルの設定も悪くないが、今回の「負け犬」キャラにはダメ男の敗者復活戦的な意味合いが出てきて、なかなかに熱くさせるのだ。ウィリアム・H・メイシー演じる冴えない刑事は今回ニック・チョンの降格された刑事となって、これはどっちかというとメイシーに軍配を挙げたいが、これはこれで決して悪くはない。だが、何よりもスゴかったのは…前回、ジェイソン・ステイサムが演じた悪漢役に、あのリウ・イエを持ってきたこと。いやぁ、これが何ともイヤ〜な奴なんである。むろんジェイソン・ステイサムも悪くないのだが、今回のリウ・イエがスゴ過ぎる。最初の頃の純朴な好青年ぶりがウソのように近年は「パープル・バタフライ」(2003)、「PROMISE/プロミス」(2005)、「王妃の紋章」(2006)…とアブない奴ばかり演じているが、今回のソレはさらに磨きがかかった変態ぶり(笑)。正直言うと僕は最初の頃の好青年ぶりも何となく胡散臭いと思っていたんだが、今では完全に「正体見たり」だ。ヌメヌメと気持ち悪い異常ぶりが、ほとんど本人の個性に見えてくる(笑)。おまけに今回は髪を白く染めたりして、さらに変態度がパワーアップした。いやぁ、素晴らしい。ハンパじゃない性格異常者ぶりだ。もうこういう役しか回って来ないんじゃないの?

さいごのひとこと

 この映画を携帯ワンセグで見たらどんな感じだろう?

 

「ウィッチマウンテン/地図から消された山」

 Race to Witch Mountain

Date:2009 / 08 / 17

みるまえ

 新聞広告には「ロズウェル」だの何だの…とUFO絡みの話題がアレコレと散りばめられ、タイトルは「ウィッチマウンテン/地図から消された山」とこれまたアヤシさ満点。これは見なくてはいけないだろう。ところがちょいと引っかかるのが、「ウォルト・ディズニー」プレゼンツということ。確かに、昔のディズニーほど今のディズニーは清く正しく美しくって訳じゃない。今じゃディズニー映画だってジョニー・デップも出ればキース・リチャーズだって出る。とはいえ、それもせいぜい「パイレーツ・オブ・カリビアン」どまりってところがディズニーたる所以。となると、思い切り頑張ってアヤシさを醸し出してる新聞広告ではあるが、映画そのものはそれほどのもんじゃないかもしれぬ。それでも見ずにいられないのが、SF映画ファンの悲しいサガというものだ。

ないよう

 ラスベガス。今夜もタクシーの運転席で客待ちの運転手ジャック(ドウェイン・ジョンソン)は、仏頂面でいかにも機嫌が悪そう。さっきも「スター・ウォーズ」の帝国軍のコスチュームを着たアホな若造二人組が乗り込んで、悪ふざけばかりしやがるからどやしつけてやった。それというのも、今ラスベガスでは大規模なSFのコンベンションが開催されているから。この手の妙なオタクや好き者がウジャウジャやって来て、ジャックの神経を逆なでする。たった今乗り込んで来た美人も、もうちょっとマトモかと思いきや、やっぱりSFイベントに向かう途中だ。「宇宙人が存在する可能性は?」…とか何とか、もういいかげんにしてもらいたい。そんなジャックの気配を感じたこの女は、「暇があったら自分の講義を聴きに来て」と言い残す。何でもこのフリードマンという女(カーラ・グギーノ)、実はれっきとした科学者だというから驚いた。しかし、それでも「宇宙人」云々なんて言うくらいなら、あのオタクどもと変わりはしないだろう。そんなわけで、またまた憮然として客待ちを続けるジャックだった。…その頃、とある組織の司令室では、ちょっとした騒ぎが持ち上がっていた。この組織は、地球外生命の訪問を監視する政府の特殊機関。未知の飛行物体が襲来したとの報に、司令官バーク(キアラン・ハインズ)は色めき立った。ただし、異星人との友好などということは思ってもいない。このバークという男にとっては、地球外からの訪問者はハッキリ「敵」と認知される。何が何でも彼らを捕らえて、何が何でも分析し研究しなければならない。こうして飛行物体がやって来たとおぼしきネバダ州の荒野に、特殊機関の連中がわんさか調査にやって来る。しかし「2体いる」と思われる異星人たちの姿は、どこにも見つけることはできなかった。さて、その翌朝のこと。所属するタクシー会社で昔のワル仲間に絡まれたジャックは、怒りを爆発させて撃退。汚い道からは足を洗ったジャックは、彼らの言うことを聞く気など毛頭ない。しかし、このまま引き下がる相手でもないと知っているだけに、朝から苦虫かみつぶした顔にならざるを得なかった。そんなこんなでクルマを転がし始めたジャックだが、後ろのシートにいつの間にか見知らぬ男の子と女の子が乗り込んでいるのにビックリ。男の子(アレクサンダー・ルドウィグ)も女の子(アナソフィア・ロブ)も至って普通の子に見える。家出なのかと詮索したが、理由は何も言わない。そのくせカネだけはたんまりある。かと言って、何か非行に走っているようにも見えない。一体どこから来たのか、どこへ行くのかもハッキリ言わないこの二人に当惑しながらも、ジャックはひたすら砂漠のハイウェイでクルマを走らせるしかない。すると突然、不審な黒いクルマが何台か接近してきたではないか。その様子を見た二人の子供は、いきなり落ち着かなくなってくる。「大丈夫だ」とまるっきり警戒してなかったジャックだが、そう言う間にも黒いクルマたちはどんどん差を詰めてくる。そして…いきなりジャックのタクシーに体当たりをかけてくるではないか! これにはビックリのジャックだが、そうとなったら突然態度を豹変。何と彼は今朝絡んできたヤクザ者たちの仲間だろうと早合点して、俄然怒りを爆発させたのだった。しかし敵もなかなかしぶとい。何とか何台かは撃退したものの、1台だけはいつまで経っても振り切れない。するとタクシーに乗っていた例の男の子の方が、何か意を決したような表情を見せる。次の瞬間、彼はスッと透き通ってクルマの外へと姿を消す。そしてさらに次の瞬間には、この男の子はなぜかハイウェイに立っているではないか。そこに、敵の残る1台が突っ込んできた。あわや!…男の子がひき殺されると思いきや、何とクルマの方が男の子にぶつかって大破。男の子はかすり傷ひとつ負わずに平然とした表情だ。そして、スッといつの間にかタクシー車内に戻っていた。どう考えても彼らは、地球の者ではない。しかし、そんな奇怪な一幕を見ていなかったジャックは、何とか自分が敵を撃退したものと思いこんでいた。そして危険な状況にこの二人を巻き込んでしまったと、勝手に責任を感じてもいた。しかし…当然のことながらこのクルマの一団は、ジャックの顔見知りのヤクザではなかった。宇宙人を捜していた、例の政府機関の連中だったのだ。そして彼らは、あくまでも宇宙人…例の男の子と女の子を捕らえようと次の手を練っていた。しかも彼らを追っていたのは、この政府機関だけではなかったのだ…。

みたあと

 ドウェイン・ジョンソン…一体誰のことかと思っていたら、なんだなんだ、そうだったのか。彼ってあの「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」(2001)で衝撃映画デビューを果たしたプロレスラー「ザ・ロック」ではないか。そういや彼はレスラーを辞めて映画に専念するため、これからは「ザ・ロック」という名前でなくなると聞いていた。そう気づいていたら、もっとこの映画を楽しみにしていたよ。何しろこの「ザ・ロック」ことジョンソン、元レスラーと言いながらなかなかの芸達者だ。探偵に扮した「ランダウン/ロッキング・イン・アマゾン」(2003)といい、SFアクションで活躍する「ドゥーム」(2005)といい、結構やってくれるのである。特にアーノルド・シュワルツェネッガーがいなくなった後のハリウッドでは、こうしたタフガイ・スターとして大いに期待できると思っていた。僕は彼の出ている映画なら、これからも見たいと思っていたのだ。たまたまここ何作かは見逃してしまったが、またまた新作と出会えたのは嬉しい。もう、それだけでこの作品は、僕にとっては元をとったも同然。彼の出演で楽しめること請け合いだ。

みどころ

 で、思った通りこの映画なかなか楽しめる。知らなかったのだが、この作品、かつてのディズニー映画「星の国から来た仲間」(1975)のリメイクらしい。そもそもこの作品って、リメイクされるほど評判良かったとは知らなかったが、ともかく一種のカルト作品めいた映画のようだ。しかし僕にはそんなこと関係ない。ひたすら「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンを楽しむ映画だ。このコワモテを絵に描いたようなゴツイ男が、宇宙人の男の子と女の子に振り回される。この取り合わせの妙を見よ。それだけで楽しい。そして何だかんだ言ってジョンソンが、「気は優しくて力持ち」な奴って設定もいい。やさぐれたタクシー運転手をやっていながら、善人の心は死んでいないってあたりが、アメリカ映画伝統の王道設定なのである。そして、頼まれもしないのにお節介を焼いて、この宇宙人兄妹を助けていく。これが他のスターなら白々しくもなるが、「ザ・ロック」なら信じられるではないか。このキャスティングが何とも絶妙。ここに「ザ・ロック」を持ってきたことが何よりの勝因。宇宙人兄妹に、ホラーまがいの異色のファンタジー怪作「光の六つのしるし」(2007)の主役の男の子アレクサンダー・ルドウィグと、「チャーリーとチョコレート工場」(2005)で高飛車な女の子を好演して目立っていたアナソフィア・ロブを持ってきたのも大正解。な〜んか変な感じがよく出ていた。ともかく、映画はちゃんと正直者が報われて、悪人も彼らなりの報いを受けて、キッチリ帳尻を合わせて終わる。マトモなことをマトモにやって楽しませるってことは、実は一番難しい。最後の最後までアメリカ娯楽映画本来の健全な面白さを見せてくれるこの作品、監督のアンディ・フィックマンの腕前にも感心した。

さいごのひとこと

 過去に囚われない「レスラー」もいる。

 

「人生に乾杯!」

 Konyec

Date:2009 / 08 / 17

みるまえ

 ハンガリー映画である。ポーランド映画もチェコ映画も、わずかではあるが見たことはある。しかしハンガリー映画を僕は一体何本見たことがあるだろう。ウンウンうなって思い出してみると、そうだ、イシュトバーン・サボーの作品がハンガリー映画ではないか。でも、たぶんそれ以外は見たことがないだろう。お話はというと、年金が少なくて銀行強盗にはしる老夫婦の話。いわば老人版「ボニー&クライド」の話をコミカルに描いたものらしい。ちょっと面白そうだが、こういうお話は結末の付け方が難しい。果たしてそのへんはどうなっているのか。

ないよう

 1950年代、共産党政権下のハンガリー。ある高貴な人物の屋敷に、秘密警察がやって来る。荒っぽい捜査が行われている最中、警察幹部を乗せたクルマの運転手…素朴な青年エミルも屋敷の中へ。物珍しげに屋根裏部屋を見回していると、急に天井が破れて隠れていた若い娘が落ちてくるではないか。彼女の名前はヘディ。現在捜査を受けているこの屋敷の住人だ。ヘディはエミルに付けていたダイヤのイヤリングを差し出すと、黙っていてくれ…と懇願。エミルも当惑しながら、秘密警察メンバーの問いにとっさにトボけるのだった。そして、幾年月…。髪は白髪となり足腰もふらつく老いたエミル(エミル・ケレシュ)は、借金取りからとっさに姿を隠したせいで腰を痛める始末。今日も今日とてエミルの愛車「チャイカ」を売る売らない…で、老妻ヘディ(テリ・フェルディ)とちょっとした言い合いとなる。このイマドキお目にかかることも少ないソ連製の「チャイカ」、エミルの愛車といっても現在ではまったく走らせていない。そもそもガソリン代など捻出できない。しかし、このクルマこそエミルが実直に長年勤め上げた印。いかに老体のポンコツだろうと、エミルには手放すなんてことはできやしないのだ。しかし世間の厳しい風は、老人とて容赦しない。二人の侘びしい年金では、とても暮らしを支えていけない。今日も今日とて、ヘディが近所のバアサンたちとテレビのクイズ番組を見ている途中で、無情にも電気が切られるアリサマ。その翌日には借金取りたて人が有無を言わせず押し掛けてきたため、ヘディは彼女の唯一の誇りであるダイヤのイヤリングを泣く泣く差し出した。これにはさすがにエミルも、オノレの不甲斐なさに肩を落とさずにはいられない。その夜は悶々として眠れずじまいのエミル。おもむろに真夜中に起き出した彼は、アパートの駐車場に停めっぱなしの愛車「チャイカ」に駆け寄る。そして他人のクルマからガソリンを失敬すると、こっそり夜の街に出掛けていった…。さて、エミルとヘディの老夫婦が微妙な状況に追い込まれる一方で、こちらもまた危機を迎えたカップルがもう一組。それは、出張フーゾク嬢とよろしくやっているところを写真に撮られて上司からお目玉をくらった刑事のアンドル(ゾルターン・シュミエド)と、その恋人で同僚刑事のアギ(ユディト・シェル)の二人。当然ながらアギはカンカンで、アンドルを家から叩き出す。それだけでも散々なアンドルは、この一件で降格をくらって交通課に回され、まさに泣きっつらにハチ…。さて、「チャイカ」に乗って家を出たエミルはと言うと、このクルマに残されていた秘密警察の拳銃を持ち出し、いきなり郵便局に乗り込む。何を思ったか窓口の列に並んだエミルは、自分の番がやってくるや胸元に忍ばせた拳銃をチラつかせるではないか。「お嬢さん、有り金全部もらいたい。さもないとケガをするかもしれん」…窓口の女性は、想定外の老人強盗にアゼン呆然。エミルはまんまと「初仕事」を成功させて立ち去った。そんな彼の年代物の「チャイカ」は、パトカーで待機中のアンドル刑事の目と鼻の先を偶然通過するが、もちろんこの時点ではアンドルはそんなことを知る由もない。さて、こうしてカネを手に入れたエミルだが、さりとてアッサリ家にも戻れず悶々。さらにガソリンスタンドでも犯行を重ねることになるが、その様子をモニターカメラにとらえられたのはマズかった。テレビでそんなエミルの姿を見たヘディは、当然のことながらビックリ。やがて彼女のもとに警察から刑事がやって来るが、それはお互い苦々しい思いで改めてコンビを組むことになったアンドルとアギだった。何が何だか事情がまったく分からないヘディは、ともかく従順に警察に協力するより他はない。やがてエミルから電話が来て、彼と落ち合うことになるヘディ。しかし彼女を乗せたタクシーはアンドルが運転しており、その後ろからもアギともう一人の刑事の乗ったクルマが追跡していた。エミルが合流のために指定してきたのは、人けのない砂利集積所のような空き地。しかしいきなり銃を用意したアンドルを見て、ヘディの気持ちは一気に変わった。警察に協力するつもりだったヘディだが、エミルのそばに駆け寄った彼女は「逃げて!」と一緒に「チャイカ」に飛び乗った。「しまった!」とアンドルたちが気づいた時にはもう遅い。「チャイカ」は砂利だらけの急坂を、うなるような爆音を立ててよじ登る。慌ててクルマで後を追おうとするが、イマドキの軟弱グルマじゃ砂利道を登れない。結局、質実剛健を絵に描いたような老いぼれ「チャイカ」と老夫婦に、まんまと逃げられてしまう刑事たちだった…。

みたあと

 ハンガリー映画ってほとんど見たことなかったので、それだけでも珍しモノ好きの僕には嬉しかった。映画自体もすっとぼけた笑いに満ちて、なかなかおおらかで楽しい作品。老人が強盗をやらかして逃亡犯となるのもおかしければ、警察がこの老ギャングにキリキリ舞いさせられるというのも楽しい。仕事からリタイアしてそれでなくてもショボくれてた老いた夫が、不甲斐なくも妻の最後の誇りであるイヤリングまで取り上げられることになって、さらに意気消沈。ところが、そんな彼が泥棒稼業に手を染めて逃亡犯になるや、老妻に向かって「オレといると退屈させないゾ」などというセリフを吐くあたり、なかなか嬉しくなる。見ていてのんびりと楽しい映画である。

!!!映画を見てから読んで!!!

こうすれば

 しかし、この映画のこれらの美点はすべて…正直言ってチラシを見て予告編を見ていれば、映画を見る前にすでに事前情報として得られているモノではある。実際のところこの映画の楽しさの大きな部分は、見る前に大体想像がついている。正直言ってこの設定なら、こうなるしかない。老夫婦が「ボニー&クライド」みたいに強盗の逃避行を重ねるって設定はユニークだが、その設定を知った時点で映画そのものを見る時の驚きはなくなる。この老夫婦が飄々と強盗を続け、警察がキリキリ舞いさせられ、すっとぼけた笑いが漂う。そうなるだろうな…と、たぶん大部分の観客は予想していただろうし、実際にそういう映画だと見ていて思ったに違いない。事前情報では知り得なかったのは、老夫婦と対照的に若い刑事カップルが描かれることぐらいだ。そしてこちらも、捜査をしていくうちに老夫婦の愛情に触発されて愛情が甦る…という展開になることが簡単に予想できる。そして、実際にその通りに話が進む。「こうなるだろうな」と思う通りに展開して、それを裏切ったりハミ出したり意表を突いたりする部分はない。少なくとも…エンディングに至るまではほとんどそうだ。イヤミがなく楽しい映画だが、正直言って、事前に知った情報と何となく頭の中に浮かんだ予想をスクリーンで確認するような行為に近い。そういう意味では、(少なくともエンディングまでは)驚きのまったくない映画だと言ったらチト厳しい言い方だろうか。ただ、こういう話は終わらせ方が大変難しいので、見ていてそっちが心配になってくるのも確か。結果的には、あれが最良のエンディングだったかどうかは意見が分かれるところだろうが、うまくやった方なんじゃないだろうか。

みどころ

 ただ、映画として秀逸だと思ったのは、老夫婦たちのシンボルとしての「チャイカ」という旧ソ連製のヴィンテージ・カー。このゴツくてムダに立派で丈夫そうなボディが、何とも見ていて味がある。と同時に、このクルマが映画のテーマそのものを何より雄弁に物語っている。警察のイマドキのクルマを振り切って、猛烈なパワーで急坂をよじ登っていく場面の痛快さ。あのクルマの、場違いなまでに「威風堂々」な佇まいが効いている。映画は何より視覚で訴えてナンボのメディアだから、この物語の中心に「チャイカ」を持ってきたのは大正解。この映画の監督ガーボル・ロホニは、それだけでもお手柄だと思う。エンディングは賛否両論あるかと思うが、老夫婦が過去と決別して「ハジケた」象徴としてとらえれば、あれもまた一興。ともかく、クルマがすべての映画だと思う。

さいごのひとこと

 「チャイカ」って「カモメ」の意味だろうか?

 

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