観客は判ってくれない
あるいはスタローンとロッキーが受けた重たい400発

The 400 Blows against ROCKY

含・「ロッキー・ザ・ファイナル」感想文
featuring : Review of "Rocky Balboa"


 

もう一度立ち上がるロッキー=スタローン

 

 あの有名なビル・コンティ作曲のファンファーレが聞こえて来ると、懐かしい「ロッキー」の世界が帰ってくる。

 確かにロッキーは「帰ってくる」。それは今回の作品に限らない。回を重ねるうちに作品がどんなにその性格を変えていっても、質的に低下していても、基本的にはいつも「ロッキー」シリーズは同じパターンを描き続けてきたのだ。

 派手なファンファーレと共に「ROCKY」の文字が右から左へ画面を横切るという、「風と共に去りぬ」(1939)以来のタイトル表示でスタート。何らかの理由で人生のモチベーションが低下している主人公。そして彼を追い込む苦境。戦わざるを得なくなる主人公。だが、その戦いは常にほとんど勝ち目がない賭けのような戦いだ。しかも、彼には迷わず戦いに突っ込んで行けない事情がある。そんな葛藤の末、ついに迷いを吹っ切った主人公が一念発起特訓に取り組むと、またまたビル・コンティの「ロッキーのテーマ」が冒頭のファンファーレの変奏曲として高らかに歌い上げられる。そして有名なフィラデルフィア美術館前でのガッツ・ポーズでそれは頂点に達し、主人公も観客も気分が最高潮に高揚する。そして後半は一気にドキュメンタリーのような迫真の試合場面の連続だ。そして試合を通して主人公が何かを手に入れ、歓喜のエンディングへ…。

 実は「ロッキー」のシリーズは今回までにすでに5作も製作されているのに、毎回毎回バカのひとつ覚えみたいにこれの繰り返ししかやっていない。マンネリ…というのも、どうも当たっていない気がする。実は「ロッキー」シリーズとは、厳密には「ロッキー」の続編というよりリメイクに近い。毎回毎回無限のリフレインを続けることで、ここまでやって来たシリーズなのだ。

 では、マンネリどころではないこのシリーズに、観客がもっと早く飽きが来ても良かったはず。だが、そうはならなかったから不思議だ。実は質的に低下を続け、「4」に至っては変なメッセージまで入ってしまったにも関わらず、なぜかシリーズの「鮮度」だけは落ちたという印象がないのだ。

 むしろ「鮮度低下」を感じさせるのは、皮肉にも「原点復帰」という良心的姿勢を見せた「5」だけ。調子に乗りすぎた主人公と筋肉バカでMTVな頭カラッポ内容を反省し、初心に帰ってジョン・G・アビルドセン監督を再起用した「5」に限って、鮮度はガタ落ちに落ちているのだ。これは一体どうしたことなのだろう。別に「3」や「4」がイイ作品だなどとはこれぽっちも思わないのだが、「イキの良さ」の点だけに限って言えば、シリーズを通してガックリ調子を落としているのはマジメにつくろうと努力している「5」一本だけ。

 実はこの点が、「ロッキー」というシリーズを解くカギなのではないか。

 そんな事をふと僕が脳裏に思い浮かべたのは、今回の「ザ・ファイナル」を見始めたあたりでのことだ。

 エイドリアンの死、失われた栄光、息子も去って行った。華々しいのはすべて過去ばかり。ロッキーも見るからに老け込んで、人生思うようにはいっていない。

 例えば「5」で見せたような、頂点から一気に転落…みたいなドラマチック性は全くないが、ここでのロッキーはやっぱり鬱屈とした毎日を送っている。そして過去ばかり見ている。毎日食うや食わずという訳ではない。屈辱に耐えている訳でもない。そこそこに生活を送っているが、あの往年を考えてみれば寂しい限り。そんなこの映画の前半部分を見ているうち、僕はハタと膝を叩いたのだった。

 この感じは、僕も身に覚えがある

 ピークを過ぎてしまった。気が付いたら人生前半戦が終了していた。巻き返せると思っていたら、もはや時間切れが迫っていた。自分にそんな時がやって来たと気づいた時ほど、人間寂しい気持ちになることはない。それは誰にでもやって来るものだ。

 でも、それは人生真っ逆さまよりずっとリアリティがあるし、実はずっと重いことなのだ。

 むしろジワッとこたえてくるという点で、顔に受けるパンチよりもむしろズッシリ重たいボディへの一撃に近い。後々になって効いてくる。劇中でもロッキーが言っている通り「人生ほど重いパンチはない」のだ。

 そして画面には、メイクでは作れない老けをクッキリと刻印したスタローンがいる。それを一目すれば、実は「重いパンチ」を受けて来たのは他ならぬスタローン自身であることも分かる。この段階で「ロッキー=スタローン=観客」…は一気に一括りになる。だから共感の度合いが今までと全然違う。

 いや、今まででも一回だけそれがあった

 芽が出なくて踏みつけられて、誰からも省みられない。そんなパッとしない自分に悶々とする日々。それはよっぽどオイシイ目に遭っている一握りの人間以外は、誰しも抱える悶々とした気持ちだ。そして、おそらく売れる前のスタローン自身の心境でもあった。言うまでもなく「ロッキー」第一作がそれだったのだ。

 考えてみれば…前述したように「ロッキー」は最初からスタローンと同一視された。むろんアメリカン・ドリームの体現としてそう見られたのだが、何よりその無名の鬱屈感が同じだった。そして奇跡的なことに、それを観客も自らにダブらせて同一視出来た。それゆえ無類の興奮と感動を生む作品に仕上がったのだろう。テクニック的なことは度外視すると、「ロッキー」の成功の秘密はそこにあったような気がする。

 で、「ロッキー=スタローン」的展開は、その後のシリーズでも継続された。スターとして売り出しながらも他作品ではパッとせず、またまた「ロッキー」にすがることになってつくった「2」、大スターになって初心を忘れた頃には、ロッキーがチャンピオンになって精神力が衰える「3」、スタローンがレーガン政権のスポークスマン化した「4」…と、スタローンのキャラクター変化にロッキーも完全に同化していったのだ。おまけに外見上も、年齢的変化に加えステロイド剤によるマッチョ化が進んだ。

 つまり「ロッキー」は内面的にも外見的にも、スタローンの成長記録のようなシリーズとなっていたのだ。

 実はこのあたりで、僕には何となく他にもこのシリーズに似た映画作品群を見たことがある…という気になっていたのだが、それはまた後ほど。ともかく「ロッキー」シリーズは、そっくりそのままクリエイター=主演俳優の成長…あるいは退化(笑)…の記録として続行する、映画史にも稀な連作となったわけだ。こういう視点を持たないと、たぶんこのシリーズの本当の価値は分からないのかもしれない。

 そしてこのシリーズが作品的にはどんどん低下しても「鮮度」だけは失わなかった理由も、これで分かる。作品的な低下は、実はスタローンというスターが空疎な映画人と化していく過程を忠実になぞっているからだ。こうなると「4」におけるビル・コンティの降板などもキズにならない。それは、ビル・コンティにも見放されるスタローンという、その時の彼を忠実に反映した結果とも言えるからだ。あくまでスタローンの「人生記録」であり続けたからこそ、「鮮度」だけは落ちなかった

 だが観客の共感とは、それは全く別だ。

 だからこそ、実はシリーズ第一作の作品的成功にはその後のどの作品も達しなかった。「ロッキー=スタローン」のタッグは組めても、もはや「ロッキー=スタローン=観客」というタッグではあり得ない。むろんスターとしての知名度やポジションや経済状態が僕らとは段違いなのはもちろんだが、最大の問題はモノの考え方や価値観が狂ってしまったこと。おそらくスタローンはかなり我を失ってしまったのではないか。

 そしてだからこそ、良心的に映画づくりを模索した「5」は失敗に終わった。「原点復帰」の志はいい。だがあの時点で、スタローン自身は転落もしてなければ反省もしていなかったはずだ。あくまでドラマの設定上、ロッキーを転落させたり、後継者を育てさせたりした。確かに「ロッキー」が並みの映画作品だったらそれもいいだろう。だが、これはあくまでスタローンの「人生記録」でなければ成立しないという、極めて特異な性格を持つ映画シリーズだ。だから主人公ロッキーと主演者スタローンが剥離してしまうと、映画作品として破綻を来たしてしまう。結果として、形だけつくって魂を吹き込まない、気の抜けたビールみたいな作品に仕上がってしまった。「ロッキー5」の失敗は、たぶんそこに起因しているのではないだろうか。

 そして…だから今回の作品は、観客に訴えかける度合いが段違いに違う。

 ピークを過ぎてしまった人間の焦燥感は、誰もが経験することだ。そして今やスタローン自身がそれを誰よりも痛切に感じている。主演作が全米でお蔵入りになってしまうような辛酸をなめた彼の姿は、ピタリ今回のロッキーと重なってくる。だから「ロッキー=スタローン=観客」という幸福なタッグが再びここに成立する。

 そう考えると、今回ばかりはエイドリアンの殉職(笑)も適切な処置だったと分かる。エイドリアンさえいれば、何となくロッキーはそれでも満足してやっていけそうではないか。彼から「現在の希望」を奪い取るために、「過去の幸福」を振り返らずにいられなくするために、どうしてもエイドリアンは失われなければならなかったのだろう。

 

 

 

 次ページへつづく

 To Be Continued...

 

  


 

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