観客は判ってくれない
あるいはスタローンとロッキーが受けた重たい400発

The 400 Blows against ROCKY

含・「ロッキー・ザ・ファイナル」感想文
featuring : Review of "Rocky Balboa"


 

人生ほど重いパンチはない

 

 フィラデルフィアの街に、今日もさまざまな人々の暮らしが営まれている。今は一介の市井の人となったロッキー・バルボア(シルベスター・スタローン)も、そんな平凡な一人。むろんロッキーの過去を思えば「平凡」とはとても言えまい。だが今の彼はすっかり老いぼれ、イタリアン・レストラン「エイドリアンズ」の単なる一店主だ。

 そんな店の名前にもなったロッキーの愛妻エイドリアンは、今はもういない。ロッキーは何かと言えばエイドリアンの墓に足を運び、もの言わぬ墓石に語りかける日々。何年か前にガンでその短い生涯を終えたエイドリアンを、ロッキーはいまだに忘れる事が出来ずにいた。

 そんなエイドリアンの命日を翌日に控えたある日、ロッキーは息子ロバート(マイロ・ヴィンティミリア)の勤める会社へと出向く。だが父親とは違ってサラリーマン人生を選んだロバートは、父親の来訪を快く思っていなかった。それどころか、最近ではとんと家に寄りつかないアリサマ。そんなロバートとのギクシャクした関係に、やりきれない思いを抱くロッキーだった。

 その夜もロッキーは自分の店「エイドリアンズ」にいた。ロッキー目当てにやって来た客に、いつものようにかつての武勇談を語って聞かせる。その姿はよく言えば悠々自適の老後だが、ハッキリ言って過去に生きている人生そのもの。そんなロッキーの元に届けられた知らせは、エイドリアンの命日である今日も、店に来ることが出来ない…というロバートの冷たいメッセージだった。

 そんなやりきれない気持ちを引きずるように、腐れ縁の旧友ポーリー(バート・ヤング)を連れて夜通し「エイドリアン巡礼」に出かけるロッキー。かつて彼女が勤めていたペットショップも、今はつぶれて廃墟だ。初めて彼女とデートしたスケート場は、今は取り壊されて瓦礫の山。初めて彼女と口づけを交わした場所こそ変わりがないが、そこに肝心のエイドリアンがいなければ意味はない。またまた深い悲しみに落ち込むロッキーに、たまりかねてポーリーが口を出す。「おいおい、いつまでそんな事やってるんだよ?」

 むろんポーリーとてロッキーの気持ちは百も承知。だからこうしてロッキーの「巡礼」に付き合ってもいるのだ。ポーリーが文句を言っているのは「付き合いきれない」からではない。そんな後ろばかり向いているロッキーの姿勢に、マブダチとしてついついボヤきたくなるからに他ならない。

 たまりかねてポーリーが帰った後、場末のバーに転がり込んだロッキー。そこにいた若い客たちが心ない言葉を吐きかけて来たのは不愉快だったが、今は市井の人であるロッキーは黙ってやり過ごした。そんなロッキーに、カウンターの女バーテンが暖かい声をかけてくる。

 「私のこと覚えている?」

 実は彼女は、まだアポロと対戦する前のロッキーに喫煙をたしなめられた、マリーという不良少女の30年後の姿(ジェラルディン・ヒューズ)だった。その時はロッキーに毒づいていたが、今でも彼に家まで送ってもらった事を覚えていたのだ。そんな彼女に久しぶりに暖かいものを感じるロッキーは、今夜も彼女を家まで送ってやることにする。

 だが先ほどロッキーを侮辱した若い連中は、今度はマリーにも汚い言葉を投げかけて来た。その時、くすぶっていたようなロッキーの心に何かが起こった。彼は若い連中の元に駆け寄ると、胸ぐらを掴んで無理矢理謝らせた。そして堂々とマリーの元へ戻ると、彼女をクルマで家まで送るのだった。

 彼女が暮らしているのは、まるで崩れかけたようなボロ家。そして未婚の母として、一人息子のステップス(ジェームズ・フランシス・ケリー三世)を連れて故郷に戻って来ていたのだ。そんな貧しくつらい境遇の彼女に、ついつい力を貸してあげたいと思うロッキーだった。

 そんな頃、ロッキーの苦悩などとは全く関係のないところで、一人の若いヘビー級のボクサーがやり場のない怒りを溜め込んでいた。彼の名はディクソン(アントニオ・ターヴァー)。破竹の勢いで連勝を続け、若くしてチャンピオンの地位を不動のものとしている男だ。だがあまりに強すぎてアッという間に勝ってしまうので、格下の相手としか対戦しないと非難ごうごう。「長いラウンドを戦った事がないので本当の実力は分からない」などと言われ、人気も低迷の一途を辿っていた。挙げ句の果てに、テレビ局のヤラセでは?との疑惑も高まるばかり。

 「本当に強いオレなのに、強くて何で非難されるんだ?

 そんな悶々とした気持ちを抱えたまま、かつての恩師のトレーナーの元を訪ねるディクソン。そんな彼に老トレーナーは、「オマエにはホンモノの試練を与えてくれる相手が必要だ」と語りかけるのだった。

 しかも折りもおり、テレビ局が「無敵」のディクソンと「往年の偉大なチャンピオン」ロッキー・バルボアとのコンピュータ・マッチを企画。事前の解説者たちのコメントでも、圧倒的に「ロッキー優勢」との声が上がる。実際にCG画面によるコンピュータ・マッチが始まっても、「ロッキー優勢」ムードは変わらない。結局ロッキー勝利に終わったコンピュータ・マッチの結果に、さすがにディクソン陣営は激怒せずにはいられない。

 さて、例のマリーとの出会いで心の中の何かに火がついたのか、ロッキーは突然新たな挑戦を決意した。それはボクシング・ライセンスの再取得だ。

 だが、それを聞いた周囲は当惑気味。今でも押さえきれない心のたぎりを感じると告白するロッキーだったが、ポーリーはそんな彼の挑戦を少なからず危ぶんでいた。そう思ったのは、むろんポーリーばかりではない。ボクシング協会にとっても、還暦を迎えるプロ・ボクサーなどシャレにもならない。健康状態のチェックはすべて「良好」と出たものの、ライセンスの交付は認める訳にはいかなかった。そんな無粋な申し渡しを聞いて、わざわざ忙しい中を出向いて来たロッキーは思いの丈をブチまけた。

 「挑戦しようとする人間を止める権利が誰にあるんだ!」

 そんなロッキーの必死の訴えが届いたか、間もなく念願のライセンスが何とか降りることになった。

 ところが、事態は思いもよらぬ方向に転がりだした。何とロッキーがボクシング・ライセンスを取得したという知らせを聞きつけ、あの現チャンピオンのディクソン陣営がロッキーに試合のアプローチをしてきたのだ。

 実は不人気ディクソン陣営としては、ロッキーと対戦して彼に花道をつくってやることで、一般の好感を勝ち取ろうという狙いがあったのだ。ディクソン本人は「何であんな老いぼれとオレが」…と言いたいところだったが、事ここに至ってはそうも言っていられない。

 一方ロッキーの方としては、さすがに最初はささやかに…と思っていただけに戸惑わざるを得ない。だが、こうなったらもはや乗りかかった船。マリーやポーリーらの励ましもあり、「一丁やってみるか」という気持ちになってきた。

 ところがそんなある夜、「エイドリアンズ」にとんと寄りつかなくなっていたはずの息子ロバートが、いきなりロッキーを訪ねてくるではないか。最初は単純に喜んでいたロッキーも、えらい剣幕のロバートに困惑気味。ロバートは今回の父親のカムバック話に、すっかりおかんむりのご様子だった。

 「何でカムバックなんかするんだ。父さんはいくつになったと思ってるんだ? 笑い者になりたいの?」

 最初こそロッキーの身を心配しての言葉のように語っていたものの…だんだん激高してきたロバートは、今までのわだかまりの根底にある本音を吐き出し始めた。

 「大体、僕はいつも父さんの陰で肩身の狭い思いをしてきたんだ。ようやくそれがなくなったと思ったら、またカムバックなんて!」

 その時…いつも不機嫌そうなロバートの前で困惑するだけだったロッキーは、初めて本心を吐露するように激しく吠えた。今こそ彼には、すべてが明快に見えていたのだ。

 「人生ほど重いパンチはない。だが、ただ堪えて進むしかないんだ。自分の弱さを人のせいになどするんじゃない。それは卑怯者のすることだ!」

 

 

 

 次ページへつづく

 To Be Continued...

 

  


 

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