決してくたばらないのか
単なるくたばりぞこないか
「ダイ・ハード」シリーズが辿ったダイ・ハード状態

Die Hard, Harder, Hardest

含・「ダイ・ハード4.0」感想文
featuring : Review of "Live Free or Die Hard"

 
 

生まれると同時に「古典」だった
「ダイ・ハード」

 

 

 びっくりしたのだが、今回のシリーズ4作目は何と前作から12年ぶりの新作ってことになるんだそうである。

 確かに久々とは思っていたが、まさか10年以上経っていたとは。そういや改めて第一作のDVDパッケージなんぞ見てみると、変わっていないようで実は…若い若い! ブルース・ウィリス扮するジョン・マクレーンの髪がフサフサなんてことはさておき、顔そのものがまるっきり若いのだ。

 そんなわけで、まずは歴史的第一作「ダイ・ハード」(1988)を振り返る。

 歴史的…という言葉を今使ったが、これは決してコケ脅かしの言葉ではない。正直言ってハリウッドのスペクタキュラーなアクション映画の指針となった作品だし、ある意味で「駅馬車」(1939)とか「ゴッドファーザー」(1972)とかと同じように、娯楽映画の「古典」となった作品だ。それも、生まれると同時に「古典」と化したと言っていい。それくらい「ダイ・ハード」の第一作はスゴイ作品だったのである。

 物語はみなさんもう御存知の通り。ロサンゼルスの真っ直中にあるハイテク高層ビル「ナカトミ・ビル」を武装集団が襲撃。その日はクリスマスで仕事納めだったために、警察に気づかれずにビル乗っ取りは呆気なく完了してしまう。武装集団の狙いは金庫にある株券や会社の財産だ。金庫のセキュリティー解除のためには何段階かのプロセスを踏まなければならないため、武装集団には時間が必要だった。そこでハイテク化したビルを乗っ取って、逆に「要塞化」する作戦に出たわけだ。緻密な作戦と豊富な物量を誇る武装集団は、終始圧倒的有利な状況で事を進める。ただし彼らにはたった一つだけ誤算があった。完全制圧したはずのビル内に、一人の刑事が紛れ込んでいたことだ。

 この映画のどこからホメたらいいのか、生憎と皆目見当がつかない。どこをホメてもホメたりない映画とはこのことだろう。ハリウッドのワンマン・アーミー映画の典型と見えて…実はこんなに緻密に描き込まれた物語はほとんどない。

 まずは住み慣れたニューヨークからわざわざカリフォルニアまでキャリアウーマンの女房(ボニー・ベデリア)に会いに来た、主人公マクレーンの場違いな様子がオカシイ。ニューヨーカーの彼にとってはクリスマスですら暖かいカリフォルニアはどうにも好きになれないし、叩き上げの刑事にとってビジネスマンの世界が居心地いいはずがない。おまけに高所恐怖症だから、そもそも高層ビル自体が我慢ならない。そんな彼が何かとギクシャクしている嫁さんとの仲を何とか修復しようとしても、そうはうまくいく訳がない。そんな不用意な状況下で、主人公はいきなり非常事態に巻き込まれるのだ。「不用意」と言えば、主人公がたまたま裸足で逃げ出さなければならなかった事自体も「不用意」そのものだ。

 孤軍奮闘、不敵でユーモラスな台詞を吐きながら戦う主人公はまさにアクション・ヒーローだが、その一方で「何でこんな目に」と盛んにグチをたれるし、足をガラスで傷つけ血まみれになるや、ついつい不安になって弱気な言葉でこぼしまくる。完全無欠の仇役集団に対して孤立無援のたった一人のヒーローが戦うという映画は世間にあまたあると思うが、こんなスケールでっかいハリウッド製アクション映画でこんな「等身大」の主人公が戦うものは、他に例を見ないのではないか。「ダイ・ハード」の魅力がこのマクレーン刑事のキャラクターに負うところ大である点については、改めて言うまでもないはずだ。

 マクレーンが「等身大」たるゆえんは、その戦いのモチベーションからも言える。マクレーンはたった一人、テロリスト集団の制圧から逃れた人間だ。ゆえにビルから逃れて助けを求めることもできた。しかし中には妻が人質になっていて、しかも彼は非番とはいえ警官だ。だから彼は、孤立無援でも戦わない訳にいかない。彼の戦いは、決して「正義感」による勇気の産物ではないのだ。この設定の巧みさと説得力には舌を巻かざるを得ない。

 またこの映画の素晴らしさは、脇の人物の描き方の妙にもある。地元警察やFBIが終始一貫無能で愚鈍でマクレーンに冷淡であり、マスコミ代表としてのTVレポーターのウィリアム・アザートンが卑劣極まりない人物に描かれているのに対して、唯一主人公を応援するレジナルド・ベルジョンソンの太った黒人警官の好ましさ。この警官が、ロクに拳銃を撃ったことのない人物と描かれているのもニクイ。また、ヘッドフォンで音楽を聴いていたため事件の事を一切気づかなかったリムジン運転手のアンチャンも、物語の本筋とは無関係ながら味のあるキャラクターだ。

 だが何と言っても見事だったのは、これが映画デビューとなったクセ者アラン・リックマンによる「スーツを着こなしたテロリスト」という悪役の存在だろう。この一作によってリックマンは世界の映画ファンの注目を集めたが、それも当然の強烈さ。終盤にスローモーションで落下していく際の「アッパレな退場ぶり」も含め、まさに悪役のカガミと言える。

 そしてリックマンが映画デビューと言うなら、実は主演のブルース・ウィリス自体がこの時点で映画スターとしての地位を確立していなかった。

 そもそも僕がウィリスを知ったのは、テレビの「こちらブルームーン探偵社」(1985〜1989)でのこと。それも、もう一人の主演者シビル・シェパードのことは「ラスト・ショー」(1971)などの映画で知っていたが、相手役のちょっとワルぶった若い男のことはまるで知らなかった。それが、当時はまだチンピラ役者のブルース・ウィリスだった。そのうちテレビで人気を博したウィリスは、ブレーク・エドワーズ監督の「ブラインド・デート」(1987)に主演。これはキム・ベイシンガーと共演の作品だが、まだウィリスにスターの輝きはなかった。そんなウィリスが一気に映画スターとしての地位を確立するのが、この「ダイ・ハード」の主演なのだ。これがなければウィリスは「アルマゲドン」(1998)などに主演するアクション・スターとはならなかっただろうし、それどころか「スター」ですらなかった可能性が高い。

 そんなキャラクター設定のうまさ、キャスティングの見事さにはこの作品を見るたび舌を巻くが、実はその素晴らしさの根本は、ガッチリと組み立てられ精密機械のように構成された極上の脚本にある。

 先に挙げたレジナルド・ベルジョンソン扮する警官の設定とその結末、あるいはリムジン運転手の展開とその結末…どれもこれも気が利いているだけでなく、実は張り巡らされた巧みな伏線が効いている。そもそも映画の物語全編に、数限りない伏線が張られていることにご注目いただきたい。この映画で、無意味に登場するものなど何一つないと言っていい。出てきたモノは徹底的に活用され、無駄なく利用される律儀さだ。

 エンディングも、まるで風呂敷を丁寧に結んでいくように、でっかい見せ場から小さな挿話に至るまで一つ一つのエピソードをキチンとかたづけていく。終始イヤな印象を与えるウィリアム・アザートンのジャーナリストも、マクレーンの妻にブン殴られてちゃんと帳尻が合う計算だ。

 爆破されたナカトミ・ビル最上階から無数の株券が舞い散る中、クリスマス・ソングに乗って主人公夫婦が退場する幕切れは「粋」以外の何者でもない。説明するのも野暮だが、わざとらしいほどにビルから株券がヒラヒラと落ちてくるのは、つまりカリフォルニアにもクリスマスの雪が降る…ということなんだろう。何とも洒落ているではないか。

 こんなに細心の神経を使って組み立てられた脚本は、アート系映画だってめったにないはずだ。それなのに、ここではそんな脚本を「大作アクション映画」のために活用している。このジャンルの映画はとかく大味で単純バカで、底が浅くつくろうと思えばいくらでもそれが出来てしまうような部分がある。ところが「ダイ・ハード」の脚本はまるで知的ゲームのようにロジカルに創り上げられており、そこに見事な人物造形が結びつけてある。近年のハリウッド製娯楽映画としては極めて異例の内容を持った作品に仕上がっていたのだ。

 当然、この映画はかなりの評判をとった。特に「業界」ウケがよかったようで、映画雑誌では軒並み大絶賛。評論家もみな口々にホメたたえた。僕もこの映画を大いに心待ちにしていたわけだ。

 だが今では信じがたい話だが…この「ダイ・ハード」第一作はそれなりにお客は入ったものの、日本ではいわゆる圧倒的大ヒットという訳ではなかったらしい

 考えてみると、当時の映画興行は女性向け映画がウケる時代。男性アクションはなかなか当たりにくい状況になっていた。おまけに主演がまだ一般的知名度の低いブルース・ウィリス。悪役リックマンも無名の新人と来れば、それほど当たらなかったのも不思議ではないだろう。

 アメリカでは大ヒットを記録したのに、日本ではそれを必ずしも反映できなかったのも、無理のないところがあったのだ。

 


Die Hard

(1988年・アメリカ)

ゴードン・カンパニー、シルバー・ピクチャーズ、20世紀フォックス映画 制作

監督:ジョン・マクティアナン

製作:ローレンス・ゴードン、ジョエル・シルヴァー

製作総指揮:チャールズ・ゴードン

脚本:ジェブ・スチュアート、スティーヴン・E・デ・スーザ

出演:ブルース・ウィリス、アラン・リックマン、ボニー・ベデリア、アレクサンダー・ゴドノフ、レジナルド・ベルジョンソン、ウィリアム・アザートン、ジェームズ繁田

2007年7月7日・DVDにて鑑賞

 

 

 次ページへつづく

 To Be Continued...

 

  


 

 to : DIE HARD - Index

  

 to : Review 2007

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME