「あるいは裏切りという名の犬」

  36 Quai des Orfevres

 (2007/01/15)


  

見る前の予想

 「あるいは裏切りという名の犬」、である(笑)。何とも気取ったタイトルのおフランス映画なので、最初見に行くときに間違って渋谷のル・シネマに行っちゃった(笑)。やけに構えたタイトルだよなぁ。きっと女の映画ファンはこういうタイトルが好きだ…と踏んで、こんなクソ気取ったタイトルを付けたんだろう。だが正直言って、このタイトルを切符売り場の窓口で言うのはかなり恥ずかしい

 ただ、映画そのものはダニエル・オートゥイユとジェラール・ドパルデューが激突する重量級のサスペンス・ドラマらしい。何だか復讐劇みたいな雰囲気もある。両雄ががぶり四つで組むという実に分かりやすい構図は、普段なら屁理屈が勝つフランス映画にしては面白そうではないか。うまくいけばストレートでガツンと来る、面白いサスペンス・ドラマが期待できそう。

 

あらすじ

 真夜中のパリ警視庁。その壁に貼られたアドレス表示の鉄板を、ライダーマスクの2人組が剥がして去って行く。一体何が起こったのかと思ったら、その鉄板はある刑事の送別会のプレゼントに化けたのだった。

 刑事の名前はエディ(ダニエル・デュバル)。定年間近のエディに、同じ探索出動班(BRI)の仲間たちが手荒な祝福を与えていた。むろん「BRI」の上司レオ・ブリンクス警視(ダニエル・オートゥイユ)も、彼に暖かい励ましの言葉をかける。だがその頃、悪党たちは静かに牙を研ぎ澄ませていたのを、レオは知らなかった。

 まず、レオの古なじみの元・娼婦マヌー(ミレーヌ・ドモンジョ)の経営するバーに、ゴロツキ二人組がやって来る。彼らはいきなりマヌーを脅すと、彼女をムチャクチャにブチのめし始めた。

 さらに別の場所でも、まったく違う悪党どもが、何やら「出入り」の支度中。夜が明けると、この連中は2台のクルマに分乗して出動。公道で現金輸送車に襲いかかり、警備員を惨殺してカネを根こそぎかっさらっていった。

 現場に急行したレオの前に待ち構えていたのは、「BRI」とは対立関係にある強盗鎮圧班(BRB)の警視ドニ・クラン(ジェラール・ドパルデュー)。元々が立場上反目し合う関係の「BRI」と「BRB」だが、中でもドニ・クランの評判は「BRI」では芳しくなかった。それなのに微妙な距離をとりながらもドニと親しげに語るレオに、部下たちは違和感を感じずにはいられない。そんな部下に、レオはこう語るのだった。

 「あれでも昔はイイ奴だったんだ」

 確かに昔は二人は親友同士だった。だがそんな二人の間にも、今では何となく静かな緊張感が漂っている。果たして、そこにはいかなる事情が横たわっているのか…。

 それはともかく…今回の事件は、現在パリ警視庁を震撼している連続現金輸送車強奪事件と同一犯の犯行だった。まさに警察の威信を揺るがす事件だけに、捜査陣一同を前にさすがにロベール・マンシーニ長官(アンドレ・デュソリエ)も渋い顔だ。「結局この1年半、君らは何もやっていなかったという訳だな!」

 一同にキツイ一喝を加えたマンシーニ長官は、しかし会議の後でレオ一人を別室に呼んだ。実はマンシーニ長官は昇進が決まり、後任にレオを推そうと考えていたのだ。根回しや政治的な事が苦手なレオは当惑するが、マンシーニ長官の気持ちは固まっていた。年功、キャリアが拮抗するライバル・ドニと比べても、レオが適任と踏んでいたのだ。「彼は権力が欲しいだけだ」

 だが、ドニがそんなマンシーニ長官の動きに気づかないはずがない。焦り狂うドニは例の強奪犯捜査の指揮を執るべく長官に直訴するが、長官が指名したのはレオだった。激しく懇願したあげく捜査への参加は認められたものの、あくまでレオの下で動くことを強いられるドニ。これにはドニも苦々しいものを感じずにいられない。

 一方、レオもレオで好事魔多し。服役中で特別に仮出獄を認められたかつての情報屋シリアンに呼び出されてみると、シリアンはいきなり自分を警察に売った男を殺害するではないか。何とレオは、シリアンのアリバイづくりに利用されてしまったのだ。激怒するレオに、シリアンは彼が拒めないとっておきの情報を与える。それは、例の強奪犯の正体と居場所に関する情報だった。

 のっぴきならない事態に追い込まれたレオのただならぬ様子に、妻カミーユ(ヴァレリア・ゴリノ)も心配する。だが、愛する妻を怯えさせるような事を言う訳にはいかない。こうして内心忸怩たるものがありながら、レオは強奪犯の検挙に向かうことになった。

 敵の一網打尽を狙って、敵のアジト周辺に張り込むレオはじめ「BRI」の面々。ドニと「BRB」の連中も、レオの指揮下で作戦に参加していた。ところがドニは張り込み途中で何を思ったか暴走。いきなり犯人たちに向かって銃をぶっ放すではないか。これで計画は狂いに狂い、犯人と警察との激しい銃撃戦が勃発。不運にも、定年を控えたエディが銃弾に倒れた。

 この想定外の事態に警察内部は騒然。殉職事件にまで発展した問題の発端はドニにあり…とばかり、ドニの責任を追及する動きが起きる。中でも最も厳しくドニを糾弾したのが、長年の相棒エディを失って怒りに燃えるレオだった。

 こうしてすべてを失う窮地に追い込まれたドニと、それに対して…その後犯人を見事に逮捕し、大いに意気上がるレオ。あまりにハッキリと分かれた明暗に、ドニの胸の中に鬱屈した怒りが燃えさかる。

 そんな折りもおり、ドニが抱えていた情報屋から、シリアンの殺しに関する奇妙な証言が飛び込んでくるのだった…。

 

見た後での感想

 本国ではどうか知らないが、日本に入って来る作品で見る限り…チマッとした理屈っぽい作品か、大味なリュック・ベッソン系の娯楽作しかないみたいに感じられるフランス映画。そんな中で、この作品はその佇まいからして他とは一線を画している感じが強い。どす〜んと一本スジが通ってる感じだ。果たして、そんな作品イメージは間違っていなかった。

 面白い!

 とにかく骨太でパワーのあるドラマが堪能できる。対立する二人の男のドラマとしての力強さがあるし、てっぺんから奈落の底…みたいな振り幅の大きさとダイナミックさで見せるドラマでもある。

 これを詳しく具体的に言うとすれば、前者の要素で言えば…やはり一時期弱体化していた香港映画界に活を入れ、何と今度はハリウッド・リメイクまでされたというインファナル・アフェア(2003)の力強さにも似たものを感じるし、後者の面白さとしては…映画というよりは「モンテ・クリスト伯」とか「レ・ミゼラブル」のようなフランス伝統のスケールのデカいドラマトゥルギーを連想させる。とにかくお話そのものにパワーがあるのだ。

 演じる主役の二人も素晴らしく…ダニエル・オートゥイユは近作隠された記憶(2005)あたりでも「墓穴を掘る男」という役柄とは裏腹に円熟したところを見せていて、出てきた当初のひ弱な印象を払拭しつつあった。しかし、ここまでハードで辛い男の魅力が出てくるとは意外としか言いようがない。しかし…今回も墓穴を掘っていたのには笑ってしまったが…(笑)。

 対するジェラール・ドパルデューは、言うまでもなくフランス映画界のエース的な存在だ。今回も貫禄ありすぎの受け身芝居。悪役をやらせてもうまいし、単なる悪役に終わらない奥行きを感じさせるあたりが大したものだ。

 なお、この映画は毎度おなじみハリウッド・リメイクが決定しているらしい(笑)が、ロバート・デニーロとジョージ・クルーニー主演と聞いたら、もう誰が誰の役をやるのか分かっちゃう。それってちょっといかがなものかと思ってしまうが…。

 さてこの映画の素晴らしいところは、主役二人を取り囲む共演陣の豪華さにもある。

 近年何かとマメに出演しているアンドレ・デュソリエ、娼婦の転落物語「夜よ、さようなら」(1979)でタチの悪いヒモを演じながら自ら監督も行ったダニエル・デュバル、「レインマン」(1988)などアメリカ映画にも進出していたイタリア女優ヴァレリア・ゴリノ…さらには懐かしやミレーヌ・ドモンジョまで! これだけ顔を揃えると嬉しくなってくるではないか。

 お話は栄光の頂点から一気に転落…というドラマティックそのもののジェットコースター的展開。開巻まもなくから思いっ切りマイナーに傾いた音楽が流れ、誰がどう考えても悲劇にしかならないムードが充満している。おまけに…いくら今回はいつになく男臭く辛い魅力を発散させようとも、元々が不運が服着て歩いているようなダニエル・オートゥイユ(笑)だから、転落は避けられるわけもない。

 ただ…その転落ぶりもオートゥイユならばこそ、「転落しなれている」(笑)というべきか安心して見ていられる。見ているこちらにそんな印象を与える点が不思議だ。

 正直言って今回は悲劇のどん底に叩き落とされる男が主人公で、そこから這い上がっての復讐劇という趣向の構成だ。しかし不思議なことに…その割には見ている者の胸がキリキリ痛むような、居たたまれないような痛々しさには陥っていかない。血管が切れそうなほど血圧が上がるところまではいかない。むしろ淡々としたような、サバサバしたような潔さが目に付くのだ。

 実際のところ主人公の復讐も、最後は天の配剤に任せてしまうようなところがある。運命の皮肉というか宿命というか…だから最後には、僕ら観客は「天の視点」からドラマを見るような感じさえある。これがアメリカ映画なら、最後は血みどろの殴り込みとか復讐のカタルシスで終わらせるかもしれない。ドパルデューの演じる男を「これでもか」と叩きのめして、観客の溜飲を下げさせるかもしれない。だが結果的にはこの淡々とした展開が、作品をよりフトコロの広いものにしているかのようだ。映画としても単なるポリス・サスペンスから、もっとスケールの大きいドラマに格上げした感じ。少なくとも、僕は大いに気に入った。

 実際のところ、僕も若い頃だったら主人公にギッタンギッタンに仇役をやっつけさせたがっただろうし、そもそもあんな呆気ない最後では満足しなかっただろう。それが今回はストンと胸に落ちたというか…アッサリと納得できたというのは、僕の年齢的なこともあるのかもしれない。人生、ある程度受け入れることも必要だ…と考えるような、心境の変化ってのはあっただろう。最後は…自分の遙か頭上にいる「あの人」の仕事だろうと任せちゃうような気持ちになってくるのだ。

 それはともかく…香港の「インファナル・アフェア」にしろフランスのこれにしろ、ハリウッド以外でこれだけ骨太なドラマがどんどん生まれて、ハリウッドはパクり専門…ってのはちょっとマズイのではないだろうか。「インファナル〜」リメイク版「ディパーテッド」の出来がいい悪いってのは別にして、この傾向はアメリカ映画として決して喜ぶべきことではないだろう。

 

見た後の付け足し

 監督のオリヴィエ・マルシャルは自らも警官出身という変わり種。ハッキリ言ってこんな大作を任されるタマじゃないと思うのだが、やっぱり実際の警官出身という点が買われたのか。

 原題の「36 Quai des Orfevres」ってのは、何でもパリ警視庁の住所らしい。つまり日本で言えば「桜田門」とかいうタイトルになるわけ。もっとズバリ言えば「実録・警視庁」とでも言うべきか。

 なるほど、これは僕らが思っているより、かなり向こうでは衝撃的な内容ということになるのだろう。とてもじゃないが、オツに澄ました「あるいは裏切りという名の犬」な〜んてシロモノじゃないはずだ。むしろ本来は、深作欣二監督の東映映画「県警対組織暴力」(1975)とかソッチ系の雰囲気が濃厚な内容なんだろうが、それじゃあ気取った女性観客はみんな退いちゃって商売にならないか(笑)。

 

 

 

 

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