「パイレーツ・オブ・カリビアン
  /デッドマンズ・チェスト」

  Pirates of the Caribbean - Dead Man's Chest

 (2006/07/31)


  

見る前の予想

 1作目パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち(2003)の時はディズニーランドのアトラクションの映画化…なんて、どう考えてもロクなもんじゃない気がしたが、主演にジョニー・デップとはちょいと気になった。どんなもんかと見てみたら、これは理屈抜きに楽しい海賊冒険映画ではないか。ちょっとオカルトSFXが入っているのが今風ではあるが、それでも大らかに楽しい映画であることは間違いない。いつも難しそうでちっとも面白くない頭でっかち映画ばかり好んで出ていたジョニー・デップも、これで一皮むけて大人になった気がした。いやいや、なかなかアッパレ。

 だが、好評につき第2弾!…と聞かされても、全然気分が乗って来ないのはどういうわけだ。あんなに面白かった映画のメンバーそのままの続編ではないか。なのに、なぜ?

 実は、僕にはその理由が分かっていた。いくら面白くてもあのネタで2本はキツイ。しかも「マトリックス」方式で2作目と3作目同時制作で三部作完結らしい。じゃあ3本目まであるの? これはとっても付き合えない。

 そんなこんなですっかりパス決定のつもりでいたら、何と3本目にはあのチョウ・ユンファが共演と言うではないか。そうなりゃ話は別。そして、3作目を見るためには2作目も見ておかなければマズイ。仕方ないか。

 かくして、そんな消極的理由で初日に見に行った(笑)僕だったが…。

 

あらすじ

 雨の降りしきる結婚式の会場には誰もいない。ただ一人、ズブ濡れの花嫁衣装で跪く若い娘がいるだけ…それは、あのエリザベス(キーラ・ナイトレイ)だ。

 実はこの日、エリザベスとウィル(オーランド・ブルーム)は晴れて結婚の宴を開こうとしていたのだ。そこに突然、英国軍がなだれ込んで来た。何と彼らはウィルを逮捕して結婚式をブチ壊しただけでなく、花嫁のエリザベスも捕らえてしまった。

 エリザベスの父である総督のウェザビー(ジョナサン・プライス)が慌てて駆けつけるが、二人の罪状は揺るがない。何とウィルとエリザベスは、あの海賊ジャック・スパロウを逃がした罪で捕らえられたのだ。しかも、即・絞首刑を求刑されてしまう。それはすべて、英国軍を率いて来た東インド貿易会社のベケット卿(トム・ホランダー)の差し金だった。

 一方、当のジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)は…と言えば、真っ暗で恐ろしい監獄に潜入したあげく、死体と共に棺桶に入れられて見事に脱出。自らのブラックパール号とクルーの前に戻って来た。

 しかしクルーのノリはイマイチ。実はここのところ、ジャックたちの海賊業はサッパリ。クルーたちは、ジャックの船長としての統率力をいささか疑いだしていたのだ。今回もわざわざ監獄に決死の潜入を果たして、一体何を手に入れたかと言えば…。「こりゃ、単なる絵じゃねえか!」

 何とジャックはカギの絵を描いた布きれを持ち帰ったのだ。こんなものが一体何になる。

 「カギはだな、つまり宝箱を開けるためにある、だから今度はこの絵に描いてあるカギそのものを探しに行くんだよ」ってな理屈に合ってるんだか合ってないんだか分からない戯言でみんなを丸め込んだジャック。だが長年のダチ公の目はごまかせない。針があっちこっちフラフラ揺れ動くコンパス頼りで船を進めるジャックに、さすがの相棒の航海士ギブス(ケヴィン・R・マクナリー)も心配顔だ。

 そんなある夜、酒を探しに船底へと降りていったジャックは、思わぬ来客を迎える。それは全身からポタポタ海水のしずくを垂らしながら、顔や身体のあちこちにフジツボを付けた奇怪な出で立ちの男…ジャックの古い馴染み、「靴ひものビル」(ステラン・スカルスゲールド)だ。

 この男の突然の登場にもかなり驚かされたが、ビルがジャックに「使者として」やって来たと告げると、ジャックはさらに冷静さを失っていく。それにしてもビルという男、一体何故にこのような奇怪な出で立ちになってしまったのか?

 かつて死ねない身のまま海底に沈められたビルは、そのままの状態で耐え続けるしかなかった。そんな時、かの「深海の亡者」デイヴィ・ジョーンズがかけてきた甘い誘いに、ビルはついつい負けてしまった。かくてビルは海底の囚われの身から自由になる代わりに、デイヴィ・ジョーンズの部下として幽霊船で100年仕えることを誓ってしまったのだ。その結果がこのフジツボ顔…。

 だが、ジャックとてそれは人ごとではない…ビルも彼にその事を告げにやって来たのだ。そしてビルがジャックの手を取ったとたん…彼の手の平に真っ黒な刻印が広がるではないか! 慌てふためいたジャックは、クルーをみんな叩き起こす。「船を出せ! すぐに陸地をめざすんだ!」

 ディヴィ・ジョーンズは10年に一度しか陸に上がれない。陸にいれば安心だ。ただそれだけのために、必死で船を陸地に向けるジャック。

 さて囚われていたウィルは、なぜかベケット卿から取り引きを持ちかけられる。それは「ジャックのあの妙ちきりんなコンパスを手に入れろ」…というものだった。それが出来たらエリザベスともども助けてやる…今はそんなベケット卿の言葉にすがるしかないウィルは、単身ジャックを探しに海に出ていく。ところがその後で、エリザベスの身を案じた総督のウェザビーは、秘かに獄中からエリザベスを奪回した。運悪くそこにベケット卿が放った追っ手がやって来るが、間一髪彼女は夜の闇に乗じて消えたのだった。

 さてその頃、ウィルは南の島にジャックの足取りを見つけていた。その島の砂浜に、あのブラックパール号が座礁しているのだ。だが、あいにくと船は無人。不審に思って島に上陸してみると、原住民にたちまち捕獲されてしまう。

 実はジャックたち一行は、この原住民たちに囚われてしまっていた。中でもジャックは…原住民に「神」として崇められているように見えながら、実は「火あぶり」を待っているところだと言う。そんな八方塞がりの状況を打開したのは、もちろんウィル。彼はブラックパール号のクルーを率いて囚われていた峡谷から脱出。その大騒ぎのドサクサに紛れてジャックも逃げ出し、辛くも「生け贄」の憂き目に遭わずに済んだ。

 さて、とりあえずの危機からは脱出した。エリザベスのためにもコンパスを…と迫るウィルだったが、ジャックは慌てず騒がず奇妙な取り引きを持ち出す。それは、ウィルに例のデイヴィ・ジョーンズから問題の「カギ」を奪い取らせようというもの。ジャックに言わせれば、それが「エリザベスを助け出すための最良の道」とのことだったが…。

 

見た後での感想

 実は映画が始まってしばらく、お話がどうなっているのかサッパリ分からずに困った。前作での人間関係がどうなっていたのか、脇の登場人物も誰が誰なのかスッカリ忘れてしまっていた。ジョニー・デップ扮するジャック・スパロウが最初一体何をやっているのかも分からなかった。

 それで開巻当初は途方に暮れてしまったのだが、そのうちこの映画って設定なんか分からなくてもどうでもいい…という事に気が付いた。で、考えるのをやめた途端、俄然この映画が楽しめだしたからオカシイ。ま、結局ストーリー上のうまみとか語り口の妙とかとは、この映画は無縁なものなのだろう。分からないところは依然として分からないままだが、まぁ、もうどうでもいいや(笑)。

 とにかくジョニー・デップのやりすぎ気味の芝居が最大の見もの。前作では何と芸達者のデップがこのアチャラカ縁起で初めてオスカーにノミネートされてしまう…という冗談みたいな珍事まで起きたが、実のところ、このバカバカしい芝居を楽しげにこなしているデップはなかなか見ていて楽しい。そういう意味でチャーリーとチョコレート工場(2005)以来の「ジョニー・デップを楽しむ映画」だ。実は派手なアクションや実際の帆船をつくってのスペクタクルや化け物が出てくるCGなどよりも、ジョニー・デップのコテコテ芝居が見ものと言ってもいい。

 もちろんクラーケンの化け物が出てくるスペクタクル・アクションもすごいが、それより僕が楽しんだのが、主人公たちが人食い人種の島から脱出するくだりのドタバタ劇。たぶん、僕がこのシリーズに期待しているのはこういうバカバカしさなのだろう。このくだりや、ジャックとウィル、そして落ちぶれた元・提督のノリントンが三つ巴になって剣で戦い、しまいにはゴロゴロ転がるデカい水車に乗っかってチャンバラするというアホくさくもくだらないアクション場面も気に入った。あまりにバカバカしくてマンガそのものではあるが、だからこそ笑えた。こういう趣向を、僕は結構キライではない。

 一方でタコ人間みたいなデイヴィー・ジョーンズのグロいメイクやCGも、見ていてそれなりに面白い。しかもデイヴィー・ジョーンズ役を演じているのは、ラブ・アクチュアリー(2003)やナイロビの蜂(2005)などのクセモノ俳優ビル・ナイではないか。よくよく見るとCGの中に彼の面影がちゃんと確認できるのもお楽しみだ。

 そういう意味で、ジョニー・デップと帆船とバカバカしい趣向を集めたこの映画は、なかなか楽しめる一作と言えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

  

あまりに「お約束」の多いお話ゆえに

 というわけで、面白いし楽しいし…で万々歳と言いたいところだが、それでは済まないのが映画のツライところ。

 では、「オマエはこの映画を無条件で気に入ったのか?」…と言われれば、それにはにわかに同意出来ない。

 やっぱり当初の予想通り、面白いことは面白いがこのネタで2本も3本も見せられたらツライ…というところではないだろうか。海賊の冒険とホラーなSFX…この目先のコンセプトは変わらない。少なくとも、前作と比べて鮮度が若干落ちてしまうのは否めないのだ。

 そしてもう一つ…先に「冒頭でお話が分かりにくい」と書いたけれど、それも無理ない話だ。そもそも前作でのジャックとバルボッサ(ジェフリー・ラッシュ)の関係から反芻しなければならないし、呪いの金貨を盗んだ者は死ねない…という「お約束」も知っていなければならないし、ウィルの父親はジャックの昔の仲間だったという点も押さえておかねばならない。僕はそんな事はすっかり忘れていたよ。

 そして今度は…「海の亡者デイヴィ・ジョーンズが約束を誓わせた相手は、ジョーンズの永遠の虜になってしまう」という話や、「ジョーンズが陸に上がれるのは10年に1度」という話、何より「ジャックがデイヴィ・ジョーンズから船を借りていた」という話…まで念頭に置かねばならない。特にジャックがデイヴィー・ジョーンズから船を借りていたって設定は、前の時も出てきたんだっけ?

 いやいや、「お約束」はまだまだあって、デイヴィ・ジョーンズが心臓を宝箱に隠した話、そのカギを本人が持っている話…などなど。そんなこんなの「お約束」がやたらに多いので、映画の最初はとにかく話が飲み込めずに困ったし、その後にお話が本格的に動き出してからも何となくスッキリしない印象を残すのだ。

 これはストレートで明朗なアクション・アドベンチャー…しかも1本の映画でなく3本に分かれた話になるシロモノ…としては、少々ハンデのある作り方ではないのか。例えば「三部作」構成の娯楽作という点で引き合いに出すとすれば、「スター・ウォーズ」の「エピソード1」から「エピソード3」までを思い起こしていただきたい。あれもそれなりに「お約束」はあったが、忘れてしまっても劇中で必ず思い出す仕掛けになっていたし、何よりこうも次から次と「お約束」ばかり数珠つなぎに出てはこなかった。

 今回のお話は、「お約束」が別の「お約束」にリンクしたカタチで、次から次へと出てくるのが難だ。正直言って何かと「お約束」ばかりある設定は、この「パイレーツ・オブ・カリビアン」という映画の脳天気でストレートなスタイルにはあまりそぐわないように思えるのだ。

 しかも最も問題なのは…この映画って前作を忘れていたり、登場人物のセリフを聞きそびれてそんな「お約束」が分からなくなっても、バカバカしくも盛大な見せ場とジョニー・デップのコテコテ芝居で十分楽しめてしまうのだ。それって一見いいことのように思えるが、実はそうじゃない。それって…本当の物語にはちっとも入り込めていないのに、何となく分かった気になって見せ場自体は楽しめてしまう…ということだ。

 つまり物語に入り込めなくてもソコソコ楽しめてしまうから、途中で観客は「もうお話に入り込まなくてもいい」と感じてしまうかもしれないのだ。そしてその場その場の笑いやスリルを、まるで刹那的に楽しんでいく。物語がどうなろうと、ジョニー・デップの運命がどうなろうと、キーラ・ナイトレイが何を考えていようと、オーランド・ブルームがどんな目に遭おうと…もうどうでもいい。つまり、伝わりにくい「お約束」ばかりあちこち散りばめた結果、娯楽映画のドラマとしての根本的な楽しさをいささか減殺しているような気がするのだ。

 だから映画の後半、おそらく作り手が想定したであろう盛り上がりが生まれて来ない

 例えば…調子がよくてズルくていいかげんだったジャックが、危機に際してスタコラ逃げ出してしまったと思いきや、「ここぞ」というところでみんなを助けに戻ってくる「泣かせどころ」…本来ならどんな劇でもドラマでも、大向こうから「ジョニー!」とでも声がかかりそうなオイシイ場面が…今ひとつ効いてこない。

 本当だったら「スター・ウォーズ」一作目(1977)のデス・スター攻撃場面で、ピンチのルークの前にハン・ソロが戻ってきたような盛り上がりどころではないか。ところがこの映画では、何となくまるで「そこにいて当然」のようにジャックが戻っている。ドラマがここでグッと盛り上がることなく、観客もそれを当然と受け止めてしまいかねない雰囲気。こりゃあ映画の演出としちゃマズかろう。

 同じように第3作に続いていくスリリングな設定になるはずの、エリザベスとジャックの間に流れる愛情らしきもの(?)も何となくサラッと流れてしまう。しかもその直後に用意された本来ショッキングでヒロイズム漂うヤマ場すら、別にどうって事のない展開に見えてしまう。何でもかんでもサラッと流して見えてしまう。前半で「細かいお約束なんかこだわらずにサラッと見てしまっていいんだな」…というルールが自分の中に出来てしまったからか、それとも演出そのものが盛り上げ不足なのか、ともかくソコソコ楽しませながらお話は淡々と進んでしまう。観客に対する感情の誘導に、全く強弱メリハリがない感じだ。

 万事そんな調子だから、すごいサプライズのはずのラストも意外に淡々としてしまう。少なくとも僕は…実は何となくこのエンディングを予想していたので…全然驚きはしなかった。本当だったらすごくビックリするだろうし、嬉しくなったはずなのに…フ〜ンという感じ。

 やっぱりコチョコチョした細かい「お約束」ばかりくっつけたものだから、ドラマの骨太な面白さが損なわれてしまったのではないか。

 本当はすごく面白い映画にもなったのだろうが、結果的に「ソコソコ」の面白さに終わってしまった。それがこの映画の誤算と言えば誤算かもしれない。

  

見た後の付け足し

 ケチの付けついでに言えば、せっかくのオーランド・ブルームキーラ・ナイトレイが、今回はあまり活かされていなかった気がする。前作での登場時に比べてずっとスター・バリューが増して大物になってきたのと反比例でもするかのように、なぜか今回の2人は印象が薄い。特にキーラ・ナイトレイなんて出番すら少ないから寂しい限り。それもこれも、ジョニー・デップのワンマンショーを引き立てるためなのか。ともかく、これはちょっともったいなかったね。

 

付け足しの付け足し

 ステラン・スカルスゲールドが海に出てくるというだけで、いつサメに食われちゃうかとついついハラハラしてしまった(笑)。

 

 

 

 

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