「ワンダーランド」

  Wonderland

 (2005/06/13)


見る前の予想

 予告編を見てビックリ。何とアメリカン・ポルノのビッグスター、ジョン・ホームズを主人公にした映画が出来たと言うではないか。

 後に未成年だったと大騒ぎになるトレーシー・ローズをはじめ、ジンジャー・リン、アネット・ヘブン…など、年齢的に僕が絶対に見る事は出来ないアメリカン・ポルノなのに、その「スター」たちの名は知っている(笑)。なぜなら当時すでに買い始めていた映画雑誌「スクリーン」には、洋画ポルノを紹介するページもあったからね。イヤでもどんな奴がいるかぐらいは分かるのだ。そんな中で、「男優」と来ればこの人…ジョン・ホームズが有名人だった。その理由は極めて明快…「巨根」だったから(笑)

 そう言えばみなさんは、あの「ブギーナイツ」(1997)でマーク・ウォールバーグの演じた主人公のモデルになった人物…と、すぐにピンと来るに違いない。

 あの1970年代のロサンゼルス・ポルノ業界の光と影を描いた映画は、僕もとっても好きだった。面白うてやがて哀しき…という言葉がピッタリの、寂寥感に満ちたエンディングも忘れがたい。

 どうも今回の映画も、ジョン・ホームズの「没落」に焦点を合わせているようだ

 演じるのがヴァル・キルマーというのも、何となく合ってる感じではないか。そこはかとなく漂う1970年代の雰囲気、カウンター・カルチャーの臭いは、彼が「ドアーズ」(1991)に出ていたからだろうか。

 どんな話かはロクに知りもしなかったが、コレは見るしかない…と決めてかかっていた。

 

あらすじ

 薄暗いモーテルの部屋。激しくドアを叩く音が聞こえる中、部屋に籠もっている女の子が泣きじゃくっている。だがドアを叩いている男は容赦をしない。「さっさと開けろ! 部屋代を滞納しているんだ。開けないと警察を呼ぶからな!」

 こうして女の子…ドーン(ケイト・ボスワース)はハリウッドの表通りに、真っ昼間から放り出された。だがハリウッドの表通りと言えば聞こえはいいが、売春婦にヤク中、ポン引きなどがウロウロするヤバい場所だ。まだ小娘のドーンは、ひたすら身を縮めてすくんでいるしかない。そこにクルマで通りかかった一人の中年女性がいた。「何してるの? 早く乗りなさい!」

 怯えていたドーンを見かねてクルマに乗せた中年女性は、道徳心に厚すぎる宗教家。このオバチャンの家に連れて行かれたものの、居心地の良かろうはずもない。彼女はここからある人物に電話をかける。

 「私を置いてけぼりにしないで! 今、ハリウッドの宗教ババアの家にいるわ。迎えに来てよ!」

 やがてそのオバチャンの家に、長髪・ヒゲ面の一人の男がやってくる。その顔を見て、ドーンの表情はパッと明るくなった。男の名はジョン・ホームズ(ヴァル・キルマー)。驚くオバチャンに有無を言わさず、ホームズはドーンと手に手をとって家のトイレへ。「すみません、奥を借りますよ!」

 ホームズは持参したカバンを開けると、よりどりみどりのドラッグを取り出した。まずはドーンと二人でコカインを一発キメると、何とトイレでいきなり二人しておっ始めるではないか。ところがワッセワッセと二人して励んでいる最中、ドアをブチ破ってオバチャンが乱入してくる。

 「何をやってるの!このバチ当たり!地獄へ堕ちろ!」

 血相変えたオバチャンの罵りを横目に、笑いながら家を逃げ出すホームズとドーン。ドーンはそれまでの成り行きも忘れて幸せ一杯だ。二人は思いっきり燃費の悪そうなアメ車に乗り込んで、いざ出発!

 ところがホームズは途中でクルマを停めると、「用事がある」と言い残してある家に入っていった。またしても待たされるドーンの耳に、いきなりバ〜〜〜ン!と激しい男が聞こえてくる。するとその家の二階の窓をブチ破って、ビデオデッキが落ちてくるではないか。間もなくホームズが家から飛び出してクルマに戻って来たので、ドーンは何やら良からぬ予感を感じるのだが…ホームズはその手にカネを握りしめてご機嫌だ。そんなホームズの笑顔を見ると、ドーンもついつい嬉しくなって笑ってしまう。

 こうして裏町のモーテルにシケ込んだ二人だが、ホームズはまたしても一人で出かけようとする。ドーンはまた置いてけぼりはゴメンだとゴネるが、ホームズはカバン一杯のドラッグをカネに換えたいらしい。こうしてホームズは、またも彼女を置いて出ていってしまった。

 こうして一昼夜、ドーンはモーテルで一人っきりで過ごす。

 結局ホームズが帰ってきたのは、翌日の早朝の事だった。だが、どうも挙動が変だ。何やらうわごとのように口走っている。「事故があった、事故があったんだ…」

 ドラッグのせいか、まるで意識朦朧として要領を得ない。心配するドーンにも眼をくれず、何かに怯えるようにベッドに潜り込んでしまうホームズだった。そんな部屋のテレビは、何やら大事件発生のニュースを放送している。

 「ワンダーランド通りの家で、殺人事件が発生しました…」

 4人が惨殺され1人が危篤状態となったこの現場は、踏み込んだ捜査官も胸くそが悪くなるほど凄惨な状態だったと言う。当局はどうやら麻薬絡みのトラブルではないか…と見ているようだったが、ドーンにはその殺人現場となった家に見覚えがあった。

 それは昨日ホームズが立ち寄って、二階からビデオデッキが降ってきた家ではないか!

 その頃同じニュースを見ながら、思い切りビビりまくっている男が一人。ヒゲのマッチョ野郎デビッド・リンド(ディラン・マクダーモット)がその男だ。

 彼は怒りと怯えで焦り狂いながら、慌てて仲間うちに電話をかける。「あれはエディ・ナッシュだ、奴の仕業に決まってる!」

 さらに同じ頃、警察もこのエディ・ナッシュ…という名前をつかんでいた。エディ・ナッシュ(エリック・ボゴシアン)…それは中東からアメリカにやってきた移民の一人でしかなかった。そのうち有名なクラブ前で屋台の店を出したこの男は、たちまちそのクラブ自体のオーナーになるまでに「出世」した。もちろん、正攻法でそれを成し遂げられる訳もない。ハリウッドの夜の世界を牛耳るまでになったナッシュは、手段を選ばぬ男でもあった。彼が現在持っている広大な土地には、数多くの白骨死体が埋まっているとまことしやかに囁かれるゆえんでもある。

 刑事たちが殺人現場となったワンダーランド通りの家に赴くと、その日はすでに先客が訪れていた。それは例のマッチョ野郎リンドだ。彼は血まみれになった家の中を見回しながら、ただただ呆然とするばかり。警察が任意同行を求めても、素直に大人しく応じた。

 こうして警察の取り調べに応じるリンド。その話は、彼が例のワンダーランド通りの家に出入りし始めた頃から始まる。あの家は、彼の古い「ダチ」夫婦の家だった。そこにお仲間たちがツルんで、常にパーティー状態だった。みんなヤクをキメてラリっている始末。そんな中に…ジョン・ホームズもいた

 「ジョン・ホームズ?…“あの”ジョン・ホームズか?」

 刑事は思わぬ「有名人」の名が飛び出して色めき立つ。それもそのはず…ジョン・ホームズはハリウッドの「そのスジ」では、言わずと知れた有名人だったのだ。近年はその人気にも陰りが見えていたが、ちょっと前までは彼はポルノ業界では「キング」と呼ばれていた。そんな男が、この事件と一体どんな関わりを持っていたのか?

 ホームズは、リンドの「ダチ」に気に入られていた取り巻きの一人だった。この頃すでにホームズは落ち目で、ここに来ればタダでヤクにありつける事から、何かと出入りしているような状態だった。ところがそんなこの家も、ひょんな事からヤク切れの状態になってしまう。売人のアテもない。ヤクに飢えたみんなは何かいいツテはないか…と騒ぎ出す。そんな時、知り合いの「アラブ人」の事を告げたのがホームズだった。「奴ならヤクを都合してくれるかもしれない」

 その頃「ダチ」は、ちょうどデカ過ぎて捌く事が出来ない銃を二丁持っていた。それを持っていって「アラブ人」からヤクを調達すればいい…そう話は決まって、ホームズが話をつけに出かけていったのだが…。

 何とホームズは「アラブ人」のところから手ぶらで帰って来た。「アラブ人」に銃を奪われてしまったと言う。これにはさすがに一同カンカンだ。必ず銃を奪い返せ…と怒りに怒る。

 その時には「ダチ」もリンドも、その「アラブ人」がエディ・ナッシュだとは知るよしもなかった。

 そのうちホームズの語る「アラブ人」の羽振りの良さや、そしてそこにホームズが出入りして事情をよく知っているという事から、「ダチ」たちはいつの間にか「アラブ人」襲撃の計画を建て始めるようになる。持ちかけたのは、もちろんホームズだ。彼が顔見知りの「アラブ人」の屋敷に行って、台所の勝手口を開けておく。後から乗り込んだ「ダチ」やらリンドたちが、カネもヤクもブン捕る…という算段だ。

 こうして計画は実行された。ホームズの手引きで「アラブ人」の屋敷を襲撃する「ダチ」やリンドたち。だが乗り込んで間もなく、リンドはそこがエディ・ナッシュの屋敷である事に気がついた。だが…もう手遅れだ。

 こうなったら最後までやるしかない。

 結局、彼らは現金、ヤク、宝石などしめて120万ドルもの儲けをせしめた。悪くない稼ぎだ。だが事が終わった後で、ホームズが自分の分け前が少ないとわめき出した。実行犯でもないのに…だ。ホームズは勝手口のカギを開けていただけだ。リンドたちがナッシュの屋敷を襲撃している間、ホームズは留守番していた。それでもカネをよこせとわめくホームズに、キレた「ダチ」は思わず窓に向かってビデオデッキを放り投げてしまう。これにビビってシオシオと引き揚げていくホームズだった。

 その直後、用事があって街を離れていたリンドだったが、その間に例の惨劇が起きてしまった。リンドは即座に、これはナッシュの仕業だと察しがついた。そしてリンドは、もう一つの事に気づいてしまった。

 「ホームズの野郎が裏切ったんだ!」

 さて、当のホームズはと言えば…モーテルの一室でまるまる一日寝込んだまま。目覚めてからドーンが尋ねても、不在中の事は一切語ろうとしない。そんなこんなでベッドの中でダラダラと絡んでいると…。

 突然ドアが破られて、銃を持った警官たちがなだれ込む!

 警察に身柄を確保されたホームズとドーン。もちろんドーンもあれこれと質問責めにされるが、彼女は知らぬ存ぜぬの一点張り。結局ドーンから何かを聞き出す事を諦めた警察は、彼女のロサンゼルスでの身寄りを尋ねた。しばし考えてから、彼女が身を寄せようと頼った相手とは…。

 しばらくして、ドーンを乗せた警察のクルマが小ぎれいな一戸建ての家の前に停まる。その家の持ち主は、シャロン・ホームズ。何とここはあのジョン・ホームズの妻の家だった。

 出てきたシャロン本人(リサ・クードロー)は、どう見てもヤクザなジョンとは大違いの堅気でマジメそうな女。彼女はジョンがポルノ業界に転じて以降は、彼について行けずにずっと別居していた。だがいまだホームズへの優しさを完全には失っていないシャロンは、その後も籍を抜かぬままに彼ともつかず離れずの間柄を保っていたのだ。そんな彼女だからこそ、ドーンとも母と娘のような不思議な関係を保っていた。ドーンがシャロンを頼ってきたのも道理なのだ。

 しばらくして、そんなシャロンとドーンに警察から呼び出しがかかる。何とジョン・ホームズが今回の一件について証言する代わりに、彼と彼女二人の身の安全を保証するよう警察に頼んだと言うのだ。

 ようやく重い口を開いて、話し始めたジョン・ホームズ。だがその言い分は、あのマッチョ男リンドの証言とは微妙な食い違いを見せるのだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 映画が始まってすぐに、いきなり新興宗教狂いのオバチャンとして出てきたのが、あの「レイア姫」ことキャリー・フィッシャーだったのにビックリ(笑)。あの「スター・ウォーズ」サーガも「エピソード3」で幕を閉じようという2005年夏…。その変わり果てた姿といい、やらされている役柄といい、思わず絶句モノの登場ぶりだ。

 …でも、これがハリウッドだ

 この小さいゲスト・パフォーマンスからして、今回の映画の扱っている題材を象徴している。それはロサンゼルス=ハリウッドという特殊な世界における成功と転落、名声とスキャンダル、栄光と退廃についての物語だ…ということだ。キャリー・フィッシャー自身がデビー・レイノルズというハリウッド女優の娘として生まれ、「スター・ウォーズ」で栄光の頂点も経験し、その後の挫折も経験した。劇中であのゴシップ女王パリス・ヒルトンがチラッと登場する事と重ねて、この小さな役は決して無意味なお飾りではないのだ。

 さらに狭苦しいトイレの中でヤクを一発キメながらのヴァル・キルマーとケイト・ボスワースのセックス・シーンに、T・レックスの「トゥエンティース・センチュリー・ボーイ」がガンガン流れ出すと、もう僕は完全にゴキゲンになってしまった。良くも悪くもこの映画が扱おうとしている世界を、僕はその時点ですべて了解していた

 そんな時代を感じさせる音楽もさる事ながら、全編に渡る独特な黄色っぽい画調が…いかにもロサンゼルスの爛熟を思わせる。アレは僕自身が向こうに行った時に感じた、ロサンゼルスの「色」だ。どこかシラっとして、どこか安手なあの「色」。

 主人公を演じるヴァル・キルマー自身も、ジョン・ホームズその人にはまるで似てないように思えながらも…「ドアーズ」を通過した俳優ならではの“あの時代”の臭いをプンプンさせていた。しかも彼はどこか魅力的で、しかも「安さ」を漂わせていた。このキルマーならではの「安さ」が、彼をジョン・ホームズに成り切らせているんだよね。何とも絶妙なキャスティングだ。

 そしてもっと素晴らしいのが、ビヨンドtheシー/夢見るように歌えばがこれまた絶品だったケイト・ボスワース。彼女も間違いなく“あの時代”の臭いがする女優さんで、しかもこの映画ではどんな汚れた状況に身を置いても、彼女だけは汚れて見えない…という得難い資質の持ち主。この人は近いうちに、かなりの大物になるのではないだろうか。

 お話はそれぞれの証言者によって微妙に事態が変わって見えてくる、いわば黒澤明の「羅生門」的展開を見せてくるのが面白いが、そんな物語はとりあえず二の次。1970年代とその残照がまだチラついていた1980年代という「時代」の空気、さらに爛熟しきったロサンゼルスという「街」の臭いを、たっぷりと見るモノに体感させる…それがどうもこの映画の狙いだと思われるんだよね。

 で、当然この時代のハリウッドに関心がある僕には、何だかんだと興味深く見れた。

 

見た後の付け足し

 ヴァル・キルマーの演じるジョン・ホームズもけったいな男で、セコく立ち回ってそれなりにズルくだらしなく、借金のために女を売り飛ばす卑劣で情けない野郎でもある。そもそもテメエのイチモツで稼ごうという志も低ければ、その後ヤクの売人もどきの商売をハンパにやってる意志薄弱ぶり。何をやらせてもダメな使い物にならない男なのだ。

 しかも、カネのためにダチを売り飛ばしたかもしれない。少なくとも二つの陣営の間を調子よく立ち回って、儲けをせしめようという狡猾な企みも持っていたかもしれない。

 だがこの男の周辺にいる女、妻のシャロンと恋人のドーンはそんなホームズを切り捨てられない。結局愛しているし助けてしまう。実は見ている我々自身、どこか憎みきれないのがこのジョン・ホームズという男なのだ。この男の人物像は、ヴァル・キルマーの好演もあって心に残る。

 そんなわけで僕はこの時代色と不思議な人物像に堪能して、結構この映画を楽しんで見た。

 ただし一般の映画ファンにとっては、結局ジョン・ホームズはそんな男で、事件は藪の中で…「だから何なのだ?」…というスッキリしない不満が残るかもしれない。

 実際「あの時代」が終わろうとしている雰囲気、そんな「あの時代」をプンプンさせるロサンゼルスの街、そして矛盾に満ちていながら魅力的で、しかも「安い」ジョン・ホームズという男…をたっぷり見せる事こそが主眼のこの映画は、結果的には何の結論も観客に提示はしない。これが日本初お目見えの監督ジェームズ・コックスは一体何が言いたかったんだ…と問われれば困ってしまう。実は雰囲気だけと言われれば、そう言えないでもない。それ以外の何かがあったのかもしれないが、そんな狙いは残念ながら観客までは届かない。中盤は中だるみして少々退屈になるのが正直な感想だ。つまり、ハッキリ言えば不出来な映画

 だが、僕はこの映画を何とか許せるよ。

 何となく雰囲気が気に入っただけでもいいではないか。結論めいたモノが出てこなくてもいいではないか。いいかげんな話で申し訳ないが、そんな映画の楽しみがあってもいいだろう?

 何だか最近、映画の出来なんでどうでもよくなってる僕なのだ。

 

 

 

 

 

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