「ブルー・レクイエム」

  Le Convoyeur (Cash Truck)

 (2005/05/30)


見る前の予想

 実は事前情報はまったくナシ

 フランス映画で犯罪映画らしいという事、そしてモノトーンにブルーのみの素っ気ないチラシ、それだけ。実はチラシの内容も読んでいない。何となくストーリーとかも読みたくなかった。

 ただ面白そうという予感だけ。それだけで見たくなったのだ。

 実は時々フランス映画には、突然変異的に面白いアクション映画やサスペンス映画が登場する。例えばそれらは…だいぶ昔になるが、エドゥワール・ニエルマンという監督の「キリング・タイム」(1987)という映画があったっけ。これは僕の1988年のベストテン20位に入れるくらい気に入ってる映画だ。また最近ではフローラン=エミリオ・シリという監督のスズメバチ(2002)がかなり拾いモノの面白さだった。フランス製の犯罪映画ってのは、僕の秘かなお気に入りなんだよね。

 むろん中身は全然分からない。だがこの作品は、ズバリそんな映画の臭いがする。

 

あらすじ

 現金輸送車に乗り込んでいる警備会社の中年職員三人。彼らはクルマを田舎道に走らせながら、昼間っからしょうもない話に興じている。やれビートルズだストーンズだ、そこに何を血迷ったかドリー・パードンだ…と、いい歳こいてのバカ話。そんなお気楽な会話を続けていると、後方から追い越したいんだか追い抜く気がないんだか…一台のクルマがピッタリとくっついてくる。「何をやってんだ」とワイワイ言ってるうちに…。

 ボワ〜〜〜〜ン!

 突然の爆発で、目の前が炎でいっぱいになって…。

 さて…それからしばらくして、真夜中の殺風景な裏町を、一人の中年男が歩いていた。やがて彼…アルベール・デュポンテルが訪れたのは、とある事務所。ここは弱小の警備会社「ヴィジラント」社だ。

 彼はここで「持病はあるか?」とか「家族はいるか?」とか簡単な質問を受けた後に(ちなみに答えはいずれも「ノン」だ)、約一ヶ月の仮採用となった。これでデュポンテルも、この「ヴィジラント」社の警備員だ。間もなくアメリカ資本に乗っ取られるこの会社は、警備員もわずか十数名という小所帯。デュポンテルも何の訓練も受けずに、いきなり勤務へと放り出される。制服を支給され銃を渡され、他の連中との挨拶もそこそこにいきなり出動だ。

 同僚には屈強な男もいれば年寄りもいる。「危険手当を要求せよ」とか「銃の訓練を受けさせろ」とか、何かと「組合活動」の署名を誘う男もいる。ゴツい銃を所持する警備員たちの紅一点クロード・ペロンもいる。今日も彼らは何チームかに別れて、現金輸送車に乗り込んで出動だ。

 初仕事とあってか、例の新入り中年男デュポンテルはいささか落ち着きがなかった。無口で神経質そうではあるが、じゃまになるタイプでもない。むしろ周囲に溶け込んで…存在感がまったくないような男だ。受け取った銃をやたら気にしていじくり回していたが、それ以外はいたって大人しく過ごしていた。

 他の同僚たちはと言えば…ハッキリ言ってダラケきっていた。正直言って「ヴィジラント」社は弱小会社。実入りの少ない小口の客を多く抱えるこの会社は…なぜか武装組織に何度も襲撃を受けて、死人まで出していた。しかも彼らは警備員どころかその場に居合わせた目撃者まで全員殺すという手口から見て、同一犯と思われる。

 おまけに会社はそんな状態から左前で、アメリカ資本に吸収される運命だ。そうなればリストラが断行されるだろう。今いる警備員だって明日はどうなるか分からない。みんなは同僚の中にアメリカ資本からのスパイがいるのではないか…と秘かに疑っていた。

 それでなくても吹き溜まりのような、場末の職場。安月給で危険に身をさらす彼らは、どうしたって鬱屈した感情を抱かずにはいられなかった。仕事に身が入らないのも道理だ。

 さてそんなどよ〜んとした雰囲気の職場で…しかし緊張の初日を終えたデュポンテルは、街の一角にある安ホテルの一室に居を構えた。期間は最低一ヶ月。そして彼は、フロントの男に奇妙な事を頼み込んだ。「絶対に誰も部屋に入れるな、例え掃除でも…だ」

 部屋に一人きりのデュポンテル。だが彼は洗面所に立った時、突然何かの発作に襲われた。いきなり床に倒れ込んで、激しいけいれんを起こすデュポンテル。

 そんなデュポンテルは、しかし毎日何食わぬ顔で勤務に就く。同僚の中には麻薬を売りさばく事をサイド・ビジネスにしている男もいて、デュポンテルも彼と一緒の勤務の時に慣れぬマリファナを試す羽目になる。もうフラフラだ。だがそんな経験を重ねるうちに、徐々に周りとうち解けていくデュポンテル。それでも口数は相変わらず少ない。たまに口を開くと思えば、例の襲撃犯の話題だ。

 「この会社に内通者がいるって本当か?」

 確かにあまりにこの弱小会社が襲われるので、内部に犯人たちと通じている者がいるとの噂もある。だが、そもそも現金輸送車も老朽モノ、設備も貧しければ装備もお寒い。拳銃の射撃訓練すら満足にやっていない。やっと例の「組合」男の働きかけで訓練が実現しても、せいぜい一人一発までというセコさだ。しかも緊張しきったデュポンテルは、慌てたあげく天井にぶっ放す始末。そんなガチガチのデュポンテルに、同僚たちもドッと爆笑してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなデュポンテルは、休日にはガラリと様変わり。スーツを着込んでホワイトカラー然として、一人の女に会いに行く。だが、ここはどうやら何かの施設らしい。デュポンテルが会っている女も、視線が定まらずに彼の話を聞いているのかいないのか。そんなボンヤリした表情の女に、デュポンテルは金融関係の話ばかり続けていた。

 そんなある日、彼は警備員としての勤務の途中で、かつての知人に声をかけられる。だがデュポンテルは気まずい表情で、そのまま黙ってクルマへと乗り込んだ。同僚が尋ねると、かつてデュポンテルは銀行員だったとのこと。だがリストラで職を失い、今は食うためにこの仕事に就いたと答える。

 そんなデュポンテルも毎夜ホテルの部屋で黙々と筋トレに励んでは、なぜかいきなり涙にむせんだりする。誰にも告げていない「けいれん」の発作は、今も時々彼を容赦なく襲ってくる。

 ホテルの彼の部屋はいまやスッカリ様変わりして、さながら警察の捜査本部のようになっていた。部屋には警備会社の同僚一人一人の名前、似顔絵、特徴その他を書き込んだ紙が貼り出され、新聞記事も多数切り抜かれていた。それらはもちろん、あの現金輸送車襲撃犯に関する記事だ。

 実はデュポンテルという男、当然の事ながらこんな警備員に身をやつす類の人物ではなかった。元はと言えば銀行員で、その日も幼い息子を乗せてクルマを走らせていた。田舎の一本道を走っていくと、前方に現金輸送車がノロノロ運転だ。追い抜こうか追い抜くまいか…デュポンテルがためらっているその時…。

 ボワ〜〜〜〜ン!

 何者かが火炎瓶を現金輸送車に投げつけた! 急停車する現金輸送車がじゃまになり、デュポンテルのクルマも急停車せざるを得ない、すると周囲から続々現れる覆面男たちの集団。彼らはすべて銃を持っており、いきなり現金輸送車の車内に弾丸を撃ち込んだ。

 大変だ!

 デュポンテルは幼い息子をかばうように抱きしめたが、そんな父子にも襲撃犯たちは容赦するつもりはなさそうだ。一人が父子に向かって銃を構えると…。

 ためらいを見せずに発砲!

 今でもデュポンテルの額には、その時の弾丸の傷跡があった。だがそんな事はおくびにも見せず、黙々と警備会社の仕事をこなすデュポンテル。それでも彼は、こっそり射撃場で銃の訓練を続けてもいた

 そんなある日、「ヴィジラント」社内での社員の内輪のパーティーが行われる。デュポンテルは例の発作に襲われたが、注射で何とかチラして頑張っていた。ところがパーティーの最中、突然警備員仲間の長老フィリップ・ローデンバックが銃で自殺。これには彼らも騒然となってしまう。

 アメリカ資本によるリストラを苦にしたのか、あるいはこの男が例の「内通者」だったのか…それでなくても澱んだ職場の雰囲気がますます濁る。何かとキレやすい同僚の中年男フランソワ・ベルレアンは仲間内でケンカをおっ始めると、その興奮も冷めやらないうちに出動するからたまらない。現金輸送車をやたらに乱暴に運転し、前方不注意で爆走するうちに…。

 ガッシャ〜〜〜〜ン!

 横から飛び出してきたバンに衝突。だが、それが罠だった。立ち往生しているうちにあっちこっちから覆面の連中が飛び出し、発砲してきてあたりは騒然。現金輸送車内も大パニックだ。デュポンテルもたまたま発作をチラしたばかりだから、どうにもシャッキリしない。一人妙に興奮状態なのは中年男ベルレアンだけ。

 「よ〜〜っしゃ!こいつら叩きのめしてやるわ!」

 バンバン発砲して何人かを撃ち殺すベルレアン。だが別の同僚は、クルマの扉から出たとたん撃たれてその場に倒れた。デュポンテルも発砲しようとするが、いざとなるとスンナリ引き金が引けない。そんなこんなしているうちに、逆に一発食らってぶっ倒れるアリサマ。それでも防弾チョッキのおかげで事なきを得たデュポンテルは、次の瞬間には見事に相手を仕留めていた

 バ〜〜〜ン!

 血を噴いてブッ倒れる覆面野郎。だがデュポンテルがその覆面を剥ぐと、相手はまだホンのガキではないか。これにはさすがにショックを受けてしまうデュポンテル。

 何人か射殺されてビビッた連中は、慌ててその場を引き揚げていく。それを見て雄叫びを挙げるベルレアンではあるが、デュポンテルはとてもそんな気になれない。会社に戻ってからも、洗面所に戻って吐き続けるしかない

 そんな彼に上司はあれこれ話しかけ、アメリカ資本になっても彼を採用したいと説得する。襲撃を撃退したデュポンテルは、会社では得難い人材だ。上司としては、彼に辞めてもらいたくはない。それでも、これまで襲撃を経験した警備員はすべてすぐに退社していた。

 デュポンテルも、これはさすがに限界だと感じた。いざとなると、人を殺すのは容易な事ではない。眼はうつろで口数はさらに一層少なくなった。彼を暖かく迎えた同僚たちに、絞り出すようにこう答えるのがやっとだった。

 「オレはもう辞めるよ…」

 だが、デュポンテルには目的があった。そのためにこの職場を選び、ここまでじっと身を潜めていたのだ。結局また職場に復帰した彼は、同僚から「英雄」視されながら現金輸送車に乗り込んだのだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは絶対映画の後で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 予感的中! これは拾いモノだった!

 今まで僕が何作かブチ当たって、どれもこれも気に入っていたフランス製犯罪サスペンス映画…それらと相通じる味がここにもあった。寡黙でクール、ストイックな世界。これはアクション映画の本場、アメリカ映画でもなかなかない味なんだよね。

 寡黙なのは道理で、何しろ主人公が謎を抱えている人物だからね。その謎は物語の中盤まで明かされない。もちろんそれを知った上で見たって面白いが、僕はまったく知らなかったからサスペンスが倍増した。この話はどうなるのか?…とワクワクしたよ。

 オープニングは現金輸送車での中年男のバカ話。ジョン・レノンが死んでショックだった…から始まって、やれビートルズがどうだ、ストーンズがどうだ…そう言えばストーンズのメンバーって今では税金対策でフランスに住んでいるんだよね。そんなこんなのくだらない話題は、あたかもクエンティン・タランティーノ映画の十八番のようにも思える。そうか、イマドキのフランス映画もそんな今風でいくのか…。

 ところが、そんなタランティーノ風趣向はこの冒頭部分のみ。あとはむしろ今風というより、ストイックで寡黙なかつてのフレンチ・フィルムノワールに立ち返ったようなタッチ。あくまで暗く、あくまでクールなあのタッチだ。これにはシビれた。

 しかも主人公のツラ構えがまたいい。どちらかと言えば精悍でも男臭くもなく、平凡と言っていい中年男。だが…目つきはどこか落ち着きがなく、何か変だ。この男の中では何かが起きている。その雰囲気と外見は…無理矢理例えてみれば、最近のデニス・ホッパーからカリスマ性を完全に脱色してつまんなくした状態とでも言おうか(笑)。とにかく、この男の地味ぶり平凡ぶりがただ事ではないのだ。その割にどこか謎をはらんでいて、いつ破裂してもおかしくないようなアブなさが漂っている。

 演じるアルベール・デュポンテルという俳優、どう見たってフランス以外じゃ主役を張るような男じゃない。だがこの男、あのギャスパー・ノエの怪作アレックス(2002)に出ているから侮れない。しかも、知的と見えていた人物がいきなりブチ切れて、消化器で男の顔面をボコボコにブッつぶしてしまうという…あのとんでもない役をやったのがデュポンテルだと言えば、今回の地味で大人しくもどこかアブない雰囲気がお分かりいただけると思う。

 とにかく主人公同様に映画も寡黙。そして静かだけれど、何か起きそうなアブない予感。だから見ている側は、片時も画面から眼が離せない。そして徐々に解き明かされていく主人公の秘密。この語り口のうまさには驚かされる。見ていて本当にドキドキした。その「何か」がいつ起きるかいつ起きるか、見ていて気が気じゃなかったからね。

 さらにこの映画では主人公の周囲の人物…特に警備会社の同僚たちの描写が秀逸だ。どうしてここに集まって来ちゃったのか、まるで吹き溜まり同然の職場。そのどよ〜んとした雰囲気の中、鬱屈した思いを抱きながら、安月給で危険と隣り合わせの仕事に就いている連中のキャラが、一人ひとりちゃんと立っているから見事だ。物語は途中から「裏切り者は誰か?」…を探すサスペンスも加味されて来るから、なおさらこのキャラ立ちが意味を持つ。また見ている側はいいかげん彼らに親しみにも似た感情を抱き始めるから、最後の修羅場で彼らがあっけなく死んでいくのが哀しい。そこに、まるで冷たく突き放したような空しさを感じる。このハードさ、このクールさがたまらないのだ。

 監督のニコラ・ブークリエフは、この作品が日本初お目見えらしい。それ以前のキャリアとしてはマチュー・マソヴィッツの「アサシンズ」(1997)の脚本などが挙げられるようだが、元々がSF・ホラー畑の雑誌なども出しているというから、ちょっと今後が楽しみな映画作家になりそうだ。

 

見た後の付け足し

 というわけで、出来映えは申し分なし。久々に硬派の「男のドラマ」を堪能させてもらった。拾いモノとはまさにこの事だ。そんな訳で大いに満足して見終えた僕ではあるが、たった一つだけイチャモン付けたい点もある。

 それはエンディング・クレジットだ。

 例の警備会社の連中を、一人ひとり顔を出して紹介する。それは別に構わない。むしろ個性溢れる主人公の同僚たちは、この映画の魅力の大きな部分を占めている。それを最後に改めて紹介することには、僕だって何の異存もない。

 ただ、みんな一人づつ紹介するのはいいとして…ニコヤカにカメラ目線で出してどうする

 この映画ってコメディじゃない。むしろここまでストイックにクールに、出来るだけ饒舌さを切りつめて描いてきた物語だ。エンディング・クレジットでは、観客はそこまでのハードな物語に酔いしれて、その余韻に浸っている。

 なのに、コメディ映画みたいなメイン・キャスト和気あいあいの様子

 さすがに主役のデュポンテルはこれに加わらない賢明さだが、監督のブークリエフは一体何を考えているのだ。撮影中はみんな楽しかったよ…とでも言いたいのか? せっかくここまでドライにクールに決めて来たのに、何も最後で腰砕けにする事もあるまい。これはちょっと理解に苦しんじゃったよね。

 いつもエンディング・クレジットが終わるまでちゃんと見る僕だが、この時ばかりはサッサと席を立てば良かった…とつくづく思っちゃったよね。

 

 

 

 

 

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