「セルラー」

  Cellular

 (2005/03/07)


見る前の予想

 この映画は宣伝もロクにせずに公開され、アッという間に終わってしまうらしい。主演は…おやまぁ久しぶりのキム・ベイシンガー。タイトルは「セルラー」。携帯電話を巡るサスペンスだ。

 見知らぬ人間から電話がかかってきて、それが相手の命に関わるものだったために切るに切れなくなる…というネタは、確かシドニー・ポラックの「いのちの紐」(1965)がそうだった。シドニー・ポワチエが自殺志願のアン・バンクラフトからの電話を受けて、必死に説得を重ねる映画だったと思う。昔テレビで見たけど、結構手に汗握ったよね。

 今回電話をかけてくるのは自殺志願者ではなく、誘拐された女だ。それもどこかの納屋に閉じこめられて、そこの電話機を壊されてしまっている。だが女は必死にその電話のラインを活かし、どこの誰にかかるか分からない電話をかけて助けを求めるというわけだ。

 しかも大きな違いは、受ける側が携帯電話だということだ。これによって、少なくともドラマの片方はかなり活動的なモノになる。サスペンスとアクションの両面で楽しめる映画になるのではないか?

 予告で見るとなかなか面白そうだ。こういう映画ってのはむしろあまりにぎにぎしく宣伝されてない方が、白紙で見れるから楽しいって事もある。それにジェイソン・ステイサムとかウィリアム・H・メイシーなど、脇にもオイシイ役者が揃っている。

 これは何を置いても見るべき映画ではないかな?

 

あらすじ

 キム・ベイシンガーは高校の生物学教師。小学生の息子をスクールバスに乗せて、ホッと一息している間もなく、突然見知らぬ男たちの一団が家に突入。家政婦を射殺して、ベイシンガーをさらっていってしまった。

 連れて行かれたのは、ある家の納屋の二階。何が何だか分からぬままのベイシンガーに、賊の主犯格の男ジェイソン・ステイサムは「例のモノを渡せ!」とわめき散らす。だが、ベイシンガーは一体何のことか分からない。おろおろしていると、今度はステイサムはでっかい金ヅチを持ち出してくるではないか。怯え叫ぶベイシンガーを横目に、思い切り金ヅチを振るうステイサム。彼はその納屋に取り付けてあった電話機を、金ヅチでブチ壊したのだった。これには思わず安堵のベイシンガー。だが、納屋に閉じこめられて出られない状況に変わりはない。そしてステイサムは、何やら家族の命を狙っているようではないか。

 このままでは家族が危ない。少なくとも、ベイシンガーは犯人の顔を見た。だから殺される事は必至だ。だが納屋にはカギがかけられ、彼女は一歩も出られない。

 ベイシンガーは、ブチ壊された電話に目を向けた。

 当然、ダイヤルも受話器も粉々だが、ラインはまだ生きていた。ベイシンガーはワイヤー同士を接触させる事で信号を送り、何とか外の電話機に連絡しようと試みる。こんな方法による発信だから、かけたい相手にかける訳にはいかない。かける相手を選べない。たまたまかかった相手に、すべてを託すしかないのだ。そんな調子だから、最初はテープによる案内がかかってしまうアリサマ。それでもベイシンガーは懲りずに通信を試みる…。

 その頃、お調子者の若者クリス・エバンスは、ダチと一緒に携帯を持ってビーチを練り歩いていた。携帯のムービー機能で水着ギャルを撮影して送信したりと、ハッキリ言ってやってる事がアホ。おまけに途中で自分をフッたばかりの女を見かけると、よせばいいのに未練タラタラで近づいていく。もちろんヨリを戻したい一念だったが、この女に軽いだのアホだのと図星を突かれて苦しくなる一方。それでも女の手伝いをやるから…と拝み倒して、パシリに甘んじて喜んでいる始末だ。

 ともかくクルマに乗って女に言いつけられた荷物運びの手伝いをしようとした時、運命の電話が彼の携帯にかかってきた。

 「悪者に誘拐されたの、助けてちょうだい!」

 やっとかかった相手に必死に訴えるベイシンガー。だがエバンスは、ハッキリ言って冗談としか受け取ってない。それが証拠に、途中でダチのくだらない電話を受けてしまうという軽視ぶりだ。だがベイシンガーのあまりのしつこさに、エバンスはしぶしぶ警察署に話を持っていく事にする。まぁ、それだけならやってやろう。あとはどうなろうと知らないさ。

 応対に出たのは引退間近の警官ウィリアム・H・メイシー。彼は引退後の商売などで頭が一杯。正直言って警官稼業にはもはや気がまったく入っていなかった。そこへエバンスの登場。女が誘拐されただの何だのと言われ携帯を渡されたあげく、一応その女の名前と住所をメモるメイシー。だが、すぐに警察署の中は悪党どもが暴れて騒然。それどころでなくなったメイシーは、携帯をエバンスに返して4階の殺人課へ行け…とたらい回しにする。エバンスは仕方なく、携帯を持って4階に上がろうとした。

 すると、電話の向こうではベイシンガーの悲鳴と悪党の脅す声、さらには何やら暴力を振るう物音が聞こえてくるではないか!

 電話の話は本当だった。

 事の重大さをようやく察したエバンスは、慌てて4階へと上っていく。ところが途中の階段で電波が弱まり、連絡が切れそうになるではないか。一旦切れたらそこで終わりだ。もう二度とかからない。殺人課を目の前にして、何も出来ないエバンス。

 それよりも…ステイサムたち悪党どもは、今度はベイシンガーの息子を誘拐しようと企んでいた。警察は頼りにならない。ならば先回りして息子を助けるしかない! かくしてエバンスは、慌ててクルマを小学校へと走らせる。

 だがエバンスは、どれがベイシンガーの子供か分からない。しかも終業のベルが鳴って、子供たちが一斉に出てきたではないか。そんなこんなでオタオタしているうちに、目の前で悪党たちに子供を押さえられてしまうエバンス。クルマの中に引きずり込まれるベイシンガーの息子に気づきながら、まんまとそのまま連れて行かれてしまった。こうなったら徹底的に追うしかない。仕方なくエバンスは警備員のクルマに飛び乗って、そのまま公道へと飛び出した。

 こうしてハイウェイで悪党たちのクルマを追っていくエバンス。だが前から横から別のクルマがジャマして進めない。デカいバスが前に塞がった時には、追い抜こうとして対抗車線に突っ込み、道路全体を大パニックに巻き込んでしまった。

 そんな折りもおり、今度は携帯がバッテリー切れではないか。運悪く道路は渋滞。どうにもならない。このままでは連絡が途絶えてしまう。充電器でもないかとクルマを探しまくるが、あったのは警備員の拳銃一丁だけ。焦り狂うエバンス。

 ふと見ると、ちょいと離れた場所に携帯ショップがある。エバンスは今度は道路からハミ出し、工事現場を無理矢理横切って携帯ショップへと駆けつけた。

 ところがこの店には客が押し掛けていて、何をするにも順番待ち。バッテリーが切れると騒いでも、冷たく「整理番号を取れ」と言われるだけだ。誰もどうもしてくれない。そんなこんなしているうちに、携帯はピーピー鳴ってバッテリー終了を訴える。

 ええい、ままよ!

 思い余ったエバンスは、クルマから例の銃を取り出してブッ放す。たちまち騒然とする店内。客たちはみな床に伏せてビビりまくる。こうなったらヤケクソだ、もう後戻りは出来ない。

 「何をしてるんだ、今すぐ充電器をよこせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

見た後での感想

 いやぁ、面白かった。本当に久々に面白いアメリカ映画だ。これだけ面白くて上映時間が1時間35分と、身が引き締まっているのもいい。本当に面白い娯楽映画は、そうそうダラダラしているもんじゃないんだよね。この映画は始まって5分ぐらいでもう事件が起きて、そこからはノンストップ状態。まるっきり贅肉のない映画なのだ。イキも良ければ歯ごたえもいい。これは見た誰もが拾いモノだと思うんじゃないだろうか?

 何より発想が抜群にいい。世の中これだけ携帯が使われているのに、携帯そのものを主役にした映画がなかったのが不思議なほど。逆にこのネタは早い者勝ちというところもある。この映画は、ともかくその着想が命だ。

 で、誰がつくったのかと思いきや…何と脚本にフォーン・ブースラリー・コーエンがかんでいるって言うではないか。こりゃ面白い訳だ。

 何より「フォーン・ブース」も、映画としての発想がすばらしかった。街中の電話ボックスに足止めされてしまう男の悲喜劇。たったそれだけで面白く見せてしまう、ワン・アイディアの勝利と言っていい映画だった。あっちがニューヨークの電話ボックスやら、こっちはロサンゼルスで携帯。明らかにラリー・コーエンは、「フォーン・ブース」を書いた後でこっちの着想も得たに違いない。「コレを携帯でやってみたら、きっと面白い」と気づいたはずだよね。

 で、出来映えは「フォーン・ブース」よりも…実はこちら「セルラー」の方が勝っている。何より携帯という活動的なアイテムの特性が活かされて、映画としての見せ場も多い。片方の電話をかける側には舞台劇的な要素のサスペンスがあり、もう片方の携帯を受けている側は…携帯ならではの機動性で動き回る。だから二倍の面白さだ。

 しかも携帯ならではの長所だけでなく、短所も巧みに活かされた脚本は心憎いばかり。通信圏外になったりバッテリー切れになったり、果ては他の携帯と混信したり…携帯で動き出したドラマが携帯でケリがつく…というシャレた幕切れも含め、何ともシッポの先までアンコが詰まった鯛焼き状態のお話なのだ。これはスゴイよね。無駄なくキビキビと見せていく第二班監督出身のデビッド・R・エリスの演出もさる事ながら、やっぱりこの映画は脚本の勝利だと言えるね。

 主演のキム・ベイシンガーは、ほとんど終始一貫電話の側でしゃべっている役。後半に少し活躍を見せるが、どちらかと言えば「動」より「静」の芝居ぶり。「L.A.コンフィデンシャル」でオスカーを取ってから、逆にあまり顔を見なくなっちゃってたけど、その芝居巧者ぶりには驚かされてしまった。昔のセクシー&ゴージャスがウソのようだ。

 対するジェイソン・ステイサムはと言えば、久々の悪役…それも完璧に弁護の余地がない冷酷非情の極悪ぶりに嬉しくなる。アクション映画、サスペンス映画は敵が手強くて悪くないと、うまく盛り上がってはくれない。その点今回のステイサムだったら申し分ない。トランスポーターなどヒーローも似合ってきたけれど、やっぱり悪役をやらせれば凄味があるねぇ。あの憎々しさふてぶてしさ。何しろあの不敵な面構えがイイし、久々に本領発揮って感じだったよね。

 

見た後の付け足し

 いろいろとホメていけばキリがないこの作品だが、その携帯を活かしきった発想の素晴らしさはもちろんだが…もっとも感心したのは登場人物のキャラクター。特に携帯を片手に大奮闘の男の子を演じたクリス・エバンス、さらに警官業にやる気をなくしかけてたウィリアム・H・メイシーの役どころには嬉しくなってしまった。

 クリス・エバンスはいかにもC調脳天気な男の子ぶりで、最初は「こいつで大丈夫か?」と見ているこっちまで不安になるバカっぽさ(笑)。劇中でも前に付き合ってた女に、「軽い」だの「アホ」だのと決めつけられる始末。実際にドラマが動き出してからも、ベイシンガーの息子はさらわれるわ亭主は連れて行かれるわ…と、ことごとく後手後手に回るテイタラク。頼りない事おびただしいのだ。

 それが…帰りの橋を焼き落とすというかルビコン川を渡るというか、携帯ショップで拳銃まで持ち出し、ともかく後戻り出来ないところまでいってからの面構えがイイ。一旦キレちゃってから、一皮むけた感じで男ぶりが上がっていく。さらに悪党連中に対して、イッチョマエにサシの勝負を仕掛けていくる頼もしさ。これにはちょいと感激してしまった。

 さらにウィリアム・H・メイシーの引退寸前の警官がまたイイ。ジュラシック・パークIIIでもいかんなく発揮されていた、メイシー十八番の昼行灯男ぶりが全開。ところがこの男も一旦レールをはずれて引き金を引いたとたん…何か人が変わったようにイキイキしてくるから嬉しくなる。終盤など「オレに任せろ!」とばかり、拳銃片手にアクションしちゃって何ともカッコいいのだ。このメイシーの男臭い変身ぶりには、映画ファンなら拍手したくなるところだろう。

 この映画はそんなダメ男二人の「敗者復活戦」の様相を呈してくるから、単なる「発想が抜群のサスペンス映画」…の域を超えていく。ちょっと「ダイ・ハード」みたいな、泣かせる味が出てくるんだよね。そんな老若「負け犬」男二人組が、最後に仲良くタッグを組んで息の合った悪党退治をするのも嬉しくなるではないか。このあたり、よく出来たアメリカ娯楽映画ならではの味が満喫出来る事請け合いだ。

 巷では「韓流」映画の大流行で、それはそれで面白いと認める。僕も好きな作品は少なくない。だけどこういうイイ味出すなら、やっぱりアメリカ娯楽映画…それもアクション映画にとどめを差す。やっぱり娯楽映画の最後の切り札は、「韓流」よりまだまだ「米流」だろう(笑)

 この二人を演じたクリス・エバンスとウィリアム・H・メイシーも、実にイイ味出していた、むろん超ベテランのメイシーは、もうイイ味出して当然の域。ここで注目したいのはクリス・エバンス。元々のちょっと間の抜けた顔が「人の良さ」も感じさせて、最初はバカっぽいと思ったが見終わった今となると好感度が高い。しかも全編一生懸命に動き回っての大熱演ぶりが泣かせるではないか。これほどの好演をまるで予想してなかったので、これはまさに嬉しい驚きだ。彼は今後もちょっと注目していきたいね。

 いやはや、これぞ本当の拾いモノ。こういうのがたまにあるから、映画を見るのをやめられないんだよねぇ。

 

 

 

 

 

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