第10回:善悪のはざまジーン・ハックマン

Gene Hackman, the Good Bad Guy

(2001/06/04)


ジーン・ハックマンって、もうスターダムでのキャリアも長く、定評のある人だよね。そしてこの人の凄いところは、スターイメージが確立しているにも関わらず、善人役も悪役も同じようにやっちゃうところ。スターイメージ確立してるっていうのと、善人役も悪役も同じようにやるって、普通矛盾した事のように思えるよね。でもこの人の場合は違う。この人が演じるとステレオタイプな善悪ハッキリした配役でも、あくまで欠点の多い善人、人間味のある悪人となってしまう。だからどっちも同じ様に見えるのだね。ハックマンが名優なのはこの点だ。

 

「ポセイドン・アドベンチャー」 The Poseidon Adventure (1972)

「フレンチ・コネクション」でオスカー主演賞をとって、名脇役からついにスターダムに突入したハックマン、これがオスカー受賞後第1作となった。だから彼の作品歴のなかでも珍しい、ストレートなヒーロー役。ところが典型的ヒーローも、彼がやるとただで済まないのがさすがのハックマン流だ。彼の役どころは豪華客船ポセイドン号に乗り合わせた神父。だが、ただの神父じゃなくって、教会から白い目で見られることも多々ある少々急進派の若々しくエネルギッシュな神父。そりゃそうだ、そうこなくっちゃ。だってその前は汚ねえスラング吐きながら、ニューヨークの目抜き通りを車で暴走したり猪突猛進のポパイ刑事だったんだもの。だいぶ前職よりソフトでクリーンになったものの、口が悪くてゴーインなのは変わらない。津波の発生でポセイドン号が転覆し、生き残ったわずかの乗客たちを率いて脱出するときも、少々そのリーダーシップが強引すぎてアーネスト・ボーグナイン警部としばしば衝突する。パワフルだから頼りになるんだけど、どこかフォローが足りないというか聞く耳持たないから、独善に走りがちでイマイチ人望をかち得ない。彼としては最初でたぶん唯一のストレート・ヒーロー役なのに、何だか人間的欠点もかなりデカイってのがこの人らしいんだよね。ところが終盤、いよいよ脱出できるとなった直前で爆発が起こり、熱気ムンムンのスチームが勢いよく漏れて出口を阻む。さすがに我慢に我慢を重ね、たび重なる犠牲にも耐えてきたハックマン神父、これにはキレた。空中のバルブに飛びつき、必死に回してスチームを抑えながら、大声で神を呪うのだ。

「神様、助けてくれとは言わない。だからせめてジャマをしないでくれ!

僕はこの台詞大好きで自分の人生でもよく使うんだけど、そのおかげか神様はあまり僕を愛してはくれてないみたい(笑)。ともかく神様まで口汚く罵倒するなんて、さすがハックマン。善人役やってもちゃんと欠点丸だしで、カッコよくクリーンにまとめないとこがいかにも彼らしいよね。素敵です。

 

「ザ・ファーム/法律事務所」 The Firm (1993)

脇役時代にはいろいろ悪役もやってきたハックマンだったが、スターダムにのし上がってからは、たぶん「スーパーマン」のレックス・ルーサー役が悪役のはじまりじゃないか。この映画の楽しげな悪役ぶりが、例えば「バットマン」のジャック・ニコルスンみたいに大物スターの悪役での客演という一つのパターンをつくり上げたんだから、さすがハックマン。だが僕は、ここでそんなハックマンのマンガチックな悪役について語るつもりはない。スターになってからも数多く演じられているハックマンの悪役の特徴は、完全に悪と断定できない悪役、人間的な弱さと魅力がたっぷりの悪役。ケビン・コスナー共演の「追いつめられて」の不倫相手を殺しちゃった国務長官、クリント・イーストウッド監督主演作「目撃」の同じく大統領などはこのコッケイ味がたっぷりきいたこの人ならではの味。やはりイーストウッド作品で、ハックマンに助演賞オスカーをもたらした「許されざる者」での強権保安官は、自分流の秩序を守るためにリチャード・ハリスやモーガン・フリーマンをリンチにかけて殺したり半殺しにしたりする。しかし、その一方で日曜大工的にコチョコチョと自宅を手作りでつくる小市民的側面も見せる。だから、ラストでイーストウッドに撃たれて絶命する直前の台詞、「手作りのウチに住みたかったなぁ」(だったと思う)が利いてくる。これは、決して悪魔みたいではない平凡な男が圧倒的な暴力を行使したりするんだと言うこの映画のテーマが、強烈に打ち出された名台詞かも。で、悪い奴とは思えないのに一方で冷血なことを平気でやる男…というハックマン・イメージが一番全開で出ているのが、この「ザ・ファーム」。巨匠シドニー・ポラックがジョン・グリシャムのベストセラーを映画化、主演はトム・クルーズ…という黄金カードだけに、共演もホリー・ハンターやらエド・ハリスやら絢爛豪華。その代わり贅肉つきすぎで、いささか話がもたついて全容を理解するのが困難になってしまった。でも、ハックマンの悪役は冴えている。法律学校出たてで有名法律事務所に就職決まったクルーズが、喜んだのも束の間、恐ろしい職場の暗部に気付いて悪夢の真只中に叩き落とされるというお話。ハックマンはこの法律事務所のボス役。みなの尊敬を集めながらも、実は陰で手段を選ばずダーティーなことをやって儲けてる。この映画の終盤近くで、ジーン・トリプルホーン演じるクルーズの嫁さんが一計を案じて身分をかくしてハックマンに接近。色じかけで迫って秘密を入手しようとするのだが、彼女に迫られたハックマン、「俺は今まで女に愛してもらったことがなかったんだ…」と真情を吐露する演技が何とも秀逸。ストーリー上ではこのシーンが大して重要でもないのに、見終わった後まで何とも言えない強烈な印象を残す。これは泣けます。この頃のクルーズは「ハスラー2」でポール・ニューマン、「レインマン」でダスティン・ホフマン、「フュー・グッド・メン」でジャック・ニコルソンと、超大物と好んで共演しては大先輩の胸を借りて役者としての格を上げていた。そんな中でこの作品でのジーン・ハックマンとの共演は、クルーズの演技キャリアの中で目立たないけれど大きな位置を占めているんではないかな。

 

 

 

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