第9回:残照のパニック野郎アーウィン・アレン

Irwin Allen, the Last Emperror of the Disaster Movies

(2001/02/25)


1960年代末期、斜陽にあえぐアメリカ映画界を席巻したのは、今までにない斬新なアプローチのアメリカン・ニューシネマの作品群だった。そしてこれらの作品によって今までにない表現が可能になり、意欲的な若手が映画界にデビューできる足掛りができたものの、一方でいわゆるハリウッド・エンターテインメントの世界はいかにも古色蒼然と見られ、瀕死の状態になっていた。これを打開して娯楽大作主義への突破口となったのが、「ポセイドン・アドベンチャー」に始まるパニック映画の大作群。これとパニック映画の頂点「タワーリング・インフェルノ」を生んだのが、異色プロデューサーのアーウィン・アレンだ。実はこの2本で一躍大プロデューサーとなったアレンだが、それ以降に彼がつくった作品はかなり見ていてツラい。ここではあえて、「その後」のアレンにスポットを当ててみたい。

 

「スウォーム」 The Swarm (1978)

パニック映画の決定版「タワーリング・インフェルノ」を大成功に導き、ハリウッドの2大メジャー会社の合作という快挙を史上初めて成し遂げたアレンは、そのキャリアの頂点にいた。そうそう、今でこそ「タイタニック」のフォックスとパラマウント合作みたいにメジャー同士の合作は一般化しているが、実は「タワーリング〜」以前にはなかったことなんだね。で、これでパニック映画勝利の方程式はできた!とばかりに、その方法論を応用してつくりあげたのが、この「スウォーム」。今度はメキシコのほうから飛んできた殺人蜂の大群が巻き起こすパニックを描く。さらにスケールア〜ップ! 「ポセイドン〜」からずっと引き継ぎの、脚本スターリング・シリファント、特撮L・B・アボットなどのスタッフ陣も勢ぞろい。「タワーリング〜」で第2班アクション監督を務めたら意外に好評だったのに味をしめ、今回はアレン自身が全面的に監督! また、配役でも「タワーリング〜」で大成功したフレッド・アステアのようにオールドスターを大胆起用。オリビア・デ・ハビランドにベン・ジョンソン。ヘンリー・フォンダにリチャード・ウィドマークといった重量級の名優も欠かせない。で、主役は? なんとマイケル・ケインだ! …ん? ケイン(笑)?

確かにケインはいい役者でスターなんだけど、正直言ってスペクタクル映画のヒーローかと言うと、大ファンの僕でも「???」なんだよなぁ(笑)。そこにヒロインがキャサリン・ロスとくるから、ますます悩んでしまう。しかも、これが災いしたのか内容もかなりツライんですよ。だって、肝心のパニック描写がどれもこれも盛り上がらない。例えば蜂の大群が火災を起こすわけでも列車を破壊するわけでもないよね。で、どうなるかと言うと、蜂に襲われた「運転手」の運転ミスで列車転覆。蜂に襲われてもがき苦しんだ「特殊部隊のメンバー」が、持っている火炎放射器で街に火を放ってしまう。次々発生するパニックのほとんどが、人間による二次災害なんだよね。これでは盛り上がらないよ。しかも水がドバーッと襲いかかってきたり、火がブワーッと噴き出してきたりといえば、見るだけですげえなぁと思わされるが、蜂の大群がブーンと飛んできても、画面では茶色っぽい粉か煙みたいなものが立ちこめて、人間たちが何だかもがいているようにしか見えない。何かがうまくいってない。最初から企画が失敗なわけ。アレン氏、これが運命の別れ道だったんだね。

 

「世界崩壊の序曲」 When Time Ran Out... (1980)

アーウィン・アレンって人は負けず嫌いなのか、「スウォーム」大失敗の後でもう一度自分の監督、マイケル・ケイン(この人も付き合いがいいねぇ)主演で、大ヒット映画の続編企画だからバッチリと思ったのか「ポセイドン・アドベンチャー2」(1979)を発表。この企画も前作発表の直後からいろいろ伝えられていて、前作のジーン・ハックマンに双子の弟がいて(笑)、彼と生存者が海難裁判に出廷しに行く途中で何者かに狙われるサスペンスになる…ってなストーリーも、まことしやかにウワサされていたっけ。結局、この作品は前作の生存者が脱出した後、謎の積み荷を狙った連中が乗り込んできて…という珍妙なお話になって、やっぱりコケました(涙)。一時期はパニック映画のテーマパーク(「アレンランド」みたいなもんですかね?)の計画もあったようだが連続大コケに余裕もなくなってしまった。で、満を持して取り組んだのが、この「世界崩壊の序曲」だ。

今回はさすがに自分で監督するのはやめて、ジェームズ・ゴールドストーンを起用。主演も「タワーリング〜」で実績ある大物ポール・ニューマンでいこう。「タワーリング〜」からはもう一人、ウィリアム・ホールデンも出そう。ヒロインはジャクリーン・ビセットとくればゴージャスだろう? 脇は「ポセイドン〜」でいい味出したアーネスト・ボーグナインを再起用。あとはバージェス・メレディスとか、イタリアから連れてきたバレンティナ・コルテーゼなどなど。…前2作の失敗を踏まえ、過去の2作の成功例から学んで完璧な布陣でのぞんだはずだった。しかし…。

何だか違うんだよなぁ。お話は題名とはウラハラに「地球最後の日」みたいなものじゃない。南洋のリゾートアイランドの火山が噴火して、危機にひんしたホテルのお客たちが脱出するお話。ハッキリ言ってシケたお話なのだ。最大の見せ場と言えば、眼下に溶岩流れる峡谷に架かったつり橋を一行が渡りきるサスペンスだけ。ここでかつてサーカスの軽業師だったバージェス・メレディスの芸が脱出に生かされるあたりは、「ポセイドン〜」で元・水泳選手だったシェリー・ウィンタースが過去のキャリアを生かして活躍するくだりの再現なんだろう。でもねぇ、それだけなんだよ。頼みのつり橋の見せ場も、何だかドリフの「全員集合!」の探検隊のコントみたい(そればっかし)。もう、アレンには金がなかったのかねぇ? いや、それだけじゃないはずだ。

 確かにアレンはハリウッドに再び娯楽大作をつくる土壌を取り戻した功労者だ。しかし、彼がそのキャリアの頂点を極めた後、時代は大きく変わってしまったんだね。ある意味では、彼がかたくななまでに固持したのは、昔ながらのグランドホテル形式のドラマ構成。でも、時代はもう先に向かっていた。スピルバーグやルーカスによる、新しい世代の娯楽大作の世界へすでに移行していた。そんな中で、昔ながらのアレン作品は、何だかもっさりした鈍くさい作品に見えたんだろうねぇ。

アーウィン・アレン…それはハリウッド復興のドサクサにはかなく咲いた、パニック大作の仇花だったんだね。

 

 

 

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