第5回:ホントはいい奴ウディ・アレン

Woody Allen, the Nice Guy New York

(2000/08/21)


ウディって言うと僕はずっと彼の作品が好きで、新作が出るたびにベストテンの中に放りこんでいた時期もあるんだよね。それが…いつのころからかなぁ、新作がちっとも楽しみじゃあなくなっちゃった。超豪華なオールスターキャストをやるようになってから、イヤミになっちゃったのかなぁ。昔はもっと僕らの身近にいてくれるような人だったんだよ。ダメな奴でさ。でも昨年の作品「セレブリティ」は、またまたディカプリオなどオールスターながら、主役の座をケネス・ブラナーに譲ったおかげか、あの親しみを感じるダメな奴に戻っていた。だから、また身につまされた。そんな彼の作品に脂が乗っていたころの作品をご紹介しよう。

 

 

「アニー・ホール」 Annie Hall(1977)

ウディとくればこれしかないでしょう。「アニー・ホール」の前に「アニー・ホール」なし。もちろん、後にもなし(笑)。オスカーまでとった文句なしの代表作だけど、今見てみると、よくこの作品にオスカーが行ったよな。でも、1970年代後半から80年代前半まで、オスカー作品賞が小型映画に行きやすいって傾向は確かにあった。その理由を考えてみるに、映画業界の人としては、大金を投じた大作が限られた何本か制作されヒットするよりも、低予算の作品の作品が数多くつくられ、それなりに当たったほうが業界全体が潤う…というような、大人の事情もあったんではないでしょうかね。そんな業界内幕話はともかく、この作品は私が最初に見たウディ・アレン作品でもあったわけなんだよね。見て泣けた。まず、冒頭からウディが観客のほうを向いて(だからカメラ目線で)ペラペラ小話をしゃべりだすんだけど、その内容が秀逸。喜劇スターのグルーチョ・マルクスがライオンズ・クラブみたいな名士の入るクラブに入ろうとする話なんだけど、クラブ側ではグルーチョがユダヤ人だからという理由で入れてくれないわけ。昔はそういうのWASPの特権なわけなんだよね。ところが後でグルーチョが大スターとわかり、クラブ側が恩着せがましく特例としてグルーチョにも入ってよろしいと許可を出したそうな。するとグルーチョいわく「私は、自分が入れるようなクラブに入りたくない」。…どうです? 皮肉な小話でしょ? この時はただの良くできた話なんだけど、後でこれがジワジワ効いてくるんだよ。お話はニューヨークのインテリ駄目男ウディが、いかした女アニー・ホールことダイアン・キートンと知り合い、恋人としてつきあい出すお話。すっごく波長も合ってバッチリの彼女なんだけど、結婚しようかなんて話出てくると彼本来の自意識過剰な短所が顔を出す。つまんないことで別れ、あぁしまった、彼女こそ僕の理想の女だったのに…と後を追ったときには、もう全て手遅れだった…。何とも苦いけど、これって人生の真実だよねぇ。人間カッコつけちゃうもんな。いいカッコして全てをリセットしたくなっちゃうんだけど、でも待てよ…僕がそう思い直すようになれたのは、ひょっとしてこの映画のおかげかな? 「私は自分が入れるようなクラブに入りたくない」…本当の気持ちはそうじゃないだろ? いいカッコして、思いっきり突っ張って、あげく全て失って後悔して。僕もそんなことよくやったもんだが、そういう気取りから自由になることも大事なんだよね。もう、これ以上そんな間違いしたくないな。

 

 

「ブロードウェイのダニー・ローズ」 Broadway Danny Rose (1985)

ウディの作品系譜には大きな流れがあって、その区切りというか見分けはヒロイン…つまり、そのときウディがつきあってる恋人で分けられる。「アニー・ホール」は紛れもなく彼のダイアン・キートン時代の代表作と断言できるが、じゃあもう一つの巨大な系譜、最後は骨肉の争いとなったミア・ファーロー時代の代表作は何かと問われれば、これが意外に難しいんだよね。近年のオールスター化の第1作となった「ハンナとその姉妹」を挙げる人は多いだろうけど、あれ正直言って僕の心にはあまり届かなかったんだね。そして、「カイロの紫のバラ」? あれも、映画ファンならこういう趣向たまらないだろ?…って決めてかかってるみたいで、世評は高いんだけどシラけた。あれと「ラスト・アクション・ヒーロー」と、どこが違うのよ? 「カメレオンマン」の発想はすごいけど、愛すべき映画ってわけじゃない。じゃあ何? 私はあえて、ミア・ファーロー時代の代表作には、地味だけど愛すべき佳作「ブロードウェイのダニー・ローズ」を入れるな。ここでのウディの役は、売れない芸人ばかり面倒みてるサエないマネジャー、ダニー・ローズ役。いつものインテリ口調のニューヨーク文化人じゃないわけ。これがいいんだよ。何人かの仲間内の会話で、「そう言えばダニー・ローズの噂知ってる?」と語り出される物語が、この映画のお話。どいつもこいつもクズばかりの芸人ばかり抱えているんだけど、ダニー=ウディは面倒見がいいんだよね。で、それらの芸人の中でもちょっと売れそうになる奴がいると、なぜか恩を忘れてウディの元から去ってしまう。今も大したことないんだけど、持ち歌がちょいヒットの兆し出てきて強気になってきた歌手の売り込みにやっきのウディだが、この歌手そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、もっとおいしい移籍話に秘密裏に飛びつこうとしているわけ。そんなこんなで、テンヤワンヤに巻き込まれるウディ。歌手の愛人ミア・ファーローが実はこの移籍話を進めているんだけど、そんなこととは知らないウディはこの女に引きずり回されてさんざんな目に合う。まぁ、早い話がミアは貧乏神みたいな女なんですよ。で、結局のところ歌手には逃げられ、シンドイ思いしたあげくガッカリのウディ。感謝祭の日、ウディのアパートで売れない所属タレントと一緒にささやかに祝う心尽しのパーティーの時も、浮かない顔なんですなぁ。そんなとき、部屋のブザーが。こともあろうに貧乏神のミアが詫びを入れにきたではないか。「お友達になりたいの」と。さすがにお人好しのウディもキレた。一体誰のせいでこんな目にあったと思ってんだ。確かにウディには彼女を罵倒する権利はある。「いい考えとは思えないね」…ショボンと帰っていく彼女。冷たくあしらったウディではあったが、心はやっぱり晴れない。これでいいのか。で、彼女を表まで追っかけて追っかけて、やっとこ追いついて、彼女を感謝祭のパーティーに誘うウディ。ここのシーンが涙腺ゆるんじゃうんですよ。彼女を迎えて、売れない仲間たちとささやかに祝う感謝祭。俺はお人好しかもしれないけど、それでいいじゃないか。ようやく心安らぐウディの表情から、冒頭のおしゃべりしてるお仲間の会話シーンに戻り、みんなで「あいつ本当にいい奴だよな」と言い合うエンディングは、今これ書きながらも涙が出てしまうほど珠玉の名シーン。この作品があまりみんなの話題にのぼらないのがウソのような好編だよ。騙されたと思って、ぜひ見てみるほしいね!

 

 

 

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