古代史劇とブラピとペーターゼン
ミスマッチ超大作「トロイ」の周辺

"TROY", the Mismatched Spectacle


 

 

予想外の面白さで出来上がりもミスマッチ

 

 さてここで、「トロイ」本編を見る前に僕が抱いた予想を、もう一度簡単に整理してみよう。

 

(1)スペクタクルだから楽しめる

 僕は子どもの頃からスペクタクル映画好きで、テレビでこの手の映画がかかると必ずむさぼるように見ていた。もちろん「ベン・ハー」などのリバイバルも劇場で見た。だから「グラディエーター」の公開は嬉しかったねぇ。大規模なエキストラの動員、巨大なセットなどなど…ハリウッド史劇のあの大げささが大好きなのだ。

 だから「トロイ」は内容はどうあれ、ソコソコ楽しめるに決まってる。出来映えはどうでもいいのだ。

 

(2)映画としてはたぶん面白くない

 どうせ昔話のたぐいが元ネタだから、面白くなるはずがない。正直言うと昔見に行ったデミルの「十戒」だって、映画としてはそんなに面白くはなかった。ただただスペクタクル映画好きだから眺めているだけで嬉しかったし、そこへクライマックスの紅海真っ二つが出てくるのだから、それで十分元はとった気になっていた。今回の「トロイ」だって面白くはないだろう。アクションだって鈍重で大味だろうしね。

 

(3)ブラピはきっと浮いている

 どう考えてもブラピが古代ギリシャのヒーローってピンと来ない。現代のアメリカ人にしか見えない。王への忠誠とか勇者の誉れとか神々への信仰とかを語る柄じゃない。どこをどう見たって、現代のどこか傲慢そうな男にしか見えないのだ。こりゃあミスキャストじゃないだろうか。

 

(4)ペーターゼンはソコソコやるだろう

 今までだって典型的ハリウッド大作をソツなく手がけたペーターゼン。今回だってソコソコやるだろう。すごく面白くもないだろうし、個性なんてまったくないだろうけど、一流の娯楽大作のオモテづらだけはちゃんとこしらえるはず。「パーフェクト・ストーム」で久しぶりにこの人「らしさ」を見た気がした僕には少々寂しいが、この映画はペーターゼンがそんな持ち味を出せる企画じゃないだろう。

 

(5)別に今つくらねばならない映画じゃなさそう

 そんな昔懐かしい郷愁にひたらせてくれそうな「トロイ」は、逆に言えば今でなくてもいい映画。アップトゥデートな要素はあまりないんじゃないだろうか? そのへんが映画の鮮度の低さにつながらなければいいが。

 

 まぁこのへんあたり、この映画を見る前の人なら誰もが大なり小なり抱いた思いではないか? あの予告を見ると、大体がそんな気分になってくるよね。では、実際の映画はどうだったのだろう?

 ズバリ一言で言うと…結構面白い。

 思ってた以上に…と言ったら失礼だが、意外なほどに楽しめたのだ。そして予想外の部分も多かった。それらはこれから順繰りに指摘していこうと思う。まずは上記の予想が実際にはどうなったかを見ていこう。

 まずは「(1)スペクタクルだから楽しめる」。これは予想通りだった。別に改めて言う事もない。予告では大海原を埋め尽くす軍船ってショットが売りだったが、本編ではあのショットは一瞬に過ぎなかった。実はもっともっとスペクタクル場面がふんだんにあって、あんなショットは地味な方に見えてしまうのだ。これはスペクタクル映画ファンとしては嬉しい。

 しかも「トロイ」のお約束、「木馬」が出てきた。あの考えるだにバカバカしい「トロイの木馬」がもっともらしく巨大に建造され、みんながその周りで輪になって踊ってるなんてアホな図がちゃんと撮られているあたり、嬉しくて涙が出たよ(笑)。この絵のくだらなさがスペクタクル映画の命だからね。この木馬、現在「トロイ」上映中の新宿歌舞伎町ミラノ座前に撮影用の現物が飾ってあるけれど、この木馬に人が隠れているのが隙間から透けて見えなかったのか…とか、どう考えてもナンセンスな疑問が残るあたりも、木馬のバカでかさに免じて許したくなる。

 また、かつて「クォヴァディス」のローマの大火シーンにシビれた僕としては、トロイの街が炎上する終盤のショットもヨダレものだった。これは入場料を払った価値がある。もっとも、これは僕みたいなスペクタクル映画ファン、それもバカっぽいスペクタクル映像のファンに限った話だ(笑)。

 次は「(2)映画としてはたぶん面白くない」。これは意外に面白かったと言っておこう。多彩な人物が錯綜するが、合理的に整理されていて分かりやすい。戦争の戦況や展開も目で見て分かりやすく出来ている。で、これが特筆したいのだが、アクション場面がなかなかスゴイのだ。特にブラピ扮するアキレスの剣術が見もので、僕はあんな剣法をスクリーンで見たことがない。ちゃんと百戦錬磨の戦士としての裏付けを感じる強さなのだ。だからブラピとエリック・バナが対決する場面なんか、なかなか手に汗を握らせる。重そうな剣をガッチンガッチンとぶつけ合って、最初から死にそうな奴が死に、勝ちそうな奴が勝つ…そんないかにもの史劇アクションにはなっていない。観客は強いブラピよりもフトコロの広いエリック・バナに死んで欲しくない。そんなバナが絶体絶命の危機で戦うのだ。こりゃハラハラするよ。スペクタキュラーな戦闘場面も、結構ハラハラするし驚かされる。これはペーターゼンお手柄ではないかな。そして意外にもこのあたりに、ペーターゼンの「U・ボート」以来の優れた資質が見えてきたから嬉しくなった。これは後で詳しく述べる。

 さて次は、「(3)ブラピはきっと浮いている」。普通に考えればそのはずなのだが、意外にもブラピはうまくやっていた。と言うのも、キャスティングが実に巧妙なんだよね。彼が演じるアキレスとは、一種の有名人…つまりはセレブ。王ですら従わせられない。そして当然のごとく傲慢。体制への反抗的態度はいかにもブラピらしいポーズだし、セレブで傲慢ってのはブラピ本人を彷彿とさせるではないか。テメエの気分で戦争に出たり出なかったりするあたりなんか、まさにハリウッドのイマドキ傲慢スターそのもの(笑)。だからブラピはまんま演じれば良かったわけだ。

 それがさらに明らかになるのは、エリック・バナの王子を殺した後のピーター・オトゥール王との対話シーン。ここでブラピはオトゥール王の人間的大きさに圧倒される…という場面だが、それはそっくりそのまま…昨日今日出てきたばかりでハリウッドに君臨する若造スター=ブラピと、デビッド・リーンなど巨匠たちに鍛えられ年輪と風格を持ち合わせたホンモノの名優スター=オトゥールとの、格の違い中味の違いを歴然と感じさせる好シーンとなった。ハッキリ言ってメンコの数が一枚も二枚も違うのだ。これってブラピは分かっていたのかねぇ。

 それでなくてもやたらエラソーな割には戦術とかまったくなくて、トロイの海岸上陸場面などは、こいつのムチャばかり目立つ。頭良くなさそうって言うか、脳味噌が筋肉みたいな男って扱いに見えるんだよね。取り柄といえば、ただ戦うだけ。

 で、とにかく目立ちたがり屋。何かと言うと注目を集めるところにいたがるし、自分が前に出りゃみんな下がると思い込んでいるゴーマンさ。ざっと見てみると、こんなキャラなんだよブラピの役は。で、そこまでやったからこそ浮かなくて済んだ。これが知的で華も身もあるリッパな男だったら、ブラピがやったらイヤミだろう。カラッポなアホだからブラピでよかったのだ。

 もしそこまで狙ってのキャスティングだとしたら、ペーターゼンって結構意地悪な策士だよね。ハッキリ言おう。こんな事言われてもブラピ本人は嬉しくないだろうが(笑)、ブラピはこの映画に合っていた。

 ついでに言えば、「ハルク」(2003)でいきなり出てきて海のものとも山のものとも分からないままだったエリック・バナも、今回はなかなか良かった。スケール感もあったしね。この人もラッセル・クロウ同様にオーストラリア出身との事だが、オージー俳優はこの手の映画に合ってるのかも知れない。彼は今後もスペクタクル史劇でいけるのではないだろうか。

 で、スペクタクル史劇で僕が個人的に楽しみにしているイギリス名優の出演は、何とジュリー・クリスティーがたった1シーンだけの出演だったのに衝撃を受けてしまった。何とももったいない。ただ、主役ブラピの母親という重要な役には、これくらいの女優を持ってこざるを得なかったのか。対照的に出番も多く目立ったのがピーター・オトゥールで、僕はどうせ料理に乗せたパセリみたいな役どころだろうとタカを括っていたら、これがなかなか重みのある役なのだ。結構ずっと出てくるし、前述のごとく終盤にはブラピとサシでやり合う場面も出てくる。ここでオトゥールがその真価を遺憾なく発揮するのは言うまでもない。「ロード・オブ・ザ・リング」三部作でスペクタクル史劇的な気分に馴染んだオーランド・ブルームも、往年の東映時代劇の悪役もかくやというような憎々しげなアブラギッシュ・オヤジを演じきるブライアン・コックス(みんなに迷惑をかけるイヤなオヤジ役を演じさせたら、いまやこの人の右に出る者はいまい)も、みんななかなか気分を出していて楽しい。

 で、ここからが問題だ。「(4)ペーターゼンはソコソコやるだろう」…確かにソコソコやっていた。と、言うより、意外に健闘していたと言いたいところだ。おっかないリアルな戦闘場面のおかげか、特に何ともヤバ〜いやられそうな雰囲気、殺されそうな雰囲気、勝つ望みもなさそうな戦争の雰囲気…が全編に立ちこめる。それってのは、「U・ボート」以来の緊張感や恐怖感ではないか。これには驚いた。まさか「トロイ」にそんな「U・ボート」と共通するペーターゼン・テイストを見出すとは思わなかったからね。

 で、「U・ボート」テイストとなれば、そこには何とも言えない厭戦気分が漂うのもみなさんお察しの通り。戦争の愚行…というテーマ、底抜けの徒労、水の泡感に溢れている。このご時世で厭戦気分を漂わせたら、イヤでもアップトゥデートな映画になってしまうではないか。だから「(5)別に今つくらねばならない映画じゃなさそう」は、意外にも「否」だ。

 では、なぜ「トロイ」には意外にもそんな「U・ボート」的ペーターゼン・テイストが漂ったのか?

 

 

 次ページへつづく

 To Be Continued...

 


 

 

 to : Review 2004

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME