大穴狙い「第17回東京国際映画祭」

  Seeking for the Dark Horses in TIFF 2004

  その1

 (2004/11/01)


 

今年も東京国際映画祭の季節がやって来た。とは言っても、今年の映画祭はハッキリ言っていい話題がない。何しろ会場が従来からの渋谷BUNKAMURA一点集中ではなく、渋谷と六本木の二分割になってしまったから不便この上なし。しかも作品紹介やら情報の遅れが目立ち、「公式」サイトにすらチケット発売ギリギリまで情報がアップされない。されても内容はお寒い限りというテイタラク。発売したら発売したで、券売上の列の先頭は、どう見ても映画なんか見ると思えない連中が独占。かと思えば韓流テレビスター映画が一番人気で、オバチャンたち殺到の末発売直後にソールドアウトという異常事態。他にも「何でこれが?」と言う映画が次々売り切れたりロクな席が残ってなかったりという怪しげな状況下で、直後にネット・オークションに次々登場するというけしからん話まである。これはさすがに、このままでいい…とは思えないよね。

元々、東京国際映画祭と言えば、僕は人気薄の韓国映画とムフセン・マフマルバフ映画を見に行くところと思っていた。当然、特別招待作品やらコンペよりも、狙いはかつての「シネマ・プリズム」…現在言うところの「アジアの風」なる部門だ。

ところが韓国映画は大人気になって切符はとれなくなるし、マフマルバフもすっかり知られた人気監督になった。ここ何年かは彼の作品は映画祭に来ないけど、おそらく来たって切符などとれやしないだろう。そんな訳で、僕も年々見れる映画が限られて来たわけ。

それでも、僕は今年に限っては珍しく4本も見に行く予定を組んでいた…。


10月23日(土)

「大女侠(「ゴールデン・スワロー」改題)」

 金燕子 (Golden Swallow)

 

見る前の予想

 とにかく作品情報の乏しい中で、この映画には最初から「ムムッ?」ときていたんだよね。というのは、まずは題名が題名だったから。この作品は「張徹(チャン・チェ)」なる香港の監督の回顧上映のうちの一本。そうなると、そうも最近 バリバリと出ている香港ショウ・ブラザース旧作のデジタル・リマスター復刻版の一環であると考えるのが自然だ。そしてショウブラ復刻と言えば、あの2年前の映画祭で見たキン・フーの大酔侠(1966)。そして「大酔侠」の中に出てきたヒロインは、「金燕子」と称する男装の剣士であった。「金燕子」…すなわち「ゴールデン・スワロー」ではないか!

 「ゴールデン・スワロー」が日本で言う「ねずみ小僧」みたいな有名キャラならばどうか分からないが、「大酔侠」オリジナルのキャラならば、これが正式な続編である可能性は大だ。こんな事は香港映画マニアなら常識の事かもしれないが、生憎と僕はそんな詳しい人間ではない。それでも大体このあたりの予想はついたから、この映画に多大な期待を寄せたわけ。なにしろ「金燕子」ことスーパー・ヒロインのチェン・ペイペイにもう一度スクリーンで会えるんだからね!

 で、調べてみると、間違いなくこの作品は「大酔侠」の1968年に制作された続編だった。

 ところで監督は当然ながらキン・フーではない。香港映画無知な僕には、このチャン・チェなる監督が誰か知る由もない。で、実は事前に予習…ではないが、一本だけチャン・チェ作品を見ることにした。その作品英雄十三傑(1970)は面白いは面白かったものの、どっちかと言えばかなり荒削り。泥臭いと言えば泥臭い。ズバリ言うと血生臭い。とてもじゃないが洗練のキン・フーとは極北に位置するような作品だった。

 となると、この映画もかなり様変わりしている可能性は濃厚。しかも事前に出てきた情報では、主役であるはずの「金燕子」=チェン・ペイペイの上に、何と(!)ジミー・ウォングの名前がどーんと出ているではないか(笑)。ウォングと言えば「片腕カンフー対空とぶギロチン」のあの人。汚い戦いっぷりが忘れられないあの男だ。何やらキナくさい雰囲気が漂ってくるではないか…。

 さて今回は、香港が好きであちらの事情にもお詳しいMayさんに同行していただく事となった。この作品を見に行ったのは、渋谷BUNKAMURAの「ル・シネマ2」。前々から映画館の名前に「ル・シネマ」はないだろう(「ザ・シネマ」って映画館を連想していただきたい)とは思っていたが、それにしてもこの日、BUNKAMURA周辺…そして「ル・シネマ」周辺にまったくと言っていいほど「映画祭」気分が漂っていなかったのには驚いた。そもそも人けすらない(笑)。初日なのにこの寂しさは一体何なのだ…。

 しかも映画館そのものに人がいない! 定員120余りの小さいキャパなのに、上映開始時でも半分も埋まっていない。だがこの映画、この回は売り切れになっているはずだと言う。ひょっとすると六本木から掛け持ちで見ようと考えている人たちが、まだ映画館に到着していないのだろうか? だとすると、早くも二カ所分割の弊害が初日から出た事になるわけだが…。

 

あらすじ

 チャリ〜ン!

 土間に投げ出されるお金。今夜も今夜とて、貧しい家に何者かの施しが投げ込まれたのだ。そして、お金と一緒に置かれた金の髪飾り。

 「金燕子だっ! 金燕子さま、ありがとうございます!」

 そう、金の髪飾りは「金燕子」のしるし。あの女剣士・金燕子ことチェン・ペイペイがスクリーンに帰ってきた。彼女は「ねずみ小僧」のように不正なカネを奪い取り、こうして貧しい家に夜な夜な施しを与えていたのだ。ところが当然そんな彼女を面白くないと思っている輩もいて…。

 「金燕子っ! ケッ、義賊ぶりやがって」

 夜に乗じて彼女に襲いかかる賊の一団。油断していた彼女は、不意に肩に矢を射られてしまう。するとペイペイ金燕子は、なぜか徐々に動きがとれなくなっていく。さては矢に毒が塗ってあったのか。危うし、ペイペイ金燕子。

 「やめろっ!」

 そこに登場したナゾの剣士。バッタバッタと敵を倒して、気絶しているペイペイ金燕子の危機を救う。さらにこの剣士、斬られた賊を剣で脅しにかかる。

 「解毒剤をよこせ、さもないと殺すぞ!」

 こうして賊から解毒剤を手に入れた剣士は、気絶した金燕子を抱きかかえてその場を去った。

 それからしばらくの時が経って…。

 人里離れた峡谷で、剣の練習をしながら笑顔で戯れる一組の男女がいた。片や金燕子チェン・ペイペイ、もう片方は彼女を救った剣士・韓ことロー・リエ。二人は今は仲むつまじく暮らす仲。悪漢とみればバッサリやってしまうペイペイ金燕子、殺しはせずに深手を負わせるにとどめるという韓ロー・リエ…と、剣の道に関する「見解の相違」はあれど、二人で仲良く楽しく暮らしておりましたとさ。

 そこにやって来たのは韓ロー・リエの旧友・老三。久々のダチの訪問に楽しく昔話に興じる韓ロー・リエではありますが、どうも男のダチ同士の会話ってのをオンナはイヤがる。ここでもペイペイ金燕子は露骨に退屈そうな態度をモロ出しして、川に石など投げ込んでいるから韓ロー・リエの顔も丸つぶれだ。

 さすがにマズいと思ったか、オンナ向きの話題を…と老三が話を向けたのが、これまた世間では悪漢たちに恐れられている剣士「銀鵬」のこと。「これが何から何までお嬢さんと正反対だかねぇ」

 金燕子に銀鵬、片や女で片や男…。この銀鵬ってのが男前でモテモテで…などと老三が調子こいて言ってたら、「どうせ私はモテモテじゃありませんよ〜だ」と金燕子はムクれるという微笑ましい一幕もあった。

 だがこの銀鵬、やっている事は正義の行いであっても、どうにもやり口がひどいんでもっぱら評判。とにかく残酷らしい。その必殺技は空にヒラリと飛び上がって敵を討つ、人呼んで「天誅下し」という技だ。

 そんな話を聞いているうちに、何やらペイペイ金燕子は動揺を隠しきれない。実は彼女が剣の修行をしている頃のこと、兄弟弟子仲間の中に「小鵬」という男がいた。今、話題に出た「銀鵬」は、その男ではないか…と言うのだ。

 この小鵬、ペイペイ金燕子とは同い歳。だが生まれ月は彼女の方が早いお姉さんで、小鵬は兄弟弟子でも一番年下の「末っ子」だった。ところが腕はめっぽう強く、並み居る兄弟弟子の中でもピカイチ。実は師匠の技を残らず修得したのも彼だけだった。その必殺技中の必殺技は、空中を飛翔して敵を討つ「天誅下し」…。

 だが師匠は小鵬が下山して世間に出るのを止めた。実は彼は幼い頃に家族全員を悪人に殺された孤児。それゆえ悪人を徹底的に憎む。師匠はそんな彼の性根を矯正しようとしていたのだ。だが、ある日小鵬は姿を消した。小鵬の親を殺した連中が一族郎党家族もろとも惨殺されたという知らせが、風の便りに伝わってきたのはそのから間もなくのことだった…。

 そしてこの小鵬が兄弟弟子の元から立ち去る折り、金燕子ペイペイの髪飾りを持っていったのも気にかかる…。

 そんな折りも折り、山の中で悪党連中が何やら企んでいた。何とタイミングがいいことか、悪党どもはここで例の銀鵬がやって来るのを待ち受けていたのだ。まずは爆弾投げつけてやれ、その後でみんなで寄ってたかって袋叩きにして…と楽しいプランがふくらむ。

 そうしてやって来たのは…「暴れん坊将軍」みたいに白馬に乗った、白装束のええカッコ剣士。眉間のキズも「愛と誠」みたいにキメてるイケメン・銀鵬ことジミー・ウォングその人。慌てず騒がず、自分に爆弾投げつけようとした男を手刀投げて倒してしまうから、悪党どもの楽しいプランは最初っから狂いっぱなしだ。

 ならばみんなでボコボコに…と思いきや、ボコボコにされたのは悪党軍団の方。それも血祭りズタズタ。情け容赦ない皆殺しっぷり。まったくシャレになってない。

 しかも一戦交えた銀鵬ジミーは、山の頂上に仁王立ち。その眼下には、仲むつまじい金燕子ペイペイと韓ロー・リエの姿が…。二人をじっと見つめる銀鵬ジミーに、何となくヤバ〜い雰囲気が…。

 そんな銀鵬にも、心からくつろく場所がある。それは心の居酒屋「北の家族」チェーン…じゃなくて、キレいどころを取りそろえた男の社交場「麗春園」。そこの売れっ子姐さんが銀鵬ジミーにゾッコン。今日もまだ陽が高いうちから部屋に籠もってシッポリ。ご参考までに付け加えれば、アレは昼間っからの方が妙に燃えるのだ(笑)。

 ところが売れっ子姐さん、銀鵬ジミーがどこか心ここにあらずなのに気づいてはいた。しかも彼が金の髪飾りを持っているのに「やっぱり…」と愕然。アナタには心に思う別のオンナがいるのね…。それでも堂々開き直っちゃうし、オンナも黙らせて寝床に押し倒す銀鵬ジミーはまこと男のカガミだ(笑)。

 さて銀鵬ジミーは何を企んでいるのか、あっちこっちで次々と殺しを実行。その都度現場に金の髪飾りを落としていく。一体この男は何を企んでいるのか。

 それでも悪人たちは今日もはびこる。ここは悪党集団「金龍会」の地方支部(笑)。今まさにトンデモ儀式が行われようとしていた。

 まずは裏切った男をダブル・ギロチン台に乗せて、まるでローテクのCTスキャンみたいな首と胴体の二カ所輪切りの刑。次いで肉親を殺され敵討ちに乗り込んできた男二名を、台に縛り上げた上で腹カッさばいて内臓つかみ取り。さらにさらに、裏切り者の家族を温情で逃がした手下も、今まさにダブル・ギロチンで処刑されようとしていた。

 そこに窓をブチ破って飛び込んできたのは…白装束の銀鵬ジミーだ!

 さてはダブル・ギロチンと聞いて、空とぶギロチンとも戦ったジミーはいても立ってもいられなかったか…と思いきや、どうもそうではなさそうだ。処刑されようとした手下も、「オレはジミーと関係ない」とばかり、なぜか自らギロチンで命を絶った。すると…銀鵬ジミーの狙いは一体なんだ?

 やがて銀鵬ジミーはその場にいた全員をバッサバッサと惨殺。さらに「金龍会」地方支部の建物に火をつけ、その場に金の髪飾りを残していった。

 そうとは知らぬ金燕子ペイペイと韓ロー・リエは、立ち去ろうとする老三をお見送り。「また来てね〜」

 ところが…立ち去ったはずの老三が、二人がその場で見送っているうちに、すぐに「また来て」しまった。よく見ると…なんと何者かに斬りつけられているではないか。

 さらに何やら怒り心頭の刺客たちが押し寄せてくる。それも口々に怒りの言葉を言い放つ。その目はどう見てもマジだ。「おのれ、弟子たちを皆殺しにしやがって!」「こっちは仲間がやられた!」「金龍会地方支部を全滅させるたぁ許せねえ!」

 だがそう言われても…さすがに金燕子ペイペイには身に覚えのないこと。知らぬ存ぜぬと言ってはみたが、そんな言葉は政治家たちがさんざ使ってしまったので、今さら誰も信じてくれない。かくして金燕子ペイペイと韓ロー・リエは、まったく意に添わぬカタチながら刺客を斬らねばならなくなった。

 「これは何やら様子が変だ」

 韓ロー・リエにはすぐにピンと来た。あの銀鵬ジミーが金燕子ペイペイをおびき出そうとしているのだ。韓ロー・リエには、男の勘でヤツの思惑が分かっていたのだ。「悲劇のヒーロー」ぶってオンナの気を惹こうとしてるに決まってる。しかもオンナはこういうのに弱いから、そっちに心動かすに決まってる。そんなところにノコノコと金燕子ペイペイを行かせる訳にはいかない。実際に経験から本当の事を言えば、そんな時にオンナの言う通りにしたら絶対にロクな事がない。骨折させても腹を下させてもどんな汚い手段を使ってもいいから、オンナの思う通りになどさせてはいけない。その場は口だけで感謝はしても、どうせ後でひどいしっぺ返しをしてくる。それがオンナと言うものなのだ(笑)。

 案の定、金燕子ペイペイはいても立ってもいられない。しかも自分のためにそこまで…とくだらない感激で目がくらむ。それがどんなハタ迷惑な事かまるで考えない、オンナのヒロイン願望をモロ直撃されてグラついていた。

 そこで二人はそれぞれ秘かに手紙をしたため、それぞれ相手に黙ってコッソリ家を出ていく。ケガで寝込んでいる老三が一人残されてどうしたのか…は、この際さておき、ともかく二人とも別々に銀鵬ジミー探索に乗り出したわけ。

 そんな事も知らず、街には相変わらず悪事が満ちあふれていた。今日も今日とて、大地主が近所のガキに濡れ衣を着せてイジメ。このガキが大地主の高いカモを捕って食ったとのイチャモンだ。それと言うのも、ガキの親が大地主に土地を売らなかったから…との逆恨み、イヤがらせ。あげく父親までムチ打つという暴挙に出たために、ガキはついに刀で腹をかっさばいた。「カモを食ったかどうか腹を見ろ!」

 さらに息子の無惨な姿に逆上して暴れた父親も斬り殺される。それを見ていた母親は発狂。毎夜フラフラと息子の名を呼びながら、街をほっつき歩く廃人と化してしまった。

 その様子を、かの銀鵬ジミーが見逃すはずがない。「悪人だと? 許せん!」

 一家崩壊して空き家になった家を、嬉々として取り壊していた悪党一味。彼らが、一瞬にして銀鵬ジミーの餌食になったのは言うまでもない。さらに大地主が飲み屋でドンチャン騒ぎ中と聞いて駆けつける銀鵬ジミー。またまた止まらない大暴れ。大地主を仕留めると、取り巻きの連中まで容赦はしない。最後の一人など「80歳の母親がいる〜」などと命乞いだが、銀鵬ジミーには「慈悲」の二文字はないのだ。

 「待て!」

 そんな銀鵬ジミーを止めたのは、あの韓ロー・リエだ。「何も全員を殺さねばならぬ事はあるまい」

 だが申し訳ないが、この場の韓ロー・リエは「人権弁護士」みたいにイマイチ甘っちょろい。「オマエはこいつらがどんな悪党か、まるで分かってないのだ」と銀鵬ジミーに言われても、返す言葉がない。そんな甘さを指摘され、しかも相手は腕が立ちそうだしオンナは取られそうだし…で、よせばいいのに韓ロー・リエは銀鵬ジミーにケンカを売る。

 「どうもこいつは勝負をつけるしかなさそうだな」と銀鵬ジミーもその気になった。

 ちょうどその時!

 二人のにらみ合ってる真っ直中に、金燕子ことペイペイが乱入。どこからともなく「けんかはやめて」(竹内まりやバージョンでも河合奈保子バージョンでも可)がBGMで流れる中、一気に男同士の戦いの場は、グチョッと湿った空気に包まれてしまう。

 「ヤツらはみんな殺されてもいいヤツらなんだ!」

 「行く先々で私の名を騙らなくてもいいじゃない!」

 ハッキリ言ってごもっともなご意見。銀鵬ジミーの言い分はまるでスジが通っていない。こうなると、オンナの気を惹きたい一心という情けない意図もミエミエ。追いつめられた銀鵬ジミーは、開き直って大声張り上げるしかなかった。「あ、あ、あ、悪党はオレが始末すりゃいいんだろ始末すりゃ! しょ、しょ、しょ、勝負はそれまでお預けだ!」

 さすがにいたたまれなくなったのか、銀鵬ジミーはその場を立ち去る。「自分はこんなに思われてる」という自己陶酔に酔いしれる金燕子ペイペイも、「彼を一人に出来ない」と追いかける。もはや泣きっ面にハチ状態だが、それでもオンナを放っておけない韓ロー・リエもそれを追っていく。何ともやりきれない三角関係が展開していく事になったわけ。

 そうなると事の成り行きから、銀鵬ジミーはすべて自分の仕業…と「金龍会」に名乗らねばならぬ。そこで彼は「金龍会」の追っ手の前に立ちはだかった。

 「何だ銀鵬か、オマエには用はない。どけどけっ!」

 「いや、ここは通さん!」

 「おやぁ? 金燕子の味方なんぞして…くくくっ。オマエ、さては惚れたか?」

 「ん?…う、う、う、うるさぁぁぁ〜〜〜い!」

 軽口のつもりが図星だったのが運の尽き。おまけにバカにして笑ったから始末に悪い。「金龍会」の連中は、今まで以上にメタメタにやられたのは言うまでもない。口は災いの元というのはいつの時代も変わらない。

 さらには「金龍会」の巣窟に殴り込もうという銀鵬ジミー。山の中の石段を登っていきながら、襲いかかる敵をバッタバッタ。そこには「金龍会」の親玉・王雄が待ちかまえていた。そんな銀鵬ジミーを追いかける金燕子ペイペイと韓ロー・リエ。

 手下の雑魚どもを仕留めると、小高い山の頂上へ辿り着く銀鵬ジミー。そこには4人の屈強な男たちが待っていた。だが銀鵬ジミーは、迷わずその4人のうち一人を一気に斬り捨てる。すると、どこからともなく親玉・王雄の声が、ご丁寧にエコー付きで聞こえてくるではないか。

 「うちの四天王の一人を殺したな。もうオマエを生きて帰す訳にはいかないぞ!」

 すると四天王の残りの3人は姿を消した。代わりに現れたのは、赤・青・茶・白・黒の五色に色分けされた戦士…悪党戦隊「コロスンジャー」ならぬ「五行童子」だ。

 「オマエにその五行童子が倒せるかな?」と、王雄エコー付き。

 戦いが始まるや否や、銀鵬ジミーは「五行童子」をアッという間に仕留めてしまった。すると、また王雄のエコー声が響く。

 「よくも五行童子を倒したな。絶対にオマエを生かして帰さん!」

 山の頂上には石碑があり、その裏側には地下に続くトンネルの入口があった。銀鵬ジミーが中に入っていくと奥には広い石室があり、数多くの石像が建ち並んでいた。

 銀鵬ジミーの剣がギラリ!

 石像に隠れて銀鵬ジミーを襲おうとしていた賊が、アッという間にバタバタ倒れる。すると、またまた王雄のエコー声が響く。

 「よくも刺客たちを倒したな。しかも18人のうち9人も! 絶対にオマエを生きて帰さん!」

 さっきから「生きて帰さない」を連発している割には、どんどんジリ貧状態になっている王雄。それなのに強気の姿勢を崩さないあたりは見習いたいところだ。だがいかんせんこれでは虚勢としか見えないのが悲しい。そこに金燕子ペイペイや韓ロー・リエが押し掛け、今頃慌てて四天王の生き残りも駆けつけたが、もはや勝敗は決まっていた。四天王生き残りは全滅。王雄はあの強気もどこへやら、慌てて地下室の裏口を抜けて外に逃げ出してしまった。そんな王雄を追いかける銀鵬ジミー。

 金燕子ペイペイも追いかけようとしたが、「もう追いつけない」と韓ロー・リエに止められた。さすがにやりたい放題やりすぎたな…と遅ればせながら気づいた金燕子ペイペイは、ここはちょっと譲らんとマズイか…と韓ロー・リエに従った。

 ところがある夜、韓ロー・リエと金燕子ペイペイの愛の巣に投げ文。明朝、近くの山で決闘だ…との銀鵬ジミーからの決闘申し込みだ。これには金燕子ペイペイも黙っていられない。だが韓ロー・リエだって言いたい事がある。「君はオレとあいつとどっちを愛しているんだ?」

 そうなると、都合の悪いことは言わないオンナのいつもの手。男たるものゆめゆめオンナの言い草にダマされてはならないのだが、そうはいかないのがバカな男の常だ。

 さて、街の女郎屋という女郎屋に、銀鵬ジミーを探しに行く金燕子ペイペイ。途中なぜか出っくわした老三と一緒に探していると、ようやく「麗春園」に銀鵬ジミーを発見。せっかく例の売れっ子姐さんとシッポリの最中に乱入。姐さんをオジャマ虫にして直談判だ。「明日の決闘はやめて!」

 ところがすぐに銀鵬ジミーに話題をはぐらかされ、積年の想いまで打ち明けられる金燕子ペイペイ。一体何をしに来たのか分からないが、甘い言葉をかけられれば悪い気はしない。うっとり言葉に酔わされているうちに、ホントに酔わされて酔いつぶれてるから情けない。

 かくして朝がやって来た。山に朝日が照りつける中、黙々と山を登る銀鵬ジミーと韓ロー・リエ。そして静かに激しく戦いが始まった。

 ところが山の麓から、そんな二人の元へと駆けつける人影が…。あの金燕子ペイペイが売れっ子姐さんを連れて、決闘現場へ向かおうとしてるのだ。さすがに姐さんの足では山道はキツい。ヨロけるたびに金燕子ペイペイは「チッ」と舌打ちだが、実はその金燕子ペイペイ自身が二日酔いで寝坊してるから強くは言えない。

 しかもその二人を追って、今度はあの「金龍会」の虚勢オヤジ王雄までが登って来るではないか。二人の決闘に乗じてセコく目的を果たそうと言うのか? だがこの王雄も、険しい山道に息を切らしているのが気にかかるところ。しかも親友の危機を聞きつけ、あの老三までが山を登ってきていた。

 さぁ、この三つ巴、四つ巴の対決は、一体どちらに軍配が上がるのか? そして三角関係の愛の行方は? 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 まずビックリしたのは…最後まで映画館の席は完全に埋まらなかった。帰る時に後ろを振り向くと、間違いなく後ろの方の席は空いたままの状態。少なくとも後方四分の一程度は空いていたはずだ。これは一体どうした事なのだろうか?

 映画は…と言うと、事前にチャン・チェ監督作品を予習しておいて良かった…というのが感想だ。ハッキリ言って同じヒロインでも印象はまったく違う。「荒削り」で「泥臭く」て「血生臭い」という印象は、そっくりそのままこの「ゴールデン・スワロー」にピッタリ当てはまる。これを見ていると、いかにキン・フーが香港あたりのアクション映画監督とは一線を画しているかが分かる。「洗練」の度合いがまるで違うのだ。後年の「侠女」(1971)あたりでなく初期の「大酔侠」にして、すでにもうダンチの違い。キン・フーってやはりあちらでも異色の頭一つ飛び抜けた人だったんだね。

 ただしそんな訳だから、ひょっとしたらキン・フーって香港アクション映画好きからは、逆に「つまらん」とか「物足りない」とか「上品ぶってる」とか言われてるのかもしれない。むしろ無礼を省みずに言えば、いささかガサツなこっちのチャン・チェの方がお気に入りなのかもしれぬ。

 ともかく残酷かつ無茶なのだ。ジミー・ウォングのかつての弟弟子が、チェン・ペイペイ恋しさに彼女の名を騙って殺しを続ける…ってのも、よく考えればムチャクチャな話(笑)。ジミー・ウォングが働く殺しの数々がまた残虐そのものだ。もっとも残虐はジミーに殺される側もいい勝負で、だから殺されても同情は湧かないのだが…ともかくこの時代にしてあまりに血まみれな殺しのオンパレードだ(笑)。

 胴体輪切りだの腹かっさばきだの…事前に見たチャン・チェの他作品「英雄十三傑」の凄まじい残酷趣向と言い、これはもうこの監督が「血が好き」だとしか言いようがない。特殊効果さえうまくやれたなら、きっと腹わたとかまで出したかったと思うよ。

 それがまた似合うから、ジミー・ウォングも怖い(笑)。後年の監督主演作片腕カンフー対空とぶギロチン(1975)感想文にも書いたように、この人って元々ヤバいスジの人らしいんだよね。そして「片腕カンフー〜」で見せた、あのヒーローらしからぬ残酷かつダーティーな戦いっぷり。その持ち味は、何とすでにこの映画で十分彷彿とされていた。…というより、すでに全面展開していた(笑)。まだ若かった頃だし監督も脚本も別人がやってるのに「これ」とは…よっぽど本人のキャラが立っていたか、そういう有無を言わさぬムードが漂っていたのか(笑)。どう考えても「危ない人」にしか見えないんだよね。

 最後は血まみれキズだらけになって、白装束を真っ赤っかに染めての壮絶な大立ち回り。本来のヒロイン=チェン・ペイペイは完全に脇役扱いで、この最大の見せ場にはまったく出てこない。ジミー・ウォングの一人舞台で、最後は岩場の上で「オレは天下一の剣士だ!」と仁王立ち。これには、「タイタニック」(1997)でのディカプリオの「世界の王」ポーズはここが原点か(笑)…と目を見張ったよ。あるいは「スカーフェイス」(1983)でのラスト、アル・パチーノの血まみれ仁王立ちの原点か(笑)。…それは冗談だが、前述のチャン・チェ作品「英雄十三傑」では、ヒーローの一人ティ・ロンがやはり血まみれ仁王立ちで絶命する。このあたりを考えると、こういう悲惨で残酷な血塗られたヒロイズムってチャン・チェ監督の十八番なのは間違いないだろう。

 あ、そうそう。チェン・ペイペイが女郎屋にジミー・ウォングを探しに行くくだり、襲いかかってくる店の若い衆の一人に、「英雄十三傑」にも出ていたデビッド・チャンの下積み時代の姿が見られたのは収穫だった。こういうあたりが旧作を見る楽しみではあるね。

 まぁ、お話そのものは終始無茶さが終始つきまとい、何ともスッキリしない。結局ジミーは死ぬが、ペイペイは「彼のほうが好き」と宣言してしまうので、残ったロー・リエは救われない。結局、ジミーの墓を渓谷の自分の家のそばに建ててやり、例のジミーを愛した売れっ子姐さんをそこに住まわせ、自分はその場を立ち去って行く。もちろんペイペイは墓を守って彼には同行しない。こうした男の計らいもあまり有り難がっているようには見えない(笑)。

 女の気持ちは自分にないと知らされるわ、剣の腕は死んだ男の方が上だと思い知らされるわ、自分で建てた家はくれてやるわ、女をそこに置いて自分は一人で立ち去らねばならぬわ…それもこれも当たり前ってオンナの態度と言い…この男は何一つ悪い事してないのに何でこうなるの? これってヒロインはどこかおかしいって気づかないのか?

 何ともムチャクチャな脚本…と言いたいところだが、現実世界ではもっと無茶な事をやってくるオンナもいるから(笑)、僕にもこれがおかしいとは言い難い。これはこれで狙ってないけどリアルとも言える。もはや何も言うまい(笑)。

 そんな訳でジミー・ウォングがいいとこどりのワンマンショーになってしまうし、聞くところによればチャン・チェ監督も「オンナには興味がない」人らしいということもあってか、お目当て肝心のチェン・ペイペイは終始お話の中心からは外れてしまう。だからその点ではかなり物足りないとは言えるのだが…ここでの彼女は「大酔侠」より以上に可愛いから文句も言えない。ホントに素敵に可愛いのだ! これは人気が出ただろうな…と思わざるを得ない。決して大げさな話ではなく、残念ながらチャン・ツィイーあたりではちょっと敵わない感じなんだよね。

 

見た後の付け足し

 ついでに言えば、この映画では老三という男が三枚目ながら「いいヤツ」として出てくるが、この男が初めて画面に登場した時、劇場内にドッと笑いがわき起こった。さては知られてる俳優だな…と察したものの、香港映画ファンではないので誰だか分からず…後でいろいろ調べてみると、これってどうもウー・マの若い頃らしいんだよね。確認出来てないのでハッキリは言えないが、どうもそうらしい。ウー・マって言っても僕は前述のごとく香港映画ファンじゃないから偉そうな事は言えないが、フツーの映画ファンには「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」(1987)で導師に扮していたあの人…いきなり唐突に「道・道・道!」と歌って飛び跳ねるミュージカル・シーンを演じて観客の度肝を抜いた人…と言えば、お分かりいただけるかもしれない。それから考えるとすごく若い頃の作品って事になるから、顔を見てもなかなか分からなかったんだろうね。

 あと、今回の映画祭は「アジアの風」部門だけの単独パンフレットをつくっているんだけど、これを読んでいたらトンデモない事が書いてあった。何とこの「ゴールデン・スワロー」は、わざわざ日本ロケして撮影されたと言うのだ。別に日本で撮影しなきゃならない場面もなさそうなんだけど、何でまた大金かけてわざわざ日本で撮ったのか。ひょっとしたら韓(ロー・リエ)の住みかのある岩場の峡谷みたいな風景は、香港にはないのかもしれない。あるいはジミー・ウォングが敵と戦いながら登っていく急坂の石段も、どこか日本の寺で撮影したようにも思える。何よりあのチェン・ペイペイが、1960年代に日本に来ていたという事実だけでも嬉しくなるよ。

 そんな脇のお楽しみもあるし、とにかくチェン・ペイペイは目一杯可愛くて強い。「洗練」こそされてないけど、これはこれで僕は十分楽しんだよ。

 なかなかそんな機会もないとは思うが、これからチェン・ペイペイの主演作がいろいろ発掘される事を祈りたい。まだまだ彼女の旧作を見てみたいからね。いやぁ、これは病みつきになるよ。

 

 

つづく

  

 

 

 

 

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