「チューブ」

  Tube

 (2004/11/15)


  

見る前の予想

 まずはこの映画については、うちのサイトの恒例座談会「2005年正月映画を語ろう!」で触れているので、それを引用したい。結局は正月映画にはならず11月初旬公開となったが、座談会開催時点では微妙な状況だったので話題にのぼっている。ここで語られている内容が、そっくりそのままこの映画の見る前の印象そのものだ。

 

F:これは地下鉄が乗っ取られて…ってお話ですけど、「スピード」のパクりだと思いません?

かわの:ああ〜!

あむじん:「スピード」ねぇ!

F:例えば主役の男の顔とか見ても…これがもっとトシくってたり野性味あったりしたら違うんですけど、な〜んとなくキアヌの…。

あ:ちょっとすっきりイケメン風の…薄味かなって。関西味(笑)。

F:で、この女の子ペ・ドゥナって子はちょっとユーモラスな面白い子なんですよ。だからここではサンドラ・ブロックかって感じで(笑)。

か:ペ・ドゥナって売れてますよね。「子猫をお願い」とか、まだ見てないけど。

F:…とか、「ほえる犬は噛まない」とか。

あ:だっけど最近すごい勢いだね韓国映画。作りすぎぐらいに作ってるよね。国を挙げて映画を援助してるみたいでしょ。それもすごいよね。

 

 まぁ、そういう感じ(笑)。これが「スピード」(1994)のイタダキってのは誰しも感じる事だろう。そしてかなり本気でつくっているらしい事も、予告編などを見れば伺える。昨今の韓国映画のこと、きっとすごい見せ場をつくっているに違いない。そして、いまや飛ぶ鳥落とす勢いの新進女優ペ・ドゥナの娯楽大作初挑戦も見ものだ。

 ただ…このペ・ドゥナだけは少々不安が残るんだよね。

 予告編を見ると、彼女は主人公の刑事に惹かれている女スリ…という役どころ。単なるかわい子ちゃんでなくて「女スリ」という設定がいいではないか。さすが異色女優ペ・ドゥナならでは…と言いたいところだが、予告編を見る限りでは劇中の表情はシリアスそのもの。しかも思い詰めたような顔をして、「あなたを一人では行かせない」…と来た。

 う〜ん。これってペ・ドゥナのキャラクターとして、どうよ?

 健気で思い詰めた表情のペ・ドゥナ。これって果たしてどうなんだろう? ほえる犬は噛まない」「子猫をお願いの彼女しか知らないから何とも言えないけど、こういう役どころって彼女に向いているのだろうか?

 

あらすじ

 ここはソウルの金浦空港。政府の要人到着が、突然何者かの襲撃で阿鼻叫喚のるつぼと化した。その首謀者はパク・サンミンという男だ。彼は大胆にも仲間たちと共に警戒厳重な空港内に現れ、要人が到着するや銃撃戦を展開。警備兵やらシークレット・サービスをも次々倒して、要人を手中に収める。

 パク・サンミンの狙いは、要人が持っていたデータ・チップだ。そこに収められた情報がいかなるものかは分からない。だがチップを奪い取ったパク・サンミンは、もう用はないとばかり要人を殺害。空港ターミナルを撤収しようとする。

 そんな彼らの前に立ちはだかったのは、無数の武装警官と兵士たち。しかしパク・サンミンとその仲間たちにとっては、警官たちを料理する事など朝飯前。激しい銃撃戦の中で次々倒れていくのは、完全防備の武装警官たちの方だった。

 さらにターミナル前に集結したパトロール・カーを横目に、賊の仲間が仕立てたワゴン車が到着。激しい攻撃に警察側は終始劣勢に立たされる。

 ところが…そこにクルマで乗り込んできた一人の男がいた!

 彼の名はキム・ソックン。駆けつけたこのキム・ソックンは、いきなりパク・ソンミンに向けて激しく発砲。撃たれたパク・ソンミンの方も、キム・ソックンの姿を認めた。

 そんな激しい攻防の中、パク・ソンミンを乗せたワゴン車は、今もう一人の仲間を乗せて走り出そうとしていた。そこへキム・ソックンの放った銃弾が、クルマに乗り込もうとしていた男を倒す。パク・ソンミンはそんなキム・ソックンを睨み付けながら、ワゴン車に乗ってその場を立ち去って行った。

 だがそんなキム・ソックンは、シークレット・サービスたちに因縁付けられる。「一体オマエは何者だ?」

 するとキム・ソックンは、不敵な笑みを浮かべてこう答えた。「さぁ、オレにも分からない」

 さて、そんなキム・ソックンは実は地下鉄捜査隊に所属する刑事だ。

 実はかつて警察の第一線で働いていたキム・ソックンだが、要人警護の際に先ほどのテロリスト=パク・サンミンに襲われた。その結果、要人は殺され居合わせたキム・ソックンの恋人も命を落とすという最悪の事態。これに逆上したキム・ソックンは、どこまでもパク・サンミンを追い続けた。

 しかし深追いが祟って逆に窮地に立たされ、自らは小指を切り落とされるわ、まんまと逃げられてしまうわ…という大失態。そんな経緯から、キム・ソックンはこの地下鉄捜査隊に「左遷」されてきたのだ。

 今日も今日とて班長のイム・ヒョンシクからお小言を頂戴。例の金浦空港での大立ち回りについて、出過ぎたマネをするな…とのお達しだ。だがキム・ソックンはまるで聞く気がない。フテくされた態度でその場を逃れるだけだ。

 さて、そんなキム・ソックンに、連日熱い視線を送っている女が一人。それは地下鉄を縄張りに仕事をしている女スリのペ・ドゥナだ。彼女はキム・ソックンのカバンを盗み、その中味を物色する。彼女にはキム・ソックンのどこか寂しそうな横顔が気になって仕方がない。留守中に彼の部屋に忍び込んでは、その荒れ果てた室内を片づけたりする。時に彼に近づいてみたりもするが、キム・ソックンの態度はどうにもとりつくシマがない。結局彼女はキム・ソックンの姿を遠目に見ているしかないのだった。

 その頃、あのパク・サンミンは何やら新しい計画を企んでいた。そしてそんな動きも知らず、ソウル市長の地下鉄視察が計画される。テレビ・クルーやシークレット・サービスを伴って、地下鉄構内に入るソウル市長。もちろんあのパク・サンミンも、仲間一人と共に地下鉄構内にやって来た。

 そんなパク・サンミンを…あの女スリのペ・ドゥナも見ていた

 彼女はキム・ソックンの部屋を掃除しに行った時、そこに貼ってあったパク・サンミンの手配書を見ていたのだ。その本人の顔を見て事態を察したペ・ドゥナは、すぐにキム・ソックンの携帯を呼び出した。

 慌てて地下鉄駅へと駆けつけるキム・ソックン。だが、このままでは間に合わない。目の前に置いてあるオートバイに目をとめたキム・ソックンは、それにまたがって地下鉄駅へと突っ込んでいく。

 トンネルを突っ走り、改札をジャンプして通過し、地下鉄ホームめざして突っ走るキム・ソックン。

 その頃パク・サンミンをあまりにチラチラ見ていたペ・ドゥナは、まんまと捕まって彼らと一緒に地下鉄に乗せられてしまう。もちろんこの地下鉄の先頭車両には、あのソウル市長ご一行も乗っているのは言うまでもない。

 こうして一触即発状態で地下鉄は発車。駅のホームをどんどん走り抜けていく。

 そこにようやくやって来たのがキム・ソックンのバイクだ。ホームをバイクで爆走するキム・ソックンは、ギリギリで地下鉄最後尾へとジャンプ。何とか車両にしがみつき、車内に忍び込む事が出来た。

 一方、ぺ・ドゥナは乗客たちに紛れてパク・サンミンたちの手から逃れる。だが、もはやパク・サンミンも彼女の事など気にもとめていなかった。

 いきなり車内で銃を乱射!

 市長護衛のシークレット・サービスは次々に倒れる。こうして車内を完全制圧したパク・サンミンは、運転席から運転手を引きずり出し、そこに自動操縦用の装置を据え付けた。さらに電車のスピードメーターと連動するべく、爆破装置を装着するパク・サンミン。もし減速すれば爆発してしまう。これで地下鉄は停車できなくなってしまった。さらに、さまざまな制御装置を手動に切り替えていく。

 その頃、中央管制センターで指揮を執っていた統制室長のソン・ビョンホは、車内での異常事態発生を察知した。「7103号車がコントロール出来ない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 ここから後をクドクド文字で書いても仕方がない。まずは見ていただきたい。で、早速この映画の出来映えについて正直に言うよ。

 惜しい!

 実に惜しい。結構頑張っているし面白くも出来ているのに、惜しい。どうしてこうなっちゃったんだろうねぇ?

 ともかく、いいところから挙げていこうかね。

 まずはこの映画のスケール感とディティールの素晴らしさ。本当の地下鉄を使ったり大セットを建造しての大がかりな撮影。そこにCGまで動員してはいるものの、ともかく相当なホンモノ志向で作り上げたはず。これが何とも見事なんだよね。冒頭の金浦空港での大銃撃戦と言い、どうやって撮ったんだろうとビックリするほどだ。とにかく微塵もチャチさは見られない。ハリウッドもビックリのスペクタクルだし、リアリティなんだよね。これは大変な事だよ。

 次に、あの手この手のサスペンスの仕掛けづくり。とにかく次から次へと危機また危機。何しろ悪漢がいなくなってもまだ事件解決にはならない。まったく安心できない。こうした脚本の工夫とアイディアもなかなかのものだ。

 前の要素と付随するけど、そこに主人公を演じるキム・ソックンの骨身惜しまぬ運動量が加わる。とにかく彼がよく動いているのだ。実はこの俳優、イマイチ個性を感じないしスケール感もないし、あまり面白みのある役者ではない。だが、とにかく出し惜しみせずにカラダを動かしているのは買える。イマイチな個性も、「スピード」のキアヌ・リーブスの位置づけと考えれば許せなくもない(笑)。走ってバイクを飛ばして、地下鉄車両にしがみついて、銃を撃ちまくって敵と素手での殴り合いつかみ合い。とにかくよく動く。

 そして、好感の持てるキャラもいる。最初は主人公刑事に日和見な小言を言うだけの捜査班班長のオッサン(イム・ヒョンシク)など、最後の頃になるとお偉いさんに刃向かって実にオイシイ役なのだ。新婚の嫁さんが心配でならない統制室職員(チョン・ジュン)もなかなか。最後に犯人に立ち向かおうとする地下鉄乗客たちとか、悪辣な企みをする前総理らに反旗を翻す統制室長(ソン・ビョンホ)とか、他にもこの手のパニック大作には欠かせないキャラやエピソードがふんだんにあり、ちゃんと基本を押さえてはいる。

 さらに、悪役が魅力的だ。「スピード」で言えばデニス・ホッパー(笑)のポジションにあるパク・サンミンが、凄味といい押し出しといいかなりなもの。ハッキリ言って薄味のヒーローであるキム・ソックンを完全に凌駕。だから手に汗握るのだ。だってどう考えても主人公はこいつに勝てそうもないよ(笑)。

 この悪役絡みで言えば、決してこいつらが単なる狂人とは描かれていないのもいい。彼らは時の政府に利用され、都合が悪くなったら家族もろとも抹殺されそうになった特殊工作員という設定。ジェリー・ブラッカイマーの「ザ・ロック」(1996)に出てくるエド・ハリスというか…あるいはユリョンというか、モロにシルミドな設定だよね(笑)。やっぱりこれくらいの大げさ、かつ重い設定がないと悪役が引き立たない。つまり今回の映画は、「シルミド」ミーツ「スピード」って映画なわけだ。

 では、言うことなし…とはならないから映画は難しい。

 まずは問題その1話のさばき方に難アリ。例えばこの映画の導入部を見て、主人公の刑事がどのような経緯でこうなったかが分かりにくいとは思わなかっただろうか? 時間的経過もハッキリしない。そもそも主人公の恋人は、なぜ要人暗殺の現場にいたのか? あれはたぶん彼女が同僚って事なんだろうと思うが、果たしてどうだろう? 主人公がたまたま地下鉄捜査隊に左遷されたという事も、ちゃんと見る者に知らせているとは思えない。おまけに減速したら爆弾が爆発するはずなのに、途中で停車したりしている。おそらくば何か仕掛けがあるなり裏付けがあるんだろうが、どうなっているのかサッパリ分からない。説明が舌足らずで分かりにくい。だからエンディングの主人公も空しい行為にしか見えない。そういう一つひとつが何とも舌足らずだ。

 問題その2。主人公の刑事とそれを慕う女スリのウジウジとした描写が長すぎ。事件が起きるまでこの手の描写がダラダラ続くのも困ったものだし、それらがことごとく見ていてこっ恥ずかしいのもマイッタ。あのペ・ドゥナにしてこの寒さだからね。もうちょっと簡潔にドライにまとめられなかったのかね。

 しかもこれらは、地下鉄ジャックが起きてからも続く。何かって言うとウジウジやるもんだから、折角サスペンスが盛り上がって来ても寸断される。そんな事やってる場合じゃないだろって気がする。

 問題その3。刑事の言動が不適切。主人公がやさぐれて投げやりになっているのは分かるし、アウトロー的な立場になってるのも分かる。だが地下鉄にテロリスト出現という事実を知りながら当局にまったく知らせず、単独行動を起こしているのは理解に苦しむ。結局、主人公がやるべき事をしなかったから、あんな事態になったという印象になるではないか。この場合、連絡したけど相手にされなかった…などの描写は不可欠なはずだ。

 問題その4。ラストでの主人公の扱いは、この映画にはそぐわない。ヒロイズムの強調のつもりかもしれないが、それまでが「ダイ・ハード」タイプのアクションだけにスッキリしない。せっかくあそこまで危機一髪の状況を乗り越えさせて「アレ」ではシラける。これのおかげで前に挙げた女スリとのダラダラも増えてしまうし、テンポが悪くなる事おびただしい。

 問題その5。こうしたベチョッとした描写の連続ゆえに、ペ・ドゥナは本来の魅力を活かしかねている。そもそも男を慕って影ながら応援するヒロインって柄じゃない。あんな悲壮感漂う表情でいられてもねぇ。悪漢に対峙して一歩も退かないのはいいが、そこでも犠牲敵精神とか悲壮感ばかり強調される。もっとチャッカリ振る舞ったり一枚上手のところを見せて、悪漢たちを出し抜いたりすれば楽しかったのに。そもそもペ・ドゥナはそういう個性で活きる女優ではないか。

 早い話が、何かとウェットな思い入れ描写を挿入するから、映画のテンポがどんどん悪くなる。トラウマに囚われたヒーローって設定は分かるが、事件が起こってからグチュグチュいつまでもやって欲しくない。例えば「クリフハンガー」(1993)や「デイライト」(1996)のシルベスター・スタローンは、こんなグチグチなど最初の頃だけで終えていたはずだ。それなのにこの主人公は、事あるごとにそれを蒸し返す。おまけに女スリとのやりとりも、やたらにウエット一辺倒。もうちょっとカラッと出来ないのかね。

 そんなウェットで舌足らずな描き方が災いしたか、「悪役側のやむにやまれぬ事情」「お上の悪辣さ」についてもキチンと描かずに放り出したまま。だから観客は怒りの矛先を政治家に一気にぶつけることも出来ず、かと言って悪役も単純に憎めず、非常に中途半端な状態に置かれてしまう。「単純な悪役にしない」という要素も、映画のプラス要素ではなくマイナスに働いてしまっている。これでは娯楽サスペンスとしてスッキリ楽しめないのだ。

 本来はサスペンス映画でも何でもなさそうなのに、サスペンス映画の方法論を持ち込んで見事に成功しているアメリカ映画の近作エイプリルの七面鳥(2003)を見ればよく分かる。「エイプリルの七面鳥」のあのドライな乾き方と比べて、いかにこの「チューブ」が湿りきっているか。こんなシケっちゃ火薬にも火がつかない。

 典型的娯楽映画のジャンル…サスペンスとアクションとスペクタクルというのは、言わば「数学」に似ている。そのうちアクションとスペクタクルは物量がモノを言う部分が大きいから「足し算」だ。数を加えていけばいくほどいい。サスペンスはちょっと違っていて、単に加算させていくだけではないから「掛け算」だ。その仕掛けなり趣向なりタイミングや設定によって、見応えが何倍にも膨れあがる。だが、どっちに転んでも「数学」であることに変わりはない。「数学」とは、ドライで合理的な計算の世界だ。

 ところがこの映画では、そこにウェットな訳の分からない思い入れの要素を何かと混入してしまっている。数学的なサスペンス・アクション・スペクタクルの領域にそれをバンバン差し込んでしまっているのだ。そのため盛り上がってくるはずのエキサイトメントが、その都度水を差されてしまう。

 そもそもヒーローと悪漢の最終決戦の場で、決定的劣勢に立たされたヒーローがいきなり攻勢に転じるキッカケが「オンナへの思い」では…理屈も何もあったものではない。射殺された自分の昔の恋人と、殴り倒された女スリが二重写しに見えたから、いきなり奮い立って攻勢に転じるって…何かもっと論理的で合理的な理由に出来なかったのだろうか? 「根性」とか「思い入れ」とか「気合い」とかじゃなくて…相手の隙を突いた何かとか、相手から見えなかった何かとか、たまたま手にしていた何かとか。

 それこそあの「スピード」で、どうやってキアヌ・リーブスがデニス・ホッパーを倒したかを思い出していただきたい。娯楽アクションのケリの付け方ってのは、そういうものだろう。

 

見た後の付け足し

 何だかこんな文句ばっかりつけちゃって、僕としても残念。何と言っても、大がかりな撮影もやってアクションも見応えがあって、次から次への危機また危機をちゃんと設定しているにも関わらず…だから、何とももったいなくて歯がゆいのだ。残念でならない。どうしてこうなっちゃったのかなぁ?

 今回の脚本・監督を手がけたのは、シュリに脚本と助監督で参加したというペク・ウナク。そこらへん、「シュリ」みたいな悲愴感が必要だと勘違いしちゃったのかねぇ。

 まったくもったいない。

 僕個人としては、あの素敵なペ・ドゥナをせっかく娯楽アクションの世界に引っ張って来ていながら、まるで活かせなかった事が一番残念なんだけどね(笑)。

 

 

 

 

 

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