「モナリザ・スマイル」

  Mona Lisa Smile

 (2004/09/06)


  

見る前の予想

 ジュリア・ロバーツ最新作、しかもイマドキ売り出し中の若手女優たちを多数従えての作品…この映画を見る上でのモチベーションと言えば、そんなところか。だが映画館まで来て、こりゃマズかったかなと遅ればせながら気づいた。

 映画館はヨン様映画みたいに女だらけ

 確かに映画は典型的「女向け」映画だ。まだ女性があまり社会進出を許されていない頃の女子大のお話。ポスターに書いてある宣伝コピーを見れば分かる。「ジュリア・ロバーツが全ての女性に贈る“愛”の物語」…「全ての女性」にだよ。は〜ん、そういう訳ね。オレには「贈って」くれてはいないわけだ。つまりオレは「招かれざる客」な訳ね…と思い始めたら、キップを買った後だというのにガクッと見る気が減退した。

 以下、僕が半ばフテりながら見た印象記と思っていただきたい(笑)。

 

あらすじ

 1953年のこと、東部の名門女子大ウェルズリーにカリフォルニアから一人の女性教師がやって来た。美術史の助教授に就任した彼女の名はジュリア・ロバーツ。この学校に赴任する事は、彼女の長年の夢だった

 しかしウェルズリーは保守的な事でも有名な学校。「リベラル」を自他共に任ずるロバーツとしてはそこが心配なところでもあるが、そこは何とか自分が少しでも変えられれば…と楽観的に考えてもいた。

 ところがそんな気負いは、初日からいきなり出鼻をくじかれる。生意気盛りの生徒たち…クリスティン・ダンスト、ジュリア・スタイルズ、マギー・ギレンホール、ジニファー・グッドウィンらが完璧に授業の内容を事前に把握。もはや教科書の内容を教えるまでもない状況で、先手先手を取られてしまう。ハッキリ言ってロバーツは生徒にナメられたのだ。

 さすがに落ち込んだロバーツは、早くもカリフォルニアに残した恋人ジョン・スラッテリーに電話で泣きつく。だが、これから寮で生活を共にする事になるマナー指導の教師マーシャ・ゲイ・ハーデン、校医のジュリエット・スティーブンソンとの会話に慰めを見出し、何とか気を取り直す事が出来た。ゲイ・ハーデンはさすがに言葉使いやら「花嫁学校」的な事を担当する教師だけあって、人は良いのだがガチガチの保守的な女。対照的にスティーブンソンは、かなり「リベラル」な考え方の持ち主らしい。だがスティーブンソンはロバーツに用心するようにクギを刺す。ここではボロを出さず慎重にしていないと生き残れない。出るクギは打たれるのだ。特にこの学校の卒業生と、その娘の生徒の気を付けて…。

 さて前日の失敗に懲りたロバーツは、次の授業で逆襲に出た。教科書を逸脱した授業を始めたのだ。結局は教科書丸暗記に過ぎない生徒たちは、「模範解答」のない美術作品に手も足も出ない。

 「芸術の価値は誰が決めるの?」

 そんなロバーツの挑発は、生徒たちの心を少しづつ動かし始める。

 優等生のスタイルズや奔放なギレンホールは、ロバーツに少なからず影響を受け始めた。だが難物は名家の出のダンストだ。彼女はこの学校での発言力が強い卒業生の母親を持っており、そのせいか常に強気だった。気に入らない事があると学校新聞にチクリを入れて、教師まで平気で脅かすタチの悪さ。現にダンストの怒りのトバッチリで、校医のスティーブンソンが辞めさせられるハメになる。これにはロバーツも愕然だ。しかも母親がつくったレールにそのまま乗っかって、この若さにして早くも結婚

 そんなロバーツに目をつけたのが、女ったらしのウワサが高いイタリア語教師ドミニク・ウエスト。彼はどこかシニカルなモノの言い方をする男だったが、それでもロバーツに好意を持っている事はミエミエだ。しかし彼は、去年の夏までは教え子であるギレンホールと関係を持っていた。終わった事と済ませたいウエストだが、ギレンホールは分かっちゃいても気持ちに踏ん切りがつかない。

 そのうちに徐々にロバーツを慕ってくるスタイルズ。彼女はロバーツに秘かな志望を伝える。それはイエール大の法学部への進学だ。そんなスタイルズを大いに励まし、イエール大への願書提出を助けるロバーツ。しかしその一方で、スタイルズは婚約者との幸せな結婚も望んでいた。

 また、生徒の中でも容姿に自信がなかったジニファー・グッドウィンにもめでたく恋人が出来た。

 クリスマスにはカリフォルニアから恋人スラッテリーがやって来て、久々に幸せを感じるロバーツ。だが彼が勝手に婚約話を持ち出して既成事実化しようとした事から、二人は呆気なく別れる事になってしまう。

 そんな頃、ダンストの家庭には微妙な影が差し始める。夫がまったくダンストを省みなくなって、彼女はいつも置いてけぼり。そんな苛立ちも伴ってかダンストはお得意の学校新聞に、ロバーツが結婚を否定している…というイヤがらせの記事を書き殴るのだった…。

 

見た後での感想

 ここでダラダラ物語を書いてもしょうがないので、以下は割愛。…こんな書き方をすると、みなさんは僕がこの映画をあまり買ってないとお思いだろう。

 確かに見る前はまるで期待が出来なかった。それに僕は直前、この映画の監督がマイク・ニューウェルと知ったのだった。これもマズかった。

 マイク・ニューウェル…なぜか不思議と評判がいい英国出身の監督だが、その評価の高さはヒュー・グラントがスターダムにのし上がった「フォー・ウェディング」(1994)によるものなんだろうね。

 実は僕もこの映画をすごく期待して見た。何しろ世評が高かったからね。ところがそんな期待が高すぎたせいなのか、僕には「フォー・ウェディング」ってイマイチな印象しかないんだよね。つまらなくはなかったが、すごく面白かったかと言うと…。「ふ〜ん」ってな感じ。

 その後、このニューウェルの監督デビュー作が、チャールトン・ヘストン主演の「ピラミッド」(1980)だと知って、その「ふ〜ん」が「はは〜ん」に変わった。何だかパッとしないサスペンス映画だったもんねぇ。なるほど、あのつまんない映画をつくったあいつか。

 そういえばニューウェル監督の出世作「ダンス・ウィズ・ア・ストレンジャー」(1984)も、見てはいたんだけど全然印象に残っていない。これも世評は高いんだよね。あと見ているニューウェル作品と言えば、アル・パチーノとジョニー・デップ共演の「フェイク」(1997)か。これもあまり印象がないな。結局、僕はこのニューウェルという監督と、あまり相性がよくないらしい。評判がいい映画もダメなんだからね。しかも運の悪いことに、見たいと思った「狂っちゃいないぜ!」(1999)はいまだ未見。

 あ…いやいや、一本だけ例外があった。「魅せられて四月」(1999)だ。それぞれタイプも年齢も違うイギリス女性たち4人が、イタリアの別荘で自分を変えていくお話。これは楽しかった。僕が好きなニューウェル作品って言ったら、これしかないな。

 と、そんなわけでマイク・ニューウェルの監督作品と聞いても…というか、そう聞いたからなおさらって事もあるが、ますます気乗りがしなくなったこの映画。では、実際に見てみたらどうかと言えば…。

 これが意外にいいんだよ。

 どうせ男はお呼びでない「女の旅立ち」話だろうと思っていたけど、実はそういうニュアンスはあまり感じなかった。いや、確かにお話はその通りなんだけどね。女性がまだあまり社会進出をしてなかった頃の、女子大の話だからね。女は嫁に行って家庭に入れって時代の話。大学に行けるだけでもありがたく思え…って事で、ここの大学も学問より「花嫁学校」化しているって状態だ。

 ところが、これが不思議に…男の僕でも感情移入できた

 いろいろ理由を考えてみたが…そもそもここで女たちが押しつけられている「社会の常識」なんてモノは、実は僕ら男もイヤというほど押しつけられているではないか。もちろんそれはこの時代の女たちよりも大した事ではないかもしれない。そして男女のアレコレみたいなモノではないかもしれない。だけど学校で、会社で、社会で…女だけでなく男も何かくだらない前時代の残骸みたいなモノを押しつけられている。年寄りとか地位の高いヤツとか金持ちとかから押しつけられる。そんな不甲斐なさなら、僕らだって理解できる。何度先輩や上司や社長やらの頭を、ビール瓶でカチ割ってやろうかと思ったか分からない。何で訳の分からない事で謝罪しなけりゃならないのか納得出来ない…なんて事はザラにある。卑劣な事をやるヤツの方が威張ってるなんて年中だ。そういう経験なら人一倍あるから、この映画のジュリア・ロバーツやら女の生徒たちやらの気持ちは分からないでもないよ

 それから…ロバーツの前の恋人やら言い寄ってくるイタリア語教師、さらには生徒たちの夫や恋人たちを除けば、この映画は見事に女だけの世界で描かれている。前述した男どもは、ハッキリ言って点景人物だから、存在感など大した事はない。そうなると、そこに出てくるのが女ばっかりと言うことになれば…もはや男だ女だと問う意味もなくなる。しかもこの映画での人物同士の対立は、むしろ女性同士の間で行われる。他の「女性の生き方」映画と比べると、「何もかも男が悪い」的な展開にはなっていない。だから僕らも自然に感情移入出来るのかもしれない。何せあの手の映画を見せられると、まるで僕らが男に生まれただけで悪いって気持ちにさせられるもんねぇ。大体…ここだけの話ぶっちゃけ言わせてもらえれば、何もかも人のせいに出来るなら苦労はないんだよ。こんな事を言っちゃったらマズイだろうが、本音だからねぇ(笑)。

 閑話休題。さらに…ジュリア・ロバーツが意外にもいい!

 これは意外だった。別に彼女が好きでも嫌いでもないが、これほど好感が持てるとは思わなかった。なぜか素直な演技がとても良かった。大した事はやってないんだけどね(笑)。

 その理由は何かと考えてみたが…おそらく厳格な名門校という舞台で、美術教師という役柄だからこその好感度ではないだろうか。

 元々ロバーツは庶民性が売り物の女優だ。出世作「ミスティック・ピザ」(1988)での頭が悪くて身持ちが悪い娘の役を見れば明らかだ。オスカーをとったエリン・ブロコビッチ(2000)で演じた役も、この「ミスティック〜」の延長線上にある事がお分かりだろう。スターダムに登った「プリティ・ウーマン」(1990)の今風「マイ・フェア・レディ」ぶりは今さら挙げるまでもないよね。つまり気取りのない気さくさが身上の女優さんだ。言い換えれば育ちが悪くて下品とも言える(笑)。

 この主役の女教師…仮に知性が売り物の肩肘張ったような女優が演じたとしたら、役柄には合っているかもしれないが、映画として見た場合かなりツライものになったのではないだろうか。あえて知性の部分は犠牲にして、庶民性のロバーツで押していったのが正解だったのだろう。巨大な権威みたいなモノを前にした違和感と、吹けば飛ぶような頼りなさが強調される。型にハマった生徒たちを挑発する時に、あの品のカケラもない大口開けてのガハハ笑いがモノを言う。映画にはそんな理屈抜きの部分があるからね。

 そして生徒役に起用されたキルスティン・ダンスト、ジュリア・スタイルズ、マギー・ギレンホールの今が旬の若手女優たちの顔合わせはさすがに豪華だ。こうやって並べてみると、確かに贅沢なキャスティングだよね。特にダンストは、あの元々の根性悪そうな個性が十二分に生かされている。それが一気に改心しちゃうのはいささか唐突だが、ここは娯楽映画ということで割り切って楽しむべきだ。

 それにしても…意外にやるじゃないかマイク・ニューウェル! ちょっと驚いて見ていたが、考えてみるとこれは当然の事かもしれない。僕が気に入った唯一のニューウェル作品「魅せられて四月」も、考えてみれば家庭やら世のしがらみやらでがんじがらめになった女たちの話。女ばっかりで話が展開する映画だった。ニューウェルに面白い映画を撮らせるなら、女だらけにしろ(笑)…これは僕が今回見つけたニューウェル「勝利の方程式」かもしれないよ。

 

見た後の付け足し

 タイトルの「モナリザ・スマイル」は、あの「モナリザ」の微笑みのことだ。夫婦仲が崩壊したダンストが、何とか世間体だけは保とうとする母親に訴える言葉が元になっている。いつも微笑みを絶やさないモナリザ。それは「幸福そう」に見える。でも、「幸福そう」でありさえすればいいのだろうか…?

 その問題は、決して女の専売特許ではない

 この「女向け」映画が男の僕にも楽しめたのは、この手の物語が陥りやすい「猪突猛進女が自分の主張をブチまけて驀進する」…といったパターンから一線を画しているからだ。ジュリア・ロバーツの女教師はそれほどムチャなスタンドプレーはしない。スジの通った事しかやっていない。仮にハミ出した事をしでかした時にも、この映画はヒロインの言動を必ずしも「是」とはしないのだ

 保守的な姿勢と巨大な権威で、女生徒たちを型にはめ押しつぶしレールに乗せようとする大学。それを取り巻く卒業生やら学長、教師たち。彼らはただただ自分たちの考えに何の疑いも持たず、力で従わせようとする。それは「独善」だ。

 だがヒロインの女教師はよかれと思ってアレコレとやっていくうちに、イヤという程思い知る事になるのだ。…自らも同じ穴のムジナだと

 まずは進学を断念して家庭に入る生徒が、それに不満げなヒロインに訴える。「これは自分の選択なのだ」

 またヒロインと恋仲になったイタリア語教師は、ささやかなウソを責める彼女に直言する。「君はいつも自分の考えを一方的に押しつけるだけだ」

 皮肉な事に「独善」という一点においては、ヒロインは対立し忌み嫌っていた学校と同じ事をしていた。学校の「独善」を批判していたヒロインが、自分もまた別の正反対の角度から「独善」を行っていた。この映画は、この点が他の凡百の「女の応援歌」映画とは違う。自らにも批判の刃を向ける事で、その手のつまらないルーティン映画に陥ることから救われている。

 どうでもいい伝統やら慣習やら権威付けのために他人の人生に干渉する事は、決してあってはならない事だ。だからこそヒロインも戦ってきた。ならば…それが例え「正しい事」であっても、他人に何かを強制してはならないはずだ

 このヒロインの「両刃の刃」が描けたことで、映画はグンと説得力を増した。男女を問わずリアルに実感できる映画になった。だってそれは女ばかりじゃない、人すべてに共通する問題ではないか

 何よりも尊重されるべきものは、「自由」なんだからね。

 

 

 

 

 

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