「ドット・ジ・アイ」

  Dot the I

 (2004/09/06)


  

 

 

 

まったく白紙の状態で映画を見たい方は、一切お読みにならないでください。

 

 

 

見る前の予想

 あの天国の口、終りの楽園。で大売り出しのメキシコ若手俳優ガエル・ガルシア・ベルナルの新作…僕が知っていたのは、たったそれだけ。

 いや…正確には広告を見て、簡単なストーリーらしきものも知ってはいた。結婚間際の女が、たまたま独身最後のキスをした相手に「運命的」なものを感じて…。

 うわ〜…すごくつまんなそう。オンナは喜びそうだけど、絶対面白くなさそうな映画だよな。タイトルが訳分からない事も手伝って、おそらく見に行く事もあるまいと思った。いくら売れっ子のガルシア・ベルナル主演だからって、こんな陳腐な映画は大して見たくはないなぁ。

 そして公開されたこの映画、まったくと言ってもいい程話題になっていなかった。だから評判も聞こえて来なかったんだよね。地味にやってて、地味に終わりそうな感じ。

 ところが…どこからともなく予想外の感想が聞こえて来たんだよね。

 どうもネタバレ厳禁な内容らしい。そしていわゆるラブストーリーでもなさそうだ。って事は、これってかなり二転三転する映画なのか?

 ならば、見なければならないだろう。これを見なければきっと後悔する。僕は公開から大分経った映画館に、慌てて駆けつけたわけだ。

 

あらすじ

 ナタリア・ヴェルベケとジェームズ・ダーシーはアツアツのカップル。ちょっと豪華な家に優雅に暮らすダーシーは、心底優しくヴェルベケを愛してくれる。スペインからここイギリスへやって来たヴェルベケも、そんな彼の優しさに心底から感激。ある日ダーシーがプロポーズしてくるや、一も二もなく受け入れた。

 そんなこんなであるレストランで、女ばかりによるヴェルベケの独身さよならパーティーが開かれる。そこにたまたまビデオカメラを持ったイケメンのガエル・ガルシア・ベルナル、見るからにオタクなトム・ハーディーとチャーリー・コックス…という男三人が入ってくる。それは偶然か運命か、はたまた…。

 この独身さよならパーティーのヤマ場は、花嫁になる女がその場にいるどれかの男と独身最後のキスをする…というイベント。盛り上がる仲間うちがあれこれと指し示す中、周囲を見回しながらヴェルベケが選んだのは…。

 当然のごとく、イケメンのガエル・ガルシア・ベルナル!

 大いにはやす友人たちの歓声を聞きながら、ヴェルベケとガルシア・ベルナルは口づけを交わす。ブチュ〜〜ッ、ネチョ〜〜〜ッ、ベッチョ〜〜〜〜ッ、レロレロ、ムニュ〜〜〜〜〜〜ッ…。

 な、長い…。

 さすがに長すぎる。いくら何でも舌まで突っ込んでいやらしすぎる。レストランの面白がってた客も、騒いでいたヴェルベケの女友だちたちも、さすがにただならぬ気配を感じて唖然呆然。ハッと我に返ったヴェルベケは、すっかり気が動転してレストランを出ていってしまった。

 外に飛び出したヴェルベケは、まるで怒りをぶつけるよう商店のシャッターを殴りつける。

 だがヴェルベケはそんな混乱ぶりを、ダーシーに悟られまいとする。そして彼女の思いをよそに、ダーシーは結婚の日取りをさっさと決めてしまう。いくら善は急げとは言うものの…と当惑を隠せないヴェルベケだが、例のキスでの動揺もあって拒めない。ここで結婚を先送りにしたら、それこそどうにかなりそうな怖さもある。

 さて、ガルシア・ベルナルは…と言えば、その後もヴェルベケが忘れられない様子。お仲間のハーディーとコックスに、そんな思いを漏らす。そうとくれば、思い立ったら即実行…。

 そんなガルシア・ベルナルは、ビデオカメラ持参でヴェルベケが働くハンバーガー店に乗り込んだ。慌てて逃げ出す彼女、そんな彼女を追うガルシア・ベルナル。ヴェルベケを路地に追い詰めた彼は、しかし何とか彼女の気を惹く事に成功。ともかく一回だけ会うことを同意させた。

 そんな彼女は、夜道で何者かにつけられている気配を感じた…。

 すっかり怯えたヴェルベケはダーシーに抱きつきながら、かつて自分を脅かした「ある男」の事を思い出す。そう、ヴェルベケがスペインを去ったのもその理由からだった。「男」はヴェルベケのストーカーと化して、しまいには彼女に危害を加えるようになった。彼女の手首には、あの男のせいで出来た爛れた火傷の跡が今も残っている。まさかあの男が、イギリスまでやって来たのではないか…。

 ヴェルベケがガルシア・ベルナルと待ち合わせした喫茶店に現れるや否や、いきなり彼にパンチを食らわせたのも…そんな理由からだった。ストーキングしていたのは、てっきりガルシア・ベルナルだろうと思い込んだのだ。だが、どうもそれはヴェルベケの早合点らしい。追いすがってきたガルシア・ベルナルのマジな口調に、ようやくヴェルベケの警戒も解けた。ならばガルシア・ベルナルにお詫びの一つもしなけりゃならない。

 ヴェルベケはかつて掃除婦として勤めていたホテルに乗り込んで、ガルシア・ベルナルにタダ飯をおごってあげた。何しろヴェルベケ、アレコレと仕事の数だけはこなしていた。それがいつも長続きしないのは、何より気性の激しさと束縛されるのをイヤがるがゆえ。それは先ほどガルシア・ベルナルをいきなり殴った事でも証明済みだ。

 ホテルの連中にタダ飯食っているのがバレて捕まりそうになると、今度はガルシア・ベルナルが機転を効かせてうまいこと逃げおおせる。一緒にちょっとした冒険を楽しんで、すっかり打ち解ける二人だ。

 だがヴェルベケが夜帰ってくると、ダーシーは怒り心頭。どうもナニやら遊んでいるのがバレているみたいだ。ヴェルベケはテメエの事を棚に上げて監視するなと怒るが、テメエが悪くても開き直るのは女の専売特許だから驚くに当たらない。しかし彼女がガルシア・ベルナルのコートを借りて着ていたのは、いかにシラを切ろうとマズかった。

 ヴェルベケは早速ガルシア・ベルナルの家にコートを返しに行くが、そのまま根が生えてついつい二人でダベってしまう。ガルシア・ベルナルが何から何までビデオに録画したがるのは奇妙なクセだが、そのうちヴェルベケもカメラに向かって話す事に抵抗がなくなる。彼氏のダーシーが金持ちで働かなくてもいいこと、しかし自分は金目当てで結婚するのではないこと、スペイン時代のストーカー事件…。ガルシア・ベルナルがブラジルから出てきた事も聞きだした。そんなこんなのうちに、ヴェルベケはついついガルシア・ベルナルに気を許してしまう。それでも危ないところで我に返ると、慌ててダーシーの元へと帰るヴェルベケではあった。

 そんな迷いを何とか振り払って、結局ヴェルベケはダーシーと結婚する。結婚式の場に駆け込んだガルシア・ベルナルは、一歩違いで間に合わなかった…。

 ところがやっぱりヴェルベケは浮かない。ダーシーが豪華クルーズのキップを買ったのも、こうなってみると気に入らない。金目の豪華食器を揃えたのもイヤミに思える。早速持ち前の気性で口論になったヴェルベケは、怒ってダーシーの家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうなると…行き着く先はイケメン男ガルシア・ベルナルの家。

 案の定、堰を切ったようにガルシア・ベルナルと行くところまで行ってしまうヴェルベケ。結婚当夜に早速これだ。ところが女をモノにして気が大きくなったガルシア・ベルナルが、調子こいて「愛は情熱だ!」と決めつけたのがマズかった。何よりこのオンナ、他人から何か押しつけられたり決めつけられるのが何よりもキライなワガママ女。おまけに「情熱」に走ったおかげでイヤという程痛い思いもしている。ようやく事ここに至って、自分が愚かな選択をしたと気づいたんだよね

 慌てて家に帰ったヴェルベケ。思い詰めた表情で迎えるダーシーに、彼女はお構いなしに精一杯しおらしい顔でまくしたてる。「裏切るのはこれが最後!」

 新婚初夜に裏切って「これが最後」もないもんだ。こんなオンナと所帯を持ったひにゃ先が思いやられるどころじゃない。だがヴェルベケはあくまでテメエ勝手な必死の訴え。これにはさすがの「いい人」ダーシーもつき合いきれず、怒り心頭でヴェルベケを叩き出した。

 いいぞ、その調子だ、腐れ外道オンナなど道ばたに叩き出せ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映画を見てから読んで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところがダーシーは、情けない事にその後で泣きの涙。「彼女のいない人生は考えられない」とばかり、銃で自分の脳味噌を吹っ飛ばしてしまう。ただならぬ気配に慌ててヴェルベケが家に戻ってみると、救急車やらパトカーやらが駆けつけているではないか。おまけに刑事とおぼしき連中がウロウロするダーシーの部屋には、壁に血がベットリついている。「とんでもない事をしてしまった…」

 そうだ、そうだ、みんなオマエが悪いんだよ。

 真っ青になったヴェルベケは、またしてもガルシア・ベルナルの元へ舞い戻る。大変な事になった、アタシのせいで夫が自殺してしまった…。

 ところが、今度はそれを聞いたガルシア・ベルナルが真っ青になる番だった。彼は事の重大さにようやく気づいて、ヴェルベケに真相を告白し始めた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは絶対に映画の後で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実は今までの経緯は、すべて仕組まれた事だった。ガルシア・ベルナルは売れない役者で、「フォード」という男に雇われていたのだ。そのオーディションの場には「フォード」の他に、あのトム・ハーディーとチャーリー・コックスのオタク・コンビもいた。彼らは映画をつくるということで、そこにガルシア・ベルナルも出演するという話だった。

 物語はありふれた三角関係。結婚間際のオンナがたまたまキスした相手に恋をして…。

 「フォード」はイケメンのガルシア・ベルナルにすっかり有頂天。スペイン出のオンナなら、ブラジル出のガルシア・ベルナルにひとたまりもあるまい。ラテンの血が黙っていないはずだ…。

 ただしこの映画、台本はまったくない。一切合切をアドリブでビデオに撮る。しかもオンナも彼女の婚約者も、これを芝居とは知らない…。

 それまでは「オイシイ仕事」と乗り気だったガルシア・ベルナルも、話がここに至っては腰が退けざるを得ない。それっていくら何でもマズイんじゃないの? オレが二人の仲を引き裂くわけ?

 それでも先立つモノに困り切っていたガルシア・ベルナルは、こんな「オイシイ話」を断る訳にはいかなかった。結局痛いところを突かれたあげく、「役者」としてこの話に乗った…。

 そんなガルシア・ベルナルの告白に、ヴェルベケは唖然とせざるを得ない。それにまんまと乗せられた自分は、一体何だったのか?

 ところがそんなガルシア・ベルナルのアパートに、あまりのタイミングの良さで話題の男…「フォード」が訪ねて来たではないか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最低限ここからは映画の後で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 この映画って、実は見始めてすぐに単なるラブストーリーではないと気づく。金持ち青年がスペイン女に求婚する冒頭場面から、いきなりただならぬ気配が漂うのだ。チラッと荒れたビデオ映像が割り込んでくる。その違和感に、「アレッ?」と思い始める。

 その後でスペイン女の誘惑者として登場する若い男が、やっぱりビデオカメラを持っているのがミソだ。どうもこいつ怪しいのでは?…と、疑いが出てくる。その一方で、女がスペインでストーキングにあっていた話も出てくる。おまけに先に指摘したビデオ映像が、終始唐突に場面に割り込んでくる。このあたりで、話が二転三転しそうだな…とは思い始めるんだよね。

 案の定、話はアレコレと目まぐるしく展開するが、実は僕が書いた部分でもストーリーのほんの途中まで。この後、お話は「第二部」とでも言うべき新たな段階…インディーズ映画授賞式での騒動…に突入するわけ。このあたりは鮮やかだったよね。

 役者たちも素晴らしくて、まずはガエル・ガルシア・ベルナルがラテンのイケメンである事が第一条件のお話だからね。彼が魅力的でないとどうしようもない。だけど、それがいやらしくなくて…最低限お客の共感も呼べるキャラでないといけない。観客の反感を買わない程度に誘惑者として魅力的…というのは、すごく難題だったと思うよ。それをやり遂げたガルシア・ベルナルって、やっぱり若いのにスゴイ役者だと改めて感心したね

 ひたすら熱くって瞬間湯沸かし器みたいなナタリア・ヴェルベケもハマってたが、「マスター・アンド・コマンダー」で育ちの良さを感じさせたジェームズ・ダーシーが、ここでもいいとこのボンボンらしさを生かして好演。この映画は役者の演技で乗せてダマす映画だから、見事に最後まで見せきったのも彼らのハマり具合のおかげだ。

 実はうまく出来ちゃった映画って、意外に語りようがない。この映画もそんな映画だ。スゴイよ、面白いよと言うしかない。ここに深い人生の意味とかを汲み取りたくはないし、汲み取るべくもないが、この映画はそれでいい。面白いだけで十分だ。

 監督・脚本のマシュー・パークヒルってこの作品が長編デビューだが、なかなかに手慣れたもんだよね。何しろ苦みのある恋愛映画だと思ってみたら二転三転…予想を上回る展開で、近年じゃもっともお得感のある映画かもしれないよ。

 

見た後の付け足し

 ただ…あれよあれよで確かに予想を上回る展開、ビックリとカタルシスのたっぷり味わえる「面白い映画」である事は異存がないが、実は僕はこの映画にそれほど「やられた」って感じがしなかったんだよね

 あの結末を予想出来たか…と言えば、別にそうじゃない。面白くなかったか…と言えば、もちろん面白かった。それにあんなドンデン返しじゃなくて「人間ドラマ」を見せろ…なんて、バカな事も言うつもりはない。むろん面白かった、楽しかった…だからホメるよ。他のみんなにも「見るべし」と言いたい。

 ただ、あれだけ予想外の展開で楽しませてもらいながら…なぜか僕の中には「意外感」がない

 先が読めたわけでない、それどろか最後の最後までわからないままだった、実際にビックリもした…。なのに、見終わった後に「意外感」があまりないのはどうしてだろう?

 それは…ここからは個人的な事になってしまうが、おそらく僕は世の中は「ダマしが付き物」と心のどこかで思っているからではないか。特に人間関係はなおさら。

 僕も今までの人生でいろいろあったし、今さら傷つくこともない。もうそんな年齢でもない。傷つくことならもっと前に山ほどあった。僕を裏切った人間も老若男女問わず星の数ほどいた。尊敬していた人間、親しくしていた人間、信頼していた人間、愛していた人間、守ろうと思った人間…そんな連中が後ろからブッスリ。裏切られた傷ついたと嘆いていた者が、次の瞬間には平気で人を裏切ってくる。そんな事は珍しくも何ともない。

 今はもう、僕はこう思うことにしている。人間関係というものはダマしも「込み」でつき合うものだ…と。

 今さら裏切られただの、ウソをつかれただの、ダマされただのと騒ぎたくない。まして失望も味わいたくない。もう僕はそんな事に疲れたよ。

 それより…多少のダマしは「込み」で考えて、アレコレ目くじら立てない方が自分のストレスにもならない。別に聖人君子になったという訳じゃなくて、ダマしも「アリ」だと思ってムキにならない方が気がラクだ。何となくそんな気分になりつつあるんだよ。清濁併せ呑む…それもまた人生ではないか。

 だから僕はこんな映画ぐらいじゃ、もう驚けないのかもしれないね。

 

 

 

 

 

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