「リディック」

  The Chronicles of Riddick

 (2004/08/23)


  

見る前の予想

 いつの間にか姿を表した映画って感じだよね。こんなSF超大作の話、聞いてなかったからね。予告を見たら、まるで「砂の惑星」みたいな重厚な美術、壮大なスケールの物語くさい

 ところが主役にヴィン・ディーゼル

 ディーゼルが悪いって訳じゃない。むしろ僕は彼が好き。ただ、あの重厚かつ壮大なビジュアルと、いい意味でチンピラなディーゼルがぴったんこ来ない。だってワイルド・スピード」「トリプルXのワルのアンチャンそのものじゃないか。全然キャラ的に変わってないよ。

 実際に映画を見ようと思ったら、何とこの映画って「ピッチブラック」(2000)の続編と言うではないか。知らなかった…というより、「ビッチブラック」そのものを見ていない僕だった。

 果たして面白いんだろうか、この映画って。

 

あらすじ

 宇宙の星々を次々と征服し、支配していく巨大な勢力…それが悪の軍団ネクロモンガーだ。それはロード・マーシャルことコルム・フィオーレなる圧倒的支配者によって率いられ、徐々にその支配域を拡大していく。それでも彼らの飽くことなき支配欲はとどまるところを知らなかった…。

 その頃、ここはUV系星の第6惑星。一面を雪と氷に覆われた惑星の地表を、宇宙船に追われて必死に逃げるレゲエ頭の男が一人。もちろんUVカットのサングラスも忘れないこの男は、逃げて逃げて逃げ回ったあげく狭苦しい谷間へと宇宙船を追い込む。ところがこの男はなかなかのしたたか者で、追いすがる宇宙船の乗組員を一人また一人と血祭りに上げる。あげく船内に入ると、残るたった一人をシメ上げた。追われていた男こそお尋ね者リディックことヴィン・ディーゼル。そして追っていたのは賞金稼ぎのニック・チンランド。もちろんリディックに懸かった莫大な賞金に目がくらみ、ここまで深追いしてしまったわけ。それが間違いだった事は、船内に放り出されたチンランドも痛いほど気づいたはず。

 さて船を掠奪したリディック=ディーゼルは、自分に賞金をかけた相手がいるへリオン第1惑星へと向かった。一体誰が彼をワナにハメようとしたのか…実はリディック=ディーゼル、一つだけ心当たりがあると言えばあった

 さて、そのへリオン第1惑星にたどり着いたリディック=ディーゼルは、かつて知ったるイマムことキース・デビッドの家へと押しかける。実はこのイマム=デビッド、前作の「ピッチブラック」でリディック=ディーゼルが助けた男だった。それなのに、命を助けたオレを売りやがって…。

 ところがイマム=デビッドにもそれなりに言い分があるようだ。さらにリディック=ディーゼルは、前作でイマム=デビッドと一緒に助けた女の子キーラの消息を聞く。ところが彼女はリディック=ディーゼルに憧れ、その後を追って出ていってしまった。あげくお尋ね者になって惑星クリマトリアの牢獄へと繋がれてしまった。これを聞いたリディック=ディーゼルは、柄にもなく胸を痛めずにはいられない。

 さて、リディック=ディーゼルに賞金をかけたのには理由がある。実はそんな彼とイマム=デビッドの前に、一人の人物が現れたのだ。「現れた」というのはまさしく言葉通り。どこからともなく煙のように消えたり現れたりするその人物こそ、どうも宇宙で厳然たる力を持つらしいエアリオンことジュディ・デンチ。彼女がリディック=ディーゼルに告げたのは、奇妙な物語だ。

 実は現在、このへリオン第1惑星の夜空には不気味な彗星が輝いている。そしてこの惑星には、彗星が出る時は、不吉な前兆という言い伝えがある。

 実際、例のネクロモンガーがこの惑星にも魔の手を伸ばそうとしているのは明らかだ。だがその支配者ロード・マーシャル=フィオーレには一つだけ恐れている事がある。かつて予言者にフューリア人に殺される…と告げられた事があり、そのためロード・マーシャル=フィオーレはフューリア人を根絶やしにした。ところがそのフューリア人が、たった一人だけ生き残っていたかもしれないのだ。それが…リディックことヴィン・ディーゼルその人…。

 彼ならネクロモンガーの侵略から惑星を救えるかもしれない。だがそんな事を聞かされても、リディック=ディーゼルは何とも思わない。「あっしには関わりのねえ事でござんす」…などと、どこかで聞いた台詞を吐くばかりだ。

 そんなリディック=ディーゼルは、あちこちの惑星で「お尋ね者」として追われている。ここでもこの星の軍隊に捕らえられそうになるが、アッサリ追っ手を蹴散らかして去っていこうとする。

 ところがそんな最中、この惑星に大事件が起きた。例の彗星と思われたモノは、無数の宇宙船の編隊だった。そいつらが例の悪の軍団、ネクロモンガーであることは言うまでもない。それらが惑星に続々と飛来。大混乱のあげくにこの惑星の軍隊を全滅させ、アッと言う間に惑星全体を制圧してしまう

 そんなパニックの最中に、あのイマム=デビッドもいた。彼は妻と娘を連れて戦禍を逃れようとしたが、そこに立ちはだかったのがネクロモンガーの軍勢だ。絶体絶命と思ったその時…彼に加勢したのはあのリディック=ディーゼルではないか。だがそんなリディック=ディーゼルの奮闘空しく、イマム=デビッドは妻子を守るために命を落とした。これにはリディック=ディーゼルも怒りを禁じ得ない。

 さて惑星を制圧したロード・マーシャル=フィオーレは、人々を集めてご機嫌で一席ブツ。我々は民族を統一したい、オマエらも我々と同じネクロモンガーとなるのだ…。それは首筋に何やら穴を開けて良からぬ事をするらしく、それによって人々は自由を奪われ絶対服従を強いられる

 「冗談じゃない!」と抵抗を叫ぶ者もいるにはいたが、そいつは即座にその場で倒された。これには人々も諦めざるを得ない。ロード・マーシャル=フィオーレの前に人々は次々跪くのだったが…。

 そこにたった一人、跪こうとしない男がいた。リディック=ディーゼルだ。

 そんなリディック=ディーゼルを倒そうとした男も、まるでこの男の敵ではない。何とかコイツを捕らえて宮殿へ連れて行け…とのロード・マーシャル=フィオーレの指令が飛んで、今にも一触即発の雰囲気になるや…。

 「彼は自分から行くわ、ちゃんと頼みさえすれば…」

 何とネクロモンガーの一人の女が、リディック=ディーゼルの前に仁王立ち。するとリディック=ディーゼルも、まんざらでもないように従った。この女はタンディ・ニュートンと言って、ロード・マーシャル=フィオーレの部下の一人、カール・アーバンの妻だ。彼女はなかなかの野心家で、何とか夫アーバンを権力の座に座らせようと画策。それと言うのもこのオンナ、強い男が死ぬほど好きだからだ。自分に強大なパワーを約束してくれる強い男が…。もちろんリディック=ディーゼルもキライではない。そんな妻の馴れ馴れしい態度に、夫アーバンは苦虫噛みつぶしながらもジッと我慢だ。

 さて大人しくネクロモンガーの宮殿に連れて行かれたリディック=ディーゼル。ここで脳味噌の中を探られた彼は、ロード・マーシャル=フィオーレに正体がバレる。そうなれば生かしておく訳にはいかない。だが一瞬早く我に返ったリディック=ディーゼルは、大暴れして宮殿から脱出した。

 ところが一難去ってまた一難…今度は別の連中に捕まってしまう。それは例の氷のUV系星第6惑星で痛い目に合わせたはずの賞金稼ぎチンランドと、彼が新たに集めたその一味だ。

 宇宙船に捕らえられたリディック=ディーゼル。チンランドはご機嫌で、彼をどこの刑務所に売り飛ばして賞金をもらおうかと思案する。そんなチンランドに落語の「饅頭こわい」もどきの問答をけしかけ、まんまと惑星クリマトリアの刑務所へとコースをキメさせるリディック=ディーゼル。言うまでもなく、そこには前述の彼がかつて助けた娘キーラことアレクサ・ダヴァロスが閉じこめられていたのだ。

 だが惑星クリマトリアの過酷な環境は、まさに想像を絶する。この惑星の昼間の部分は700度、夜の部分はマイナス300度という劣悪な条件。そのため刑務所は地下深く潜ったところにあり、脱出は不可能と言われていた。

 果たしてリディック=ディーゼルは、この地獄の刑務所でキーラ=ダヴァロスを見つける事が出来るか? はたまた一体どうやって脱出するのか? そしてネクロモンガーとの対決は、いかなる結末を迎えるのか?

 

見た後での感想

 とにかくこの映画、やたらめったらに展開が早い

 アッという間に主人公リディックが主な舞台となる惑星に到着。サッサと状況説明が行われ、またまたアッという間に惑星が悪漢たちに征服される。ホントに目まぐるしい展開だ。

 それでも脚本・監督のデビッド・トゥーヒーの語り口が明快なせいか、何が何だか分からなくはならない。前作「ピッチブラック」を見ていなくても、まるで問題はない。

 だから本来かなりいろいろ紆余曲折ある大河物語の形式をとろうとしているのだろうが、やけに印象は単純明快だ。そこにヴィン・ディーゼルがいても、まるで抵抗がない。「ワイルド・スピード」「トリプルX」並みのシンプルさだ。

 だから映画を見ている間、退屈しないことは確かだ。結構ハラハラして面白く見たよ。

 ただねぇ…これはいいところでもあるし、いささか痛しかゆしのところもあるんじゃないだろうか?

 つまり両刃の剣というか、デビッド・トゥーヒーが果たしてそんな作品を志向したのかどうか、極めて疑わしいところがあるんだよね。

 この感想文の冒頭にも書いたように、美術やらセットやらといったビジュアルの数々はえらく重厚で壮大。ホントにあの「砂の惑星」あたりを連想しそうな雰囲気がするんだよ。そこにあのジュディ・デンチがさすがの貫禄でデンと仁王立ちしているのもシックリ来る。

 ところがこの文章の冒頭で懸念したように、それらとヴィン・ディーゼルとの落差がやっぱりかなりあるんだよね

 いやいや、彼がこの映画から浮いているという訳ではない。ディーゼルは見事にこの映画を自分のモノにしている。問題はこの映画って壮大っぽい雰囲気にも関わらず、なぜかスケール感が乏しい。どうしてもB級映画の臭いがプンプンしているんだよね。

 本当はそれこそ「砂の惑星」的な大きさを感じさせる物語を構築したかったはずなのに、なぜかそうは見えない。おそらくどこか作者の意図通りにはなってない気がするのだ。

 それはまず、やっぱりヴィン・ディーゼルという役者の個性があるんだろうね。

 別にディーゼルが悪いと言うのではない。むしろ骨身惜しまぬ運動量でアクションを放出してて、見ているこっちの頭が下がるほど。彼の十八番のキャラクターも健在で、人を食ったようなユーモラスなやりとりも笑える。さらにはコワモテで売っている割には悪い奴じゃなくて、妙に人なつっこかったりもするから楽しい。ワルだワルだと自分で言うほど、彼ってワルであったためしがないんだよね。そこがご愛敬だ。

 ただ、ディーゼルが最も生き生きするアクションの場というのは、壮大さとかスケール感とかとは必ずしも結びつくものではないような気がする。そういう壮大さってのは、得てしていささか鈍重なテンポみたいなものを要求するからね。ところがディーゼルはイキの良さが勝負のハジケた役者だ。この映画がヴィン・ディーゼル映画の体裁をとる以上、そんな小気味の良さを犠牲にする訳にはいかないだろう。だから映画は面白く展開はするが、堂々たるスケール感には乏しくなるのかもしれない。

 だが、この映画に「大作感」がイマイチ感じられないのは、そのせいだけではないはずだ。

 それは先にも書いたけど、あの展開のめまぐるしさにあるかもしれないんだよね。語り口に乱れがないし、明快だから物語を見失う事はない。だから見ていて面白い。それはこの映画の美点だ。だが、惜しむらくは堂々たる重々しさみたいなものだけは出せない。チャカチャカとあまりにテンポよく展開し過ぎて、重厚感や壮大さにはどうしても欠けてしまう。つまりは横綱相撲にはなってないと言うことなのだ。

 そして…そうなっちゃうとこれは、あくまでトゥーヒー監督の資質の問題になってくる。

 と、ここまで書いて来て思い出した。僕はこのトゥーヒーの旧作を見ているんだよね。それはチャーリー・シーン主演の「アライバル/侵略者」(1996)。結構面白そうな題材で途中までグイグイ引きつけて、僕はコレって「隠れた傑作かも」って思いかけたんだよね。だけど思いの外お話が広がっていかなくて、結構腰砕けしてショボい結末になってしまった。「大作」めざしていながら途中で息切れ…ってパターンの片鱗を、すでにあの頃から見せていたのか(笑)。

 まぁ、これだけの間口のデカい映画を、混乱なく破綻無く描ききった手腕はスゴイと思うよ。だけど、おそらく「見た目」から明らかにトゥーヒーが狙っているような、重厚で壮大な「超大作」には残念ながらなっていない。お金がかかっているだろうしSFXもスゴイし、セットもリッパだし手を抜いていないにも関わらず…なぜかそれは実現出来てない。おそらくデビッド・トゥーヒーって、その器ではないのかもしれないんだよね。

 こう言っては何だが、映画全体を「大作」イメージで見せようって気持ちは捨てた方がいい気がするよ。

 

見た後の付け足し

 もっとも…これは力説したいんだけど、この映画は決してつまらなくはない。見ている間は面白い。そしてワクワクする。アクションの趣向もあの手この手だし、展開も予想を上回るところがあるからね。

 しかも、SF映画を見る喜びにも溢れている。特に楽しいのが、この映画に出てくるいくつかの惑星の描き分けだ。冒頭の雪と氷の惑星もなかなか見ていてワクワクするが、刑務所がある惑星クリマトリアの描き方など嬉しいではないか。おそらくこれは、常に太陽に向いている面は灼熱地獄、常に夜の部分は極寒地獄…というわが太陽系の水星をモデルにしているのだろうと思うが、そんな奇想天外な環境をちゃんとリアルに絵にしてくれているからね。変な宇宙生物なんか出さなくても、SF映画のセンス・オブ・ワンダーは十分発揮できる。これぞまさに宇宙SFの醍醐味。この惑星のくだりは、かつての天文少年あたりが見るとたまらない場面の連続だよ。僕はこういうのを見たいんだ。

 だから別に重厚で壮大な「大河ドラマ」なんか志向しなくていい。このままでいいから、ぜひこのトゥーヒー監督の手でこのリディックの物語をまだまだシリーズ化して欲しい。もっといろいろ不思議で面白い惑星や、宇宙のセンス・オブ・ワンダーを見たいからね。

 

 

 

 

 

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