「氷の国のノイ」

  Noi Albinoi

 (2004/06/28)


  

見る前の予想

 珍しいアイスランドの映画である。

 それで終わりにしてもいい。それだけで僕は見たくなった。大体珍しい国の映画って見たくなるじゃないか。それも「氷の国」だよ。

 僕は砂漠の映画が大好きなんだよね。砂漠が出てくるというと、どうしても見たくなる。そして砂漠さえ写ってれば満足してしまう(笑)。

 それと同時に、なぜか氷や雪に閉ざされた土地ってのも、妙に惹かれるんだよね。

 それがどれだけ好きかと言えば、僕はドナルド・サザーランドやヴァネッサ・レッドグレーブが出たアリステア・マクリーンの大味アクション「オーロラ殺人事件」だって見に行っちゃったもんね(笑)。そして大いに楽しんだ。誰も知らないし評価もされてないよ、こんな映画。だけど僕は好きだ。

 今までアイスランドの映画と言えば、「春にして君を想う」とか「コールドフィーバー」フリドリック・トール・フリドリクソンの映画しか見た事がない。だから語るに語れないというのが本当のところだが、ハッキリ言って人口もあまりなさそうな国だし、映画産業なんてないに等しいんじゃないか?

 映画の雰囲気を見る前から云々するのも何だが、何となくフィンランドのアキ・カウリスマキに相通じるものがありそうだ。だとしたら、映画の青田買いとして見ておくべきだろう。

 

あらすじ

 高校生のノイ(トーマス・レマルキス)は寒い寒いアイスランドの寒村に住む高校生。だが、寒いのにスキンヘッドの変な奴。おばあちゃん(アンナ・フリズリクスドッティル)と二人暮らし。今日も今日とて朝の目覚めは悪い。どうも学校に行きたがってないらしい。そんな家にタクシーの運チャンをやってるノイの親父(スロストゥル・レオ・グンナルソン)がやって来て、タクシーで学校まで送って行ってやると言い出す。そんなノイの父親におばあちゃんは「たまには父親らしい事をしようってわけ?」と皮肉な目を向ける。どうもこの父親、おばあちゃんにノイの面倒を押しつけているらしい。

 だが、こんなだらしない父親でもいっぱしの事は言う。どうも父親の元に学校から手紙が来たらしい。ノイはあまり学校に行ってないらしいのだ。

 案の定、学校ではノイは問題児扱い。担任も校長も持て余し気味。ノイもノイでテストに名前だけ書いて提出するやる気のなさだ。

 こうしてやって来たのはガソリンスタンド。彼はここに据え付けてあるスロットマシーンをいじくって不正にコインを手に入れ、それでビールをいただくのが日課。あとは狭くて汚い古本屋に寄って、そこのオヤジ(ヒャルディ・ログンヴァルドゥソン)としゃべったりゲームをしたり。

 そんなノイを校長は精神科医に診せる。だがノイはマトモに答えようとしない。ところがほんのわずかのうちにルービック・キューブを完成させて、精神科医を驚かせたりする。

 ノイは天才だった。だからバカバカしくて学校の授業なんか聞けなかったのだ。だが、それがノイを浮き上がらせてもいた。同級生ですら煙たがってしまう。

 そんな時、ノイは自宅の地下室に籠もる。世界と隔絶された地下室で、ようやくノイはくつろげるのだ。

 ある日、ノイは例によってスタンドに立ち寄ると、いつものババアの店員の替わりに若い女の子イリス(エリン・ハンスドッティル)が出てきた。アッという間に虜になってしまうノイ。いつもはビールを持って帰って飲むのに、この日は店で彼女の顔を見ながら飲んだ。

 そんなイリスは、何とあの本屋のオヤジの娘だと言う。オヤジはノイに「娘に手を出すな」と言い渡すが、彼にそんな事を聞く気なんてない。

父親から電話を受ける。何とこの父親、今日は仕事がしたくないからノイに替わりにタクシーを運転してくれ…などと頼み込む。息子も息子だが、そもそも親父からしてどうしようもない。始終飲んだくれてぐうたら。ノイに面と向かって「欲しくもないガキ」などと口走ってしまうデリカシーのなさだ。

 そんなノイは、タクシーの仕事の合間にスタンドに立ち寄る。そしてイリスと親しさを増していくのだった。

 ある夜、ノイはイリスをデートに連れ出す。デートと言ってもこんな村に遊ぶ場所などない。しかも北国の夜は寒い。ノイは村の唯一の施設である博物館に、イリスと共に忍び込んだ。

 博物館の世界地図を見ながら、この村から逃げ出す事を夢想するノイ。そんな彼にイリスも、「一緒に逃げようか?」と持ちかける。それはいい。素晴らしい。どこに逃げようか思いを巡らす二人は、ちょっとした遊び心で行き先をハワイと決めた。

 ところがそこからがマズかった。いつも学校をフケてばかりのノイが、今度はテープレコーダーを席に置いて出席と認めてもらおうなんてフザけた事をやった。これには先生も怒り心頭。何とか止めようとする校長に、自分が辞めるかノイが退学か…と迫るアリサマだ。そうなったらノイを切るより仕方がない。今頃になってショックを受けるノイだが、自業自得。結局退学になったノイは、またまた地下室に籠もるしかない

 親父はそんなノイに仕事を見つけてくるが、これが墓地の墓掘りの仕事。トランシーバーで指示を得て、言われた場所に穴を掘る。だが凍てついた地面に穴など掘れない。ノイはキレる寸前だ。

 そんなノイを心配したおばあちゃんは、知り合いに占いを頼む。だがこの占い師、事もあろうに「死」なんて縁起でもないことを言う。ノイはますますクサるしかない。

 こうなりゃヤケクソ。ノイは村の銀行に銃を持って押しかけ、銀行強盗を実行しようとする。だが行員も客もみんな知り合い。誰もノイなんて怖がらない。あげく銃を奪われて叩き出されてしまう。仕方なくノイは、自分の預金を全額引き出した。

 今度はクルマを盗んだノイは、それでスタンドに乗り付けた。イリスとの約束を果たすのだ。出てきたイリスにノイは叫ぶ。「さぁ、逃げよう!」

 だがイリスは躊躇した。というより、アレは元々本気ではなかったのか。女の言うことなど信用するとは、何とノイは愚かだったのか。仕方なくノイは、一人でスタンドを後にした。

 だがクルマを盗んだノイに、容赦なく追っ手が迫る。パトカーのサイレンが聞こえて来て、ノイの運転するクルマに追いすがる。そのうちクルマは雪にハマってしまい。仕方なくノイは外に飛び出した。彼が間もなく御用になったのは言うまでもない。

 親父が身柄を引き取りにやって来て、やっとこ釈放になったノイ。もはやどん詰まり。どうしようもない。打つ手なし。こうなると、またしてもノイはお約束の地下室に籠もるしかなかった

 しかしここでノイの身に、信じられない事が起きるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 映画はあらゆる意味で予想通りだった。いや、途中まではそうだった。何とも奥歯にモノの挟まった言い方をしなければならないのが歯がゆいが、それはおいおい語っていくことにしよう。

 フリドリック・トール・フリドリクソンの映画のイメージとか、何となくフィンランドのアキ・カウリスマキに相通じるのでは…とか、そういう事前の予想も当たっていた。何しろ映画の冒頭で主人公のノイが窓を開けると、窓に覆い被さるくらいに雪が積もっている。日本でも雪国と言われる土地に住んでいる人から言わせれば、そんな事で驚くなとあざ笑われそうだが、あえて言わせてもらえれば雪って普通そんなに降るものじゃないよ(笑)。それだけで僕なんか、「おおっ」と思っちゃったもんね。やっぱりアイスランドだって(笑)。

 主人公のスキンヘッドの男の子は無口だしヘン。取り巻く人々も、例えばおばあちゃんが何食わぬ顔で銃を窓の外に派手にぶっ放して、なかなかベッドから起きないノイを起こすなどかなりヘン。このへんのオフビートなジワジワ系のユーモアは、アキ・カウリスマキを思わせるものがあるね。こっちの人って、みんなこんなにムッツリしながらケロッとギャグ飛ばすお国柄なんだろうか?

 主人公は浮いてはいるし人の言うことも聞かないが、反抗的なポーズをとるというほどアクティブな言動はしない。そのあたりに不思議なリアリティがあるね。描写そのものも素朴。

 で、これが長編第一作の監督・脚本ダーグル・カウリがうまいのかどうなのか、この映画を見ただけでは分からない。素材の面白さ、半分素人みたいな俳優の持ち味、それより何よりアイスランドという国の風土のせいではないか…と思ってしまう不思議な素朴さなのだ。ホントにこの監督の腕なのか分からない(笑)。

 お話たるや素朴そのものだけど、そうなるしかないという力強さで主人公は追い詰められていく。映画は何ともトボけたユーモアで満たされているけど、ある意味ですごく悲劇的だとも言える。そして土壇場でどうしようもなくなって、これからどうなるんだろうと僕も見つめていたら…。

 これは驚いたよねぇ。

 予想もつかない展開になって、さすがに僕も驚いた。突然の地震でノイ以外の主要人物が残らず死んでしまうとは、まったく考えてなかった。こんな淡々とした展開で、こんな結末を迎えるとは予想もしなかったよ。そういう意味ではうまいと言えるのだろうか。

 だけど考えようによっては、お話はどうにも持って行きようがなくなっていた。ノイもジリ貧だったが、作者だってどん詰まりで手がなくなっていたはず。そのあげくのヤケクソな展開とすれば、ちょっとこれホメられる終わり方ではないかも。

 不思議な味わいはあるのだけど、それが作者の意図したもので「うまさ」であると言えるのか、はたまた偶然にそうなってしまったのか。極めて怪しいのがこの映画って事なんだよね(笑)。

 

見た後の付け足し

 実はねぇ…僕は別に天才でも何でもなかったんだけど、幼い頃にずっと病弱で寝込んでいたせいか、すっかり他の子どもたちとコミュニケーションがとれない奴になっちゃったんだよね。

 子どもの世界は子どもの世界なりに、決して竹を割ったような素直で本音の世界があるわけじゃなくて、大人の世界とはまた違った世渡りや根回しやコネクションってものがあるんだよね。損得勘定とかね。僕が年寄りと同じくらいガキが嫌いなのは、奴らが純真そうな顔をして、本当は結構こすっからい計算してやがるところだね。奴ら普段はネコかぶってるだけだよ。

 そんな子どもなりの社会ってやつに入り込めなくて、僕も相当苦しい思いをしたんだよね。今はこうやってうまく自分をごまかして、社会に順応したような顔をしているが、そうなるまではホントに大変だった。だから、この映画のノイの気持ちが分かる

 ノイが女の子に「一緒に逃げよう」なんて言われて、その気になって退路を断ってまでお膳立てしたら、まるっきり二階に上がってハシゴはずされる…って場面があるけど、そんな事なんか僕は何度も何度もイヤってほど経験したからね。そして他人はアテにならない、平気で自分の言った事を翻す…ってことを骨身に浸みて覚えた。今でも他人はこれっぽっちも信用してないよ。

 だから自分を残して村の知り合い全滅ってエンディング、僕には決して悲劇に思えなかった。正直に言うと、むしろハッピーエンドに見えちゃったんだけど、これって性格歪んでるんだろうか?

 

 

 

 

 

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