「花嫁はギャングスター」

  My Wife Is a Gangster

 (2004/05/24)


  

一組の男女が築く「ゲッタウェイ」な幸せ

 みなさんはゲッタウェイという映画をご覧になった事があるだろうか?

 いや、アレック・ボールドウィンとキム・ベイシンガーが出ている方じゃないよ。アレはリメイク版。僕が話題にしたいのは、スティーブ・マックイーンとアリ・マックグロー主演によるオリジナル版のこと。何とこれってサム・ペキンパー監督の作品なんだよね。1974年の春は、この作品と「ポセイドン・アドベンチャー」が日本の洋画の話題を独占していた。ペキンパー監督作品でも一番ヒットした映画じゃないか。

 この映画は何度見ても味わい深いが、それはいわゆるペキンパーのヴァイオレンス美学とやらの見せ場によるものではない。マックイーンのカッコよさによるものでもない。それは言わば、マックイーンとマックグローの両スターによって演じられる中年夫婦の哀歓による味わいだ。

 映画の冒頭では夫マックイーンは服役中。それを何とか恋女房マックグローが、四方八方手を尽くして出られるように取り計らう。実はマックイーンは銀行強盗をやらかす計画を抱えていたのだ。

 計画通り銀行は襲えたものの、裏切りや予想外の事態が起こる。マックイーン=マックグロー夫婦は奪ったカネを持ったまま逃走を続けるが、その途中マックイーンは知ってしまうのだ。

 女房マックグローがお巡りと寝たことを…。

 この映画のこのくだりの事は、思い出深い場面なので当サイトの「Time Machine」スティーブ・マックイーンの巻でも取り上げたから、覚えていらっしゃる方もいるかもしれない。僕にとって「ゲッタウェイ」という映画は、アレがすべてなわけ。

 女房が寝たのも亭主を何とか刑務所から出したいがためだった訳だが、そんな事知っててもマックイーンは黙っていられない。いきなりクルマ止めて女房を引きずり下ろすと、思いっきり頬っぺたひっぱたく。殴りに殴る。この場面は子供心にも印象に残った。

 結局その後も夫婦で逃避行を続けるマックイーン=マックグロー。最初はもう自分たちは終わりだ…と別れる事に決めていたマックイーンだが、ゴミと一緒にモミクチャになったりしながらの逃亡の果て、いつしか女房マックグローを許している。いや、許したんじゃないな。そうじゃなくて…もうこいつとじゃないとダメだ、こいつとやってくしかないんだ…という、やむにやまれぬ関係とでも言うべきか。

 実はここらあたり、最初に見た中学生の時には何だかよく分からなかった。だけど妙に印象に残っているんだよね。腹も立てたしもうダメだとまで思いつつも、やっぱりこいつとやってくしかない…と思い直していくあたり、理屈では割り切れない男女の感情の機微とでも言おうか、不思議なリアリティーが漂っていたわけ。

 そんな男女の感情の機微は、だいぶ年数を経た後で、自分で実感として知る事となった。

 僕は結婚した訳ではない。だから夫婦が長年一緒に暮らして、共に培っていくような感情や空気みたいなものを知らない。だが、そんな中でも稀に深く付き合う事になった女がいた。実はその女と一緒になるような話もホンの一時ほどあったのだが、それはまた別の話だ。

 だが、その女にはトコトン手を焼かされたんだよねぇ。

 何だか訳の分からない理屈でさんざ振り回された。僕としては全く納得出来ないのだけれど、とにかく相手ペースで万事運ばされた。言ってる事も何だかツジツマが合わない。時にはあまりに理不尽なので、正直言って怒った事もあったよ。

 だが、何となく続いてしまった。

 その時たぶん僕は思っていたんだろう。やむにやまれぬような思いで、こいつとやっていくしかないんだ…と。その時の僕の気持ちは、おそらくそんなものだったと思うんだよね。

 そしてつき合いが深まるごとに、お互いだけの間の決まり事というか、しきたりというかクセや習慣が出来ていく。それは自分のモノでもない、相手のモノでもない。お互いの間で自然と生まれて来た約束事だ。この二人の間だけに敷かれたレールというか、自分たちのいる空間だけに漂う空気みたいなものだ。他の連中からはおかしいと思えるかもしれない。変に見えるかもしれない。だけど僕らの間なら「アリ」だ。男女の間に醸し出されてくる雰囲気って、二人の歴史によって育まれる独特なモノなんだろうね。だから他人がとやかく言えるものじゃない。

 実は僕ってそれまでは、そこまで女に気を許した事がなかった。だから、それって初めて味わう感覚だったわけなんだよね。

 で、そんな諸々の二人の間に築かれていったモノがあったからこそ、僕は「こいつとやっていくしかないんだ」…などと思ったんだと思うよ。それはいいとか悪いとかと言う問題じゃない。その頃には相手の言ってる事がいいかげんだったりウソだったりって事はバレバレだったけど、それでも僕は「仕方ない」と思っていたんだよね。

 ただ唯一の誤算は…残念な事に当の相手は、この関係を「仕方ない」とは思っていなかったって事だ(笑)。

 ま、それから起きた事は語るに落ちる話だ。それでも僕はあの時の事を思い出すと「ゲッタウェイ」夫婦の事を連想せざるを得ない。

 一組の男女というものは、他の誰にも理解出来ないし口の挟めない世界を共有しているもんだってね。

 

伝説の「あの女」が花嫁になる時

 「伝説ってのはな、なかなか作れるもんじゃねえ」

 ヤクザのアン・ジェモは、新入りキム・イングォンを従えて組の事務所へと向かうところ。彼が新入りキム・イングォンに語ろうとしているのは、組を率いる「親分」に関する伝説だ。

 それはある雨の晩のことだった。

 兄貴分のシム・ウォンチョルが頭をカチ割られ、周囲には敵がウヨウヨ。そこで孤立したアン・ジェモは、いまや絶体絶命の危機だった。そこに…一本のシザーナイフが飛んでくる。

 そこには、ショートヘアの一人の若い女がいた!

 予想外の援軍の登場に、どよめく敵の軍勢。本来ならばたったの一人、しかもうら若い女…とあって、たちまち組み伏せられる相手と思われたものの…。

 この女シン・ウンギョンがやたらめったら強い!

 ひどく敏捷でタフ、おまけに冷静この上なし。次から次へと屈強な男たちを倒していくからスゴイ。こうしてシン・ウンギョン一人が倒した相手が、なんと驚くなかれ50人。この1対50の戦いは、裏社会では「伝説」となった。もちろんその主人公たるシン・ウンギョンも、伝説の人となったのは言うまでもない。

 そのシン・ウンギョンが、この組のボスだ。

 そうとは知らぬマヌケな新入りキム・イングォンが、シン・ウンギョンを「電話番のアマ」呼ばわりして周囲を凍り付かせる一幕もあったが、ともかくこの新入りは組の一員となった。

 そんな女組長シン・ウンギョンが、現在気にしている事がただ一つ。幼い頃に孤児院で生き別れた、たった一人の肉親である姉の行方だ。それも子分たちの尽力でようやく分かった。シン・ウンギョンが取るモノも取らず慌てて駆けつけてみると…。

 姉イ・ウンギョンは病院にいた。

 しかも彼女は病に倒れ、余命幾ばくもないと言う。再会叶って喜び合う間もなく愕然とするシン・ウンギョン。だが手下を使って医師たちをドツキまくっても、治らないものは治らない。ヤクザの大親分でも出来ない事はあるのだ。

 それでも久々の再会は嬉しい。実直に生きてきたらしい姉イ・ウンギョンには本当の身分を明かす訳にもいかず、シン・ウンギョンは堅気の女のフリをする。そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、姉イ・ウンギョンは妹に一つ頼み事をした。それは、シン・ウンギョンにとって考えてもみなかった事だった。

 「私が生きているうちに、あなたの花嫁姿を見せて

 早速シン・ウンギョンは、手下たちにいつものようにアッサリと指示を出した。オレは結婚するからな、相手を見つけてこい!

 仕方なくアン・ジェモや新入りキム・イングォンは、結婚相談所を脅しまくって段取りを付けようとする。その一方で怪しげな「コーチ」の女を連れてきて、シン・ウンギョンに化粧や服や「女らしさ」のアドバイスをする。こうなるとその方面はからっきし無知なシン・ウンギョンは、不本意ながら女の言う事を聞かざるを得ない。言った事もない甘い鼻にかかった声で、ない胸を揺すりながら迫るというテイタラクだ。

 こうして何とかセッティングした見合いの席。結婚相談所の担当者もビビりまくり。肝心のシン・ウンギョンももっこりした髪型から真っ赤な服、ケバい化粧とどこをとっても似合わない。おまけに口のきき方がそもそもどうしようもない。相手の男もその家族も、アッという間に逃げ出すというテイタラクだ。苦心惨憺したものの、まったくの無駄骨に終わる。

 そんな帰り道のこと、たまたまヤボ用でクルマにはシン・ウンギョンただ一人。車内でタバコをスパスパ吸っていた彼女に、男たちがクルマで通りかかって言いがかりをつけた。「ケッ、タバコふかしてるんじゃねえよアマ!」

 これにシン・ウンギョンは案の定カチンと来た。彼女はクルマを暴走させると男たちのクルマに激突。降りてきた連中相手に大立ち回りだ。なりはケバケバながらそこはそれ無敵のシン・ウンギョン。多勢に無勢でもまるでひるむ事はなかったのだが…。

 「やめなさい。女一人に男が大勢なんて!

 何と、風采がパッとしない男がシン・ウンギョンを守ろうと立ちはだかるではないか。彼女にとっては余計な手出しなのだが、この男パク・サンミョンは大まじめ。本来は気弱な男なのだが、いささか無謀な正義感を発揮する時もあるのだ。そんなこんなで「か弱いお嬢さん」を守るつもりのパク・サンミョンだが、その頭にシン・ウンギョンが投げたブロックが命中! さすがの彼もその場で気絶するという一幕となった。

 病院で意識を取り戻したパク・サンミョン。彼は生まれつきの石頭が幸いして、ケガは大した事がなかった。そんな彼に、シン・ウンギョンの夫として白羽の矢が立とうとは…。

 好都合と言ったらいいのか、このパク・サンミョンは見合いを何十回も重ねながらことごとく失敗。人が良くてマジメな公務員である事だけが取り柄のマヌケ男だった。ならば話は早い。ハッキリ言ってシン・ウンギョンは、結婚できれば誰でも良かったのだ。

 と、いうわけで、早速お見合いが行われた。今度は相手のパク・サンミョンがニブイせいもあって順調。何と彼はまんまとシン・ウンギョンに、永遠の愛を捧げる事を誓ってしまうのだ。

 かくなる上はすぐに結婚だ。

 シン・ウンギョンは清楚な花嫁衣装に身を包むが、肩が大胆に出たドレスでは背中の彫り物がモロ見えになってしまう。そこを何とかトクホンやサロンパスをベタベタ貼って乗り切るなど、この結婚早くもかなり無理が見えている。だが、ニブい男パク・サンミョンは気づかない。

 しかも、最近シン・ウンギョンたちの組の縄張りを荒らしている白ザメ組組長チャン・セジンが、この結婚話を嗅ぎつけた。そこで何とかジャマしてやろうと、若い者を結婚式場の教会に送り込んだからたまらない。厳粛な結婚式が行われている最中での、後方の席での大立ち回り。そこを何とか、結婚式余興の「スタント・ショー」だと言いくるめるあたりの苦しさ。

 ともかく二人は新婚旅行へと旅だった。

 旅館に落ち着いた二人、相変わらずトンチンカンなやりとりをしている二人だが、突然新郎パク・サンミョンがベッドでイソイソし始める様子を見るや、巡りの悪いシン・ウンギョンもようやく「しなければならない」事に思い当たった。そこまでは考えてなかったシン・ウンギョンは大慌て。何とかかんとかパク・サンミョンを酒でつぶしてごまかして、その夜は事なきを得るシン・ウンギョンだった。

 そんな折りもおり、ちょうど旅行に出ていた大親分ミョン・ゲナムが帰って来る。そしてひょんな事からシン・ウンギョンの結婚を知って、大親分はキツい一言を放つ。「これだから女はダメなんだ!」

 さすがのシン・ウンギョンも大親分には何も言えない。珍しくヤケ酒で荒れたシン・ウンギョンは、泥酔してわが家に帰って来た。

 そんな彼女を介抱しながら、隙あらば…とベッドで迫る「夫」パク・サンミョン。だがシン・ウンギョンにそんな事を許す隙などあろうはずもない。見事に蹴り飛ばされて、夜のお勤めを拒否されてしまう。いつの間にか家事も何もかも自分の仕事になってしまったパク・サンミョンは、さすがにこりゃ何かヘンだと気づかずにはいられない。

 それでもシン・ウンギョンの姉イ・ウンギョンは、妹の幸せを祈っていた。そして彼女に再びの願いを告げる。「子どもをつくって!」

 さぁ、今度は妊娠だ。思わぬ展開に、シン・ウンギョンは例の「コーチ」の女を再度呼んで来て、男心の燃え立たせ方を伝授してもらうハメになる。

 だが元々実践が伴わないシン・ウンギョンには、何のことやらチンプンカンプンだ。パク・サンミョンもキツネにつままれた様子。もどかしくなったシン・ウンギョンは、いきなりベッドにパク・サンミョンを押し倒して事を成してしまった。結局ここでも彼女のマイペース。

 しかも妊娠するまでは何としても事を続けなくてはいけない。かくしてあちらこちらで何度も何度も強引にシン・ウンギョンに迫られるパク・サンミョン。何だか幸せなんだか不幸せなんだかよく分からない毎日。

 そんな奮闘の甲斐あって、シン・ウンギョンは妊娠。だが、好事魔多し。帰宅したパク・サンミョンが、シャワーから上がったシン・ウンギョンの背中の彫り物を見てしまう…。

 オレをダマした事はいい、他の事も許そう、だがヤクザだけはダメだ

 そんなパク・サンミョンに、せめてあと数ヶ月だけ…とだけ頼むシン・ウンギョン。彼女は夫に妊娠の事実を告げなかった。

 そんなある日、姉イ・ウンギョンの容態が急変した

 急激に悪化し虫の息の姉イ・ウンギョン。慌てて病院に駆けつけたシン・ウンギョンに向かって、姉は諭すようにつぶやいた。「ダンナさんを大切にして。誰もいない人生は寂しいよ

 それが姉イ・ウンギョンのこの世で最後の言葉だった…。

 この言葉が、シン・ウンギョンの心に染み渡ったのだろうか。彼女は初めて夫パク・サンミョンと親しく向き合った。考えてみれば、姉はたった一人の肉親。その姉が亡くなった今は、彼女にとっての身内は誰が何と言おうとこの夫ただ一人になるのだ

 だがそんなシン・ウンギョンの思いをよそに、例の白ザメ組の一味が暗躍を始めていた…。

 

思った通りサイコーに楽しい映画

 この映画の事を知ったとき、こりゃきっとサイコーの映画になるんじゃないかと思ったんだよね。何となく予感で。

 出てる役者も監督も知らない人だけど、面白くなりそうな要素がいっぱい詰まってる気がする。劇場で予告編を見て、ヒロインのどこか涼しげな風貌を見たら、もう僕はこの映画の成功を信じて疑わなかった。今やノリノリの韓国映画だから、これもきっと面白いに違いない。久々に僕は思いっきり期待して映画館に初日に出かけて行ったわけ。そしたら第一回上映は菊川玲の吹き替えによる日本語版だと言う。僕は菊川玲がキライなんで、二回目まで待たなきゃならなかった。それでも待った甲斐はあったよ。

 やっぱり面白い!

 やっぱりヤクザの女親分が結婚しなくてはならない…というバカバカしい設定が笑える。この映画はそれに尽きる。実はことさらにギャグが冴えてるという訳でもなく、ただただ設定のワン・アイディアが優れているだけ。にも関わらずこれだけ楽しめるというのは、基本設定が揺るぎないほど卓抜した発想だからなんだよね。

 で、それを補強すべくキャラや設定が決められているのだが、それらがことごとくキマってる。

 まずはヒロインのシン・ウンギョンが素晴らしい。女極道と言ってもケバかったり妙にコワモテにせず、ボーイッシュな短髪でどこか清潔感すら感じられる。この人物設定がピタリと決まった。だから僕らは彼女に魅力を感じるし、共感すらおぼえる。そんな「清潔感溢れるヤクザ」の彼女が、女らしくしようとするとケバくなるオカシサ。この映画の成功の最大の理由は、この女優さんのキャラによるところが大きいと思うよ。

 彼女の清潔な雰囲気がヤクザとしてのストイシズムにも見えるし、性根の一途さにも感じられる。ヤクザはヤクザでも、手下の男どもにまで慕われる人柄まで感じさせる。生き別れになっていた姉の言う事なら、どんな無理でも聞いてやろうとするあたりも頷ける。逆にそんな彼女が、柄にもなくベタベタと「女らしく」ならねばならないあたりが笑わせもする。何とも巧みな設定なんだよね。

 そして香港からアクション監督を連れてきたという猛烈アクションも見モノだ。クリーンなイメージの彼女がシャープにアクションを決めるたびに、爽やかな雰囲気さえ漂ってくる。このシン・ウンギョンって女優さんは、その外見も演技もアクションもとっても好感が持てるんだよね。

 それまで何をやっていたかは僕は知らない。テレビ女優だったとか、何と日本のホラー映画「うずまき」に出ていた(?)とかパンフには書いてあるけど、僕にとってはまったくのニュー・カマーだ。でも、印象は今回何とも鮮烈だよね。

 で、もっと楽しいのが彼女の夫になるパク・サンミョン。一見して分かる、何ともパッとしない男。案の定、ヒロインと結婚してからは振り回されるだけ振り回されてメロメロ。人がいいだけの愚鈍な男…ってのがここでの彼の役どころだが、注目したいのはこの男が単にお人好しのマヌケには設定されてないところ。まだヒロインと出会う前の病院での場面を思い起こして欲しい。そこで彼は身の程知らずにも、ヤクザにタバコを吸うなと注意しているんだよね。もちろんここではそんな「身の程知らず」ぶりを笑うために設定されてはいる。だがこの後もヤクザ者に絡まれているヒロインを助けよう(?)としたり、この男は終始一貫して相手にひるむことなく正義感を露わにしている事を覚えておいて欲しい。この「妙に一本気な大胆さ」という一点があるからこそ、単にコワモテ女と結婚した間抜け男ってお話から、映画は一歩も二歩も抜け出した作品に仕上がっていると思うんだよね。

 脇のヤクザ連中も個性派が揃っていて楽しい。これが第一作(またしても!)のチョ・ジンギュ監督と脚本のキム・ムンソンは、もうこれだけでも十分お手柄だ。

 ハッキリ言ってこの文章読んでも映画の楽しさは伝わらないと思う。僕も書いていてもどかしいだけだ。とにかく実物の映画を見ていただきたい。話はそれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バカバカしくも切実な男女のリアリティ

 実は前述したようなシチュエーション・コメディとしてだけでも、この映画十分楽しくてお釣りが来る。もう見ていてすごくご機嫌な気分になったもんね。

 だが僕が一番気に入ったのは、この映画のエンディングだ。

 手下を殺された女親分シン・ウンギョンは、敵の本拠に殴り込む。実はここに至る前に、普通の奥さんとしての幸せを掴んでみようかと、ちょっと試みてはみた彼女。だけど手下がやられたとあっては仇をとらずにはいられない。シン・ウンギョンはそんな事とはツユ知らずウキウキと自宅へ戻る夫の姿を遠目に見ながら、心の中で彼に謝りながらも敵地に乗り込むわけ。

 ところがこれが罠だった事は言うまでもない。シン・ウンギョンは敵・白ザメ組の面々に袋叩きの目にあってしまう。「キル・ビル」のユマ・サーマンじゃないが、お腹に宿っていた子どもも流産してしまう。彼女の危機を知って病院に駆けつけた夫パク・サンミョンは、そこで始めて妊娠の事実を知るんだよね。

 するとこの男、いきなりマジギレ! 彼女の仇を討とうと単身敵のフトコロに飛び込むのだ!

 まぁ、それはそれで笑いどころに設定されてはいるのだが、それでもこの気弱な男がたった一人で、妻と子どもの仇をとろうと殴り込むあたりはちょっと泣かせる。

 結果は偶然が味方したものの、何と敵を全滅に追い込むという大戦果。これには嬉しくなって拍手したくなった。だが、もっと嬉しいのはその後だ。

 冒頭の場面をそのままなぞるように、新入りだったキム・イングォンが今度はバリッとした服装の兄貴分になって、別の新入りにいろいろ教えてやっている。そこでの話題は、あのお人好し夫パク・サンミョンによる白ザメ組壊滅の一件だ。

 「伝説ってのはな、なかなか作れるもんじゃねえ」

 いや〜、このオープニングのリフレインが嬉しいじゃないか。そこではてんで冴えなかった新入りキム・イングォンが、リッパに一人前になった事まで描かれている。伏線をちゃんと張ってる脚本の見事さを感じるよね。しかし何より嬉しくなるのは、あの愚鈍男パク・サンミョンが新たな「伝説の男」になっちゃってる事だ。

 続いて出てくるのは、シン・ウンギョンの組が敵対する組と果たし合いの場面。何と夫パク・サンミョンからシザーナイフを受け取った妻シン・サンギョンが、雄叫びを上げて突っ込んでいくところで幕となる。このエンディングにはすごく嬉しくなった。単に面白いだけでなく、見て良かったなと思っちゃったよ。

 「婦唱夫随」(笑)って言うのか何と言うのか、ともかくこのお二人はお互いの落ち着きどころを得た…とでも言えばいいのだろうかね。

 嫁さんがやりたいようにやって夫が振り回される一方というのは、やっぱり無理があるだろう。だから夫パク・サンミョンが妻シン・サンギョンに異議申し立てしたのは、当たり前と言えば当たり前だ。

 その後亡き姉の遺した最後の言葉「一人は寂しいよ」…が相当にこたえたのか、シン・サンギョンは今度堅気の奥さんになろうと試みてはみる。だが、今さら彼女から極道を取ることなど出来やしない。彼女の極道な面に完全にフタをしようというのは、ハッキリ言って現実味がない話だろう。でも、夫は気弱で無害な男…ってポジションのままで、夫婦がバランスをとれるわけもない。

 それが、妻の危機…という事態を迎えて、いきなり夫パク・サンミョンがマジギレ。それまで隠されていた「妙に一本気な大胆さ」が完全発揮されてしまう。

 元々が厚い義侠心で手下を守ろうとするシン・サンギョンのこと、そんな夫の思いの丈をブチまけるような敵討ちは、さすがに心に浸みたに違いない。

 もちろん映画はそんな事をまったく描かないし、夫が渡すシザーナイフを無言で受け取る妻…というラストシーンも、意味ありげな眼差しを交わすなどの過剰な感情表現を全く加えずに、極めてクールに処理されている。だからドライに笑えるし、何とも「粋」だ。だが語らずとも、そこにはちゃんとすべてが無言のうちに語られている。彼らはやっと、自分たちが落ち着くべきところを見つけたって事が描かれているんだよね。

 この映画は、ナンセンスな笑いと猛烈アクション、そして何より卓抜したアイディアで楽しませる作品だ。だがその一方で、一組の男女がどうやってお互いの落ち着きどころを見つけていくか…という、一つの例え話にもなっている。そこが見事だと思うよ。そして、だからこそ単にナンセンスなコメディ以上のモノになり得ている。

 夫婦になるかならないかは別にして、どんな男女でもある程度つき合ううちには、大なり小なりこの映画の極道妻・お人好し夫みたいなところをくぐってきているものだ。一方的に女の価値観ではやっていけない。だが男の言い分だけでもうまくいかない。結局はお互いの間で宙ぶらりんになりながら「その男女」ならではのルールを一からつくらざるを得ないんだよね。それは他の男女には当てはまらないし、世間とも違ったものかもしれない。ハタからみたらコッケイだったりヘンだったりするかもしれないが、どこの誰にもとやかく言えるものではないのだ。「その男女」が良ければそれでいい。

 僕は残念ながらそれを完璧にはつくれなかったけれど、いつかはそういう時も来るだろうと思って心配はしていない。それに近い部分は味わえたしね。いろいろ大変ではあったけど、そんな「二人」だけの空気みたいなものをつくっていく過程は楽しかったよ。だから、またいつか誰かと味わいたいと思ってる。

 それこそがこの映画の極道妻・お人好し夫が手に入れた、男女の幸せってもんだろうからね。

 

 

 

 

 to : Review 2004

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME