「純愛中毒」

  Addicted

 (2004/05/17)


  

見る前の予想

 この映画の事は、だいぶ前から知っていた。そして評判になっていて面白いらしいとも聞いていた。ヒロインのイ・ミヨンも何本か主演作を見ていたし、これはちょっと見てみたいかな。

 ところが実際に作品が上陸してみると、いささか売り方が予想とは違っていたのに驚いた。イ・ミヨンなんてまったく無視。映画の売りの焦点は、あくまで若い主役イ・ビョンホンに絞られていたのだ。

 僕は知らなかったが、イ・ビョンホンって何とかいうテレビドラマの主役らしい。で、昨今の韓国テレビドラマ・ブームに乗って、この映画でも宣伝でイ・ビョンホンを前面に出そうという事になったようだ。

 だけどこう言っちゃ何だかアレって気持ち悪いよねぇ。あのいきなりの韓国テレビドラマ・ブームってのもさ。好きな人には申し訳ないんだけど、昔から韓国映画を見てきた身としてはかなり抵抗がある。「冬のソナタ」だかヨン様だか知らないが、こっちの気持ちは正直言ってかなり複雑だ。これでいいんだろうか?…もちろん、商売としてはこれでいいのだ。

 だからポスターもハッキリその狙いで作られている。使われている写真は韓国本国と同じモノ。女優イ・ミヨンが問題のイ・ビョンホンを胸に抱きしめる絵柄。イ・ビョンホンはカメラ目線…という例のやつだ。

 ところが同じ写真でも、韓国と日本では扱い方が微妙に違う。写真全体を上に移動させ、イ・ミヨンの顔を眉毛あたりでトリミングしてしまっている。これでは彼女の顔は「それ」と認識出来ない。変わってイ・ビョンホンの「僕って切ないの」的な健気な捨て犬目線が中心にドカンと来る。韓国ポスターは主役二人をほぼ対等に扱っているのに対し、日本のそれはイ・ビョンホン主演と他一名という扱いだ。何とも物欲しげなポスターなんだよね。

 これが図に当たった。

 映画館は異例の超満員。1時間前に整理番号を手に入れたのに、結構後ろの方だった。開場時間に行ってみると、劇場前はオバチャン、おねえちゃん、メスガキどもで埋め尽くされてる。そこにポツリポツリと顔を覗かせている男と言えば、彼女に連れられて観念している男とか、明らかに当惑しきっている韓国映画ファン。女とくればお喋り…である事は如何ともし難い。そこで入場を待つ劇場の前は、大声でも上げないと聞こえない程の騒音が巻き起こる事になった。しかもこいつらときたら場違いな僕や別の男たちに視線を送ると、「何でここにこんなオヤジがいるの?」とばかり睨み付ける失礼ぶり。ハッキリ言って僕は来た事を後悔したよ。そしてポスター写真のイ・ビョンホンの、訴えるような捨て犬目線にもイラついた。オトコがそんな目でオレを見るんじゃねえええ(笑)!

 「スクール・オブ・ロック」でも見ればよかった。見る直前の僕のキレる寸前の心境ってのは、正直言ってそんなところ。

 

あらすじ

 現代創作家具職人のイ・オルとその弟のイ・ビョンホンの兄弟は、子どもの頃から仲の良い兄弟だった。兄のイ・オルがイベント・プロデューサーのイ・ミヨンと結婚してからも、その仲は変わらない。イ・オルとイ・ミヨン夫婦の家に、弟イ・ビョンホンはいつまでも居候して暮らしているほどだ。イ・オルと妻イ・ミヨンの仲もすこぶる良好で、結婚記念日には家で家具をつくっているイ・オルが手料理をつくり、雨が降り出したとなれば駅までカサをさして迎えに行く。

 雨の日は、二人の思い出の日を連想させる…。

 こうして新婚当時の熱い思いのまま、家路に就く二人。そんな二人のアツアツぶりには、弟イ・ビョンホンもタジタジとなるばかり。何しろ朝起きたらイ・ミヨンの歯ブラシに歯磨き粉まで付けてある至れり尽くせりぶり。ステキなペンダントまで手作りでプレゼントだ。

 そんなイ・ビョンホンはクルマに夢中で、事故を心配する兄イ・オルの思いをよそにレースに出場。兄としては自分と同じ家具で身を立てて欲しいと考えているのだが、イ・ビョンホンにはそんな人生設計はないようだ。しかも彼は恋人もいないと言う。恋人をつくったら?…という兄嫁イ・ミヨンの言葉にも、笑ってごまかすイ・ビョンホンだった。

 ところがイ・オル手作りのペンダントのクサリが切れた。それは果たして不吉の前兆だったのか…。イ・オルは後で直す…と、そのクサリが切れたペンダントをしまい込んだのだが…。

 さて、その日はイ・ビョンホンが満を持して出場するレースの日。イ・オルはレースに反対はしていたが、弟の晴れの日とあって慌てて出かける。すでに遅刻気味だったため、イ・オルは運チャンに「飛ばしてくれ!」と頼んだ。

 レース場ではイ・ビョンホンが苦しいレース展開に、いささか無理な飛ばしっぷりを見せていた。そんな彼を応援する女友達のパク・ソニョン。何だイ・ビョンホン、こんな女がチャッカリいるんじゃないか…という事はさておき、悪条件の中で一台また一台…着々と順位を上げていくのだったが…。

 一方、イ・オルが乗ったタクシーの方も、レース場めざして無茶な走りを見せていた。少々不安を感じずにはいられないイ・オル。

 不安は的中した!

 レース場ではイ・ビョンホンが、路上ではイ・オルが、ほぼ同時に事故に巻き込まれた。大破したタクシーの中に、血塗れで倒れているイ・オル。

 それから長い時が流れて…。

 病院で意識もなく横たわる男の姿。ただただ懇々と眠り続ける男。そんな男を見ながら、遺志たちが無責任な会話を交わしている。珍しい事もあるもんだ、兄と弟が同時に事故に遭い、帰らぬ人になるとは…。だがその時医師たちは、横たわる男のまぶたが多少震えたのを見逃してしまった…。

 その男は、ある日突然目覚めた。フラフラと病室を出ていく男。彼は鏡に映る自分の姿をしげしげと見ると、次の瞬間には失神して倒れた。

 それは弟のイ・ビョンホンだった。

 だがそれだけではない。何と意識を取り戻したイ・ビョンホン、自分は兄のイ・オルだ…と主張する。医師に言わせれば意識の混濁で錯乱しているだけ…との事だが、兄嫁イ・ミヨンの心は乱れる。

 早速、イ・ビョンホンを自宅に連れ帰るイ・ミヨンだが、彼の表情は何ともうつろ。すぐに疲れ切って懇々と眠り込んでしまう。

 そんなイ・ビョンホンを、女友達パク・ソニョンが訪ねてくる。意識を取り戻したと喜び勇んでやって来た彼女だが、イ・ビョンホンは何ともニブイ反応しか見せない。彼はあくまで兄のイ・オルだというのだろうか?

 その頃、イ・ミヨンも異変に気づき始めていた。

 毎朝洗面所の自分の歯ブラシに歯磨き粉が付けてある。イ・ビョンホン以外、誰がこんな事をするのだ? そんな彼の庭に水を撒く姿が、まるでかつての夫の姿そっくりに見えてくる。

 さらに手料理をつくっているイ・ビョンホンに、女友達のパク・ソニョンもビックリ。「今まで料理なんて作った事あった?」

 調子に乗ったイ・ビョンホンは何と家具づくりにもチャレンジするが、これは手の勘が戻らない…とかでケガを負ってしまう。ともかく、好みやら言動が180度変わってしまったイ・ビョンホン。それは、まさに兄イ・オルそのものと言いたくなるほどだった。

 そんなイ・ビョンホンに、女友達のパク・ソニョンはクギを刺すように言った。今でも意識不明の夫イ・オルを見舞い続ける、イ・ミヨンの気持ちになってみて!

 激しい衝撃を受けるイ・ビョンホン。兄イ・オルはまだ死んではいなかった!

 確かに兄イ・オルは生きてはいた。ただし生命維持装置で生かされた状態で、ただ心臓を動かすだけの存在。そんな兄イ・オルを看病し続けるイ・ミヨンが、イ・ビョンホンには不憫でならなかった。

 しかしその後も、イ・ビョンホンは自らがイ・オルであると主張し続けた。「あの日」…クサリが切れてしまったペンダントを、ちゃんと修理してイ・ミヨンの首に下げてもくれた。これはグラつき始めたイ・ミヨンの心にとって、かなりの決定打になりそうだった。

 そんなイ・ミヨンの動揺を目の当たりにして、パク・ソニョンは重大な提案をした。しばらくイ・ビョンホンとイ・ミヨンは距離を置いて離れた方がいい。それにはイ・ビョンホンがパク・ソニョンの知り合いの牧場へ行って、野良仕事でもやってみたらどうか? さすがにこのままでは危ない…と自らの動揺を悟ったイ・ミヨンはこの提案を受け入れ、イ・ビョンホンも渋々従うのだった。

 だがイ・ビョンホンは黙々と野良仕事をこなすばかり。女友達パク・ソニョンにはあくまでつれない。そんなこんなの日々が続いた後のある夜…。

 曇天にポツリポツリと雨。その雨を見つめるうちに、イ・ビョンホンはある決心を固める。

 あの結婚記念日のイ・オルのように、駅までカサをさしてイ・ミヨンを迎えに行くイ・ビョンホン。これには予想だにしなかったイ・ミヨンは大いに狼狽した。

 イ・ビョンホンを連れて家に帰って来たイ・ミヨンは、思い切って切り出す。イヌイットは親しい人の死後に徹底的に故人の事を話し合い、話し尽くしたらその後は一切語らずに忘れるという。「私たちも彼の事を話して、そして忘れましょう」

 こうして話し始めた二人の馴れ初め…ところがイ・ビョンホンは、そんな夫婦の二人しか知らないはずの秘密を知っていた!

 事ここに及んで、イ・ミヨンもさすがに確信せずにはいられない。弟イ・ビョンホンの姿ではあるが、その魂は兄イ・オルのものなのだと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは絶対に映画の後で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後での感想

 切ない運命の愛…禁じられても止められない思いを、あのイ・ビョンホンが切なげに演じます。

 あぁ、ウンザリ。こんな映画まったく見たくない。気持ち悪くなって来そうだよ。今すぐトイレに行かせてくれ…。

 ところがさにあらず。この映画はそんなパッパラ女どもが喜びそうな作品にはなっていない。…というか、スクリーンに実際に対峙する直前に、僕は驚くべき事実にブチ当たったのだ。

 イ・ビョンホンって、あのJSAに出ていたあいつか?

 何と迂闊な。最近次々出てくる韓国俳優たちの名前が、まったく頭に入っていないのは致し方ない。だが「JSA」でいい味出してた、あのイ・ビョンホンを気づかなかったとは…。

 もっとも「JSA」での彼は役柄もあるが、時々抜けたところも見せるおとぼけぶり。キリリとした表情やカッコつけた表情は見せず、もっぱらアヘ顔が専門だった。感想文にも彼のことを、まるでかつてニューヨーク・メッツ、現在札幌日本ハム・ファイターズの新庄に例えて紹介していたくらいだ。映画は超シリアスだったが、彼のキャラはちょっとバカっぽかったんだよね(笑)

 それがここではすっかりイケメンぶりを見せてて、う〜ん…これって役者としては進歩なのか退歩なのか…。もちろん劇場に集まった女どもにはどうでもいい事なのだろうが…。ともかくあの「新庄もどき」男の主演映画とくれば、やっぱり気になるよね。

 実際のところ、歯の浮くようなベタベタ恋愛映画を見せられるかと辟易していたけど、そんな事はなかった。まず、この映画の本当の主役はイ・ビョンホンではないんじゃないか。あくまで若干キャリアが上の…しかも映画スターとしての地位が確立しているイ・ミヨンの方じゃないかと思うんだよね。そのへんのちょっとしたズレもあって、「テレビのイケメン・スター」イ・ビョンホンが観客のオバチャン、おねえちゃんたちに媚びコビで流し目送りまくり…ってな杉良太郎ショー状態は免れている(笑)。

 映画の冒頭部分は、だからイ・ビョンホンは控えめなポジションにいる。あくまでイ・ミヨンとイ・オルの夫婦愛が強調される。事故が起こってからも、イ・ビョンホンはあくまで謎を帯びた人物だ。どちらかと言えば、イ・ミヨンの困惑と苦悩が前面に出る。ハッキリ言って、彼女で支えられた映画なんだよね。

 イ・ミヨンって女優さんは、僕も主演作ってこれで5本しか見ていない。そのうち「モーテル・カクタス」の彼女はすっかり忘れちゃってるが、それ以外の「三人の女の孤独(サイの角のように一人で行け)」、女校怪談…さらに昨年公開の黒水仙の印象は強烈だ。

 この人のキャラってのは、大概が知的で清楚…という絵に描いたようなもの。そんな絵に描いたようなキャラを実感込めて見せられるのが、この人の強みだ。その典型が、北朝鮮工作員になった娘を演じた「黒水仙」だろう。

 この人、ちょっと見は日本のサラ金CFで「はっじっめてっの〜」なんて歌ってる女性タレントに似た風貌だ。品のいい可愛らしい顔立ち。だが、じっくり見るといささか顔のパーツのバランスが崩れている事にお気づきだろうか。目が大きいのはいいとして、実は鼻もかわい子ちゃん女優としては異例にデカい。だから、品もよくて可愛いんだけど、何か異質なものを感じさせずにはおかない。それが例のサラ金CFのタレントなどとは違う、ある種の「濃さ」「強烈さ」になるのだろうか。

 そんな中でお話は予想していたような展開を見せていくが、このイ・ミヨンの熱演とイ・ビョンホンの意外なまでのイヤミのなさで、結構気持ちよく見せてくれるんだよね。まぁ、「JSA」の彼が演じるのだ。イヤミになどなろうはずもないか。そして苦悩の果てに、二人は結ばれてしまう。

 さて、こうなると…この物語をどう着地させるのかが難しい。兄の魂が弟に宿り、兄嫁は困惑しながらも弟のカラダの中の兄と結ばれる…運命のラブ・ファンタジー。こう書けばクサい設定だが、面白くなりそうなお話でもあるよね。ただし、それはエンディングをうまくキメられれば、だ。

 ハッピーエンディングか悲劇か。それとも何か別のウルトラC的な解決策か。この選択は、実はかなり難しい。

 まずは物語は一旦は悲劇の方向へ向かう…と誰しも思う。魂は兄とは言え、外見は弟である人物と結ばれてしまって、兄嫁としてはただでは済むまい。ところがこの映画、どういう訳か親戚、親族の類はまったく登場しない。だから二人を責める人物は出てこない。ならば彼らの周囲の人物…と思っても、これまた不必要な人物は極力出てこないのだ。

 唯一意味ありげなのは、弟に愛情を持っていた女友達。これは黙ってはいないだろう…と思いきや、これまた実にアッサリと二人の仲を認めてしまう。おいおい、これでは彼らの関係に何ら葛藤が生じない。ハッピーエンドにせよ悲劇にせよ、これでは物語が進んでいかないではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここだけは見る前に読まないで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見た後の付け足し

 ところがここに超ウルトラCが待っている事は、映画をご覧になった方ならお分かりだと思う。何とイ・ビョンホンが兄の魂の憑依を訴えていたのはウソだった。元々兄嫁を慕っていたイ・ビョンホンが、気持ちを抑えきれずに兄に成り代わっての狂言だった…というオチになっているのだ。つまりはこの映画、ラブ・ファンタジーなんかじゃない…という、観客にとってはちょっと反則っぽいどんでん返しを迎えるんだよね。

 ただし、僕に言わせるとこれは反則ではない。反則ギリギリ寸前で止まっている。よくよく考えれば、それなりに伏線やアリバイはつくってある。だから、まぁうまくやったなと思える結論ではあるんだよね。韓国ドラマにウットリのオバチャンたちなんかビックリのうっちゃりだろうが、だからこそ僕は気に入った。さすがにこれには嬉しくなったよ。これが第一作のパク・ヨンフン監督、甘いだけの恋愛映画にとどまらない映画づくりをやらかすとは、なかなかやるではないか。

 聞くところによれば、脚本にはあの「猟奇的な彼女」のクァク・ジェヨン監督が参加したと言う。なるほど「猟奇」も因果話的要素があったし、その次の最新作ラブストーリーでは因果話を前面に押し出していた。確かにこの「純愛中毒」は、そんなクァク・ジェヨンのテイストが濃厚に漂っている。だから凡百のラブ・ファンタジーには逸しなかったのかもしれない。

 さてこうなると、問題は最後の結論の出し方だ。

 兄嫁イ・ミヨンはすでに身重になってしまった段階で、この衝撃の事実を知る。仰天し苦悩する彼女は、思い詰めた表情でイ・ビョンホンの元へとやって来る。ここで何が起きるのか…。

 イ・ミヨンの罵倒で始まり…彼女がイ・ビョンホンの元を去る。あるいは彼を殺して自分も死ぬ血まみれのエンディング。あるいはイ・ビョンホンが逆ギレして大暴れ。そんなカタストロフまでいかないまでも、それをほのめかす不吉な幕切れ…。

 が、実際の結末は、僕が予想したどれとも違った

 結局彼女はイ・ビョンホンに何も言わない。将来への夢も交えて、幸福そうな会話を交わすだけだ…。

 これは兄嫁イ・ミヨンが、何だかんだ言っても多少忌まわしい手を使っても、ずっと一途な愛を捧げて来た義弟の情にほだされた…という結末なのだろうか? 行った過ちは不問にして、二人でやっていこうという意味なのだろうか。韓国ドラマ好きのオバチャン、おねえちゃんたちだったら、そんな甘い事を考えて劇場を出たのかもしれないねぇ。

 映画の本当のエンディングは、時系列をほんの少々巻き戻した場面で終わる。イ・ビョンホンが兄の遺灰を海に撒く場面…そこで独り言ではあるが、彼はやむにやまれぬ真相告白をする。涙ながらにイ・ビョンホンが、「兄貴、オレを許すな」…などと寝言を言う。

 当たり前だ、誰がオマエを許すと言った(笑)

 あのオバチャン、おねえちゃんたちはイケメンぼけして、コイツの寝言を真に受けるかもしれない。あんなに反省して涙を流してるんだから許してやって…とか思ってるかもしれない。

 冗談言ってもらっちゃ困るんだよ(笑)。

 誰が何と言ってもコイツのやった事は、兄嫁に横恋慕したあげく妄想をかき立てて、うまい事言ってダマして犯したって事だろうが。こいつが「憑依した」とか言うのも、仮にクロロフォルム嗅がせて寝込みを襲うのもどこも変わらない。こいつは薄汚いレイプ犯、卑しい性犯罪者と同じ訳なの。いくらオバチャン、おねえちゃん好みのイケメンだろうと(笑)。

 もう一度エンディング・ショットを見てみよう。兄の遺灰を海に撒きながら、弟が一人で告白する場面だ。

 こいつは実はこの時に気づいている。兄嫁の心の中は兄しかいない、と。自分の入る余地はないのだ…と。

 うまい事ダマして兄嫁をテメエのモノにしても、それは本当は自分のモノじゃない。どんなに自分に好意を見せてくれても、それは本当は自分に対してではない。確かに兄のポジションにうまく乗っかって、時にはいい思いをしている気がするだろうが…。

 それって、逆に地獄ではないか?

 結局いくら愛してもどこまでいっても、本当の自分はまったく省みられないのだ。何が何でも愛してはもらえない。その心は自分には向いていない。今後も決して向きはしない

 真相を知った兄嫁が、しかし結局は黙っていたのはなぜか。ダマされて偽りの愛の暮らしを築かされてしまったのに、兄嫁はそれを許して受け入れたのか?

 いや。彼女は許してはいないのではないか?

 真相を知りながらも何もなかったかのごとく振る舞うのが、彼女として究極の仕打ちと知っての事ではなかったか? 真相を知ったと語らなければ、兄嫁はずっと彼を「兄」として扱う事になる。この弟を「兄」として愛し続ける事こそ、彼にとって最も残酷な復讐だと気づいたからではないか?

 確かに、それは一番残酷な事だよね

 愛している女を腕の中に抱きながらも、その女の気持ちは本当は他の人間に向いている…それを知る事の苦しさ、残酷さを、僕は骨の髄まで知っている。それは人として最も痛みを伴う事だ。

 だからこそ僕には分かる。これが甘ったるいハッピーエンドなんかじゃないと。決して表面に現れてはいないけれど、この映画の結論が徹底的な酷薄さに満ちている…ということが。

 何がどうあれ、偽り欺いてしまった事のツケは、必ず払わねばならないのだから。

 

 

 

 

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