「リクルート」

  The Recruit

 (2004/01/26)


  

今回のマクラ

 結局なんだかんだ言って、自衛隊のイラク派遣は現実のものとなってしまった。

 こうなると呆気ないもんで、テレビなどの論調も一変。決まったものは仕方がない。だからゴチャゴチャ言わずに派遣される自衛隊の人々を応援しよう、そうしてあげなきゃいけない…ってな話になっている。それって何だかなぁ…と、どうもスッキリしない気分でいるんだよね。

 それは僕だって、向こうへ行くことになる自衛隊の人たちの身に、何もないことを祈りたいよ。無事で元気でやってもらいたいと思う。かつては親戚の人間に自衛隊にいた人だっているんだ。知り合いにだっている。そう思わない道理はないよ。

 だけど、とにかく決まっちゃった事にとやかく言うな、応援だけしろ、何か文句言うヤツは自衛隊の人の無事を祈らない不届き者だ…って事の成り行きは一体どうしたことなんだい。それってちょっと違いやしないか? 僕はとってもイヤ〜な気分になってるんだよね。

 しかもこのドサクサに紛れて、石破防衛庁長官が武器の輸出について云々し始めた。何なんだ、これは? 一つ無茶が通ったら何でもかんでも通るって事なのか? みんなもしょうがないで黙認しちゃうムードが世の中に漂っているのか。そうなると正月早々に小泉首相が靖国神社に参拝したのも、イラクの自衛隊の人たちに何かあったらここで祀ってやるからな…とでも言ってるつもりなのか。一体こいつら何を考えているんだろう? でも、なぜかロクに問題にもならずすべては通ってしまう。

 そういう意味で言えば、何だかイマドキのみんなの妙に物わかりのいいところが気になって仕方がないんだよね。

 実は今、僕は映画を見た後で近くの喫茶店に入っている。そこでパワーブックを開いて原稿を書くのが日課な訳だ。ところが僕の隣の席に、どうも怪しげなマルチ商法らしきインチキ商売の勧誘をやっている連中がいるんだよね。

 まぁ、僕が原稿書きに寄る喫茶店ってのは決まっている。大概が長居しても文句言われなさそうなところ、店員も構ってこないようなところだ。ところがそういう所って、マルチ商法の勧誘の連中にとっても居心地のいいところみたいなんだよ。だから大抵ここで鉢合わせする。

 見ていると大体顔ぶれは決まっている。大学生か社会人一年生みたいなヤツが、同じような自分の仲間を連れてきてる。どちらもいかにも純朴そうな「ダマされやすそう」なツラだ。そこに元々の段取りで待機していたスーツ姿の男が一人。それもいろいろ商売変えて来たような、歳の割には人生経験経て来たような強者だ。これがいろいろうまい事言って連れてこられた奴を引きずり込むわけ。

 やり方はさまざまだ。人を見てやり方を変える。ある人に対しては、徹底的にフレンドリーな態度。遊び仲間みたいな気軽な感じでアプローチ。またある人に対しては、この商売で得られる高収入を持ち出す。今の職場の給料なんてタカが知れてるだろう? あるいは…いい就職口なんてないだろう? この手の相手に対する殺し文句は…オレは中卒〜高卒だけど下っ端として東大や早稲田のヤツらをアゴでコキ使ってる…てな具合だ。もしくは人生の生き甲斐ってな事を持ち出す輩もいる。でなければ、この仕事の仲間はみんないいヤツとか。聞いてると耳が腐ってきそうな歯の浮くセリフの連続。僕はいつも横で聞いていて、腹わたが煮え返ってくるよ。何て汚ねえ奴らなんだ。

 ハッキリ言ってこれが仕事の話…金が絡む話である以上、例えマルチ商法でなくて真っ当なビジネスであっても、どこの誰だって相手のためを思って話す奴なんていない。みんなテメエの利益のために動いている。何千年も前から世界中どこであっても、人類はみんなそうしてきた。それを相手のトクだの人生の生き甲斐だの、友だちはオマエのためを思って誘っただの…いいかげんにしろと言いたい。

 中には話が胡散臭いと思って、抵抗するヤツもいなくはない。今日、僕の横に座った奴もそうだった。その都度僕は横で聞いてハラハラしながらも、そいつの事を「頑張れ頑張れ」と応援している。だけど、その思いが叶ったためしはないんだよね。そして、それも無理はないかもしれない。

 結局スーツ着たその海千山千の連中は、僕らが束になってかかっても敵わないほど口が立つ。こういう時のノウハウも叩き込まれてる。だからかえって相手をしちゃダメなんだ。さっさと無抵抗で聞いてるフリして帰ってきちゃうしかない。耳を貸したらダメなんだ。

 それなのにこいつはよせばいいのに真っ向勝負。すると、向こうは長年鍛えられてるから、いきなりドスを利かせて一喝。すると抵抗してたヤツもぺしゃげて、一気に聞き役に転じてしまうわけ。そこから始まる説教三昧。何でこいつもいいかげん二十歳過ぎてるのに、こんな男から説教されなきゃならないのか。しまいには涙目になってうなずく始末だ。話の終わりには「ありがとうございました」と礼まで言っている。僕はホントに頭に来たよ。だってどう見たって明らかに悪いヤツが平気でそこらのヤツに偉そうに説教してるんだからね。こりゃどういう事なんだ。悪党は悪党らしくしてろ。人格者のマネするんじゃねえ。

 そいつを連れてきたグルの男は、「僕らの歳になると学校でも叱ってくれないんだぜ」などと、しきりにありがたい話だと持ちかける。バカも休み休み言っていただきたい。スーツ男がそんなにリッパな男なら、みだりに見ず知らずの人間に説教などしまい。第一リッパな人間ならば、自分が人に説教出来るタマかどうか判断出来るだろう。僕に言わせれば、他人に説教など出来るほどエライ奴などそうはいない。そう思っている奴がいるとすれば、それはとんでもないバカか詐欺師しかいないはずだ。

 叱られてありがたがってる男を見ていたら、僕は本当に途方に暮れたよ。確かに成人式などで暴れてるバカは、サル以下の知能の人間とも言えない存在だ。しかるべき時と場合にそれなりの振る舞いを出来ないのは、大人どころか人間とは言えない。イヤならそんな所へ行かなきゃいいんだからね。だけどまだ若いうちから、こんなに何でもかんでもモノ分かりがいいってのはどうなんだ。少しは腹立たしかったり、オカシイと思ったりしないのか。

 若い奴らがこんなに従順でいいものか。ウカウカしていて、知らない間にとんでもない所に連れて行かれても文句は言えないんだよ。

 世の中の他人ってのは、本当に怖いものなんだからね。

 

あらすじ

 コリン・ファレルは名門マサチューセッツ工科大学の学生として、将来を大いに嘱望されていた。彼は在学中にすでにコンピュータで革新的な技術をモノにしていて、一流企業からも引く手あまた。ところがそんな彼がバーテンのバイトをしている酒場に、一人の男が現れた。その男CIAのアル・パチーノという。パチーノは人材を見抜く力を持っていて、優秀な人材をあちこちから探り当てるのが仕事だとか。つまりファレルはパチーノに目をつけられたのだ。

 だがファレルは一流企業からも目を付けられる身。そんな話にはグラつかないはずだ。ところがファレルには一つだけ秘密があった。彼の父がペルーで飛行機事故にあって亡くなった事件に、何やら不審なものを感じていたのだ。彼は真相追求のため、ホームページを開いて情報を求めていた。パチーノはそこらあたりをくすぐったんだね。ファレルも父の事情を知っているらしいパチーノに興味を持った。かくして彼は、一流企業を袖にしてCIAの門をくぐったわけ。

 CIAだって他の企業同様、新入社員の試験と面接をやる。そこらへんではさすが頭脳明晰なファレル。まるで抜かりはない。一緒に試験を受けていた女の子ブリジット・モイナハンに目を付ける余裕まである楽勝ぶりだ。

 こうして試験と面接を突破したファレルたち新人は、「ファーム」と呼ばれるCIAの研修所へ連れて行かれる。ここでさまざまな訓練で鍛えられ、それぞれの適正を見定めた上で配属が決められるわけだ。見るとあの女の子モイナハンも来ている。これは来た早々ラッキーだ。

 この「ファーム」でパチーノを捕まえたファレルは、またしても父の話を聞き出そうとする。だがパチーノの態度は一変してよそよそしいものだった。「あれは君をスカウトするため親しげに振る舞った。ここでは君は生徒、私は教官だ

 さて次々「スパイ」としての訓練をされる連中のうちには脱落する者も出てくる。それもそのはず、パチーノ教官の座右の銘がこれだ。「何も信じるな、自分の五感さえもな」

 ある時はイレギュラーな訓練と称して男どもばかり何人かが呼ばれ、夜の酒場に連れて行かれる。ここでパチーノ教官は、それぞれ一人づつ女の子をナンパしろとのミッションを下す。早速店に入るや否や、首尾良く女の子をゲットするファレル。こりゃ楽勝…と思っていると、何と店の中であのモイナハンが妙にたそがれているではないか。気になってナンパ女を放りだしたファレルは、彼女に近づいていく。するとモイナハンはこの研修からハズされてヤケ酒をあおっているとのこと。ファレルに慰めてもらいたいと迫って来られて、ファレルはスケベ心も手伝っていたく同情してしまった。

 ところがこれがワナだった。彼女はパチーノ教官からファレルのナンパのジャマをしろと命じられていたのだ。まさか、こんな事まで…。唖然呆然とするファレルに、パチーノのあの言葉が蘇る。

 「何も信じるな、自分の五感さえもな」

 これで誰も信じられなくなったファレルは、次の嘘発見器の講義の際にモイナハンを逆襲する。「僕に慰めて欲しいというのはウソだったのか?」「僕に好意を持っていたのか?」…そんなファレルの言葉責めにたまらず逃げ出すモイナハン。

 だが、このぶっちゃけたやりとりが良かったのか、ファレルとモイナハンはより一層心を近づけていくのだった。

 そしてある夜、尾行とそれをまくための実習が行われる。この時はファレルとモイナハンがペアを組んだ。ところが実習の最中、二人は謎の男たちに拉致されてしまう。やがてファレルはモイナハンとも引き離され、見知らぬ場所に閉じこめられてしまった。

 そこでは男たちがアレコレと尋ねてくる。オマエはCIAか、「ファーム」で訓練を受けている者か、教官は誰か…だが不屈の闘志で何とか持ちこたえるファレル。連日の拷問にも必死に耐える。だがモイナハンが拷問されていると聞き、ファレルもついにいても立ってもいられなくなった。「教官の名はパチーノ、アル・パチーノだ!」

 すると彼が閉じこめられていた部屋の壁がバッと開き、光があふれんばかりに入ってきた。何とこの拷問監禁部屋、あの「ファーム」の中に設置されたテスト用の施設だったのだ。ファレルはまんまと自白して、テストを失敗してしまった

 「ファーム」を去ったファレルは、失意のどん底で飲んだくれていた。今まで優秀で、何もかもうまくいっていたファレル。この脱落の事実は、彼に例えようもない屈辱を与えたのだ。だが、そんな彼の元にあのパチーノがやって来る。今さら何の用だと怒るファレルに、パチーノは意外な事実を告げた。

 「アレは偽装だ。君を落ちこぼれたと見せかけ、秘密任務を与えるためにな

 もうウソがウソ、イカサマがイカサマを呼んで訳が分からなくなったファレル。だがパチーノから父親がCIA職員だったことをほのめかされると、やはりこの話、無下に断る気持ちにもなれない。ところがパチーノが持ちかけて来た秘密任務とは、またまた意外なものだった。

 モイナハンに近づけ!

 何と彼女、実は二重スパイだという。それを承知でCIAに入れたパチーノは、何とか彼女の雇い主をたぐろうとしていたのだ。ファレルを彼女に近づけたのもパチーノだ。何もかも最初から仕組まれていた事だったのだ。

 そんな話に飛びついて、CIAの下級職員のフリをしてモイナハンに近づく仕事を引き受けたファレル。そんな彼には、やはり傷ついたプライドを取り戻す気持ちと、自分が優秀であることを認めたい気持ちがあったのだろうか?

 だがその秘密任務は、彼にとってより大きい苦痛を与えるものでしかなかった…。

 

見た後での感想

 今一番ノリにノッている若手と言えば、この人コリン・ファレルにとどめを差すだろう。つい先日「マイノリティー・リポート」でトム・クルーズ相手に仇役を演じていたかと思えば、ストレートなアクション演技を見せる「S.W.A.T.」もあり、ほとんど電話相手の一人芝居で展開する「フォーン・ブース」の好演もあった。ホントに何でも来いって感じなんだよね。

 そしてこのファレルって人、小悪党もやれればヒーローもやれる。そして何より挫折した時のダメっぷりが実にいい。今回も落ち目になっちゃった時のメタメタぶりが、ファンにはたまらないんじゃないか。

 今回の「リクルート」では、「S.W.A.T.」でサミュエル・L・ジャクソンの胸を借りたように、大ベテランのアル・パチーノを向こうに回しての大熱演。まだまだ青二才の甘さをプンプン漂わせて、これまたいいんだよねぇ。父親を失った寂しさもどこかに秘めていて、パチーノに父親像をダブらせているあたりも圧巻。あの捨て犬みたいな眼差しが効いている。この役者さん、まだまだデカくなるよね。

 パチーノのハッタリ演技もますます冴え渡っている。実際のところラストで駆けつけたCIAの武装職員を前に、パチーノがアレコレ自分でブチまけてしまうのは、いささか緻密につくられたこの映画では雑な結末と言えなくもない。したたかなCIA職員があそこで泣き言グチ垂れ流しはちょっと…と思わせてしまいがちだ。だがパチーノはここぞの一発芸として、この一席ブチまくるという芸風を何度も見せてきた。「スカーフェイス」のエンディング、パチーノ暗殺を狙うギャングどもの前に仁王立ち、「やれるならやってみろ、オレはトニー・モンタナ様だゾ!」とわめきまくるあの演技が再現されたかのよう。パチーノだからここも不自然さを免れた。だから僕は、これはこれで何となく許しちゃったよ。そのあげくに銃弾雨あられでズタボロになっちゃうのも、僕が期待するパチーノそのものなんで嬉しくなった。やっぱりパチーノはこうじゃなくっちゃね。これで撃たれながら「ファック!ファック!」と連呼してくれれば、もっと申し分なかった(笑)。

 監督のロジャー・ドナルドソンは、ハリウッドのオーストラリア出身組としては比較的に地味に映画を撮って来た人。でも僕は、この人のハリウッド第一作「バウンティ/愛と反乱の航海」から好きだったんだよね。そして出世作のケビン・コスナー主演「追いつめられて」の見事さ。「13デイズ」も面白かったよね。こういう、ウソかマコトか虚々実々のやりとりみたいな緊迫感のある映画を撮らせるとやっぱりうまい。今回もこの人らしいハラハラドキドキが楽しめたから、僕は嬉しかったね。

 

見た後の付け足し

 というわけで、良くできた娯楽作として楽しめる。虚実入り乱れる趣向もパチーノとファレルの激突も、僕は充分堪能した。これから後の話はまったく僕の個人的な感慨だから、それを念頭に置いて読んでよね。

 マサチューセッツ工科大学を出て一流企業から引く手あまた。父親の事件を除いては挫折一つなかったファレルは、だからファームでの偽装監禁訓練での失敗はすごく痛かった。この気持ちは分かるんだよね。自分に自信もあっただろうしね。

 僕も今のライターの商売に就いてからは、順風満帆な気がしていたんだよ。それまでは営業マンなんかやっててまるで使い物になってなかった。それもこれも、自分が本当にやりたい事をしてないからだと心機一転。この稼業に転じたわけ。すると、やっぱり全然成り行きが違って来たわけ。オレの思ってたことは間違っていなかったなぁ…と痛感した。それと同時に、失われていた自信が蘇っても来たんだよ。

 ところがある時、そんな僕の自信が何もかもはぎ取られるような事が起こった。そうなってみると、僕はまるで糸の切れたタコみたいになっちゃったんだよね。もう何も手がつかなくなった。周りの人間はそんな僕の屈辱の場面を見ていない。だから何もなかったように振る舞おうとすれば、それは出来たはずだ。だけど自分だけはダマせない。自分がその屈辱を払拭できなければ、元のようには戻らないんだよ。

 ファレルが飲んだくれたあげく、自分が袖にした一流企業に連絡を取ってみたりする気持ちは分かる。今さらカッコ悪いと思われるかもしれないが、何でもいいから自分を認めてくれる世界に戻りたい…という願いの現れなんだよね。あんな悪あがきは僕もいろいろやった。だから他人事には思えなかったよ。

 で、それが叶わなければ代償行為でも何でもいいから、自分が認められ自信を取り戻せる何かにすがり付こうとする。ファレルがパチーノからの申し出を受けたのも、そんな事からじゃないかな。もちろんファレルが、自分が落ちこぼれていたんじゃなくて偽装のためだとパチーノに言われたのは救いだった。それでも心には屈辱のキズが残っている。それを克服するためにも、おそらくは苦い思いをするであろう二重スパイの身辺調査にすがりついてしまった。それをパチーノも、全部読み切ってやったんだろう。ズバリ言えば足下を見られてたって事になるんだろうか。ここらへんの心理には、すごくリアリティを感じてしまったよ。ファレルの好演も手伝って、僕には必要以上にインパクトがあった。

 僕がこんなホームページで偉そうな事を書き始めてしまったのも、どこかそんな代償行為的なものがあるだろうからね。だから決してホメられた話じゃない。この映画のファレルも僕も、それが本当の克服にはならないと気づかなければ、立ち直ることは出来ないんだからね。ここらあたりの話は、映画とは何の関係もないんだけれど…。

 

 

 

 

 

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