大穴狙い「第16回東京国際映画祭」

  Seeking for the Dark Horses in TIFF 2003

  その1

 (2003/11/17)


 

今年も東京国際映画祭の季節がやって来ました。毎年毎年言ってることですが、僕の映画祭への参加はいつも穴狙いが基本。というか、それしか参加できないんですけどね(涙)。出来るだけ人気のなさそうなブツばかり見て、映画祭気分にだけはひたろうというハラなんですが、最初いつも楽々見れたモフセン・マフマルバフとか韓国映画が人気になっちゃって、ますます苦しくなってきました。ま、今年はマフマルバフはないんですけど。で、今年も昨年同様2本しか見ないことになってしまいました。ともかく映画祭の醍醐味である物珍しさと面白さのある映画を求めて、今年も渋谷にやって来ましたが…。


11月1日(土)

「オーメン」(タイ映画) Omen

 映画祭の初日…僕にとってもこの日が初日…というか、今年はなぜか最初の日と最後の日の映画を見ることになったわけで、一応映画祭はずっと参加出来た気分になれるというわけ。

 で、この映画を見に渋谷のBunkamuraにやって来ると、ちょうどオープニング・セレモニーのためのゲスト入場と重なってしまい、あたりは大混雑。なかなか建物に入れずやきもきするハメになってしまった。オレはそんな華やかな場には関係ないのに(涙)。

 さて、今回の「オーメン」は当然あの「オーメン」とは無関係だ。だがやっぱりこれもホラー映画だと言う。おまけにタイ映画。タイと言えば「ナン・ナーク」、そして今年の「アイ」などホラーの秀作も生んでいるではないか。これは見るしかないと、あえてコンペティション上映作に挑戦することにしたわけ。はてさて、その出来映えやいかに?

 

 たぶん、はるか昔。タイの田舎で一人の少年が皿にエサを盛って、何やらペットを呼んでいる様子。「ちびちゃん、ちびちゃん、ご飯だよ」

 だけどいくら呼べども「ちびちゃん」は現れない。そこに少年の友だち二人がやって来るが、彼らは少年の持っていたエサ皿を地面に叩きつけた。「あいつはもう来やしない。オレたちがキライになったんだ」

 地面にぶちまけられたエサを見つめながら、目に涙を浮かべる少年。はてさて、その「ちびちゃん」とは一体何だ…?

 さて、時代は現代。ここは都会のデザイン事務所。三人の若者…ビーム(ガウィー・タンジャララック)、ビッグ(アピチェート・キッティイゴーンジャルーン)、ダン(ウォラウェート・ダヌウォン)は、自分たちがつくったデザイン・カンプを見て青くなっていた。プレゼン期日は明日に迫っているのに、大失敗をしでかしたのだ。そこに先輩デザイナーが来て、うるさく小言。フテるビーム、投げヤリなダン、何とか事を収めようとするビッグ…と対応は三者三様ながら、ヤバイ状況にビビっていることには変わりない。あげく帰りのエレベーターの中でも、明日までの締め切りをどうする…で大揉め。だが、そんな事をやってても元々が幼なじみ仲良し三人組だ。結局は仲直りして何とかしようと一致することは毎度のこと。とりあえず三人は地下駐車場で別れ、それぞれクルマで自分の家に帰ることにする。

 そんな夜道、ダンがクルマを飛ばして家路を急いでいると、なぜかカーステの調子がおかしくなる。おかしいなと気を緩めた隙に、真っ暗な夜道に突然何者かの人影が見えるではないか。

 ヤバイっ!

 慌ててハンドルを切ったのが災いして、クルマは路肩を乗り上げ木に激突。ダンはそのまま気を失ってしまった。

 そんなダンがふと目覚めると、彼は古い粗末な小屋の中にいた。部屋の中は真っ暗。そして、そこには不思議な老婆(ピサマイ・ウィライサック)が一人。どうもこの老婆が彼を助けて介抱してくれたらしい。

 それにしても、この老婆は何となく不気味だ。それに気のせいか、あちらにいたかと思えばまたこちら。突然姿が消えたり、また現れたりするように思える。きっと頭でも打ったに違いない。ともかく早く帰らねば。ダンはお礼の言葉も早々に、不気味さも手伝ってこの場を離れる事にした。ところがダンの去り際の老婆の言葉がまた不可思議だ。「また会ってくれるかい?」

 ところで会社の地下駐車場で別れた後、ビームの身にも異変が起こっていた。渋滞でイラつくビーム。そしてこちらでもカーステがおかしくなる。そんなビームのクルマのボンネットに、いきなり植木鉢が落ちてくるではないか。

 実は道路脇のマンションの手すりから、その植木鉢は落ちてきたのだ。ウッカリ落としたのは、そこの住人のかわい子ちゃんオーム(スパチャヤー・ルンルン)。彼女は下りてきて謝るかと思えば、なぜか呆然と黙っているのみ。これには元々短気なビームは思いっきりキレて文句の言い放題。するとオームは、自分への連絡先をメモして渡すのだった。

 さて、翌日何とかプレゼンをしのいだ三人。クルマをオシャカにしたダンは、ビッグのクルマに乗せてもらって事故現場に向かう。道すがら不気味な老婆の話をするダンだが、真っ昼間話すと冗談にしか思えない。一方、ビッグも前の晩に奇妙な事があったと言う…。

 クルマで渋滞真っ直中のビッグ。そこに売り子の少年がやって来る。面倒くさいとシカトしていたものの、あまりうるさいので窓を開けると、何と少年はモノを売りたいのではないと言う。ビッグが車内の飾りにしていたミニカーを欲しがっているのだ。スッタモンダのやりとりの末、いつの間にかミニカーを取られたビッグ。代わりに彼の元には、小さい犬のオモチャが残された…。

 さて事故現場に到着すると、例の老婆がちゃんと番をしてくれていた。老婆の小屋まで礼を言いに行くと、老婆は不思議なことを言い残す。「階段を使って行きなさい。狭い部屋には入るんじゃないよ

 ますますもって奇妙だ。だがダンは気にも留めなかった。ところがその晩、ダンは自分のマンションでエレベーターに閉じこめられる。さすがにこれにはキモを冷やしたダンだった。

 「階段を使って行きなさい。狭い部屋には入るんじゃないよ」

 あれはこの事だったのか? なぜ老婆はこれを知っていたのか? それとも単なる偶然か?

 ダンはその夜、再び老婆の小屋を訪れる。外は嵐。老婆は妙に怯えていた。そしてまたしても謎の言葉を残す。「今でも早飯かい? 体の事を考えた方がいいよ」

 さて、またしても同じ所で渋滞にあい、またしても売り子の少年と出会うビッグ。なぜかこの少年に親しみを覚えたビッグは、彼とミニカーをカタに賭けをする。またしても負けたビッグは少年にミニカーを渡すが、少年が代わりに渡そうとした犬のオモチャは断った。

 なのに、なぜかいつの間にか犬のオモチャが置いてある

 そんなある日、ビームが職場にオームを連れてきた。あれ以来、二人はいいムードになっていたのだ。彼女は小さな喫茶店を始めようと頑張っている最中。開店はもうすぐだ。唯一の心配は近所の工事のやかましさ

 ところが初対面にも関わらず、オームを一目見て呆然となるダン。彼はなぜか理由もなしに胸騒ぎがしたのだ。そんなダンの様子を見て、ビームの胸に疑念が芽生える。「オマエら前に会ったことがあるのか?」

 その夜、ビッグはまたしても渋滞にあう。また例の売り子の少年の姿を探すビッグ。だが、彼は現れない。そして付近で交通事故があったと聞き、胸騒ぎをおぼえるビッグ。

 案の定、事故にあったのはあの少年だった。

 ビッグは少年を病院に運び込む。そのおかげで一命はとりとめたものの、少年は意識を取り戻さぬまま。容態は予断を許さない。

 そんなある日、ダンにまたしても異変が起こった。ソバをせわしなく食っている最中にノドを詰まらせ、危うく窒息しかかったのだ。そんな彼の脳裏にあの老婆の言葉が蘇る。「今でも早飯かい? 体の事を考えた方がいいよ」

 これにはダンはいても立ってもいられない。またまた老婆の小屋へと駆けつける。だが問いつめても老婆は答えてくれない。その代わり、小屋にあった一枚の写真を見せて要領の得ないことをつぶやくだけだ。「そのまま行ってしまった、二度と戻って来なかった。そして死んでしまった。止めることが出来なかった…」

 見るとその写真には、若い女が写っていた。その女は、先日ビームが連れてきたオームにそっくりではないか!

 慌てたダンはビームに連絡を取るが、まさかオームが死ぬとは言い出せない。思いあまってオームと話をさせろと迫るが、それがビームにあらぬ疑念を抱かせる事になった

 この話を聞いたビッグも妙案は浮かばない。ビームは態度を硬化させて、オームの喫茶店の開店日には一人で行くと言い出した。無理にでも店に行かねば…と思うダンだが、ビッグはケンカになるだけだと彼を止めた。第一、老婆の言葉が予言かどうかも分からないじゃないか。かくして二人は真相を確かめに老婆の家へと急ぐ。

 その頃、オームの店の開店日は散々な事になっていた。あまりに工事現場の物音がうるさく、客が次々帰っていく。せっかくこぎ着けた開店日なのに、オームの気持ちは落ち込んでいく。そんな彼女を見ているビームもつらい。

 その頃ダンとビッグは、老婆の小屋に乗り込んでいた。例の写真を手にとって、老婆を問いつめる二人。だが写真をよく見ると、そこにはオームの他にビームの姿が写っているではないか! 老婆はどうやってこの写真を手に入れたのか? そして死ぬというのは、このどちらだ?…ビームなのか?

 ダンとビッグが慌ててオームの店に急いでいる頃、オームの店ではますます状況が悪くなっていた。工事の騒音は一層ひどくなり、しまいには激しい振動を伴うようになった。客は一人残らず帰ってしまう。おまけに苦労して用意した皿や食器はことごとく床に落ちて割れる。これには耐えきれず、オームはさめざめと泣き崩れるだけだ。事ここに及んで、ビームは堪忍袋の緒を切った

 工事現場に乗り込んで、工事をやめろと大声を張り上げるビーム。だが、騒音がひどくて誰の耳にも届かない。そんなビームを心配して駆けつけるオーム。

 やっとこ店に到着したダンとビッグも、工事現場に駆けつけた。

 二人がビームに向かって大声を張り上げる。それに気づいてビームが振り返った時…。

 工事現場のクレーンが、突然バランスを崩して横転するではないか! ダンとビッグ、そしてオームの目の前で、ビームはクレーンの下敷きになってしまった…。

 やっぱり老婆の予言は本当だったのか。ならばあの老婆は何者か? そして売り子の少年は? さらにビームは助かる事が出来るのだろうか?

 

 映画が始まってクレジット・タイトルが出ると、僕はこの映画のスタッフ・キャストの事を全く知らなかったのでちょっと驚いた。何とあの「アイ」の監督オキサイドとダニー・パン兄弟が、製作・脚本・編集でバックアップしているのだ。いやぁ、これは儲かっちゃったかな?

 映画の主役三人組は、いずれもちょっとアイドル顔。ジャニーズを濃くしたみたいな連中だ。向こうでも結構そのセンで売ってるんじゃないか? ヒロインのスパチャヤー・ルンルンもアイドル系くさい。ルンルンと言うにはこれまたちょいと濃いクチ(笑)だが、まぁまぁ可愛いんじゃないか。

 それにしてもパン兄弟、「アイ」に次いでのホラー映画挑戦とは、この手のジャンルにかなりご執心と見られる。で、やはり両者にかなり共通する部分もあるのだ。

 最初老婆が登場するくだりの、何とも言えない気色悪さ。脅かしのテクニック。そしてショック場面になると画面よりも音響で脅す手口。「アイ」も音響効果が凄かったが、今回もドルビー・サラウンドでここぞとばかり脅しにかかる

 そして映画の物語も過去の因果話。基本にあるのは善意と悲しい思いというあたりまで共通する。これがこの兄弟の好みなのだろう。そういう意味では結構僕の好みでもあるんだね。

 ただし、これは監督を任されたタマラック・カムットタマノードの力不足か、どうも舌っ足らずなところがあるんだよね。説明がうまくないところがある。だから最初はよく話が見えなくなったりするのだ。

 そして残念ながら、パン兄弟の脚本も自分で監督する時と比べると手を抜いてる気がする。物語の最初の頃に時制が前後してるあたりも別にそんな事する必要ないし、しない方がいい感じだ。脅かし場面も数少ないし薄味。実は怖いホラー映画のはずなのに、あまり怖い場面がない(笑)。一番怖いのは老婆の顔という情けなさだ。

 お話は冒頭で少年に呼びかけられている「ちびちゃん」=子犬の忠犬話で、ひょんな事から命を助けてもらった少年三人組とはぐれる事になり、その後転生し姿を変えても少年たちに尽くそうとする物語だと分かる仕掛けだ。ただし、冒頭のシーンは1917年のこと。どう考えても主人公三人ダン、ビッグ、ビームの年齢とは合わない。結局は冒頭の少年たちも、生まれ変わって転生したって事なんだろう。だけどそのへんが、まるで説明足らずだからピンと来ない。そもそも老婆も売り子の少年(実は少女だった)も、さらにはビームの彼女となるオームさえ子犬の化身だったという設定には、いささか無理があるんじゃないか? 彼女が店を開こうとしていたってあたりはどうなってるのだ。

 しかもこれらの事情は終盤いきなり、例の売り子の少年(少女)の口から一気に一方的に説明される。本当なら聞かされるダンとビッグには唐突すぎて何だか分からないはずだし、そもそもあまりに性急な説明で無理やり結末に話をドサクサ紛れにまとめ上げちゃった感じが濃厚なんだよね。

 結局パン兄弟が自分で監督しなかったってのもそのへんじゃないのか。ちょっと面白そうと思い付いた話を、そのまま新人に押しつけちゃった感じがある。そのへんが何となくイヤ〜な感じなんだよね。話そのものはちょっといいところもあるし、じっくり時間をかけて脚本を煮詰めれば面白くなった気がするだけに残念だ。そもそも何となく無責任に投げ出しちゃったみたいなのが気に入らない。パン兄弟って結構いいかげんな奴らなんじゃないか? 兄弟の片割れと出来ちゃった「アイ」ヒロイン女優のアンジェリカ・リーちゃん、うまいこと遊ばれて捨てられないようにくれぐれも気をつけてもらいたいものだ。

 

 

つづく

 

 

 

 

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