「10億分の1の男

  Intacto

 (2003/10/06)


  

自分は本当のところ「強運」か「不運」か?

 僕は子供の頃から、自分の「運」ってものについてよく考えていた。

 最初は病弱でボコボコにイジメられてたから、自分に「運」があるなんて考えられなかった。むしろ何て「不運」なんだって嘆いてばかりいた。

 実際に何となく自分にはツキがないと思わされる事ばかりだった。自分が並んだ列に限って、なぜか人の動きが悪くて長蛇の列になったまま先に進まない。教室の席について何か配られた時でも、自分の順番に来たモノはみんな汚れていたり破れていたりしていた。起きて欲しくない事ほど一番起きて欲しくないタイミングに起きたし、人のやったチョンボもまず自分が責められた。何となく今考えると昔流行った「マーフィーの法則」みたいだけど、なぜか人生って不条理なモノってとことん思い知らされたものだ。

 こうなると人間はどこかイジケてしまう。世の中何となく斜めに見てしまう。不公平に出来てるもんだよなぁとフテくされていたものだった。

 それがガラリと変わったのは、小学校も低学年になってからだろうか。ひょんな事から自分のツキが変わる出来事が起きた。そこからは僕も、何となく頑張ってれば良いことがあるかも…と淡い期待を抱くようになった。

 そして大人になった。

 最初はまたしても苦痛の連続。全身にジンマシンが起きるほどの苦痛だ。でも、僕はまだまだ何とかなるのでは…と期待を持った。それが完全に我が意を得たりとなったのは、仕事の面で自分が自信を持てる環境を得てからだろう。

 どう考えても、僕はラッキーだった

 そこで子供時代から思い起こしてみると、僕はツイてないようで実はツイていたんだ…と思い至るようになった。

 まずは子供時代、まだ幼稚園のころ。僕は母の郷里に遊びに行って、地元で選挙雄説中の宣伝カーの先導バイクに跳ね飛ばされた。どう考えても危なかったはずなのに、受けたのはカスリ傷と軽い脳しんとうだけ。よくよく思ってみれば、あれは奇跡的な事ではなかったか。

 そして小学校。いよいよ僕はもうダメ…となりそうになった時に、運命を一変させた出来事。あれだって、もうちょっと遅かったらどうなってたか分からない。

 さらに大学受験の時にもちょっとした事があった。この時もギリギリ・セーフ。

 社会人になってからの転身でも、苦労もしたがラッキーも多かったではないか。そして今自分はまさにハッピーだ…。

 そうか、僕は他の人と違って普段は大したツキを持ってはいない。だが、ここ一番…となった時、ここが崖っぷちとなった時、必ず奇跡的に大逆転で救われている。これぞ「強運」と言わずして何だろう。

 そうなると、勢い少々強気になっていった僕だった

 そして、それからは…というと、実はそれほど良いことはない。明らかにツキがない、明らかにヒドイ目にあったということも結構あった。

 だけど、僕は自分を疑ってはいないんだね。そして、もう過度に期待もしない。

 実はそんな低迷期にも良いことがあった。この不運もみんなこのためだったのか…と思えるほどラッキーかつハッピーな出来事。こんなに幸せでいいのかとさえ思った。しかしそれも何年後かには悪夢と化した。やっぱり信じたオレがバカだったのか。

 ところがそんな災いさえも、長い目で見れば自分にはプラスだったのだ。結果的には僕にとって良かった。そして、「そうなるしかない」という展開だった…と、今振り返ってみればそう思う。

 だから今は、自分の事をツイてないなんて思ってないよ。そして、もう「強運」だなんて事も思わない

 「運」も「不運」も紙一重。それはモノの考えようということもあるし、あるいは時が経つことによって、ガラリと変わるってこともある。同じコインの表と裏みたいなもんだと分かっちゃったからね。それは当てには出来ない。

 結局はその時その時での最善を尽くすしか、人間に出来る事はないのだから。

 

「運」は人から盗めるものなのか?

 ここはスペインのウカンガの荒野。そこにポツンとそそり建つ建物が一つ。その名もカジノ「クレージーキャッツ」。思えばあの本家クレージー・キャッツも、往年の東宝映画ではカジノの本場ラスベガスに遠征して、大通りで堂々と踊りまくっていた(これホント)。それにあやかろうという訳でもないだろうが、ルーレットにバカラにスロットマシーンに、今日も店内は大盛況だ。そんな中、ルーレットでバカつきにツキまくる一人の男がいた。

 そんな店の警備室で、秘かに一つの指令が飛んだ。「ずっとルーレットで勝ちっぱなしの男がいる。後は頼んだ

 すると、ユウセビオ・ポンセラ…この男の出番だ。

 ポンセラは指示された問題のツキ男の傍らに立つと、さりげなくその男の手に触れた。ギョッとして振り向く男に、ポンセラはすぐに謝る。「すみません、人違いでした」

 そのままポンセラは静かにスロットマシーンに近づき、黙ってプレイを始める。例のツキ男も賭けを再開。するとそれまで負け知らずだったこの男、いきなりこの時を境に負け出すではないか。

 「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 一方、ポンセラがプレイしたスロットマシーンは、いきなりジャラジャラとコインを吐き出す。だがポンセラはそんなスロットマシーンから離れて見向きもしない。これは一体どうした事なのか?

 ポンセラはそのままカジノの地下奥深くに向かった。そこには奇妙な部屋があり、椅子には頭に黒い布をかぶせた、長身の初老の男が一人。その名をハナ肇…じゃなかったマックス・フォン・シドーと言う。それにしてもこの男、一体何をしていたのか?

 そのフォン・シドーに、ポンセラはいきなり別れを告げた。長年勤めていたこのカジノを出ていくと言うのだ。だが、それを聞いたフォン・シドーは血相を変えた。「そんな無責任男な事を言いおって、オマエは植木等か?」

 フォン・シドーは元々リタイアしたら、この店も何もかもポンセラに譲り渡す気だったのだ。そもそもポンセラがまだ子供の頃、地震で生き埋めになっていたところを助けたのがフォン・シドーだった。それからずっと世話を看てきたじゃないか。オマエの“能力”を育てたのもこのオレだ。そのおかげで、ガキんの頃から調子よくぅ〜、コツコツや〜る奴ぁご苦労サンッで生きて来れたんじゃないか。それがここへ来て、プイと出たきり〜「ハイ、それまぁでぇ〜よ」なのか…?

 だが何を言っても動じないポンセラに、フォン・シドーは説得を諦めた。そして恩知らず…とでも言わんばかりに、吐き捨てるように言った。「てなこっと言われて調子に乗って…だ!」

 静かに自室に退いたポンセラは、自分の荷物を持ち出した。そしてカジノを後にしようとしたところ…、彼の前に再びフォン・シドーが現れる。

 「出ていくのなら、オマエを抱きしめさせてくれ」

 その言葉を聞いた時、怯えた表情を見せるポンセラ。だが時すでに遅し。フォン・シドーはポンセラをガッチリと抱きしめた。ガックリ力を落とすポンセラ。

 「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 夜のカジノから、一台のクルマが走り出す。クルマにはフォン・シドーの手下とポンセラが乗っていた。

 「もうこいつは無害だぜ、ボスに“能力”を奪われた

 やがてクルマが止まると、ポンセラがボコボコにされて放り出された。クルマは走り去り、一人道路に置いていかれたポンセラは、思わず泣きも入るというもんだ。「泣けてぇ〜くぅ〜るぅ〜」

 そして7年の月日が流れた…。

 一人の男が血だらけになって椅子に座っている。それはただの椅子ではない。飛行機の座席だ。彼はその座席に座ったまま、飛行機の残骸の中に呆然と佇んでいた。彼は飛行機の乗客で、その飛行機は墜落事故を起こした。彼はそのたった一人奇跡的に生き残った生存者なのだ。

 やがて病院に担ぎ込まれた男は、手術台で衣服をはぎ取られる。するとその腹にはテープで札束が巻き付けられているではないか。

 彼の名はレオナルド・スバラグリア。銀行強盗を働いた後、高飛びのため乗った飛行機で惨事にあった。病院では警察の監視下に置かれる事になる。そんな彼の担当は、女刑事のモニカ・ロペスだ。彼女はスバラグリアが一枚の写真を持っているのに目を付けた。それはスバラグリアが恋人とおぼしき女と撮った写真だ。

 一方、ここは夜の高速道路。そこに二人の男がいた。その片方はいい年こいたパンク野郎で、もう一人の男に自分の身の上話をしている。それはツキで大金を手に入れた自慢話だ。「オレって強運だろ?」

 「ああ、強運だな」と答えた相手の男は、何とあのカジノを放り出されたポンセラだ。

 さてポンセラと別れたこのパンク男、いきなりクルマが猛スピードで行き交う高速の脇に立ち、いきなり黒い目隠しをするではないか。何とこの男、目隠しをして高速を横断しようというのだ。

 ええい、ままよ。

 バーッとクルマの間をぬって走り抜けるパンク男。何とかかんとか高速を横切っていき、最後あとちょっとのところまで行き着いた時…。

 バ〜〜〜ン!

 「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 パンク男はクルマにはね飛ばされ、道路に転がった。強運もそれまでだったのか。そして何たる偶然か、そこにあの女刑事ロペスも居合わせた。彼女はパンク男に駆け寄ると、そこに黒い目隠しが落ちているのに気付く。この男、一体いかなる目的でこんな自殺行為を働いたのか?

 その頃、例のポンセラは保健会社の代理人と偽って、飛行機事故で助かったスバラグリアの病室にやって来た。事故で助かったこの男に、保険金が支払われるのだ。だがポンセラは、彼に不思議な事を告げる。この保険金を獄中では使えまい。ゲームに参加する気はないか? 参加するならオマエを放してここから出してやる。

 それはウソではなかった。ポンセラは病室で監視していた警官たちを眠らせ、スバラグリアを病院から連れ出したのだ。

 逃走するクルマの中で、ポンセラはスバラグリアに二人の間の鉄則を申し渡した。「オレに触れるな」「オレの写真を撮るな」…それはいかなる理由からか、まだスバラグリアは知らなかった。

 さてポンセラはスバラグリアを連れて、とある建物へとやって来る。そこでまずは髪にベットリと糖蜜を付けられ、小部屋へと連れて行かれる。そこにはすでに二人の人物が待ちかまえていた。一人は有名な闘牛士アントニオ・デチェント、もう一人は金持ちの女だ。二人とも髪に糖蜜を付けられていた。実はこの糖蜜には意味があった。ここで一つの賭けが行われようとしていたのだ。賭けのカタは金でなくモノでなければならない。闘牛士デチェントは自分の別荘、女は自分が所有している馬をカタとして差し出していた。だが、スバラグリアには差し出すモノがない。

 「オマエの指をくれ」

 これを聞いてビビッたスバラグリアは、慌てて部屋を飛び出す。「冗談じゃない、指なんかやれるか!」

 だがポンセラは慌てず騒がず彼を止めた。オマエは強運だ、奴らに負ける訳がない。オマエは飛行機事故で助かったじゃないか。

 スバラグリアはそれを単なる「偶然」だと思っていたが、ポンセラは違うと力説する。

 「それは運だ」

 世の中には「運」を持っている人間がいる。それをコントロール出来る人間もいる。そして「運」は、触れる事で人から奪えるものでもある。スバラグリアが助かったのも、偶然ではなく「運」によるものだ…。

 だが、そんな事を言われてもスバラグリアはすぐには納得出来ない。そんな彼にポンセラは畳みかけるように言った。「勝てばオマエを自由にしてやれる。それとも金だけ持って逃げ出すか?」

 てなこっと言われてその気になって、そんなスバラグリアが部屋に舞い戻ったのは、負けず嫌いの性分からか、それとも自分の「運」を試したかったからか。彼は自分の指を賭けた。するとポンセラまで自分の指を賭けに出したではないか。こいつ本気なのか?

 やがて賭けの参加者三人だけになると、部屋が真っ暗になった。三人の目の前に置かれた小箱が開けられて…。

 「もういいぞ!」

 やがて部屋に再び明かりが灯ると、スバラグリアの頭に大きなバッタが止まっているではないか。実は例の小箱には、このバッタが収められていた。そして箱から放したこのバッタが、頭に止まった者が勝利者なのだ。

 スバラグリアは勝った!

 ちょいと一回のつんもりで賭けてぇ〜いつんの間にやんらズブズブ…なのが博打の怖いところ。勝ってご機嫌のスバラグリアは、この後自分にどんな運命が待ちかまえているかまだ知らなかった。

 その頃、例の女刑事ロペスは、病院から消えたスバラグリアの行方を血眼になって追っていた。彼女はこのスバラグリアがどうも気になっていたのだ。そんなロペスには一つのトラウマがあった。それは彼女の胸に刻み込まれた無惨な傷跡に由来があったのだが…。

 さて身の落ち着け先として闘牛士デチェントから巻き上げた別荘に身を落ち着けるスバラグリアとポンセラ。スバラグリアは近くの公衆電話から、秘かに一本の電話を入れる。その電話の先は、写真に写っていた例の恋人の家だった。

 涙ながらに電話に出るスバラグリアの恋人。当初、彼女はスバラグリアと一緒に飛行機に乗るはずだった。そんな話を懐かしげにするスバラグリア。だが彼は、彼女の家に大勢の捜査員がいて、逆探知している事を知らなかった。

 早速捜査員が別荘に駆けつける。慌てて逃げ出すポンセラとスバラグリアは、間一髪で捜査員の手から逃れた。

 翌朝、別荘にあの女刑事ロペスがやって来る。そこには捜査員の前で、賭けでとられた事など毛ほども伺わせずに説明する闘牛士デチェントの姿があった。あの賭けの事は外部には御法度。だからデチェントはスットボケていた。だが逃げた二人は窓も壊さずカギも壊していない。明らかにこの別荘のカギを持っていた…。

 デチェントが臭いと睨んだ女刑事ロペスは、その後デチェントに強気で迫る。ところがデチェントも彼女の素性を調べていた。

 ロペスには夫と娘がいた。だが自動車事故で二人は死亡、彼女だけが生き残った。それが彼女のトラウマだったのだ。

 だがロペスはデチェントが二人の逃走に一役買った事を突き止めていた。そして一歩も譲らない。仕方なくデチェントは、渋々ロペスの捜査に協力する事になる。

 その頃、例のカジノにいるフォン・シドーの元に一本の電話がかかる。電話の主はポンセラだった。これには思わずハナ…いや、フォン・シドーも絶叫だ。「アッと驚くタメゴロ〜っと!」

 何を言うかと思えば、ポンセラはフォン・シドーに再度駆けに挑戦するよう申し入れた。最後に捨て台詞を残して…。「あんたを老衰で死なせはしない」

 デチェントがロペスを連れてきたのは、裏町の安宿。そこで二人は、またしても賭けに参加する事になる。マジック・ミラーの向こう側には何人かの「捕虜」が立っている。賭けの参加者がそれらの一人一人を指名すると、今度は自分の「捕虜」とのご対面だ。そして抱擁…これで「捕虜」の「運」を奪ってしまう。それぞれの「捕虜」はポラロイド写真に撮影され、それが賭けの参加者の「持ち札」となる。賭けに勝った者は、負けた者から「持ち札」を奪う事が出来る。こうして勝った人間に「運」がどんどん貯まっていく…。

 その賭けの真っ最中に、あのスバラグリアとポンセラが後から駆けつけてきた。スバラグリアが選んだ「捕虜」は、いかにも幸薄を絵に描いたような女だ。ところがスバラグリアに気づいた女刑事ロペスは、いきなり銃を取りだしてスバラグリアを威嚇する。「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 だがそんなロペスの歌のフレーズを、別の奴がすぐに続けたのは予想外だった。「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって、コンノヤロォ〜ッ!」 ロペスはいきなり後頭部を殴られ卒倒した。ここで賭けは中断。続きはまた別の場に移される事になった。

 気んがつっきゃ冷たい道路にゴロ寝〜これっじゃ体にいいわっきゃな〜いよっ…と、ようやく目が覚めたロペスはボヤく。そこにあの闘牛士デチェントが、ここぞとばかりに当たり散らした。「オマエのおかげでとんだトバッチリだ!」

 でもロペスは刑事。ついついそこに犯罪者がいると知ったら、手を出さずにはいられなかった。分かっちゃいるけど、やんめられないっと…。

 あソ〜レ、スイ〜スイ〜スイ〜ダララッタァ〜、スラスラスイスイスイ〜ッてな調子に、ご機嫌で次の賭けの場に移動するスバラグリアとポンセラの二人。そのクルマの中で、スバラグリアはポンセラに軽い気持ちで尋ねた。「あの女はどうなる?」

 するとポンセラは事もなげに答えた。「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 バカの一つ覚えみたいにこれしかないのかと言いたくなるのは山々だが、ともかく「強運」の持ち主に触れられた者は「運」を奪われる。弱者必衰だ。「強運」の持ち主にはその「能力」がある。そしてポンセラは、すでにその「能力」のない「ただの人」。石橋エータローもクレージー辞めたら、ただの料理評論家だ。しまいにゃテレビにも出なくなってしまった…。

 さらにポンセラはスバラグリアに熱く語った。この賭けに勝ったら、オマエは大変な栄誉に挑戦出来る。30年間負け知らずの男に挑戦するチャンスが出来るのだ。その男こそ、あのカジノの経営者フォン・シドーだ。彼はユダヤ人としてナチの収容所に送られながら、たった一人生還出来た強運の持ち主だったのだ。そんなフォン・シドーに勝てば、名実共に日本一の無責任男…じゃなかった「世界一の強運男」になれるゾ。

 「よ〜し、ブワ〜ッといこう!」

 ここまで来るとさすがのスバラグリアも、無責任男よろしく思いっきりその気になっていた。だが実は、そんな彼も知らない企みがあった。ポンセラはスバラグリアが眠っている隙に、彼が持っていた恋人の写真を奪っていたのだ。

 ポンセラは、スバラグリアの恋人まで賭けのカタにしようと企んでいた。

 今回の賭けは、今までで一番過酷なものだった。何と目隠しをしたまま、大木の生い茂る林の中を突っ走るというもの。もちろん走っている参加者には、自分の前方がまったく見えない。むやみやたらに走って、運の悪い奴は木に激突するハメになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームは早速始まった。参加者は全速力で駆けていく。だが、次から次と、前方に立ちはだかる樹木に激突し、ケガを負って脱落する参加者たち。それでもレースは終わらない。残り一人になるまで延々引っ張るつもりだ。

 「ひっぱれ〜、ひっぱれ〜、み〜んな〜で〜ひっぱれ〜」

 煽ってる奴はいい気なものだが、やらされている身になりゃたまらない。走っている人間は、たちまち数を減らしていった。そんな中、いつまでも走り続けている奴が二人。片やあのスバラグリア。そしてもう一人は、あの闘牛士デチェントだった。スバラグリアが勝利を確信してもうすぐ林を走り抜けようとしたその時…。

 ガ〜〜〜〜ン!

 何と「強運」の持ち主のはずのスバラグリアが、大木にぶつかって倒れたではないか。勝利者はあのデチェントだった。勝ったデチェントは、狂喜して雄叫びを上げる。そしてポンセラは、ただ黙って見捨てるように血だらけのスバラグリアを置き去りにした。「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 帰る足もないスバラグリアは、仕方なく勝者デチェントのクルマに乗せてもらった。いまや惨めな敗者のスバラグリア。だが、持ち前の盗っ人が首をもたげたスバラグリアは、クルマに載せてあったトランクを思わず開いた。すると…。

 何と、自分の恋人だった女の写真があるではないか!

 思わずスバラグリアは車内で一節うならずにはいられない。「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって、コンノヤロォ〜ッ!」

 だが騒ぎ立てたスバラグリアはクルマから放り出された。仕方なくトボトボ歩くハメになるスバラグリア。だが、こうしてはいられない。

 自分の恋人の身に…彼女の「運」に危険が迫っているのだ!

 一方、「世界一の強運男」への挑戦権を得て、あの闘牛士デチェントはカジノ「クレージー・キャッツ」に乗り込んで来た。その地下室で、フォン・シドーと一対一の勝負だ。そこでは一丁の拳銃が用意される。ロク連発の銃から一個だけ弾丸を抜き、危険極まりないロシアン・ルーレットが行われるのだ。最初はまず黒い布を被ったフォン・シドーに、挑戦者が引き金を引く。どう考えても挑戦者の方が有利なはずだ。闘牛士デチェントは張り切って引き金を引いた。

 カチッ!

 何と弾丸は出なかった。今度はフォン・シドーの番。弾倉を再び空回しして、闘牛士デチェントを狙う。

 バキュ〜ン!

 「ハイ、それまぁでぇ〜よ」

 あぁ、またこのフレーズが出てしまった。ぶっ倒れたデチェントの死体はビニールシートにくるまれ、サッサと片づけられてしまった。またしてもフォン・シドーの勝利。デチェントの持っていたスバラグリアの恋人の写真は、フォン・シドーの手中に落ちた。

 そして、それが彼女の「運」を奪った

 たまたまスバラグリアの恋人の周辺で張り込んでいた刑事が、何と銃を暴発させてしまった。それが隣の部屋にいた彼女を撃ち抜いてしまったのだ。一命をとりとめたものの、深手を負った彼女。女刑事ロペスは彼女が収容された病室を訪れた。

 こうなってしまったのも、元はと言えばスバラグリアのせい。だが、なぜ貴女は彼と一緒に飛行機に乗らなかったのか?

 彼女の答えは意外なものだった。飛行機に乗る直前、スバラグリアは彼女をもう愛していない…と言ったのだ。そして、結果的にそれが彼女を救った…。

 それを聞いたロペスの脳裏に、自分の事故の時の状況が蘇る。もしあの時、自分が夫に「もう愛してない」と言ったなら、夫と娘は死なずに済んだのではないか…? それは不条理ではあるが、生き残った事で常に罪悪感に苛まれていたロペスの屈折した思いでもあった。

 同じ頃ロペスは、駆けに参加したとおぼしき連中が全て同じ保険屋から保険金を得ている事を突き止めた。そこから手繰り寄せていくうちにポンセラ、そしてフォン・シドーのいる「クレージー・キャッツ」に行き当たる。

 ところが一足先に、そのポンセラを押さえた人物がいた。あの敗者となった銀行強盗スバラグリアだ。彼はポンセラをボコボコにすると、自分をフォン・シドーの元に送り込むようにねじ込んだ。

 こうして舞台は三たび「クレージー・キャッツ」に移った。フォン・シドーはあのポンセラがスバラグリアを連れて現れたのを見て絶叫。「アッと驚くタメゴロ〜っと!」…って、もうこればっかり。

 フォン・シドーは敗者となった者が自分に挑戦することをためらったが、スバラグリアが恋人のために駆けに挑むと聞いてなぜか態度を変えた。「愛のためなら、挑戦者の資格がある」

 本来ならフォン・シドーは勝負の前に挑戦者と話はしない。ところがなぜかフォン・シドーは、スバラグリアに自分が強運になった経緯を物語った。それは遠い昔の、アウシュビッツの収容所での物語だった…。

 かくして例の地下室で、スバラグリアの命運を決する勝負が始まる事になった。またしても例の危険なロシアン・ルーレットだ。

 だがその時、女刑事ロペスもこの「クレージー・キャッツ」に潜入していた。秘かに地下に潜り込み、いまにも秘密の部屋に乗り込もうとしていた。

 さぁ、スバラグリアとフォン・シドーの勝負はどう決着するのか? 忍び込んだ女刑事ロペスは? そしてスバラグリアは、恋人の写真を無事に奪還出来るのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は絶対映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例えこの世に「運」があったとしても

 ところで、考えてみれば「10億分の1の男」ってのもスゴいタイトルだよね。

 劇中そんな台詞があったかどうか覚えていないが、何をどう根拠にして「10億分の1」だか分からない(笑)。何だか昔ゴールデン・ハーフが歌ってた「24000回のキッス」って歌みたいだ。ドリフの「8時だヨ!全員集合」でよく聞いた覚えがある。これって確かカバー曲で、ゴールデン・ハーフが歌った時点ですでにかなり古かったはずだし、本当はどこかの外国曲のカバーだった気がする。その歌詞たるやスゴくて、1秒のキッスを1日中やってりゃ合計で24000回だ…とか歌っていたはずだ。だけどそれってどう考えても勘定が合わないよね。1秒のキッスの後に口を離してる時間もあると考えても、ピッタリ24000回って事はないんじゃないか(笑)? まぁ、そこんとこは固い事言うもんじゃないんだろう。そしてこの「10億分の1」ってのもその程度の数字かもしれないね。まずは、スゴイ強運だって事で…。

 つまらない事を書いてしまった(笑)。ともかく、ついにハリウッドに進出したアレハンドロ・アメナーバルを皮切りに、いまやスペインってホラー、SF、スリラー畑の監督の特産地になったみたいだね。

 アメナーバルに次いで、「ダークネス」のジャウマ・バラゲロがハリウッドを視野に入れた映画づくりを始めてる。そしてここにもう一人、この映画の監督フアン・カルロス・フレスナディージョが現れたって訳だ。

 このフレスナディージョって本作が長編デビュー作だけど、国際的名優マックス・フォン・シドーを迎えるなど、すでにワールドワイドなスケールを感じさせる。それと言うのも、「オープン・ユア・アイズ」でアメナーバルに目をつけたプロデューサーのフェルナンド・ボヴァイラが後ろ盾になっているから。この時点で、フレスナディージョが世界進出コースを辿る事は明白だ。すでにハリウッドにリメイク権が売れているとも聞く。まぁ、今時ハリウッドでリメイクなんて腐るほど聞いた文句だが、この人の場合は完全にそのコースに乗った感じだ。

 この映画はとにかく、運って奪う事が出来るってからくりが面白い。何だかM・ナイト・シャマランの「アンブレイカブル」を思わせる話だが、あんなにもったいつけてはいない。キビキビシャキシャキと話が進むし、観客はどうなるどうなると引き込まれてしまう。そして話が核心に近づくと、名優マックス・フォン・シドーがド〜ンと横綱級の貫禄とカリスマで登場してくるから、何だか納得させられてしまうんだよね。ここでのフォン・シドーの起用は大成功だ。ベルイマン映画の名優として注目された後は、もっぱらアメリカ映画のクセ者チョイ役として重宝されっぱなしのフォン・シドー。中にはこれほどの名優にしてもったいない使われ方も少なくなかった。でも今回は、その持てるカリスマを十二分に生かした好演だ。何しろ「エクソシスト」の悪魔払い神父と「偉大な生涯の物語」のキリストをやった人だからね。この男が「世界一の強運男」と言われても、誰もケチのつけようがないだろう。

 この映画、最後まで面白く見れたのだけど、エンディングがどうにもスッキリ来なかった。最後の勝負の場面で、銀行強盗の主人公スバラグリアは「世界一の強運男」フォン・シドーを撃てなかった。引き金を引いても弾は発射されなかった。次はフォン・シドーが引き金を引く番…と、スバラグリアが絶対絶命の場面になった時、いきなり部屋に女刑事ロペスが乱入。派手な撃ち合いのあげく、結果的に生き残ったのはスバラグリア。かくして彼は恋人の写真を取り戻す事が出来た…。皮肉な味わいはあるにせよ、贅沢な話だがもうちょっとヒネリのあるエンディングになるんじゃないかと期待していたんだね。それにしても、これではなぜスバラグリアが勝てたのか分からない。

 勘の悪い僕は見終わってそのまま、しばらくボケ〜ッとしてたんだよね。ところがエンディング・クレジットを見ているうちに、何となくナルホド〜と思い始めていた。すると遅ればせながら僕にも、この映画の言わんとした事が分かったんだね。賢明なるみなさんはすぐに察したのかもしれないが、僕はやっとこ気が付いた。

 考えてみれば、フォン・シドー扮するカジノ・オーナー…「世界一の強運男」は、収容所の他の人々の「運」と引き替えに「強運」を得た。尊い命の犠牲の下に九死に一生を得た。それがこんなところでカジノを経営して「運」を弄び、それで飽き足らなくて命をカタにしたゲームにうつつをヌカしている。これって不謹慎と言えば不謹慎だよね。

 でも、彼はどうしてそんな事をしていたんだろう?

 それは、女刑事のキャラクターにヒントがあるかもしれない。彼女は自動車事故で夫と娘を亡くし、一人生き残った。そんな彼女はずっと罪悪感に苛まれている。自分は夫と娘の「運」を奪ってしまったのではないか。女刑事は主人公である銀行強盗の恋人の話を聞き、彼女がその強盗から「愛していない」と聞かされて飛行機に乗らなかった事を知るや、自分も同じ事をしていれば夫と娘を助けられたかもしれない…と思い悩む。そのあたりを見ても、彼女が罪悪感を持っている事は明らかだ。

 だから「強運男」もずっと罪悪感を持っていた。そして「強運」を誰かに奪って欲しいと望んでいた。だから「賭け」を続けていたのだが、それはいつまで経っても叶わなかった…。

 そして「強運男」もその「強運」を失いたくて「賭け」を続けていたのに、実際に目の前の現れる挑戦者たちには負けたくなかったはずだ。それは彼らがみな私利私欲のために「強運」を欲していたから…。

 思い出して欲しい。「強運男」が敗者であるはずの主人公を挑戦者として迎えた時の言葉を…。「愛のためなら、挑戦者の資格がある」

 主人公が最初に「強運」を発揮した時、彼は恋人を「愛してない」と振り切って飛行機に乗った。それはむしろ「愛」とは正反対の行為に見える。だがその事実を知った時、なぜか女刑事は自分の夫にも「愛してない」と言えば良かったと想起する。

 しかも主人公は、恋人の写真を肌身離さず持っていた。しかも無事を知らせるため恋人の元に電話も入れている。彼が恋人を「愛してない」はずがないではないか。

 「愛してない」は必ずしも言葉通りではない。おそらく主人公は、犯罪者でお尋ね者になった自分が恋人を幸せには出来ないと思ったのではないか。愛しているからこそ、彼女を突き放した。それが女刑事にも分かったのではないか。

 愛しているから突き放す。それはとてもつらい。そして、愛しているから一緒にいる…という事より、ある意味で深い愛情だ。それは無償の愛なのだ。

 そして無償の愛こそが「強運」を生む

 だから主人公は飛行機事故から生還した。逆に彼が私利私欲のために挑んだ林を駆け抜けるレースでは、私利私欲で動いたからこそ敗れ去った。途中のどうでもいい賭けなど、取るに足らない。ここ一番、生死がかかるような運命的な場面では、無私の思い、真摯な気持ちがなければ滅びるだけだ。

 それを「世界一の強運男」は知っていた。だからそれまでの挑戦者はすべて敗れた。彼はそんな真摯な気持ち気持ちを持った人物、真に「強運」を譲るに値いする人物を待っていたのだ。

 それ故に「強運男」は、収容所で自分と最後まで生き残っていた少年が持っていた、妹(姉だったか)の写真を最後に丸めたのだ。あれは彼が真に納得し、覚悟した末の行為だった。

 彼は知っていたのではないか。実は「強運」などありはしない。ラクしてトクしてハッピーなんて事はあり得ない。そんな安易な奇跡などない。「運」などというものが仮にあったとしても、それを人間が弄ぶなんてあってはならない。

 あっていいのは、無私で真摯な気持ちが報われる事だけなのだから。

 

 

 

 

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