「藍色夏恋

  藍色大門 (Blue Gate Clossing)

 (2003/09/01)


  

確実に自分と時を共有した人はいるか?

 こんな僕でも長生きすればいろいろな事がある。大してモテた記憶はないが、それでも女と関わりを持つ事だって何度かはあった。それらがどんな結末を迎えたかは語るに落ちるが、それでも僕にとってはすべていい思い出だったと信じたい。

 それが証拠に…という訳でもないが、そんな女たちの中には、いまだに連絡をとる人間もわずかながらいる。つき合いの度合いはともかく、少なくとも一時はそれなりの感情を抱いていたし、共に時を共有した間柄だと思っている。僕には幸運な事に、そんな女が三人ほどいるんだね

 そりゃあさすがに始終連絡を取り合っている訳ではない。中には本当に長い間連絡をとらず、お互い忘れかけた存在になっちゃっているのもある。だけどたまに連絡をとれば、それなりに相談も出来るしバカ話も出来る間柄だと思っているんだよ。

 もっとも、それらすべてと常に良好な関係を保っていた訳ではない。別れるその時なんか、そりゃもう悲惨な状況だったりした。言い争いや罵り合いもやった。心底腹も立てた。だけど時がすべてを解決したのか、今となってはいい思い出しか残っていない。いや、それはキレイ事かな。少なくとも誰ともそういう関係を築けた訳じゃない。だから、それはやっぱりつき合いの度合いと相手のパーソナリティーってものが良かったんだろうね。そしてつき合った時に心に残った「情」ってもんがあったんだろう。

 人によっては、別れた女とはキッパリ繋がりを断ち切るという奴もいる。それはそれで分からぬでもない。実際僕もキッパリ断ち切った相手はいるし、上に挙げた連中だって常に連絡をとっている訳じゃないから、ある意味では断ち切れている。気持ちの部分でもそうだ。だけど、僕は一時期自分と何かを共有した相手には、男女を問わず「情」みたいなものを感じるんだよ

 だってそれはホントに、お互いにとって何か意味があるものだったはずなんだからね。それがまるで「なかった」ふりをするのは不自然じゃないか? よっぽどイヤな思いをしたとか不利益を被ったというなら別だし、そういう奴は男女を問わず断ち切っている僕だが、そうでなければどこか僕は親愛の情を持ち続けているんだよね。それは親しかった時とは違ったものだけど。

 いや、正確に言えば、何らかの繋がりを残した人間だって、その時にはそれなりにイヤな思いもしたし不利益も被ったよ(笑)。だけど、それを埋めても余りあるような、何かがそこにあったんじゃないかと思う。

 僕は甘いんだろうか。いや、そうじゃないと思うよ。

 だって人生は一人きりのものだけど、誰かと共に走っている時が確実にあるんだからね。

 

自分の思いを持てあます17歳の女の子

 「見えないよ、何も見えない

 17歳の女の子グイ・ルンメイは、そう盛んにつぶやく。そりゃそうだ、目をつぶっているんじゃ…とヤボな事を言ってはいけない。彼女は親友のリャン・シューホイに「目をつぶると将来が見える」と聞かされ、自分でも試してみたのだ。でも、彼女にはまだ何も見えない。将来はまだ暗闇の中だ。

 リャンに言わせると、彼女には大人になった自分が見えると言う。それだけではない。そこに未来の夫の姿も見えると言う。その未来の夫とは…。

 「…誰だか知りたくない?」

 グイが知りたいとも言わないうちに、彼女は自分の「未来の夫」の正体を打ち明けた。それは同じ高校の水泳部の男の子チェン・ボーリン。彼女はチェンの事で頭がいっぱいだ。

 そう聞かされると気になってくるのが人情。グイは自転車で学校から帰る途中、問題の男の子チェンが自転車で帰るところにバッタリ出くわす。信号待ちで待っている間、ついついその顔をのぞき込んでしまうグイ。自分の顔をしきりにのぞき込んでいる彼女に、チェンの方も気づいてしまった。マズイと思ってももう遅い。彼だって女の子が自分を気にしていれば、悪い気はしない。かくして美しき誤解か、去っていくグイをまんざらでもない気持ちで見つめるチェンであった。

 そんなグイに夜中リャンから呼び出しがかかった。そうなると、出かけずにいられないグイ。リャンは彼女を真っ暗な学校へと誘った。学校のプールで、チェンが秘かに毎晩泳いでいるというのだ。

 そんなに気になるなら声をかければいい、グイは泳いでいるチェンに向かって大声を張り上げた。「チェン、誰かつき合ってる人はいる?」

 誰もいないと思っていたチェンは、突然の大声に驚いた。おまけに夜中に学校に入るのは御法度だ。間の悪い事に、守衛がたまたまやって来る。かくしてチェンとグイは、一緒に物陰に隠れる事になってしまった。リャンはいつの間にか姿を消していた。

 「私の友達があなたとつき合いたがってるのよ」

 「そんな事を言って、オマエが俺とつき合いたがってるんじゃないの?

 そんな得意げなチェンの表情にムッときてか、グイは黙って自転車で去って行った。そんな彼女にチェンが大声で叫ぶ。「俺はさそり座のO型、所属は水泳部とギター部だよ!」

 リャンのチェンへの入れ込みようは、もはや半端なものではない。彼女はこっそりチェンの行く先々に立ち回っては、彼の写真を撮っていた。おまけに彼の口をつけたペットボトル、彼の日記帳、彼のボールペンをこっそりくすねてはコレクションに入れた。彼の日記帳に彼のボールペンで、「チェン・ボーリン」と名前を繰り返し書いてみる。そのボールペンのインクが切れる時には、きっと彼が自分に振り向いてくれると信じているのだ。あげくの果てにチェンの写真をバカでかく拡大して顔を切り抜き、それでお面をつくってグイにかぶらせた。

 「こんなに想っているのに、打ち明ける事が出来ない」

 チェン・グッズをかき集めたあげくのこのリャンのつぶやきに、グイはかける言葉もない。ただ、チェンのお面をかぶりながら、親友の身体を抱いてチーク・ダンスのまね事をしてやるしかない。だがチェンのお面の下のグイ本人の気持ちは、果たしていかばかりのものだったか。

 そんなある日、リャンは今度はラブレターをしたため、それをグイに押しつけた。この手紙をチェンに渡して欲しいと言うのだ。再三拒んだグイではあったが、ついには拒みきれなくなってしまう。仕方なく手紙を携えたグイは、例によって学校帰りに自転車でチェンを追いかけた。

 そんなグイに気づいたチェンは、面白がって自転車を全力で飛ばす。延々追いかけを繰り広げたあげく、満足げな顔でグイを待った。だがグイはそんなチェンの得意げな顔がまた気に入らない。怒ったような顔で手紙を突き出すと、一目散にその場を立ち去った。そんなグイの背に、チェンの大声が飛ぶ。「さそり座のO型、所属は水泳部とギター部!」

 ところが翌日、思いもしない事が起きた。そのグイとチェンの名が学校放送で呼び出されたのだ。それも風紀係からの呼び出しだと言う。慌てて駆けつけてみると、昨日の手紙が学校の床に貼り付けてあるではないか。おまけに「ムカツク!」などといたずら書き付きだ。さらに驚いた事には、リャンは自分の名を書かず、グイの名前で手紙を出していたのだ。

 「俺の友達の仕業だ、ごめんよ」

 そう言いながら、実はまんざらでもないチェン。だがグイはむっつりしたまま手紙をひっぺがそうとする。あげくの果てに足でガンガン蹴ってはがそうとするアリサマだ。これにつき合って、チェンも面白がって手紙を足で蹴りつける。全校生徒が注目の前で、二人は床の手紙をいつまでも蹴り続けた

 教室に戻ってきたグイは、授業中にも関わらず憮然とした表情でリャンに声をかける。「あれってどういう事? 私の名前を書いたのってどういう事?

 だがリャンは背を向けたきり黙ったままだ。これにはグイもでかい声を張り上げずにはいられない。「一体どういう事なのよ!」

 チェンはというとスッカリその気で、グイの家までやって来る始末。彼女の母親は自宅前で屋台を営んでいることから、チェンは屋台に陣取って「餃子20個!」などと注文する。これにはグイもウンザリせざるを得ない。

 教室にやってくれば、誰かがグイの机に「ムカツク!」などと落書きしている。肝心のリャンはグイにシカトを決め込んだまま。さすがのグイも憂鬱が増していく。

 そんなある日、国歌が流れて校庭に立っているグイに、あのチェンがニヤニヤ笑いながら近づいて来るではないか。台湾では国歌が流れている間は直立不動だ。それをいい事に図々しく近づいてくるチェンに、ついにグイの堪忍袋が切れた。「何の用なのよ!」

 突然の反撃にたじろいだチェン。そこにグイは畳みかけるように大声を上げた。「何かあたしに用があるの?」

 その時、チェンの自信満々なポーズが消えた。そして意外にも彼は、真摯な表情でうつむき加減につぶやいたのだ。「僕とつき合って欲しい」

 瓢箪から駒。

 グイがチェンのデートの誘いに乗ったのは、果たしていかなる心境の変化だったのだろうか。夏の海。ただ砂浜をほっつき歩いたり、座り込んで話したりの他愛もないものだったが、グイは久しぶりに安らぎを感じた。それにチェンも当初見せていた態度ほど自信満々な男の子でもなかった。「いつもは俺、こんなつまんない男じゃないんだぜ」

 そんな彼を見て心が動いたのか、グイは思わぬ事をつぶやいた。「私とキスしたい?」

 突然の誘いに、チェンはスッカリたじたじだ。「恥ずかしくないか?」

 結局キスの誘いはそのままになってしまった。それでも二人は、海岸でいつまでもフザけあっていたのだが…。

 そんなキス未遂が尾を引いていたのか、ある晩、ジョギング中の学校の教師を見かけて自転車で追いかける。走り疲れた教師は、グイと道ばたに座って一息入れた。そこまでは単に先生と生徒の会話だったのだが…。

 「先生、私とキスしたい?」

 この申し出に、さすがに答えに窮する教師。そんな教師が悶々としているうちに、グイはサッサと自転車で走り去って行った。

 翌朝、教師は昨夜の事を忘れられずに、グイの姿を探して学校中歩き回る。慌てたグイはチェンを探し出して、彼の手を握って教師に見せつけた。それを見て諦めたように去っていく教師。グイは自分でも何をやりたいのか分からなくなっていた。

 そのうちグイは、いつしかあの親友リャンとの親しさを取り戻していた。親友とのつき合いが戻って喜ぶグイだったが、リャンは相変わらずチェンにゾッコンだった。学校ではグイがチェンとつき合っているともっぱらの噂だ。だからリャンは確かめずにいられない。「あなた、彼とつき合っていない?」

 「つき合ってないよ」

 そんなグイは、ある夜またしても学校へ行き、一人プールに泳ぐチェンに会いに行った。そして彼に、唐突に別れを切り出す。当然チェンは納得が出来ない。彼女を追いかけ、暗い体育館へと迷い込んだ。

 そんな彼に、グイはある提案を持ちかける。「あなたの秘密を教えて」

 予想外の申し出に当惑するチェンは、彼女に訥々と話しだした。「俺、ホントは水泳が好きじゃないんだ。あれは奨学金が欲しいためさ」

 だがグイは満足しない。それで「俺、まだ童貞」としょーもない告白をするが、それも却下。仕方なくチェンは彼女に自分のとっておきの秘密を明かす。「俺って小便すると四方に飛び散っちゃうんだ、穴がデカいせいかな?」

 これもしょーもない告白だとは思うが、ようやくグイは満足した。「じゃあこれでおあいこだね。あたしも自分の秘密を教える

 そして彼女はチェンを下階の床に残して、二階へと上がっていった。

 「私は…リャンが好きなの」

 考えもしなかった告白に、慌ててチェンも二階に上がった。そして当惑を隠しきれないチェンは、グイを質問責めにした。俺の事はどうなの、何でキスしようとした、女じゃないとダメなのか…?

 そして、海辺のデートで未遂だったキスを彼女に試みもした

 「これでも、俺と別れるのか?」

 グイにも自分がどうしたいのか、何が何だか分からない。彼女は当惑した思いを抱いたまま、チェンの前から去っていった。その背にチェンの声が飛ぶ。「これで俺たちはオシマイなのか?」

 だが、そんなグイの苦しい想いをよそに、リャンの頼みはエスカレートする。今度はチェンを紹介してくれと言い出したのだ。いくらリャンの頼みとはいえ、それはあまりにツラすぎる。それでもリャンに頼まれれば、イヤとは言えないグイだった。

 かくしてチェンを呼び出して、リャンと引き合わせるグイ。怒ったような表情で「一体これは何なんだ?」と問うチェンを振り切るように、グイは自転車で走り去った。それでもやり切れない想いを抱いたまま、当てもなく街を自転車で走り回るグイだった。

 だが、チェンは納得出来なかった。夢見心地のリャンを家まで送ったものの、その表情は冴えない。そんな彼の気持ちを知らず、別れ際にリャンはチェンになけなしの勇気を振り絞って言った。「私とつき合ってくれる?」

 「ごめん」

 彼女の方を振り返りもせず、チェンはその場を自転車で走り去った。

 そしてチェンは、再びグイの前に現れた。何とか振り切ろうとしても、どこまでも彼はついてくる。やがて折り畳みイスがキレイに並べられた体育館で、二人は激しい揉み合いになった

 立ち去ろうとするグイをチェンが突き飛ばして押し戻す、また立ち去ろうとするグイをチェンが突き飛ばす、立ち去ろうとする、突き飛ばす、去ろうとする、突き飛ばす…何回も何回もいつまでもいつまでも、延々二人の揉み合いは続く。

 一体グイは自分の気持ちに、どう折り合いをつけようとするのだろうか? そして二人の思いは、どのような決着を見せるのだろうか?

 

暗いトンネルを走るには、伴走者が欲しい

 台湾からは今までもいろいろ瑞々しい映画作家が生まれた。この「藍色夏恋」もそんな一人、イー・ツーイェンの第二作だ。考えてみれば、ホウ・シャオシェンもエドワード・ヤンも、この年代の若い男女の思いを映画にしてキャリアの土台を築いて来たんだけど、これって台湾映画の伝統なんだろうか

 この映画を前にして、僕がゴチャゴチャ言うのは意味がないと思う。この映画の素晴らしさは誰でも一見すれば気づくはずだ。主人公カップル二人が学校の床に貼られたラブレターを足でひっぺがそうとしている場面、そして二人が体育館に並べられた折り畳みイスのまっただ中で延々揉み合いを演じる場面など、忘れがたいイメージがいくつもある。それら一つひとつは、とにかく見てもらわなくては良さが分からないだろう。今回映画のストーリーを綴りながら、これほど自分の無力を感じた事はなかった。この映画の良さが全く伝えられてないからね。

 主役の男女、特にヒロインのグイ・ルンメイの瑞々しいことったらない。ボーイッシュな短髪がとても素敵な女優さんだが、その常にムッツリした顔も忘れがたい。だからたまに笑顔を見せた時がまた素晴らしい。

 男のチェン・ボーリンも、最初はカッコつけた自信満々の様子が目立つが、彼女に惹かれ始めて、意外にもウブで謙虚な姿を見せ始めてからグングン良くなっていく。

 僕は彼らをよく知っている。

 彼らは僕と一緒にバカをやっていた。一緒にナンパもしたし、つき合った相手でもあった。もちろん一緒に学校に通ったし、旅行にも行った。彼らはみんな、かつて僕の周りにいた連中そっくりだ。いや、僕らそのものだと言ってもいい。

 ここでヒロインが見せる同性愛的な指向が、本当のものだったのか、思春期の一過性のものだったのか…は、実はあまり意味がない。それが同性であろうが異性であろうが、あの時期の連中ってのは不安定なものなんだ。そして自分の気持ちすら何だか分かってない。冒頭のヒロインの台詞じゃないが、将来なんてまるで分かってない。そんな不安と期待がないまぜになった時期なんだよね。

 だからこの映画を、そんな懐かしい思いをリアリティをもって描き出した秀作…と言ってみたい欲求にかられる。あの時期の少年少女の不安定な心理が手に取るように描き出された作品と誉めちぎってみたくなる。

 だが、本当にそうだろうか?

 劇中、体育館で小競り合いを演じた主役男女は、それが一段落した後でしみじみ語り合う。「思ったようにいかないね」「人生って不公平だ」…それって、実は今の僕らだって痛切に感じている事じゃないのか?

 あるいは映画の終盤で、二人が語る言葉もそうだ。「この夏は何も出来なかったな」「そうやって、大人になっていくって事じゃないの?」

 そう、こんな年齢になっても、僕はいまだに何も出来てはいない

 実際のところ、僕らはいろいろ経験もしてきている。僕なんかもう人生中間点を過ぎて、残り時間がいくらもないなんて思いもする。だけど、どれだけ経験を積もうと思い出を増やそうと、それは過ぎて来たものでしかない。先がどうなるかなんて事は、実はいくつになっても見えやしない。分かったようなつもりになってるだけで、ホントは何も分かっちゃいない。自分や人生について謙虚な気持ちがなくなっちゃっただけなんだよね。

 だから自分が分からないって不安は、実はこの映画の主人公たちとそう変わりはしない。利口になった気がしているだけ、僕らは確実に愚かになっているだけなのだ。

 そういう意味で、自分がもう分かったつもりになっている「大人」の僕らは不幸だ。そして、まだ若いのに「人生なんてこんなもの」と分かったようにうそぶく、イマドキの若い人もかわいそうだと思う。そのうちイヤという程気づく事になるんだからね、「こんなもの」なんて人生はないって事を。あるとしたら、それは人生を「こんなもの」にしてしまった自分の愚かさだけだ。

 劇中でヒロインがやり場のない悲しみから、ついつい母親のベッドに潜り込む場面が秀逸だ。彼女はそこで母親に「どうやってお父さんを亡くした悲しみから立ち直ったの?」と尋ねる。それに対する母親の言葉はこうだ。「知らず知らずにね」

 それを聞いてヒロインは思わずつぶやく。「早くその日が来ればいい」

 でも母親は知っているのだ。そんな日なんて来ないって事を。実は当の母親自身思っているに違いない。「早くその日が来ればいい」…と。

 結局、人生とは真っ暗なトンネルの中を、無灯火で自転車で突っ走っているようなものなんだろうと、今になってみて僕は思う。以前は目をつぶって足で駆けていると思っていたけど、この映画を見たら「自転車」って気がしたね(笑)。まぁそれは冗談なんだけど、それでも我ながらいいセン突いているような気がする。

 そんな真っ暗なトンネルでは、走っている奴それぞれは一人ぼっちでも、時には誰か伴走者がいて欲しい

 映画のエンディングは、二人が笑顔で自転車を走らせている場面だ。それはまるで永遠のように見える。男の子はヒロインに「いつか男を好きになる時が来たら、真っ先に知らせろ」と告げた。そんな日が来るかどうか分からない。彼女は男は好きにならないかもしれない。なってもその時に彼と結ばれる事が出来るかどうかは分からない。それでもいい。

 そんな思いを共有出来たこと、その事が一番重要だ。その時、ヒロインには確実に彼がいた。そして何もかも分かり合えた。笑顔で語り合えた。人生でそんな相手を見つけられる事は希だ。そんな瞬間を持つことはめったにない。そんな思いを抱けることは難しい。だからこそその事自体が、何にも増して大切だと思えるのだ。

 暗いトンネルを共に走る、伴走者がいたということが。

 

 

 

 

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