「HERO/英雄

  英雄 (Hero)

  ロング・バージョン

 (2003/08/25)


  

 

 

手早く結論知りたい人はこちら

 

 

 

「HERO/英雄」を巡るビッグ対談

チャン・イーモウVSチェン・カイコー

非公開録音テープ極秘独占入手

2003年7月×日 横浜中華街・中華喫茶「ツィイー」にて

 

 さる7月のある日、「HERO/英雄」試写会で日本へやって来たチャン・イーモウは、共に中国映画を支えて来た盟友チェン・カイコーを招いて、某映画雑誌のために秘かに特別対談を行いました。しかしその後チェン・カイコー側からストップがかけられ企画は没となり、後には対談の模様を収録した録音テープだけが残されました。「DAY FOR NIGHT」ではこの対談テープを独自のルートから極秘入手に成功。ここにその内容を公開することが出来ました。全世界の映画ファンに送る、衝撃の独占スクープをお楽しみ下さい。

 

チャン・イーモウ(以下・イ):お久しぶり。

チェン・カイコー(以下・カ):よお、元気にしてた? 呼び出されてビックリしちゃったよ。何でまた日本で…と思ってさ。

イ:「HERO/英雄」のビッグ・マーケットでの公開では、日本が一番最後なんだよ。それで東京での試写会に呼ばれて、ついでだったらこの対談もこっちでやろうかなって。それでこうしてチェンさんに来ていただいたと。

カ:あ、そんな固ッ苦しい言い方はナシなし! いいじゃんいいじゃん、オレとオマエの仲なんだから「ちゃん」づけでも呼び捨てでもさ。うん…でもまぁ、外国の方が気楽に話せるってことはあるわな。

イ:今日はまず「HERO/英雄」のDVDを持って来たんで、ここで見ながら話をしようかと。

カ:いいよ。あの「始皇帝暗殺」のオープン・セットは、オレもさぞかし見るのが懐かしいからなぁ…。

イ:またカイちゃんそれを言う。カンベンしてくれよ(笑)。

カ:いやぁ、ここぞとばかりチクチク言わせてもらうぜ(笑)。大変だったんだよ、あのセットつくるの。日本の奴らが金出し渋っちゃってさ。あいつらカネ持ってるくせにセコくてさ。それをオマエは「HERO/英雄」でチャッカリ利用しやがって。

イ:そりゃ「HERO/英雄」のセットについては、もうすべてカイちゃんのおかげって。

カ:何を調子のいい事言ってやがるんだバカ野郎(笑)。オレだってなぁ、最新作の北京ヴァイオリンが大絶賛で大変なんだよ。忙しくって忙しくって…それを何が悲しくてオマエの映画のための対談しなくちゃいけねえんだよ(笑)。

イ:まぁまぁ、ともかく映画を一緒に見てくださいよ。プレーヤーのボタン押すからね。

カ:あ、その前に青島ビール2〜3本持ってこさせて。それとツマミをザーサイか何か。

 

 

 

ここから映画スタート

 

 

 

中国映画を引っ張ってきた二人の軌跡

カ:ま、実はこの映画って言いたいこといろいろあるんだけどさ、でもさぁイーモウも堂々たる娯楽映画を撮るようになったもんだよねぇ。

イ:それはお互いの課題だったじゃない。

カ:うん、まぁね。あ…そうだ、忘れてたよ。元々イーモウって娯楽映画撮る人だったわ。あの「ハイジャック/台湾海峡緊急指令」とかいうやつだっけ(笑)?

イ:イヤミだよなぁ。それは言わない約束だったじゃない(笑)。アレの事はみんなもう忘れてるんだからさぁ(笑)。

カ:アッハッハ! イヤがると思った(笑)。でも、なかったことにはさせねえぞ。あの映画ってわざわざコン・リー出してるんだから、オマエはマジで撮ってたはずだよな。だからオレ、イーモウに全然娯楽志向がないとは思わなかったよ。

イ:うん。それはそうだよ。でも、アレはまだヘタッピーだったからね。

カ:ここでハッキリしておきたいんだけど、ちょっと乱暴に言ってしまえば、やっぱミニシアターでかかるような狭いお客を相手にする映画って、実はつくりやすいかもしれないって事はあるよな。難しいのはやっぱり多くの人に見てもらうような娯楽映画なんだよ。お客さんを楽しませるのって難しい。失敗するとすぐボロ出ちゃうしさ。

イ:そうそう。映画ファンってそこを誤解してるよね。アート系映画が高級だって思ってるみたいだけど、あの手の映画ってさ、下手クソなのなら高校の映研だって撮れるんだよ(笑)。でもって、それの下手クソさ加減をごまかすのも簡単だしね。ケナされりゃ、この芸術が分からない客がバカだって言ってりゃいい(笑)。あるいは一部のシンパだけ喜ばせるようなマニアックな映画とかさ。娯楽映画はそうはいかないよ。ダメなものはダメだもん。ホントは「ターミネーター3」みたいのつくる方が大変なんだよね。映画ファンはバカにするけどさ、娯楽映画の世界はキビしいんだよ

カ:大変だよぉ。オレが「ターミネーター3」の監督だったら降りちゃうよ。だってあのシリーズの三作目だろ? それでシュワ氏はもう落ち目だし、ファーロングはヤク中で降板するしでさ。勝ち目ないじゃん。

イ:そうかなぁ? オレはカイちゃんだったら受けて立つと思うな。大体難しいとなおさら燃えるタチでしょ? 元来が派手好きだし(笑)。

カ:まぁ、そうかな(笑)。「始皇帝暗殺」とかキリング・ミー・ソフトリーなんか、そう言われりゃ他の奴ならやらないわな。

イ:そうだよ。オレは石橋叩いて渡る方だから、とても出来ないもん。そういうとこ、カイちゃんスゴイなってずっと思ってたんだよ。うらやましいとは全然思わないけど(笑)。

カ:悪かったな(笑)。まぁ、それはお察しの通り単にアホってことだよ(笑)。でもオレはチャレンジャーって好きな訳でさ、そういうのに過剰に血が騒ぐって事はあるね。パイオニア精神っつーのかな。大概それが災いするんだけど(笑)。

イ:でも、あの頃はオレもカイちゃんも、ほとんど同じように限界感じてたからね。

カ:そうそう。さっきの話じゃないけどさ、オレたちの映画って外国のミニシアターかどこかで、神棚に上げられちゃって鑑賞していただいちゃって。でも、そういうのってどこか違うって思っちゃってさ。

イ:あの頃、カイちゃんよく言ってたよね。

カ:やっぱさ、偉そうな話をすれば、映画ってつくるのにお金もかかるし、多くの人に見てもらわなきゃならんわけよ。元々大衆のものじゃない。それをさ、偉そうに神棚に上げられて岩波ホールとかBUNKAMURAル・シネマとかにかけられて、それで喜んでるようじゃヤバイわけよ。こりゃやっぱ何か変だよなって思うじゃない?

イ:それでカイちゃんは香港のお金で「さらばわが愛/覇王別姫」撮ったんだよね。「花の影」とかさ。

カ:まぁね。その節はコン・リー借りちゃって申し訳なかった(笑)。でもオレは彼女に何もしてないからネ(笑)。でも、あの路線ってウケた事はウケたけど、煮詰まるのも早かったんだよね。結局基本的にはやっぱり上映もババアが集まるル・シネマどまりだったし(笑)。

イ:それでもっと外国からお金集めて「始皇帝暗殺」つくったんだよね。

カ:う〜ん。「始皇帝」の話はいいよ(笑)。その頃、イーモウは「上海ルージュ」だっただろ?

イ:こっちもあまり話したくないなぁ(笑)。フランスからお金もらって撮ったんだけどさ。まぁ、あれは一応オレなりの娯楽映画路線なわけだったけど…。

カ:おフランスざんすって感じだったよな(笑)。あの時にはお互い外国のお金で、どこか海外向けみたいにやってみようとしちゃったんだろうな。それがまた、まぁず見事にコケちゃった。やっぱどこかうまくなかったんだわなぁ。

イ:オレはやっぱり、アメリカとかヨーロッパみたいな娯楽映画をつくるのは、向いてないのかなぁ…と思ったんだけどね。

カ:う〜ん。「まんま」はね。だけど、オレたちなりのやり方ってあると思ってはいたんだよ。だから、そこでオレとイーモウは対照的な道を行くわけだ。オレはハリウッドやイギリスに行っちゃうし、イーモウは中国に留まって、また農村からやり直すと。

イ:いや、オレの場合はその前にキープ・クールがあるんだけど。

カ:あ、あれは凄かった(笑)。オレも見てビビッたもん、あの大人しいイーモウがキレちゃったなって。

イ:うん、キレてた(笑)。

カ:やっぱりコン・リーに逃げられたのは痛かったか(笑)。いや、別にオレはバカにしちゃいないぜ。やっぱり作品をつくったりするパワーにしろ何にしろ、世の中は男と女のチ●コマ●コでさ。

イ:何、そのチ●コマ●コって?

カ:日本語で・・・・の事を言うらしい(笑)。さっきそこの日本人に教わったんだけど。ホラ、覚えたての言葉って使いたくなるじゃん(笑)。ま、ともかくそのチ●コマ●コが、結構創作のモチベーションになるって事はあるんだよ。見てる方は何か高級な話にしたがるし、そういう事を言うと「冒涜だ!」ってキーキー怒るけどさ。創作者にとってみれば、作品ってメシ食ったりクソしたりセックスしたりの延長線上にあるわけじゃん。人生の一部なんだからさ。

イ:そうねぇ。彼女の事は関係ないとは言えないね。

カ:あと、イーモウの場合は活きる事件があっただろ? カンヌで中国代表団退場って。

イ:あれはねぇ、正直言ってムカついたよね。

カ:おっ、イーモウ珍しく激高してるじゃない(笑)。

イ:だってさ、こっちは一生懸命政治の話じゃなくしようとしてるんだよ。共産党をコキ下ろしてる訳じゃない…コケにはしてるけどさ(笑)。お話の中に文革とか出してるけどさ、誰が悪いって訳じゃないって映画でも言ってるじゃない。それなのにイチャモンつけてくるんだから、もうこれじゃマトモに中国で現代史を扱った映画は撮れないなって思っちゃったよ。

カ:お上は訳わかんない事言ってくる、女は訳わかんない事言ってくる。まぁ、どっちも元から態度はデカいもんだけど、そりゃいくら温厚なイーモウだって怒るわな(笑)。でも、オレが「キープ・クール」を見た時は、そんな事よりもウォン・カーウァイのパクりの方が目立ってた(笑)。

イ:え? 分かってた?

カ:そりゃあ分かるぜ。「恋する惑星」とかみたいにやりたかったんだろ? さっきも言ったけど、イーモウって我が道を行くようで、結構自分と全然違う監督を意識したりもするよね(笑)。

イ:うん。だから「HERO/英雄」でクリストファー・ドイルと組めたのは感激だったりして(笑)。

カ:まさかサインはねだれないだろうけど(笑)。でも、ウォン・カーウァイはあそこでやめといて正解だよ。あんなスカし野郎のマネなんざ、天下のチャン・イーモウがするこたぁないぜ。

イ:ハハハ! やっぱりカイちゃん、あいつのこと嫌ってると思ったよ(笑)。

カ:サングラスなんかかけやがって、ええカッコしいのイヤミな野郎だよ。映画もスカしてるし。

イ:ま、そんな訳で、すぐに農村に行ってあの子を探して撮ったんだよね。

カ:だけどオレはねぇ、正直言ってあの路線ってちょっぴり寂しかったよな。イーモウって力のある作家なのに、何だかやけにチマッとした世界に縮こまったなぁって思えちゃって。そりゃうまいけどさ、イーモウならうまくて当たり前なわけ。何だか挑戦するダイナミックさに欠けちゃったかなって気がしちゃってさ。

イ:オレはカイちゃんと違うから、派手派手に海外とか行かないしね。それに、「活きる」であんな事になっちゃったら、もうリアルな現実を描く映画は撮れないじゃない。またお上から何言われるか分からないもん。もう、そういうのヤになったんだよね。それと…まぁ大人の人間関係とか愛情とかにも、オレごときが偉そうな事を言える立場かな…って思えちゃってさ。何もかもめんどくさくなった。…だから単純素朴な世界に行きたくなったわけ。

カ:やっぱりコン・リーの事は大きかったんだねぇ。結局チ●コマ●コな訳だ(笑)。

イ:それデカい声で言わないでよ。ここ日本なんだよ(笑)。オレたちは言葉違うから抵抗ないけど…(笑)。さっきの話で言うとさ、それでもアレはオレにとっての模索ではあったわけよ。オレなりの娯楽映画づくりのさ。

カ:それ言われると耳が痛い(笑)。オレも何とか娯楽映画づくりの道を探りたくて外国行ってたんだよな。で、とにかく向こうで一本撮るまでは、石に囓りついても帰れないって思ってたからねぇ。そこでイーモウの初恋のきた道見た時の気持ちを察してくれよ。

イ:ちょっとキツかったかな(笑)。

カ:キツいなんてもんじゃないだろう(笑)。あの映画でわざとらしく「タイタニック」のポスターを写したのは、オレに見せたいからだよな?

イ:うん。たぶんカイちゃん見ると思ってさ。

カ:オレはハリウッドもビックリの大作つくろうとして「始皇帝」でコケた。それでも懲りずにハリウッドやイギリス相手に映画を撮ろうとしてる。そんな最中に、“オレたちがハリウッドと対抗するにはこういう道しかないよ”…って言われたようなもんだぜ。欧米人のマネしたって無駄だよ…って言ってるようなもんじゃないか。あれはショックだったよ。…ところでオマエ、チャン・ツィイーとはやったの?

イ:なんだい、藪から棒に(笑)。何でもないって。

カ:やったかどうかで言えよ。…やったのか(笑)?

イ:だ・か・ら〜、いいじゃんどうだって〜(笑)。オマエだって若くてキレイな女房とよろしくやってんだろう? なにがチ●コマ●コだよまったく(笑)。

カ:いや、だってその次の至福のときじゃ、ドン・ジエちゃん脱がしまくってたじゃない(笑)。こいつマジメそうに見えて助平だな〜って思ってさ(笑)。

イ:それはちょっと見方が不純なんじゃないの(笑)。イギリス行ってもっとスケベな事やってきたクセにさ(笑)。

カ:アハハハ! まぁ、でもオレもダテに外国行った訳じゃなくてさ。向こうで映画撮るって事は、生活習慣から言葉からハンデが多くなる訳じゃん。そういった困難乗り越えてやる以上は、やっぱり向こうでなきゃ出来ない事の一つや二つはやりたかった訳だ。そうなると、まずはエロって事になるわな(笑)。

イ:でも、「キリング・ミー・ソフトリー」っていろいろ言われたけどさ、オレはやっぱりアレはカイちゃんでなきゃ出来ないなって思ったよ。何で天下のチェン・カイコーが…って知らない人は言うだろうけど、そりゃ外から見てるだけだからそう言うんであってさ、すっごく大変な事だろうからね。そこんとこはちゃんと認めてくれないとな…って思ったよね。

カ:いやぁ、そう言ってもらえるとさ…(絶句)。実際ツラかったもん、アッチじゃ。正直言ってもうバターとかパンとか食いたくない(笑)。イギリスってえらくメシがマズくてねぇ(笑)。

イ:映画ファンなんかは商業主義に走ったとか簡単に言うけどさ、オレたち客入らなけりゃ次撮れないし、これでメシ食ってるんだから商業主義に決まってるじゃん(笑)。バカ言ってるんじゃないって。大体、商業映画じゃない映画ってどんな映画の事言ってるんだろう? 自動車教習所で見せる交通事故の映画とかのことかな(笑)?

カ:そもそもさ、映画ってもの自体がどんなに安くたって、そうそう個人レベルでつくれるもんじゃないんだよな。絵画や小説なら一人でよがってりゃいいだろうけど、映画はそうはいかない。その時点で、商業主義的な発想は持たざるを得ないわけ。商業主義という言い方に語弊があるなら、大衆的って言うべきかな。それに人様のお金ふんだくって、2時間もイスに座らせてだよ、楽しませないで能書き押し付けるなんて失礼じゃねえか。それは決して大衆に対する妥協なんかじゃないよ。

イ:そのへんの事って何だかんだ言ってもさ、オレたち同士じゃなきゃ分からないとこってあるよね。

カ:うん。それはある。ほとんど一緒に中国映画の第一線でやってきたからね。そして、同じ問題にブチ当たった。そりゃオレたちみたいな立場に立った人間以外には、なかなか分からないよな。例えば「キリング・ミー・ソフトリー」にしても、あのラブシーンで絹の生地出していろいろやったのは、オマエの「菊豆」をちょっぴり意識したんだぜ(笑)。今だから話すけど。

イ:パクりはオレだけじゃなかったわけだ(笑)。

 

黒澤映画に見いだした作家性と大衆性の両立

カ:映画を良くするためなら、パクりオッケーよ。黒澤パクりもオールオッケー(笑)。黒澤久男も林寛子と離婚するし、何でもアリよ(笑)。今回は見た目には「乱」の影響があって、真ん中に「羅生門」入ってるってお得な構成になってるもんな(笑)。

イ:それはズバリご名答と言っておくよ。でもそれは黒澤「まんま」パクりというより、黒澤に通じるダイナミズムを注ぎ込んだって感じかな。

カ:そうだろう? うん、オレも今それを言おうと思った。これってチャン・イーモウの新たな展開というか、新機軸の娯楽大作路線とかって言われるだろうけど、オレはちょっと違う見方してるんだ。…これってさ、ハッキリ言うと「紅いコーリャン」パート2だろ(笑)?

イ:うん…。パート2ってことはないけど(笑)。

カ:じゃあ「紅いコーリャン・フルスロットル」でも「リローデッド」でもいいや(笑)。

イ:でも、さすがカイちゃんだよね。撮ってた時は気づかなかったけど、これってどこか「紅いコーリャン」に通じるところがあると思う。特にダイナミックなパワーがみなぎってるところかな?

カ:作家は処女作に向かって成熟する…って言葉があるのを知ってるかい? 実際そうらしいんだ。一番最初の作品にその作家のエッセンスみたいなものが全部詰まってて、いろいろ回り道をしたあげく、最終的にはまたそこに戻っていくらしい。それが「成熟する」って事みたいなんだよね。だからイーモウにとっても、今回の作品って新境地であるかもしれないし、また原点復帰の作品とも言えるんじゃないかな。

イ:そうだね。思えばこんなパワフルな作品って久々だったかもね。スターいっぱい使って、でっかいセットつくって、CGとかワイヤーとか使ってってくれば、かなり今までと様変わりしてる感じがするけど、それって外づらの部分だけでね。そりゃ確かに長い間映画つくってくうちに徐々にいろいろ限界とかチマッとしてくる部分に気づいてきて、やっぱり映画は大勢のお客さんに見てもらわなきゃあって思ったりもして、こういう作品が出来たわけだけどさ。でも結果的には、何だかぐるりと回って「紅いコーリャン」に戻って来たみたいな。あの野太い感じというかさ。地鳴りっていうか地響きみたいなダイナミズム、エネルギーを出してみたかったんだよ。

カ:ところで、さっき黒澤の名前が出たから言うんじゃないけど、うっとりするような色だよねぇ。

イ:黒澤…ってくれば、ワダ・エミの衣装のことを言いたいんだろ? いやぁ、いい仕事してくれたよ。赤、青、白、緑、黒…鮮やかな色でね。確かにアレはワダ・エミのアイディアなんだけど、そこに撮影のクリストファー・ドイルとか美術スタッフとかが乗ってくれたからね。

カ:グリーン・デスティニーはどちらかと言うと渋い色合いだったけど、こっちは原色がバンバン出て鮮やかだもんな。こういう色を扱わせたらイーモウの独壇場だよね。

イ:ま、元々映画でのキャリアはカメラマンからスタートしたからね。

カ:オレのデビュー作「黄色い大地」はオマエが撮ってくれたんだよな。あのホントに真っ黄色な地面は凄かった。だけど、後になってどいつもこいつも、「黄色い大地」がいい映画なのはチャン・イーモウのカメラのおかげだって言いやがる。ムカつくぜ。

イ:まあまあ(笑)。でも、ああいった大胆な色の使い方は好きだね。

カ:今回だって、美術スタッフはオレと組んでた奴らだろ? またパクりやがって(笑)。…まぁ、動きもエレガントでゆったりしてるし重量感もあるしでウットリさせられるんだけど、これで上映時間1時間半ちょいってのは驚きだよね。もっと長いかと思ったよ。

イ:おそらくさ、すごく緊張感を伴う戦いの見せ場とかって、一瞬でケリがつくんだけど見る側にはすごく長く感じられるんだよ。それですごく長いように感じられたんじゃない? そんなような事を、「椿三十郎」のラストについての話で黒澤明も言ってたよ。

カ:また黒澤か。チャン・イーモウの陰に黒澤あり。今回の「HERO/英雄」を見て、初めてオマエの黒澤好きを実感したよ。今までそんな事知らなかったぜ。

イ:うん、好きだよ。今回は徹底的に黒澤でいくとキメたから、ワダ・エミだって使ったんだ。

カ:確かにこの映画での人民解放軍使った秦軍のモブ・シーンって、「影武者」「乱」あたりの後期黒澤戦国モノの雰囲気が濃厚だもんな。それより何より…そうかそうか、あのCGまで使って矢がジャンジャカ降ってくるスゴイ場面を撮ったのは、アレってオマエ「蜘蛛巣城」のかなり露骨なパクりだな。オレ、今ごろになってピンと来たよ(笑)。

イ:引用と言ってくれよカイちゃん(笑)。でも、勇壮で男性的な黒澤映画のイメージはかなり利用したかな。

カ:ほ〜っ、「蜘蛛巣城」のアレは「スカーフェイス」のブライアン・デパーマも引用してるけど、オマエのとは180度違うよな。同じ元ネタとは思えない(笑)。オマエの方が自分のモノとして消化してるよね。

イ:オレはさ、どっちかと言うと内向的でコチョコチョした話より、一筆書きみたいにド〜ンとしてる話の方が好きみたいなんだよね。だから「紅いコーリャン」だってちょっと「七人の侍」みたいな勇ましいところとかプリミティブなパワーとかあるだろ? 「初恋のきた道」だって、チャン・ツィイーがカマトトだとかいろいろ言われたけど、あれくらいキャラクターがハッキリクッキリしてた方がいい。「秋菊の物語」だってヒロインはハッキリクッキリしてる。…黒澤映画ってみんなそうじゃない

カ:逆にコチョコチョと気取ったことやると、「上海ルージュ」みたいなことになるってわけか(笑)。

イ:その映画の話はいいよ(笑)。「始皇帝暗殺」の話しようか(笑)?

カ:カンベンしろよ(笑)。でも、イーモウがここで黒澤をこんなにハッキリ持ち出して来たのには訳があるだろう? 今回は黒澤でいく…とキメた理由があるはずだよな。

イ:うん。今回オレがやりたかったのは中華チャンバラだけどさ、「グリーン・デスティニー」のアン・リーがオマージュしたのが武侠映画の巨匠キン・フーなら、オレは黒澤だったってのにはやっぱり訳があるよ。東洋のアクションを世界に通用するモノにした先駆者と言えば、まずは黒澤でしょ?

カ:そこに黒澤噛ませれば、世界に流通する今の映画になるってわけか…。黒澤と言えば、ハリウッドの連中とかも視野に入ってくるもんな。…アッ!そうか、オレはウカツだった…。黒澤って言えばベネチアだカンヌだで賞も取ったし、世界中の誰もが認める巨匠だよな。その作品は職人や御用監督として撮ったものじゃない。誰がどう見たって作り手の創作欲から生まれた「作家映画」だ。でも、それが十分ハリウッドでも通用してしまう。リメイクすれば西部劇にもなるし、イマドキの監督はそれをネタに「スター・ウォーズ」までつくっちゃう。もちろん映画もヒットする。…そうか、そうだったのか

イ:カイちゃん、やっとそこに気づいてくれたかい(笑)?

カ:オレたちゃ質の高い映画をめざしながらも、もっと多くのお客さんに届く映画をつくりたがってたよな。それでオレは「始皇帝」までやっちゃってドツボにハマったし、オマエは「上海ルージュ」で行き詰まった。その後、オレは海外へオマエは農村へと対照的な方向へ行ったけど、実は探していたのは同じモノだったんだ。

イ:そうだよ、それはずっと変わってなかったよね。

カ:オマエが「初恋のきた道」の中で「タイタニック」ポスターをチラつかせてオレに言おうとした、“オレたちがハリウッドと対抗するには欧米人のマネしたって無駄だよ”…ってのはコレだったのか? オマエが辿り着いたのは黒澤か?

イ:東洋ローカルのはずなのに、ハリウッドをはじめ世界をノックアウトするインターナショナル性。それより何より、作家映画なのに娯楽性満点…って、オレたちがめざしてたもの“まんま”じゃないか。アントニオーニとかベルイマンとか、いわんやサタジット・レイじゃ西部劇はつくれない。

カ:そうだよそうだよ。アン・リーは元々どこか西洋に片足つけたカタチで映画をつくってきたから、一度ちゃんと自分のルーツを掘り下げた上で、中国ドメスティックから世界に発信していく形で映画をつくりたかった。そのテコとしての巨匠キン・フーが必要だったわけだよな。でも、それはその後で思いっきり西欧へ…っていうかインターナショナルへハンドルを向けるための通過儀礼でもあった訳で、その方向性は後につくった楽園をくださいとかハルクを見てもよく分かる。「グリーン・デスティニー」でチョウ・ユンファとかミシェル・ヨーとかユエン・ウーピンとか、なぜか中国から西欧…ハリウッドを通過した奴ばかりを使った理由はそこなんだ。

イ:でも、オレの「HERO/英雄」はそんな映画じゃない。めざしているのもそれとは違う。

カ:ああ、そうだとも。元々どっぷり中国人でそうした映画もつくってきたイーモウは、自らのアイデンティティーを問い直して明らかにする必要がない。では何を模索していたかと言うと、オレたちならではの、ハリウッドに対抗しうる娯楽映画だ。そして作家映画と大衆性の両立だ。それをやり遂げていた人物がすでにこの東洋にいたとすれば、それをパクらない手はないわな。

イ:その通り。で、それを出来ていた人物は、映画100年の歴史を通じて、世界の映画界広しと言えどもたったの一人だけ…。

カ:そうだよ、黒澤明だよ。黒澤にはそれが出来ていたんだ。なるほどなぁ…オマエそこに目をつけたのか。

イ:長かったよ、ここまで来るのには…。もちろん、こうした今までの経緯があってさ、それで今回はたまたま黒澤という事になったけどさ。少なくともこれで、オレたちが今までずっと探し求めて来た事には、一応の終止符を打てるんじゃないかと思うんだよね。

 

暗殺者と秦王に託したチャン・イーモウの意図

カ:くそ〜シャクだなぁ…シャクだけど大したもんだ。やられたよ。今回のオマエのこの映画にはすっかりやられた。ただねぇ…オレに言わせりゃ、一つだけちょっと気になる点があるんだな。

イ:それって何?

カ:それはだなぁ、オレが苦心惨憺して作り上げた「始皇帝暗殺」のセットをまんまとパクって使ったっていうとこがだなぁ…じゃなかった(笑)、この映画での始皇帝…この時はまだ秦王だけどさ、こいつの扱いの問題だわな。

イ:ああ、それ言われると思ったよ。本当は暴君で有名な始皇帝を、まるで名君みたいに描いたのはいかがなものかって事だろ?

カ:だってこいつ独裁者なんだぞ。それを、こいつの天下統一を肯定しちゃうってのはだな…。

イ:肯定してるつもりはないんだけどね。

カ:そりゃ、戦乱の世が続けば無駄に人が死ぬから、こんな奴でも国をまとめてくれれば安定はするって点は認めるよ。認めるけど、それをバ〜ンと言い切っちゃうのはなぁ。だからみんな我慢しろって言うのか?

イ:まずはさ、そんな事が分からないオレじゃないってオマエだって思うだろ?

カ:オレとしては、何となくあの「活きる」事件が何らかの関係ありと踏んでいるんだがな。

イ:う〜ん。

カ:あの時も、結局当局にはにらまれちゃったけど、オマエとしては中国共産党を責めたつもりはないんだわな。いわゆるそれまでの中国映画の「文革恨み節」とは一線を画してるよ、と。

イ:まぁね。そりゃ悪いこともいっぱいやったと十分承知はしてるけどね。

カ:オマエはこう言いたいのか、あれはあれで、あの時代に中国が独立して戦禍の焼け跡から立ち直ってやっていくには必要悪の面もあったと。

イ:そう言われちゃうと誤解が誤解を呼びそうなんだけどね。それはオレたちだって、十分バンバン叩いてきたじゃない。あそこではもうあえて、そんな事をグダグダ言う気はなかったよ。

カ:じゃあ例えばさ、米ソ冷戦ってのはなかった方が良かったことだけど、いざなくなってみれば世界はこういうテイタラク…ってことも含めてか?

イ:いや。だから、これを政治的に言っちゃうと語弊があるんだよ。それで秦の時代に持って来たってとこもあるし、ワイヤーワークやCGの娯楽映画にした意味もあるんだ。これはおとぎ話だ。それで例え話でもある。秦王は出てくるけど、アレは天下統一できるすごい権力者だったら別にどんな奴でもいいんだ。だけど武侠モノの形をとるんなら、そこはそれスケールでっかく秦王と来た方が面白いし、通りもいいだろう? それに実際に天下統一したのは秦王だしね。

カ:でも、秦王は秦王だぜ。

イ:う〜ん。さっき話の勢いで中国共産党の話が出ちゃったから、余計変な方向に話がいっちゃったけど、実はこれってそういう話でもないんだよ。国をちゃんと治めて安定させるためなら、みんな必要悪を我慢しろ…なんて事を言ってる映画じゃない。

カ:じゃあどういう話なんだよ。

イ:元々はオレは単に中華チャンバラをつくりたかっただけなんだよ。ただ従来の中華チャンバラだと、復讐とか古色蒼然たるお話になりがちじゃない。で、今つくるんなら、やっぱりアップトゥデートな部分がないと意味がない。それで出てきたのが、今回のテーマだったわけよ。そこに安易に中国共産党とか…例えば他にもアメリカとかイラクとかを引き合いに出したら、妙にナマ臭いことになっちゃう。オレはそんなのつくったつもりはないよ。

カ:だから、オマエがやりたかったのは何なんだって。

イ:じゃあこの映画の秦王について話そうか? 確かにこの映画で秦王は単なる暴君じゃなくて、ある程度は花も実もある君主に描いてある。で、ホントの大目標は天下統一で、そのためにはいろいろなヒドイ事も、悪いと知りつつ目をつぶりながらやっている…少なくとも本人はそのつもりなわけ。それがなかなか人に理解されず嘆いてもいる。

カ:まぁ、この映画ではそうなってるわな。

イ:だけど、例えば趙の国の文字について語ってる場面を見てくれよ。19も書体があるなんてくだらん…と一蹴していたろ? 確かにこの考え方のおかげで中国の文字は統一できた。だけどその一方で何か貴重なものは失われているんだよ。オレは趙の学徒たちが矢が飛んでくる中でバタバタ倒れながらも学問を続ける姿をちゃんと撮ってるはずだよ。どっちがいいって言ってるんじゃない。文字の統一は重要だし必要だったろうけど、統一する側はこの学徒たちの思いを受け止めてやれてるのか…。

カ:ううむ。何となくオマエの言うことには、いつもいつも丸め込まれちゃうんだよなぁ。

イ:人聞きの悪いこと言うなって(笑)。そしてトニー・レオンの“剣”の書を見ても、秦王は最初何の事やら分からない。一方、ジェット・リーはすっとぼけてるけど、彼にはあの時点で書の意味が分かってるわけよ。

カ:つまり、あの書を突きつけて、秦王に自分でそれを解読してもらいたいからだな?

イ:そう! ホントはあんまり自分の映画を説明なんかしたくないんだけどさ、オマエそこまでしゃべらせたいんだろ(笑)?

カ:まぁな、それが出来るのはオレしかいまい(笑)。

イ:そんな図々しい奴は他にいないんだよ(笑)。まぁとにかく…秦王は天下統一のためには、多少の犠牲は免れないと思ってる。そのためには心を鬼にしてるんだ…と自分に言い聞かせてる。で、トニー・レオンが「天下統一」のためだから暗殺を諦めろって言った事を聞いて、やっと自分の理解者が現れたと喜ぶんだけどね。でも本当のところ、その時点で秦王は、トニー・レオンの気持ちが半分は分かってても、あとの半分はまだ分かってなかったんだよね。

カ:それがあの書の意味か。

イ:そうだよ。秦王は天下統一のためなら犠牲は致し方ないって勝手に決めつけてるけど、本当は戦わないのが、人なんか殺さないのが一番正しいんだよ。それを、アンタちょっとテメエに都合良く正当化してやしませんか?…ってね。アンタの志や目的は正しい。目下のところ、それをやろうという度量のある奴も他に見当たらない。だからアンタに天下を託しはするけれども、そのやり方ってのはもうちょっと考えた方がいいんじゃないの?…とか。天下統一のために押しつぶされかねないオレたち下々の連中のことも、その時にはちょっとは心にとめてくれよ…とか。こう言っちゃうとひどくつまんない事に聞こえちゃうから言いたくなかったんだけどさ(笑)。それをトニー・レオンもジェット・リーも言いたい訳なんだよ。で、その延長でいけば、例えどうあれ、復讐のためであれ、戦いや殺しってのは正当化される訳はないよね…って事になる。目的が正しければ人を殺していいって事にはならないよね…ってね。トニー・レオンやジェット・リーはそれをまず自分から身をもって実践して、秦王に分からせようとしたんだ…と、まぁこうオレは描きたかったわけよ。

カ:だけど始皇帝はその後、結局暴虐の限りを尽くしちゃったんだよ。

イ:だからさぁ、これは例え話だって言っただろう。その後に実際どうなったかは、実はあまりこの映画とは関係ない。ただ、その事を命がけで伝えようとした人間がいた…それが“ヒーロー”だっていうことなんだよ。秦王を殺そうと思えば殺せる位置にいた男、それがこのメッセージを伝えることだけを目的にして、結局は手を下さずに終わった訳じゃん。それこそが、「どんな目的のためであれ人を殺すべきでない」という事の、何よりの実践だとは思わないかい? それに強いて言うなれば、実際に天下統一を無血で行うのは無理かもしれない。だから、多少の犠牲はつきものってのは事実なのかもしれないんだよ。でも、人の上に立ってマツリゴトを行う者は、少なくとも犠牲はつきもの…なんて志の低い、テメエに都合のいいレベルから始めちゃダメだろう? そりゃ自分を甘やかしてるよ。あるいは誤魔化してる。

カ:そういや、変なキナくさい雰囲気の時に限って、「現実主義」的な考え方とやらがはびこるよな。現実的に考えると、やっぱ軍隊は出さないといかんだろうとか、報復しなきゃいかんだろうとかな。

イ:そうそう、オレはそれを言いたいわけよ。人の上に立つ者たるや、「現実主義」なんてもっともらしい事を言って、テメエに都合よくズルするんじゃねえってこと。エライ人ほど理想を持たにゃあかんでしょう? あくまで理想は高く、「どんな目的のためでも人は殺さない」から始まらなきゃいかんだろうって事なんだ。そりゃあどうせ、おそらく理想通りにはいかないだろうよ。結局は人が死ぬかもしれない。だけど、最初の出発点はあくまで人は殺さずから始めようよって。そこから出来る限りベストを尽くしてくれよって。だって最初の理想からして低かったら、現実なんてどん底になっちゃうじゃないか

カ:でも、結局は秦王はジェット・リーを殺しちゃったじゃない。

イ:うん。それは確かにちょっと矛盾なんだけどさ。でも、あれは秦王とジェット・リーの間に、あの時点であうんの呼吸の納得は出来上がってると思ってるんだ。それは、あの時に秦王に殺到してきた側近の言葉に現れてる。

カ:そうか。暗殺者はちゃんと罰しないと、天下が安定はしないってアレか?

イ:うん。結局、ジェット・リーの男気に打たれた秦王は殺すのをためらうんだけど、その側近の「天下」の一言で決断するんだよ。なぜならジェット・リーも、その天下の安定のために命を懸けたんだからね。ジェット・リーが覚悟の上の行動だった事は分かるよね?

カ:その前にオマエは、ジェット・リーがマギー・チャンと矢をバンバカ打ち落とす場面を見せてるからね。助かろうとすれば出来るはずだとお客は分かってる。つまりは覚悟の上の行動だった…と。なるほどねぇ。そこまで聞かされたら、何となくそれがホントみたいに聞こえるな(笑)。

イ:なんだよ。人にここまで作品を説明させて、その言い方はさ(笑)。

カ:いやぁ、オマエには何度も丸め込まれたような気がするからなぁ(笑)。その手でコン・リーもチャン・ツィイーもオトされた(笑)。ま、今日のところは納得しといてやるけどな。今度会った時はどう思ってるか分からねえぞ(笑)

イ:納得しようがしまいがどうでもいいけど、コン・リーもチャン・ツィイーも関係ないって(笑)。

カ:だけど、まぁこりゃ大したもんだと言わざるを得ないわな。中国でもアジアのいろんな国でも大ヒットだろう。これほどの大作をモノにしたんだ。オマエはオレが「始皇帝暗殺」でやろうとしてしくじった事を、見事に成し遂げちゃったんだよなぁ…。それにひきかえ、このオレはさ、何でこうなっちまったんだよぉ…くぅ〜う。

イ:おいおい、急にどうしたのカイちゃん? 「北京ヴァイオリン」、評判いいって言ってたじゃん。

カ:ぐすっ、そりゃオマエの手前ああは言ったけどさぁ…。ミニシアター風情でロングランしたってタカが知れてらぁ。オマエの「HERO/英雄」は、東京でも最大の新宿ミラノ座をはじめとして、大劇場ばかりで公開するんじゃねえか。オレの「北京ヴァイオリン」なんて、オレの「北京ヴァイオリン」なんて、ちっぽけなとこでしかやっちゃくれねえんだよ〜おおおお。派手な映画ったら、本来はオレの領分じゃねえか。ここへ来てハッキリ勝負あったって分かっちまったよ。今まで突っ張って突っ張ってここまでやって来たけど、今度という今度は…マジでオマエに負けを認めなきゃいかんかもな。うぉ〜いおいおい。

イ:カイちゃん、しっかりしなよ。せっかく「北京ヴァイオリン」、あんなにみんなホメてるのに。大体さ、勝ちだ負けだって事じゃあないだろう? ま、ちょっとはオレの方が勝ったかもしれないけど(笑)

カ:ぐしゅん。そりゃあそう…ん? にゃ、にゃにをぅ〜このガキャァ〜。ひっく。

イ:「HERO/英雄」はね、さっきカイちゃんが指摘したように、オレの「紅いコーリャン」への原点復帰なわけよ。バイタリティとダイナミズムの映画に立ち戻ったわけ。決してこれはカイちゃんの「始皇帝暗殺」へのアンサー・ソングみたいな映画じゃないよ。ま、ハッキリ言って「始皇帝暗殺」なんて眼中にないんだけどさ(笑)

カ:テメエ、人が落ち込んでるのにつけ込みやがって。オメエは昔からそういうトコがセコいんだっ。

イ:まあまあ、最後まで人の話を聞きなよ。カイちゃんの「北京ヴァイオリン」ってどんな映画だい? オレはね、こう思ってる。あれだけ派手な作品を撮ってきたし、しまいには海外まで行ったカイちゃんが中国に戻って、市井の人たちのささやかな話をつくった。そしてその核となるのは音楽だ…ってね。ねぇ、これってさ、映画の狙いやら何やらは全然違うけど、カイちゃんのデビュー作「黄色い大地」の精神に、立ち戻ったとは思わないかい?

カ:えっ?…う〜ん。そりゃ「黄色い大地・フルスロットル」ってことか?

イ:オレの言ってること分かってんのかなぁ(笑)?…結局、オレたちはいろいろ回り回ってさ、ここへ来てまた原点に戻ったんだよ。それもほとんど同じ時期にさ。ひとつのサイクルが終わったんだ。

カ:そうか…そうだよな。これからがまた始まりだわな。よっしゃあ、そうと決まったら飲もうっ(笑)!

イ:そうそう、カイちゃんにしおらしくされても気持ち悪いもんねぇ(笑)。

カ:やかましい(笑)。オマエ、これからチャン・ツィイーに電話して、ここへ来てお酌しろって言えっ! 乳もませろっ! あいつのビーチク何色だっ!

イ:あれっ、カイちゃんいつの間にこんなに青島ビール飲んでたの? だからかぁ…マズかったなぁ。こいつ酒グセ思いっきり悪いんだよナ。

カ:アハハッ! な〜に慌ててんだよ。なぁ、オレこないだ世界の巨匠の皆皆様とだな、オムニバス映画を撮ったんだよ。一人10分って決まりでな。残りのメンツを聞いて驚くな。アキ・カウリスマキだろ、ヴィム・ヴェンダースだろ、あと…ヴィム・ヴェンダースだろ? あと…ヴィム・ヴェンダースだろ? あと…誰だっけ? とにかく巨匠ばかりなんだ巨匠っ! そこに中国からの代表とくれば、このチェン・カイコー様と決まってるよな? アッハッハッハ!(ドッタン、ガチャガチャ…と、そっくり返ってイスから転げ落ちる)

イ:いやぁもう、落差激しいんだよねカイちゃんは。はいはい、アンタはエライ(笑)。

 

 

 

この後、中国語圏のメディアにおいては、この対談で語られたのと同様に「HERO/英雄」における秦王の描き方に対する批判が起きた。これらの批判者の中には、何とここで納得したかに見えたチェン・カイコーも名を連ねていたと言う。一つのサイクルを回り終えて原点復帰を果たした中国映画の両雄…チャン・イーモウとチェン・カイコー。この宿命のライバルの新たな戦いは、これからも果てしなく続くのであった…。

<完>

 

おことわり:この対談に出てくる人物・団体等はすべて架空のものです。現実に存在する人物・団体等に酷似するものはあるかもしれませんが、すべて偶然の一致に過ぎませんのでご了承ください(笑)。

 

 

 

 

 

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