「ダブル・ビジョン」

  (Double Vision)

 (2003/06/02)


トルマリンは本当に効くらしい?

 いつぞや男性雑誌の開運グッズ広告の話をしたっけね(ハート・オブ・ウーマン」感想文)。今回はその好評につき続編(笑)…な、わきゃない。

 でも男性雑誌のこの手の広告って、見てると実に興味深いんだよね。見飽きない。何せ、見る人の欲望、願望にダイレクトに訴えかけてくるものだから、表現もストレートそのもの。だからいっそ潔いとさえ言える。

 おまけに普通の広告と違って、なぜか細かい活字でビッシリと書いてある。普通はメイン・ビジュアルとキャッチ・コピーでどか〜んと面積とって、目に飛び込んでくる効果を狙うよね。でもこの手の広告は違う。とにかくじっくり読ませる。要素もてんこ盛り。まるで新聞の縮刷版みたいな感じで、あれもこれも書いてあるのが定石だ。

 そんな僕が特に最近注目しているのが、ナゾの鉱石トルマリンを使った開運グッズだ。

 このトルマリンを使ったブレスレットとかネックレスとか、そんなもの身につけてたら柄の悪いパ・リーグの野球選手かチンピラにしか見られかねないシロモノだが、これが確実に運を開くとなれば話は別だよね。

 トルマリンってどうもマイナス・イオンだかを発生する物質らしい。何となくそれを聞けばいいことがありそう。この手の広告は、実に「たったそれだけ」で全編を引っ張っていくわけ。

 ビッシリ書かれた要素の中で大きな面積を占めるのは、大概は体験者の証言だ。

 まずは日本のどこにでもいそうなアンチャン。フリーターか会社をリストラされたか、大体無職状態で食うや食わず。女にはまるっきりモテないか、女房持ちだったら逃げられてるか。ともかく最悪な状況であることには間違いない。そこに写っている写真のツラがまたマズイと来ている。どう考えてもうだつが上がらずモテそうもない男だ。

 それが最後に残ったなけなしの金か、もしくはたまたま拾った金で、「ダメで元々」でこのトルマリン商品を手に入れる。すると!

 何と宝くじが当たる。それも億の単位だ。パチンコがつきまくる。ありとあらゆる賭け事で勝ちまくる。あるいは商談がうまくいき出世街道まっしぐら。たちまちベンツだフェラーリだとクルマを買って、マンションも買って、あれもこれも買って、それでもどうしようもなく金が余ってしまう。

 奇妙なのは、このシロモノが女にもモノをいうと言うことだ。

 女に見向きもされないこの男が、次々といい女をゲットする。中には自分をバカにしていた女の上司から、ホテルに誘われ一戦交えるなんて趣向もある。この男が手に入れた女たちをセックス・フレンド以上には見ていないのがまた笑えるが、とにかく異常にモテまくるのだ。

 そして行き着く先がまた毎度毎度決まってる。どこかの高級マンションかホテルの一室で、ベッドに札束を広げてプール状態にして、そこに何人もの裸の女をはべらしてイチャつくのだ。その中に一人だけは金髪ガイジン女が混じっているのもお約束(笑)。いやぁ、確かにモテたいとは思うけど、これが男の究極の願望かねぇ。

 まぁ、これが典型的な例。だが、体験談はこれだけではない。

 中国福建省で乞食同然に暮らしている一家がいる。今日のメシにも事欠く始末。そんな彼らが最後にすがったのがトルマリンだ。するとどうだ! 今ではちょっとした資産家となったこの一家、香港に移住して高級マンションに住む豪勢な身の上となっているではないか。

 あるいはここはロサンゼルス。テキサスかどこかから出てきたもののホームレス同然の男。ところがトルマリンを手にしたとたんツキはやって来た! 今じゃハリウッドでニュー・スターとして嘱望され、タキシードに身を包んでリムジンで送り迎えされる身だ。

 何と霊験あらたかなトルマリン! 買わなくちゃ!

 この体験談の人々の証言には必ず写真が付いていて、それが「使用前」「使用後」よろしく「貧乏時代」と「金持ち時代」の両方必ず付いているのがご愛敬。中国福建省で乞食やってた頃、一体誰が自分の写真なんか撮るんだ?…とか、こんな男がスターになってるって聞いてないし、出てる映画も見たことない…なんてヤボを言うのはこの際よしにしていただきたい。

 さらにこのドラマを補強すべく、さまざまな付帯情報も怠りない。舞台は南アフリカの山奥、危険と隣合わせの鉱山で、一攫千金の夢見てトルマリン採掘に命を懸ける男たちが登場する。かように採掘困難で価値が高いトルマリンだ。だから数には限りがある。すぐに買わなければ!

 しかもこの商品には、ちゃんと裏付けもあるのだ。

 霊媒師や霊感の強い人がこの商品を見立てて、ありがたいコメントを述べている。なるほど運気に関することだ、霊感を抜きにこの手の商品は語れないよね。

 ところが一方で、この商品を身につけた人とそうでない人の体温を、サーモセンサーで比較した図が紹介されてもいる。トルマリンを身につけた人は、なぜが体温が上昇するらしい。そして血行が良くなる。それが人生のチャンス、運気を逃さずキャッチする体質をつくるのか?

 とどめがまたスゴイ。アメリカ・マサチューセッツ工科大学の教授によるコメントだ。これでは納得せざるを得ないではないか。この人物が本当にマサチューセッツ工科大学にいるのかどうかは、この際問題ではない。よくコメントを読むと、「この物質の及ぼす影響は科学的にはまだ実証されてないが…」などと腰が退けたこと言ってるんだけどね。これじゃほとんど意味ないじゃない(笑)。

 中国福建省の乞食、香港の大富豪、ロスのダウンタウンのホームレス、ビバリーヒルズの映画スター、南アフリカの危険な鉱山、日本の霊媒師、マサチューセッツ工科大学の教授、そしてど真ん中にはベッドに女をはべらす日本のマズイ顔のフリーター(笑)…ともかくそこに広がるのは、ワールドワイドな規模で、しかも人生のどん底から頂点までという、とてつもなくレンジの広い雄大でドラマチックな世界なのだ。何だかあまりの雄大さにクラクラきそう。映画で言ったら「天井桟敷の人々」とか「風と共に去りぬ」とか「1900年」とか「ベン・ハー」とか…大河映画クラスのスケール感だよね(笑)。

 そして、そこがこの広告の持つ豊かな魅力なんだろう。

 何だか御利益があるだの霊的なことを並べるなら、誰でも想像がつく。だがこの広告はその極北に、マサチューセッツ工科大学を持ち出した。さらにワールドワイドな規模の壮大な人間模様。このスケール、このパワーが、トルマリン広告にもの凄い説得力をもたらしているんだろう。どう見たってインチキくさい商品を何とか売らんかなと知恵を絞った結果の、破れかぶれの力業…つまりは必殺必中のダイナミズムだ。そうでなければ、これほどバカバカしい商品が売れるわけがない。確実に売れているからこそ、この手の商品はつくられ、こうして広告も出てくるはずだしね。

 でもそれにしたって、なぜこんな広告に人は引っかかってしまうんだろう?

 それは、ただ広告表現がダイナミックだからじゃない。そんなダイナミズムが何のためらいもなく真っ正面、ストレートど真ん中を向いているからこそ、人の心を掴むんだろうと思うよ。そして、そこにだけは確かに真実がある

 だからそのダイナミズムの向いている矛先は、まったく疑問の余地がない。

 それは、誰もが必ず抱いている「幸せになりたい」という心からの願いなのだ。

 

連続猟奇殺人を追うのは心に傷を負った刑事

 ここは病院の分娩室。いましも一人の女が突然産気づいたところ。慌てて帝王切開の後、赤ん坊を取り出した。だが、その子は死産。お腹にはもう一人の赤ん坊がいて、そちらの方は助かった。だが死産した赤ん坊の目には、何と黒目が二つづつ付いていたのだった。

 それから十数年後、ここは現代の台北市。市警察本部では夜中飲めや歌えやで、刑事たちが大いに盛り上がっていた。だがそんな喧噪から離れて、たった一人で詰め将棋で時間をつぶす男がいた。その男、西武ライオンズ…いや、いまや読売ジャイアンツの「番長」こと清原激似のレオン・カーファイ刑事。今日も今日とて本部泊まり込み状態で、洗面所でシャコシャコ歯磨きに精を出していた。

 そこに通りかかったのが「バカ大将」原辰徳監督こと殺人課刑事レオン・ダイ。かつてはカーファイ刑事と殺人課で同僚同士だった彼は、例日のカーファイ刑事の泊まり込みに心配して、原監督一流のやけに明るい表情で白い歯光らせながら声をかける。「たまには家に帰って奥さんや娘さんと過ごしたらどうだい!」

 「せやな」とか何とか言いながらも、カーファイ刑事には馬の耳に念仏。またしても部屋で詰め将棋に戻ってしまった。どうもこの男、家には戻りたくない事情があるようだ。

 さて場面変わってここはある大企業のオフィス。何やら社員はみんな蒸し暑くて困ってる。そんな最中、秘書が社長室にやって来ると…

 社長が椅子に座ったまま動かなくなっているではないか!

 実は社長は死んでいた。早速「バカ大将」原監督ことダイ刑事殺人課刑事たちが現場に急行。女性検死官のヤン・クイメイが社長の死体を調べにかかる。すると意外な事実が分かった。社長はなぜかこの夏日の蒸し暑い最中に凍死してしまったらしい。そういえば社長はこの日寒がって、会社の冷房を止めさせたらしい。だが、社内は異様にクソ暑い。そんなバカなと言いたいところだが、相手がいくら「バカ大将」原監督でも検死官クイメイは本気。そして社長の鼻の穴から、ハナクソならぬ妙なカビ状の物質が見つかる。一体これは何なのだ?

 そんな騒然としたオフィスに、なぜか「番長」清原激似のカーファイ刑事がやって来る。だが彼は今は殺人課でなく国際課の人間だ。関係ないのに何で来たとばかりに殺人課刑事たちにこづかれる始末。確かにカーファイ刑事は管轄外。とは言え、何もそこまで…と言いたくなる刑事たちの冷たい仕打ちだ。

 実はカーファイ刑事、今回の殺人事件には用がなかった。同じ会社で働く外国人不法労働者の摘発にやって来たのだが…。

 さて、また場面変わって、ここは豪華なマンション。いかにも金がかかりそうな女が自分の部屋に帰って来たところ。部屋に置いてある新聞には、この女の写真が写っている。どうもこの女、議員の愛人としてスキャンダルの渦中にいるようだ。ところがこの女が浴室でシャワーを浴びているうちに、置いてある新聞が燃えだした。新聞だけではない。火は部屋中に燃え広がっていく。浴室から出てきた女は大慌て。タオル一枚巻いただけだし、炎は部屋中に広がってるしで、出るに出られない。焦った女は電話で消防署に連絡をとるが、時すでに遅し。激しい炎が彼女に襲いかかった。

 現場にまたしてもダイ刑事以下殺人課の面々が駆けつける。何と部屋には燃えた跡などまったくない。刑事たちはなぜ女が消防を呼んだのか、かいもく見当がつかない。ただ女のスッポンポン死体が転がっているだけ。しかし、またしても検死官クイメイは衝撃的な事実を指摘する。どう考えても彼女は高熱に襲われたように、全身火傷を負っているのだ。

 そして、またしてもカビ。前の被害者の社長を検死解剖してみたら、このカビは脳にまで入り込んでいるらしい。これは一体何だ? だが、カビの正体は台湾警察では調べようがない。

 さて一方、連日警察本部泊まり込みのカーファイ刑事の元に、妻のレネ・リュウが幼い娘を連れてやって来る。家に帰らないカーファイの洗濯物を取りに来たのだが、そんな妻リュウにカーファイは冷たい。娘はと言うと、一言も口をきかない。どうもこの娘に何やらいわくがありそうだ

 さて、またまた場面変わって、ここはアメリカ真理教会。青い目の神父が自室のベッドで横になりながら本を読んでいるところ。だが、あれれ…ページが赤くなる。こりゃ血じゃないか? 慌てて見てみると、腹にでっかい傷跡と縫った跡があって、そこからドックドク血が流れているではないか!

 ダイ刑事たちが駆けつけると、事態の容易ならざることがよく分かった。くたばっているこの神父、何と腹をかっさばかれて腸を引きずり出されたらしい。その後で腸は部屋に置いてあるバケツで水洗いされ、再び腹の中に戻されて縫い合わされた。だが、神父に抵抗した跡はない。一体いかにしてこのような事をやってのけたのだ?

 見ると神父の腹には妙ちきりんな呪文みたいなものが書いてある。こりゃ一体何なのだ?

 そして、またしてもカビ

 一方、カーファイ刑事は妻リュウが多忙のため、教師との面談をしに娘の学校に出かけていった。黙りこくっている娘はイジメの対象になっていて、娘も黙ってないから揉め事が耐えない。さすがの「番長」清原激似のカーファイも、学校の先生にたっぷり絞られる始末だ。

 その足で病院に相談にも行くが、まるっきりラチが明かない。そんなカーファイが目を離した隙に、娘は病院内をトットコ歩いていく。そして引き寄せられるように、人けのない資料室へ。娘はそこに蔵置されていた、一個のホルマリン漬けの標本に目をとめる。それは、あの死産した赤ん坊…黒目二つの奇妙な死体だった。

 そんな娘を自宅まで送り届けたカーファイ刑事は、部屋に一通の封筒を見つける。それは妻リュウが秘かに取り寄せた、離婚届の書類だった。クソ面白くないカーファイ刑事は、それをゴミ捨て場に投げ捨てる。だったらもっと女房大事にしろよ…と言いたいところだが、若いうちから高級ソープ通いで素人女の扱いに疎い「番長」清原にゃ通じない。

 さて、異常な連続殺人が相次ぎ解決の目処は立たない。おまけに三人目は外国人とあって、警察も事態を捨て置けなくなった。おまけにアメリカ人が被害者となると、外交上も面倒だ。ネオコンが騒げばヘタすると空爆もあり得る。かくして重い腰を上げた警察側は、何とここでMBL大リーグことFBIから有力な助っ人を求めることにした。その名は捜査官デビッド・モースだ。

 その頃、当のデビッド・モースはそんな話になってるとはツユ知らず、警察学校で講義の真っ最中。今までの異常犯罪へのプロファイリングの数々を披露していた。だが、そんな彼とても万能ではない。この日の話は手柄話自慢話ではなく失敗談。少年ばかりを狙った連続殺人の話だったが、この事件では彼のプロファイリングはまるで役立たなかった。そして殺された少年たちは、みな至福の死に顔をしていた。こんな事があっていいのだろうか?

 さてさて、その頃珍しく帰宅する気になった「番長」清原激似のカーファイが、車で自宅近くまで来たところ。すると自宅前に一台の車が停まっている。見ると中では妻リュウが若いイケメン男と楽しげに話しているではないか。クソおもろないわ! 別の男とイチャつきおって! ワシのは浮気やない、相手は吉原高級ソープのプロやで! それをあの女は…ホンマ頭来るわ! ナメんなこのボケ! キレた「番長」清原は、車の窓ガラスぶち破ってその場を後にした。さすが「番長」、格闘技ゆずりの肉体改造に余念がない。

 おっと、そんな事してる場合じゃない。空港にデビッド・モースを迎えに行かなきゃ。カーファイは国際課で英語も堪能ということから、台湾滞在中のモースのお守りを言いつかっていたのだ。

 その頃モースはとっくに空港に着いてボンヤリ待っているアリサマ。車の窓ガラスは割れてるわ、手は血だらけだわ、おまけに会話がはずむことはずむこと。この二人、出だしからまるっきり息が合わないことおびただしい。仕方なく沈黙はしる車の中で、モースは秘かにオヤジギャグを磨くのに余念がない。

 おまけに「バカ大将」原監督ことダイ刑事以下の殺人課刑事たちも、モースに協力なんかする気がサラサラない。例の神父の腹の呪文が、どうも道教の儀式に関係あるらしいと突き止めたはいいが、道教の関係者に聞いたら「関係ありません」と一蹴されて引き揚げているアリサマ。やる気あるのかテメエら。そういう時は宗教関係者に聞くんじゃなくて、研究している学者に聞くんだよ…と一喝するモース。これが刑事たちには気に入らない。

 犯人の動機は何かを突き止めるのが基本…と力説するモースだが、みんな「そんな事分かってるんだよ!」とばかり相手にしない。ったく偉そうに言ってんじゃねえよ、俺たちゃ日本人じゃねえんだ。ブッシュ牧場に連れてかれてアメ公にシッポ振るようなヤワじゃねえぞ。あげく神父の部屋が見たいと言ってもシカトぶっこいてるので、さすがにモースもど〜んと立ち上がってキレた。これにはデカいカラダに恐れをなした刑事たち、勝手に好きなだけ「見れば〜」…とクレヨンしんちゃんみたいなムカつく捨て台詞だ。両者の埋めがたいミゾに、「番長」清原ことカーファイ刑事もサジを投げた。

 現場に向かう車の中で、カーファイ刑事は「番長」なりのアドバイス。ガイジンは黙っていれば利口そうに見えるんや。むやみに逆らったらあかん。ペタジーニみたいに利口に立ち回って、オマエも読売に入れや。だが、これにはモースも黙っちゃいない。オマエはそんな奴とは思ってなかったぜ、キヨ。

 そう。昔は「番長」も違ってた。ドラフトの汚い密約…じゃなかった警察内部の汚職を摘発する骨のあるところもあった。日本シリーズで巨人こと読売と対戦して勝利目前の時、感激の涙を流したオマエじゃないか。なのにおめおめと読売の軍門に下ったオマエ。なぜ今このテイタラク。吉永小百合も失望したって言ってたぜ。そんな事だから、今じゃフルシーズン満足に活躍も出来やしない。パシリの元木ぐらいしかオマエを相手する奴はいねえじゃねえか。

 これには痛いところを突かれた「番長」ことカーファイも苦い顔だ。だが、彼にはこうなるだけの理由があった。

 読売の汚いドラフトつぶし…じゃなかった、警察内部の腐敗…それは刑事だった妻リュウの親戚にも及んでいた。それを告発した事で逆上したこの親戚男は、たまたま居合わせたカーファイの娘に銃を突きつけた。こいつの言うことがまたふるっている。何で俺だけこんな目に合うんだよ、あの松浪健四郎はお咎めなしじゃねえか、暴力団と後援会事務所に殴り込んだ貴乃花も問題なし、どっちもマゲ切りゃそれで済むのか、連立与党は汚ねえぞ、角界も汚れてる、俺をやるならやってみろ、この娘も道連れだ!

 どうせやるなら、それこそ松浪健四郎か貴乃花でも道連れにすりゃあいいものを…いや、全国民ならびに相撲ファンがぜひ今すぐそうして欲しいと思ってるところを、たまたま行きがかり上その場にいたカーファイの娘が人質にされてしまった。そして目の前で娘の頭に銃が突きつけられても、カーファイはどうすることも出来ない。男は銃の引き金に指をかけた…。

 そして銃を発射!

 だが、なぜか弾丸は娘の頭をかすってコースを曲げ、撃った当人の汚職刑事を貫通。娘はカスリ傷で済んだ。だが、その日以来娘はショックで口をきかない。さらに身内を「売った」カーファイもまた仲間たちから冷たい目で見られるようになった。なのに腐敗の極みの松浪健四郎は無キズ。貴乃花もごっつぁん。これじゃ世の中おかしかねえか?

 あんな抵抗するんやなかった。桑田は頭がええわ。読売とか連立与党みたいに長いモノには巻かれろ…や。こうして今のカーファイはスッカリ骨抜き。いくら格闘技体型に身体を鍛えても、骨がないからケガばかり。シーズン・フル出場は夢のまた夢の「番長」清原だった。

 さて、そんなこんなで現場に着いたモースは、早速部屋を下調べ。そして何を思ったか、エアコンをいじり始めた。すると…そこにはあのカビのようなものが付着しているではないか。さらに見つけたのは、丸い金属の弾丸

 調べると、この弾丸は今までの犯行現場のエアコンすべてから見つかった。しかも弾丸には小さな穴が開いていて、そこに例のカビ状の物質が詰められていたのだ。おそらく犯人は外部からこの弾丸をエアコンに撃ち込んだ。そこから発生したカビが被害者たちの鼻から入り、脳に至ったのに違いない。

 さすがにこの発見には、原監督ことダイ刑事も得意の白い歯を見せていられなくなった。殺人課刑事たちも顔色がなくなった。なぁ、だからちゃんと探してみろって言ったんだ。そんなことだからプロ野球はダメになる。イチローも松井も大リーグに行っちまうんだよ。

 その頃、例のカビを調べた結果がアメリカから伝えられた。何とアレはカビではない。菌とダニを融合させたハイブリッド生命体だと言うのだ。そして、これが脳に入れば麻薬の何十倍もの効果がある。つまりは一種の超常現象を体感出来るらしい。今までの被害者は、すべてこのハイブリッド融合ダニの脳内麻薬で超常現象を体験したことになる。あたかも強い冷気に襲われたり、火にあぶられたりしたかのように…。

 さらに新たな事実も分かった。社長は会社の不始末で、愛人はスキャンダルで…ってな調子で、被害者は全員、犯行の前の日の新聞紙上を賑わしていたのだ。さては新聞記事がヒントになったのか?

 調子づいたモースは、「番長」連れて今度は道教の研究者ラン・シャン博士のもとへ。するとまたまた意外な事実が出た。例の神父の腹に書いてあった呪文は、やっぱり道教の呪文だった。それも数年前中国の道教の古寺で見つかった碑文のものとピタリ符合すると言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後は映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところでその頃、このハイテク都市・台北のど真ん中、ど〜んとそびえ立つハイテク・ビルの最上階に、とんでもないものが設けられていたことを誰も知らなかった。何とそのフロアには、ラン・シャン博士が言っていた古寺がそっくりそのまま移転されて建設されていたのだ。そこで白装束ならぬ怪しげなコスチュームに身を包んだ一団が、何やら不可思議な儀式をとり行うところ。ある一人の男が意識朦朧となったところを、後ろからブッスリ刺されるではないか。

 そんなこんなの警察本部に、またまたレネ・リュウが娘を連れてやって来た。そこにバッタリ出くわしたデビッド・モースは、娘に話しかけるが反応がない。後からやって来た「番長」カーファイに、妻リュウは捨てたはずの離婚届の書類を渡す。「この用紙高いんやから、もう無駄にせんといてよ」「分かったっちゅうとるやないか。やかましいがな」…そんな夫婦の訳ありの雰囲気に、言葉は分からずとも状況を察するモースであった。

 ところでハイテク・ビルの古寺で刺された男はどうなったのかと言うと、ワゴン車に詰め込まれて怪しげな信者たちに運ばれている最中。ところが通りのど真ん中で居座る車がいるため、前に進めない。イラついた信者がクラクションを鳴らすと、前の車のアンチャンも黙ってはいなかった…。

 事件発生の知らせに現場に駆けつけるカーファイとモース。着いてみると、現場は混乱を極めていた。どうやら例の信者は絡んできたアンチャンを殺して逃走。置き去りにされたワゴン車から刺された死体が出てきたという訳だ。いよいよナゾはほぐれてきたぜ。

 そんな「番長」清原ことカーファイ刑事は、「迷信」だの「世迷い言」だのとアメリカンな説教するFBI捜査官モースに忠告する。野球は大リーグがすべてと思うたら大間違いや。科学捜査だ何だっちゅうても、世の中それだけで割り切れるもんやないで。アンタかて本当に邪悪なモノっちゅうたら、FBI生活の中でもまだ見てないんとちゃうか? ほんとうに、ほんとうに、ヨコシマなものを見た…って、この映画の宣伝コピーでも言うとるやないか。そういや今頃になってみると、ワシもほんとうにほんとうにタテジマの阪神タイガースに入れば良かったと思う時があるで。

 そんな「番長」カーファイ刑事は、またしても道教研究家ラン・シャン博士の元を訪ねる。もちろん例の碑文についての話を聞きに…だ。それは閻魔大王の呪いについてのものだった。リストラ地獄、ペイオフ地獄、貸し渋り地獄、公的資金地獄、個人情報規制地獄…じゃなかった氷地獄、火炎地獄、腹裂き地獄、心臓抜き地獄、そして舌抜き地獄…この5つの地獄を行ったら、不死のパワーを得られると言うのだ。現に、かつて中国のとある偉い人物が、これを実践したと言う。半人間…いわゆる罪人をこの5つの地獄に落として、自らを不死の身にしたと言うのだ。そして半人間を見分けることが出来るのは、黒目二つの人物しかいない。黒目二つ…すなわちダブル・ビジョンだ。そういや最近、ダブル・ブッキングの和泉元彌のウワサもめっきり聞かんな。

 半人間…今まで殺された被害者は、みんな何らかの罪で新聞を賑わせていた。すると、犯人は彼らを殺すことで、不死の命を得ようとしているのか?

 その頃モースは、別のセンから犯人像に迫っていた。例のワゴン車は、ハイテク産業の部品運搬に使われるものだった。そして捜査線上に浮かび上がって来た人物は…ハイテク企業の社長二人組。この二人、事業の絶頂期に会社を手放した。それと言うのも、なぜか奇妙な宗教の虜となったからだ。そして中国の例の古寺をすっかり買い取って台湾に運び込み、ハイテク・ビルの中に再構築した。

 何だそれは、白装束か、アザラシのタマちゃんを見守るとか言ってなかったか?

 ♪タマちゃ〜ん(ここは「太陽にほえろ!」のテーマのイントロの節で口ずさんでください)…と、原監督ことダイ刑事以下殺人課の面々は、息せき切って例のハイテク・ビルに乗り込んだ。

 すると出てくる出てくる怪しげな信者の群れ。例の社長二人組も出てきた。刑事たちが構わずあちこち調べ回ると、血糊べっとりの刃物がゴロリ。

 「なんじゃこりゃ〜?」

 刑事たちが思わずジーパン刑事もびっくりの雄叫びを上げるや否や、一斉に信者たちが刃物を持って暴れ出した。虚を突かれた刑事たちはたまったものじゃない。原監督ことダイ刑事も胸をザックリ斬りつけられて悶絶だ。「う〜ん、せっかくファンケル健康食品でカラダに気をつけてたのにぃ〜」

 さぁ、ハイテク・ビル内の古寺は阿鼻叫喚。あっちこっちで大立ち回り。一階で待機していた刑事たちも、異変に気づいてなだれ込んだ。すると…。

 何と古寺の中では信者も刑事たちもほぼ全滅状態。辺り一面血の海の凄惨な状態になっているではないか。

 知らせを聞いて駆けつけた「番長」カーファイとモースも、このひどいアリサマに絶句するのみ。原監督ことダイ刑事も白い歯を見せたまま、担架で運ばれていった。

 すると奥の部屋でモースが何やら見つけたようだ。早速カーファイがやって来ると、目に入ったのは例の碑文が書いてある石碑。そして床には何やら隠し扉があった。その扉を取りのけてみると…。

 中には一人の少女が横たわっているではないか。

 その少女の腹は血にまみれていた。何やらただれた傷跡がある。だが、少女はまだ息があった。早速少女は病院へと連れて行かれたのだが…。

 ハイテク・ビルに押し寄せるマスコミ陣に、モースはお得意のFBI仕込みの名調子で応える。「オカルト? 宗教? 悪魔? 関係ない。残念ながら人間は想像以上に恐ろしいもんなんだ

 さて、社長二人組のうち片方は死んだが、生き残ったもう一人は犯行を自供した。例の女の子は腹の皮を剥がれて、そこで例のハイブリッド融合ダニを培養されていたとか。それより彼女はかなり重傷の脳腫瘍で、もはや手術も出来ぬ身だとか。それがあの教団とどのような関わりがあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは絶対映画の後で

 

 

 

 

 

 

 

 

 ともかく、事件はめでたく解決した。祝杯だ…とご機嫌のモースは、「番長」カーファイに粋な計らいをした。カーファイを久々に自宅に戻し、そこで自分も加わって祝杯を上げようというのだ。最初はギクシャクしていた夫婦も、なにやら少しづつほぐれてきた。おまけにモースが台湾に来て以来ずっと暖めてきたオヤジギャグが炸裂。

 「カメラのさくらやの前を通りかかったら、ドカ〜ンと物凄い音がした。なぜでしょう?」

 「それは安さが爆発してたから〜」

 そのあまりのくだらなさに、頑なだった娘もさすがに黙っていられない。「こりゃ一本とられましたネ!」 そんな娘のお茶目な言葉に、夫婦は思わず顔を見合わせニッコリだ。これだからオヤジ・パワーは侮れない。

 ウケたついでにビールかっくらってご機嫌のモースは、ついつい本音を吐いた。マスコミにはああ言ったが、本当は俺だって説明のつかない事もある。俺はもう疲れたよ。そしてモースはカーファイに男同士のぶっちゃけ話をした。あんな美人のカミさん放っておいていいのか? たまってるんだろう? 抜いてもらって来いや!

 そんなモースの一言に、「番長」カーファイも心が決まった。カミさんの入ってる浴室に乗り込んで、久々に愛用のバットを素振りし始めたとさ。

 清原ビタシー・ゴールドで、飲んで、打って、どか〜ん!

 そんな夫婦が久々にハイブリッドに融合した夜がふけて、いい汗かいた「番長」はソファで眠りこけたモースのそばに毛布を敷いてグッスリ。

 そして朝、いつまで経っても起きないモースを、「番長」が叩き起こそうとしたその時…。

 モースが血まみれだ!

 何とモースは舌を抜かれて死に絶えていた。事件は終わっちゃいなかった! モースの無惨な姿を見て、「番長」カーファイは絶句するのみだ。あぁ、あんなオヤジギャグ言わせるんやなかった。あんまりくだらなすぎたから、舌を抜かれてしもうたんや…。

 では、真犯人は誰なのか? そしてあの不思議な少女は? さらにカーファイとリュウの夫婦の絆は、完全に取り戻すことが出来るのか?

 

道教からハイテクまで、めいっぱい広げたハッタリ話

 またしてもコロンビア・アジアの作品。今回は台湾からの登場だ。今までのところ、スタイリッシュ・アクション、ソフィスティケーション・コメディ、犯罪サスペンス…と、いずれも中国語圏の作品としてはちょっと異質な作品を連発して、その存在意義を強くアピールしてきた。そして今回は何とオカルト・サスペンス。最先端科学と邪教という両極端が混在する、何ともユニークな作品に仕上がった。

 さらに「ハッピー・フューネラル」ではドナルド・サザーランドを投入するなど、ハリウッド資本ならではの異色キャスティングも見せたこの作品群。今回はアメリカからデビッド・モースを連れてくるあたり、なかなか見せてくれるではないか。

 中国語圏の俳優陣も充実を極めていて、まずは主演のレオン・カーファイ起用は「愛人/ラマン」で西欧の観客にも顔なじみだからか。脇にはツァイ・ミンリャン作品常連のヤン・クイメイ、アン・リー作品常連のラン・シャンと、台湾の有名役者を揃えてなかなか豪華だ。

 実は僕は最初この映画のことを、デビッド・モースのファン・サイトで知ったんだね。脇役なのに大いに目立ち、今や主演級で売り出し中のモースが、なぜ台湾映画に出演しているのか?…大いに気になるところだよね。もっともラース・フォン・トリヤーの「ダンサー・イン・ザ・ダーク」にも出演しちゃうモースのこと、非アメリカ映画だろうが何だろうが、あまり抵抗ないのかもしれないけどね。ともかくその時は連続殺人の捜査に派遣されるFBI捜査官と言うことしか知らないから、「ダブル・ビジョン」なる英語題名からアクションものではないかと勝手に決めていたわけ。まさかこんなオカルト・ホラー映画とは思ってなかったよ。

 それが今回のソニーのアジア映画のラインナップに浮上して初めて、これが恐怖映画だと知った。共演者はレオン・カーファイだとも知った。これでますます興味は増す一方。僕はぜひ見たいと思っていたんだね。

 実際に見てみたら、そこに先に名を挙げたヤン・クイメイやラン・シャンまで出て来たから、僕の楽しみは二倍にも三倍にも膨れあがった。いやぁ、ホントに見ていて嬉しくなったよね。

 ヤン・クイメイと言えば、「愛情萬歳」ラストでの突然の号泣場面を覚えている人も多いだろうね。そして「hole」での安キャバレーの踊り子みたいな衣装で歌い踊る姿も忘れがたい。それが澄ました顔して検死官役をやってるから、つい笑ってしまいそうになるよ。

 一方のラン・シャンはと言えば、台湾時代のアン・リー映画のシンボルだった。「恋人たちの食卓」で、腕によりを振るって娘たちのために豪華料理をつくっていたオッサンがこの人だ。あ、そうそう。さっきのヤン・クイメイはこの人の娘の一人として出演していたっけ。そんなラン・シャンはここでは道教を研究している学者役。二人とも脇役ではあるが、画面に何度も登場してきてはオイシイところをさらっていく役どころだ。そこがまた、過去の作品を見てきたファンには楽しいオマケとなっている

 だけど僕には、この映画を見る直前に気づいた大事な点があった。

 この映画は、チェン・クォフーの最新作なのだ。

 な〜んて書くと、まるで僕が映画生き字引みたいに思われてしまう。実はこの監督の名前なんて見たって全然ピンと来なかった。まるで覚えていなかったんだよ。ところが映画を見る直前に、パラッと劇場パンフレットに目を通して気づいたんだよね。

 この映画の監督って、「宝島/トレジャー・アイランド」を監督したヤツじゃないか!

 「宝島/トレジャー・アイランド」ってもはや映画の内容はうろ覚えながら、見た時にすごく感心した記憶がある。…と思ったら、僕はこの映画を1994年の個人的ベストテンの第4位に入れているんだよ。そんなに評価してたことは忘れてた(笑)。確かホウ・シャオシェンがプロデュースに回ってること、にも関わらず作風はだいぶ違って今風な雰囲気の映画らしいこと…に惹かれて、その年の正月あたりに見に行ったような気がする。それも吉祥寺の50人ぐらいしか入れないミニシアター一館でしかやってなかったんだよね。

 確か近未来の台北が舞台って事になってて(でもただの現代の風景で、近未来の話にする意味はあまりないけどね)、ある青年がたまたま出会った年上の女に惹かれていくうちに、ヤクザの抗争やら何やらに巻き込まれる、サスペンスとラブストーリーを混ぜたような青春映画だった気がする。とにかく全編新鮮な感覚に満ちているくせに、ヘンに回りくどい気取ったところのない映画だったように思う。映画の質は全然違うけど、フランスのエリック・ロシャンの「愛さずにいられない」を初めて見た時と共通する印象を持った覚えがあるよ。

 だが、その後この人の映画はまったく日本に入って来なかった。僕もこの人の名を忘れちゃったんだね。まさかこんな所でお目にかかるとは思わなかったよ。何だか感慨深かったよねぇ。

 さて、そんなこんなでほとんど10年ぶりでお目にかかるチェン・クォフー監督の新作はと言うと…先に旧作「宝島/トレジャー・アイランド」を気取りのない映画と言ったけど、その意味では今回の映画もまさしく同じ監督の作品だと言い切れる。いや、あの時にはまだちょっとシャレのめした“アートの雰囲気”(笑)みたいなものはあった。今回はそんなものも影を潜めて、完全に娯楽映画として堂々たる風格さえ持っているのだ。危うさなど微塵もない。

 お話の根幹は道教の「ダブル・ビジョン伝説」…黒目二つの人物をめぐるオカルティックな物語だ。だが、現代にその物語を持ち出してくるにあたって、チェン・クォフー監督はなかなか周到な目配せをしているんだね。ハイブリッド生命体やら猟奇殺人、そして凶暴なカルト教団。彼らが元々ハイテク企業から成り立っていて、なおかつ生物兵器で禍々しい企みを進めているあたりには、いやが上にもあのオウムのイメージが塗り込められている。教団が床下に少女を閉じこめていた…という設定もいかにもオウム的だ。さらに猟奇殺人と来れば、それはもう当然イマドキ流行りのFBI特別捜査官でしょう…と、まぁこのあたりのあまりに衒いのない発想には笑っちゃいそうなところもあるんだけどね(笑)。

 ともかく、どこか抹香臭い話になりかねないこの物語に、精一杯のカタチでアップ・トゥ・デートな味付けをほどこしているわけ。それは現代の観客にとってスンナリ受け入れやすくするためのリアリティづくりに貢献していると共に、道教が象徴するミステリアスな超自然的世界からFBIの登場する即物的現実世界まで、そしてバイオテクノジーやITなど先端科学の世界からテロ行為に走る邪教集団の世界まで…とにかく話の振れ幅を目一杯大きく広げることで、物語の絶対的なスケール感を出すのに成功している。まぁ、ハッキリ言ってハッタリと言えばハッタリ。だが、それがツボをハズさない的確さで要所要所を押さえて使われているから、見ている側には空疎なホラ話と思えないのだ。一例を挙げれば猟奇事件とくればFBI…と先ほど苦笑まじりに紹介した設定についても、そこにデビッド・モースという実に的確なキャスティングを組んでいることで、決して上滑りなものには見せない。バタくさい「いかにも典型的」アメリカ人のルックスであること、警官役も多く捜査のプロのイメージが観客に定着していること、なおかつモースがアメリカ役者にして珍しいほど内省的な演技を時折見せること…これらが見事に映画の設定とジャストミートしているから、観客はシラけずにのめり込めるのだ。これって実際に的確にやり遂げるのはなかなか難しいんだよ。調べてみると、このチェン・クォフー監督ってエドワード・ヤンのミステリアスな異色作「恐怖分子」の脚本にも参画しているんだよね。おそらく「ダブル・ビジョン」の設定の巧みさは、実はこのあたりの資質が活かされたんじゃないかな?

 で、そんなキメの細かい神経の使いっぷりとは裏腹に、お話の進め方はかなり力業で強引。スピーディーにぐいぐいと先に進んでいくから、正直言ってよく分からなかったり、実は少々ツジツマが合わないのでは…と思うところもないわけじゃないんだね。いや、もちろんそうなんだろう。結構ホコロビはあるんじゃないか? だからこそ、観客に深い疑問を抱かせないようにドンドン話を進めているんだろう。そういう意味ではチェン・クォフー監督のこのパワフル演出は確信犯だ。だけどこのスピーディーでパワフルな演出が、先に述べたように話の振れ幅を目一杯大きく広げたスケール感と合体することで相乗効果が生まれて、そのダイナミズムで観客はついつい乗せられてしまうことになるんだね。

 そして実はチェン・クォフー監督自身、そんな辻褄合わせなんかどうでもいいのかもしれない。

 それは、彼がこの映画で何を言いたかったのか…ということと関係があるような気がする。

 

必殺必中のダイナミズムに込められた願い

 映画は終盤に至って二転三転を繰り返す。実は事件の真犯人は、あの監禁されていた少女だった。彼女は脳腫瘍を患い幻覚に捕らわれるようになった頃、自分に双子の姉がいた事を知る。それが映画の冒頭に出てきた死産した赤ん坊だ。その姉に黒目が二つあったことを知って、少女の脳裏に道教の「ダブル・ビジョン」伝説が甦る。5つの地獄を罪人にもたらせば、不死の命を手に入れることができる。こうして少女は脳腫瘍の錯乱の中で犯行を繰り返した…ということになるのだが…。

 映画の最後、主人公の刑事は少女の道連れにされたかのように命を落とす。担架の上でとっくに息絶えた主人公に、妻と幼い娘が必死に声をかける。そうすれば甦るに違いないと言わんばかりに…。それまで心が通いかねていた主人公と妻と娘。それがついこの前、ようやく通い合ったばかりではないか。どうしてここで諦めることが出来よう。それはあまりに理不尽ではないか。

 そう。世の中はあまりに理不尽だ。主人公と妻と娘の絆を脅かしていたのは、そんな理不尽な世の中の仕組みだ。不正を正して良い事をしたにも関わらず、報われないどころか蔑まれ疎んじられるアリサマ。これはどこかがオカシイ。人を救い導くはずの宗教が人を殺す。これもオカシイ。そもそもハイテクにドップリ浸かった人間がカルトに走ることのオカシさ。FBI捜査官は猟奇犯罪をプロファイリング出来ているはずが、本当のところはそんなものアテにならないと分かっている。そして連続殺人で殺された被害者たちは、実は曲がったことに手を染めて「いい思い」をしていた人間だ。これだってオカシイ。

 だが一番オカシイのは何かと言えば、例えそれが罪人とは言え、人を殺した褒美で不死の命が手に入るってことじゃないのか…。何もかも裏腹。どこか相反し矛盾している。だからこそハイテク人間が宗教に走り、人助けが仕事の宗教が人を殺すのか。法の番人のはずの警官が不正を働くのか。そんな無茶なことがあるか。でもそれが世の中と言うものか。そこには絶望があるだけか。誠実な人間はバカを見て、心を閉ざし愛に見放され希望を捨てるしかないのか。

 いや、断じて違う…とチェン・クォフーは言っている。

 多少ムチャなスジ運びも、ブルドーザーで地ならしするようにパワーで押し切ったチェン・クォフー監督。だが、その強引さは単に物語のホコロビを隠すためのものだけではなかった。そもそも、些細な事では動じないようなダイナミズムは、まさにこのエンディングのためにあったのだと感じる。

 もうとっくに死んでいる主人公に、妻と娘は必死に呼びかける。「目を覚まして、目を覚まして!」そんな事を言っても死んでしまった者は目覚めやしない。そんなことで甦れば苦労はない。愛が報われれば世の中みんなハッピーだ。

 だがこの映画では、「それ」が起こってしまう

 驚いたことに何の理屈も理由も説明もなしに、死んでいるはずの主人公がなぜか涙を流すのだ。そして、彼の復活への手応えを感じさせて物語は終わる。なぜ甦るのだ、理屈が通らないじゃないか、ご都合主義すぎる…おそらく大抵の映画ならこうした批判も飛び交おう。ヘタしたらこの作品だってそのそしりを免れないかもしれない。それでもチェン・クォフーはひるまない。物語を語り終えた後で、力強く一言でそれを言い切ってしまう。

 「愛有不死」…愛があれば死なず。

 まさに問答無用。これぞダイナミズム。画面にどデカくド〜ンと映し出されるその文字には、まるで挑みかけるようなチェン・クォフーの気迫を感じるね。どうだ文句があるか、これのどこが悪いんだ、こうあるべきじゃないか、こうならなきゃウソだろう、一切の反論をオレは認めないぞ。

 ひょっとして僕のこの見方は間違っているだろうか。間違っているかもしれない。でも、僕はこう思いたい

 世の中が混迷の度を深める中で、不信と絶望にあえぐ僕ら。ついつい斜に構えて見た方が真実と思いたくなる悪いクセ。

 だが、本当はそうじゃないはずだ。

 何はどうあれ理屈はともかく、最後には正しきが報われ愛が勝たねばいけないんじゃないか?

 「愛有不死」…それはそんな思いのたけを込めた、言い切らねばならない事を言い切るための、必殺必中のダイナミズムだと僕は信じているのである。

 

 

 

 

 

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