「ビロウ」

  Below

 (2003/03/10)


 第二次大戦中の1943年のこと、ここは大西洋上。イギリス空軍の偵察機が、救助を求める海難事故の生存者を確認。付近を航行中のアメリカ海軍潜水艦タイガー・シャークに救出命令を発した。一体何人なのか、敵なのか味方なのかも分からぬままで、指揮官のブルース・グリーンウッド大尉も副官ホルト・マッキャラニーも内心面白くない。しかし命令は命令、ただちに現場に急行して生存者の救出にあたることになった。

 無事に艦内に救出されたのは、重傷を負ったジョナサン・ハートマンとイギリス海軍二等航海士デクスター・フレッチャー、そして…看護婦のオリビア・ウィリアムズの三名。生存者にウィリアムズ…女性が混じっていたことは、たちまち艦内の荒くれ者たちに噂話として広がった。

 「女だ」…「女がいた」…「女が乗って来たってよ」

 「潜水艦に女は不吉だぜ…」

 それでなくても迷信だらけの海のど真ん中。海と言えば港、港とくれば救出したのがイギリス人だしベイ・シティ・ローラーズ…とか何とか訳わかんないことを言ってるうちに、何となく艦内に不穏な雰囲気が漂う。

 若い士官のマシュー・デイヴィス少尉は、救出者たちに聞き取りを開始する。彼らはイギリスの病院船の乗組員だった。それがある晩、突如現れた潜水艦の攻撃を受けたというのだ。さてはドイツ軍のUボートの仕業か?

 ところがそこにドイツの戦艦が接近してきた。たちまち大慌てで潜行を開始するタイガー・シャーク。ソナーで探知されてはマズイ。艦内に沈黙がはしり、緊迫した空気が流れる。

 そこに突然、デカい音で音楽が!

 「S、A、T・U・R、D・A・Y、ナイト! S、A、T・U・R、D・A・Y、ナイト!…」

 何といきなり話題にのぼったばかりのベイ・シティ・ローラーズのヒット曲「サタデイ・ナイト」だ。何でこんな時代にローラーズ、何でこんな時代に30センチLPレコード…とヤボを言ってる場合ではない(笑)。慌てて船室を探し出すと、誰がかけたがレコード・プレイヤーが回っている。早速レコードを止めるが万事窮す。

 敵艦の爆雷投下だ!

 あっちからこっちから、タイガー・シャークの周囲で爆雷の爆発が相次ぐ。物凄い衝撃で右往左往する乗組員たち。それが止んだかと一瞬ホッとすると、艦の甲板に一個だけ爆雷が残り、ゴロゴロとしばらく転がっているではないか。結局それは不発のまま海底深く落ちていったものの、まるで生きた心地がしなかった。

 何とか攻撃をやり過ごしたものの、誰がこんな事をしたかというナゾは残る。それをあれこれ詮索しているうちに、乗組員が救出した重傷者の衣服に目を止めた。

 なにっ、奴の着ていたのはベイ・シティ・ローラーズのトレードマークのタータンチェック柄だと(笑)?…じゃなかったベルリン製だって?

 たちまち医務室に寝かされていた重傷者ハートマンのもとに一同が殺到。指揮官のグリーンウッドが拳銃を構えて脅す。それを見た看護婦ウィリアムズは慌てて釈明した。「ドイツ軍の負傷捕虜なの、無茶はやめて!」

 だが一瞬遅く、身の危険を感じたハートマンは手近にあるメスに手を伸ばした。

 バ〜〜〜ン!

 艦内に響く銃声。哀れハートマンはグリーンウッドの銃弾に倒れた。憤り悲しむウィリアムズ。「こうなると思って黙ってたのに…」

 だがこれは、それでなくても立場が悪いウィリアムズのためにはならなかった。指揮官グリーンウッドの命令で、彼女は部屋に軟禁状態にさせられることになった。

 それにしても…あのレコードは誰がかけたのだ? 時間的にも状況からみても、あの重傷者ハートマンがやったとは考えにくい。若い士官デイヴィス少尉はそんな疑問を口にするが、指揮官グリーンウッド、副官マッキャラニー両者とも大して気にもとめない。誰かローラーズ・ファンがいたんだろ、今時ファンだったなんて恥ずかしくて言えなかったんだろうて。

 さて患者を救えず意気消沈のウィリアムズ看護婦だが、部屋に大人しくしているとどこからともなく不審な声がする。「バイ・バイ・ベイビー…引き返せよぉ〜」

 またしても数少ないベイ・シティ・ローラーズのヒット曲だ。驚いて自分の寝台の下を見ると、そこにはタータンチェック服を着せられた、先のハートマンの死体が置かれているではないか。

 キャ〜〜〜〜〜ッ!

 何だなんだとまたしても一同が殺到する。慌てふためくウィリアムズだったが、それは彼女の存在を面白く思ってない乗員ジェイソン・フレミングのイタズラだった。苦々しい思いを噛み殺しながら、指揮官グリーンウッドはフレミングに遺体を別の場所に移すように命じるのだった。

 フレミングはしてやったりでご機嫌。ところが重たい遺体をえっちらおっちら運んでいるうち、どこからともなく不思議な声が聞こえて来るではないか。「バイ・バイ・ベイビー…引き返せ…」

 だが、誰もしゃべっている者などいない。これはイタズラではない!

 うわ〜〜〜〜〜っ!

 驚いて逃げ出すフレミング。自分がイタズラをしておきながら、今度は彼が確信する番だった…この艦は呪われている! あっと言う間に落ちぶれたベイ・シティ・ローラーズの呪いだぁ!

 艦内の空気を取り替えるべく浮上準備を進めていたタイガー・シャーク。そんな折りもおり、看護婦ウィリアムズは閉じこめられていた部屋を抜け出し、コッソリ艦長室に忍び込んだ。好奇心にかられて艦長日誌をひもとくと、ウィリアムズは奇妙なことに気づく。最近の日誌から、文字の筆跡が明らかに変わっているのだ。さては艦長が替わったのか? しかも偶然に開いた戸棚には、別の艦長の名の品々が入っていた。そして一枚の写真…前艦長とおぼしき男と、慰問に来たベイ・シティ・ローラーズのメンバーが握手している写真だ! 前艦長はローラーズ・ファンだったのか?

 そんな彼女の様子を、スコット・フォーリー中尉が見ていた。

 その頃、海上にまたしても敵戦艦の気配を感じたタイガー・シャークは、浮上を諦め再潜行を余儀なくされることになる。部屋に軟禁していた看護婦ウィリアムズの様子を見に来た指揮官グリーンウッドに、彼女は意味ありげな言葉を吐いた。「さっきの事で、潜水艦では隠し事はいけないって痛感したわ」

 その言葉に、裏の意味があることを察したグリーンウッドは、今まで語らなかった出来事を語りだした。

 「実はこの艦には別の艦長がいた。あれはサタディ・ナイトのことだった…」

 「もうやめてよ、ローラーズは!」

 ある晩、敵艦を撃沈したタイガー・シャーク。浮上して甲板に出た前艦長とグリーンウッド、マッキャラニー、フォーリーの4人は、海上に浮かぶ敵の遺留品を拾おうとした。だが、その際に足を滑らせて前艦長は亡くなってしまった。前艦長がローラーズ・ファンだということが恥ずかしくて、ついつい隠してしまった…。

 そんな打ち明け話を披露した直後、グリーンウッドはチラリと「あるもの」を見てしまった。それはタータンチェック柄の服を着た男…(笑)。

 そこに一難去ってまた一難。敵艦はチェーンでカギ爪をぶら下げ、タイガー・シャーク目がけて投下してきた。艦体をひっかき、引き裂いていくカギ爪。司令塔も破壊され、浸水のために司令室を放棄せざるを得なくなる。だが、先ほど見た「もの」のショックかグリーンウッドは指揮をとれずに呆然と立ちつくすのみだ。

 さて立ち往生したタイガー・シャークだが、問題はまだあった。先ほどのカギ爪攻撃がたたって、艦内から海に油が漏れだしたのだ。このままでは敵に感づかれてしまう。さらに艦内に水素が充満して、危険な状況になりつつもあった。

 こうなれば奥の手でいくしかない。艦外に出て、そこから破損箇所に入り込んで修理するしかない。志願したのはデイヴィスとフォーリー、フレミングと乗員の一人ザック・ガリフィアナキスの二組4名。彼らはアクアラングを身につけ、艦外に出ていった。

 破損個所から艦の内部に入り込むと、二組に分かれて修理にあたる彼ら。その修理の最中、デイヴィスはフォーリーに、「あの晩」のことを問いただした。あの「前艦長が亡くなった晩」のことだ。フォーリーは渋々当夜のことを語り出す。

 「あれはサタデイ・ナイトのことだった」

 「もういいですって、ローラーズは!」

 「真相はこうだ…ローラーズの連中は楽器がヘタで、ぎんざNOWに出た時には口パクのテープ再生で、実際は演奏してなかったんだ」

 「だから、そんなことを聞いてるんじゃありませんっ!」

 実は前艦長は海上に生き残りがいたにも関わらず、射殺するように命じたのだ。そこで反対する他の3名ともみ合っているうちに、誤って海中に落ちた…。

 そう言いながら、フォーリーは秘かにデイヴィスの隙を狙っていた。手に持っていた工具を下にいるデイビスの頭上にかざして…。

 ギャアアア〜〜〜〜〜ッ

 その悲鳴は、鋭く艦内にも響いてきた。何だなんだと阿鼻叫喚。もちろん同じ場所で作業していたフレミング、ガリフィアナキスも慌てて駆けつけた。すると青ざめた表情のデイヴィスがその場に立ちすくんで…。

 艦内に溜まった水面に、血塗れのフォーリーの死体が浮かんでくるではないか。

 そうなると、もう我慢できない男たちはその場から逃れて水中へと逃げだし、慌てふためいて艦内へと舞い戻った。もう口もきけない3人の男たち。

 だが、デイヴィスはその時見てしまったのだ、ス〜ッと消えていくおぼろげなタータンチェック服の男を。

 さらに畳みかけるように艦外からドンドンと叩く音が…何だこれは? モールス信号か? S…A…T・U・R…D・A・Y…じゃなかった(笑)、「B…A…C…K…戻る」だと?

 戻るってどこへだ?

 焦り狂ったグリーンウッドは舵を切ってベイ・シティの母港に戻ろうとするが、何と舵がいうことをきかない。思いっきり力を込めたら舵はブッ壊れてしまったではないか。もはや航行不能。しかも油圧系統の故障を直そうとしていたら、艦内の水素に引火。大半の乗組員は丸焼けとなってしまった。

 もはや残ったのは一握りの乗員と救出されたウィリアムズ、フレッチャーだけ。

 では、タイガー・シャークはどこへ行こうとしているのか?

 BACK=戻る…あのウィリアムズたちを救出した、イギリス病院船の撃沈現場へと向かっていたのだ…。

 

 潜水艦映画と言えば、緊迫した状況で手に汗握らせる佳作が多いよね。あの「U・ボート」しかり、最近じゃ「U-571」、そしてソ連原潜の「K-19」があった。いずれも限られた密室的状況。一つ間違えば海の藻屑って趣向がとっても映画的なんだろう。

 今回はそこに新鮮味を注入して、さらに面白くしたって感じなんだよね。その新鮮味ってのは二つある。まずは潜水艦映画には珍しく、ヒロインが出てくるってこと。それが新鮮であると同時に、女は乗せない潜水艦にとっての不吉を暗示して絶妙のムードづくりをする。そしてもう一つは、今回の作品が怪談仕立てってことだ。

 それでなくても海上に敵がいて、そこで虚々実々のやりとりやら緊迫した状況をつくりやすい潜水艦映画。ただ、潜水艦映画はその舞台がどうしても艦内に限られてしまうので、どんな作品も出てくるシチュエーションやサスペンスの種類に限りが出てしまう。欲を言えばそこが難点かも…と言えなくもないんだよね。

 今回も潜水艦映画お約束の、息を潜めて爆雷投下を待ち受ける場面が登場する。まぁ、毎度お馴染みとは言え、いつ見ても一応手に汗握らされはするんだよね。そんな放っておいてもサスペンスが充満する潜水艦なのに、今度は中にも敵がいる…それも得体の知れない敵ってところが新しくも面白いわけ。

 そんな趣向って宇宙空間での密室である宇宙船を舞台にした「エイリアン」的状況とも言えて、これまた二重三重にサスペンスが高まる。そこに今回はなぜこうなったのかを探るナゾ解きの興味も加わって、なかなかあの手この手の趣向を盛り込んだ欲張りな構成になっている。これはなかなかに知能的な作戦だね。

 その紅一点オリビア・ウィリアムズは、これまでどうもツイてなかった感じがある。「ポストマン」「抹殺者」「ラッキー・ブレイク」と、いずれも一流映画人の手になる大作企画なのに、どういう訳だか揃いも揃って不発。唯一の興行的成功作「シックス・センス」でも、主人公ブルース・ウィリスの妻役で早々に退場という憂き目を見ていた。そんな彼女がここでは映画の新鮮味となる潜水艦映画のヒロインとしてイヤが上にも目立つところにきて、冒頭の不吉さを生み出す存在でもあり、かつナゾ解きの探偵的役割も帯びた儲け役なんだよね。これをキッカケにちょっといい目を見れるんじゃないか。

 彼女を助ける実質的な主人公のマシュー・デイヴィスは、若さと甘さを買われた可も不可もない役どころだが、指揮官役のブルース・グリーンウッドは「13デイズ」のケネディ大統領役で注目された人だよね。今回はケネディ役の時のリーダー的信頼感と見せかけて…という面白い使われ方をしている。クセ者のジェイソン・フレミングも含めて出演者はいずれも地味めだが、それだけにこの映画の不気味さと緊迫感にはピッタリって感じなんだよね。だって、誰もがいつ死んでもおかしくないし(笑)。これって実は大事なんだよ。

 監督のデヴィッド・トゥーヒーって、実は僕は作品を一本も見ていない。だけど脚本作品も含めて、SFやホラー、アクションに強い人らしい。今回も小粒ながら、なかなかピリリと辛いところ見せてるよ。

 だけど注目すべきはやはりこの人。「」で注目を浴びて「レクイエム・フォー・ドリーム」でも凄みを見せた、ダーレン・アロノフスキーが参加しているところがミソだろうね。この人、今までの作品群から見て映画界でも特異なポジションにいると思っていたから、こんな娯楽サスペンスに参加するとは思わなかった。だけど脚本だけでなくプロデュースにも加わってるところから見て、単なる雇われ仕事ではないようだ。結構ノッてやってると見たね。確かに追いつめられたギリギリ状況のヤバい雰囲気づくりは、この人の作品世界に通じるかもしれない。この人がこんな娯楽作品にも興味があるなら、僕らは今後もかなり楽しませてもらえそうだ。

 ともかく潜水艦映画にハズしなしって神話は、今回も守られたかもね。しかも、まだまだいろいろ手はありそうだよ。

 

 

 

 

 

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