「ディナーラッシュ」

  Dinner Rush

 (2002/12/30)


中村ノリFA迷走に思う

 近鉄バッファローズでホームラン・バッターとしての名声を欲しいがままにしていた「ノリ」こと中村紀洋が、今年のプロ野球ストーブリーグの台風の目だったことは間違いないだろうね。

 FA権取得に伴ってこの男が何らかの動きを起こすことは、シーズン中から囁かれていたことだ。まずそうなると、12球団すべての4番打者を獲得することに意欲を燃やす悪徳読売ジャイアンツが乗り出すことは、火を見るより明らかだった。ま、あそこは本当にその選手を欲しいかどうかは関係ない。どんな有名スター選手も「押さえておく」感覚で札ビラ切って持っていくんだよね。そのへんの金権ガハハオヤジぶりが見苦しいやらはしたないやら。ファンの人だっていいかげん呆れてるんじゃないかねぇ。

 あと囁かれていたのが、松井の大リーグ入りを意識して中村ノリまで海の向こうに行くって話。これも大いにあり得る話だとは思った。国内でそれなりに実績を積んできた人が、ここで一発大勝負と思うのも無理はないだろう。このへんの気持ちは理解出来るよね。

 他にも主要球団はいくつか名乗りを上げるだろうことは分かっていたし、争奪戦も激しくなるだろうことも予想はついた。だけどこの中村ノリのFA話の当初から、プロ野球に詳しい人の中にはこんな動きを冷ややかに見つめる向きも少なくなかったようなんだよね。

 何だかんだ言っても、結局のところ中村ノリは近鉄に留まる。

 なぜか話の発端からこう言い切る人もいたんだ。僕は正直言ってパ・リーグって明るくないし、実は最近のプロ野球ってほとんど見ていないから、何の事やらまったく分からなかったんだけどね。

 さてそんな中村ノリ争奪戦が実際スタートして、早速彼が読売ジャイアンツを袖にした時には、そんな彼の心意気に喝采を送った人は多かったと思う。そうだ、彼には夢があるんだ。その心意気を金で買おうなんてフザケた球団には鉄槌を食らわせろ! 他にも名乗りを上げた球団はいろいろあったが、ここで有力視され始めたのが星野監督率いる阪神タイガースだった。

 実は僕は昔からの阪神ファンではあるが、星野が采配を奮うタイガースってのはちょっと違和感あるんだよね。だから少々冷ややかな目で見ていた。今回の中村ノリ獲得も、正直言って諸手を挙げて大賛成ではない。だが、中村ノリとしてはこれも一つの選択肢だろうなとは思っていたんだ。

 ところがどうだ。なぜか中村ノリはあっちへフラフラ、こっちへフラフラ。どうにも態度が煮え切らずハッキリしない。しかも大リーグ入りの話もいつまでもくすぶってて、星野監督も堪忍袋の緒が切れた雰囲気。こりゃさすがに一人の男としてはマズい態度ではないかと僕ですら気になったよ。

 確かに彼としては人生の一大事。その決断に傍がとやかく言う資格はない。だが、どこに決めるにせよ、それまでのその人の態度のあり方ってのはあるだろう。しかも、決断が遅れることによって相手方に与える迷惑も考えないといけないじゃないか。それって別に人としては常識のセンだろうと誰でも考えるよね。

 そんなこんなしているうちに中村ノリの大リーグ・メッツ入りが報じられた。星野も手玉に取られたか…とちょいとばっかしイヤな雰囲気は漂ったものの、まぁこれで一件落着かなと僕も思った。まだこの後話に続きがあったとは、この時点で誰も予想していなかったろう。

 ところが青天の霹靂、何と中村ノリはメッツを蹴ってしまった。年俸をはじめ待遇への不満などもあったのだろうが、正直なところ僕もよく事情は分からない。ともかく中村ノリに言わせると、何でも彼の入団をメッツが事前にマスコミに漏らしてしまったと怒ってるらしかった。だが間もなくメッツと大リーグ側から、中村ノリに抗議する主旨のコメントが発表されたんだね。どうなってるのだ、これは? あれだけの組織が正式に抗議を表明するならば、やはりそれなりの理由があるに違いない。中村ノリは勘違いか道義的な間違いかは知らないが、とにかく何らかのルール違反を行ってしまったんだろうね。

 結局、彼は古巣の近鉄に留まり、莫大な契約金を手中に収めることとなった。これってねぇ、素人目にはどう見てもゴネ得としか見えないんだけど、どうだろう?

 中村は何にも知らなかったのかもしれない。全部代理人に頼んだと言うのもウソはないかもしれない。だけどね、やっぱりこれは彼の失敗、彼の罪だと思うんだよね。これだけの人が振り回され、これだけの各方面が迷惑した以上、俺は悪くない俺は責任ない俺は知らなかったじゃ済まされないだろう?

 これってねぇ、僕みたいな小物の男が言うのもどうかと思うんだけど、やっぱりそれが彼の「器」だったと思うんだよね。

 お葬式みたいな記者会見をさせられ、まるで自分が悪者みたいに頭を下げていた松井のあり方が望ましいなんて全然思わない。でも、彼なりにキッチリとスジを通した松井に対して、ちょっと中村ノリの振る舞いはみっともなかったよね。

 彼が今後近鉄でうまくやっていけるのか、素晴らしい成績を収められるのか、僕には分からない。だけど、これだけは言える。中村ノリは日本のプロ野球を代表する大打者だなんて、たぶんとても認められない。

 大打者、大選手と呼ばれる「器」が、彼には到底望めそうもないもんね。

 

NYイタ飯レストラン喧噪の一夜

 それはニューヨークのとあるイタリアン・レストランでのこと。この店「ジジーノ」のオーナーであるダニー・アイエロは、経営をパートナーである老人フランコ・ボンジョルノにすべて譲り渡して、いいかげん引退して楽したいなどと漏らしていた。だが当のボンジョルノは賭けのノミ屋稼業に入れ込んでいて、この店の経営を一手に握りたいなんて思っちゃいない。だからアイエロにも気のない返事をして、早々にその場を立ち去ってしまった。

 その後日、ボンジョルノは孫娘を送り迎えする際に、二人組の男につけ狙われるハメになる。この二人組こそ、この地区に勢力を伸ばそうと企む新興マフィア「ブラック&ブルー」のマイク・マッグローンとデブ男の相棒。ボンジョルノは瞬間的に危険を察知するが、結局あえない最後を遂げることになった。

 ボンジョルノの死を知ったアイエロは、残された彼の娘ポリー・ドレイバーに悲報を告げる。だがアイエロは知っていた。「ブラック&ブルー」の魔の手が、次には自分にも及んでくることを。なぜなら彼自身、博打の胴元という裏の顔を持っていたから…。

 そんなアイエロの店「ジジーノ」は、今日も今日とて押すな押すなの大盛況。VIPも顔を出すし、予約をとるのもままならない繁盛ぶりだ。当然厨房も大混乱。シェフのエドアルド・バレリーニはキッチンで怒鳴りまくり威張りまくり。いきなり気に入らないスタッフをクビにする独裁者ぶりだ。おまけに出勤してきたばかりのウエイトレスのヴィヴィアン・ウーと部屋にシケこむなどやりたい放題。

 それというのも、このシェフのバレリーニが「ジジーノ」をすっかりトレンド料理の店に仕立て直したから。オシャレな事に目ざといニューヨーカーの客が、店に殺到して来てのこの賑わいともなれば、バレリーニの鼻息も荒くならざるを得ない。もっともバレリーニがスター・シェフになったのにはちゃんと理由があって、それはウルサ方の料理評論家サンドラ・バーンハードと寝たからだ…という意地悪な見方もないわけではない。

 実はこのバレリーニが強権を振るえる理由はもう一つ、彼は店のオーナーのアイエロの息子だという要因もあるにはある。しかし、それはそれでバレリーニには頭痛のタネではあった。せっかくスター・シェフにのし上がって店を大成功に導いてはいても、父アイエロはいつまで経っても彼を認めようとしない。早く経営を譲り受けて名実共に「自分の店」にしたいのに、父アイエロが店を手放してくれないのが不満でならないのだ。もっともアイエロはアイエロで、伝統的で家庭的なイタリア料理を出す店だった自分の店が、息子バレリーニの手でクソ気取ったうまくもないトレンド料理の店に成り下がったのが面白くない。今日もオーナー特等席に陣取ったアイエロとシェフのバレリーニ父子の間には、ただただ平行線な会話が続くだけだった。

 そんなアイエロのお気に入りは、彼好みの昔ながらのイタリア料理をつくれる男、副シェフのカーク・アセヴェドだ。今日もいつものように重役出勤のアセヴェドがまず行うことといったら、厨房の喧噪を横目にひたすらオーナーであるアイエロのための特別料理づくり。アイエロのお気に入りで、しかも腕は確か。それだけに、キッチンの暴君バレリーニもこの副シェフのアセヴェドにケンカを売る気はない。その悠々たるマイペースに苛立ってはいるものの、店として手放すことの出来ない人材と分かってはいるのだ。

 そんなアセヴェドが目下のところ頭を悩ませているのは、莫大にかさんだ自分の賭けの負け金。それも、あの悪名高い「ブラック&ブルー」から多額の借金をしているからタチが悪い。さすがにアセヴェド贔屓のアイエロとしても、怒りを露わにせざるを得ない道理だ。

 それでも我慢できないアセヴェドは、今夜のバスケットボールの試合にすべてを賭けて一発大逆転を狙うもんだから、これはもうビョーキ。ごった返して戦場状態のキッチンでも、彼一人は心ここにあらずでラジオの実況に聞き入るテイタラクだ。それでも仕事はキッチリこなすプロ魂はさすがなのだが。

 そんなアセヴェドのもう一つの悩みは、何と女のこと。元々ウェイトレスのヴィヴィアン・ウーが彼の恋人なのだが、そのウーとシェフのバレリーニがどうもデキてるらしいと気が気ではない。忙しい中でウーを外に連れ出し問いつめながらも、彼女には話題をそらされてしまい悶々とした思いはつのる。

 そんな一触即発の店内に無理やりゴリ押しで入ってきたのは、例の「ブラック&ブルー」のマッグローンとデブ男。彼らは予約もないのに席を陣取ると、アイエロに高飛車に面会を迫った。静かなところで話を…と店内のトイレに誘ったアイエロだが、マッグローンとデブ男が彼のパートナーに座って店の実権を握ると言い放つと愕然とせざるを得ない。例のボンジョルノ殺しはこれが目的だったのだ。しかも賭けでボロ負けのアセヴェドの莫大な負け金の件をチラつかされると、さすがのグウの音も出ない。アイエロからいい返事を引き出すまでは店に居座って帰らないと言われて、暗澹とした面持ちで考え込むアイエロだった。

 そんなアイエロの思いも知らず、ラジオにかじりつくアセヴェド。だが、こういう時の常として博打に勝てるわけもない。結果は大負け、アセヴェド一人では到底返しきれない負債を抱えるハメになって進退窮まる。してやったりのマッグローンとデブ男からは呼び出しをくらうし泣きっ面にハチ。またまた恋人のウーに泣きつくと、外でやさしく抱いてもらうより他がなくなる。そんなどうしようもないアセヴェドだが、ウーも思わず情にほだされてしまうのだった。

 しかしそんな諸々の思惑などお客は待ってくれない。どいつもこいつも席が空くのを待っている。注文を取りに来るのを待っている。料理が運ばれてくるのを待っている。有名画商マーク・マーゴリスがスノビズム丸出しのイヤミたらたらで注文をつければ、店のウエイトレスをしながら絵の勉強をしているサマー・フェニックスも一歩も退かない。例の料理評論家バーンハードは「お忍び」と称しながらも店の「顔」であることをチラつかせて知人と一緒にやって来る。そんな中で店の中のバー・カウンターでは、マンハッタンの金融マン然としたジョン・コルベットが周囲を興味しんしんで伺いながら酒を飲んでいる。今は亡きボンジョルノの娘ドレイバーも一人娘を連れて、アイエロのおごりで食事を楽しんでいる。

 やがて停電で店は真っ暗。厨房内も混乱を極めるものの、スタッフたちの手は休まることを知らない。店内ではこの突発事を、ロウソクの灯の下での食事という粋な演出へとすり替えた。バーではバーテンのジェイミー・ハリスがクイズ王としての知られざる顔を見せて、客からの難問奇問に次々回答しながら楽しませる。まったく一糸乱れることのない一流店ならではのプロの腕の見せ所だ。

 だが一触即発状態は続く。経営権を巡るアイエロへのシェフのバレリーニの苛立ちはつのるばかり。しかも料理を待ちくたびれる評論家バーンハードには、とっておき料理を披露しなければならない。「ブラック&ブルー」の二人組は、無言のプレッシャーをアイエロとアセヴェド双方に与え続ける。そしてこの夜は「ジジーノ」始まって以来の数の客が押し寄せてきている

 さてこの難局に、レストラン「ジジーノ」の面々は無事すべてのお客をもてなすことが出来るのか? アセヴェドの賭けの負け金は? アイエロとバレリーニ父子の確執は? そして「ブラック&ブルー」の突きつけた要求を、アイエロは切り抜けることが出来るのだろうか?

 

「器」の違いを見せるダニー・アイエロ

 ニューヨークのイタリアン・レストランを舞台にした、さまざまな人物が交錯する一夜の物語…というと、ロバート・アルトマンの「ナッシュビル」をはじめとして人間群像劇が大好きな僕のツボ。だからこの映画もとても期待していたんだよね。ただ宣伝などを見るとニューヨークのトレンドのグルメの…てなクソ気取った雰囲気が濃厚に立ち上ってかなりイヤミ。劇場パンフレットにもどこかのいかにも勘違い野郎が、この映画のあの料理がどうの、このワインがこうの、ここが分からないと面白さが味わえないなどと「これが分かってるイケてる俺」ってなバカさらして書いているように、な〜ンとなくヤな感じもちょっとあった

 映画が始まってすぐに店のオーナーの老パートナーが殺される一幕があるが、そこからオープニング・タイトルのくだりには、妙に気取ったコマ落としやらフィルムを荒らした処理だとか、手持ちのようなグラグラ画面なんかが出てきて、ありゃりゃりゃ…やっぱこれは「俺ってトレンドだろう」的な気どり映画かとイヤな予感が再燃。こりゃどうなることかとちょっと気になったりもしたんだけどね。

 監督はボブ・ジラルディ。聞いたことない(笑)。これまたパンフレットの引き写しだと、テレビCFやらミュージック・ビデオなどで名高い人物とか。そこに写っているいかにも“俺はニューヨーク先端アーティスト”然としたジジイのツラがまた気にくわない。言ってるコメントの偉そうな一言ひとことがまた気に入らない。

 ところでこの「ディナーラッシュ」はこいつの14年ぶりの映画だと言うんだが、その前の作品は何かと言えば、何と「ウォンテッド・ハイスクール/あぶない転校生」(笑)。僕はこれテレビで見てるよ。「恋人ゲーム」やら「プリティ・イン・ピンク」で一時注目を集めたジョン・クライヤーが捜査官の役で、童顔なのをいいことに高校生と偽って犯罪捜査のためハイスクールに潜入する話。そのうち女子高生のアナベス・ギッシュと恋に落ちたりする、ジョン・ヒューズあたりで当時盛んだった青春娯楽映画の典型みたいな映画だった。それなりに面白かったけど、そんなスゴイ映画でも冴えた映画でもなかったぜ。けっ、何がニューヨーク先端アーティストだよバ〜カ。このジジイ大した山師だぜ(笑)。

 まぁ映画を見ている間はそんなパンフレットも見ていないから、この監督が何者かも分からなかったんだが、分からなくて良かった。これはそんな意地悪な見方をしたくなるイメージとは裏腹に、なかなかよく出来ていて面白い映画だからだ。

 とにかく様々な人物が錯綜する話だが、にも関わらず交通整理がよく出来ていて見ている方はまごつかない。しかも厨房から店内にかけてのリアリティも見事なら、てんやわんやの舞台裏の面白さもたっぷり。このあたりは、このジラルディなる監督が実際にレストラン経営をしており、実はこの映画の舞台「ジジーノ」もこの監督の持つ店だというあたりから来るものなんだろうね。一体どうやってこの喧噪を撮影したのかと驚かされるほど、狭い店内を縦横無尽にカメラは動く

 多彩なキャストも見どころだが、実は見たような役者も数多く出てはいるものの、いわゆる有名俳優はさほど参加していない。せいぜい主役のダニー・アイエロ、「枕草子」や「宗家の三姉妹」のヴィヴィアン・ウー、一時エドワード・バーンズ映画に出ていたマイク・マッグローンくらいかな、パッと名前と顔が一致するのは。

 だが、この映画のダニー・アイエロが素晴らしいのだ。この人ってかつてはランニング・シャツ着て脂ぎった無教養なオヤジがピッタリって役者さんだったけど、この映画でのカッコよさはどうだ。品も風格も押し出しも十分の、年輪を重ねた男の風貌が何とも味わい深い

 そして、このアイエロがやっぱり最後に一番オイシイところをさらうのだ。それも、あれもこれも難問すべてに鮮やかに解決を与えてサッと退場していく。それもこれも、アイエロの千両役者ぶりがあればこそだと言い切っていい。いつの間にこんな大きな役者になったのか僕も気づかなかったが、確かに「器」ってものを感じるね。そんな役者として人間としての「器」の大きさが、この役自体の「器」の大きさにピッタリはまってる。余裕で見せるアイエロには思わず拍手したくなったよ。

 この鮮やかな幕切れは映画を見てもらわなければ分からない。だから僕も何も言わない。この話、一体どうやって決着着けるのかと僕も見ていて心配してたが、見終わった後の気分の良さったら最近ではピカ一かも。

 見る前には、終わった後に立ち寄る食い物屋を決めておいた方がいい。見た後絶対に腹が減るからね。ただしいくら映画が良かったからといっても、柄にもなくイタリアンのトレンディなレストランなんてのはやめておいた方がいいよ。

 「器」で見せる映画には、見る側も自分の「器」をわきまえておきたいからね。

 

 

 

 

 

 

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