「ズーランダー」

  Zoolander

 (2002/11/18)


●みるまえ

 今年のアカデミー賞授賞式に何の部門だか忘れたがプレゼンターとして出席したのが、ベン・スティラーとオーウェン・ウィルソンの二人。この二人、出番の間は終始フザケまくって満場の笑いを誘っていた。まぁ、この二人なら笑いをとる方向にいくことは何となく想像がつく。その後、知人に聞いた話では、この二人はある新作で男性モデル役で共演しているというではないか。まぁ新作のキャンペーンの一環としてプレゼンターとして出てきたわけね。アカデミー賞ってのは早い話がハリウッドの業界のイベントだから、そういう持ちつ持たれつのところもあるんだろう。

 それにしてもこの二人で男性モデル役、しかもオスカー・ナイトのあのフザけ方から考えて、こりゃ絶対コメディに間違いないなと思ってたら案の定。その新作「ズーランダー」って相当のバカ映画って評判が伝わってきた。まぁスティラーとくれば「メリーに首ったけ」の大バカ演技が記憶に新しいところ。対するウィルソンだって軽〜い陽性のキャラで売ってるし、「シャンハイ・ヌーン」で結構ジャッキー・チェン相手に笑わせてくれたよね。何となく相性も良さそうだし、これは相当バカバカしい映画に仕上がっているんじゃないかね?

 いや? 待てよ?

 ベン・スティラーってこの「ズーランダー」で監督もやってるじゃないか。だけどこの男の監督作って言えば、マジメも真面目、あのイーサン・ホークやウィノナ・ライダーと共に悩める青春像を描いた「リアリティ・バイツ」もそうじゃなかったっけ? そんな知性的な男スティラーは、いまや一体どこへ行ったんだろうか…?

 

●すじがき

 マレーシアで新政権発足! まるでオリバー・ストーン映画みたいなニュース映像には、街中ではこれを祝う集会が開かれてお祭り騒ぎの様子が映し出される。それというのもこの新政権が打ち出した政策が、国民の心をガッチリとらえたから。それは国民の最低賃金を引き上げ、児童の就労を禁ずるという立派な政策だ。まこと人権意識に叶った立派な政策…だが、誰もがみんなこれにモロ手を挙げて賛成というわけではない。何かと言うと錦の御旗のごとく「人権」を振り回すアメリカであってさえも…。

 アメリカ人はよく日本人つかまえては、ホンネとタテマエ、二枚舌云々と文句をたれる。だが、そんなアメリカ人にも実はオモテの顔とウラの顔がある。ここ、とある場所のとある一室に集まった連中は、そんなアメリカ社会の産業界や経済界のVIPの闇の集まり。この連中が頭を抱えて憂慮するのは、このマレーシアの新政策についてだ。最低賃金を上げる、子供の就労を禁ずる…そうなったらマレーシアを生産拠点にしているこいつらは余計な出費を強いられてしまう。ましてこれが引き金になって他のアジアの国々に波及でもしたら…事態を重く見たこいつらは、慌てて対策を協議するためにこの会議を召集したというわけだ。

 マレーシアの新首相を消さねばならぬ!

 とんでもない結論を導き出したこいつらは、早速その場に呼ばれていたある男にマレーシア首相の暗殺を命じた。その男…何ともすっとんきょうな髪形の人物は、どうもファッション・デザイナーらしい。そしてちょうど訪米するマレーシア首相をこの男のファッション・ショーに招き、そこで始末するとの算段が早くもまとまった。では、一体誰が手を下すのか?

 ある一人の名前が候補に上ったが、例の妙な髪形のデザイナーは速攻で却下。そいつじゃ頭が良すぎる。今回の暗殺に必要な資質とは…どうにでも操りやすい、徹底的に究極に完璧なまでにバカな奴しかいない!

 そんな奴いるのか?

 同じ頃、ここは世界のファッション業界の台風の目、ニューヨークはマンハッタン。今まさに一人の男が楽屋でメイクを受けながら、女性記者の取材を受けていた。その名をズーランダー=ベン・スティラーという。この男、実は男性ファッションモデルではダントツの人気実力を誇るカリスマ的存在。特に凄いのは「キメ顔」を持っていて、しかもそれらに名前がついていること。たとえば「ブルー・スティール」はこれ!…などと言いながら次々とその「キメ顔」を見せてくれるズーランダー=スティラーは結構気さくと言えば気さく。だが、取材のタイム誌女性記者クリスティーン・テイラーにしてみれば、どの顔もこの顔もまったく代り映えがしないとしか思えない。にも関わらず、現在は最新「キメ顔」である「マグナム」を開発中…などと大マジで言ってるズーランダー=スティラーは、どう見たって大人の脳味噌持っているとは思えない。女性記者テイラーもこれには絶句するほかなかった。

 だがそんな彼にも、実は今ちょいと不愉快に思っていることが一つ。トップモデルとして君臨していたズーランダー=ベン・スティラーの牙城を脅かす男が現われたのだ。それがハンセルことオーウェン・ウィルソン。飛ぶ鳥落す勢いで、グイグイ頭角を表わしてきた彼。だが、そのどこか傲慢に見える言動が、この世界でずっと第一人者だったズーランダー=スティラーには気に入らない。だからモデル界の年に一度の祭典であるVH1ファッション・アワード受賞式に現われても、両者はチクチク敵意をぶつけ合う始末。まぁ、いい。奴には吠えさせておけばいい。俺には今日は大事な夜だからな。

 そう。彼ズーランダー=スティラーは、VH1ファッション・アワードの“最優秀男性モデル”に過去3年連続選ばれていたのだった。そして、この夜受賞したら何と前人未到の4回連続だ。きっとまた、自分にとって光輝く栄光の一夜になるに違いない。ナンバーワン男性モデルの自負で頭の中が一杯になっていたズーランダー=スティラーの耳には、この夜の“最優秀男性モデル”の名前を呼び出す声など、まったく耳に届いていなかった。さぁ、受賞スピーチを言いにステージに上がらなければ…。

 ズーランダー=スティラーは周囲の喧騒も聞えず一気呵成に壇上に上がった。そして喜色満面でプレゼンターから賞をかっさらう。「みんな4連続なんてムリって言ってたけど、僕はやったよ!

 ところがどうも様子がおかしい。観客も息を飲んで静まり返ってるわ、プレゼンターも困惑しているわで「めでた気分」ももう一つ盛り上がらない。一体どうした?…とズーランダー=スティラーも異変に気付き始めると、プレゼンターがゆっくりと教えてくれた。

 「受賞はアンタじゃない、ハンセル=ウィルソンだ」

 愕然。ショック。呆然自失。

 賞を奪われたこともみじめだが、それを勘違いして大観衆の目の前で受賞の壇上まで上がってしまったことのミットモナサが見にしみる。頭ん中真っ白(元々真っ白みたいなもんだが)のズーランダー=スティラーは、まるで抜け殻のようにボロボロになって会場を後にした。

 だがこの会場に、そんなズーランダー=スティラーを見つめながら、一人大きくうなづいている男がいた。妙ちきりんな髪形をした今をときめくファッション・デザイナー、ウィル・フェレルがそれだ。この変な髪形を見て、みなさんは何か思い出さないか? しかもこのフェレルがこの会場に入ってくる時に、東南アジアでの彼の工場の労働者搾取に怒ったデモ隊が彼に生卵をぶつけていたと聞けば、みなさんもすぐにお分かりだろう? 例の産業界や経済界のVIPの闇の集まりで、マレーシア首相暗殺を命じられていた男…それがこのデザイナーのフェレルなのだ。彼はズーランダー=スティラーの醜態を見つめながら、納得したようにうなづき続けていた。「まさに完璧だ、完璧なまでのアホだ

 さて一方、ヨロヨロと夜のマンハッタンをあてどなく歩くズーランダー=スティラー。彼の耳にはあたかもハンセル=ウィルソンの嘲りの声が聞えてくるようだ。タイムズスクエアの巨大な電光テレビを見てみれば、受賞式でのズーランダー=スティラーの醜態が何度も繰り返しオンエアされている。あぁ、何ともはや自分のバカさ加減は、いまや全世界に配信されているのだ。やりきれない。

 そんなボロボロ気分で帰宅したズーランダー=スティラーを待っていたのは、どいつもこいつもテカテカ笑顔にな〜んも考えてない軽〜いオツムの取り巻き男性モデルたち。何を暗い顔してるんだよ、「らしく」ないよ。

 さぁ、みんなで街に繰り出そう!

 ワム!の「ウキウキ・ウェイクミーアップ」をガンガン流しながら、取り巻きモデルたちと一緒にクルマで街に出かければ、たちまち悩みもすっ飛ぶ。久々に笑顔全開のズーランダー=スティラー。ガソリンスタンドに入って給油を始めても、取り巻きモデルたちはウキウキ気分が止らなくって悪ふざけ。ガソリンをバシャバシャぶちまけてガキみたいに大ハシャギ。だが、ズーランダー=スティラーの目にはその時、一人の男が読んでいたタイム誌をゴミ箱にポイ捨てしたのが目に入った。あれっ、あのタイム誌は…。

 ゴミ箱からその雑誌を拾ってみれば、それは先日女性記者テイラーに取材を受けたもの。表紙にもズーランダー=スティラーの写真を大々的に掲載したそのタイム誌の見出しは、取材記事の内容をズバリと言い表していた。「ズーランダー、アホ・モデルの真相」

 が〜ん。あの取材が、このタイミングでこんな記事になるなんて…。

 またまた大ショックを受けたズーランダー=スティラーがハシャぐ仲間たちに目を向けると、な、なんと…!

 さんざっぱらガソリンをそこら中にぶちまけて遊んでいたのに、何とモデルの一人がタバコに火をつけようとしているではないか。こいつらそこまでバカだった。さすがのズーランダー=スティラーが、マズいと気付いて止めようとしたその時…。

 ドッカ〜ン!

 憐れズーランダー=スティラーの取り巻きモデルは、大爆発と共に吹っ飛んだ。

 悲しい悲しい仲間たちの葬儀。度重なるショックにさすがの脳天気ズーランダー=スティラーも、これまでの自分に懐疑的にならざるを得なかった。

 「ボクはもうモデルはやめる!」

 これが時期が時期なら衝撃のコメントにもなったろうが、悲しいことに葬儀に参列したハンセル=ウィルソンへの歓声でかき消される始末。人間落ち目にはなりたくないもんだ。

 そんな彼に追い打ちをかけるようにやって来たのが例の女性記者テイラー。彼女は今、男性モデル界でウワサされるある疑惑について追っている最中。それは例の大物デザイナーのフェレルに関すること。そこでズーランダー=スティラーに協力を依頼しに来たのだった。だが、さすがにおめでたいズーランダー=スティラーも、自分をアホ呼ばわりした記者においそれといい顔が出来るわけもない。しかも彼はいまだかつて、この大物フェレルからはお呼びがかかったことがない。そんなこんなで記者テイラーを剣もほろろに追い返すズーランダー=スティラーだった。

 さて、モデル業から足を洗うために、世話になったモデル事務所社長ジェリー・スティラーの元に挨拶に来たズーランダー=スティラー。そこで彼を待っていたのは意外な話だった。何と当の大御所デザイナーのウィル・フェレルその人が、彼を起用したいと言って来たのだ。今まで唯一彼を起用しようとしなかったデザイナーが、よりによってハッキリ落ち目になった今ごろ何で彼に? ともかくもったいない話だから…と引き留めるジェリー・スティラーだったが、ズーランダー=スティラーの引退の意思は固い。これまでの人生空しくなった彼は、もっと有意義なことがやりたくなったのだ。しかし、そこはバカの悲しさ。いきなり勉強する機会のない貧しい子供たちのための教育施設を…な〜んて一足飛びでいっちゃうところがこの男らしさ。結局はな〜んも深刻に考えてはいない。そして「自分を見つめ直すため」、若い頃にチャンスをつかんで飛び出してきた故郷に戻ることにした。

 それはニュージャージー州南部のある炭鉱町だ。

 黒く煤けたような労働者階級の町。炭鉱から真っ黒になったむくつけき男たちが帰ってくる。そんな中にやって来たズーランダー=スティラーは、テッカテカの出で立ちからして思いっきり浮いている。今まさに炭坑での作業から帰ってきたのが、ズーランダー=スティラーの父親ジョン・ボイトと二人の弟ヴィンス・ヴォーンとあと一名(笑)。だが、息子の久々の帰郷というのに父親ボイトの表情は浮かない。まぁこのテカテカなスタイルでいきなり炭坑で働きたいなどとズーランダー=スティラーに言われれば、そんな浮かない顔も無理はない。おまえにゃ無理だと言われても一歩も退かないズーランダー=スティラーは、早速翌日から炭坑で働くことになった。

 だがやはり…と言うべきか、まるで使い物にならぬズーランダー=スティラー。スタミナもないしマジメにやる気もない。もとい、本人マジメにやってるつもりだが、ふざけているようにしか見えない。あげく一日の仕事の終わりに黒いススでお肌が汚れちゃったなどと嘆くアリサマを見ていると、到底ちゃんと働こうとしているようには思えない。早速一日で親父ボイトはキレる寸前だ。あげく親子4人でテレビを見ていれば、ズーランダー=スティラーがまるで人魚よろしくアホな格好で登場するCMまで放送される間の悪さ。これにはボイトもたまりかねて憎まれ口を叩く。「おまえみたいな面汚しは家族でも何でもない!」

 かくしてズーランダー=スティラーは故郷にもいられず、たまりかねて本来の根城ニューヨークに戻ってこずには居られなくなった。そうなりゃ彼に出来ることは一つ。かって知ったるモデル業しかありゃしない。というわけで、ズーランダー=スティラーは結局モデル事務所所長のジェリー・スティラーの元に舞い戻り、大物デザイナーのフェレルの申し出を受けることに相成った。

 

 

 

 

 

 

 

ここからは映画を見てから

 

 

 

 

 

 

 

 フェレルとズーランダー=スティラーの初顔合わせは、予想通りトンチンカンなやりとりで始まった。フェレルはこのやりとりの末に、やはりここまでアホなズーランダー=スティラーこそ最適任者と、いよいよ確信を強くする。そしてフェレルは彼を自分の新作コレクションの発表会に起用すると宣言。だがその発表会こそ、あのマレーシア首相が出席する問題のファッション・ショーなのだ。

 ズーランダー=スティラーは、フェレルの片腕のコワモテ女ミラ・ジョボヴィッチに連れられ、とある倉庫街にある秘密エステ「デイ・スパ」に連れて行かれる。そこでさまざまな美容ケアを施されるということだったのだが…。

 そんなズーランダー=スティラーを尾行していたのがあの女性記者テイラー。だが彼女はこの「デイ・スパ」に潜入するものの、すぐにおっかないミラジョボに追い返された。その後、ズーランダー=スティラーに行われたこととは…。

 マインド・コントロールだ!

 子供たちはみんな働きたがっている。それなのに、それを邪魔する不届き者がいる。それはマレーシアの新首相だ。奴を殺せ! 殺せ殺せ殺せ!

 催眠効果とサイケ映像によるイメージは、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの「リラックス」に乗って脳たりんのズーランダー=スティラーに強烈に植え付けられた…。

 気づくと自宅に戻って倒れていたズーランダー=スティラー。そこをあの女記者テイラーが押しかけてきた。ところが驚いたことに、彼女によるとズーランダー=スティラーはあの「デイ・スパ」に一週間も閉じこめられていたと言うのだ。おかしい。彼女はフェレルに用心しろと忠告するが、ズーランダー=スティラーは聞き入れやしない。彼は何の疑いもなく、またしてもフェレルの事務所に出かけていくのだった。

 ところがそこであの天敵ハンセル=ウィルソンとバッタリ会ってしまったのが百年目。お互いガン飛ばし合いのあげく、二人はモデル生命を賭けた決闘をすることになってしまった。とある倉庫に大勢の野次馬を集めて行われた決闘とは、モデルならではの「ウォーキング対決」。モデル歩きとポージングの数々で競う、熾烈を極めるモデル芸の対決だ。しかも何と行司にはデビッド・ボウイが買って出るという超豪華版。

 次々繰り出すモデル芸の応酬に手に汗握る野次馬たち。駆けつけた女記者テイラーも息を呑む。そこは百戦錬磨のズーランダー=スティラー、回を追うごとにどんどん優勢にコトを進めるではないか。ところが最後の最後にハンセル=ウィルソンに大逆転芸を出されてあえなく敗退。ズーランダー=スティラーはまたしても失意のどん底に落ち込むハメになった。だが、そんな対決の会場に乱入してきたのが、あのコワモテ女ミラジョボたちの一団。慌てて逃げまどう人々に紛れて、ズーランダー=スティラーは女記者テイラーに連れられて逃走した。

 さすがに事態は緊迫していると気づかずにいられないズーランダー=スティラー。そんな彼に女記者テイラーは、ある男を会わせた。彼こそモデル界の内部告発者、「手タレ」のデビッド・ドゥカヴニーだ。彼の口からは衝撃的な事実が語られた。何とモデル界は古くはリンカーンやケネディなどなど、要人暗殺の役割を担ってきたと言うのだ。

 なぜ、モデルが暗殺を?

 それは明白だ。モデルは何も考えずに指示に従える能力を必要とされる。それが要人暗殺の実行にはうってつけだと言うのだ。これにはズーランダー=スティラーも、なるほどとうなづかざるを得ない。

 とりあえず当座ズーランダー=スティラーを匿う場所が要る。そこでズーランダー=スティラーとテイラーは、何とも意表を突いたウルトラCの手に出た。何と天敵ハンセル=ウィルソンの家に乗り込もうというわけだ。なるほど、さすがにここに来ようとは誰も思うまい。しかし、ハンセル=ウィルソンが受け入れるかどうか。

 案の定、家に押しかけられたハンセル=ウィルソンとズーランダー=スティラーの間ではバチバチと火花が散るアリサマ。だがよくよく聞いてみると、ハンセル=ウィルソンはズーランダー=スティラーの素っ気ない仕打ちに傷ついていたと言い出すではないか。こんなハンセル=ウィルソンの打ち明け話に、ついにズーランダー=スティラーも、新進である彼の存在を脅威に感じて怯えていたと告白する。両者お互いの心のキズを打ち明け合ったら、実は意外に話は早かった。ズーランダー=スティラーに憧れてモデルになったとまで言ってくれたハンセル=ウィルソン。これにはズーランダー=スティラーも感激した。たちまち二人は旧知の仲のように意気投合。そんな二人の様子を見ていた女記者テイラーも何とも嬉しい気分になってきた。嬉しいついでにこの三人、この夜にドラッグの効果で妖しげな間柄になってしまったという一幕もあったが、それはまた別の話だ。

 一夜明けて、いまやお互いを憎からず思い始めたズーランダー=スティラーと女記者テイラー。だが、フェレルの新作発表会は今日だ。ズーランダー=スティラーが暗殺のための催眠暗示をかけられていることは間違いないが、それがどういうキッカケで作動するのかは分からない。そして一切の証拠はまだどこにもない。そこでズーランダー=スティラーとハンセル=ウィルソンはモデル事務所所長のジェリー・スティラーのオフィスに忍び込んで、パソコンから証拠のデータを入手することになった。女記者テイラーはタイム社に戻って証拠固め。

 だがやっとのことでジェリー・スティラーのオフィスに忍び込んだズーランダー=スティラーとハンセル=ウィルソンだが、頭カラッポのモデルの哀しさ。パソコンの扱い方一つ分からない。すったもんだしているうちに発表会の時間が迫ると、ズーランダー=スティラーはモデルとして時間に遅れないのが自分のポリシーと、訳の分からないことを言い出して会場に出かけてしまった。

 さぁ、ハンセル=ウィルソンはパソコンを起動させ、データを入手出来るのか? ズーランダー=スティラーはマインド・コントロールの呪縛から逃れることが出来るのか? そして三人は事件の全貌を明らかにして、マレーシア首相暗殺を阻止することが出来るのだろうか?

 

●いろいろ

 ベン・スティラーのこの新作がとんでもないバカ映画だというウワサは、上記のようにだいぶ前から耳にはしていたんだよね。確かに「メリーに首ったけ」「ミート・ア・ペアレンツ」とコメディ出演が相次ぐスティラーが、またしてもバカ映画に出演というのは分からないでもない。だけど実際見てみた作品は、そんな想像以上に底抜けなバカ映画に仕上がっていて驚いちゃったよ。

 とにかく主人公ズーランダーのバカさ加減が尋常ではない。まぁ、あの小柄でチョコマカしたスティラーが男性モデルってあたりからして笑わせるが、そこで彼が演じるズーランダーその人がまた凄い。キメ顔がどれもこれも同じってとこもバカバカしくて最高だ。

 そして、これってスティラーの監督作でもあるわけで、そう考えるとこのバカ・コメディが苦みのある青春映画「リアリティ・バイツ」の作者の作品であるというのが、少々奇妙でもあるんだね。

 ただこのバカ・コメディ、近年アメリカ映画に氾濫するバカ・コメディとは、ちょっと趣を異にするような気もするんだよ。例えば、確かに主人公は極めつきのバカではあるが、やっていることは実際のモデルたちの有り様と大差ないように見える。かなりデフォルメして描いてはいるが、確かにスーパー・モデルをはじめとするセレブの世界を、意外に忠実に描いているようでもある。映画はスターたちが大挙出演しており、上記のストーリーに出てきた役者たち以外にも、キューバ・グッディング・ジュニアやらナタリー・ポートマンやらウィノナ・ライダーやら大スターたちが実名でカメオ出演している。それってコメディとしてのお楽しみの面もあるけど、ここで描かれているセレブたちの虚飾の世界にリアリティを与える役割も果たしているんだね。つまりはここで描かれていることは誇張はしてあるが、あながちウソでもないよと語っているんだよ。これって結構キツいじゃないか。

 根幹にある暗殺話こそ大ウソだけど、それも言われたことを考えずに実行できるモデルこそ暗殺にうってつけ…なんて、かなり強烈な皮肉ではあるよね。パソコンの扱いも分からず「2001年宇宙の旅」の類人猿よろしく吠え暴れるモデル二人なんて図は、よくもまぁこれだけモデルをバカにしたことよと驚いてしまう。それもこれも、確かに何となく図星ではあるからだろう。少なくとも世間の目はそうだというシニカルな視点だ。

 だからバカバカしいシチュエーションで笑わせながら、ちょっと苦みも感じるわけ。そこが凡百のバカ映画とは一線を画するところだ。つまりはこうした男性モデルやセレブに代表される、空虚なメディア社会を笑い飛ばしているところもあるんだよ。ウソっ話とは言え、東南アジアでの児童就労や労働者搾取をさりげなく取り上げているあたりも、スティラーの知性を感じさせる。それでいて自分が極め付きのバカを演じるあたりが、また何ともクレバーではないか。

 そういやスティラーの天敵、転じて相棒を演じるオーウェン・ウィルソンという男がまた、近年のアメリカ映画で実に微妙な位置にいるんだよね。彼は「アルマゲドン」や最近では「エネミー・ライン」という典型的アメリカ娯楽映画でいかにもアメリカらしい軽いヒーローを演じていて、それはそれで天晴れな個性を見せている。だけどもう一方ではあの「ザ・ロイヤル・テネンバウム」に出演しているだけでなく、ウェス・アンダーソン監督の片腕として脚本にまで噛んでいるんだよね。これはただ者ではない。蛇足として付け加えれば、その「ロイヤル・テネンバウム」で共演している役者の中には、この映画の監督・共演者であるスティラーも顔を揃えているわけだ。なかなか侮れない男ではないか。この一見軽い男たちのさりげない骨っぽさってのは、意外に見逃せないところじゃないかと思うんだよね。

 

●けつろん

 盛大に大笑いさせてもらったこの映画、妙な理屈をつけるとヤボになる。そうは言っても、なぜか僕には監督まで手がけたスティラー、相棒役を嬉々として演じているウィルソンの、「知性」がチラつく作品に思えてならないんだね。

 でないと、主人公ズーランダーと取り巻きモデルたちがガソリン・スタンドで大騒ぎ、「ウキウキ・ウェイクミーアップ」をBGMに流して、水しぶきならぬガソリンしぶきをぶっかけてのハシャギぶりをわざわざテレビCMふうにスローモーションで描きながらの大爆発(笑)…って場面の、ちょっとシニカルでブラックな笑いが理解出来ない。バカ映画なんて巷に腐るほどあるけれど、この映画のそれってお下劣や幼稚ギャグやパロディとは名ばかりのおフザケとは一線を画していることは明らかだものね。

 じゃあこの映画、そんなメディア社会、セレブの生態を皮肉ってバカにしまくるのに終始したシニカル映画かと言うと、これもまたちょっと当たらないと思うんだよね。

 それはベン・スティラー自身がこの主人公とその取り巻く世界をバカにしながらも、決して上から見下ろして描いてはいないってことからも伺える。まずは自分がそれを演じているってことからして、見下していない証拠だって思わないか。だからチラつく知性がいやらしさを伴わない、スカッとした爽快感に貫かれた映画になっているんだよね。

 この男、無類のバカではあるんだけど、決して打算や悪巧みや計算に逸する卑しさは微塵もない。というか、生粋のバカだからそんなコト出来るわけもないんだけど(笑)。その根本はモデル事務所所長がいみじくも言っているように、「アホだけど、ホントにいい子」なんだよ。

 だから挫折してすぐに「人のために尽くすことに生きる」なんて言い出す。故郷に帰って炭坑で地道に暮らそうなんて考える。そんなコトまるっきり出来やしないし、だからこそすぐに元のモデル業に舞い戻るんだけど、少なくともそう思った気持ちそのものにウソはない。女記者の取材には取り繕うこともせずアホをさらけ出す。あげくアホ扱いされた記事が出れば人並みに傷つきもする。だが、一緒に行動しているうちにはこの女記者も許すし、すぐに恋に落ちるところまで心を開く。それまで目の敵にしていたライバルに対しても、相手が真情を吐露すれば自分だって本音を吐く。そしてすぐに仲良くなってしまう。まったく打算のない善良さ。それがこの男の最大の美点なのだ。

 対する悪の黒幕たちは、ありとあらゆる権謀術数を駆使し、金と権力にモノを言わせて悪事を企てる。それは確かに主人公よりはナンボか頭がいいだろう。だけどそれが一体、人の世の何の役にたっているというのか。

 だからそんな主人公がマレーシア首相暗殺のギリギリの時点で、悪漢が放った手裏剣を前に究極のキメ顔「マグナム」をお見舞いするあたりのオチが効いてくる。「マグナム」のあまりのキマりぶり、あまりの美しさに手裏剣もヘナヘナとその場に落ちるというくだらなさの極致のこのヤマ場。思わず観客もドッと沸くこのくだりでファッション・ショーの客も拍手喝采。それまで息子を認めなかった父親ですら、テレビでこの模様を目撃して「あれは俺の息子だ!」と宣言するバカバカしさ。だがそれは、手裏剣=忌まわしい策略や悪意や横暴や傲慢に対して、徹底的な善良さが勝利する瞬間でもあるのだ。そこまでくると、ここまでのただならぬバカバカしさが一種感動の域にまで達してくる。いや、ホントに感動なんだよね。

 僕らは日常で、いろいろ計算したり損得考えたりすることが偉いことだとついつい考えがちだ。または「現実的な考え方」ってな掛け声の下で、何でも世知辛く物事考える方が正しいと思ってしまう。それに対してな〜んも考えていない打算なしであることを「愚か」の一言で片づける。あるいは「お人好し」であることをダメな奴であると笑ったりする。「善」であることは「バカ」だと決めつけられるし、実際にバカにされ軽んじられる。でも、これってどこかオカシイんじゃないか

 おそらくはベン・スティラーも心のどこかでそう思っているのだ。だからこそ、この主人公をさんざからかったあげくに、でも決して貶めずに最後は大勝利のハッピー・エンドに持ってきてるのだろう。彼は本気で「善」にこそ勝って欲しいと願っているはずだ。

 善良であることは間違ってやしない。それは、世の中がどうなろうと変わるはずなんてないのだから。

 

 

 

 

 

 to : Review 2002

 

 to : Classics Index

  

 to : HOME