「スズメバチ」

  Nid de Guepes

 (2002/11/11)


●みるまえ

 まずこの映画、「12000発食らえ!」なるコピーが目を惹いた。どうも銃弾が激しく飛び交う大アクション映画らしい。と言って頭に浮かんできたのは、ここんとこリュック・ベッソンが盛んに製作するフレンチ・アクション映画だ。「TAXI」とかド派手で大バカなこれらアクション映画、実は僕は案外キライではない。変に大げさになったベッソン自身の監督作なんかより、ずっと好感を持って見ていたからね。最近じゃ「ル・ブレ」なんてこの路線かな…と思って見たら、派手なアクションはあったもののもっとバカなコメディ映画だった。そうするとこれも底抜けバカ・アクションってことなんだろうか?

 顔ぶれがまた興味深くって、「TAXI」のサミー・ナセリが出ているあたりは「やっぱり」と思わせるものの、ブノワ・マジメルの名前まで入っているのはちょっと驚いたね。マジメルって言えば「王は踊る」とか「ピアニスト」とか、真面目な文芸作品がお得意と思っていたからね。こいつがアクションで何をやるんだ?

 もう一人の主役級に収まっているナディア・ファレスが「クリムゾン・リバー」に出ていたのも、興味惹く点だね。「クリムゾン・リバー」って言えば、これまたフランス映画に珍しいスケールのデカい娯楽サスペンス映画だったよね。この映画ってケナす人はボロクソにケナしていたけど、果たしてこれがアメリカ映画だったらこんなにケナされてただろうか?…って思ってるんだけどね。ともかくこのキャスティングで見る限りでは、なぁるほど…これも最近どんどんつくられているフレンチ娯楽大アクションの系列だなと思わされる。ますます期待は高鳴った。

 さて、文句なく痛快な大バカ・アクションを見せてもらおうと、ノコノコと劇場に駆けつけた僕だったが…。

 

●すじがき

 7月14日パリ祭の日。

 テレビで放映されている科学番組には、南米のスズメバチの一種が自分より図体のデカいクモを獲物にする様子が映っている。そんなどう猛なスズメバチの生態に気色の悪いモノを感じて身震いする男パスカル・グレゴリーは、どうもただ者ではない様子。彼が出勤してきたのは、ストラスブール工業地区の一角にある巨大倉庫。彼はいささか調子のいい男マルタン・アミックと共に、この倉庫の警備の仕事に就いていた。このグレゴリーの前職は消防士ということだが、その風貌とクールな物腰には訳ありの雰囲気がプンプン。

 同じ頃、道を走っている一台のワゴン車。運転席と助手席にはサミー・ナセリとブノワ・マジメルが座り、後ろにはいかつい図体のマルシアル・オドン、パソコンに詳しい若い娘アニシア・ユゼイマン、お調子者のサミ・ブワジラが乗っている。ナセリとマジメルはそれぞれ兄貴分弟分の間柄らしいが、車内には妙な緊張感がみなぎる。どう見てもこれから一同で何かヤバイことをしでかそうという空気がムンムン。そんな緊張感からアメを次々口に放り込むマジメルは、しまいには妙な口笛を吹き始めて車内の緊張感はいや増すばかり。だが、その口笛に一同のリーダー格のナセリが応え、後ろの三人もリズムやメロディでそれに合わせると、何とそれは西部劇映画「荒野の七人」のテーマ曲。これで車内の緊張感が一気に溶けて、一同を乗せたワゴン車もとある倉庫へ滑り込んでいく。

 倉庫にはマジメルの弟が待機していた。ここで運送会社のトラックに乗り換える一同。マジメル弟も行きたいと言い出すが、彼は弟にここで待機するように言い渡した。トラックはいずこかの目的地に向かって走り出す。ナセリは自らのショットガンに弾丸を込め始めるが、マジメルは出来ればそんなもの使わずに済ませたいと思っていた。

 同じ頃、軍用機で空港に到着したのは一風変わった客だった。アルバニア・マフィアの大物アンジェロ・インファンティ。東欧を中心に悪事の限りを尽くしたこの男は、欧州の合同捜査の結果逮捕されて、ドイツからここフランスへ裁判のために護送されてきたのだ。この空港からは堅固な砦のような装甲車に乗せられ、裁判所まで陸路護送されることになる。装甲車に同乗するのは特殊警察隊員の女隊員ナディア・ファレスと同僚のヴァレリオ・マスタンドリア、そしてドイツからこの大ボスを護送してきたリシャール・サムエルが合流する。この護送スタッフの中で指揮をとるのは女隊員ファレス。そしてこのファレスとマスタンドリアは、何やら男女の結びつきがあったようなないような。ともかく前後を白バイに先導された装甲車は、一路目的地に向かって走り出した。

 一方、輸送トラックで移動中のナセリとマジメル一行は、途中で携帯電話のアンテナを壊しながら、目的地のストラスブール工業地区へと入った。いよいよコトを起こそうというハラらしい。

 囚人護送の一行の方は、途中で事故による大渋滞に巻き込まれ、コース変更を余儀なくされていた。向かうはこれまたストラスブール工業地帯。だが渋滞の原因となった事故が運転手への狙撃によるものとは、まだ誰も気づいていない。

 夕闇に包まれたストラスブール工業地区。ナセリとマジメル一行は、とある巨大倉庫の脇にトラックを停めた。そう。ここは例のグレゴリーとアミックが警備する倉庫だ。一足先に例の図体のデカイ男オドンが車を降りて、倉庫の柵を乗り越えて敷地内へと入った。たちまち通信網を切断し、モニターカメラに細工をすると内部に潜入。扉のカギを開けて、後からやって来たナセリとマジメルを建物内に入れた。

 銃で武装したナセリとマジメルは、あっという間に警備員室にいるグレゴリーとアミックを捕らえて縛り上げた。これで倉庫を完全制圧したナセリとマジメルは、トラックに待機する仲間たちに合図。トラックを倉庫内に入れておっ始めたのは倉庫の貨物のチェックだ。パソコン専門の娘ユゼイマンが入荷データを検索して、値打ちモノのノート・パソコンが入ったコンテナを発見。ナセリ、マジメルら一同は小躍りして喜んだ。彼らの目的はこれだったのだ。このパソコンをゴッソリいただき、売りさばいて大儲けというのが、彼らの当初の目的だった。それは叶ったかに見えたのだが…。

 同じ頃、電線工事でさらにコースを迂回させられた囚人護送の一行。だが、それはワナだった。たちまち浴びせられる銃弾の雨あられ。援護の白バイ警官たちが次々と倒れる。装甲車のフロントガラスにも爆弾が投げ込まれて、運転席の警官たちは重傷を負った。絶体絶命。慌てて運転席に飛び乗ったファレス隊員は、死にもの狂いで装甲車を発進させる。果たしてコントロールを失った装甲車の行き着く先は…。

 同じ頃、倉庫の見張りに立っていた盗賊の仲間ブワジラは、自分たちに向かって警察のものとおぼしき装甲車が突進してくるのにキモをツブしていた。バレたのか? あわてて仲間たちを呼び集めて逃げ出そうとするが、すでに装甲車は倉庫の敷地内に突進してきた。追われるように倉庫の屋上に上がるナセリ、マジメルたち。

 装甲車は倉庫内に入ると、車から降りたファレスたちはシャッターを下ろした。倉庫には警備員もいるし、通信設備もあるはず。ところが警備員室はもぬけの空で、通信設備も役に立たなかった。ファレスたちはここにも何か異常事態が起こっていると気づかずにはいられない。

 屋上からあたりを伺っていたナセリ、マジメルたちは、奇妙な追っ手たちが倉庫を包囲していることに気づいた。何だあれは? 警察なのか? そのうち激しく発砲してくる追っ手たち。ファレスたち護送警官と、屋上のナセリたちがそれに応戦するうちに、お互いどうも倉庫内にはそれぞれ自分たちとは別の連中が存在するということに気づく。

 そんなうちにも倉庫の外から包囲してきた一団の攻撃は激しさを増してきた。中にはあわや倉庫の建物に侵入しようとする奴らも出てきて、ファレスたち警官とナセリたち強盗はそれぞれ激しく応戦して撃退した。こうなったらマジメルもイヤとは言っていられない。銃に弾を込めると攻撃に参加せざるを得ない。

 敵の攻撃が静まったかに思ったその時、まるで倉庫の全てを破壊し尽くすような激しい銃弾の雨が襲ってきた。もはや倉庫の中の人間は立っていられないほど。そして攻撃の中でナセリもマジメルも傷を負うハメになる。攻撃が終わった時には、ナセリたちもファレスたち警官の前に姿を出さざるを得なかった。

 ようやく事態を把握した双方。だが、それは同時に倉庫が孤立無援の状態だと知ることでもあった。やがて催涙弾まで放り込まれ、倉庫内は阿鼻叫喚。この事態に警察・悪党・人質は関係ない。マジメルは捕らえていた警備員グレゴリーとアミックを解放。グレゴリーの機転で消火システムを作動させてスプリンクラーから放水。催涙弾のガスは抑えられ事なきを得た。だが同時に鳴り出した警報は、敵の攻撃によって破壊されてしまい、外に急を知らせる術はすべてなくなった。

 この一連の攻撃の中で、ナセリは動かせないほどの深手を負ってしまった。警官たちの負傷者の状況も予想外にひどい。ファレスはここで苦渋の決断を下す。マジメルたち強盗団にも武装させるしかない!

 だが、そうは言っても強盗団と警察だ。特にパソコン娘ユゼイマンは警察への不信を露骨に漂わせていた。こちらには負傷者を抱えている上に手勢が足らない。弾薬にも限りがある。いい材料と言えば何とか図体はデカイが身軽なオドンを下水口から外に逃がして、外へとの連絡をとらせようとはしたことと、警備員の一人グレゴリーが実に冷静な男であること、あとは銃に慣れてないマジメルが銃を平気でぶっ放せるようになったことぐらい。もう一人の警備員アミックはすっかり臆病風に吹かれ、強盗の一人ブワジラは大ボスのインファンティを解放して助かろうなんて姑息なことばかり言い出す。

 さぁ、多勢に無勢。おまけに怪我人抱えて頼りない限りのこの警察・強盗・警備員の混成チームで、押し寄せてくるマフィア軍団とどこまで戦えるのか? マフィアの大ボスを引き渡すことなく、彼らはこの危機を切り抜けることが出来るのだろうか?

 

●いろいろ

 フランス製大アクション映画とくれば、最近の一連のリュック・ベッソン製作の作品、「TAXI」シリーズなどが脳裏に浮かぶのは冒頭に述べた通りだ。だから、これもそんな痛快な娯楽作品と思うのが道理だろう。

 ところがこの映画、始まったとたんに笑いがまったくないクールぶり。こりゃちょっと予想が狂ったなと見る側はすぐに気づく。そして舞台があっちこっちへと飛ぶから、一体お話はどうなるんだろうとまごつく。このへんのお話のさばき方は見事だね。見る側は最初から登場人物と同じく何がどうなっているのか分からなくなるのだ。てっきりサミー・ナセリ率いる強盗団もマフィア護送に関わる何者かと一瞬思っちゃったりもする。このへんのサスペンスフルな展開は実にうまい。しかもこうした入り組んだ展開が、ちゃんと問題の倉庫で一点に集結するんだから、何とも憎い展開だ。

 そこで話はようやく全貌を表すのだが、これは何とジョン・カーペンターの「要塞警察」やら、この夏公開の痛快作「ゴースト・オブ・マーズ」と同じテーマなんだよね。一カ所に閉じこめられて孤立無援の雑多な連中。それが外から押し寄せる外敵と徹底的に戦わざるを得ないというお話だ。同じなのはそこだけではない。閉じこめられて戦う側のメンバーが、警察・強盗・警備員混合。法の番人も悪党も、共に力を合わせて戦うという趣向が全く同じ。タテマエではやっていられない極限状況の中で、協力し合わねばならなくなるというあたり、非常にこれらカーペンター作品と共通するものを持っているのだ。しかも襲ってくる側がマフィアとは言え、まったく顔の見えない連中だというところまで同じ。みんな赤外線感知用のマスクをかぶった、まるで怪物的な風貌。あれがゾンビでも宇宙人でもそのまま通る。「要塞警察」のストリート・ギャングたち、「ゴースト・オブ・マーズ」の火星人の幽霊に乗っ取られた亡者たちと大差ない、得体の知れない「モノ」という扱いが共通するんだね。

 そんなカーペンターが「要塞警察」「ゴースト・オブ・マーズ」をつくるにあたって、下敷きにしていたのが西部劇だということは、ゴースト・オブ・マーズ」感想文で僕が述べた通り。カーペンターのハワード・ホークス好きがモロに出た結果の産物なんだよね。「リオ・ブラボー」あたりが原型なんだろう。では、この映画の監督フローラン=エミリオ・シリが狙ったのはカーペンターのコピーなのか?

 いや。フローラン=エミリオ・シリが狙ったのも、やっぱり西部劇みたいなんだよね。それは冒頭にハッキリ提示されている。ナセリとマジメルの強盗団一党が、ワゴン車で移動するくだりがそれだ。緊張のあまりマジメルが吹く口笛。それが強盗団一同で和気あいあいのメロディーに変わっていくあたり。そこで奏でられているのが、あのエルマー・バーンスタインの「荒野の七人」メイン・テーマであることは偶然ではあるまい。おそらくフローラン=エミリオ・シリは、明らかにこの映画を「西部劇」としてつくろうとしているのだ。なるほど。本国アメリカですっかり廃れた西部劇というジャンルは、形を変えてこうしてフランスで蘇ったというのが何とも面白いよね。

 

●けつろん

 この映画、感情を極めて殺した映画としてつくられているから、登場人物の過去や出で立ちにそれほどの説明は加えられていない。にも関わらず、ほんの少し匂わされた人間性からにじみ出る感情が、何とも言えない効果を醸し出す。このへんはジェン・ピエール・メルヴィルなどのクールな暗黒街ものの実績を持つフランス映画ならではの伝統かもしれない。フローラン=エミリオ・シリはミュージック・ビデオ上がりの監督だと言うからてっきり今風なつくり手だと思いきや、意外にその映画づくりの手法は伝統的だし正統派なんだよね。ガッチリつくって見せていくし、奇手を弄さない。この辺にはスッカリ感心した。

 「TAXI」でのオチャラケ演技がウソのようなナセリの辛い芝居、シリアス・ドラマがお手のものと思えたマジメルのアクション演技には驚かされた。やっぱり男優は銃持たせてナンボだよなぁと妙に感心しちゃったよ。

 この映画はまったく事前の情報を入れなければ入れないほど楽しめるかもしれない。前半のあちこち話が飛ぶあたりで、つくり手に翻弄される快感を久しぶりに味わったからね。そして、余計なジメついた感情をベタつかせないクールなタッチと怒濤のアクション。こんな映画、今時ハリウッドだってつくれないよね。ますます驚いた。しかも感情を抑えに抑えているからこそ、そこからおぼれ落ちてくる人間的要素がぐっとくる。

 拾いモノ…と言ってしまっては申し訳ないかもしれないけど、これこそ本当の拾いモノだよ。ただ、黙って見てほしいね。見れば絶対圧倒されること請け合いだ。

 

 

 

 

 

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