「トリプルX」

  XXX

 (2002/11/04)


●のうがき

 プロ野球の人気が凋落してからもうだいぶ経つ。だから、日本シリーズで巨人が優勝したのどうのなんて、知らない人も数多くいるんじゃないか? かく言う僕も巨人がバカ勝ちのプロ野球なんて見る気もないから、全然このシーズンは野球なんて見なかったね。だけど、今回のこのニュースはさすがに誰でも耳にしているのではないかな?

 先日発表された、松井の大リーグ入りというニュースだ。

 それにしても、一応は日本のプロ野球の大スター選手の大リーグ入り。ピッチャーでは大成功した奴も多いし、野手でもすでにイチローがスーパースターとなって活躍しているから、一選手の大リーグ入りなんて話題にもならないはずだよね。だけど、松井はホームラン・バッターとしての腕を買われての大リーグ入りだ。これは確かにどうなるのか見ものではある。行き先はどうも名門ヤンキースらしいが、まだ公式な発表はない。いろいろと差し障りがあるんだろうね。

 でも、その記者会見を見たら驚いちゃったね。まるであれじゃ何かの不祥事か事故でも起こったみたいじゃないか。笑顔も歓声も拍手も何もない。何だか沈痛な雰囲気が流れてる。おまけに松井その人ですらニコリともせず、何だか引きつった表情をしている。こりゃどうしたことなんだ。日本のホームラン・バッターが大リーグに請われて出向くんだ。もうちょっとめでたい雰囲気があってもよくはないか?

 そこで記者から飛んだ質問が、また愚問としか言いようのないものだった。

 「日本のプロ野球の地盤沈下についてどう思われますか?」

 何だそりゃ? そんなの松井の責任かよ。ところが松井はこれに何とも深刻な顔をして答えるんだね。「心苦しく思っている」…何でこいつが心苦しく思わなければならないんだよ。

 それもこれも、松井が人気球団ジャイアンツの看板選手、四番を打っていた男だからなんだろうね。

 どこのバカが言ったか知らないが、ジャイアンツの四番は日本の四番だそうだ。だから彼の大リーグ入りは日本球界の一大事だというわけなんだね。

 ふざけんな!

 人が一人どこで活躍しようと、そんなこと他人にどうこう言われる筋合いじゃあないだろ。前の監督の長嶋あたりは、松井には行って欲しくなかったなんてホザいてやがる。オマエ、一体どれだけ他の球団の四番打者を奪ってきたんだよ。それでも決まりには触れてなかったと言うのなら、松井だって悪いことして行くわけじゃない。どうして喜んで送ってやれないんだこのボケ。

 松井としてはもっと早く行きたかったんだろうが、長嶋には止められるわ監督が原に代わるわで、いきなりすぐに行くのも悪かろうと踏みとどまったんだろう。それが今年はホームランも50本打ってホームラン王になった、球団も日本シリーズまで上りつめて優勝した、何の不義理もないだろうとそこまで考えての決断だろう。何もそこまで考えることなどなかったと僕なんか思うけど、少なくとも彼は義理は果たした。気持ちよく行かせてやればいいじゃないか。それをこのバカどもは何を考えているのか。

 「心苦しい」「苦渋の決断」…一体何でそんな言葉が出てくるのか。これってどこかオカシイとは思わないか。この国って何だかその人の気持ちなんて全然考えてない、デリカシーのないところがあるような気がしてならない。

 他のことでもままあることだが、どうしてこうなっちゃうんだろうね。肝心の当人の気持ちって誰か考えてあげているのか。考えてあげないなら黙って見ててやることは出来ないのか。個人の気持ちってこんなにも簡単に無視されてしまうものなんだろうか?

 すべては個人の気持ちがすべてではないんだろうか?

 

●すじがき

 ここはチェコのプラハ。何やら訳ありの男が時代ものの建物に忍び込むところ。門番に立っていた奴を倒して中に入り込んだ男は、いきなりコートを脱いでタキシード姿になる。緊迫した状況下でもタキシードとくれば、映画では007に代表されるシークレット・エージェントと相場が決まってる。建物の外見とは裏腹に、中ではロック・コンサートの真っ最中。若者が熱狂する中、このタキシードの男は何やらブツを持って追っ手から逃げている様子。イモ洗いのような観客たちの中に紛れ込んで、何とか追っ手から逃れようと四苦八苦だ。

 そんなタキシード男を二階から見つめている男がいた。長髪にヒゲのその男、見るからにワルという感じのマートン・チョーカシュは、何やら部下の者に指図した。すると部下の者はいきなり銃を取り出してタキシード男を狙う。そんな一部始終を、どうも長髪チョーカシュの愛人らしきアーシア・アルジェントがじっと見つめていた。

 狙い一発。タキシード男は仕留められ、観客の渦の中に飲み込まれていく。

 一転してこちらはアメリカ、ワシントンD.C.。国家安全保障局NSAの本部では、チェコに放ったシークレット・エージェントがまたしても倒れたという報に、沈痛な空気に包まれていた。このエージェントが調べていたのは近年不審な動きを続けるプラハを拠点にしたテロリスト・グループ「アナーキー99」。そんな関係者の中にスックと現れた一人の男…それは顔の右半分に傷跡を持ったサミュエル・L・ジャクソン。彼はその容貌からか、それともその強引なやり口からか、NSA内部でも煙たがれている存在だった。

 倒れたエージェントが最後にNSAに送ってきたデータは、ある分子記号の断片。ジャクソンはそれを一目見て、たちまちロシアから失われていた幻の化学兵器「静かな夜」の成分であることを喝破した。これは一大事だ。だが、送り込むエージェントはことごとく倒される。もはや打つ手はないのか?

 いや、ある。

 ジャクソンが提案したのは、とんでもないプランだった。もはや正規のエージェントなんか繰り出してもダメだ。ワルにはワル。それも札付きのワルをエージェントに仕立てて送り込むより他はない。じゃあ、そんな当てでもあるのか?

 また舞台変わって、こちらはカリフォルニア州サクラメント。お偉い政治家の高級車を盗み出した男ヴィン・ディーゼルは、何より危険が三度の飯より好きな男。スキンヘッドに全身のタトゥーと見るからにワルの雰囲気みなぎる男だ。このディーゼルは仲間にビデオカメラを回させて、断崖の峡谷に架けられた橋から車を転落させ、そこからパラシュートで脱出させる一部始終を録画させた。車の持ち主の政治家は、テレビゲームやスケボーはけしからんなどとフザケたことをヌカす輩だ。そんな政治家にお灸を据えてやるとばかりの大パフォーマンスだったわけ。

 この大冒険から戻ったディーゼルを、仲間内は英雄の帰還とばかり大歓迎。だがそのパーティーの最中に、いきなりSWAT部隊のような連中が銃で武装して乗り込んできた。一人捕らえられたディーゼルは、あまりの物々しさに捨て台詞を吐く。「おいおい、たかが車泥棒でコレかよ?」

 そんなディーゼルを麻酔銃が襲う。

 意識を取り戻したディーゼルは、今度は街の食堂で目を覚ました。すると今まさに食堂を二人組の泥棒が襲おうとしていたところ。ディーゼルはたちまちこの二人組を叩きのめすと、食堂の片隅にいた男がよくやったとばかり拍手を送る。あの顔半分傷跡のサミュエル・L・ジャクソンだ。

 だが実はディーゼル、この一部始終が狂言だということを鋭く見抜いていた。その慧眼ぶりにジャクソンも舌を巻く。「よし、第一テストは合格だ!

 またしてもディーゼルを麻酔銃が襲う。

 今度ディーゼルが眼を覚ましたのは、軍の輸送機の中。見ると他にも連れてこられた男たちが二人。いずれも食堂テストの合格者らしい。ところがまたまた有無を言わせず、ディーゼル含めたテスト合格者三人は、パラシュートで外に放っぽり出された。

 今度は何だ? ここはどこだ?

 妙な原っぱにはコカインの原料となる作物がワンサカ。そこに怪しげな男がウジャウジャ出てきて、たちまち三人は捕らえられてしまう。

 何とここは南米コロンビアの麻薬地帯だった。

 汚い倉庫に捕らえられ、縄で縛られた三人。そこに刃物を持って拷問にやってくる麻薬組織の男ダニー・トレホ。最初はまたしても狂言だろうとタカをくくっていたディーゼルだが、刃物にホンモノの血の臭いを嗅ぎ取って、ようやくただならぬ事態に気がついた。

 だがディーゼルはやっぱりただ者ではない。あっという間にトレホを倒した。そして縄をといて逃れようとしたその時、突然激しい銃声と爆発音が!

 何とこの麻薬工場に、コロンビア政府軍の空襲が襲いかかったのだ。阿鼻叫喚。ヘリが乱舞し、人々が受動小銃の乱射で倒れ、あちこちで爆発と火災が発生。食堂テスト合格組の一人は弾丸をくらって倒れた。彼をかばって逃れようとするディーゼルだが、あと一人は麻薬を担いでサッサとトンズラこいた。撃たれた男を草むらに隠し、バイクを駆って八面六臂の大活躍のディーゼル。政府軍のヘリはディーゼルなんか知らないから、彼も麻薬組織の一員と見なしてバンバン撃ってくる。ディーゼルはそれらの攻撃をものともせず逃れて、何とか撃たれた男のもとに戻って来た。すると、草むらから別の銃を持った連中が彼に襲いかかってくる。万事窮す。

 しかし、この男たちはコロンビア政府軍ではなかった。ディーゼルをテストしていたNSAのメンバーたちだったのだ。

 やがて現場にあのジャクソンがやって来る。「テストは合格だ。オマエが一番優秀だった

 そこでジャクソンから提案されたのは、例のワルのシークレット・エージェントの話だった。だがもとよりディーゼルにそんな話を受ける気なんかない。俺がお国のために雇われるタマだと思ってるのかよ?

 だがジャクソンはそこで退く男ではない。この話を受けなければディーゼルを監獄にブチ込むと言うのだ。いかにワイルドなワルでも、あのムショに閉じこめられたら骨抜きだぜぇ。

 これにはさすがのディーゼルも言うことを聞かぬ訳にはいかなくなった。そんな彼の思いを知ってか知らずか、ジャクソンは話を続けた。なぁに、仕事ってのはいたって簡単なもんでな…。

 ディーゼルはアメリカのシークレット・エージェントとして、プラハに飛んだ。

 迎えたのはチェコ秘密警察のリッキー・ミューラー警部。だが彼は明らかにディーゼルを歓迎してはいなかった。アメリカからチョッカイ出されることも気に入らないところに来て、どうせ送り込まれるエージェントというエージェントがみんなやられるに決まってる。だがディーゼル、俺だってやりたかない仕事なんだと憎まれ口を叩いて、一向に気にしないところが彼らしい。

 早速問題の「アナーキー99」の連中がたむろするクラブに乗り込むディーゼルとミューラー警部。ミューラー警部はそこにやって来た組織リーダーのチョーカシュを指し示すと、慎重に行動しろとクギを刺す。だが、そんな事はディーゼルに言ってもムダだった。

 ディーゼルはいきなりチョーカシュの元にやって来ると、デカがいるぞとミューラー警部をバラしてしまうから驚いた。店から叩き出されたミューラー警部はお気の毒だが、これでワル同士の連帯を得たディーゼル。次なる手は、このチョーカシュに盗難車を売りさばくビジネスを持ちかけた。「このリストの車を集めてくれば、俺が売りさばいてやるぜ」

 チョーカシュの愛人アルジェントが何かと絡んではきたものの、難なく商談成立させたディーゼル。身内になったよしみでアレコレ情報を集めてきた彼は、早速NSA本部のジャクソンあてにデータとして送った。「さぁ、これで仕事は終わった。俺はもう帰るぜ

 だが、思った以上に優秀なエージェントのディーゼルを、このジャクソンが手放す訳もない。さらに潜入していろいろ調べるように命じられる。これにはクサったディーゼルだが、実は本音のところ危険好きの血が騒いだんじゃないか。

 そんなディーゼルの元に、NSAから一人の男が送り込まれてくる。見るからにひ弱なその男マイケル・ルーフは、さまざまな秘密兵器を開発するオタク野郎。それでも現場に出たくてウズウズするルーフは、ディーゼルにさまざまな兵器を得意げに説明した。これはある時は麻酔銃、ある時は血糊で撃ち殺したと見せかけるモデルガン、ある時はホンモノの弾丸が飛び出す万能銃だぜ。これはネエチャンの服の下から壁の向こう側まで透けて見通せる双眼鏡…いやはや、こいつホンモノのオタクだぜとディーゼルこれには呆れずにいられない。

 さて、例の盗難車の取引の夜がやって来た。本国からなかなか入金されないハラハラもあったが、まずは商いも無事に成立。チョーカシュの信頼さらに厚くなったと思ったその時…あのチェコ秘密警察のミューラーがチョンボをしでかし、中を覗いていたことがバレたからたまらない。このままではディーゼルが怪しまれる。逃げたミューラー警部を追いつめたディーゼルは、例の万能銃でミューラーを仕留めた。もちろん血糊の狂言モードで撃ったことは言うまでもない。

 「さすがだ。口ばかりで実行に移す奴は少ないからな」

 この行動にチョーカシュはすっかりディーゼルを信頼した。さらに組織に入り込めることになったディーゼルだが、彼はその時あのチョーカシュの愛人アルジェントの表情を見逃さなかった。警部を撃った時、彼女の表情には明らかに嫌悪の色が見て取れたのだ。

 さて、ディーゼルを完全に信用したチョーカシュは、彼にあのヤバイ名前を口走る。いわく…「アナーキー99」へようこそ!

 「アナーキー99」、それは崩壊した旧ソ連軍の軍人が組織した秘密組織だ。これからは何でもアリの世の中。理不尽なこと汚いこともさんざやらされてきたこの軍人たち。これからはやりたい事をやりたいようにやってやる! かくして既成概念をブッ壊せとばかりヤバイことに手を出しているこいつらだったのだ。

 そしてディーゼルを彼らの本部に連れていく。それは昔のお城を改造した砦。そこで夜な夜な酒池肉林の宴が催されているわけ。もちろんディーゼルもここで「お国のために」体を張ったことは言うまでもない。

 ところが翌朝、早速この砦を調べようとしたディーゼルは、あのアルジェントが何やら探っているところに出っくわす。何と彼女もこの組織の実体を調べようと潜入した者らしい。見つかってビリビリと警戒する彼女に、ディーゼルは自分がミューラー警部を殺していないと告げる。そして彼女をとあるレストランにおびき出した。何と彼女はロシアの秘密諜報員。この「アナーキー99」の実体を探るうちに本国の組織がおかしくなって、居場所がなくなって困っていたのだ。だが、彼女はディーゼルがアメリカのエージェントだということを信じようとしない。そりゃそうだ、スキンヘッドに全身タトゥーを見てりゃそんな事信じられない。ところがそんな彼女の携帯に電話がかかってきて、いやでもディーゼルの身分を信じずにはいられなくなった。

 何とチョーカシュに密告があって、ディーゼルの身元が割れたと言うのだ。

 今もレストランの外に狙撃手が狙っていて、一歩外に出ればディーゼルを撃ち殺す手はずになっている。彼女は自分の身柄の安全と渡米を条件に、ディーゼルにここから脱出する手助けを申し出た。ディーゼルは彼女を人質にとってレストランを脱出すると、レストランの金属製のお盆をスノーボードよろしく階段の手すりを滑って難を逃れた。

 やがて自分の宿に戻ってきたディーゼルを待っていたのは例のミューラー警部。何とこの男、いつの間にかチョーシュカ側に寝返っていたのだ。ミューラー警部に銃をつきつけられ絶体絶命のディーゼル。その時!

 あのアルジェントが現れ、ミューラーをハチの巣にした!

 このまま自分と一緒に逃げようと訴えるアルジェントだが、そうは問屋が卸さない。もう危険を買う男ディーゼルには火がついてしまった。彼は一歩も退かない断固たる態度でアルジェントに語るのだった。

 「初めて意味のあることに命を賭けられるんだからな!」

 

●いろいろ

 この映画、あっちこっちで映画ファンには大人気のようだね。やっぱり無条件に面白い。久々に娯楽映画らしい娯楽映画だからね。

 そして僕にとっては、あのロブ・コーエン監督の最新作ってところが最大の関心事だ。

 ロブ・コーエン…その娯楽映画のつくり手としての腕の確かさについては、僕はワイルド・スピードの感想文でほとんど語り尽くしちゃった観があるから、ここではあまり繰り返さないようにするね。でも、この人ってホントに面白い映画ばかりつくってきたのに不遇だった。「ドラゴン/ブルース・リー物語」はブルース・リーの武勇伝をなぞったゲテもの扱い。「デイライト」はスタローン主演というだけでバカにされたし、「ポセイドン・アドベンチャー」以来の正統なパニック映画の継承という点が、無視されるか時代遅れ扱いされるかで認めてもらえなかった。ファンタジー「ドラゴン・ハート」もなぜか地味な扱いだった。「ザ・スカルズ/髑髏の誓い」はちょっと不発で残念な出来に終わって、昨年の「ワイルド・スピード」でようやく興行的な大成功を勝ち得たようだ。僕としては何とも嬉しい限りだったが、これとても日本での興業はイマイチだった様子。どうしてコーエン映画ってこうも地味な扱いなんだと憤慨していたから、今回の「トリプルX」のブレークは僕にとっても嬉しくはある。

 今回の作品、何と言っても前作「ワイルド・スピード」で組んだヴィン・ディーゼルとコーエン監督の再度の顔合わせってところが嬉しいね。たぶんコーエンも、いろいろなジャンル映画をそれぞれ職人芸でこなしたあげく、ストリート感覚で描いた「ワイルド・スピード」が大成功したんで、もう一丁ストリートものでいくか!…って気になったんだろうね。その時のヴィン・ディーゼルのツラ構えも気に入った。こいつでもう一本撮ってみたい…というのもモチベーションの一つだったろう。

 ただ、コーエン監督ってのは別にストリートものの専門家でもないし、特に関心があるわけでもないんだろう。若い連中におもねる気持ちもないに違いない。とりあえずディーゼルに、どっかの裏道で車ぶっ飛ばしてる以上の、スケールのデカイことをやらせたいって欲が湧いたに違いない。そこに格好の企画が飛び込んできたってところなんだろうね。

 作家性より職人気質のコーエン監督だからして、今回の狙いはズバリ、かつてのスパイ・アクションの復権。ただ、ウケたストリート感覚も活かしたい、ディーゼルの個性も活かしたい…となっての、この「トリプルX」のキャラクター設定だと思う。だから、見た印象はモロに007そのものというのが本当のところなんだね。でも、ジャンル映画をそれぞれ独自の解釈で面白く見せてきたコーエン監督だから、これは何ら驚くにあたらないんだよ。

 映画冒頭にタキシードを着てモロ007然としたスパイが出てきて何ともあっけなく消されるくだりに、「007の時代は終わった」てな挑戦状的意味合いがある…な〜んて事は、死ぬほど映画雑誌やネット映画サイトに書かれているんだろうね。でも、ハッキリ言ってそんなことはあまり意味ないと思うよ。だって、やってることはモロ007だもの。そこにディーゼル持ってきたところが面白いってことなんだよね。

 で、ディーゼルは度胸があるだけでなく、かなり運動神経に長けたスポーティーな男だと設定が出来ているから、アクションにもそれが活かされている。何とレストランのお盆までスノーボードのように使ったアクションなんて、コーエンらしいサービス精神の現れじゃないか。出てきたものは骨をしゃぶるまで使い尽くす、コーエンらしいキメの細かさ。このへんが凡百の大味アクション映画とは一線を画するところだ。しかもディーゼルはご覧の通り無勝手流な男だからして、アクションにもそのへんが取り込まれている。ヘリからパラシュートで雪山に降りてそのままスノボーで降りてくるまでは誰でもやるだろうが、敵がスノーモービルで迎え撃つや、自分で雪崩を起こしながら滑走する無茶さ加減なんざこの主人公ならではのもの。ちゃんとアクションの見せ場にもキャラクターが活かされているあたりが、何と言ってもコーエン流の血の通った娯楽映画づくりなんだよね。見ていて嬉しくなったよ。

 だから見せ場のてんこ盛り。理屈抜きで楽しめる。入場料の元は確実にとれる、お得な映画になっていることは言うまでもない。

 

●けつろん

 でもって、ネット上でも映画マスコミでも面白いと絶賛の「トリプルX」。その点については僕もまったく異存がない。

 今回は主人公のハミ出しぶりワルぶりこそが売りだから、対する悪党もアナーキーなワル。旧ソ連軍人くずれって設定なんだよね。やろうとしてる事は毒ガスによる大量殺戮、ひいては世界征服ってことになるわけで、そのへんも007に見習ったところだろう。ただ、いかんせん悪役の線が細いのは仕方がない。いつもならこの手の映画は、どっかりと貫禄のある悪役が権力や金力にモノを言わせてるところだからね。だけど、ワルのディーゼルだからこその敵って言うと、こうした年齢的にも若くて同じワルの臭いを放つアナーキストにならざるを得ない。ここをどう見るかでこの作品の娯楽映画としての評価は分かれるところかもしれないね。

 時速130キロで川を下っていく無人潜行艇を、いかにチューンナップされているとは言え陸路を車で追って追いつくものなのか…などなど、結構いいかげんなところもあるにはあるが、そういう事を見つけていてもヤボだろう。

 そしてコーエン監督といえば作家性よりも職人気質…と言ってはいたが、実はこの人にはいつも作品にクッキリ刻印されるメッセージがあるというのも、これまで通りなんだよね。それは「ワイルド・スピード」感想文にも挙げておいたが、「個人の思い」を最優先するという点だ。今回それは何よりヴィン・ディーゼル扮するヒーローのキャラクターに込められているのは言うまでもない。

 「国家」なんてクソくらえ、「正義」も全然興味がない、そんな主人公がなぜか世界を救う働きをするというところがミソなんだよね。だからこそ新しい…と、ネットでも映画マスコミでも喝采する。だけど、僕にとっては今回のこの映画、実はコーエン監督にしてはその「個人の思い」のメッセージの込め方が、全作品の中でも最も希薄なものなんじゃないかと思えるんだよね。

 確かに基本設定が個人主義のワルとなっている他に、帰国命令が出てもヒロインのアーシア・アルジェントを救いたい一心で戦い続けるという姿勢に、そんな「個人の思い」的な面が込められていることは確かだ。だが、いつもの作品にある「言うに言われぬ主人公の葛藤」なんかはこの作品には見られない。もっとも元々007タイプのストレートな娯楽アクションを描くという狙いがあり、しかもヒーローが戸惑いも躊躇もない不死身の男ってことになれば、ウジウジ悩んだり葛藤したりってのは作品のテンポを乱しかねない。今回はそれを承知の上で、最初に主人公のキャラクターに「個人の思い」を込めただけで良しとした…というのが本当のところだろう。「ワイルド・スピード」で成功を収めた自分とディーゼルをさらに押し上げるための作品…と割り切って、徹底的にその職人性を前面に出してやり尽くしたというのが正直なところじゃないだろうか。

 もっともこの映画はそれでいい。面白い。それ以上でも以下でもない。だから、この作品はこんな感想なんか読んでないで劇場に駆け込んで見るべきだ。

 さらに踏み込んだコーエンの本音は、この「トリプルX」で得た興行的信用をバックにした、本当にやりたい事をやるであろう次作に期待したい。その期待に絶対応えてくれる男だからね、コーエンは。そして、そんなに彼の本音を前面に出した作品であっても、決して独りよがりのつまらない作品ではあり得ない。きっと面白いものを見たい観客の期待に応えてくれるはずだ。

 それこそがコーエンの、「個人としての思い」のはずだからね。

 

 

 

 

 

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