「抹殺者」

  The Body

 (2002/010/28)


●みるまえ

 この映画のことを知ったのは今年の8月。毎年恒例の正月映画座談会のための資料集めをしている時だった。たまたまこの映画のオフィシャル・サイトを見つけたのだ。画面いっぱいに広がったアントニオ・バンデラスの濃いい顔(笑)。こりゃアクション映画かな?…と思ったが、何だか遺跡を発掘しているような絵柄が出ているではないか。バンデラスと若い女が骸骨を見つめている画像もあって、何だかミステリアスな雰囲気。こりゃ面白そうかも…と思ったんだね。不思議なのはこれブラジルのサイトなもんだから英語が一切なし。まぁ、バンデラス主演だからラテン諸国でも人気があるんだろうとは思ったものの、これ一体どこの国の映画なのかとちょっと気になったね。

 しばらくして映画館でたまたま見かけたこの映画の予告編によると、何とあの骸骨はキリストの遺体らしいではないか? こりゃ面白そう。そのキリストの遺体を巡って諜報機関やらゲリラが暗躍する話らしい。車の爆発シーンなどもあって派手そうだ。

 元々考古学みたいなことにも興味があるし、昔「神々の指紋」なんて本が売れた時には、超古代文明にも興味を覚えて寝食忘れて読みふけったものだ。これは絶対に僕好みの映画に違いない。どこの映画か分からない怪しさまでが楽しみになる。高級なミニシアター映画は見逃しても、この映画は絶対見なければ…と固く心に誓う僕だったが…。

 

●すじがき

 ここはイスラエルの首都エルサレム。ある地下の遺跡を発掘中の女科学者オリビア・ウィリアムズが、そのガランとした部屋の壁に何やら見つけた。壁の石を押したり引いたりするうちにポコッと穴が開いて、その穴から覗いたものは…一体の骸骨。それを見た時、ウィリアムズの表情から血の気が退いた。

 ウィリアムズは旧知の考古学者デレク・ジャコビを訪ねて意見を求める。何とあの骸骨、その置かれた状況、推定される年代その他から、キリストの遺骸ではないかという疑いが出てきたのだ。そんな彼女の話を興味深そうに、しかし笑いながら聞くジャコビ。

 その遺跡は、エルサレムのとある金物屋の裏庭にあった。周囲にはヤジ馬が押しかけててんやわんや。何とか警備の者が周辺の治安を守っている状態だ。金物屋の主人マクラム・J・クーリはたまたま地下室をつくろうとしたらこんな状態になって頭を抱えている。商売も上がったりだ。そこに治安を預かる当局から派遣されてきたのがキリスト教会の聖職者たち…と聞いてウィリアムズは苦虫噛みつぶす。きっと訳の分からない宗教屋が難癖つけて邪魔をするに違いない。だが、そこにやって来たのはくだんの科学者ジャコビ。それも今日は神父の服装で登場だ。彼女は科学者として接してきたが、実は彼は聖職者でもあったのだ。旧知のジャコビの登場に、頑なだったウィリアムズもホッと一息。早速例の遺跡の中に入っていく。

 数分後、表に出てきたジャコビの表情は顔面蒼白だった。遺骸の状況が聖書の記述とあまりに一致している。これは本当にキリストの遺骸なのではないか?

 その頃、遠く離れたキリスト教の総本山バチカンでは、若い神父アントニオ・バンデラスが偉い偉い枢機卿ジョン・ウッドに呼ばれていた。話題はやはりこのエルサレムの遺跡とキリストのものらしき遺骸の件。何とこの枢機卿は、バンデラス神父にこの謎を調査してもらいたいと頼んできたのだ。しかし彼は考古学には素人。何でまたオレが?…と不審がるバンデラスだが、彼にはかつて諜報部員だった過去があり、エルサルバドルで戦闘にも参加した。そんな彼の調査能力と機動力、そして無類の信心深さを買ったのだと枢機卿は告げる。かくしてバンデラスは現地に飛ぶことになった。ただ一つ気になることは、枢機卿がハナっからその遺骸をキリストのものであるはずがないと決めてかかっていること…。

 現地で待ち受けていた科学者ウィリアムズは最初っからバンデラスに食ってかかった。聖職者が調査にシャシャり出てくるとなれば、妨害以外の何者でもない。そう思った彼女が、バンデラスにいい感情を抱くわけもないのだ。何で僕が妨害なんかするもんか…といくらバンデラスが下手に出てみても、彼女の頑なな姿勢は変わりようがない。

 そりゃそうだ。

 あれがキリストの遺骸だと断定されれば、聖書に書かれたキリストの復活がなかったことになる。それは、世界に巨大な勢力と多大な信者を抱える、キリスト教存亡に関わる大問題なのだ。バチカンが彼を派遣したというのも、そんな事情によるものであることは間違いない。それでもバンデラスは至って素朴に考えていて、調査ではフェアに真相究明に協力するつもりだった。そもそもバンデラス、それがキリストの遺骸であるはずもないと単純に考えていたことは言うまでもない。

 ところが先に遺骸を見聞したジャコビはすっかりおかしくなっちゃってるし、実物を見たバンデラスもそのあまりの類似点に自分の信念がグラついてくるアリサマ。今回の発掘を仕切っているイスラエルの高官=ジョン・シュラプネル武官代理と来たら、この遺骸の調査結果によってイスラエルの立場が悪くなってはマズイと、何となく政治的決着を匂わせるナマ臭さだ。

 おまけに遺跡に「何かある」と睨んだパレスチナ・ゲリラのリーダーのムハンマド・バクリは、例の金物屋店主クーリが同じパレスチナ人であるということから圧力をかけて、遺跡の秘密を探らせようとする。周囲の状況はにわかにキナ臭さを増してくるばかりだ。

 やかましいのはそんな連中ばかりじゃなくて、ユダヤ教の狂信者たちが遺跡から出てきた壷を盗み出したり、もうてんやわんや。

 ウィリアムズはバンデラスと行動を共にしているうちに、彼の持つ善良さ純朴さに徐々に心を開いていく。だが、ウィリアムズとしてはこれが世紀の大発見であって欲しい。逆にバンデラスはあれがキリストの遺骸であって欲しくはない。双方相反する利害にお互いの心も乱れる。何か発見があるたびに、やれやっぱりキリストだ、いやそうとも思えないと一喜一憂の二人。真実を明かすのが善なのか、それとも世界に与える影響を考慮すべきなのか、二人の思いは千々に乱れる。

 それでも病理学者イアン・マクニースがこの骨を検証した結果、その姿かたちにキリストとの共通点が多く見られるに至っては、バンデラスの信心もグラリと揺らぎ、大きく苦悩せざるを得ない。

 さらにそれぞれの思惑で暗躍していたバクリ率いるゲリラやバチカンや、シュラプネル武官代理らが、この遺骸の扱いを巡っていよいよ右往左往し始めた。事は刻一刻を争う。

 さぁ、バンデラスの苦悩は晴れるのか? ゲリラ・イスラエル当局・バチカン三つ巴の成り行きは? そもそもあの遺骸は、本当にキリストのものなんだろうか?

 

●いろいろ

 ハリウッド進出して以後のアントニオ・バンデラスは、まぁ外国人俳優としては破竹の勢いだったと言えるだろうね。明らかにアメリカ人とは見られにくいラテン・フレーバーを逆に生かして、ついには「マスク・オブ・ゾロ」までやっちゃったんだから大したものだ。でも、逆にそこまでいくとアメリカ俳優としては限界も感じたんじゃないか。「スパイキッズ」も盟友ロバート・ロドリゲスの作品だからの起用だろうが、ちょっと次の一手が行き詰まったというか、非常に難しくはなってきたように思えるんだよね。

 ラテンな役柄、熱いアクション俳優…そんなハリウッドでのあの手この手も使い果たしつつあるように思えるし、そろそろスペイン本国でのペドロ・アルモドバル映画で見せたような芝居の出来る俳優の一面も大きく見せたい。そんな思惑が、今回の作品選択に出ているように思う。今回は非アメリカのお話。しかも神父という従来とは違った役どころだ。

 ところがこの神父、元々は諜報員で戦闘にも参加したというのが最近のバンデラス・イメージを引きずっているわけで、これはうまい配役と言えるんだろうね。

 監督と脚本はジョナス・マコード。脚本家としては「ネゴシエーター」などを手がけながらも、これが初監督作品だそうだ。確かに面白い題材を見つけてきたものだとは思う。

 製作を手がけたのがルディ・コーエンというプロデューサーで、この人はアメリカ在住のイスラエル人とのこと。かつてはイスラエルで映画をプロデュースしていたらしい。道理で何となく普通のアメリカ映画とはちょっと違う雰囲気がたちこめているわけだ。撮影のヴィルモス・ジグモンドなど名うてのアメリカ映画人を揃えながら、どうも他のアメリカ映画とは漂う臭いみたいなものが違う。アメリカを拠点にしたワールドワイドな映画づくりや、逆に海外に主体を置いたアメリカ映画づくりを模索するプロデューサーとしては、先に挙げた「バイオハザード」のベルント・アイヒンガーとか、大成功した先輩格としては「スーパーマン」シリーズのアレクサンダー・サルキンドなんかもいるが、このコーエンもそんな一人なんだろう。昨年公開された異色の三銃士もの「ヤング・ブラッド」がこの人の作品と聞けば、何となく漂う雰囲気も納得いただけると思う。あれだって監督のピーター・ハイアムズや主役・主要スタッフたちはアメリカ人ながら、アクション場面には香港のアクション監督を起用して、なぜかカトリーヌ・ドヌーブまで引っぱり出した不思議なアメリカ映画だったもんね。この「抹殺者」にも、正統アメリカ映画にはない雑種の臭いがプンプンたちこめている。それはそれで決して悪いことではないんだけどね。

 

●けつろん

 ただねぇ、そんな制作者やらバンデラスの思惑とこの作品の狙いが、ちょいと空回りしているようにも思えるんだよ。

 キリストの遺骸と思われる骸骨が、事もあろうに世界の火薬庫エルサレムのど真ん中に出てきた…というのは、いろいろな意味で面白い。不謹慎な言い方を許してもらえるなら、政治と宗教が絡む今一番ホットな場所で起きたミステリアスな出来事。このお話、こうした外野の暗躍と遺跡にまつわる謎とが不可分に絡み合って、お話をどんどん盛り上げていけば面白くなったとは思うんだよね。

 だけど、話のネタは骨がキリストのものかそうじゃないかの一点で堂々巡りを続けるばかり。一つ事実が分かるたびに、「やっぱキリストだ」「やっぱ違った」とそれの繰り返しに終始して、話に発展性がない。おまけに周囲のゲリラやイスラエル当局者やバチカンの行動ももっさりしていて、次々息を飲むサスペンスやアクションが起きない。

 確かにキリストの遺骸発見によってキリストの復活が否定される…というのは、キリスト教徒にとっては大問題なんだろう。否、キリスト教国家が世界の主要国を占める今日、それは人類にとって大問題には違いない。

 だけど映画のお話としては、そこに話題が停滞したまま新たな展開がないのは、チト苦しいんじゃないかい?

 しかもバンデラスも新生面を見せたいのか、キリストの遺骸か否かで悶々と苦悩するばかり。これが暗躍する怪しげな勢力と果敢に戦うというアクションでも見せれば面白いのに、終始悶えているだけでこれといったことは何もしない。こりゃあ娯楽映画としてはツラいわな。僕がキリスト教信者じゃないからつまらないのか? いや、誰が見たってそうは思わないか?

 演技したかったんだろうな、バンデラス。だけど、これなら僕には彼に暴れて欲しかった。結局お話もスッキリしない結末を迎える。あれだけみんな右往左往したのは一体何だったわけ?…って気がしちゃうよねぇ。

 最後にキリストの再復活シーンでも出せとは言わないが、アッと驚く展開が欲しかった。娯楽映画が悩んでばかりじゃ、やっぱりつまんないんだよ。

 僕らは発展も飛躍もないつまんない日常に飽き飽きして、娯楽映画を見るんだからね。

 

 

 

 

 

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